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マスター:烏丸優
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
参加人数:10人
サポート:6人
リプレイ完成日時:2013/04/28


みんなの思い出



オープニング



 デモンフロッグ撃退から数日後。
 うららかな春の陽射しが差し込む休日の午後に、それはやってきたという。
 山奥の別荘には、その少女とボディガードのフリーランス撃退士しか居なかった。
 母親の話によると、社長令嬢である娘には、日頃から護衛をつけるようにしていたらしい。
 いざという時、大切な我が子を守れるように、と。
 けれど、その想いは虚しくも砕かれた。

 青い髪の少女によって。


●某県某所

 数時間前。
 森の中に佇むコテージの前で、男が剣を抜いていた。
 男と対峙するのは、等身大の球体関節人形といった容貌のディアボロ、キラードール。
 麗しい少女を模した殺戮人形は、虚ろな笑みをかたどっていた。
 男の後ろでは、人間の娘が恐怖に震えていた。ただの一般人が突然に天魔と遭遇したのだから、無理もない。
 護衛の剣士が背中に声を飛ばす。
「お嬢様はさがっていてください。彼奴は私が倒します!」
 男が地を蹴り、矢のように疾走。手にした片手半剣を突き出し、おぞましき人形へと刺突を放った。
 剣が人形の胸を砕く。
 撃退士が繰り出した突きの衝撃で、ディアボロは後方に吹き飛んだ。周囲の木々に激突し、倒れたキラードールの体がくの字に折れる。
 手ごたえは充分。
 だが、強烈な攻撃を喰らったはずの人形は、簡単に起き上がった。
 再起したキラードールが駆ける。
 男に、ではなく、後ろの少女に向かって。
「ちぃっ!」
 男は緊急活性化させた盾を取り出し、人形の行く手を阻んだ。振り上げられた人形の腕が盾を叩くが、何とか受け切る。攻撃力は並程度。男にダメージは少ない。
 剣士が刃にエネルギーを溜めていく。渾身の力で剣を振ると、黒い光の衝撃波が轟と唸った。
 封砲に撃ち抜かれて人形が倒れる。けれど、ディアボロはまたすぐに立ち上がった。呆れるほどのタフさだ。
 さらに攻撃を畳み掛けようとしたところで、物音に気づいた男の足が止まる。
 別荘を囲む木々を掻き分け、二体目のキラードールが出現。三体、四体、五体と人形が続いて姿を現していく。
 都合十体ものキラードールが、男の眼前を覆った。
「くそッ……群れやがって……!」
 剣を構えたまま、男はじりじりと後ろに下がった。同時に、懐からSOS発信機を取り出す。
 敵の数が多すぎる。一人で全員を相手にしながら主人を守るのは、考えるまでもなく不可能だ。久遠ヶ原に救援を頼まなくては。
 窮地に立たされた撃退士の耳に、高い声が響いた。

「あはは。まさに絶望した、って感じの顔ですね」

 声は、人形たちの後ろから聞こえていた。
 人形の群れが広がっていく。
 キラードールの影に隠れていたのは、水色のワンピースを着た小さな少女だった。青い髪と同色の瞳が印象的だが、外見は人間と大差ない。
 けれど、少女が放つ禍々しい雰囲気は、ただの人間ではあり得ないものだった。
 激しく降る雨の中にいるような息苦しさを感じ、男が戦慄の声を漏らす。
「悪魔……いや、ヴァニタス、か……!?」
 少女は明るい笑みを持って答えた。
「ヴァニタスのレインと申します。その子はあたしたちが貰っていきますので、おとなくしく消えてくださーい」
 雨を名乗る少女が掌をかざした。ヴァニタスの手から、コバルトブルーの光が輝く。
 直後、男の全身を衝撃波が吹き飛ばした。
 鋭い激痛に、絶叫をあげて男が倒れる。
 手にしていた発信機も後ろに吹き飛び、地面に落ちた。
 レインが放った蒼い光弾は、一撃で男を戦闘不能状態に陥らせていた。
 地に伏した男にとどめを刺そうと、レインが再び手をかざす。
「――やめてぇっ!」
 叫びと共に娘が動いた。両手を広げ、庇うようにして男の前に立つ。
「こ、これ以上この人に酷いことしないで! あなたの目的は私なんでしょ!?」
 恐怖に身を強張らせながらも、娘は気丈に声をあげた。
 そんな娘に、レインは優しく微笑んでみせた。
「良い子ですね、あなた。気に入りましたよ」
 かざした手をおろし、レインがキラードールに命じる。
「ドールちゃん、その子を運んでください。大切な家畜なんですから、傷つけちゃ駄目ですよ? ……あーあ、カエルちゃんがやられなきゃ、こんな面倒なことにはならなかったんですけどねー」
 娘を連れて、気まぐれなヴァニタスとディアボロが去っていく。
「っ……待て……!」
 深手を負って動けない男が、声を振り絞る。
 森の中に消えていく少女たちを、男は黙って見送ることしかできなかった。
 

