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マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
形態:
参加人数:12人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/07/31


みんなの思い出



オープニング

 榊勇斗は逃げていた。
 休む間もなく逃げていた。
 悪魔クファルに浚われた妹・悠奈らを救う為。取引条件たる悪魔ラフィルの脱走を手引きして。かつての恩師・松岡や戦友たちを追手に掛けられ、命からがら逃げていた。
 実務教師・松岡の追跡は厳しかった。市街地から山林部に入ると実力行使も辞さなくなった。
 親友の恩田敬一は勇斗たちを逃がすために囮となって捕まった。
 逆に、妹の親友・早河沙希と恩田麗華の2人が、悠奈を助け出す為に追手からこちらに寝返った。
 幾度となく追いつかれ、何度も刃を交えながら。勇斗たちは秋田の山中を西へ、北へと走り続けた。
 仲間を裏切った勇斗たちに、最早、帰る場所などなかった。
 それでも、悠奈たちを助けたかった。
 その為には、かつての仲間たちの追跡を払い、悪魔クファルに双子の兄ラフィルを送り届け、人質交換を成し遂げなければならない── 少なくとも、同行するラフィルにはそう思わせておかねばならない。

「待ち伏せを、仕掛けよう」
 嶺の上の斜面の陰で小休止を宣言して── 勇斗は荒い息を整えながら、同行する仲間たちにそう提案をした。
「ちょ、本気ですか、お兄さん!? 追手はこちらの何倍も数が多いんですよ! 勝てるわけないじゃないですか!」
「いえ──」
 驚く沙希を目線で制して、麗華が「それもアリですね」と首肯した。
 追手が何度もこちらに追いつくことが出来ているのは、こちらが逃げに徹しているからだ。反撃を考慮に入れずに済むため、追手は追跡に専念できている。ならばこの辺りで一度、こちらから反撃を行って、追手の頭に伏撃の可能性を刷り込んでおくのもいい。たった一度の奇襲でも、追手はそれ以降、待ち伏せを警戒しなければいけなくなる。それだけで追跡の足は大幅に鈍ることになるだろう。
「でも、それだと……」
 ガチで松岡先生たちと──仲間たちと刃を交えることになる。普段、元気印の沙希がしょんぼりと項垂れる。
「松岡先生たちはまだどこかで、私たちが自分たちを本気で攻撃してくるはずがないと思っているのですわ。こちらが『本気』であることを見せつけておく必要がありますわ」
 松岡たちにも。そして──目の前にいるこの悪魔にも。
 勇斗らが悪魔ラフィルの脱走を手引きしたのは芝居である。交渉条件を超えた数の撃退士を域内に送り込む為の。
 ラフィルにこちらの『裏切り』を信じ込ませる為に幾度か追手と戦闘はしたものの、それを完全に信じ込むほど悪魔も純ではないだろう。だから、ここらでもう一度、本気の芝居を打つ。悠奈たちを救い出すため、本気で仲間を裏切ったのだと──本気でクファルとの取引に応じるつもりがあるのだと、その立場を明確に、悪魔に『信じ込ませる』為に。
「襲撃は一度きりだ。追手の足が鈍ったら、後は全力で目的地にまで離脱する」
 勇斗が言うと、沙希は肩を落として了承しながら…… 悪魔から見えない角度で、小さく舌を出して見せた。勇斗に反駁してみせたのも、落ち込んでみせたのも全部、悪魔に対する芝居であった。
 一方、恭しく頷いてみせた麗華は…… 逆に、憂いを帯びた瞳で勇斗のことを見返した。……最悪の状況になった場合、勇斗が『本気で』悪魔との取引に応じる可能性があることに彼女は気づいていた。
 心配いらないという風に麗華に微笑を返して、勇斗は足跡等の痕跡を消すように皆へと伝えた。
 そうして、まったく疲れた様子も見せず、ニヤニヤとした笑みを浮かべてこちらの会話を聞いていたラフィルに向き直り、表情のない顔を悪魔に向けた。
「聞いての通りだ。待ち伏せによる襲撃後、我々は一気に目的地へと移動する。いい加減、どこに向かうのかを言ってくれ」
「……はてさて。どうしたものかねぇ。弟との会合地点の情報は、僕が持つ唯一の安全保障だしねぇ? 捕縛時に片腕を斬られた僕にはもう、君ら全員を相手にしては抵抗することもできないし」
 しおらしく、だが、どこまでも不遜に、ラフィル。対する勇斗の表情は動かない。挑発に乗らず、どこか焦った様な、切羽詰まった声音で言葉を重ねる。
「ならば、時間的な距離だけでも教えてくれ。それができなければ、体力の配分もできない。いい加減、こちらも限界が近いからな。捕まってまた牢獄に逆戻りとかそんな事態になったら、お前も、お前の弟も、俺も、俺の妹たちも、誰も幸せになれない」
 勇斗の言葉に、ラフィルはふむ、と考える素振りを見せて…… 常よりどこか真剣な表情で「いいだろう」と頷いた。
「戦闘後に、小休止を挟みながら夜通し歩き続けたとすれば、明日の早朝にはランデブーポイントに辿り着ける、と思う」


