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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
形態:
参加人数:12人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/07/22


みんなの思い出



オープニング

 切り飛ばされた首がゴム毬の様に宙を舞う── 20年弱という長くもない人生において、榊勇斗がその光景を目の当たりにするのは実に三度目のことだった。
 二度目は二年前。どちらが何という名前かも忘れた双子の悪魔が同胞の寝首を掻いた時。一度目は両親の時だ。
 そして、今。端的に言ってしまえば、それは、悪魔が悪魔を裏切った──ただそれだけのことであった。にもかかわらず、彼ら──榊勇斗と撃退士たちは動けない。それ程までに黒翼の行動はあまりにも唐突で、無軌道で、非論理的で、無秩序だった。
「な……っ!?」
 言葉もなく、目を見開いて驚愕する。
 固いものがぶつかる重い音がして。落ちたアルデビアの頸がゴロゴロと地面を転がり、そして、止まった。
「さて、これでめでたく僕は反逆者となったわけだ」
 当の黒翼だけが飄々と、何事もなかったかのように勇斗へ告げる。
 わけがわからなかった。学園と王権派天使たちとの戦いの集結は、勇斗にとって一つのタイムリミットであるはずだった。三界で同盟の話が進めば、勇斗は仇に──魔界(即ち同盟相手だ)に所属する黒翼に手を出すことはできなくなる。……学園を脱走し、人類の反逆者として追われる覚悟で事を成すなら話は別だが。その場合、残された悠奈は今度こそ一人きりで肩身の狭い思いをしながら生きていくことになる。
 そんなこと、できるわけがない。過去の過ちを償う為に新たな過ちを犯して、更に新たな負債を悠奈に背負わせるわけにはいかない。
 故に勇斗は己の心を押し潰す。たとえ両親の仇である悪魔が大手を振ってその命を繋ぎ続けるとしても。
 ……だというのに、当の本人が自ら「めでたく反逆者になった」だと──?
 勇斗の理性が音を立てて、内から膨れ上がる想いの圧にプチプチと弾けて千切れていく。それが激発へと繋がらなかったのは、黒翼のした事にまるで整合性が見つけられなかったからだ。
「解せぬ」
 そう呟いたのは、しかし、勇斗ではなく『アルデビア』。その事実にその場にいた全員が──黒翼も含めて──、「生首がしゃべった!?」と驚愕する。
「ああ、これは失礼。私は生命活動(?)が停止しても暫くなら生を繋げるのだ。間者働きが多かった悪魔としての嗜みだな」
「嗜み……」
「ともあれ、こうも鮮やかに首と胴が切り離されては、それも長くは保つまいが…… そんなことより、貴様だ、黒翼。堕天しておきながら、今度は魔界も裏切るだと? エネルギーの供給を断たれてしまえば、消滅の時を待つだけとなってしまうのだぞ?」
 アルデビアの問いに、さて、どうしようか、と黒翼は笑った。
「今から王権派に鞍替えしようか? それとも、エルダー派に降伏して『新しい天界でも一緒に作ろう』か? いやいや、現世に留まってラーメンで命を繋ぐってのもいいなぁ」
 その軽口に怒りを発する撃退士たちへ、黒翼がおどけたように「冗談だよ」と肩を竦めた。
「不可能ごとなのは分かっている。僕の余命は残り僅かとなった。……それでもやりたいことが見つかった。後悔はない。消滅までの短い間、僕は精一杯人生を輝かせてみせる!」
 なんかガッツポーズと共に瞳を輝かせて見せる黒翼。なんだかなぁ、という表情で、撃退士たちは顔を見合わせた。
「で? 結局何の為にあんたはこんなことを?」
