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マスター:
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/12/06


みんなの思い出



オープニング

 ストイックなヴァニタスなどという、一見矛盾に満ちた存在に見える彼は、単純に彼の欲求が求道である為こういったありようになったという話で。
 彼は自らの主より送り込まれたディアボロ達を、自分自身の欲求達成の為のみに用いていた。
 何故主がそんな勝手な真似を許しているのか。それは、彼が、彼の存在が、彼のありようが、主の望みに役に立つものであったからだ。
 今回は十体のディアボロが彼の持つ施設へ来た。彼はまずその十体を広い一室に閉じ込める。部屋は殺風景で何も無く、ただ片方の壁面いっぱいが鏡になっている。
 十体は皆人型で、頑強な肉体を持つ物理戦闘型であると思われた。
 この部屋の鏡とは逆側の壁面には、巨大なモニターが埋め込まれていた。十体のディアボロが室内に入るなり、ここに映像が映し出される。
 それは剣を手にした二人の男の戦いであった。
 男二人は映像開始より激しく動き回り、互いの急所を狙い剣を振るう。剣同士が打ち合わされ派手な火花が散り、或いは体の一部を捉えた刃が血の飛沫を引きずる。
 そして遂に片方の男が残る男の首を捉え、決着がついた。
 すぐに次の映像が始まる。こちらもまた剣を手にした男の戦闘だ。
 ディアボロ達はこれといった変化のないこの部屋で、唯一の情報源であるモニターを食い入るように見つめ続けていた。

 最初の内は激しい動きが多かった映像は、次第に静かな戦闘も映すようになってくる。
 絵的な見栄えは無いが、肩や足の細かな動きで敵を誘導して隙を作らせたり、互いの間合いを潰しあうような高度な駆け引きであったりを見る事が出来る映像だ。
 ディアボロ達はこんな細かな挙動にも目を光らせる。元より戦いの為に作られた存在である彼等が、戦いの映像に興味を示さぬ訳がないのだ。
 かなり長い間、剣を用いた映像のみを延々見せ続けていた。そこに、新たな変化が生じる。
 天井から、数十本の剣が落ちて来たのだ。
 この剣はこれまでの映像に出て来た和洋を問わぬ様々な剣で、ディアボロ達は各々の好みに合わせて剣を手に取る。
 映像は流れたままであったがディアボロ達は嬉々として剣を振り出した。
 皆が、映像にあった男達の技を真似ようと飽きもせず何時までも剣を振り続ける。その上達の速さはどうだ。
 人間では到底考えられぬ吸収の速さだ。元々戦闘の為に作られていた彼等は、今はただこの剣のみにその興味が向くよう仕向けられており、彼等は自身が一体何者なのかという事すらわからぬままにただひたすらに剣を振り続ける。
 中でも勘の良いのが、時折映像を横目に見ながら鏡を使って自分の動きを確認しだした。
 そうすると、上達の速度が更に上がる。このディアボロの動きを見た他のディアボロも彼を真似しだし、十体のディアボロ達は更に強く鋭くなっていく。

 次の変化は劇的であった。
 十体の内の二体が、互いに向かい合った状態で剣を持って対峙する。
 遂に彼等は、誰かで剣を試したいと思うようになりだしたのだ。
 数分の戦闘の後、一体を滅多打ちにして残るディアボロが勝利した。彼は、叫び声を上げた。
 その表情が、喜びに満ちたものであると知った残る八体のディアボロ達は、こぞって彼等も戦いを始める。しかし何故か彼等は示し合わせたように一対一に拘っており、一対一の戦いが四つ始まり、四人の勝者と四人の敗者が生まれる。だが、生き残ったディアボロは全部で七体で、死亡したのはこれで二体目であった。
 最初に勝利したディアボロは、当初こそ自分も加わりたそうにしていたが、途中からは皆の戦いを観察するようになった。
 戦いが終わったディアボロ達は、更に別の者と戦いたがり、室内は常に戦の喧騒に包まれるようになる。
 面白い事に、こうなってくると怪我をする者は出ても死者はほとんど出なくなってくる。怪我をした者も、丸一日も休めば勝手に傷は回復し戦いに参加してくる。
 全てのディアボロ達は、初めておもちゃを与えられた赤子のように剣に夢中になっていた。
 そのまま、凡そ一月の時を経たある冬の日。彼等はようやく、部屋の外に出る事を許された。
 とはいっても彼等は外に出たいとは思っておらず、新たな剣の映像を欲し、何度も使い込んでぼろぼろになった剣の代わりを欲し、共に研鑽に励む同胞との更なる戦いを欲した。
 ヴァニタスにとっては、こうした新たな剣士達を迎え入れる時が、剣の追求以外では最も楽しみな時間である。
「お前達、圧倒的に強い者と戦ってみたくはないか?」
 そう言って剣を抜くヴァニタス。数多の映像を見てきたディアボロ達ならば、ヴァニタスとの呆然とするような技量差も理解出来るはず。にも関わらずディアボロ達は我先にとヴァニタスとの戦いを望んだ。
 そんなディアボロ達をヴァニタスは愛おしげに眺め、やはりここでも一対一を守る彼等を順番に、完膚なきまでに叩きのめしてやった。
 それからの日々は、ディアボロ同士ではなく対ヴァニタスとの戦いに切り替わる。

