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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:シリーズ
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:12人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/11/30


みんなの思い出



オープニング

「……このまま逃げるのは取り止めだ。新たな力を試させてもらう」

 同胞であるはずの悪魔エピンダルを殺害してその力を吸収して── 悪魔クファルが気紛れにそう決意を固めた瞬間。彼の身体からおぞましい何かがオーラと化して溢れ出した。
 それは可視化された魔力とでも形容すべきものであろうか。暗く、昏く、ただ、闇や深淵と呼ぶにはどこか軽薄な、深みのない揺蕩う黒き焔──
 しかしながら、その力は紛れもなく本物だった。悪魔クファルがガスの元栓を捻る様に容易くその『出力』を調節すると、噴き出した魔力がまるで漫画の様に空気を震わせ、微かに大地を鳴動させた。
 遠く離れた空を飛ぶ鳥海山の下級天使たちがその魔力を感知して、行き足を止めて互いに顔を見合わせる。

 無造作に、悪魔が右手を斜め上方に振った。それだけで、魔力の奔流がまるで獰猛な猛禽の如く、上空──飛行するキマジエルへと襲い掛かった。
「っ!?」
 その力を目の当たりにして目を見開きつつ、咄嗟に防御態勢を取る中年天使。だが、黒き奔流は一瞬にして彼を飲み込むと、ただの一撃で天使の戦闘能力を喪失させた。
「おじさんッ!?」
「キマジエルさん!」
 重傷を負い、気絶して、山林の中へと墜ちていくキマジエルを振り仰いで叫ぶ撃退士たち。
 そんな光景など目に入らぬように、悪魔は左手を突き出した。
 放たれる極大のエネルギー波──その指向する先には、教師・安原青葉。『双剣の回避鬼』と呼ばれた鬼道忍軍たる彼女は、だがしかし、その場を離れず防御の姿勢を取る。その背後には悠奈や加奈子ら──彼女の生徒たちがいた。
「馬鹿野郎……ッ!」
 横合いから飛び込んできた人影が、その青葉を突き飛ばした。直後に防御姿勢を取るその人影へ、宙を飛びつつ青葉が叫び、手を伸ばす。
「松岡、先生──!」
 瞬間、教師松岡に直撃するエネルギー波。爆風が空中の青葉を更に吹き飛ばし、悠奈や加奈子、更に沙希や麗華までをも薙ぎ払い、大地へ転がし、打ち付ける。

「松岡!?」
 山中の藤堂が立ち上がる。目を見開き、歯噛みする。
 ──なぜ自分はあの場にいない!? あの場にいさえすれば、ディバインナイトたる自分には幾らでも松岡を守る手段があったのに……!
「行け!」
 傍らの杉下が叫んだ。しかし、と藤堂は躊躇した。今、自分がこの場を離れれば、山中に潜む狙撃兵──杉下を初め、槙野や小林、学生たちらを守る者がいなくなる。
「行くんだ。……こんな時まで自分の心を押し殺さなくていい」
 冷や汗を浮かべつつ、それでも表情に笑みを作った杉下の言葉に、藤堂は声を詰まらせて。すまない、とだけ搾り出すと、藤堂は狙撃銃を地に置き捨て、学生時代から使う受防用拳銃を手に斜面を駆け下り、松岡の元へと走り出す。

「松岡……先生……!」
 爆風に木の幹に叩きつけられ、一瞬、呼吸を失いながら…… それでも地を這う様に立ち上がりながら、地を掻く様に青葉が走る。
 重度の火傷── 火傷、なのか──? ──を負い、膝から崩れ落ちる様に倒れ込んだ松岡には、全力で駆けつけて来た勇斗が彼らを守る様に立ち塞がった。
「急げ! 早く後送しろ! 悠奈! 松岡先生の治療を……!」
「でも、お兄ちゃん、私、重体の治療なんてできないよ……!」
「動脈の出血だけでも止めるんだ。このまま放置すれば命取りになるぞ!」
 泣きそうになりながら、いや、既に半分泣きながら。悠奈は松岡に「ごめんなさい!」と謝ると、手に癒しの光を纏わせるとそれを一際大きな傷の中に突っ込んだ。ぐぁっ! と呻き、血を吐く松岡に謝り続けながら、一際激しく出血している血管を見つけて、それを塞ぐ。
「先生…… 先生……!」
 這い転がる様にして、青葉がやって来た。荒い息を吐きながら、その頭に血塗れの手を乗せて。微笑みながら「よくやった……」と松岡は青葉を褒めた。
「松岡……!」
 藤堂が、駆け寄って来た。懐かしいものを見るかのように、松岡はそちらに首を振った。
「藤堂…… 生徒たちを守ってやってくれ……」
「嫌だ、松岡。私は、もう……」
 藤堂は泣いていた。青葉もまた泣いていた。松岡は手を伸ばし、その頬の涙を拭った。
「頼むよ」
「……ッ!」
「……青葉も」
「……従います。それが先生の指示であれば」