「……俺、天界が余りに退屈だったから魔界に堕天した口なんだよね。新参の裏切り者ってことで、当時は天魔間の戦争において毒にも薬にもならないこの世界にお試し派遣されてさ。まぁー、こき使われたものだよ」
 頭の後ろに両手を組んだラフな姿勢で、黒翼が滔々と語り出す。隙だらけなように見えてその実、彼我の間合いは慎重に。
 撃退士たちもまた、悪魔が語る間にじりじりと立ち位置を動かしていき……悪魔もまたそれに気づいていて、飄々とした調子を装いながら、互いの位置関係をずらしていく……
「より大きなゲートを開く為、毎日毎日どこかの人間を殺してさ。何か新しい刺激を求めて新天地に来たっていうのに、その作業的な日常にはうんざりしたよ。こんなことならまだ天界の方がマシ……って、いや、それも無いだろ、やっぱり、とか」
 そんな時間を過ごす内、黒翼は細やかな日々の愉しみを見つけた。ただ人間を殺すのではなく、その精神エネルギーを励起させ、その起伏を、強弱を、ベクトルを堪能しながら、一人一人の生命を堪能するようにいたぶり殺すことを──!
「でも、『そーいう時』の人間の反応も大体似たり寄ったりでさ。大概飽きが来ちゃったいたところに幼き君が現れたんだ! それからようやく僕は人生の『解』を見つけたんだ!」
「え?」
 ピクリとしたきり動かなくなる勇斗の背中── その表情、全身、魂までもが漂白されてしまったが如きその空気を感じて、恩田敬一が悪魔を見て(おい、やめろ──)と小さく呟く。
「いやー、まさかその生贄に親しい他者を使うことで、あそこまで劇的に感情が盛り上がるとは! 相互干渉により高まっていくその様はまさにシンフォニー! あの日以来、君とのやり取りは僕の仕事のテンプレートになったんだ!」
 おい、やめろ──
「僕にとって仕事は作業じゃなくなった。娯楽を兼ねた──つまり、生き甲斐となったんだ! 仕事も捗り、上司の信任も得て出世も出来た。それもこれも──」
 これ以上、他人の命まで背負わせるのは──!
「──榊勇斗。みんな君のお陰だよ♪」
「うわあああぁぁぁぁああ!」
 伸ばした敬一の手が肩を捉えるより早く、稲妻の如く飛び出した勇斗が黒翼へと斬りかかる。その形相は羅刹の如く。黒翼の身体がブルッと震え、その表情が恍惚に変わる。
「それだ! それだよ! 耐えて耐えて耐えて耐えて最後に耐え切れず迸るその激情! 腫物の如く熟れ切り、弾け、血涙を滴らせるが如き魂の慟哭! その奔流を浴びる様に味わう為に、僕はアルデビアさんを斬ったんだ!」
 ──三界で同盟の話が進めば、勇斗は黒翼に手を出すことが出来なくなる。それは黒翼も同様に。即ち、以降はもう勇斗にちょっかいを掛けることができなくなってしまうということ──!
 刹那的で破滅的。それがこの黒翼と言う悪魔の本質だった。最高の享楽を得る為ならば、己の全て──世界すら脇へとうっちゃって憚らないタイプの存在の──
「だけど、後悔はしない。僕が消え去るその瞬間まで、最後まで一片の無駄なく、君という存在を味わい尽くす!」
 言うや否や、黒翼は勇斗の一撃を後ろに跳んで飛び避けると、そのまま後ろを向いて一直線に『逃げ始めた』。
「はあっ?!」
 またまた驚き呆気に取られる撃退士たち。いや、お前、そこまで煽っておいて今更『逃げる』って!
「そうさ、最後まで僕は味わい尽くす。姿を消し、学園に戻った君を陰から見守ろう。悠奈ちゃん、だっけ? 君の妹? 彼女にもぜひ声を掛けよう。恩師や友人たちにも…… そして、君の知らない内に一人、また一人と消えていったら、君はどんな表情を見せてくれるかな? 僕の影に怯えて日常を送る君の憔悴を僕はそっと見守ろう。そして、僕がいつ消えたのか、本当に消え去ったのか分からぬまま不安に怯える君の人生を想像しながら、幸せの内に僕も消えよう」