 山林の中を、捜索隊の先頭に立って歩いていた学生撃退士の一人が足を止め、横に伸ばした肘から上げた拳をギュッと軽く握って見せた。
 瞬間、隊列全体が動きを止め、周囲へ警戒の視線を飛ばした。
「どうした?」
「足跡が消えています」
 光信機で状況を確認すると、松岡は自ら先頭まで歩を進めた。学生が指さす先の地面を見やり、確かにな、と言葉を返す。
 勇斗たちが市街地にいた時は携帯電話の電波から位置情報を割り出していた松岡たちだったが、山林に入って電波が途絶えてからは、勇斗たちが残したこの足跡を直接辿って追っていた。追われる勇斗たちには足跡を消す暇がなかった。そう『見える』様に松岡たちは追い込みをかけていた。
(にもかかわらず、この期に及んで足跡を消したか)
 消さざるを得なくなるような事態に陥った? まさか悪魔にバレたとか? そうでなくとも、追跡手段を消すよう悪魔に指示され、断る理由を見つけられなかったとか。
(いや……)
 それでも、勇斗たちには本来、足跡を消すような時間的余裕はないのだ。その作業に時間を費やしたなら、その分、彼我の距離は縮まる。つまり、連中はこの近くにいる。なぜ、その様な『危険』を冒す?
 松岡は地面につけた膝を上げ、周囲の地形を確認した。──前方は山間の谷の底。小川の流れに沿って、大きく右にカーブしている。山の斜面は植生が濃いのに対して、谷底、川沿いには身が隠せるものはない。
 待ち伏せに適した地形── なるほど、と松岡は呟いた。かつて放課後の『松岡教室』で勇斗に教えた通りの場所だ。
 松岡は、生徒たちの中から特に『事情に詳しい』生徒らを集めると、松岡が読み取った勇斗の意図を彼らに伝えた。
「この先で榊が待ち伏せをしている。ここいらでいったん、俺たちから距離を取ろうって腹だ。……つまり、悪魔の目的地はそう遠くはない」
 松岡の言葉に、学生たちに緊張が走る。話を聞かされた敬一は、勇斗らしい、と思った。ならば、自分もまた捕虜役として、役目を果たしてみせねばなるまい。
「榊たちはここで足跡を消した。本当に不意打ちをするのなら、谷底まで足跡を残しておいた方がいいにもかかわらず、だ。……ならばこれは榊が俺たちに向けて残したサイン、だ。これからこの先で奇襲を仕掛けるから、自分たちの芝居に付き合ってくれ、っていうな」
 本気の芝居だ。勇斗はここで目的地に至る流れを決定づけようとしている。
「悪魔に対して『表向き』追手を完全に撒いてみせるつもりなんだろう。派手に負けて見せねばならんな」
「……ケチャップでも仕込みますか?」
 敬一が混ぜっ返すと、松岡は本気で人の悪い笑みを浮かべた。

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リプレイ本文

 待ち伏せを、仕掛けよう──
 榊勇斗が真剣な表情で皆にそう告げた時。クフィル C ユーティライネン(jb4962)は一瞬、きょとんとした顔をして…… やがてその内容を理解すると、にんまりと笑みを浮かべた。
「あっはっは! いやー、そう来たか。あんたエンターテイナーの才能あるわー。いい加減、あの悪魔をイジるのにも、鬼ごっこするのにも飽きてきたところやしなー!」
 勇斗の背中をバンバンと叩きながら、まるでおもちゃをあてがわれた子供みたいにはしゃいで見せるクフィル。(ちなみに一児の母である)
「え、ちょ、ちょっと、勇斗くん。本当にそれでいいの!?」
 その意図を掴みかねて、彩咲・陽花(jb1871)が慌てて止めに入る。だが……
「ランデブーポイントの真偽がどうあれ、そこで何かが起こる可能性は高いように思えます。少しでも体力を温存しておく必要があることを考えると、確かにこの辺りで追跡班を完全に撒くのが最善かもしれませんね」
 思案気な表情で、ユウ(jb5639)もまた頷いた。その声に迷いや躊躇はなかった。勇斗が本気で決断したなら、その判断に従うだけだ。
「やっぱ、敵に打撃を与えるんなら、指揮官は殺っておくべきやろな!」
「ええっ!?」
「大将は、松岡センセか…… うん、まぁ、いいんじゃない?」
「えええっ!?」
 サラッと嘘か本気か分からぬことを言いだしたクフィルの言葉に、雪室 チルル(ja0220)がほんの少し考える素振りを見せた後、いつも通りの表情で不穏当なその提案を受け入れる。
「ちょ、皆、本気なの!? チルルちゃんとか、松岡先生と仲が良かったはずなのに!」
 狼狽える陽花をよそに、頭からすっぽりと外套を被り、それまで一言も発せずに項垂れていた桜庭愛(jc1977)がいきなり立ち上がった。賛同の言葉を期待する陽花のまなざしを無視するように、無言のまま斜面を下り始める。
「……歩哨に立つ。疲れはない。普段から走り込んでいるから」
 外套の奥からそう勇斗に目配せをして出かける愛。勇斗はその背に謝意を伝える。
「いつもあんな感じの娘なのかな……?」
 その答えは否であった。
 普段の彼女はその笑顔で周囲を和ませる快活な娘だった。だが、今は『芝居』(ショー)が行われると聞いて、『役』になりきっている。
 ──今の自分は、汚名を甘受してでも妹らを助けんとする勇斗の境遇に義憤し、協力している義侠の虎。……獣だ。お前は獣になるのだ。何も思考せず、何も感じず、ただ共に逃げる友の為、追撃して来るかつての仲間たちを本気で大地へ打ち倒せ……!
「本気……なのかな、勇斗くん。本気で松岡先生たちを……」
 足跡を消す作業に入った勇斗を心配そうに見やりながら、陽花はユウに呟いた。
「大丈夫です。勇斗さんにそのつもりはありません」
 微笑を浮かべ、ユウは答えた。
 この位置で足跡を消すという事がその表れ。勇斗は松岡たちが己の意図に──『芝居』に気付いてくれると信じている。
「ならば、私たちも彼らを信じて、全力で打ち倒しにかかればいい。……それよりも、この先、ラフィルと勇斗さんを二人きりにする事の方が危険です」
「……わかってる。戦闘中は私がつきっきりで悪魔を見張っているんだよ。勇斗くんには…… そうだね、ラフィルから得た情報を追撃班の誰かに伝えてもらうことにしよう。それを口実に悪魔から離れてもらうよ」
 頷き合い、足跡消しの作業に戻る2人。
 陽花は、ふと遠ざかった日常に思いを馳せつつ、昏くなり始めた空を見上げた。
(……そう言えば、追撃隊の中に縁はいなかったなぁ。事情も説明できずに飛び出してきちゃったけど…… 今頃、どこで何をしているのかなぁ)