「クフッ……♪ ふはっ…… あははははははは……!」
 ジッと己の手を見ていた悪魔が、愉悦に高笑いを始めた。己の力に酔いしれるように。その視線は既に自身の周囲の小虫など──撃退士たちなど目に入っていない。
「耳障りなんだよ……ッ! 嗤うな! 小者!」
 地を照らす黒い焔の向こうから、振るわれたヨーヨー型魔具を悪魔は躱した。アルディエルを初めとする何人かの撃退士たちが攻撃を仕掛けていた。
「……そう言えば、君の『姉』の仇だったね、僕は。堕天した今の君に、果たして僕を倒す力があるとは思えないけど」
「黙れ!」
 激昂するアルディエル。振るわれた攻撃を躱しながら悪魔の反撃が少年天使へと放たれ──
「落ち着け、バカ野郎」
 その一撃を、勇斗が防いだ。バカみたいに重いレート差によるダメージは、血塗れで後続して来た彼の妹が即座に癒した。
「すみません、お義兄さん」
「うっさい、兄言うな」
「えぇー……?」
 だって、前に義弟言ってくれたじゃないですかー。アルディエルは心中でそう尋ねるも、火に油になりそうなので我慢した。
「どうする、勇斗!? このまま奴と戦うか? それとも、一旦、退いて態勢を立て直すか?」
 勇斗らの後方で支援の符をばら撒きながら、敬一が勇斗に訊ねる。
 アルディエルがじっと勇斗を見ていた。その瞳は『姉』の仇を取らせてくれと無言で彼に訴えていた。悠奈もまた兄を見ていた。──アルくんに本懐を遂げさせてあげたい。でも、今はそれが無理そうならば、お兄ちゃんの判断に従うよ?
 もう帰らない? 敬一の目はそう冗談めかして笑っていた。同時に、彼は戦況に利あらぬことを冷静に感じ取ってもいた。
 勇斗は戦場を見渡した。戦う撃退士たちは、誰も彼もが疲れ切っていた。対する悪魔クファルは2体の同胞の力を吸収して意気軒昂。これだけの数の撃退士を相手にまるで怯むことなく、単騎で互角以上に戦いを繰り広げている。
「……皆の判断に従う」
 勇斗は言った。アルが奥歯を噛み締めた。
 それを手で制しながら、勇斗は続けた。
「……ただ、僕個人の感触を言わせてもらえば。ここであの悪魔を倒す目はあると思う」

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リプレイ本文

 もう随分と長い間、走り続けてきた気がする。
 浚われた悠奈らを助け出す為、囚われていた双子の兄を牢から脱走させ。教師・松岡らとそれを追って、自分たちはここまで来た。
 山中を渡り歩きながら繰り広げた逃走劇に、想定外の天魔の介入。交渉の決裂と、それに伴う戦闘と── 小休止のみで動き続けてきた撃退士たちの疲労は深い。対する悪魔クファルの方は、同胞2人を吸収してその力は溢れんばかり……
 このまま奴と戦うか。それとも、一旦退いて態勢を立て直すか──?
 親友・敬一の問い掛けに、しかし、勇斗は言い切った。
「ここであの悪魔を倒す目はあると思う」
 その言葉に、桜井・L・瑞穂(ja0027)は愉快そうに笑い出した。その姿、疲労困憊なれど威風堂々── 疲れた身体に鞭打つ様に、しかし、見た目はあくまで優雅に。顎下に手を当て、背を逸らし、大きく胸を張りながら。より高貴に、より格調高く。咲き聳える華の様に綽々と──
「そうですわね! 力とは、切磋琢磨し、積み重ねてこそ意味があるもの。あの悪魔のそれは、言わばただ醜く積み上げただけの瓦礫の山。せめて美しく崩して差し上げますわ」
 皆様、宜しくて──? 敢えて悪魔に背を向けて、悠然と瑞穂が皆に問う。
 葛城 縁(jb1826)は無言のまま、決意を込めた眼差しで頷いた。ここで『アレ』を逃がすわけにはいかない。野放しにすれば、絶対に今以上の被害が出てしまう。……まだあいつは力に慣れていない。だからこそ、今、この場であいつを討ち果たす……!
 狩野 峰雪(ja0345)も縁に同意して。それに、と気遣わしげな視線をアルへと向けた。悪魔クファルはアルにとって、姉マリーアデルの仇である。そして、義兄ファサエルの今際の際には「お前が倒せ」と託された。
 峰雪は思う。仇討ちをしても死んだ人は戻らない。けど、前に進む一区切りとしては、アルには必要なことなのかもしれない。
「やろう。確かに状況は不利だけど、そんなひどいことばかりじゃない」
 永連 璃遠(ja2142)が敢えて笑顔を浮かべて言った。──危険な状態ではあるけれど、とりあえず松岡先生は無事。捕まってた人たちも皆、帰って来た。懸念材料はもう存在しない。後は目の前の敵を倒すだけ。
「ようやっとここまで来たんだ。皆、もう少しだけ、頑張ろう」
 頷く撃退士たち。瞬間、雪室 チルル(ja0220)が弾けるように、大剣を手に真正面から悪魔へと突撃していく。
 それに続かんとしたアルの肩を、ユウ(jb5639)が掴んで引き留めた。
 まだ分からないの? と、月影 夕姫(jb1569)が呆れた様に言い、少年の頭の上に手を置いて、駆け寄って来る悠奈の方へと向けさせて。同時に髪の毛をわしゃわしゃさせつつ、思いっきりやりなさい、とも告げる。
「フォローは私たちがします。……あなたが本懐を遂げられるよう」
「それが堕天した代わりに貴方が得た『力』──あの悪魔がつい今しがた、力の代償に失くしたものよ」
 行きましょう、アルくん──夕姫が言った。今までの因縁全部、ここで断ち切ってやりましょう……!


