.


マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
形態:
参加人数:11人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/06/22


みんなの思い出



オープニング

 鶴岡市ゲートにおける決戦において、乱入してきた悪魔勢力によって浚われた久遠ヶ原学園の教師・生徒4名の内、中等部2年、早川沙希がメッセンジャーとして解放された。
 学園の学生撃退士たちによって無事に保護された彼女は、魔力による影響下にないかを徹底的に調べられた後、実務教師・松岡に引き合わされ、事情聴取が行われた。
「『幻覚使い』の悪魔クファルは、然るべき立場の人間と取引がしたいと言っていました」
「取引、とは?」
「『捕虜交換』です。悪魔に捕まった悠奈や加奈子、青葉先生と、撃退署に捕らえられた悪魔ラフィルの身柄を交換したい、と」
 交渉の為に指定された日時と場所、条件を、沙希は悪魔から預かっていた。
 交渉期間中は休戦とすること。会談の場に捕虜を連れてくること。人数は少人数。撃退士は非武装……と言いたいところだが、そちらの安全を担保する為、魔具の所持のみは──いざと言う時には、いつでも人質を殺せるように──認める。等々。
 だが、しっかりと耳にし、記憶したはずのその日時と場所だけが、なぜかどうしても思い出せなかった。
「あれ……? なんで…… ちょ、ちょっと待ってください、ちゃんとメモにも書いておきましたから……」
 慌てて胸ポケから手帳を取り出し、急ぎそのページを手繰る。
 目当てのページを見つけて、視線を落として…… 一瞬、訳が分からぬといった顔をした沙希が、ハッと気づいて愕然とした。
「やられた……あんの悪魔……っ!」
 また認識をずらされていた。
 そのページには、『おいしいカレーのつくりかた』が記されていた。


「どういうことだ?」
 撃退署地下、悪魔ラフィルが捕らえられている牢の前── 鉄格子越しに悪魔と対峙ながら、大学部1年、榊勇斗は一人、ラフィルに尋ねていた。
 怒りと焦燥の表情を押し殺し、奥歯を噛み締める様に──悪魔クファルに浚われた撃退士の一人、榊悠奈は、彼の妹である。
 対するラフィルは囚われの身でありながら、両足を組み、両手の指を組み、詰み上げられた布団にゆったりと身を沈め、さながら王侯貴族の風体だ。
「どういうこと……とは?」
「とぼけるな! お前が予告していた通り、確かにクファルからのメッセンジャーは来た! だが、彼女は、会談の場所も、日時も、何も伝えられてはいなかったぞ!」
 弾ける様に声を荒げ、鉄格子を殴りつける勇斗。その様子を心底楽しそうに嗤いながら、悪魔は「落ち着きなよ」と片手を振った。
「日時も場所も伝えられてはいなかった? 当たり前じゃないか。そんなものをバカ正直に伝えてしまったら、君ら撃退士たちは大人数でもって事前に周辺配備を済ませてしまうだろう?」
 そんなうかつなことが出来るわけはない、と悪魔は続けた。こと捕虜交換交渉においては圧倒的優位にあるように見せてはいるが、その実、悪魔たちはそこまで優位にあるわけではない。悪魔が優位に見えるのは、撃退士側に『人質全員の無事救出』という『縛り』があるからで、悪魔の立場からすれば『絶対的少数で敵中に孤立している(しかも一人が捕まっている)』という絶望的状況に変わりはない。
「……では、なぜクファルは沙希ちゃんを解放した?」
 ラフィルの言葉に幾らか冷静さを取り戻した勇斗の様子に、悪魔は満足そうに頷いた。……そうだ。ある程度は冷静でいてくれなくちゃ、『相談』もまともにできやしない。
「なぜ? 鳥海山の天使どもの哨戒網と、撃退士たちの捜索網と、両者の耳目をそちらに引きつける為。後は本来の……文字通り『メッセンジャー』としての役目を果たしてもらう為、さ」
「メッセンジャー? 日時と場所を指定しないで、いったい何を伝えようと?」
「ちゃんと伝わったじゃないか。クファルから『メッセンジャー』が放たれたという事実が、こうして、僕に」
 どういうことだ? と訊ねる勇斗に、ラフィルは事も無げに嘯いた。
「クファルとの待ち合わせの日時と場所は、僕が知っている、ということさ。こんな事もあろうかと、事前に2人で決めておいた」
 驚愕に目を見開き…… 急ぎ、松岡に報せようとする勇斗を悪魔が引き止めた。
「止めておいた方がいい。僕自身の身柄の解放が掛かった案件だ。拷問されたとしても決して僕は口を割らないよ。……それより君はどう思う? さっきも言った通り、『人質の救出』に拘らなければ撃退士たちの方が圧倒的に優位なんだ。もし、君らの上の方の人間たちが救出よりも悪魔2体の撃破を優先したら……」
「久遠ヶ原学園はそんな事はしない! 生徒を見捨てるような真似は、絶対に!」
「学園は? なら、他の人間たちは? 例えばここの撃退署の連中は? 報酬目当てのフリー連中は? ……本当に人類は一枚岩か? 君の妹の事を君ほどに心配している者が連中の中にいるとでも? ……結局、人質の安否など、彼等にとっては他人事だ。心配はするだろう。同情もするだろう。……だが、妹を、家族を喪うかもしれない不安と恐怖を、いざ喪った際の身を裂くような喪失感を、本当の意味で共有できる人間がいると思うか? いいや、いるわけがない! 絶対に!」
 悪魔の言葉に、勇斗は言葉を失った。
 何の為に撃退士になった? ……たった2人きりの家族。悠奈と共に生きていくと、そう決めた。
 何の為に戦うと決めた? ……戦えぬ人々を守る為。だが、それも、肝心の悠奈が守れぬのなら意味がない。
「俺はどうすればいい……?」
 自分でも知らぬ内に、口からそんな言葉が洩れていた。
「簡単な事さ。君が僕をここから連れ出し、君が僕をクファルとの待ち合わせ場所まで連れていってくれればいい」
「……そんな事はできない」
「いいや、君はやる。……僕が何者であるか、君はもう忘れたのか? 『トラウマ使い』──そう、僕は君の心の深窓を覗き見た者なんだぞ? ……榊勇斗は妹・悠奈に負い目がある。撃退士にしてしまった事じゃない。もっと根源的な……君ら家族のありように関する負い目が」