 その葛城 縁(jb1826)はその頃、鳥海山北側の山林で── 月影 夕姫(jb1569)と白野 小梅(jb4012)、アルディエルと共に、中年天使と対峙していた。
「……あー、えー…… んーっと…… うん。ど、どうしてこうなった、のかな……?」
 思わぬ遭遇にピクリとも身体を動かすこともできぬまま。ただ顔面に汗をダラダラ垂れ流しながら困惑の声を上げる縁。
 ──完全に想定外の事態であった。追跡され、捕まってしまった小梅は中年天使に後ろ襟を摘み上げられ、まるで仔猫の様にぶらーんとしながらばつの悪そうな顔でアルたちを見ている。
「……ごめんなさぁ〜い」
「うぇ!? いや、全然小梅ちゃんの責任じゃないよ!」
 この状況は、こんな筋書きを思いついた意地の悪い運命とか、そう言った性質の悪い『何か』の所為だから! だから、誰かの所為でこうなったとか、そういった類の話じゃないよ、うん(ぇ
「……またややこしいことになってきたわね」
 夕姫が誰にともなく、半眼でそう愚痴を零す。
 だが、そう言ってばかりもいられない。彼女は深く溜息を吐いて気持ちを切り替えると、その内心をおくびにも出さずに改めて中年天使に向き直った。
「色々と言いたいことはあるけど…… まず、なんであなたはここにいるのかしら? 目的はなに?」
「この近くに悪魔がいると聞いた。それがファサエルゲート陥落に関わったという2体の悪魔であれば、我らはそれを討たねばならない。そして、可能であれば捕らえて聴取し、哨戒網の穴を塞がねばならない」
 そう答えた中年天使は、そこで初めて、撃退士たちと共に立つ少年天使の正体に気づき…… その視線を遮る様に、夕姫がアルを背後に庇った。……天使なら、やはり堕天使であるアルに対して良い感情は持たぬだろう。そして、アルの方はなんというか…… 天使との交渉事に加えるにはあまりにも『素直』過ぎる。
「えーっと、んーっと…… うん、とにかくこの状況をどうにかしないとだよね! まずは座って話でもしようか!」
 わたわたと慌てながら、縁が切り株を椅子に見立てて、中年天使にそれを勧めた。
「腰を下ろす必要が……?」
「え? これからお話合いをするのに、武装したまま立ち話っていうのは……」
「む……」
 そう言われた中年天使は、手に小梅をぶら上げたまま素直に切り株に座った。
 夕姫と縁はそこから少し離れた場所で天使に背を向けしゃがみ込み、小声で手早く方針を纏め出す。
「……情に訴えたとしても説得は無理よね。天使からすれば人間の人質なんて関係も関心もないし……」
「うん。下手に介入されて勇斗君たちの邪魔をされるのは御免だよ」
 なにやらこそこそ話し始めた2人を訝しみ、声を掛けようとする中年天使。その両の頬を、ぶら下げられたままの小梅が「めー!」と両手でぶにゅりと挟む。
「ダメだよ、おとなしくちゃんと待ってなきゃ。今は2人の相談タイムなんだからぁ」
 ぶら下げられたまま(そして天使の両頬を両手で挟み込んだまま)見上げる小梅の言葉に、中年天使はむ…… と唸った。切り株にちょこんと座ったまま律儀に相談を待つ中年天使──その首に小梅が両手でぶら〜んとぶら下がり、ブランコの如く揺れながら絶えず話しかけて時間を潰す……