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リプレイ本文

「自分から生命保険を解約するたぁ、バカな天魔だぜ。向こうからお膳立てしてくれやがった!」
 突然、黒翼がアルデビアの首を跳ね飛ばして自ら魔界に対する裏切りを表明した時── ラファル A ユーティライネン(jb4620)は湧き上がる愉悦を笑みに浮かべた。
「これは丁重にもてなしてやんねぇとなあ、勇斗。おっと、分かってんぜ! 今回の晩餐のメインはあくまでおめーだ。下拵えは俺らに任せとけ!」
 返事はない。そこで初めて異常に気付いた。
 全身から立ち昇る闘気、爛々と輝く瞳。その口元から漏れ出るは喉の奥で鳴る哄笑と、ようやく獲物を目の前にした飢えた獣の様な笑み──
「……殺ります!」
 それだけを青葉に告げて仇へ飛び出していく勇斗。恍惚の笑みを浮かべた黒翼は、しかし、これだけのことをしておきながらまさかの逃走劇へと移る。
「……ダメッ!」
 間髪入れず追跡に移る勇斗へ咄嗟に白野 小梅(jb4012)が手を伸ばし。その裾を掴んだまま光の翼で宙を引っ張られる様についていく。……いったい何が起こっているのか、完全に理解できていたわけではなかった。でも、ここで勇斗を放っといちゃダメだということだけは直感的に分かってる。
「……ハッ!?」
 予想外の展開に硬直していた彩咲・陽花(jb1871)が我に返り、急ぎ馬竜を召喚しながら慌てて皆へと呼びかけた。
「と、止めないと!」
「っ! 対空攻撃!」
 思わず声を裏返らせた雫(ja1894)の号令に、雪室 チルル(ja0220)と狩野 峰雪(ja0345)、水無瀬 文歌(jb7507)が大急ぎで『星の鎖』等を投げ放つ……
「……完全にしてやられました……!」
 拳を握りしめて呟く雫。──あの堕天使、今までに対峙したことのないタイプの思考の持ち主だ。動きが読めないせいで完全に後手に回ってしまった……!
「己の欲望のままに動きますか、黒翼……!」
「天使に生まれようと、本質的な処で何よりも悪魔だったってことね」
 ギリと奥歯を噛み締めながら、自動拳銃と大型ライフルを空へと撃ち放つユウ(jb5639)と月影 夕姫(jb1569)。黒翼は悠奈にも言及した。何としてもここで討たなければ……!
「その為にもアレの行動を読まないと……このままでは確実に勇斗さんが壊される……!」
 雫の危機感に峰雪も頷いた。──もし、榊くんんが怒りのまま黒翼を殺してしまっても、それは黒翼の思うつぼというか──何か罠を仕掛けていそうな気がする。例えば、また何か消えないトラウマとかを彼に植え付けていくような……
「……君は絶対に許さない。私、とっても怒ったよ……!」
 常の明るい表情を失くした顔をキッと上げ。怒りに紅髪と犬耳尻尾をぶわりと逆立たせた葛城 縁(jb1826)が、鎖を解かれた猟犬の如く前へと飛び出す。
「縁、どこへ……?!」
 慌てて呼び止め、問う陽花。親友の走って行った先は、黒翼と勇斗が向かった道ではなかった。なぜか遊歩道を逸れ、そのまま脇の藪の中へと飛び込んでいく……
「私たちも追いましょう。勇斗さんの心が心配です。彼の助けにならなくては」
 ユウは背中に闇の翼を展開すると一羽ばたきで上空へと舞い上がった。そして、先行する勇斗の姿を捉えると仲間にその位置を報告し、翼にアウルを集中してそちらへ高速飛翔する。
「委員長は生首さん(アルデビア)のことをお願い!」
「だから僕は委員長じゃ……いえ、もういいです」
 何か色々と諦めたっぽい黒井 明斗(jb0525)にその場を任せ、陽花が馬竜に飛び乗り拍車を掛ける。
「移動力を上げたい人は私の側に来てください! 私の歌で皆さんを元気にしちゃいます!」
 呼びかける文歌に応じながら、永連 璃遠(ja2142)はアルデビアの様子を窺った。彼は明斗に回復を謝絶しているところだった。
「無駄だ。流石にこうなってしまってはもはや助からぬ」
 マイクを手に踊り始めた文歌のポップな前奏がBGMに流れる中、明斗と璃遠は沈痛な表情でアルデビアを見返した。
「……あなたの上司に、黒翼が裏切った事実を報告していただけませんか? ……これから亡くなろうとしている方に対して、無神経なことは重々承知していますが……」
 ……このまま勇斗が私闘で黒翼を討ったとなるのはまずい。魔界の撃退士に対する信頼度に関わるし……何より、僕らは勇斗を、友人を助けたい。
「気にするな。どうせ係累があるわけでもない。残された私の時間、お前たちにくれてやるのも酔狂で悪くない」
 皮肉気に(首だけで)そう笑うアルデビア。背後に流れる曲が終わり、文歌が歌の終わりを告げる。
 身体の底から湧き上がってくるアウルの力と高まるテンションに行動速度が上がったことを実感しつつ、璃遠はアルデビアに頭を下げた。
「……あなたの任務に対する実直さを信用します」
 そして、同様に移動力の上がった仲間たちを振り返って檄を飛ばした。
「行こう。黒翼を倒そう。勇斗さんの為だけじゃない……アレは間違いなく人類の敵だ!」

 走り出した璃遠ら撃退士たちの背中を、明斗はアルデビアと共に見送った。徐々に遠ざかっていく文歌の『マホウ☆ノコトバ』──アレが聞こえている間は効果時間ということか。
「……しかし、私はただ事実のみをありのままに証言することしかできないが、それでも君らは構わぬか?」
 問うてくるアルデビア。それは即ち、今回の事の発端──ショッピングモールでの勇斗の行動もそのまま報告されるということ──
「構いません」
 明斗は首を縦に振った。こちらには仲間が録音した黒翼との会話の音声記録がある。事実は事実として情状に訴えれば或いは寛恕も得られよう……
「では、私の上半身から携帯型通信機を取ってくれ。何せ今の私には手も足もないのでな」
 恐らく最後の軽口だろう──或いは最初の軽口であったのかもしれない。明斗は言われる通りに行動し、そして、自らも学園に対する通信を試みた。
「観戦武官として監視中であった悪魔『黒翼』が上司の悪魔アルデビアに危害を加えて逃亡しました。現在、学園生が追跡中。対象は自身の欲望の為に暴走状態にあり、周囲に危害が及ぶ恐れがあります」
 そこまで報告して明斗は苦笑した。
 対象は暴走状態──これだけ聞けば勇斗も当てはまってるんだよな。
「……直ちに周辺地域の封鎖と一般人の避難、討伐チームの派遣を要請します。最低でも絶対に逃がさない為の包囲を」
「──本部より黒井。状況は理解した。しかし、こちらは防衛戦が終わったばかりで対応する余力がない。付近の撃退署も同様に人手は払底しているものと思われる」
 現場での対応に期待する──そう言って通信は終わった。
「……なんだそれは!」
 通信機を地面に叩きつけるべく振り上げて……どうにか明斗は思い止まった。……学園の状況は理解できる。無いものねだりをしても始まらない。
「黒翼を倒すなら急いだ方がいい」
 上司への報告を終えたと告げて、アルデビアが明斗に忠告した。
「黒翼は私を倒した。そして、私はもう長くはない」