「悪魔ラフィルが牢より脱走した。榊勇斗の姿もない」
 当日、撃退署内── 悪魔クファル捜索の準備を整え、居並んだ学生たちに、松岡がそう告げた。
 騒然とする学生撃退士たち。悠奈の友人、恩田麗華が勇斗の携帯に電話を掛け…… 繋がらぬまま転送されたその内容に、ハッと気づき、挙手をして松岡に発言を求める。
「松岡先生! 勇斗様、携帯の電源を落としていません! 発信を辿ればある程度、位置情報が知れるのでは……!」
「…………」
「……え? まさか先生、もしかして、『知って』いたんですか?」
 驚く麗華に、松岡は、悪魔と榊の事はどこにも報告していない、と告げた。……悪魔クファルに浚われた一人、教師の安原青葉は、松岡の同僚であり、かつ、最初に手がけた卒業生──教え子でもある。
「まともに条件を受け入れてしまえば、会談の場に少人数の撃退士しか送り込めない。だが、『追っ手』ということであれば、とりあえず現場周辺にある程度の人数は送り出せる。後は悪魔にそれを信じ込ませつつ、無事に『逃げて』もらうだけだ」
 ぽつりとそう言って。松岡はそれまでの言動などなかったかの様な調子で、学生たちに命を発した。
「これより逃げた悪魔と『裏切り者』榊勇斗らを追撃する」


