.


マスター:柏木雄馬
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
形態:
参加人数:12人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/04/22


みんなの思い出



オープニング

 とにかく、居心地の悪い叔父叔母夫婦の家から出たかった。故に、己の内に撃退士の素養が見つかり、久遠ヶ原学園への転入を勧められた事は、榊勇斗にとっては渡りに船だった。
 これからはたった二人きりの家族、水入らずで生きていこう、自分が悠奈を守っていこう、と誓った。幼い悠奈を戦場に出さぬ為、生活と戦闘に関する諸々全て、勇斗が一人で背負い込もうと心に決めた。
 だが、学園で生活を続ける内に── 巡りあった恩師や得難き友人たちに、肩肘を張り、一人きりで気負う必要はないんだと教えられた。悠奈もまた家事など自分の出来る事で勇斗を支えると言ってくれた。
 そして、初めて長期の滞在となった青森の大規模な戦いの場で、勇斗は初めて天魔に日々の生活を、人生を蹂躪された人々を目の当たりにし、勇斗は初めて己が戦う意義を見出した。
 天魔という超常の存在に苦しめられながら、それでも懸命に日々を生きる力なき人々の盾となる。これからは自分や悠奈の為だけでなく、一人の撃退士としてこんな世界の在り様を変えていく一助になろうと──

「──本当に?」
 闇の中、まるで鏡を見るかのように。向かい合わせに立った『もう一人の自分』が、淡々とした口調と表情で勇斗に問いかけてきた。
「撃退士となったことで、お前は確かに自由になった。……守らなければ、と思い込んでいた、共に生きていこうと誓った、妹・悠奈のお守りから」
 見透かした様に、もう一人の自分が嗤う。
 お前は悠奈を本当の意味で見ていなかった。だから、平気で任務を言い訳に何日間も家を空けられた。その間、マンション寮の広い一室でお前を待ち続ける悠奈の、不安と心配に押し潰されそうな気持ちにも気づけなかった。
「だから、そんな心地から逃れる為に、悠奈が自分も撃退士になると言い出した時、お前は強く反対することもできなかった」

「守ると言っておきながら、妹を…… 悠奈を戦いの日々に引きずり込んだのは、お前だ、勇斗」


 ゲートの中からもう一人の悪魔が姿を現した時── 撃退士たちは言葉もなく立ち尽くすほかなかった。
「悪魔が……もう一人?」
 絶望し、膝から崩れ落ちる後輩撃退士。彼ら『第三の矢』の撃退士たちが天使ファサエルの居館に入ってから、既に数時間が経過していた。この間、初期の待機状態を除いて、天使ファサエルと戦い、巨人シュトラッサーと戦い、ディアボロ・オーク兵の大群と奮戦を続けてきた。……結果、逃れ出ようとした中庭北側の出口を潰され、自分たちはその一角に追い詰められている。
 これ以上ない程に状況は詰んでいた。だと言うのに、その上、更に新たな悪魔がもう1体現れた、だと?
「あー、あー。んっ、んんん。えー、改めて自己紹介をしよう。僕はラフィル。『トラウマ使い』だ。天界と人類の敵とかやってます」
 ついさっきまで、撃退士たちに逃走されそうになって無様に取り乱していた黒髪長髪の『最初の』悪魔が、追い詰めた撃退士たちに向かって恭しげに会釈した。必要以上に慇懃無礼に、この期に及んでわざわざ挨拶などやり直しているのは、初登場時、「紹介無用」と言われた事に対する意趣返しか。
「……で、僕がクファル。『幻覚使い』だよ。ラフィルは双子の兄なんだ。僕の方が髪はちょっとウェービーなんで、そこが僕らを見分けるコツだよ」
 『新たに』現れた方の悪魔──ゲート内に突入した撃退士から見れば、こちらが最初に見た悪魔となるが──が、片手を上げて軽やかに5本の指を振る。
 そちらに視線をやった恩田敬一は、その顔面を蒼白にした。クファルと名乗った悪魔の足元には、彼と彼の友人の妹たちが──恩田麗華と榊悠奈ら4人が横たえられていたからだ。
「おい、起きろ、勇斗! 寝ている場合じゃねーだろう! 麗華が…… 悠奈ちゃんたちが…… いい加減に目を覚ませ!」
 精神攻撃を受け倒れたままの勇斗の襟首を掴み、前後に揺さぶる敬一。だが、その勇斗はどんな精神攻撃を受けたのか、「悠奈、すまない……」とうわ言の様に繰り返すばかりでさっぱり回復の兆しも見せない。
 敬一は荒い呼吸を整えながら勇斗を地面に下ろすと、ラフィルと名乗った悪魔を振り返った。
 ラフィルは声なく嗤っていた。敬一は奥歯を噛み締めつつ、だが、その笑顔が怖くてしかたがなかった。妹たちの生殺与奪は、全てあの悪魔に握られた。そして、それを覆す術は、現状、自分たちにはない。
「……さて。このまま君たちを一思いに揉み潰してしまってもいいのだが。それではこちらも多くの手駒を失う。……ここは君らの奮闘に敬意を表して、取引といこうじゃないか」
 そう言うとラフィルは撃退士たちに条件を提示した。
 悪魔の要求は、戦闘不能に陥った天使ファサエルの身柄。対価として悠奈ら4人を含む撃退士全員の安全を保障する。休戦期間は24時間。その間に双方、この地より退去する。
「……お前ら悪魔が約束を守ると言う保障は?」
「大丈夫、大丈夫。こう見えて僕ら、人間との『契約』は重視するタイプの悪魔だから。交わした約束は必ず守る。心配はいらないよ」
 クファルの言葉にうんうんと頷いて見せるラファル。後輩撃退士たちはうさんくさげに互いに顔を見合わせた。──相手は悪魔。信用ならない。だが、現状、八方塞なのは如何とも否定し難い……
 そんな撃退士たちの様子にファサエルは、学園に堕天した弟分・アルディエルの服の裾をそっと引っ張り、彼らにだけ聞こえるように小声でそっと囁いた。
「……いざという時は、お前が私を殺せ」
「何をバカな……!」
「……お前もかつては天界に身を置いた者。分かっているはずだ。……私が積み上げて来た力を悪魔どもにくれてやるわけにはいかない。奴等が私を殺してその力を手にする前に、お前たちでやるんだ」
 できうるならば、と天使は言った。できうるならば、自分が道半ばで消え行く際には──たとえ、心底嫌っている相手だとしても──志を同じくする相手に力を与えたかった。
 アルディエルは絶句した。──その相手、つまり自分は、復讐以外に生き甲斐を見出し、天界から堕天し、久遠ヶ原学園へと奔った。もう二度とファサエルから何かを譲り得る事は叶わない。
(自分はこの男のいったい何を見ていたのだろう)
 アルディエルは天を仰いだ。リーア姉の仇を討つ為、ただそれだけの為に生きてきた男。その為にただ天使らしくあった男。それがこのファサエルという男だったのではなかろうか。
(……リーア姉が好きになった男、だもんな)
 自嘲する。その事実を受け入れられなかった、自分の何と子供だったことか。
 静かだった。空はうっすらと白ばみ始め、中庭から逃げた鳥たちが再び朝を歌い始めていた。
 ……アルが怪訝に思う。静かだった。──静か過ぎた。居館の外では、撃退士・笹原小隊や撃退署清水班らがオークたちと激戦を繰り広げていたはずなのに。
「……ザザッ。こちら撃退署主力。再編を終え、現着。笹原小隊第一、第二分隊と交戦中の敵オーク兵を排除」
「こちら笹原小隊第四分隊。藤堂、杉下両班と合流。これより館内に浸透する」
 耳元のレシーバーから聞こえて来る光信の内容に、撃退士たちは改めて互いに顔を見合わせた。
 その表情に悲壮はない。現状を引っくり返す手段は、まだ残されている。