「当たれぇぇぇーーーッ!」
 背後から聞こえて来た雄叫びに黒翼は空を逃げつつ振り返り…… こちらへ向けて放たれた攻撃にギョッと目を見開いた。
 文歌の振り付けに従って、ライブステージの舞台装置の如く破裂音と共に空へと撃ち放たれる『星の鎖』。チルルもまた投げ槍競技の如く、助走から思いっきり氷の槍を衝撃波つきで投擲する。
「こんな所にまで届くのか!?」
 驚きつつも回避に掛かった黒翼を追う槍と鎖。それをサーカスの如く躱し続ける悪魔に向かって、射程内まで走り込んだ峰雪が靴底滑らせつつ弓を構え…… 放たれたアウルの矢が周囲の空気も巻き込みながら黒翼を掠め飛ぶ。
「……あっぶな〜! 空を飛んでたらいい的じゃないか」
 黒翼は慌てて森の中へと下りた。しかし、地上を追って来た撃退士たちを見かけて休む間もなく走って逃げ出す。
「待てー! 散々言うだけ言っといて、逃げるなんて卑怯だぞー!」
 稲の収穫から野菜の皮むきまでなんでもこなせる大鎌『☆ラクラクスライサー』(移動力が上がるのだ)をブンブン振りながらそれを追いかけるチルル。だが、全力移動同士の逃げ合い──容易にその差は縮まらない。
「もう1回ミニライブをするよ! 移動力を上げたい人は私の所へ!」
 再度、応援歌を使用するべく集合を掛ける文歌。そんな皆を横目に、アウルの機械化フル装備状態のラファルがフライトシステムを背部に展開。陽炎を背に空へと舞い上がり。雫もまた『小天使の翼』で浮遊すると、アウルの力を集中させた足で地を蹴り、スケーターの如く滑る様に黒翼の後を追う。
 そんな彼らの前方、遊歩道を全力で逃げる黒翼は、ふと視線を感じて背後を振り仰いだ。
 その視線の先に、高移動力と『縮地』であっという間に追いついてきたユウが浮かんでいた。彼女は武器防具をコピーされぬよう敢えて黒翼には近づかず、振り切られぬことに注力して敵の位置を後方の味方に報せ続けていた。
「ふーん……!」
 それが目障りだったのだろうか。或いは各個撃破が可能と思ったか。黒翼は背後を振り返って手の中に『釘打ち機』──DIY売り場で『解析』したやつだ──を生成・強化すると、ユウへ向けマシンガンの如く連射した。
 その内の何発かを被弾(被釘?)し、距離を取るユウ。しかし、その表情には微かに笑みが浮かぶ。──悪魔は自分を攻撃し、その分、移動距離が落ちた。その間に後続する仲間たちが大きく距離を詰めている。
「だりゃあーッ!」
 瞬間、頭上の枝葉を押し割るように、日本刀『天狼牙突』を大上段に構えた機械化ラファルが攻撃を仕掛けて来た。
「なんかゴツいのが降って来た!?」
 叫ぶ黒翼の残像を切り裂くラファルの兜割り。それをバックステップで躱した悪魔の傍らを、ラファルの身体をスクリーンにして陰から飛び出して来た雫が闇色のアウルを地面へ落とし。直後、影の中から鎌首もたげた無数の腕が悪魔の身体に絡みつく!
「どわあぁぁっ!?」
 慌ててその腕の群れを跳び避けて街路樹端に離れる黒翼。
 そのまま先へと駆け抜けた雫は、一旦、黒翼の南側──挟撃できる位置に足を止めると、遊歩道の北側を──駆けつけて来る味方を見やった。
「追いついた……!」
 馬竜の嘶きと共に、相棒に跨った巫女服の陽花が両手で構えた自動拳銃を立て続けに黒翼へ向け発砲し。そのまま戦場を大きく飛び越えてジャンプ一番。雫の傍らへ陽花を乗せた馬竜が着地する。
「どりゃー!」
 更に(全力移動のまま!)黒翼へと突っ込んで来たチルルが敵の眼前で足を止め。靴底滑らせつつ活性化させた極光氷剣を下段から斜め上へと振り抜いた。
 背が低いチルルにこれをやられると黒翼はしゃがんで躱すこともできない。悪魔は背後の樹にチルルの刃を受け止めさせると、生成した『薄っぺらい金属製ものさし』をびよんびよん揺らしつつ、同時に複数の敵を得ぬよう素早く位置を変える。
「大工か、てめーは!」
 相手の珍妙な武器群を見てツッコミを入れつつ、揺れる『ものさし剣』(アホみたいに見切り難い……!)をどうにか躱すラファル。一方、木の幹を強打させられたチルルは手が痺れるのも構わずに大剣を振り抜くと、そのまま身体ごとグルリと刀身を回転させて、最低限の動きで再度黒翼に斬り。そのまま絶え間のない連続攻撃により敵の不用意な逃走を妨害し、その場に釘付けにせんとする。
 反撃が来た。チルルはそれを当たるに任せ、逆にカウンターを叩き込んだ。よろける黒翼──しかし、それは誘いだった。追撃を掛けるべく踏み込んだチルルとラファルが逆に黒翼の反撃を受け、両者は一旦、距離を取る。