「『天使の乱入』なんて事態は流石に予想外だろうから、悪魔に対する『ジョーカー』として使うにはもってこいなんだけど…… こちらの望むタイミングでそれを切れるという保証はないのよね…… 利用価値があると思わせられれば、こちらの思惑で誘導できる……かも。たとえば、私たちを使えば悪魔たちを炙り出せる……とか」
「可能な限り、こちらの都合の良いように動いてもらえるように…… うん。今の状況では、それが私たちの最善…… かな?」
 相談を終えて頷き合うと、夕姫と縁は改めて天使に向き直った。気づいた小梅が邪魔をせぬよう、天使の前から脇へと退く。
「まずはこちらの状況を伝えるよ。……私たちは、今、厄介極まりない悪魔の行方を追っているんだよ」
 真剣な表情で、まず縁が交渉の口火を切った。……『ポーカーフェイス』で涼し気な表情を必死に取り繕っているものの、その内心では滂沱の如き汗がダーッ! と流れ続けている。
 縁が夕姫と話し合って決めたことは、嘘はつかないということだった。ただし、都合が悪い事実──悪魔に取られた人質や、解放交渉のことは伏せる。悪魔の存在と能力については、推測も含めて全て伝えてしまっても構わない。いや、むしろ、その脅威を正確に伝えた方が、『工作』が上手くいく公算は高くなる。
「『トラウマ使い』と『幻覚使い』── あまりに厄介な能力なので、こちらの都合の良い場所に誘い出す作戦を実施中なの。この辺りにもたくさんの撃退士たちが展開している。私たちも合流して悪魔に当たる予定よ」
 しれっと夕姫が言葉を挟むと、天使の頬がピクリと動いた。──こんな所で戦闘なんかおっぱじめたら、すぐに味方が飛んでくるわよ── 夕姫はその可能性を示唆し、天使の意識に刷り込んだのだ。
 嘘はついていない。この辺りに味方が展開しているのは事実だった。ただ、どこにいるのかは分からないし、戦闘になっても到底間に合わない距離ではあるが……
「『トラウマ使い』と『幻覚使い』……? 待て。まさか悪魔は……」
「そうだよぉ! 悪魔は2匹いるのぉ♪」
 にこにこと笑いながら、小梅が天使へ『教えてあげた』。
 こちらの精神・感覚に対する、悪魔の強力な作用能力。相手の想定する戦場で相見えれば、たちまち利用されてしまうということ。自分たちは伏兵として、完全に相手の『想定外』として行動する必要があるということ。……そして、絶対に取り逃がすわけにはいかない、ということ。
 縁は続ける。相手の土俵で戦うには、クファルの幻覚能力は強力過ぎる。相手に地の利のない今。ここであいつは討ち果たす。
「わかるでしょ? あの能力を相手にするには、不意打ちで一気に決めるしかないって。というわけで、今はあなたたちに構ってられないのよ」
「あ。なんなら、今、ボクたちの仲間がもう1匹の悪魔を釣り出し中だからぁ、出てきたらオジサンがパッと行ってバシーと倒しちゃってもいいよ? ボクたちは悪魔がいなくなってハッピーだしぃ、オジサンは悪魔倒してお手柄ハッピー。誰も損しないよぉ」
 夕姫と小梅の言葉に、天使は沈黙をもって応えた。縁は心に滝汗を流しながら、ジッと悪魔の返答を待つ。
「だからねぇ、もう1匹の悪魔がきちんと出て来るまでぇ、オジサンは待っててくれないかなぁ? 天使たちまでたくさん来たら、悪魔はきっと隠れちゃう」
 両手を組み、うるうるとした瞳で見上げてお願いをする小梅。
 中年天使は答えない。
 夕姫と縁はチラと目配せをした。