前回のシナリオを見る


リプレイ本文

 すぐにでも皆を助けに飛び出したい── 人質となった親友たちを見やりながら。白野 小梅(jb4012)はそんな気持ちを抑え、グッと両拳に力を込めた。
 彼女たちの側には、クファルと名乗った幻覚使いの姿。今はまだ…… 気持ちのままに行動して、敵に付け入る隙を与えるわけにはいかない。
「驚いた…… まさか双子だとは思わなかった」
 巨大な抜き身の鉄塊剣、その切っ先を地面に置いて。永連 紫遠(ja2143)は疲れ切った様子でそう乾いた笑みを浮かべた。
 確かにね、と彩咲・陽花(jb1871)。だが、『2人目』が現れた時に感じた絶望も今はない。
 増援部隊が到着する── 紫遠と陽花は頷き合った。その突入のタイミング次第では、この詰んだ状況ももう一度引っくり返せる。
「悪魔の提案を呑むつもりはありません。が、味方が近くまで来ている以上、利用しない手はありません」
 ひび割れ、収まりの悪くなった眼鏡を指で押し上げながら、黒井 明斗(jb0525)が徳寺明美を振り返る。
「安心してください。一度約束を交わしたからには、貴女やファサエルを売り渡すようなことは絶対にしませんから」
 その真摯な言葉に、明美は「信じるわ」と頷いた。──敵として、これまで何度も学園の撃退士たちと対峙して来た。その粘り強さは身に染みて知っているし、だからこそ、結界に囚われていた人々の命運も彼らに託せた。
「俺もそれで構わねぇぜ。そっちの方が面白いことが起こりそうだ」
 ラファル A ユーティライネン(jb4620)はそう言ってニヤリと笑った。……ついさっきまでは、もうここでお陀仏かと腹を括っていたのだが、なかなかどーして、まだまだ捨てたもんでもないらしい。やっぱり悪魔ってのは、その心を折ってやってなんぼだぜ。だいたい、奴等、名前が俺と被っていやがる。俺の姉の名前もクフィルだし(マジか)
「悪魔さんたちにはこれまでのお礼をしないといけないですねっ。アイドルのお礼は高くつきますよ!」
「グラビアアイドルのもだよ! ……バイトだけど」
 撃退士たちのムードメーカー、川澄文歌(jb7507)と葛城 縁(jb1826)が、沈みがちだった後輩撃退士たちに明るく愛嬌を振りまいた。
 ラフィルと名乗ったトラウマ使いの悪魔は怪訝な顔をした。会話の内容までは聞こえないが…… この絶体絶命の状況下でも、撃退士たちの心は未だ折れてないように見える。
「えっと、僕の提案に対する返答はどうなったのかな? 考えるまでもないと思うんだけど……」
「おーっほっほっほっ! 慌てる(ピーッ!)は貰いが少なくてよ!」
「ばーかばーか! べろべろベー!」
 手の甲を口元に当て、高笑いを上げる桜井・L・瑞穂(ja0027)。小梅もまた一緒になって悪魔にあっかんべーをする。
 何かに感づきかけた悪魔の注意を逸らす意図が、小梅の行動にはあった。藤堂たちとやり取りする味方の声を隠す意図も。
 瑞穂にはそのような意図は微塵もなかった。彼女の行動は徹頭徹尾、自分自身が注目を浴びることだけを考えてのものだ。今は、悪魔を怒らせ、ムキにさせることしか考えていない。……結果的に悪魔の心を乱し、正常な思考を妨げる効果があったとしても。
「そう簡単に返答できる内容ではないでしょう。えぇっと……『トンヌラ』様でよろしかったかしら?」
「どういう間違え方さ。ラフィルだよ、ラフィル!」
「……『ゲンナリ』様?」
「…………」
 瑞穂の挑発にカッとなりかけた悪魔は、もう一人の悪魔に落ち着くよう諭され、どうにか平静さを取り戻す。
「あら。ごめんあそばせ。悪気はないのでしてよ? わたくし、人の名前を覚えるのは苦手なもので……」
 一転、恥らうように頬を染めながら、しおらしく謝って見せる瑞穂。その態度にまたも激昂しかけたトラウマ使いを、先程より強い調子で幻覚使いが窘める。
(……一度剥がれた分厚い化粧は、そう簡単には戻せませんわよ)
 そんなトラウマ使いを横目で見やって、瑞穂は心中でフフンと鼻で笑った。もし扇子でも持っていたなら、口元でパチンと策士っぽく閉じてるところだ。
 どうにか余裕ぶった態度を取り繕うトラウマ使いだが、先程、晒した醜態は今更なかった事にはできない。
「……ただ、圧倒的優位に立つそちらがわざわざ『取引』を持ち出した理由が、わたくし、どうしても腑に落ちませんの」
 瑞穂の言葉に、陽花はハッとした。確かに、一気に攻めればよいところをわざわざ交渉してくるなんて。もしかしたら、向こうもこちらが思っているほど余裕はないのかも。
「例えば、貴方たちは特種能力は凄いけど、単純な戦闘能力は弱い……とか。その能力も、使う度にかなりの力を消耗してしまう……とかではないです?」
 ゴクリと唾を飲み込みながら、決め顔で文歌が推理を悪魔に告げる。
「そういった場合、幻覚の人質でこちらを引っ掛ける、くらいのことはしてきそうですね」