「少し見ない間にまた随分と様変わりをしたようですね」
 真っ先に飛び出していったチルルに後続し、雫(ja1894)はその手に大剣を活性化させつつ、悪魔を見据えて呟いた。
 疲労・負傷した後輩撃退士たちに代わって合流した、追跡班の後詰めの一人である。悪魔クファルとは鶴岡ゲートの戦いで面識があり、直接、剣も交えた間柄だ。
(と言っても、力だけならあの時とはまるで別人ですが)
 冷静に、事実は事実として受け止める。だが、そこに恐怖はない。
 もう一人の増援、ラファル A ユーティライネン(jb4620)もまた同様。(……ん? 気のせいか? 何かどこかが違う様な……???)
「力に酔っちゃってまぁ……無様なもんやな」
 悪魔を見て呟き、刀の鯉口を切るラファル。──エピンダルもラフィルも消えて、最後に残ったのはその全てを統合した最強の悪魔が一人──だが、負ける気は、全然しない。そう。かつて兄弟2人で撃退士たちを翻弄した双子の悪魔は──もういない。
「敬一さんは勇斗と連携を! 麗華さんは召喚獣で攪乱行動。アルくんと悠奈ちゃんの行動支援を!」
「杉下さんたち小隊の皆は山中に潜んだまま、移動と狙撃をお願いします!」
 自ら悪魔の側方に回り込みつつ、指示を飛ばす黒井 明斗(jb0525)。夕姫もまた地面に滑り込んで大型小銃を膝射姿勢で構えながら、無線機のマイクを摘んで杉下たちへ呼びかける。
「援護する。なに、阿修羅の援護は学生時代から慣れてるから」
 藤堂のその言葉に「すみません!」と答えかけた璃遠は、すぐに「ありがとうございます!」と言い直した。──本当なら、青葉先生も藤堂さんも、負傷した松岡をすぐにでも後送したいはずなのに。悪魔の撃破を優先するという僕らの判断にこうして従ってくれている。なら、それに応える言葉は謝罪じゃない。絶対に悪魔を倒して、御礼で応える……!
「残念だけど、あんたはここでゲームオーバーよ! 覚悟ッ!」
 両翼を伸ばす撃退士たちの中央で。大剣を刺突に構え、低い体勢で突進しながらチルルが叫ぶ。……悪魔は余裕の笑みを浮かべて、それを迎え撃つ構え。
「ムカつく、ムカつく、ムカつくぅー! ぜぇーったい、ぶっとばーす! でもぉ、まずは松岡センセとオジサン(=キマジエル)を助けなきゃ!」
 そんな悪魔の余裕ぶった態度にぷりぷり怒って見せながら。白野 小梅(jb4012)は、負傷し倒れた松岡の元へと向かう為、中等部の親友たち声を掛けた。
「悠奈ちゃん……はアルくんの所か。加奈子ちゃん、沙希ちゃん、手伝って!」
 悠奈とアルの支援に向かおうとしていた沙希と加奈子が呼び掛けられて足を止め。「そーだった!」「忘れてた」(←酷い)と慌てて松岡の方へと踵を返す。
「小梅ちゃん、沙希ちゃん、加奈子ちゃん! 松岡先生のことをお願いだよ!」
 彩咲・陽花(jb1871)が左右に2つの召喚光を従えながら、走っていく小梅たちの背を振り返って、告げる。
 やがて、左右に顕現する馬竜──スレイプニルと、狼竜──フェンリル。松岡の搬送に向いた召喚獣たちを、しかし、陽花はそれに用いない。その理由を策として胸に秘したまま──凛々しく左右に立つ彼女の僕たちに呼びかける。
「スレイプニル、フェンリル。ここが最後の踏ん張りどころだよ。一緒に頑張ろうね。出し惜しみなしでいくよ!」
 陽花の命令に応じて前進していく馬竜と狼竜。彼らは大きく左右に分かれて、悪魔を中心にそれぞれ2時と10時の位置へつく……
 自身を取り囲む動きを見せる撃退士たちに対して、悪魔は涼しい顔のまま。正面に右手を突き出した。その腕から放たれる魔力の奔流はまるで大地を削る怒涛の暴れ水が如く──しかし、その攻撃が届く前に、撃退士たちは散開。回避行動を取っていた。
「双子の兄とエピンダルを喰らって、確かに力は恐ろしい程に上がっていますね。しかし……」
「単調な攻撃ですね。どんなに威力と速度があっても、来る方向とタイミングが分かっていれば避けるのは造作もないことです」
 悪魔に聞こえぬ程の小声で、ユウと雫。活性化させた『防盾付きのバズーカ砲』をラファルが肩へと担ぎ上げ、中距離から「どりゃあ!」とぶっ放し。それを腕に纏った魔力で悪魔が受け弾く間に、チルルが正面からぶつかるように斬りかかる。
 同時に、アイコンタクトを取った明斗と璃遠が左右から距離を詰め。璃遠が閃破を抜き放って衝撃波を放つと同時に、明斗が逆サイドから悪魔の眼前へ槍を突き入れた。
「! 横槍か」
「貴殿も得意でしょう? ファサエル戦にエピンダル……貴殿には二度も横槍を入れられた」
 貴殿方が仲間割れしようと文句はありませんが…… と、クファルだけでなく周囲も視界に捉えて、明斗。悪魔の背後から狼竜が突っ込んでくるのを見て、それに正対するよう立ち位置をずらしながら。皮肉気な口調で告げる。
「もっとも、それもこれが最後でしょうがね。仲間割れも横槍も、入れる相手はもういない」
 挑発と同時に悪魔の背後から襲い掛かる狼竜。その両爪を悪魔の背中──肩甲骨の上に立て、そのまま地面へ押し潰そうとする。
 だが、悪魔は動じない。魔力で根を下ろしたように。陽花は瞬時に押し倒しを断念すると、狼竜に悪魔の背を蹴らせ、クルリとその場を離脱させた。その退却を支援するように、ユウが闇の翼で半浮遊しながら自動拳銃を立て続けに撃ち放ち。それを援護に、闘気を解放した雫が悪魔へ肉薄。振るわれた魔力の剣をサイドステップで躱しつつ、上段に構えた剣を悪魔の側頭上部へ振り落ろす。
 ガンッ! という音と共に刃は魔力に弾かれた。だが、衝撃は頭部を揺らして、悪魔の身体がグラリと揺れた。
 その機を逃さず、撃退士たちは全周から一気に距離を詰めた。しかし、身体から噴き出す魔力を鎧に撃退士たちの攻撃をガードした悪魔クファルは直後にその魔力を全力放出。集まった撃退士たちを吹き飛ばし、一気に周囲から駆逐する──
「……クッ! 『トリスアギオン』を使うわ! 怪我が酷い人は20秒後に集合。最後の一回だから、タイミングを間違えないで!」
 腕を翳して吹き荒ぶ砂塵から目鼻を守りながら、瑞穂が地面に転がされた仲間たちへと呼びかける。