 最初こそ一対一で相手してやったヴァニタスであったが、その圧倒的な実力差から八体同時でもなくば勝負にすらならず、ディアボロ達にそれを理解させた上で全てを同時に相手取る。
 それでも尚、ディアボロ達はただの一太刀とてヴァニタスに浴びせる事は出来なかった。
 幾日も幾日も剣を交え続け、何度も身動き出来ぬ程に叩きのめされ、そしてようやく一体のディアボロがヴァニタスに掠り傷を付ける事に成功する。
 ヴァニタスはこれを、我が事のように喜ぶ。すると他のディアボロ達も我も我もと必死さを増し、ヴァニタスへと襲い掛かっていった。
 ヴァニタスはわざとかすらせる事でディアボロ達のやる気を引き出したのだ。
 だが、内の一体が、彼の予想をも上回る成長を見せる。
「何?」
 下段からの一撃が鋭いのはわかっていたが、その一閃はまさしく雷光のように跳ね上がりヴァニタスの首前を切り裂いたのだ。
 これはわざとではない。彼をして、かわせぬ必殺の一撃を見舞ってきたのだ、このディアボロは。
 それで死んでやれる程ヤワな体ではないヴァニタスは、首前から滝の様に血を噴出しながら、演技ではない本気の声で言ってやる。
 これを期待して、彼はディアボロ達を鍛えてやっていたのだから。
「見事だ」


 ヴァニタスの首を切ったディアボロには彼から直々に「茜丸」の名が贈られ、七体の仲間と共に任地での防衛を任される。
 茜丸が逆袈裟に執着し、遂にヴァニタスから一本取る事が出来たのは、一つの映像を強く覚えていたせいだ。
 それは真剣勝負ですらない演劇の世界。
 逆袈裟の一撃で首を切られた敵は、喉から噴出す血と漏れた空気で、ぴーと笛のように音を鳴らしていた。
 これを虎落笛(もがりぶえ)と言うらしい。茜丸はこの音を鳴らしてやりたいと願っていたのだ。
 同胞達は、誰もわかっていても茜丸の逆袈裟をかわす事が出来ない。そこまで磨き上げた技であるのだが、未だ笛は鳴らず。
 それでも諦めず執着し続けるのが、ディアボロならではの欲望とでもいうのであろうか。いずれ、茜丸は更なる高みに至るべく逆袈裟を磨き続ける。
 茜丸には剣の他に興味を持てるものがない。
 それは他の仲間達も同様で、ただ剣の腕が上達する事だけを望み、求める。
 作られた存在であるディアボロらしい歪さであるが、彼等は単純であるが故に、強いのだ。