 言いながら、雫(ja1894)は魔具をヒヒイロカネに戻した。口では反駁をしつつも、交渉は続ける用意がある事をその態度で示したのだ。かと言って、ただ無防備に戦闘態勢を解いたわけではない。雫の後ろには、大型ライフルを膝射姿勢で構えた月影 夕姫(jb1569)がその銃口を悪魔に向け続けていた。──交渉を続ける用意はあるが、信用したわけではない。そちらが妙な真似をしたらいつでも戦う準備はある──
「そちらの『幻覚使い』の能力は『認識まで誤魔化すレベル』だし、『それこそ本物かどうか確認できない』」
「まずは人質の無事を確認させなさい。もし『偽りの人質』だとしたら、交渉結果をそちらが確実に履行するとは思えない」
 夕姫や雫らと悪魔の会話は、光信機のマイクを通じて藤堂たちにも伝えられていた。なに、アイドル部部長の文歌からすれば手馴れたものだ。
「そんなことを言われても…… そこは信じてもらうしかないなぁ」
「信じる? 臍で茶どころか蜂蜜すら煮立ちそうな言い草ね」
「うん。僕もそう思うけどさ。『確認』するって、どうやって? 誰か一人の手足でももいで見せれば、偽者じゃないって信じてくれるかな?」
 でも、その光景だって、本物かもしれないし、幻覚かもしれない。……判別手段がないのであれば、たとえ臍で重金属が沸くような話でも、君らは人質が本物という前提で話を進める他はない。
「元より君たちに選択肢はないんだ。君らを見逃して僕が目的を達するか、君らを皆殺しにして達するかの違いでしかない」
 ……だけど、これ以上戦ってもお互いに時間の無駄じゃないか。この状況、そっちはもう詰んでるわけだしさ? 君ら撃退士は倒してもゲートに入れてもエネルギーにはなんないし、言わば煮ても焼いても喰えないわけで。こっちとしてはさっさと投了してもらって、ちゃっちゃっと次の仕事に掛かりたい。
「それとも…… この状況から引っくり返せるような何かがあるのかな……?」
 窺う様な悪魔の視線に、瑞穂は「さて、どうかしらね」と答えた。その平然とした態度からは撃退士たちの内心を──交渉の手札を窺い知ることは出来ない。
 一方、ラファルは声を上擦らせ、動揺した様子で食って掛かった。
「おおっ、あるぜ! 俺たちを助ける為に、撃退士たちの大軍が増援として来ているんだぜ!」
 悪魔たちがどよめいた。撃退士たちも驚いた。ちょ、なんでそんな事を…… と仲間たちが慌てる前に、ラファルは大声を上げて悪魔たちの背後を指差す。
「ほら、そう言っている間にもっ、お前らの背後に撃退士100万の軍勢がぁっ!」
 思わず背後を振り返るオークたち。ラファルが指差した先、中庭の南側出口には…… 案の定と言うべきか、人っ子一人いなかった。
 シン、と水を打った様な静寂── 偶々、ラファルが指差した先の木枝に留まっていた小鳥が、ぱたぱたと空へと飛び去っていく。
「…………増援?」
「……どうだ。ビビッたろ?」
 ニヤリと笑ったラファルを、撃退士たちが地面に引き戻し、ぽこぽことツッコミを入れる。
 雫はコホンと咳払いを一つすると、確かに、と仲間たちに向き直った。
「……確かに、状況は最悪です。向こうも損害を考慮に入れなければ、私たちを全滅させることは可能でしょう」
「……絶体絶命だよね、これ…… うん。こんな事になるのなら、マメに帰省しとけばよかった。私、もう一度だけ、お母さんたちに会いたかったよ……」
 散弾銃の銃床を地面に下ろし、縁がほろりと天を仰ぐ。
「ここで全滅して後に何も残せないよりも、苦渋に耐えて情報を持ち帰る方がましかもしれません」
「ちょっと待ちなさい。奴等に主を売るつもりなら、こっちにも考えがあるわよ!」
 悪魔の提案にも一考の価値があるかもしれない── その可能性を示唆した雫の肩を、明美がガッと引っ掴む。そうだ、自分たちはまだ戦える、と、明美側に立って継戦を主張するラファルと小梅。それを見た瑞穂が「その天使に命を懸ける程の価値が?」と雫側に立って論戦に参加する……
 そんな仲間たちを見て溜め息を吐きながら、明斗はトラウマ使いに呼びかけた。
「話は分かりました。ただ、こちらも人類と天界の寄り合い所帯です。相談する時間をください」
「どれくらい?」
「10分」
「長い。5分で纏めてよ」
 結果、7分で妥結した。鷹揚に了承する悪魔に頷き、明斗は仲間たちの元へと戻った。迎える紫遠と目を合わせ、微かな動きで頷き合う。
「……あと7分です。やり取りに3分掛けましたから、結果的に10分は稼げたはずです」
 囁くように告げる明斗の言葉に、襟首を掴まれた雫と、掴んだ明美が共に目だけで頷いた。
 全ては撃退士たちの芝居だった。増援部隊が攻撃態勢を整える、その時間を稼ぐ為──
「チャンスはただ一度きりです。その一度でこの状況を引っくり返します」
 雫の言葉に頷く明美。仲裁する振りをして、紫遠もまた2人に告げた。
「その時には、僕たちの道を塞いだ事── 彼らには存分に後悔して貰おう」