「……やるわね」
 知らず笑みを浮かべるチルル。どんなにムカつく相手であっても、互角に打ち合える敵と見えればなんだか楽しくなってきてしまうのは彼女のサガか。
 さらに続々と合流を果たす撃退士たち。黒翼が味方から離れている事を見て取った文歌が、警告の叫びと共にアウルの流星雨を悪魔目がけて振り落とす。
「ここで逃がすつもりはありませんっ! おとなしく……しなくてもいいので、とりあえず捕まってくださいねっ!」
「個人的には『皆で死ぬまでボッコボコ』っていうのがお勧めだよ!」
 文歌に続いて叫ぶ陽花。先程ラファルが言った通り、問答無用で黒翼を倒せるようになったのはある意味で気楽だった。何事も前向きにと言うのは彩咲家の家訓でもある(嘘
(そう、できれば勇斗くんが合流する前に……!)
 陽花の祈りは、だが、やはり届かない。コメット爆撃で生じた砂塵の向こうから(小梅を棚引かせつつ)駆けつけて来る勇斗の姿── それを視界に捉えた黒翼がそちらを向いて「アハ!♪」と笑う。
「よそ見とは余裕だなァ、オイ!」
 ガシャン! と踏み込んだラファルの袈裟切りを仰け反るように躱す黒翼。その動きを予め予測していたのか、ニヤリと笑ったラファルが手首を返し、最小の軌道でもって柄頭で悪魔の顎を強打した。
「……ッ!?」
 脳を揺らされた黒翼が今度こそ本当によろめき、崩れかける。その隙を逃さず氷剣を悪魔の脛へと突き込んだチルルが更に蹴りを加えて黒翼の足防具を破壊する。
「黒翼……!」
 そこへ双剣を手に駆け込んでくる勇斗。陽花は朦朧状態の黒翼を見て、どうにか状態異常が間に合ったかと息を吐く。
「どうさ! たとえアイテムを解析したとて、使えなければ意味はねぇだろ!」
 悪魔を地面へ叩きつけようと掌底を振り被るラファル。その一撃を喰らって地面をバウンドしながら、しかし、黒翼の口には笑みが浮かぶ。次の瞬間、素早い動きで撃退士たちの追撃を立て続けに躱す黒翼。その手には一振りの日本刀。それはラファルが持つ天狼牙突に瓜二つ──
「っ! 黒翼がラファルさんの武装をコピーしました。注意してください!」
 上空のユウが発する警告。だが、勇斗は止まらない。それを見たユウは大鎌を活性化させると翼を畳んで逆落としに降下を始め。小梅は勇斗の邪魔にならぬよう、掴んでいた裾を放し、勇斗の後ろにピタリと背後霊の如く位置をつける。
 そんな仲間の動きにも気付くことなく、修羅の相貌と化した勇斗が突撃する。シールドも出さず、剣が当たるも構わず攻撃を優先で踏み込む様は、普段の彼と比べてやはり異常──
「ダメぇ!」
 それを見た小梅が瞬間的にアウルを網の目状に編み上げ、黒翼の打撃を軽減した。……やっぱり今日の勇斗ちゃんはどこかおかしい。なら、自分が守護天使にならないと!
「勇斗さん!」
 共に戦場に入った璃遠がすかさず勇斗のフォローに入る。素早く弧を描きながら低い姿勢で黒翼の左方へと回り込み、敵の目につくようにしながら閃破を抜刀。意図的に低く放った衝撃波が派手に砂塵を巻き上げ地を走り、躱した黒翼が一歩後ろに下がる。
 その空いたスペースに、直上から高速で降り落ちてきたユウが割り込み、逆落としの態勢のまま大振りで大鎌を薙ぎ払った。黒翼が更に一歩下がる隙に着地し片手と片膝で衝撃吸収。そのまま弾ける様に伸び上がりつつ更なる斬撃。更に敵を引き離したところを、後続し、滑る様に足を止めた夕姫と峰雪が味方の隙間に狭い射線を通し、立て続けの射撃で悪魔の再接近を牽制する……
「勇斗くん! 黒翼をぶっ飛ばすのは問題ないけど、少し冷静になって! そのままじゃその悪魔を喜ばせるだけだよ!」
「怒りに任せたままトドメを刺しても喜ぶだけ、って癪だよね。決着をつけるなら、黒翼が行ってきたことは無駄だって思わせるくらいのクールな態度で臨まないと!」
 どうにか勇斗を落ち着かせようと声を掛ける陽花と璃遠。
 それに続かんとして、しかし、峰雪は苦渋の顔をした。──どうしても許す事の出来ない相手がいて、殺すことの口実を与えられて……そんな時、どうすることが彼にとっての正解なんだろう? いや、そもそも正解なんて存在するのか……?
「勇斗さんを冷静にさせるのはほぼ絶望的なようですね…… なら怒りを上手く誘導するしか手は無いか……」
 雫の言葉に、小梅は思った。
(勇斗ちゃんが攻撃に専念するのであれば、自分たちが護ってやれば何とかなる。少なくとも勇斗ちゃんが正気に戻るまで頑張れば、きっと良い方向に行く。行くに決まっている! そうだよね、勇斗ちゃん……!)