リプレイ本文


 敵はおあつらえ向きに一塊であったので、飛翔するゼロ=シュバイツァー(jb7501)は上空より見下ろしながら手の平の中で渦を巻いていたアウルの塊を握り潰す。
「さぁ、パーティタイムや♪」
 敵一団の右方では極端に温度が下がり、左方では急激に温度が上がる。温度変化により発生した気圧の差異が風の流れを誘発し、あっという間に敵を寒暖の竜巻が包み込む。
 ほぼ同時に狩野 峰雪(ja0345)も、まるで戦闘前とは思えぬ穏やかな調子で告げる。
「さて、僕も動くかな」
 これといった合図を出すでもない。ただそうあれとアウルを虚空に放ってやると、敵集団の頭上にてアウルは膨れ上がり巨大で逆しまな十字架へと変化し、落下する。
 落着の衝撃と共に黒い煙が上がったのは、術がそうであるせいか、敵がディアボロであるせいか。煙の内より、敵集団から反撃の真空刃が撃退士達目掛けて飛来する。
 撃退士達は既に散開しており、各々の役目を果たすべく敵に挑みかかるのであった。

「この世に悪の栄えた試しなしにゃ! 魔法少女マジカル♪ みゃーこが来たからには、あなた達の悪行もここでお終いにゃよ!」
 昇った木の上からこんな口上を放ったのは猫野・宮子(ja0024)である。
 一応、敵はそんな宮子を見てはくれている模様。例えその手にした武器が冷凍マグロであったとしても。
「僕の相手は……君に決めたにゃ! 僕の鮪とどっちが強いか勝負にゃよ!」
 とーう、とばかりに晴目掛けて木から飛び降り、同時に冷凍マグロを振り下ろす宮子。
 晴も応戦、したくもなかっただろうが、せざるをえぬ。そのたわけた外見はともかく、冷凍マグロの武器としての重量も硬度も無視出来るものではない。
 膂力は晴が上だ。しかし、宮子は力負けせぬ武器と動きの速さで晴を翻弄する。
 雄叫びと共に振り下ろした晴の斬馬刀を、くるりと半回転しながら回避するのと、冷凍マグロを振り回し速度をつけるのを同時に行う。
 晴の斬馬刀が大地に叩きつけられるのと、宮子が飛び上がるのがこちらもほぼ同時。これは体のキレの良さから生じる速度差によるものだ。
「振りが大きいなら隙も大きくなるのにゃ。そこ、マジカル脳天割りにゃー♪」
 マジカルはいらない。
 痛打にも晴は攻撃をやめない。逆袈裟に斬馬刀を振り上げる。
「そろそろ終わりにするにゃよ♪ 必殺のマジカル♪ レインボーにゃ! これでやられるがいいのにゃー!」
 剣筋が交錯する。横凪に振るわれた冷凍マグロは晴の胴を綺麗になぎ払い、斬馬刀はしかし宮子を捉えず。
 倒れる晴に宮子は告げる。
「ふふん♪ 魔法少女の辞書に敗北の文字はないのにゃ♪」
 なら魔法使ってやれよと。

 乱戦となると、峰雪は自らの気配を希薄にし、決して見えぬ訳ではないが、注視すべき相手とは思えぬよう動く。
 それは手にした武器を見えぬようにする事だったり、他の敵を狙っているように見せる事であったりだ。
 そんな中、こちらから完全に注意が外れた瞬間、抜き打ちのように銃を眼前に構え、僅かな照準の間にてこれを撃ち放つ。
 銃声は常のそれとは違い、さながら雷鳴のようで。
 それだけデカイ音を立てておきながら、発射直後にまた銃を敵から見えぬ場所に移動し、何食わぬ顔をする。
 このあたりの立ち回りは老獪という他無い。
 とはいえ何時までもそれで誤魔化せる敵でもない。霙が峰雪目掛けて突っ込んで来るのが見える。
 速い、上に盾持ち。峰雪は慌てず足裏にアウルを集め、大地に放つ。
 これに応え雷のように地面を波打つのはアウルにあらず、蔦のようなものが伸びていき霙の足を縛り付ける。
 あくまで近接戦闘は拒否。
 霙は遠間から剣を振るう。衝撃が走り峰雪を狙う。避ける、無理。なら撃つ。
 両者はお互いの攻撃により大きく仰け反る。霙に束縛は解けず、再び衝撃を放つ。峰雪はこのままダメージ交換しても勝てる算段をつけていたが、慎重に行動する。
 敵に狙われにくくなるように、即ちやられたフリを見せてやるのだ。
 膝を折った峰雪に霙は次の標的を探し、その隙にこの場を走り離れて死角に回り込む。その動きに一切の澱みは無く、淡々としていながら正確で素早い。
 特筆する程強力な攻撃があった訳でもなく、無傷で勝利できた訳でもない。結局この後敵の近接も許してもしまっている。だが、こまめな有利を重ね丁寧に処置を続けた峰雪の戦闘は、最後まで破綻する事なく霙を処理しきるまで続いたのであった。