 何だか周りがとても騒がしい── ぼんやりとした意識の中で、雪室 チルル(ja0220)はそう知覚した。
 煩い。眠ってられないじゃない。う〜んと唸りつつ、寝返りを打とうとする。
 その拍子に、何かチクチクしたものがチルルの餅の様なほっぺを刺激した。いつもの枕や毛布じゃない。うつ伏せ──? 何か出っ張った形状のものにだらーんと乗せられている。
「…………んあ? なんで倒れているんだろ?」
 回らぬ頭で思考する。……眠い。考えることが面倒臭い。でも、なんとなくそれじゃいけない気がして、無理やり意識を覚醒させる。
「目が覚めたか?」
 声がした。チルルの横で座り込んだ千葉 真一(ja0070)がチルルに状況を説明した。
「倒れてなんざいられるかよ。俺の知ってるヒーローたちは、常に逆境にあってそれに立ち向かい、そして、打ち勝って来たんだぜ!」
 そう言って熱くギュッと拳を握り締める真一。諦めないぜ。振り向かないぜ。この世に悪がはびこる限り、最後の最後の最後まで戦うぜ!
「まぁ、もっとも、俺も今、説明を受けたばかりで、よくは分かってないんだが」
「なによそれ」
 チルルはぼんやりと笑うと、狼のおなかをポンと叩いてその場をグルリと回らせた。
 同様に精神攻撃を受けたと言う勇斗は未だ目を醒まさない。
 瀕死のファサエルも意識こそ取り戻したものの…… その容態は悪化の一途を辿っている。