●久遠ヶ原学園

「……以上が、交戦した撃退士からの報告です。」
 女教師が、集めた生徒たちに向かって事件の概略を説明していく。
 デモンフロッグによる誘拐未遂事件が起きた周辺地域で、同様の事件が頻発していることがその後の調査により判明した。
 そして、今回起きたヴァニタスによる拉致事件。
 学園は、事件が起きた一帯のエリアのどこかに、ゲートが展開している可能性が高いと結論づけた。
「幸いにも、被害者はヴァニタスに攫われる直前にSOS発信機を隠し持っていったらしく、現在地が把握できています。こちらです」
 教師が取り出した地図の一点を示す。
「ここは天魔襲来を受けて廃村となった小さな村なのですが……おそらくここを中心として、小規模なゲートが展開しているのではないか、と推測されています」
 廃村は周辺地域から少し遠い、人里離れた山奥にある。水面下で動いていたのならば、これまで気づけなかったのも仕方ないといえた。
「学園としては、充分に情報を集め、戦力を整えてからゲート攻略に臨みたいのですが……」
 教師が言いにくそうに告げる。
「あなたがたには今すぐ支配領域と思われるエリアに出向いてもらい、ヴァニタスに攫われた少女を救出して欲しいのです」
 愛娘を連れ去られ、若き女社長である母親は相当ショックを受けたらしい。報酬はいくらでも払うから、今すぐ娘を取り戻して欲しいと学園に懇願したという。
 だが、戦場は未知の領域。敵の戦力も、ほとんど不明だ。最大戦力と思しきヴァニタスの能力が未解明なのも痛い。
 要救助者の現在地は発信機によって分かってるが、その他の拉致された人々がどの程度いるのか、どこにいるのかは分からない。
「あくまで最優先目標は要救助者の救出ですが、今回の依頼は敵地の偵察も兼ねています。可能な範囲でよろしいので、ゲート攻略に繋がるような情報を持ち帰ってきてください。よろしくお願いします」

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リプレイ本文



 冥魔の支配領域と化した廃村。
 その上空を、数名の翼ある者が飛んでいた。

 はぐれ天魔たちに混じって上空からの偵察を行うのは、日ノ宮 雪斗(jb4907)が使役するヒリュウのロセウス。
(……頑張らないと。足手まといにならないように)
 温和な召喚士は、静かな決意を胸に秘めていた。
 雪斗と視覚を共有した小型竜が、敵に見つからないよう飛び回る。
 ロセウスが目撃した敵の位置や廃村の状況を、雪斗が光信機で仲間たちに伝えていく。

 闇の翼で飛行するオーデン・ソル・キャドー(jb2706)は、何とか廃村の中心部を上空から窺うことに成功していた。
 確認できたのは、中心部に展開する小規模なゲート。そして周囲に密集するディアボロたち。
 おそらくゲートを守護しているのだろう。そのキラードールたちは剣や盾を構え、外敵に備えて警戒しているように思えた。
 敵に察知される前に引き返し、オーデンは再び慎重に偵察を続けた。