 ベアトリーチェ・ヴォルピ(jb9382)にとって手にしたアサルトライフルは、その背丈と比してあまりに大きく見える。
 一度引き金を引けば、反動で前足から浮き上がりころころと後ろに転がっていってしまいそうで。
 そんな印象とは裏腹に、ベアトリーチェの放った弾丸は範囲攻撃ラッシュを潜り抜けてきた雹に正確に撃ち込まれる。
 雹の体表を跳ねる弾丸。金属の塊である弾丸が歪む程の衝撃にも、雹の足が緩む様子は無い。
 ベアトリーチェは銃を撃ち続けながら雹の歩数をじっと見つめる。後十五、いや、十三歩。十歩を切った所でライフルから手を離し、二振りの小刀を抜き放つ。
 だが、敵の両手剣と比してこれはあまりに小さく、まともに打ち合えぬベアトリーチェは大きく下がりながら剣をかわす。これを読んでいた雹、更に踏み込んだ二撃目でベアトリーチェを捉える。
 二の腕を上から叩き付けるような斬撃が襲い、地面に引きずり倒されるベアトリーチェ。雹の追撃は止まず、転倒したベアトリーチェ目掛けて次々剣を繰り出す。
 かわせた分はさておき、もらってしまうと、その小さな体が地面と剣の間に挟まり大きく跳ねる。まるで赤子がボールを上から叩いて遊んでいるようだ。
 そんな滑稽さにも雹は嘲笑うでもなく剣を振り続ける。その雹の背後で、突然、何の前触れもなく、空間が割れた。
 ガラスが砕けるように、異界の欠片を撒き散らしながら飛び出して来たのは、ベアトリーチェが召喚してフェンリルである。
 自らの体を的にかけ、敵を引きつけ精妙無比な召喚にてその不意をつく。作戦は完璧に機能し、雹を完全に崩しきった。
「今月は……攻め込ませて……カウンター……ジャスティス」

 雷の剣速はその剣の長さからは考えられぬ速さだ。だがそれとて、届かぬ場所には絶対に届かぬ。
 ゼロがひらりと上空へ舞い上がると、雷の長剣が空を切る。
 かわしきった所で空中で逆しまに反転し、手にした大鎌を振り上げる動きで振り下ろすと、雷の肩先が薄く削れる。
 雷の剣は元より地上の敵を狙う為の剣術。上からよりの敵は想定していない。
 ゼロは上空にて雷を囲むように周りながら間合いへの出入りを繰り返し、仕掛けては引き、引いては仕掛ける。
「真っ向勝負だけが戦いとちゃうで? 深く……深く……堕ちて果てな」
 三つ外された所で、雷は戦い方を変える。飛ぶ斬撃を放ち、ゼロを追い込みにかかる。ゼロ、こちらもすぐさま戦い方を変え、地上へと降り立つ。
 着地の瞬間、最後に一羽ばたきする事で爪先から体重なぞ無いかの如き音も無き着地を見せる。真横に構えた大鎌とまっすぐ伸びるゼロの体がちょうど十字架のシルエットを作り出す。
 雷の剣閃がここぞとひらめく。ひらめくのみだ。一瞬で視界より消え去ったゼロに、雷はその姿を完全に見失う。
 雷が気付いた時には、両足の膝より下が失われていた。
 上から執拗に攻め立て、地上に降りた時も高い位置に大鎌を構え、そして最後に、それまで一度も見せなかった最高速にて低く低く踏み込む。
 崩れ落ちてくる雷の上体。それでもその手は剣を離さず、ようやく見つけたゼロに向け、長剣を振り下ろさんと力を込めている。
「戦いに……剣に堕ちた……か。まぁ気持ちは分からんでもないけどな。なら……戦いの中で死んでいけ。それが俺の弔いや」
 下段から掬い上げる一撃にて雷を両断しながら、ゼロはそう呟いた。