 苦悶の表情を浮かべる勇斗に膝枕を提供して── 陽花は取り出したハンカチでそっと勇斗の汗を拭った。
 すまない、と謝られて、陽花は一瞬、ドキッとする。意識を取り戻したのか? ……違った。勇斗はこれまでと変わらず、夢の中で悠奈に何かを謝り続けている。
「……貴方が何を悠奈さんに謝っているかは知りませんが、謝る相手が違います。悠奈さんはそんな所にはいません。自分に対して言い訳している暇があったら今すぐに目を醒まし、目の前にいる生身の悠奈さんを助けて、そして、直接謝りなさい……!」
 様子を見に来た雫が、そっと手を置き、発破を掛ける。陽花もまた勇斗のほっぺたをぺちぺち叩き、励ます様に呼びかけた。
「勇斗くん。自分になんか負けちゃダメだよ。……私は知ってるからね。勇斗くんが頑張ってきたことを。お兄ちゃんとして悠奈ちゃんと共に支え合ってきたことを。……だから、そんなに自分を責めないで。こっちに戻って来て、勇斗くん。戻ってきたら、私の手料理食べ放題をご馳走してあげるから……」
 ピタリ、と勇斗の動きが止まった。……いや、ぷるぷると痙攣するように震え始めた。びっしりと浮かぶ脂汗──縁は戦慄した。陽花の手料理(殺人味)のなんという破壊力。まさか悪魔の精神攻撃を上回ってくるなんて!
「陽花さん…… 精神攻撃を受けてる勇斗くんになんてひどい仕打ちを……」
「そこまでっ!? 最近は料理の腕も上がってきたんだよ! 食べた人が悶絶する確率は……半々だけど」
(ガンバですよっ、榊先輩! なんというか、色んな意味で……っ!)
 その光景を遠目に見やった文歌が、ギュッと両手の拳を握って心の中で激励する。
 縁もまた陽花の横に腰を下ろすと、慰めるように勇斗をそっと撫でた。
「勇斗君。道っていうのはね、助言したり、意見したりして他人が示す事は出来るけど…… それを選んで、歩いて行くのは、あくまでも『自分』なんだよ?」
 自分の道を決められるのは自分だけ。悠奈の道を決めるのも悠奈だけだ。その選択を他者が『間違い』なんて決め付る事は、侮辱以外の何物でもない。
「確かに人は間違った道を進んじゃうこともある。けれど、険しく見える道だって、それがどこに至るのかは進んでみなければわからない。……間違えたり、迷ったり。それも含めて『人生』なんだよ」
 ……勇斗くん。君もまた進むべき道の途上にある。後ろを振り返ってばかりの君は、いったいいつまでそこで立ち止まっているつもり……?

「なるほど。あのクファルって野郎が、ゲート内で俺らを同士討ちさせた張本人か……」
 膝射姿勢のまま大型ライフルの銃口を幻覚使いに向ける夕姫の傍らに、真一が来て、呟いた。
 照準器越しに悪魔を見据えたまま、夕姫がそうねと返す。
「ええ、そう。……そして、ファサエルとアルディエルにとっては、恐らく恋人と義姉の仇」
 姿勢を変えずに呟く夕姫。そうか、と真一が天使たちへ視線をやる。