リプレイ本文

 山形県新庄市─鳥海山間、競合地域──
 その南方。旧『笹原砦』跡地。物資集積所兼休息所──

 榊悠奈や安原青葉らを拉致して逃走中の悪魔クファルを追って、民間撃退士会社『笹原小隊』第四分隊らと共に山中を捜索中の葛城 縁(jb1826)は、久方ぶりの温かい食事に箸をつけようとした瞬間、鳴り響いた携帯電話の音にその出鼻を挫かれた。
 不満そうに眉をひそめつつ、携帯を取り出し、確かめる。
 届いたのは電話ではなくメールだった。送り主は山形の撃退署にいる戦友の一人から。
 縁は赤犬印のMyカップに注いだスープを口へと運び…… その文面を確認するや、含んだスープを噴き出した。
「うぇぇぇぇぇっ!? ゆ、勇斗君が、悪魔ラフィルの脱走を手引きした!? は? え? 陽花さんまで、一緒になってついてったあぁ!?」
 慌てて立ち上がる縁。その隣席、友人にスープを吹きかけられた月影 夕姫(jb1569)が半眼でそれを見据え…… 無言でハンカチを取り出して顔と髪を拭いつつ、自身も携帯を確かめる。
 同様のメールはその場にいた学生全員に届いていた。少年堕天使アルディエルが「まさか……」と呟き、絶句する。
「い、いったい何が如何なって…… はっ!? ま、まさか、陽花さんってば、とうとう勇斗君と駆け落ちを……!?」
 蒼白にしていた顔面をボッと赤く染めて想像を逞しくする縁。そんな縁を、アルの隣りに座ったちびっこ堕天使・白野 小梅(jb4012)が「む〜」と唸りながら窘めた。
「勇斗ちゃんは、悠奈ちゃんの為にならないことはしないよぉ。疑うのはぁ、めっ!」
 『悠奈の為にならないことは』── 確かに。アルは首肯した。でも、その行為が『悠奈を助ける為』であったなら──? たとえそれが利敵に類する行為であっても…… 勇斗も、自分も、悪魔との取引に応じてしまうかもしれない。
「めーっ!!!」
 バチン、とアルの両頬を両手で叩いた小梅が、そのままほっぺたを両手でむにゅー! と思いっきり引っ張った。
「たとえそうでも…… 勇斗ちゃんはぁ、悠奈ちゃんと友達を裏切ることだけはしないよ。絶対!」
 確信を持って断言する小梅の言葉に、アルの表情に苦渋が浮かぶ。
 顔を拭き終えた夕姫が小さく頷いて。そんなアルや縁たちの前で状況を整理し始めた。
「まず、勇斗くんが悪魔ラフィルを牢から連れ出し、逃走。で、松岡先生たちがこれを追跡、と…… ……これは私の想像だけど…… 『悪魔の交渉条件は少人数── でも、肝心の交渉役がお尋ね者なら、追跡隊が勢い余って交渉現場に飛び込んじゃっても仕方ない』わよね。うん」
  夕姫の言葉に、縁はその表情をわかりやすく輝かせた。そうして(ちゃっかり昼食は確保しながら)テーブルの上に地図を広げる。
「今、鳥海山の周辺には多数の下級天使が飛び回っている。……クファルとの交渉を彼等に邪魔させるわけにはいかないわ」
 両手をテーブルの上に乗せ、皆の顔を見返しながら夕姫は最初にそう告げた。
 先日、鶴岡より敗走した悪魔クファルは沙希をメッセンジャーとして放つことで天使の耳目をここらに惹き付けた。蜂の巣をつつくような所業だが、それでも北へ逃げるに当たって必要な措置だったのだろう。であれば、今、この場にいる自分たちがするべきことは…… 可能な限り『蜂の巣』を突き続け、交渉が行われる秋田側に天使の目が向かぬようにすることだ。
「こないだの天使…… 前のアレで結構怒ってたりするのかなぁ……?」
 縁は、沙希救出時に出会った中年天使のことを思い出していた。もし、飛び回っている天使たちの中にあの中年天使がいて、あの時の所業に怒っていれば…… 自分たちの顔を見るなり、こちらに食いついてくるかもしれない。
「ねぇ。アルちゃんだけでも秋田側に行かせられないかなぁ? 悠奈ちゃんを助けに行かせてあげたいよぉ」
 小梅の言葉に、俯いていたアルがハッと顔を上げた。
 彼はすぐにでもここから飛び出して行きたかった──悠奈を助け出す為に。だが、今から鳥海山を迂回して秋田に行くには時間が掛かりすぎる為、断腸の思いでいるところだった。
「……そうね。私たちもリアルタイムで情報は欲しいし…… 何人かはここを突破させてもいいかもね。予定外に場に伏せた第三のカードとして、あの幻術使いに対する切り札にもなるかもしれない」
 そう言うと夕姫は皆と話し合って突破組の編成を決めた。見つからぬよう員数は最低限──アル、夕姫、縁の3人。小梅は天使の誘引役。状況に余裕があれば、共に北へと突破する。
「やったぁ! 良かったね、アルちゃん。これで悠奈ちゃんを助けに行けるよぉ!」
 アルの両手を上下にぶんぶん振りながら、小梅は我が事の様に喜んだ。


 山形県山形市。勇斗と悪魔が逃げた撃退署。その一室──

「状況が、動いたね」
 勇斗らの手引きにより悪魔ラフィルが脱走した──そう報された学生たちの中で、少年撃退士・永連 璃遠(ja2142)は落ち着いた声音でそう呟いた。
 この場にいる学生たちは、それを追うべき捜索隊──しかし、元々は、悪魔クファル追撃隊として『委員長』・黒井 明斗(jb0525)によって招集された学生たち──鶴岡解放作戦時、『第三の矢』としてあの激戦を潜り抜けた者たちだ。妹思いの勇斗の性格を考えれば若干の疑念は残るものの…… それでも、その殆どが勇斗と松岡を──戦友のことを信頼している。
「勇斗さんは、悠奈さんを助ける為に、動かない状況を動かすことを選んだんだ。──僕にだって、よく分かる」
「……しかし、松岡先生も思い切った決断をしたね。責任ある立場からすれば、これは並大抵の覚悟じゃないよ」
 勇斗の内情を忖度して言う璃遠に対して、中年撃退士・狩野 峰雪(ja0345)は松岡の立場を慮ってそう告げた。
 悪魔脱走の報告を、松岡は撃退署の誰にも報せていなかった。全ては生徒を守る為──全ての責任の所在を明確にする為だ。これは後々確実に問題となるだろう。
「そこまでして…… そこまでしてでも、助けたいんですよっ! 松岡先生はっ!」
 両の拳をギュッと握り締め。アイドル部部長・川澄文歌(jb7507)は訴えかけた。
 松岡には悔いがある。学園旧体制下、学園ゲートへ──死地へと赴く幼い後輩たちを、守り切ることができなかった。だからこそ、彼はもう二度と生徒を、教え子を見捨てない。浚われた悠奈や加奈子を。妹の為に無理を通そうとする勇斗を。……そして、松岡の救いとなった──『最初の教え子』、安原青葉も。
 璃遠と明斗は頷いた。峰雪はやれやれ、と溜め息を吐いた。……ならば、自分たちもその覚悟に応えてみせねばなるまい。──勇斗と松岡の賭けに乗る。浚われた悠奈たちを取り戻す。そして、悪魔たちは再び捕縛、ないしは完全に討滅する……!
「……自分たちは獲物を追い立てる猟犬役、か。なら、悪魔に感づかれないよう、うまく追いかけてみせないといけないね。携帯で位置情報は知れるとは言え、簡単に追いついてしまったら怪しまれてしまうしね」
「うまく『演じ』ないといけないですね! 大丈夫、演技なら得意ですよ♪」
 微苦笑を交える峰雪に、どこか楽しそうに答える文歌。一方、性根が真面目な明斗は若干、その表情を強張らせてたりする。
「芝居、か…… アドリブは苦手なんですよね…… 勇斗もまったく水臭い。一言、手伝えと言ってくれたら、準備ももう少し工夫できたものを」
「そこは、まぁ、勇斗さんですから…… それに、アドリブ苦手でも、多分、上手くいきますよ。……だって、あの悪魔の兄弟、人間の疑心暗鬼とか諍いとか同士討ちとかが大好物っぽいですもの」
 璃遠が苦笑を浮かべて明斗にそう答えた時、待機室の扉が開いて松岡が戻って来た。彼は適当に依頼と書類をでっち上げ、撃退署を通じて勇斗の携帯電波の照会を行っていた。
「最初の位置情報が来た」
 松岡が持って来た書類に、生徒たちの視線が集まる。
 そこに記された位置情報に、学生たちは驚き、目を見開いた。