 矢野宮 梓乃(ja7961)は、最初の一撃は何時も道場でそうするような大きな構えからの一矢を放つ。
 こちらの構えを見てから動く。そんな状況で無いが故だ。放たれた矢は狙い過たず霰を射抜く。
 そしてここからが本番だ。弓は番えて放つ動作が大きい為、発射の瞬間を見抜かれ易い。まっとうな人間同士なら見抜かれた所で避けようもないのだが、敵も味方も矢の速度に反応出来る者同士。
 梓乃は引き分けから会へと続く意の持ちようを保ったまま、離れを行わずじっと霰を見据える。
 敵は左右に動きながら狙いを外させにかかる。発射の意を、梓乃は持たぬままに離れを行った。
 霰、かわせずと悟り剣で払うも為しえず。動きを止めるべく放った矢は霰の腿を貫く。
 足を止める霰。梓乃は第二矢を番える前に、真横に走る。霰は大上段に振り上げた刀より衝撃波を放った。梓乃の全身が、車で跳ねられたように飛ぶ。
 転がりながらも片膝を立てて弓を構え、矢を番えて速射。駆け寄る霰、止まらず。振り上げた刀が、梓乃には巨木の幹のように太く大きく見えた。
 響く金切り音は、金属と金属を打ち合ったもの。
 影野 恭弥(ja0018)が、片腕を伸ばし、打ち込んだ霰の刀を片腕のみで受け止めていた。
 霰が刀を切り返す前に恭弥の上段回し蹴りが霰を打ち、後方へと転がる霰に恭弥は手にした銃で追撃をかける。この間に梓乃は霰と距離を取る。
 恭弥の側方より迫る影、雪だ。これまで恭弥の銃、短機関銃のように連射に優れながらライフル弾のような強威力の弾を放つPDWに押され接近しきれなかったのだが、ここぞと突っ込んで来たのだ。
「狙撃手に対して接近するのは悪くない、相手が俺じゃなければな」
 コンパクトで鋭い雪の一撃。カウンターが極めて難しい、まるで牽制のジャブのような刺突に、紙一重で剣を見切りスウェーの要領で上体を逸らしかわしつつ、左腕を雪のボディへと伸ばす。
 恭弥の拳が空を切る。雪はこれほどに難しいカウンターにすら備えており、ステップ一つで拳をかわしてみせる。
 が、次の一手は読めなかった。
 恭弥の拳より鋭い尾が伸び、雪を刺し貫いた。驚き飛びのく雪であったが、尾は刺さったまま恭弥より更に伸びていく。
 尾が鼓動を一つ刻む毎に、恭弥の傷が癒えていく。先ほど腕で剣を止めた傷はこれにて完治していた。
 尾を払い落とした雪、そして蹴り飛ばされた霰は恭弥へ狙いを定め突っ込んでくる。そこに、霧が生じた。
 霧は水滴を含む白ではなく、さながら瘴気のような黒であり、恭弥ごと包み込むように周囲を覆い隠す。
 霧が晴れると、そこには恭弥の側に立つファーフナー(jb7826)の姿があった。ファーフナーの援護の術により、雪と霰の動きが鈍る。
 後は任せたと、ファーフナーは敵の霧へと踏み出す。
 特異な形状の剣ショーテルを用いる霧であったが、ファーフナーの得物は槍であり、その特徴を生かすのは難しい。
 後ろ手を捻るように、大地を強く踏み出しながら槍を突き出す。ただそれだけで霧はファーフナーへの踏み込みを封じられる。
 重量差、硬度、体重、軌道、全てにおいて対する者を上回っていれば、槍の切っ先を弾くなんて真似は絶対に許さない。
 ファーフナーは一突き一突き、確実に封殺しながら霧を追い詰めていく。霧、たまらず衝撃波を放つ。
 襲い来る衝撃の波へファーフナーは槍を突き出した姿勢のまま強く踏み出す。槍先が衝撃を切り裂き更なる先へ。
 頑強な体と鎧に弾かれ衝撃は四散、幾つかの傷を残すもその全てかすり傷。
 強く突き出された槍先は、霧の頭部の半ばを抉り取る。霧は、顔の半分を犠牲に、ようやく接近してきてくれたファーフナーへショーテルを叩き付ける。
 槍で受ける。いや、アーチ状の刃が回りこんでファーフナーへと。これをもらったファーフナー、霧はここぞと集中攻撃。必死に防戦するも今度は長い槍の間合いが仇となる。
 しばらく防戦一方のファーフナー。その背後から、梓乃への距離を詰めきれず業を煮やした霰が好機と襲い掛かる。
 こうしてファーフナーは、思惑の通り敵の攻撃を自らへと引き寄せる事に成功したのだった。