「ファサエルさんの力って、死なない程度に分譲することってできないんですか? 或いは放棄しちゃうとか。そうすれば相手の目論見を外せません?!」
 地面に横たえられたファサエルの傍らで、文歌が天界の3人に焦燥の表情で尋ねた。
 俯いたまま、動かぬアル。パッと視線を振った先で、明美が力なく首を振る。──堕天し、撃退士となったアルには、ファサエルの天界の力はどうあっても引き継げない。
「ただ戦闘天使としてあり続けた私は、世界に何も残せなかった…… この感情……これは『虚しさ』か? なるほど。今の私になら分かる。私の存在意義はいったい何辺にあったのだろうな……」
「諦めないで!」
 ファサエルの言葉を遮る様に、傍らにちょこんと正座していた小梅が、堪え切れぬと言うように内から言葉を溢れさせた。
「だったら、生きればいいんだよっ! これからそれを見つけるんだよっ! 悪魔たちなんか蹴散らして、一緒に学園に向かおう! この世界にはまだまだ楽くて、凄くて、素晴らしい事がいっぱいあるよっ! だから…… だから、オジサン、諦めないで……! ボク、一生懸命頑張るから……!」
 小梅の双眸から慟哭の涙が溢れ出す。子供の様に泣き出す小梅の頭に、ファサエルはそっと──その実、全身の力を振り絞って手を乗せた。……まさか、自分の為に泣いてくれる存在があるとは思わなかった。天使の心に宿る仄かに温かい何か──それはファサエルにとって、とても、とても懐かしい『感情(もの)』だった。
「アルさん! アルさんもファサエルさんに言いたい事があるでしょ?!」
 ぶわっと涙を零しながら、文歌がアルに言葉を促す。
 紫遠はただじっと、立ち尽くすアルを見守った。掛ける言葉はなかった。この2人の間に横たわるものは、恐らくこの2人にしか分からないものだから。
 やがてアルは意を決すると、ファサエルの傍へ歩み寄った。
「……何の為の生かと言ったな。自分には何もない、と。……なら、アンタはリーア姉と出会う為に生まれてきたんだ。それだけできっとアンタの生には意味がある」
 アルの言葉に、ファサエルは目を瞠った。……そうか。ああ、それならば──こんな生にも確かに十分過ぎる程の価値はあった。
「ルディ」
「……なんだ?」
「お前が倒せ」
 そう言ったきり、あっけなく── 天使ファサエルは静かに息を引き取った。
「こんなのって…… こんな結末なんてないよっ!」
 吐き捨てる様に叫びながら、声の限りに小梅が泣く。──誰にも死んで欲しくなかった。皆で幸せになりたかった。だから、受け入れることが出来なかった。たとえ、ファサエルの死に顔がどんなに安らかであったとしても。
「君たちは似ているよ。どこか寂しげな感じがね」
 全てを見届けた後、紫遠はアルの傍らに歩み寄り、労わるように肩を叩いた。マリーアデル亡き後、彼らにとって身近な存在は互いの他にはなかった。たとえ嫌い合っていたとしても、彼らは鏡写しの存在だったのだ。
 複雑な表情で立ち尽くすアルディエル。堪えきれずに涙を零し、文歌が顔を手首で覆う。
「増援部隊、現着」
 敢えて冷徹な口調に徹して、夕姫が光信機越しにもたらされた報告を戦友たちに伝えた。
「藤堂さん。そちらから悠奈ちゃんたちの姿は確認できますか?」
「個人は判別できないけど…… 確かに、黒髪長髪の足元に制服姿の女学生4人が倒れているのは見えるわ」
 ならばあの悠奈ちゃんたちは本物か──夕姫は沈思した。外から来たばかりの藤堂たちは幻覚による影響は受けていないはず。その藤堂たちに見えているということは、本物である可能性が高い。
(けれど、確証は持てない…… まったく、幻覚の何が厄介って、この疑心暗鬼が何よりも)
「時間だ」
 明斗が皆に声を掛けた。じゃあ、行こうか、と紫遠がアルたちに呼びかけた。
「お姫様を救出するのは、男の子の役目でしょ」
 紫遠がバァンと背中を叩く。男の顔になったアルと、そして、精神攻撃から抜け出した勇斗とに。
「時間とタイミングはこちらで作るわ。あなたたちは悠奈ちゃんたちの救出と、アイツを──幻覚使いをぶっ飛ばすことだけ考えて」
「分かってるよね、アルくん…… お姉さんの仇が目の前にいるけど、君が何より優先すべきは何なのか」
 照準器から目を離し、アルと勇斗を見上げて、夕姫。散弾銃をジャコンと活性化させながら、悪魔を睨み据えたまま縁がアルに問う。
「行きましょう。堕天したことは自身に恥ずかしくない決断であったということを、ファサエルに見せてやるのです」
「言ってやりなよ。薄汚い手で僕の女に触れるなー! って」
 縁の気遣いに感謝し、明斗の言葉に力強く頷くアル。にっかと笑って続けた紫遠の言葉には、思わず赤面して目を逸らす。
 そこでハッと気がついて、アルは慌てて勇斗の表情を窺った。
 勇斗は文句を言わなかった。傍らに並び立ち、勇斗が義弟候補に告げる。
「背中は任せろ。2人で……みんなで悠奈たちを取り返すんだ」

「時間だ。返答を聞こう」
「ちょっと待ってくださいな。契約書の準備をしないと……」
 微妙に態勢が整っていない撃退士たちの為、瑞穂が鞄の中身を漁って僅かでも時間を稼ぐ。
 ありましたわ! と笑顔で文具セットを取り出した時、撃退士たちがやって来た。瞬間、瑞穂は営業スマイルを止め、不敵にトラウマ使いを振り返る。
「……こちらも準備万端、整いましたわ。さあ、明斗。私たちの答えをお伝えなさいな」
 そんな瑞穂に苦笑しながら、明斗は悪魔に向かって答えた。
「はい、拒否します」
 一瞬、聞き間違えかと思うくらい、にこやかに明斗は答えた。
 続けて、お願いします、とマイクに告げる。
 悪魔たちが咄嗟に南を向いた瞬間── 中庭・温室の四方の壁が、轟音と共に吹き飛んだ。


 爆薬により突入口を開拓した増援部隊たちが、一斉に中庭──戦場へと雪崩れ込んだ。
 絶対有利の立場から絶体絶命の危地へ── 突然の状況変換に対応し切れず、オークたちが大混乱に陥る。
 程度の違いこそあるものの、悪魔たちもそれは同様だった。
 そして、そんな隙を撃退士たちは見逃さない。