 雫は味方にその場を任すと、踵を返して道の先へ──駐車場へと急いだ。まだ残っている一般人を早急に避難させる為だ。
(彼らを見れば、恐らく黒翼は勇斗さんを追い詰める材料として危害を加えるでしょう。若しくは、逃げる時間を稼ぐ為に怪我人を作ったり、人質にしたりするかもしれない)


 遠く轟いて来る銃声とアウルの爆発音── 思いの外『近く』から聞こえて来たその音に、学園防衛戦を『観戦』に来ていた野次馬たちは怪訝な表情で展望台の方を見やった。
 その木々に覆われた小高い丘の遊歩道から、まるでスケートでも履いたかのような滑らかな動きで銀髪の少女が滑り降りて来る。その全身を包んだドレスアーマーに、実戦の『凄み』を纏った白銀の大剣── 天魔との戦いが日常となって既に5年以上。少女が撃退士であることは人々にはすぐに理解できた。
「落ち着いてください。慌てる必要はありません」
 駐車場にいる人々に、滑る様に足を止めた雫はまずそう呼びかけた。ショッピングモールの時と同じだ。パニックを起こされるのが何よりも怪我の元──
「現在、出現した天魔を撃退士たちが攻撃中です。戦場が移動する可能性もありますので、一応、皆さんはここから避難してください」
 まぁ、出現したと言っても、ここに元観戦武官を連れて来たのは自分たちなのですが。必要のない情報は敢えて言う必要もない。

 その頃、縁は道なき道を走りながら、黒翼につけておいた『マーキング』の反応をチラと確認した。先程、仲間たちが『星の鎖』を放った際に紛れて当てておいたものだ。その反応を横目に見るようにしながら、縁は木々の間を抜けて、草生す丘の斜面を跳び分けるようにして道の先へと駆け抜けていく……

 一方、戦場──
 悪魔は前衛たちを相手にしつつ少しずつ駐車場へと移動しながら、防御を重視した戦いを繰り広げていた。
 その手番の多くは撃退士たちの各部防具のコピーに費やされている。多数の撃退士たちの攻勢をどうにか凌げているのはその防御能力の上昇と、暴走する勇斗を気に掛けた撃退士たちの行動がそちらに割かれたからに他ならない。
「勇斗さんは今まで皆と一緒に居て幸せを感じたことはある? 皆それぞれに過去があってさ、その積み重ねで今があって……それで出来た大切なものがあるんだ。……過去は変えられない。だから、今の幸せを信じて進むしかないんだよ」
 ひたすら突撃を繰り返す勇斗に寄り添うように、璃遠が声を掛け続ける。他にも、陽花やユウ、峰雪、夕姫──彼らの尽力により時折、正気を取り戻しかけた勇斗は、しかし、その度ごとに黒翼の煽りを受けて狂騒へと引き戻された。
「そうだよ、君には大切なものがいっぱいある。ここで僕を逃がしたら全部無くなっちゃうかもしれないけどね!」
「貴様ァ!」
 ……一事が万事、この調子。喉元を狙えば喋れなくなるかな、と峰雪が溜息を吐き、夕姫などは一度ならずそれを実行していたりするのだが。
「あなたはもう黙っててくれないかな!? 人の何とかを邪魔する悪魔は馬竜に蹴られて死んでしまえ、って諺、知らないの!?(ありません」
 放たれた馬竜の雷撃を躱しつつ、黒翼が夕姫の放った砲弾を火花と共に切り払う。
 夕姫は舌を打つと『小天使の翼』で滑る様に移動し、再び銃撃を放ちながら傍らの勇斗に呼びかけた。
「……勇斗くん。落ち着けとは言わないわ。あなたの怒りは正しい──でも、その向け方を間違えないで。あいつの言っていることは全部自分がしたことの責任転嫁よ。勇斗くんが背負う必要はどこにもないわ」
 それでも背負ってしまうと言うなら……ここにいるみんなで支えて上げる。やるというなら一緒にやる。忘れないで。私たちはいつだって貴方に寄り添い、共にある。
「そうだよ、勇斗さん! 皆が勇斗さんと共に怒り、必死になって黒翼さんを倒そうとしているんだよ? 一人で戦う必要なんて全然ないんだから!」
「なんと麗しき友情! そうやって仇を他人に取られてしまうんだね、勇斗くんは!」
 混ぜっ返す黒翼を睨む文歌。怒りに我を忘れて飛び出した勇斗の背中を照準に捉えて、夕姫が慌ててその銃口を跳ね上げる。
 隙だらけの勇斗に突き出される日本刀──その切っ先が勇斗の身体に沈む直前、横から飛び出して来た何かが身代わりとなってその一撃を受け止めて──その少女、小梅の身体を受け止め、勇斗は目を見開いた。
「小梅ちゃん!? なんで……」
「言ったでしょぉ……ボクはぁ、勇斗ちゃんの守護天使なんだからぁ……」
 苦し気な声と表情で……何かを伝えようと力を振り絞り、小梅の小さな手が勇斗の頬に触れる。
「ダメだよぉ…… 怒って殺すんじゃなく、撃退士として倒さないとぉ……」
 パタリ、とその手が落ちた。え? と勇斗が絶句する。
「あーあ、死んじゃった?」
 いっそ優し気な声音で黒翼が告げる。
「君が巻き込んだ」