 峰雪は黒漆塗りの美しい弓に悠然とアウルの矢を番え……『腐敗』の力を付与させた後、静かな心で弦を放した。
 凛とした弓鳴りの音色と共に放たれたその矢は狙い過たずに命中し……しかし、魔力の壁に阻まれた。込められた『腐敗』の力も、最小の効果を与えただけで回復される。
 にも拘らず、峰雪は夕姫と顔を見合わせ、やっぱり、と呟いた。
「あいつ、さっきから幻覚を使っていない」
「圧倒的な力を手に入れて…… 驕り高ぶって僕たちを見下し、油断している……?」
「でしょうね。正直、絡め手の方が厄介だったわ。教えてやる義理はないけど」
「わざと劣勢を演じてやれば、調子に乗って隙を作れるかな。もっとも……」
 峰雪は戦場を見返した。
「わざわざ演じなくても、苦戦はするかもしれないけれどね」

 再び距離を詰めにかかる撃退士たち。悪魔は水上を跳ねる様なステップで彼我の距離を保ちつつ、心底楽しそうにそれをエネルギー波で迎撃する。
 そこかしこで湧き起る爆発── 明斗は槍による攻撃を中止し、仲間への回復に専念することを決め。悪魔はそれに気づきつつも、明斗以外の撃退士たちに狙いを定める。
(回復役たる僕を放置? わざわざ倒さなくともすぐに枯渇するという判断か……!)
 対して、悪魔は『トリスアギオン』を発動させようとする瑞穂を放置はしなかった。カウントダウンに応じて撃退士たちが瑞穂の周りに集まった瞬間、肉薄して魔力を『放出』。ビリヤードのブレイクショットよろしく撃退士たちが周囲へ転がされ…… 『最後の1回』を『空撃ち』させられた瑞穂が絶望に歪めた顔を上げ。その表情を愉しむかのようにゆっくりと歩み寄って来た悪魔が、彼女に魔力の剣を振りかざす……
「……絶対に後悔させてみせますわ。私に10秒も与えたことを」
 負け惜しみの言葉を言うことを許した後。悪魔が一刀の元に嗤う瑞穂を切り伏せた。