「狼8号! そのチビッコを乗っけたまま、正面の悪魔に突っ込みなさい!」
「マジ!?」
 増援突入のタイミングでバッと身を起こしたチルルは、だが、明美の指示を受けた狼が敵へと走り出した瞬間、再びその背へしがみ付いた。
 クネクネ曲がりながら敵中を走り抜けていく狼。紫遠とラファルの2人もまたトラウマ使いへと突っ込でいく。
 正面、トラウマ使いの悪魔は突然の不意打ちに護衛も付けずに立ち尽くしていた。真正面から突っ込み、鉄塊剣を振り下ろす紫遠。寸前、悪魔はハッと振り返り、その一撃を受け止める。紫遠は大剣をそのまま振り抜くと、そのまま流れるように後ろ回しの柄打ちから斬撃へと繋げた。柄尻に腹を突かれ、グフッと言葉を失うトラウマ使い。いける、と紫遠は笑みを浮かべた。身体は疲れ切ってはいたが、先の10分で少しは休めた。最後の最後、この悪魔を滅する為にここで力を使い切る!
「全力でいかせてもらう。僕の名は永連紫遠だ、黄泉路の切符代わりに覚えておけ」
「てめーらは俺たちを舐めすぎた。今から戦争って奴を俺らが教育してやるぜ!」
 踏み込みから柄打ち──格闘交じりの連続斬撃。時には力任せに鉄塊の腹でぶん殴る紫遠と悪魔が対している間に、スタンドマイクを手にしたラファルが悪魔の背後に回り込んだ。慌てて紫遠から距離を取り、視野を確保する悪魔。肉薄する直前、ラファルは手に持つマイクにシャウトした。マイクを通し、アウルのスピーカーから発せられたその声は、だが、この世のものとは思えない、「ぼえ〜!」という耐え難き怪音波となって悪魔を襲う。──これぞ恐ろしき『俺オンステージ「ラファルズリサイタル」』、ワンマンカラオケモードの恐ろしさよ。思わず耳を押さえる敵へ、零距離からアハトアハト──88mm口径の超大型ライフルを「どりゃあ!」とブチかます……

「正面を支えます。『神の兵士』の効果範囲に留意して動いてください」
 悪魔へ突撃して行った撃退士たちを見送って…… 明斗はその場に残った後輩撃退士たちを率いて敵正面へ圧力を加え始めた。四方から突入して来た増援に対して流されるまま中央で円陣を組もうとしていたオークたちに、楔を打ち込み、突き崩す。
「明美さんは狼たちに負傷者の搬送を。署員や小隊員の中に回復役がいますから」
 わかったわ、と頷き、指示を飛ばす明美。紫遠やラファルと切り結ぶ悪魔が交渉役である明斗を見つけ、なぜだ!? と問い掛けて来た。
「なぜだっ!? 交渉は纏まった…… 我らと人間の間で戦いはもう必要ないはず」
「やだなぁ。だから、拒否するって言ったじゃないですか」
 キラリと光を反射する明斗の眼鏡。その横で背筋を伸ばした瑞穂がふふん、と笑みを浮かべる。
「契約とは『相互の信頼と協調の精神に則り誠実に履行するもの』ですのよ? 人の弱みをねちねち利用するあなたが、信頼を得られると思っていて?」
「……なんて奴等だ。くそっ、くそっ! くそぉっ!」
 紫遠とラファルに左右から攻め立てられつつ、再び精神攻撃を放つ悪魔。だが。
「一度克服したトラウマにはもう屈しませんっ!」
 ステージ終盤の疲労もなんのその。瑞穂の前に飛び出して来た文歌がそれを受け止め、手にしたマイクで歌声を衝撃波へと転換。叩きつける。
 ごう、と吹き付けた風に両腕で顔を庇う悪魔に、どうにか狼の進路を真っ直ぐに定めたチルルが騎兵の如く突っ込んだ。
 狼の背の上で、ゴウッと巻き起こしたアウルの氷嵐を右手へと収束し。張り詰めた冷たい空気の中、氷の刺突剣を生成する。恐れ戦いた悪魔は、主を助けに来たオークの襟首を掴んでチルルに対する盾として……
「理由? そんなの決まってるじゃない。やられた以上は、やり返す!」
 構わず突き入れられる氷の鋭剣── それは紙でも裂くかの様に。盾にされたオークごと悪魔の左腕を斬り貫いた。