「……ちょ、先生、これ、本当ですか!?」
「ああ。榊たちは今、仙台にいる」


 その山形市より東方──
 宮城県仙台市。某所──

 制服から私服に着替え、悪魔ラフィルを連れたまま普通に街中を歩きながら── 珍しくカジュアルな洋服姿の彩咲・陽花(jb1871)は、小さく「くちゅん!」とくしゃみをした。
「大丈夫ですか? 風邪ですか?」
「んー…… それか、変な勘違いをした縁が、私たちの噂をしているか」
 多分後者と確信しつつ、気にしないよう手を振って。こっそり勇斗の背を見つめる。
 ──撃退署の地下牢で悪魔が勇斗に取引を持ち掛けた時。陽花もまた敬一らと共にいた。長い付き合いということもあって、勇斗の考えはすぐに分かった。彼に託され、着替えにかこつけて、事前に脱走計画を松岡に知らせに行ったのは彼女だった。……とりあえず、勇斗が一人で暴走しなかったのは「成長したな」と嬉しく思う──たとえ「いざという時には」悪魔との取引を真剣に勇斗が考えているとしても。
(もし、そうなったら…… その時は、勇斗くんと二人で逃避行かな♪)
 多少、浮かれ気味に頬を染める陽花。この『裏切り者』という状況を、半分、楽しんでいるところもある。
(でも、現実には二人きりってわけにはいかないんだよね……)
 陽花がジロリと悪魔を見やる。悪魔ラフィルは撃退士たちに周りを囲まれながら、まるでおのぼりさんの様にキョロキョロと周囲を見回していた。
「いやー、まさか東北撃退局のある仙台に来れるとは! こんな所にまで入り込めた悪魔って、もしかして僕が初めてなんじゃない?」
「……はしゃぐな。まだお前に捕まってもらうわけにはいかないんだ」
 十中八九わざとであろうが──街中で平気で悪魔と口にするラフィルを勇斗が睨んで窘める。
 一度太平洋側へ抜け、岩手から秋田へ入る──鳥海山を避けて北上する為、勇斗が選んだのがこの大胆な仙台経由のコースだった。脱走が早期に露見した場合に備えた「まさか」と思わせる為の策であり。同時に、自分たちの本気を悪魔に知らしめ、且つ、一人で勝手に逃げ出せぬようにする為の策でもあった。
「いやー、しかし、こんな無茶な脱走劇に、こんなについて来てくれる人がいるなんて」
 そこのおねーさんがついてくるのはなんとなくわかるんだけど(と言われてボッと赤面する陽花)。
 他の人は、いったい何で?
「いやー、だって、裏切りなんてわくわくしてくるやんかー♪」
 その悪魔の視線を受けて、テンション高めにクフィル C ユーティライネン(jb4962)。彼女もまた陽花と同様、悪魔が勇斗を誘う時に(するめを食べつつ)その場にいた。表向きの理由は『面白そうだから』。隠された本当の理由は…… 逃げる悪魔についていってうまく情報を流せれば、今は会うのを避けてる妹も、その功績に「お姉ちゃん、やっぱり凄い! 素敵!」となること間違いなしや! とか思ってしまったからだった。
 ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)の場合は……よく分からない。
 彼とユウ(jb5639)の2人とは、悪魔を地下牢から逃がして署の裏口から出た時に、買出しから帰って来た彼等とばったり出くわした。
「妹くんを助けに行くのだろう? ボクは可愛い女の子の味方──それはいつだって同じさ☆」
 一目で状況を察したジェラルドは、皆まで言うなとばかりに手伝いを申し出てくれた。それはとてもありがたい話だったが…… 例えば今、彼が「悪魔にも美人が多いし、お知り合いになれるチャンスがあるといいなぁ☆」とか呟いているのを聞くと、その本音がどこにあるのか、やっぱり分からなくなったりする。
「ボクの価値観は完全に人間の埒外だからね☆」
 だが、それ故にか──ジェラルドは勇斗の行動の是非について、その一切を問わなかった。彼には彼なりの基準とルールがあるのだろう。
 一方、ユウは悪魔の問いに明快に答を返した。
「勇斗さんの『意図』を全力で支援する為です」
「意図?」
「はい。捕虜をわざと逃がし、脱走を理由に合法的に処刑するという…… え? 何ですか、勇斗さん? ……は? 違う、のですか?」
 げんなりする悪魔の横で、勘違いを指摘されて恥ずかしそうに頬を染めるユウ。改めて説明を受けたユウは──悪魔の前では裏の事情は話せなかったが──それでも同行を決めてくれた。
「勇斗さんの手助けがしたい…… それだけです。鶴岡決戦には参加できませんでしたが、その前のファサエル戦で勇斗さんは私を守ってくれた。その恩を返します」
 はっきりと悪魔に告げるユウ── その後ろで、クフィルはこの一連のやり取りに飽きていた(え
「なー。そんなこと(ユウ「そんなこと……!?」)より、ここからの『足』はどうするんや? そこら辺でちょちょいとワンボックスカーでもチョッパって……」
「ダメです。それこそ『足』がつきます。一般警察にまで追われるのは御免です」
「えぇー? いくら撃退士や悪魔ったって、長距離移動には無理があるで。文明の利器に頼って距離を稼がんと」
「ええ。ですから、あれに頼ります」
 そう言って勇斗が指を差す。その先には、秋田方面へと向かう、高速バスの停留所──