 混戦の最中、霰を見失った紅 鬼姫(ja0444)であるが、そちらに意識を回す余裕が持てない。
 対する茜丸は、技量的にはなるほど他の敵と大差ないかもしれない。だが、必殺の技を見につけた故か、その剣気が並々ならぬ。
 恭弥やファーフナーが霰を気にかけているのが見えたので、仕方なく任せる事にする。
 上から鳳凰が茜丸を狙い、鬼姫の双牙が地上より茜丸を切り裂く。
 そんなコンビネーションも、茜丸の刃は真っ向より迎え撃ち、叩き伏せる。
 鬼姫の小太刀で茜丸の刀を受けるのは難しいし、打ち合う事になったら力負けするのがわかりきっている。
 だから鬼姫はその全てをかわす。
 刃を打ち合わせる事なく、全ての剣撃を見切りかわしながらこちらの刃を飛ばす。小太刀の取り回しの速さを、茜丸は刀で受ける事が出来ずこちらもまた全てをかわしにかかる。
 二人の間を死の閃光が幾筋も走るが、双方致命の一撃は決して許さず。
 首を、瞳を、心の臓を、狙い済ました刃が襲うも、ただの一つも見落とさず、無数の剣閃をいなし続ける。
 二人の剣気が高まっていくのがわかる。お互い、避けるもままならぬ極限の位置へ。どちらが早いか、ただそれだけを比べるその瞬間へと引き寄せられる。
 ソレを、鬼姫の目が捉える事はなかった。ただ、その瞬間がわかったのみ。茜丸の逆袈裟は、確かにその首を捉えていた。
 が、現実に斬り裂かれたのは茜丸の首前であり、また同時に茜丸は鬼姫の姿を見失っていた。
 頭上に一つ、羽ばたきの音。それが何なのか確認する間もないまま、降り注いだ斬撃に首後ろを叩き切られた茜丸は、その二撃により首を完全に飛ばされるのであった。

 ファーフナーが槍の石突で霰の腹部を突き、すぐに槍の穂先で霧の胴を突く。
 双方の刃がほぼ同時にファーフナーを捉えるも、彼は微動だにせず。逆に恭弥の銃弾が、梓乃の矢が、それぞれを射抜きトドメを刺した。
 全ての敵が倒れた事を確認した梓乃は、絹が地に落ちるようにふわりと腰を落とす。恭弥はこれといった感情を感じさせぬ声で言った。
「掴まれ、依頼は達成したし帰るぞ」
 その手を取ろうとした梓乃は、手を伸ばした後で、困ったような顔で誤魔化し笑いを見せる。
 まあ、誤魔化せず、現状を見抜かれた恭弥に、仕方が無いとばかりに抱え上げられるのだが。
「だ、大丈夫です影野さん、下ろしてくださいっ、あの、恥ずかしいので……!」
 お姫様だっこが恥ずかしい梓乃の抗議も、動けない奴が文句を言うなとばかりに恭弥には無視されるのであった。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
無念の褌大名・
猫野・宮子(ja0024)

大学部2年5組 女 鬼道忍軍
Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
暗殺の姫・
紅 鬼姫(ja0444)

大学部4年3組 女 鬼道忍軍
撃退士・
矢野宮 梓乃(ja7961)

大学部4年86組 女 インフィルトレイター
縛られない風へ・
ゼロ=シュバイツァー(jb7501)

卒業 男 阿修羅
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
揺籃少女・
ベアトリーチェ・ヴォルピ(jb9382)

高等部1年1組 女 バハムートテイマー