 激戦の戦場音楽を背に聞きながら── 全力で松岡の元へと走り寄った小梅たちは、ようやくその傍らに辿り着いた。
「先生を運ぼう。ここだと巻き込まれちゃう」
 小梅の言葉に頷き、両脇から松岡を抱え上げる沙希と加奈子。流れ弾の恐怖に身を震わせながら、それでも味方を信じて振り返らずに…… 戦いの喧騒も遠い、曲がり角の先まで運び出す。
「今すぐ生命の危機がどうこういうことはなさそうですね」
「動脈の出血は悠奈が塞いどいてくれたからね!」
 寝かせた松岡の護衛につきながら、ホッと息を吐く加奈子と沙希。その時、既に小梅はいなかった。悪魔から見えなくなった時点で松岡のことを二人に頼み、キマジエルの所へ向かっている。
「オジサーン、いるぅ〜?」
 小声で呼びかけながら木々の間を通り抜け……小梅は山林の中に横たえられたキマジエルを見つけて、駆け寄った。
 その傍らについていた小林が手を振ってそれを迎えた。苦虫を噛み潰した様な表情で天使の治療をした槙田──彼女は第三分隊の件で天使に恨みを持っている──は、既に狙撃を続ける杉下の元へと戻っている。
 回復の賜物か、重傷にも関わらずキマジエルの意識は戻っていた。良かった……と小梅は心底安堵する。
 鳥海山方面から飛来する天使の集団について、後方警戒に配置していた後輩たちから報告があったのはそんな時だった。
 小梅はうーんと悩みつつ、ダメ元でキマジエルに聞いてみた。──オジサンの仲間たちがここまで来たら、ボクたちには攻撃しないよう、言ってみてくれないかなぁ?
「それは無理だ。彼らにとっては撃退士も悪魔と同様に敵に過ぎない(注:時系列は約2年前)。そして、私も鳥海山に属する天使なのだ」
「……オジサンは生真面目だなぁ」
 何せキマジエルだからな、と真顔で返す中年天使。それがキマジエルの精一杯の冗談と気づいて、小梅は笑った。
「……じゃあ、そろそろ行くねぇ。みんな、まだ戦ってるから」
 小梅は水と発煙筒をキマジエルの傍らに置くと、使い方を教え、立ち上がった。
「天使たちが来たら、それで報せるといいよぉ。……またぁ会えたらいいなぁ。勿論、敵としてじゃなく、仲良しでね」