 乗車までの時間、クフィルはコンビニに『補給』と称する買出しに行った。
 悪魔と共に店へと繰り出し、大声で親父ギャグを連発しながら商品をかごへと詰め込むクフィル。それを(それぞれの表情で)店外から眺めながら、勇斗と陽花はその間に裏の事情をユウに語った。
「あの悪魔を本当に逃がすかどうかは状況次第。うまく現場に皆を集めることが出来たら…… その時は悠奈ちゃんたちを保護した後で奇襲することも可能だろうし」
 最悪の場合、或いは本当に悪魔との取引に応じるかもしれない── 勇斗の葛藤を上手くオブラートに包んで、陽花が最後にユウに告げた。
 その一言に苦悩を察して──ユウはガードレールに腰掛けながら、勇斗を励ます様に言った。
「……胸に秘めた想いも、誓いも、出会いや別れを繰り返し、様々に変化していきます。……その変化を恐れないでください。大事なのは…… 起こった結果に対して、責任を負う覚悟です」

 そんな彼等を。少し離れた所からジェラルドが興味深そうに、薄い笑みと共に淡々と見守っている。
 彼は他人の価値観に口を挟まない。慕情も、苦悩も、愉悦も、覚悟も、慟哭も──それは全て彼等自身の、自身だけのものだから。


 その数刻後。仙台市内、某所──

「各員、三人一組で勇斗たちの足跡を追ってください。もし、発見した場合はその場で仕掛けず、味方との合流を待って必ず2組以上で追撃すること。無理はせず、攻撃と離脱を繰り返して、相手に疲労を蓄積させることを第一に接触を継続してください」
 撃退署員にバレぬよう、少人数・複数回で署を出て集合した学生たちに、明斗が改めて訓示をする。
「件の悪魔は人の精神に影響を与える術を使います。接触には十分気をつけてください。……ああ、あと、『悪魔と同行している学生もその影響下にあると考えられます。出来るだけ無傷で捕まえるように』」
 明斗のその冗談に、後輩たちから笑いが起きた。気負いのないその笑顔に満足そうに頷きながら、明斗が時刻合わせと共に、皆に状況の開始を告げる。
「松岡先生! 今度こそ悔いの残らないようにがんばりましょうっ!」
 璃遠と組んで出かける松岡にぶんぶん手を振り、自身も捜索に出かける文歌。明斗は麗華と沙希を呼び寄せると、もし勇斗を見つけられたら、2人にはその説得をお願いしたいと頼んだ。
「『説得』と言っても、こちらが態勢を整えるまでの時間稼ぎです。そんな役回りをお願いすることは心苦しくはあるのですが……」
 済まなそうに明斗が言うと、普段、喧嘩友達の沙希と麗華が、珍しく意を決したように頷き合った。
「その説得についてですが…… 事前に『委員長』と松岡先生に許可を得ておきたいことがあるんです」