 先程も言った通り、勇斗らの交渉の邪魔はさせない。
 もし、無理にでも介入してくるというなら、その時は……


「奇襲、ですか? 仕掛けてきてくれるなら、受けて立とう。僕たちとしてもそちらの方がやり易い」
 松岡から勇斗の意図するところを聞かされた永連 璃遠(ja2142)は、珍しく好戦的な表情で自身の拳を手の平に打ち付けた。
 黒井 明斗(jb0525)もまた後輩撃退士たちを呼び集め、襲撃に対応するべく隊の再編成に取り掛かった。隊を2つに分け、盾持ちを中心に防御力の高い者を前衛として選抜しつつ、足の速い者たちは『後続部隊』として戦場外へと留め置き、決して戦闘には加わらないよう指示を出す。
「……おいおい、ちゃんと負けてやるんだろうな?」
「勿論。必要があればいくらでも負けてみせますよ。……ただし、勇斗がしっかりと妹を助けて戻って来ることが前提ですが」
 眼鏡のレンズに白く光を反射させつつ、明斗が松岡に答える。──もし、万が一、勇斗が本気で悪魔と取引することにしたとしても、悪魔を逃がすわけにはいかない。勇斗が本気でこちらの戦力を磨り潰しに来る可能性に備え、半分は戦力を残しておく。
「前回は追跡する演技で、今回は負ける演技ですか…… 大丈夫です! 今度も上手くやってみせますっ!」
 川澄文歌(jb7507)が胸の前でその両手をグッと握り、溢れ出るやる気を態度で表明した。……明斗の懸念には気づいていないようだった。或いは、敢えて口には出さないだけかもしれないが。
「悪魔を騙すための演技とは言え、撃退士同士、全力で戦うってのも嫌なものだよねぇ…… でも、それも捕まった子たちを救出する為だし…… 追いかけっこも、ここが正念場、だね」
 中年撃退士・狩野 峰雪(ja0345)が、皆の想いを代弁するように、深く、大きな溜息を吐いた。……撃退士だって生身の人間だ。仲間同士で殴り合えば、身体だって、心だって、痛みを感じるし、血も流す。
「今後はもう二度と、こんな戦いはしたくはないねぇ……」
 頭を振ってしみじみと呟きながら…… ふと何かに気づいたように、峰雪は『大人』の表情で顔を上げる。
「……あ。でも、そんな苦悩とかも表現してみせた方が、『芝居』としてはリアルになるかな?」
 まるで業界人の様なその物言いに、文歌はプッと吹き出し、笑った。
「……あ、そうだ! 私もリアルな演出方法、ちょっと思いついちゃいました♪」

 再編を終え、前進を再開した追跡班が、山間を川沿いに進軍する。
「相手はどこから来るか分かりません。警戒は怠らないように」
 明斗の訓示にコクリと頷き、互いに死角をカバーしながら、緊張した面持ちで撃退士たちが歩を進める。
 聞こえて来るのは互いの吐息と、装具が鳴る音と、小川のせせらぎ── 山の端に陽の掛かった西側の斜面は逆光に黒く陰り。前方に見えるのは眩し過ぎる斜光と影と。真正面の谷底に立つ、外套を纏った一人の少女──
「は……?」
 それは誰にとっても予想外の出来事だった。奇襲を念頭に進んできた追跡班の皆は、堂々と姿を晒したその人影に、一瞬、状況を忘れた。
 瞬間、西の斜面の影の中から、オオカミの遠吠えが響いた。召喚士・彩咲陽花の狼竜──! 脳裏にその存在が浮かんだ瞬間、追跡班の皆の注意が西の斜面に集中する。
「……ここで負けるわけにはいかないからね。全力で行かせてもらうよ……フェンリルが!」
 主の言葉に応え、斜面を駆け下り始める狼竜。同時に、夕闇より濃い昏き翼を展開したユウが闇中に眼光を曳きながら、暗い山影を背負って溶けるように宙を飛ぶ。
 同時に、正面に立っていた謎の人影が、無造作に前へと駆け出した。西側斜面からの襲撃に注意を逸らされていた追跡班のポイントマンは、一瞬、それに気づくのが遅れた。──リングインするレスラーの様に、外套をバッ! と投げ捨てる人影。その下から現れたのは、胸元に鮮やかな白いラインの入った青いチューブトップのリングコスチューム── 長い髪を風に流したその人影──愛が、まるで体操選手の様な連続転回からそのポイントマンの首を両足でがっしりと挟み込み。身体を捻り込むようにしながら、相手の後頭部を地面へ沈める。
「ハリケーン・ラナ…… いや、フランケンシュタイナーだと!?」
「奇襲!? まさか、あちらから攻撃を仕掛けてくるなんて!」
 メキシコ帰り(何の)とも噂された松岡が叫ぶ中、アイドルとして培ったよく通る声で文歌が驚きの声を上げる。
 そこへ駆け下りて来た狼竜が斜面をを蹴り、盾の壁を飛び越えてそのまま敵中へと踊り込んだ。いきなり隊列の内側に入り込まれて混乱する追跡班。陽花はそんな後輩たちの一人を狼竜に甘噛みさせて投げ飛ばすと、以降は攻撃を控えさせ、敵陣を切り裂くように走り回らせ、相手を混乱させ続けることに集中させた。
「ガンバだよ、フェンリル! 私と勇斗くん(と他数名)の逃避行の為に! 敵陣を切り裂き、包囲を抜けて! そう、そこ! もっかい再突入! ほらほら、そこで足を止めない! 私はここで応援してるから!」
 ガッツだ、ゴー! と拳を突き上げて見せながら。その実、陽花は一寸も気を抜かない。
 彼女の傍らには、他人事で撃退士たちの諍いを楽む悪魔ラフィル。この期に及んで仕掛けてはこないと思うが…… 万一の場合は、彼女が悪魔に対応せねばならぬ。