 全周へ『放出』されたエネルギー波に吹き飛ばされた撃退士たちが、それぞれ受け身を取って即座に体勢を立て直した。
 後方宙返りでもって着地し、追撃のエネルギー弾をサイドへ跳び避ける璃遠。走りながら、突撃する陽花の狼竜を飛び越え、衝撃波を撃ち放ち──反撃の奔流を藤堂の庇護の翼で守られながら、礼を言いつつ位置取りを変える。
 中距離から『バズーカ』をドカンドカンと発砲していたラフィルは、吹き飛ばされた前衛と入れ替わる様に前進。顔が触れ合いそうな距離まで肉薄した後、至近からウロボロスの瞳でギンッ! と悪魔の瞳を覗き込み……直後、悪魔からの反撃に対して脚部からアウルを噴射して後ろに躱し、そのままバズを撃ち放ちながら地を滑る様に高速離脱する……
 その頃には、悪魔クファルも『何かがおかしい』と感じ始めていた。──なぜか攻撃が当たらない。ダメージが防ぎ切れない。最初は容易に崩せていた包囲が中々崩せない──
 クッ、と奥歯を噛み締めて、クファルは闇の翼を展開した。今、この瞬間まで、彼は自分が飛べる事すら忘れていた。
 瞬間、チルルが放った氷砲が悪魔の頭上の空間を掠め飛んだ。そこに自分を飛ばせない意図があるのは確かだった。
「僕に飛ばれては困るんだ…… 背が低いと大変だねぇ?」
「ムカッ! あんただって言うほど高くはないでしょーが!?」
「それはそうだけど。よりチビの君に言われても、ねぇ……?」
「むっきー!」
 チルルとクファルが言葉を交わすごとに、剣戟もまた交差している。
 そこに雫も加わった。いや、チビ発言の流れ弾に腹を立てた訳では、決してない。
「おや、空に逃げるのですか? 同族殺しをしてまで力を奪っても、空を飛ばなきゃ、疲労している私たちすら相手にすることが出来ないと? ……これは奪った力どうこうよりも、元の貴方の性根が小物過ぎるのが原因ですかね?」
「……そう言えば、先の戦いでも幻覚を使って逃れてましたね。強くなったと言っても、身についた逃げ癖はどうしようもないようですね」
 雫の言葉に続けて、小声で──それでも悪魔にしっかり聞こえる様に呟いてみせるユウ。
「……まぁ、飛んだら飛んだで、私たちの良い的なんだけどね」
 昏きその呟きを耳にしたと同時に、クファルは後側方──2か所から同時に銃弾を浴びせられた。山の斜面の杉下と、まるで同じタイミングで横腹と背に浴びせられた十字砲火──そのもう一方の射手は、悪魔のすぐ側にいた。
 後衛にいたはずの、縁がいつの間にか前にいた。散弾銃を手に一切の気配を遮断し、激しい攻撃を繰り返す前衛のすぐ後ろに隠密し……ただずっとその機会を、確実に攻撃の命中する不意打ちの機を窺っていたのだ。
「今、撃った弾……『マーキング』弾って言うんだよ。命中した相手がたとえどこにいようと、射手には手に取る様に分かるようになる弾──たとえ飛んで逃げたとしても、私たちは君を逃がすつもりなんてないんだよ、絶対に!」
 感情の一切を排した、薄闇に光る翠色の瞳── 一見、冷徹なその瞳の奥に、形容しがたい熱い怒りの炎が揺れている。底冷えのする様な激しい縁の瞳に、クファルは反射的にエネルギー弾を放った。それを、入れ替わる様に縁の前に出た勇斗が『ニュートラライズ』で打ち払う。
 そんな勇斗をスクリーンにして、縁は既に気配を消していた。直前、放たれた散弾が悪魔の顔面を打ち据えた。
 悪魔は咄嗟に空へと逃れた。否、逃れようとした。
 それを為す前に、闇の翼を翻したユウに頭上を抑えられた。マズい、と身体を捻り、翼を翻してユウを振り切らんとするクファル。ユウはその眼下の悪魔に淡々と銃口を向け、修羅の如き破壊力を秘めた攻撃を──それと分からぬ程、無造作に発砲した。
 常より重い銃声が鳴り響き、銃口から発せられた衝撃波が同心円状に空気を震わす── その一撃は、悪魔の魔力の守りをただ強引に捩じ徹った。クファルの肉体を直接、殴打し、ただ一発、ただ一撃でもって悪魔を地面へ叩き落とす。
「っ! の……ぉっ!」 
 無様に地面を跳ねた悪魔は、エネルギーの全周放出で撃退士たちを押し戻した。そして、エネルギー波を撃ち捲り、巻き上がる砂塵をスクリーンとしてその場にいる皆の視界を奪った。
 そして、全力全開のエネルギーの奔流でもって、撃退士たちがいた辺りを薙ぎ払おうとした。
 しかし……
「回避! 奔流が来るわ!」
 夕姫の警告に、地面に身を投げる撃退士たち。放たれた奔流は、しかし、撃退士たちにかすりもせずに何もない空間を薙ぎ払って宙へと消えていく。
 逆に反撃の一撃が来た。ドスッ、と魔力の壁に突き立つ毒矢。砂塵の向こうから峰雪が放ったものだった。切っ先は魔力の壁が防げても、その矢に付与された蟲毒の力は抵抗・回復するまでの瞬間、悪魔の生命力を蝕み、奪い取る。
「ダメだよ。せっかく視界を遮ったのなら、僕らみたいに移動しないと。動かないなら煙越しでも、僕なら造作なく当てれるよ」
 忠告めいた峰雪の言葉に素直に従い、悪魔が慌てて場所を変える。
 陽花は耳元のレシーバーに指を当てると、親友・縁の言葉に従い、砂塵の一角に視線を向けた。
 それまで、自身と左右に展開した召喚獣とのいずれかで悪魔の背後をついて攻撃して来た陽花は、だが、自身の薙刀を地面に突き立て。その時、初めて、両手で2体の召喚獣に指示を出し、2体同時にその行動を制御する。
「私の目には何も見えない。けど、その先に悪魔はいる……! フェンリル! スレイプニル! 悪魔に対して、全力全開の一撃を!」
 陽花の命令に応じ、カッ! とその口を開ける馬竜と狼竜。悪魔がハッと気づいた瞬間、土煙に満ちた空間を貫いて、召喚獣たちが口中から放ったアウルの光条が悪魔を打ち据える。
 そんな悪魔の視界の端で、砂塵にユラリと人影が揺れた。悪魔は反射的にそちらへ力を放った。だが、それは夕姫が前方へと放った布槍が作った影だった。
 直後、布槍の影のすぐ横を駆け抜けて突っ込んで来る雫。不意を衝かれた悪魔に対応する暇はなかった。
 フッと息を吐きながら、踏み込み、雫が水平に構えた大剣の切っ先を悪魔に対して突き入れる。『風遁・韋駄天切り』──疾風すら切り裂くと言われる刹那の一撃が文字通り土煙をも切り裂いて。悪魔の魔力の鎧すら穿ってズブリと悪魔を貫いた。
 その攻撃を信じられずに「を……ッ!?」と息を吐く悪魔。感情が反転して怒りに変わり、反撃の力が振るわれた時には、雫は再び砂塵の奥へと消えていた。
「本当に、単調……」
 呟く雫の声。再び砂塵の帳に映る影── 悪魔は攻撃を躊躇した。再びフェイントである可能性が脳裏に浮かんでしまったのだ。
 人影は構わず突っ込んできた。それは夕姫本人だった。彼女は振り上げた銃床で悪魔の胸部を叩きつけ。その一見効果のない打撃の反動でもって自らの突進の勢いを殺し、射撃の体勢を整えた。
 クルリと悪魔の至近に突きつけられた銃口。そこに集まる『神輝掌』の光── 夕姫は引き金を引き、その光の力を接射で悪魔へと叩き込み。増幅された光の力が、悪魔の脇腹辺りの魔力をごっそりと奪い取る。
「これでどう!?」
 叫ぶ夕姫。だが、間近からレート差攻撃を喰らって尚、悪魔はまだ倒れない。
「いい加減、倒れなさい!」
「そちらだって…… 怪我人だらけだろうに……!」
 その時、舞い落ちる塵芥の向こうで、一際眩しい緑色の光が湧き起った。
 土煙の向こうから現れる、『怪我を回復し終えた』撃退士たち。その中心に立つのは、悪魔が脱落させたはずの瑞穂──
「なぜ……?」
 悪魔は呟いた。あの回復…… 最後の一回というのは嘘だったのか……?
「いえ。『アウルディバイド』で使用回数を回復させただけですわ。そうしてタイミングを見計らい、『起死回生』で気絶状態から復活した…… 後はすっかり油断した貴方に隠れて悠々と『トリスアギオン』を使っただけ……言いましたでしょう? 私に10秒も与えたことを後悔させる、と」
 再び高笑う瑞穂。このトリスアギオンによる回復1回は極めて大きかった。それは少なくとも相手の攻撃を1回は耐えられるということであり。即ち、撃退士たちが攻勢を行う機会を得たということでもあった。
「さあ、アルディエル。仕込みは全て済ませましたわ。……フィナーレを」
 高笑いから一転、典雅に少年へ道を譲る瑞穂。彼女に頷き、礼を言って……アルが静かな怒りを込めた瞳でクファルを見る。
 悪魔の表情が引きつった。彼は自分が追い詰められつつあるという事実を理解した。