 一方、同刻──
 鳥海山南東、競合地域──

 食事を終え、再び競合地域へと戻って来た第四分隊と学生たちは、木々の下に身を隠しつつ最後のブリーフィングを行っていた。
「天使は索敵の為に『目玉』を展開するけど、それで全てを見通せるようになるわけではないわ。見えるのならば前回も車に気づいていたはずだし、伏兵のハッタリにも引っ掛からなかったはずよ」
 夕姫は皆にそう告げながら、だから、と小梅に向き直る。
「だから、小梅ちゃんは囮となって、カメラ役の『目玉』を潰しつつ、分隊が待ち伏せるポイントまで引きずり込んで。隙を見て先行突破するから」
 夕姫の言葉にりょ〜か〜い♪ と返し、小梅は伏撃を任せる第四分隊長・小林の背中を笑顔でポンポンと叩いた。
「ボクがぁ、敵を射撃ポイントに誘い込むからぁ。集中攻撃で片付けてねぇ♪」
「……あの〜、自分ら、どっちかって言うと諜報とか哨戒向きの編成で、荒事とかあまり得意じゃないんスけど……」
「事前に聞いていないわね」
「他の学生たちも置いていくから、ガンバ♪」
 夕姫と小梅の返しに、半泣きでしぶしぶ頷く小林。そんなことをしている内に、先行する縁から天使の接近を報せる無線が入る。
 縁は一人、木の上に登って周囲の対空監視をしていた。遠方、空の上の天使は『テレスコープアイ』で。木々の間を飛び潜む目玉に対しては『索敵』で。その結果を、膝の上に広げた地図に敵の動きを赤ペンの矢印にて描き記す。
 同時に、縁は『視る者』として突破組の『水先案内人』も兼ねていた。ただ天使たちを勇斗たちから遠ざけるだけでは、あっという間に看破される。それと気づかれぬよう天使たちを誘引し、北へと突破しなければ。
「……小梅ちゃん、聞こえる? そっちから見て10時方向から円を描くように接近している天使がいる。そいつに南西方向から仕掛けて」
 りょーかい! と元気な返事がして。光の翼を展開し、魔女の箒に跨った小梅が勢い良く森から飛び出した。猫型アウルを誘導弾に。まるでSTGの自機の様に山林の間を飛び抜けながら、周辺に遊弋する目玉を次々撃ち抜いていく。
「む!?」
 『視界』が潰されていることに気づいた天使がそちらを見やった瞬間、低空から跳ね上がる様に小梅が天使へ突っ込んでいった。激しい風の渦と数匹の猫が天使を直撃──その不意打ちに墜ちなかった天使に慌てた様に小梅が空中で踵を返す。
 乱された髪を押さえて頭を振って、天使がようやく現れた獲物を狩らんとその後を追った。そして、地上に伏せた撃退士たちからの一斉攻撃をまともに浴び、翼を散らしながら地面へ落ちる。
「おのれ……! 堕天使と人間風情が!」
「落ち着け。連中はベテランだ。侮ると痛い目に遭うぞ」
 中年天使の忠告も聞かず、怒りに我を忘れた天使たちが我先にそちらへ殺到し。もう一つ伏せていた別班との十字砲火が大空に描く火線の網に捉われる。
 その様子を確認した縁は木の上から地上に飛び降りると、夕姫とアルの合流を待ち…… 散弾銃を手にポイントマンの位置に立って、敵哨戒網の穴から北へと抜ける。
「今回はコレの出番はなかったわね」
 殿に立って後方を警戒しながら、手にした大型小銃を撫でつつ、夕姫は微笑を浮かべた。
 混乱する天使たちを見て、自身も森の木々の中へと潜る小梅。その動きに気づいた中年天使が、それを追う様に森へと沈む……


 数刻後── 仙台市内、某所──

 一班として捜索に当たっていたラファル A ユーティライネン(jb4620)から、逃げた悪魔と勇斗たちの足跡を見つけたとの連絡が入った。
 とあるコンビニの店内で、おやじギャグを連発していた関西弁のお調子者── 「ちゃーんとついてくるんやで、妹ちゃん♪」(きら〜ん☆)(←頬の筋肉ごとウインク)と言わんばかりの姉の『符丁』に、「あんのCACA(く○)姉があぁぁぁ……!」と炎のオーラを背負ったラファルが握り拳で奥歯を鳴らす。