「もう止めてくれ、榊くん! お願いだから正気を取り戻してくれ! こんな所で、そんな黒翼を相手に命を粗末にすることはないんだ!」
 倒れた小梅を抱え上げ、怒りに狂った勇斗の背に峰雪が声を限りに叫ぶ。
 それを打ち消すように浴びせられる黒翼の煽り── 彼の愉悦はもう絶頂に達さんばかりだ。
「また死ぬよ! まだまだ死ぬよ! 君に関わる人全部、僕に目をつけられたというだけで! ほらほら、もっと殺意を滾らせなくちゃ! そして僕に捧げるんだ。君の魂の慟哭を!」
 そんな黒翼の視界の片隅──遊歩道脇の森の奥にキラリと何かが光り……直後に飛んできたアウルの矢を、黒翼は目を見開いて仰け反る様にしてギリギリ躱した。
(狙撃手!?)
 再度飛来した矢を籠手で叩き落としながら焦る悪魔。森の薄闇の中に一切の感情を排した緑眼の光と、焔の如く怒りに揺蕩う赤い髪と犬耳の輪郭がユラリと揺れる。
「……もう君は口を開く必要はないよ」
 その呟きは黒翼の耳には届かない。代わりにそれを体現するように、放たれた矢が黒翼の喉元を食い破らんと襲い来る。
「マジか……!?」
 黒翼が再度振り向いた時にはもう縁の姿はなかった。既に薄闇の中に溶け消えて、次の射点へと移動している。

 黒翼は一旦、撃退士たちから距離を取ることにした。自分の手番を最後に回し、全力移動で一気に後方へと跳び退さる。
 だが、次の自番で体勢を立て直すより早く、撃退士たちの射撃と魔力がその身を捉えた。罵声と呼ぶには可愛い悪態で魔力の衝撃波を放つ文歌。それと十字砲火を成すような形で上空からはユウが自動拳銃を撃ち放つ。
 小梅を膝の上に乗せたまま峰雪が放った一撃は『アシッドショット』──命中するなり腐臭を放ち始めた防具を手早く投げ捨て、新しい鎧を物色しなきゃ、と思ったところへ再び放たれる峰雪の毒矢。それを慌てて切り払う黒翼に、間髪入れずに突っ込んで来たラファルが斬りかかる……

「ごめんね、白野さん。僕も行くよ……」
 射程外へと移っていった戦場を見やって、峰雪は膝の上の小梅に済まなそうにそう告げた。
 丁重に頭を地面へ下ろそうとして……直前、ムクリと小梅が身を起こし。おじさんがワッと驚きの声を上げる。
「え? 白野さん……?」
「てへ♪ 最後の言葉っぽかったら勇斗ちゃんも少しは聞いてくれるかなぁ、って(悪い子) 上手くいきかけてたのにあの黒翼ぅ……倒れたまま隙を伺うつもりだったのにそのままどっかに行っちゃうしぃ」
 パッパッと身体についた土を払い、峰雪に深々と頭を下げてぴゅ〜んと飛んでいく小梅。
 暫し呆気に取られていた峰雪は、しかし、やれやれと相好を崩す……