 一方、もう一人の悪魔──クファルに向かっては、最前線に立って突撃する雫と共に、夕姫が最短距離を一直線にクファルに突進していた。
「トラウマ使いは『克服』すれば何とかなる。問題はこっちの幻覚使い!」
 ザザッと地に足滑らせ急停止し、構えた大型小銃から『フォース』を撃ち放つ夕姫。光の力に肩を撃ち貫かれたクファルが仰け反る隙に、雫がリミッターを解除してアウルを限界まで燃焼。太陽剣の刃を赤く軌跡に曳きながら、人智を超えた速さで切りかかる。
 踏み込みつつ袈裟切りから手首を返しての斬り返し。そのままクルリと回転しつつ剣を横薙ぎに払う。受け、避け、或いは斬られながら後退し距離を取る悪魔を、更に手首を引きつけてからの突きで追う。焔の如き剣の軌跡が宙に描く赤き華── 激しい連撃に体勢を崩した敵へ止めの一撃を加えようとしたところで、雫の身体に限界が来た。動きの止まった彼女に暗器を投げつけんとするクファル。そこへ横合いから突っ込んできた真一が身体ごとぶつかり、巻き込むように投げを放つ。
 瞬間、胸倉を掴んだ腕にありえない感触を感じて、真一は悪魔の頭部を地面へ叩き落とす寸前、慌ててそれを引き止めた。地面に大の字になった悪魔がが揺らぎ、びっくりした加奈子の姿へ変わる。
「すまん、わざとじゃないぞ!?」
「分かっています。真一さんですし」
 胸元から手を放し、悪魔はどこだ、と見回す真一。中央にいる文歌がそれに気づき、「千葉先輩!?」と叫びを上げる。
 文歌は悪魔の幻覚の埒外にあった。故に、彼女には見えていた。真一が悪魔への投げを中断し、まるで味方に対する様に悪魔を解放する様を。
 真一の背後、身を起こした『加奈子』が無言で抜き身の短剣を突き入れ…… その不意打ちを、真一は身を転がし、かわす。
「……なぜ、わかった?」
「川澄のお陰で気づけた。……単純な話さ。堂上は普段、俺の事を千葉先輩と呼ぶ。真一さん、なんて呼んでくれるほど親密な仲じゃあない」
 更に言えば、ゲートの中で体験した幻覚は、五感から時間間隔まで幻惑する高度なものだった。触れた感触で看破できるほどお粗末なものではなかった。
「多分、ゲートの中で喰らったレベルの幻覚は、事前の仕込みがあって初めて成立する類のものなんだろ?」
「恐らく、範囲・設置型の能力──それも効果範囲は決して広くないタイプね。多人数に掛ける場合は狭い場所を利用する……例えば、ゲートの出入り口とか」
 クファルの表情が消えた。或いは、真一と夕姫の推測が図星をついたか。
「……これでまた形勢逆転、かな? 悠奈ちゃんたちは返してもらうんだよ」
 幻覚使いを包囲しながら、狼竜の横で薙刀の切っ先をピッと悪魔へ向ける陽花。その横で特種弾頭を散弾銃へと装填した縁が、ガチャリと銃口を敵へと向ける。
「今度こそ決着をつける! 行くぜ、いかさま野郎! フォームアップ、イクシード!」
 真一の全身、スーツの色が真紅から光り輝くプラチナへと変わり。同時に、それまでの真紅色は紋様となって体表を走る。
 その拳を、悪魔は一度はかわした。と思った瞬間、かわした拳が幻覚の様に掻き消え、現れた別の拳が悪魔の身体を捉えた。
 ボッ! と吹き飛ばされる悪魔。そこへ夕姫と縁から銃火が浴びせられ、陽花の命を受け飛びかかった狼竜がその喉笛を噛み千切る。
 流石だね、とクファルが言った。『狼竜に喉笛を噛み千切られながら』。
「さすがは久遠ヶ原学園の撃退士。見事だよ。……けど、悲しいかな、君たちはゲート組だ」
 悪魔の姿が掻き消え、代わりにその場にはオークの死骸が残された。自分とは違う目標に攻撃した仲間に驚く雫の目の前で、クファルが翼を展開して大空へと逃れ出る。
 その際、悪魔は悠奈を小脇に抱きかかえようとした。それを麗華が突き飛ばし、代わりに彼女が捕らえられた。
「とりあえずこの子を浚っていくよ。理由は…… 腹いせ、かな?」
「ふざけるなあ!」
 その刹那、『瞬間移動』で悪魔の背後に飛び出して来た小梅が、背後から悪魔の頭部に取り付き、両手でその目を覆い隠した。
「麗華ちゃんを返せぇ」
 そのままバランス感覚を狂わすように、上下左右にシェイクする小梅。カッときたクファルはその手から麗華を放し、両手で小梅を引き剥がした。ダァン! と地面に叩きつけられた小梅は、だが、すぐに身を起こし。倒れた麗華の前に両手を広げて、「フーッ!」と子猫の様に威嚇する。
 その背後を掻っ攫うように。上空から急降下してきた大型クラゲが、その触手の『底引き網』でもって、麗華以外の三人を浚っていった。北門を潰していた個体も再浮上し、近くにいた安原青葉を浚って上空へと逃げていく。クラゲは僕の管轄なんだ、と呟くクファル。……全ては一瞬の出来事だった。
「……彼らは兄の代わりに預かっていく。兄を殺したら…… 分かるよね?」
 言い捨て、破れた温室天井から飛び去っていく悪魔とクラゲたち。
 悠奈……ッ! と勇斗が天を仰ぐも追撃する手段はない。

 見捨てられた形のオークたちは、逃走する手段もなく、藤堂たちの十字砲火によって各個に殲滅せしめられた。
「腕が…… 俺の腕が……」
 ただ一人、トラウマ使いの悪魔だけが生きたまま捕らえられた。

 戦いは終わった。鶴岡ゲートは解放された。
 勇斗は一人、地面に拳を打ちつけた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

ラッキースケベの現人神・
桜井・L・瑞穂(ja0027)

卒業 女 アストラルヴァンガード
天拳絶闘ゴウライガ・
千葉 真一(ja0070)

大学部4年3組 男 阿修羅
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
飛燕騎士・
永連 紫遠(ja2143)

卒業 女 ディバインナイト
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト
Green eye's Red dog G・
葛城 縁(jb1826)

卒業 女 インフィルトレイター
迷える青年に導きの手を・
彩咲・陽花(jb1871)

卒業 女 バハムートテイマー
Standingにゃんこますたー・
白野 小梅(jb4012)

小等部6年1組 女 ダアト
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師