 二度目の位置情報を元に岩手から秋田側へと移動していた峰雪は、地図上、ラフィルの見つけた足跡の近くに高速バスの乗り場を見つけて、その路線の停留所が現在地からすぐ近くにある事に気がついた。
 行ってみようと隊を組む後輩たちに声を掛け、聞き込みで入手した目撃情報により後を追う。
「……見つけたね」
 見覚えのある背中を行く手の先に見出して。1人に皆への報告を頼み、もう1人には尾行のみの方針を伝える。
「街中だと通行人を巻き込んでしまうこともありそうだから、もう少し人通りの少ない場所で仕掛けよう」
 その尾行にジェラルドが気づいた。走り出した彼等を追って、峰雪らも距離を詰める。
「榊くん! 君が思いつめていたのは知っていたが、まさかこんなことまでするなんて……! 今からでも遅くはない。そいつを捕まえて戻ってくるんだ。悪魔の言う事を信じたって騙されるだけだよ!」
 自分でも白々しいことを言っているな、と内心で思いながら、峰雪が逃げる勇斗に『説得』の言葉を投げる。
「追いかけて来ないで!」
 一方、答えた陽花とクフィルは、なんというか、ノリノリだ。
「反撃しないの?」
「そんな暇があったら走れ! 囲まれるぞ!」
 問う悪魔に答えて、勇斗。そんな彼等が四つ辻に掛かった時── 横合いから文歌の班が飛び出して来た。
 期せずしての挟撃──思わず間近で遭遇する形となってしまった文歌と勇斗が硬直する。
(反応しなきゃ……ッ!)
 文歌が動いた。
「またあなたは榊先輩を騙して……!」
 空中に呼び出したアウルのスプレー缶を両手に引っ掴む。反射的に放たれた悪魔のトラウマ攻撃に「効きません!」と抵抗し。スキル封じの彩色を悪魔に吹きつけようとした寸前、勇斗が悪魔の腕を引っ掴み、文歌から庇う様に後ろへ引いた。
「えっ、榊先輩……!?」
「僕は騙されてなどいない。自分の意志で動いているんだ。……追いかけて来るなとは言わない。でも、僕の邪魔はしないでくれ」
 悪魔の背を押す様にその場から離れる勇斗たち。文歌はショックを受けた様子で「そんな……」とその場に膝をつく。
 もう追いつけない勇斗らの背に向け、当たりもしない距離から自動拳銃を発砲する峰雪。
 彼等の背が見えなくなるまで射撃を続けて……「マーキング完了」と呟いた峰雪が、傍らで跪く文歌と「ナイスお芝居」と笑い合う。


 更に数刻後。秋田県内、山中──

 撃退士たちの追撃隊は、更にその数を増していた。
「畜生、『マーキング』か!」
 その時になって初めてそれに気づいた様に、勇斗。それをジェラルドが微笑で見守る。
「上空から追撃の様子を探ります」
 闇の翼で上空へと上がったユウは、だが、直後、峰雪により放たれた『星の鎖』の洗礼を受けた。地上より迫る鎖の誘導弾をサーカスの如くかわしつつ、狙撃銃を構えて、追撃してくる地上部隊、その鼻先へと連射する。
 中央を前進してくる沙希と麗華。文歌もまた「榊先輩! 何もかも一人で背負おうとしないで!」と悲痛な声で呼びかける。
「何と言われても…… 悠奈ちゃんたちがいる所まで行かせてもらうよ! フェンリル! ボルケーノ!」
 咆哮、爆炎──! 陽花の召喚した狼竜が眼前で炸裂させた破壊の力に、一瞬、捜索隊の追撃が鈍る。陽花はその場に狼竜を残すと、その隙に走るよう仲間たちに告げた。自身は勇斗の直衛に── 捜索班の追撃を阻むよう、右に左に跳ね回った狼竜を、反撃を受ける前、適度なところで陽花が異界へ送喚する。
 その間に距離を取ろうとする陽花らに対して、明斗は後輩たちの部隊に彼我の両翼を前進させた。その内の1隊、斜面の上から、峰雪が勇斗たちの逃げる先へ突撃銃による牽制射撃を加える。
 足を止められた。その隙に明斗と璃遠の2人が中央から勇斗へ肉薄する。
「もう、しつこいんだよ! 何度来ても考えは変わらないんだからね!」
 そんな2人を阻もうとした陽花は、だが、文歌に押し倒されて斜面を共にゴロゴロと転がり落ちていく。
「……わかっていますよね。僕が今から何をするのか…… 大人しく戻らないなら。実力行使しかありません!」
 叫ぶや否や、璃遠が抜刀──直後、衝撃波による斬撃が勇斗の背中へ跳ぶ。寸前、双剣を交差してそれを弾く勇斗。「璃遠か!」と叫ぶ勇斗に肉薄し、直刀による突きを見舞う璃遠。攻撃の手は緩めない。流れるように、乱打する様に連続攻撃を浴びせ続ける。……手を抜けば、悪魔に怪しまれてしまうから。……いや、それは言い訳か? 心のどこかで、一度本気で剣を交えてみたかった、との想いが溢れ出て来ている。それは男の──戦う者としての性か。そして、それは璃遠だけでなく、勇斗や明斗も同じ事──
「来い、勇斗!」
 璃遠と切り結ぶ勇斗の左正面から、明斗もまた槍を突き入れる。ならば、と勇斗は応えた。勇斗の閃光の如き攻撃を、直前に展開した盾で受け弾く明斗。甲高い金属音と共に火花が宙を乱舞する。
 そんな1対2の戦いを強いられる勇斗を支援する為、1人を幻惑しようとしたクフィルは。だが、それを抵抗されて「マジか。あいつら本気じゃねーか!」と悪魔に聞こえるように叫ぶ。
「本気……ですか。なら……☆」
「こちらも本気でやらせていただきます。たとえこの姿を晒す事になろうとも……!」
 呟き、自身の周囲へ赤黒いオーラをうねらせ、赤紫色の禍々しい光を陽炎に揺らすジェラルド。ユウもまたオーラを闘衣と化した漆黒のドレスを身に纏い。循環するアウルを悪魔の角とし、白い肌に禍々しき姿を現す。
「さぁ、キミには愉快に踊ってもらうよ☆」
 己の能力を底上げしたジェラルドはそのオーラをうねらせながら、敵片翼を率いる峰雪へと突っ込んだ。そのうねつくオーラに表情をひきつらせた峰雪が「オッサン相手に触手とか!」と正直すぎる感想を口にする。
 一方、ユウは木々の間を鋭角的に飛び抜けつつ、勇斗と打ち合う明斗へ肉薄。至近距離から自動拳銃による銃撃を立て続けに叩き込んだ。
 明斗もまた全力でそれに応えた。受けを諦め、アウルの鎧を纏ってダメージ覚悟でそれを凌ぎ…… 再び飛ばれぬようユウの腕を掴みつつ、斜面を転がり勇斗から引き剥がす。
「わああぁぁ!」
 そこへ、葉っぱ塗れで戻って来た文歌が勇斗へ飛びつき、アウルの爆発でもって葉っぱと砂煙を巻き上げた。
(行ってください……っ!)
 そっと告げながら、文歌は電源の入った携帯ゲーム機を勇斗のポケットに捻じ込み、投げ飛ばされた態で再び斜面を転がり落ちる。
 直後、その煙に紛れて肉薄してきた沙希と麗華が、バチンと勇斗を叩いて言った。
「どうして私たちを連れていってくれないんですか!」
「私たちだって皆を助けたいんです!」
 危険過ぎる、と帰そうとした勇斗だったが、既にタイミングは失われている。
 ついて来い、と2人に告げて、一斉に後ろに退がり始める勇斗。文歌と同様、葉っぱ塗れで斜面を登ってきた陽花が、期待を込めた眼差しで敬一を見やる。
「え、えっとぉ…… 勇斗ぉ!、この場は俺に任せて先に行けぇー!」
 自棄っぱちに叫びつつ、ドーマンセーマンの結界を張って殿に立つ敬一。自身も残ろうとする勇斗を狼竜騎乗の陽花が横合いから掻っ攫い。全力のオーラを名残に残しつつ、ユウとジェラルドも戦場を離脱する。
「せっかく会いに来てくれたのに、これにてドロンするお姉ちゃんを許してね」
 ウィンクと投げキッスを残し、妹の罵声を馬耳東風にしたクフィルもまた木々の間に気配を消して潜行・離脱する。
 己の身を犠牲にして味方を逃がした敬一は、結界が消えた瞬間、峰雪が召喚したパサランにぱっくんちょと丸呑みされた。フルフルと震えた直後、おげぇ、とそれを吐き出すパサラン。びちゃびちゃのべちゃべちゃになった敬一がふらふらと崩れ落ちる。
「見た目、緊張感ないけど…… なかなか使えるんだよね、これ」
 ポリポリ頬を掻きつつ、峰雪。友を案ずる勇斗の叫びは、案外本気であったかもしれない。