(何なんだよっ、あいつら、しつっこい……! 僕は勇斗くんと遊べればそれでいいのに邪魔ばっかして……!)
 這う這うの体で遊歩道を抜けながら、黒翼は苛立たし気な視線で後方を振り返った。
 追いかけて来る撃退士たち── 画鋲と釘で作った『撒菱』と被弾覚悟の全力移動で距離と時間を稼いだと言うのに、もうあんな所まで迫っている。
 だがそれももう終わり。駐車場は目の前だ。後は車に乗ってこの場を去って、命ある限り勇斗くんの関係者を──
「そこまでです」
 だが、その行く手には雫の姿──一般人の避難誘導を終えて、今、黒翼の前に立ちはだかる。
「……何? 一人で僕を止めれるつもり?」
「言いたい事は一つだけ。……お前の破滅願望に私たちを……勇斗さんを巻き込むな!」
 見て取れるほどの闘気を全身に漲らせつつ、悪魔の頭上に黒の十字を降らせる雫。怯まず突っ込んで来た黒翼がその重圧を跳ね除け、続けざまに振るわれた斬撃を空中体捻りで飛び躱し。間髪入れず振り向きざまに雫が横薙ぎに振るった太陽剣にその背を斬りつけられながらも突破を果たした黒翼が一台の自動車に手を掛けて── だが、直後、どこか駐車中の車の陰に潜んでいるのだろう縁の放った不意の一撃に慌てて仰け反り、手を放す。
 そこへ休む間もなく仕掛ける雫の連撃。燃え上がる闘気と対照的に鋭利に光る冷たい剣身──火の粉と灰の如くアウルが舞い上がる中、悪魔の逃げ場を潰す様に冷徹に敵を追い込んでいく。
「とったぁ!」
 その背後から襲い掛かった小梅の背後に現れるアウルの巨大ニャンコ。その剛撃に直撃を受けた車のルーフがひしゃげて破片が舞う中を転がるように悪魔は逃れて……だが、顔を上げた時には既にラファルと夕姫(いずれも浮遊等でマキビシをやり過ごした者たちだ)が肉薄を果たしている。
「一つだけあなたに感謝することがあったわ。おかげで何にも縛られずに貴方を殴れる」
 その手に纏うは『神輝掌』──「素手でもコピーできるのかしら?」とにっこり笑い……ボッ! と瞬間的に加速した夕姫が悪魔の顔面をぶん殴り。そのまま傍らを飛び過ぎたのち身体を反転。宙を逆さまになりつつ五連の指輪から魔弾の弾幕を叩き込む。
 その間にも続々駆け付け包囲の輪を縮めてくる撃退士たち。その中に峰雪の姿を見かけて、黒翼が怪訝な顔をした。
(なぜ弓手がこんな近距離に……ッ!?)
 気付いた時には遅かった。峰雪が何か魔道的な動作をした直後、足元のアスファルトの割れ目に生えた雑草があり得ぬ速度で膨張し、絡みついて来る。
「この程度……!」
「うん。そうだね」
 それを切り払って逃れた悪魔の背後に人の気配──
「やっと背中を見せたわね!」
「行って、式神! あの人を縛って!」
 既に第二、第三の矢が放たれていた。チルルと文歌が背後から放った拘束攻撃に、ついに黒翼の身体が捉えられた。

「……なぁに、心配するこたぁない。四肢にアウルのナノマシンを流し込んでちょちょいと爆散させるだけさ」
 ずずいと顔を近づけてメンチを切ったラファルが言い終えるより早く──頭上より降り下りて来たユウが大鎌の柄で修羅の如き一撃を叩き入れた。
 鎖骨を打ち砕かれた黒翼の悲鳴が響く中、ラファルは困ったようにユウを見上げる。
「……まだビビらせてる途中だったんだけど」
「それはすみません。でもほら、まだ三本もありますし」


 勇斗が駐車場に辿り着いた時、黒翼は既に撃退士たちによって拘束されていた。
 その四肢を砕かれた上、ロープどころか鎖でグルグル巻きにされていて…… 何もここまで、と哀願する悪魔に対して、文歌がにっこり笑って答えた。
「いきなり同胞を裏切るような方ですからね。残念ですが信用しません♪」

 だが、勇斗は止まらない。黒翼を殺すべく歩みから走りへ──それを縁と陽花が左右から必死になって抑え込みに掛かり。そこへ背後から近づいたユウが大鎌の柄で勇斗の頭部を思いっきりぶん殴って、一旦その意識を刈り取る。

 意識を取り戻した時、勇斗は陽花の膝の上で、縁に覗き込まれていた。
「ごめんね、仇を討つのを止めちゃって。君は私が想像していたよりずっと昏くて深い場所にいたのに…… でも、君の帰りを待つ皆の為なら、たとえ君に怒りの矛先を向けられることになっても構わない。それでも私は君をその深淵から明るい場所へと救い出したい。……だって、それが先輩としての私の役目と思うから」
 ポロポロと涙を零す縁に、勇斗は大丈夫なことを示して身を起こした。とりあえず小梅が生きていたことにびっくりしつつ、ホッとする。
「……いいのかい? 僕を殺しておかないと妹さんが死ぬよ?」
「大丈夫だよ勇斗さん。悠奈ちゃんにはアルがついてる」
 璃遠の言葉に勇斗が複雑な表情をした。怒りの矛先が一瞬逸れたのだろう。撃退士たちが笑みを零す。
「で、どうします? 勇斗さんは敵討ちを望みますか?」
「僕の妹ならきっとこう言うよ。『そんな奴の熱烈ラブコールなんて手酷くフッちゃえ』って」
 璃遠の言葉に苦笑しながら、勇斗は文歌の問いに答えるべく黒翼に向き直った。
 憑き物が落ちた勇斗を見て、黒翼は心底不満気な顔をした。
「つまらない、つまらない…… 今のキミに殺されても僕はちっとも楽しくないよ」

 突如鳴り響いた爆発音に、丘の斜面を駆け下りていた明斗がハッと顔を上げて急行する。
 辿り着いた彼が見たものは一面の炎── 倒れ伏した撃退士たちに、何が起こったか分からぬまま明斗は急ぎ回復の光を飛ばす。
「これは、一体……」
 言いかけて、炎の中に立つ人影に気付き、明斗は槍を身構えた。
 その人影──拘束を解き、傷を癒し、そして、倒した上司の力を得た黒翼が独り言つ。
「まずは邪魔ものを排除する。その時、勇斗、君はどんな顔をするのかな……?」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:11人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
戦ぐ風、穿破の旋・
永連 璃遠(ja2142)

卒業 男 阿修羅
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師