 混乱する追跡班のの様子を上空から観察していたユウは、その隊列が完全に崩れ去るのを確認した後、音もなく降下を開始した。斜面に沿うように、地上から見て影の中に溶け込むように…… 風を切って滑降して来たユウが敵隊列を飛び越え、目標へと迫る。その目標──教師松岡は、味方の立て直しに集中していてその接近に気づかない。ユウはスッと息を吸うとその掌底を弓の様に引き…… 接近と同時に突き出しされたその一撃は、直前、教師の背を庇う様に横から飛び出してきた文歌の身体を直撃した。
「川澄ぃー!」
「ぐふぅ……(いけない! アイドルがぐふぅなんて言ってはいけないわ!) ゆ、油断していました……(二重の意味で) ユウさん、つ、つよいです……ガクリ」
 庇った松岡に抱え起こされながら、文歌はたおやかに伸ばした手をはたりと落とし、カクリと首を脱力させる。
 上空をフライパスしながらその『気絶した演技』(いや、実際、気絶の寸前までいってはいたのだが)を見たユウは、その瞬間に確信を得た。
 ──追跡班の皆は、こちらの意図に気づいている── ユウが地上の勇斗にその意思を伝えると、了解したと言う様に勇斗もまた頷いた。──皆がこちらの意図に気付いてくれたのなら。自分たちもまた本気で戦う様子を悪魔に見せられる。
 勇斗が傍らに伏せた女生徒の肩を叩く。その女生徒──チルルは頷きを返すと、まるで地面が爆発したかの様な勢いで、被っていた土や木の葉を布ごと頭上へ投げ上げた。
「本命、突撃〜!」
 刺突大剣をしゃらりと抜き放ち、陽の照り付ける『東側の斜面』の窪地の中から飛び出すチルル。すぐ横に双剣を手にした勇斗が続き…… その向かう先、敵の隊列へ向けて、上空からユウが『オンスロート』──影の乱刃を突撃支援に撃ち下ろす。
「総員、防御姿勢! 松岡先生は下がってください。指揮官にこんな所で倒れられては困ります!」
 周囲の学生たちに指示を飛ばしながら、明斗が2人を迎え撃つべく自ら前に出る。
 学生たちに守られつつ、後方へと引きずられていく松岡。そんな中、先程のオンスロートで負傷したのか、こめかみに一筋の血を流し、膝をついた峰雪がその場に残り、悪態を吐きながら抜き放った自動拳銃を勇斗に構えて迎撃の銃火を浴びせ始める。
 その銃弾を打ち弾きつつ、怯まずに突っ込んで来る勇斗。それを見た峰雪は内心でニヤリと笑った。──今、撃った弾は追跡用の『マーキング』。それを勇斗は避けずに受けた。……よかった。彼はまだ僕たちを裏切ってはいない。できればラフィルにも『マーキング』しておきたかったところだったが、さすがに戦闘には出て来ないか……
「お相手しましょう、先輩方!」
 一方、明斗は自分に向かって一直線に向かって来るチルルを見据えながら、白銀の槍を構えて待ち受ける。
 チルルと勇斗── 攻め手と守り手の役割分担がしっかりとしたコンビは手強い……いや、厄介だ。流石にあの2人相手はキツいか、と冷や汗を流す明斗の傍らに。何も言わずとも璃遠が並び立って、連携の態勢に入る。
 視線を合わせ、頷き合う明斗と璃遠。チルルと勇斗が飛び出してから、時間にしてここまで僅か数秒── 隊列東側で4人の撃退士たちが激突する。
「行くわよ、勇斗! 相手が対応してくる前に、一気に乱戦へと持ち込む!」
「行かせませんよ!」
 盾役たる明斗へ突っ込むチルルと、それを真正面から受け止める明斗。一方、璃遠は突っ込んでくる勇斗を跳び躱しつつ、抜刀・閃破によるアウトレンジ、動き回りながらの一撃離脱で対抗する。
(こっちも一人くらいは本気で倒すつもりでいかないと…… そっちもやり辛そうだし、ねっ!)
 後退の連続から一転、逆撃の前進。不意打ち気味に突き出した璃遠の直剣に勇斗は咄嗟に対応できない。その剣先を防具に当たるに任せ、逆に肉薄を図る勇斗。距離を取る璃遠を追う様に振るわれた双剣の右を、峰雪が自動拳銃の膝射でもって当て逸らす。
 一方、明斗は、チルルの速度と質量の乗った刺突大剣による一撃を、緊急展開した漆黒の盾でどうにか受け止めていた。盾表面に舞い散る金属片と火花と砕氷── その盾をドッと蹴って明斗を後ろに押し込み、間髪入れずに距離を詰め。一歩ずつ前へと押し込みながらチルルがラッシュを突き入れる。
 その激しい連撃を、明斗は守勢に回って受け凌いだ。防御に徹しているというのにそれでも抜けて来る剣先が時折、身体を掠め…… 生じた傷を幾つか纏めて回復しつつ、明斗はじっと機会を待つ。
 そうして猛攻の隙間に見出した隙を逃さず、明斗は反撃に出た。チルルの動きを『予測』して、合わせるように槍の切っ先を置いておく。『女の子』ということもあって、顔や身体は避けておいた。腕を狙い、武器を落としさえすればそれでいい。
 その穂先の動きにチルルは驚きに目を見開き…… 構わず剣先を突き入れた。
 槍の穂先がチルルの腕を裂き。剣の切っ先が明斗の盾を貫く。
 互いにガシン、と身体をぶつけ合い…… 負傷した箇所を手で押さえつつ、2人はいったん、距離を取った。
「この私を相手に手加減なんて、余裕があるわね、いいんちょ!」
「だから、僕は委員長ではないと……」
 そのやり取りの間に、明斗の身体から傷が消える。チルルは不敵に笑うと、再び休むことなき攻勢へと転じた。