「恩田先輩、ご苦労様でした。……本当に」
 べろんちょとでろでろになった敬一に同情しながら、芝居を終えた明斗が心の底からそう言った。
 回復に寄って来た文歌がその有様に笑顔を張り付かせ──何か情報がないかと敬一に尋ねる。
「行く先についての情報はない。悪魔はそれを誰にも伝えていない」
 つまり、僕らは未だ悪魔の手の平の上というわけか。璃遠がそう顔をしかめる。
「勇斗さん。どうか早まった選択だけはしないでください。ギリギリまで持ち堪えてください。僕たちがきっと向かいますから……」


 同刻── 鳥海山北東側──

 無事、競合地域を秋田側へと抜けた夕姫と縁、アルの3人は、合流予定地点で休憩しつつ、後から来るはずの小梅を待っていた。
「……合流予定時間を過ぎた。小梅ちゃん、間に合わなかったのかな」
 無事だといいけど、と呟く縁。仕方ないと腰を上げつつ、夕姫がアルに呼びかける。
「行くわよ、アルくん。色々と決着をつけにいかないとね」
 勇斗がどういう気持ちで動いているか、わかるわね? と夕姫は言った。いざとなったら勇斗は悪魔との取引に応じる可能性──それはアルも重々承知している。
「もしそれで悠奈ちゃんたちが助かっても、誰も救えないわ。誰もが負い目を抱えてしまう…… そんな事になる前に、私たちで状況を変えるのよ」
 決意を込めて頷く3人。そこへ、遠くから……微かに翼の羽音が聞こえて来る。
 その音の主──遅れて到着した小梅は、その笑みをひきつらせながら3人に合流した。
「えへ、きちゃった♪」
 そう言う小梅の後ろには、彼女と共に飛んで来た鳥海山の中年天使──
「話を聞かせてもらおう。悪魔がいるとは、本当か?」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
戦ぐ風、穿破の旋・
永連 璃遠(ja2142)

卒業 男 阿修羅
ドS白狐・
ジェラルド&ブラックパレード(ja9284)

卒業 男 阿修羅
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
舌先三寸・
クフィル C ユーティライネン(jb4962)

大学部6年51組 女 陰陽師
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師