「ふ、ふざけるなぁ!」
 クファルはありったけの魔力を叩きつけた。それをチルルが氷盾で受け弾く。
「受け……ッ!?」
「られるのよっ、あたいが本気を出せば!」
 カァン! とチルルが悪魔の一撃を弾き返す間に、側面へと回る明斗と雫。璃遠は藤堂らと共に彼らと悪魔を挟み込むように移動する。
「あなたにはラスボスより小物の方が似合っているんだよ! ここで終わらせる。全ての悪縁を!」
 陽花の叫びに応じるように突撃した馬竜と狼竜は、だが、悪魔の攻撃範囲に入る直前、急遽、その足を止める。
(フェイント!)
 その隙に側方から駆け寄って来た雫が、再度の『兜割り』で悪魔の頭部をぶん殴り。そこへ放たれる峰雪と縁の『破魔の射手』──+レートの破邪の光が、朦朧とする悪魔へ放たれた。ドッ! と矢を右肩に突き立てられ、仰け反るクファル。縁の弾丸は、奇しくもエピンダルと同じく悪魔の左目を撃ち貫く。
「逃がしゃしないよ、このキャラ被り野郎!」
 天狼牙突を手に駆けながら、変装(主に服とヅラ)を解くラファル。なんとラファルは彼女の姉といつの間にか入れ替わっていたのだ! 仲間が皆、気付いていたのは彼女には内緒の事。ちなみに、姉は貸していた狙撃銃を回収した後、ふんじばって山林の藪の中に放置してある(←非道
 ラフィルと青葉の韋駄天切りが、そして、チルルの氷刃が、容易く相手の魔力を貫き、防御を無視して背中へ抜ける。
(こんな…… こんなはずではァ……!)
 直後、悪魔は雄叫びと共に『放出』で彼らを吹き飛ばした。……まだだ。まだ終わらない。今の一撃で連中はまた回復行動に入るはず。その間に自分もまた回復して大勢を立て直して……
 だが、強大なエネルギーが放出される中、その場に『不動』の者がいた。彼──明斗は大地にアウルの根を張り、魔力の暴風の中、その猛威に耐えると、回復ではなく攻撃を優先。自身の周りにアウルで精製した聖鎖を展開すると、盾の下から横に振るって悪魔の脚を絡め捕った。
「今です……アルディエル君!」
 叫ぶ明斗の頬が切れる。応じて前進するアルの手に、『太陽の柱』の光が宿る。……アカBには更に上級の、より高威力の攻撃スキルがある。だが、今の自分にはこれが精一杯だ。
 だが、悪魔はその動きに対応していた。先手を取り、アルに向き直ってその攻撃に備えを完了させる。
 アルへと放たれるエネルギー波。それをユウが代わりに受けた。敢えてその一撃を喰らい続けながら、その流れに逆らう様に押し通り。アルの進むべき道を切り開きつつ、肌に避ける傷とそこから流れる血にも構わず、悪魔の額に突きつけた銃を正面から『曼荼羅』で──破滅的な一撃と共に発砲する……
「行くよ! 松岡教室年少チームの必殺連携!」
 だから、山林の斜面の中から放たれたその一撃は、完全に悪魔の予想外だった。麗華が召喚した馬竜に咥えられ、追加移動で加速した後、ブゥンとぶん投げられる小梅。空中を飛びながらその利き腕をグルグルと振り回し。小梅が着弾すると同時に悪魔の足元で自爆技が炸裂する。
 だが、その一撃にも悪魔は耐えた。しかし、年少組の連携もまだ終わってはいなかった。
 前に出たのは、なんと回復役の悠奈だった。……かつて、訓練で皆から教えてもらった事──アストラルヴァンガードは、ただ回復するだけが能じゃない──!
 雄叫びと共に悠奈が突っ込む。『レイジングアタック』──それはアストラルヴァンガードが初期に教わる本当に基礎的な技。だが、そこには紛うこと無き光の力が宿っている──!
 故にその一撃を無視できず、魔力で受け弾く悪魔。その隙にアルが前に出た。放たれるアルの太陽柱に、悪魔は見失っていた自身を取り戻し。幻覚で回避しようとしたところを、だが、勇斗の『シールドバッシュ』に妨害される……!
「アルくん、全てを込めて決着を!」
 夕姫の叫びと同時に、最後の一撃が叩き込まれた。