「前衛が戦列を回復した…… 皆、前線への支援射撃を行うよ」
「させません。皆の邪魔は……!」
 周囲の銃手をに声を掛け、銃列を纏め上げようとしていた峰雪に気づいて。上空を旋回して来たユウがそれを蹴散らすべく突っ込んできた。
 迎撃を指示し、自らも対空射撃を行う峰雪。互いに同じ型式の自動拳銃を撃ち合う度に、轟雷の如き銃声が山間の谷に響き渡る。
 激しい対空砲火の最中を、幾発の銃弾を浴びながらユウは上空を突っ切った。
 彼女に撃ち下ろされた弾丸は、発砲されるたびに後輩撃退士たちを地面に打ち倒していた。運よく攻撃を喰らわなかった峰雪が奥歯をかみしめ、飛び去るユウの背に送り狼の銃弾を立て続けに撃ち放つ……

「行き当たりばったりで自分の進む道を選んでいませんか!? その時々の感情で動いても上手くいくとは……っ!」
 攻勢を強める勇斗に対して守勢に追いやられた璃遠が、剣を切り結びながら声を発する。
 勇斗は勢いを弱めない。弱めず、淡々と言葉を紡ぐ。
「俺は悠奈を助け出す。それ以上に優先すべき事などなにもない」
「……そこまで言うなら、もう何も言いません。覚悟してください!」
 どっしりと押し込む勇斗と、その周りを跳ぶ様に切り結ぶ璃遠との戦いは、第三者の介入によって一気にそのバランスを崩した。
「勇斗くんを痛めつける人は、この私が許さないんだよ! フェンリル、お返ししちゃうんだよー!」
 それまで追跡班を混乱させることに専従してきた狼竜が、グルルと唸り声を上げながら2人を見やる。咆哮と共に背後から襲い掛かってきたそれは、両の鉤爪でもって璃遠の背を強かに切り裂いた。
 力尽き、横臥する璃遠。それを見下ろし、済まない、と苦悶の表情で走り去る勇斗。
 ……気分を出してはいるが、両者とも芝居である。
(あまり戦いが長引いてしまっても、逃走組の疲労が溜まってしまうからね)
 気絶したふりをしながら、璃遠がそうすっとぼける。

(勇斗さん、勇斗さん! あれから何か、私たちに伝えておくべき情報とかありますか?)
 開戦初頭に戦線離脱をしていたはずの文歌が、近づいてきた勇斗に向かって地面からそう声を掛けた。
 彼女は気絶したフリをしながらその場に留まり、『リジェネレーション』で回復しつつ、この機会を待っていたのだ。
「この後、目的地に向かう。時間的距離にして明朝到着予定」
 呟き、文歌を飛び越えて駆け抜けていく勇斗。その後、じりじり追い込まれた態で、峰雪が文歌の倒れている場所まで退いてくる。
「もう一押し、かな? フェンリル、『ボルケーノ』で一気にやっちゃって!」
 命令に応じ、咆哮した口中から前方へ向け爆発的エネルギーを放つ狼竜。立て直しかけていた盾の壁がその一撃に巻き込まれ…… 櫛の歯が欠けたように戦列を崩壊させる。
「……頃合いじゃない?」
「……頃合いですね」
 冒頭の大技以降、一転、軽快なステップで彼我の距離を出し入れしながら地味にローキックを浴びせ続けて来た愛の横で。激しく切り結んでいたチルルと明斗が、互いに目配せ、頷き合う。
 活性化させた盾でもってチルルを押す明斗。その勢いを利用して距離を取るチルル。彼女はそのまま発煙手榴弾を取り出すと、それを戦場へと転がし、離脱を図った。
「総員後退! 一旦、後退して後続部隊と合流し、体勢を立て直します!」
 煙に咽てせき込みながら、明斗も周囲へ声を掛けつつ後退する。
「相手が後退します。勇斗さんも離脱してください。援護します」
 上空から勇斗に伝え、その後退を支援するべく牽制射撃を放ちながら…… 追跡班が十分離れたのを見て、ユウも自身の離脱にかかる。
「ずらかるよ! 尻に帆かけて!」
 陽花もまた、逃げる追跡班を威嚇して最後まで戦場に留まらせていた狼竜を送喚し、傍らの悪魔の背を押す様にしながら急ぎ戦場を後にした。
 最後まで戦場に留まっていた峰雪が、苦し紛れの銃撃を逃走班へ向け乱射する。
 ごうっ、という音と共に、巨大な光の柱がそんな彼に向かって放たれた。チルルが放った『氷砲』だ。
「うわ、ぁ…… うわああぁぁぁ……!」
 顔を両手で庇う様に、光の中に消えゆく峰雪── 数秒後、光と氷片が消え去った時、血塗れで凍り付いた彼の身体が地面に倒れ伏していた……