 致命傷を受けて尚、悪魔は逃げようとしていた。
 血塗れで地を這いながら、手を伸ばし…… その行く手に、ユウが足を置き、視線と銃口を悪魔へ向ける。
「どこに逃げるというのですか? 貴方に協力してくれる者も、守ってくれる者も、もうどこにもいないというのに」
 悪魔は暫し沈黙した。そして、仰臥して空を見上げた。
「なぜ……こんな……ことに……」
「……周りを駒にしか思っていないあなたには、分からないでしょうね」
 肩を竦めて、夕姫。一方、峰雪の声には多少の同情が含まれている。
「コントロール出来ない程の強大な力を手に入れて、それを試したくて仕方がなかったのは分かるけど…… その力に溺れてしまったね。これまでは足りない力を補う為に、頭を使って幻覚を活用してたのに」
「……正直、力が強いだけの存在よりも、幻覚を多用してくる方が手強かったんですがね」
 こちらは生徒の採点でもするかのように、淡々と雫が告げた。……実際、幻覚を使われていれば、『兜割り』も入らなかっただろう。そうすれば朦朧とすることもなく、あれだけの集中攻撃を受ける事だってなかったはずだ。
「2人ならば生き残れたやろうにな…… 力を求めて全てを切り捨てた瞬間に、あんさんの命脈は尽きたんや」
 兄弟や仲間を切り捨てたのがお前の敗因だ、と切って捨てるラファル。……ん? あれ? 確か……何かを忘れているような。
「クファル。力だけがキミの望みだったというなら、僕には間違っているとしか思えない。目指した高みへ至った時、共に生きる者がいなければ、誰がキミを認めてくれるっていうんだ……」
 共に生き、同じものを見て、似た様な価値観を持つ者たち── それを絆って言うんだ。切っても切れない関係なんだ。
「……最初から、一つであれば……」
 クファルはそれきり動かなくなった。……璃遠は肩を落とした。結局、最後まで分かり合えなかった。
「強くなりたい──その気持ちは分かるよ。私も同じだったから。……でも、それは自分の為じゃなく、大切なものを守りたかったからだ。……君は自分の為だけに、他の全てを踏み躙った。だから…… 私は君を、絶対に許さない」
 亡骸を見下ろす、縁の言葉。陽花はその傍らに立ち、無言でポンポンと頭を撫でた。
「せめて最後は美しくお逝きなさいな」
 瑞穂が亡骸の頭上にアウルの星を撒いた。
 それはキラキラと舞い落ちながら……儚げに明滅して消えていった。

「終わったよ……何もかも」
 天を見上げて、呟くアル。その胸中に去来するのは、優しき義姉か、天敵の義兄か。
 その手を無言で悠奈が握り。小梅がそんな二人ごとギュッと抱きしめた。
「アルちゃんも、悠奈ちゃんも…… 麗華ちゃんも、沙希ちゃんも、加奈子ちゃんも、みんなみんな大好きだよぉ!」
 そう言って小梅が泣き出すと、アルと悠奈の目にも涙が光った。その輪に麗華や沙希、加奈子も加わり、暫し号泣し続けて……

「天使の集団が来るって。どうする? 突撃する?」
「突撃しちゃダメ。敵とみなされたらダメよ」
 後輩たちからの連絡に、張り切るチルルに苦笑の夕姫。傷ついた皆の回復を終えた明斗が、急いで撤収しましょうと松岡に肩を貸しつつ立ち上がる。
「皆、帰ろう。私、お腹ペコペコだよぉ!」
 ぐ〜、と鳴るお腹を抱えて、屈託なく、縁。陽花と瑞穂は笑った。いつもの縁だ、と安心しながら。

「帰ったら、妹に美味しいコーヒーでも淹れてもらおう……」
 最後に戦場となった谷を振り返り、璃遠は呟いた。
 なんだか無性に妹の顔が見たくて仕方がなかった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:13人

ラッキースケベの現人神・
桜井・L・瑞穂(ja0027)

卒業 女 アストラルヴァンガード
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
戦ぐ風、穿破の旋・
永連 璃遠(ja2142)

卒業 男 阿修羅
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