 ……生徒たちの手によって後方に下げられた松岡を。生徒たちがその場に残して戦場へと戻っていく。
 残されたのは、愛のローキックによって膝を壊され、腿を赤く腫れ上がらせて後送された生徒のみ。
 そんな彼らの頭上の枝上に。それまで所在の分からなかった撃退士クフィルの姿があった。
(……思ってた通りや。指揮官は絶対、後退させられて来ると踏んでおったで。……人間、足元は注意して見てても、頭上は案外盲点なんや。……そう、あのプ○デターのように!)
 内心で自分を褒めた後。音もなく松岡の傍へと舞い降りるクフィル。気づいた生徒が警告の叫びを上げる間もなく、その視界がグラリと揺れた。『幻惑』された彼ら残し、地面に炸裂陣を描くクフィル── 爆発したように土砂を噴き上げる地面を背景に、混乱する生徒らの間を縫って、松岡に肉薄したクフィルがその『物干し竿』でもって、指揮官を袈裟掛けにずんばらりんと振り下ろす……

「指揮官が…… 松岡先生が……!」
 追撃隊の足が完全に止まった。一撃後、どさくさに紛れて離脱していたクフィルが、それを確認した後、味方に合流してその事実を悪魔の目の前で報告する。

「ナイスなお芝居でした」
「僕も少しは長くは生きてるからね…… とは言え、かなり恥ずかしい」
 起き上がる文歌と峰雪。峰雪の方は血塗れで地面に倒れていた方ではなく…… 地面の石や草葉と同じ色に紛れるようにカラーリングされた、もう一人の峰雪だった。
 全ては戦闘のリアリティを演出する為、文歌が思いついた策略だった。
 チルルが煙幕を張り、封砲で辺りを薙ぎ払った瞬間── 文歌は『命の彫像』を使って倒れた峰雪の姿をそのまま『リアルな死体』として作り上げると、本物の峰雪を『ボディペイント』で迷彩柄に塗装して隠したのだ。
 これには流石の悪魔も度肝を抜かれたことだろう。撃退士に『死者』まで出てしまったとあっては、勇斗たちの『裏切り』が本物だと信じる他はない。
「それじゃあ、悪魔の追跡に入るよ」
 『潜行』状態を維持する峰雪が、『マーキング』を頼りに勇斗たちの尾行を開始する。
「皆さん、本気だったので危なかったです…… 芝居も探偵業の内だけど、さすがに今回は倒れそう……」
 身体をふらふら揺らしながら、起き上がって呟く璃遠。すかさず明斗が走り寄り、仲間たちの治療を始める。
「準備万端にしとかないとね。きっと次の『舞台』が待ってる」
「さて、そうだと良いのですが…… 何にせよ、後は勇斗次第です」
 そう言って視線を躱し合う璃遠と明斗。後方から、血塗れの『芝居』を終えた松岡が歩いてこちらにやって来る……


「状況は理解した。観戦武官として私もついていく。悪魔を捕らえた場合はこちらに事情聴取の機会を与えることが条件だ。状況によっては私が仲間の天使たちを呼び寄せる」
 夕姫や縁、小梅の話を聞いた中年天使は、そう言って彼女らの提案を受け入れた。
「我が名はキマジエル。短い間だが覚えておいてもらおう」
 とりあえず危地を脱してホッとする3人娘と、複雑な表情のアルディエル。
 夕姫は苦笑した。
「悪魔に人間に天使…… 一同に会せば、どれだけ予想外なことになるのかしらね」
 と……

 勇斗たちか松岡たちか── どちらかの居場所を探すため、光の翼と箒で小梅が空へ舞う。
 その視界に、こちらへ一直線に向かって走って来る『何か』を見つけて…… 小梅は慌てて地面へ降下した。
「何か来るよ!」
 叫ぶと同時に、轟音と砂塵が森の中に舞い上がった。
 ゴホゴホと咳き込む彼らの視界が晴れた時── 全長2mを超える、筋骨隆々の『悪魔』の姿がそこにあった。

「……鳥海山の天使どもが騒いでっから、あいつらがいるのかと思って来てみれば…… なんでぇ。天使と人間しかいねぇじゃねぇか」


 拝啓、陽花さん── 縁は心中で呼びかけた。

 今度は見知らぬ悪魔が出てきました。
 ……なんだって私たちだけ、こんな目に遭うのでしょう……?


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:15人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
戦ぐ風、穿破の旋・
永連 璃遠(ja2142)

卒業 男 阿修羅
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
舌先三寸・
クフィル C ユーティライネン(jb4962)

大学部6年51組 女 陰陽師
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
天真爛漫!美少女レスラー・
桜庭愛(jc1977)

卒業 女 阿修羅