 天耀(jb4046)は上空偵察班からの連絡を受け取ると、サイレントウォークを発動した。
 音もなく駆ける天耀が向かうのは、救助対象がいると思われるエリア西北西。
 雪斗からの報告で、近くの敵がどこにいるのかは概ね把握している。
 安全なルートを選択して先行する天耀の後方には、ケイ・リヒャルト(ja0004)、アスハ・ロットハール(ja8432)、鈴木悠司(ja0226)の三名。
 やがて天耀の前に、豚小屋か牛小屋のような、細長い畜舎が見えた。
「……っ!」
 先行する天耀が、廃屋の陰にばっと隠れた。
 後続の仲間に停止の合図を示し、見張りがいると伝える。
 救出班の面々が、天耀と同じように物陰に身を隠す。
 まだ突入するべきではない。
 上空からの大雑把な偵察では、小柄なヴァニタスの所在までは掴めなかった。
 ヴァニタス・レインを足止めしなければ、救出作戦に支障が出る恐れがある。
 別動隊である陽動班からの連絡を待ち、救出班の面々は待機した。




 エリア内某所。
 一体のキラードールの前に、陽動班の撃退士たちは姿を現した。
「そろそろはじめましょうか」
 桐村 灯子(ja8321)の言葉に、上空の天使が嬉々と頷く。
「陽動として動くので、今回は派手に! 派手にいきますね!」
 バトルフリークのエリーゼ・エインフェリア(jb3364)が、楽しげに雷槍を召喚。人形めがけて、槍を一気に振りぬいた。
 轟音が迸る。
 蒼天から投擲されたエリーゼの雷槍は、落雷の如く人形を貫いた。
 同じく上空のオーデンも、ヨルムンガルドでドールを銃撃する。
「一、二、三発。どの位持ちますかね?」
 敵の耐久性を見極めるように、オーデンがアウルの弾丸を連射。
「来てっ! ロセウスちゃん!」
 雪斗が召喚したヒリュウも、ブレスによって援護攻撃を放つ。
 上空から放たれる連撃が、ドールを一方的に嬲っていく。
 六発目の攻撃が命中したところで、ようやく人形は倒れた。

 無数の足音が迫る。
 一体目を倒した頃には、撃退士の侵入を察知したドールの群れが駆けつけてきた。
 八体ものドールが、撃退士たちを取り囲んでいく。
 背後を取ったドールが、雪斗に襲い掛かろうと動いた。
「させないよ!」
 緋野 慎(ja8541)が廃屋の屋根から風手裏剣を放ち、雪斗へと向かうドールの脚に突き刺す。
 神秘の風を発動した灯子も矢を飛ばし、同じ箇所を撃ち砕いた。
 片脚を潰されたドールが転倒する。
 その隙に雪斗がディアボロと距離を置こうとした瞬間、


 蒼い光弾が、雪斗の小さな体を吹き飛ばした。




 遠方から雪斗を撃ったのは、青い髪の少女だった。

「あれー? どうして撃退士がここにいるんですかー?」
 蒼きヴァニタス・レインが、間延びした声で疑問を呈する。
 うーん、と少しのあいだ唸っていたが、すぐに納得したように頷いた。
「ま、なんでもいっか。ちょうど退屈してたとこですし、遊んであげますよ」
 レインが掌をかざす。手からは蒼い光が溢れている。
 魔手は、地面に倒れた雪斗を越えて、慎に向けられていた。

「――すこしは、楽しませてくださいね?」

 微笑み、レインが光弾を放った。
 高速で飛来する蒼い衝撃波を、回避に特化した少年忍者が横に跳んでかわす。
 接地と同時に、慎は風手裏剣をレインへと飛ばした。
 ヴァニタスは避ける素振りすら見せなかった。
 レインがハエでも追い払うように軽く手を振って、風手裏剣を弾き落とした。
「なっ……!?」
 驚愕する慎に、レインが再び攻撃しようと腕を向ける。

 上空から光。

 エリーゼが放った雷槍ブリューナクが、レインへと真っ直ぐ飛んでいく。
 やはりレインは避けなかった。
 雷槍は直撃した。
 けれど、魔法攻撃に特化したエリーゼの雷槍を受けても尚、ヴァニタスは笑っていた。
 レインが慎へと攻撃を続ける。
 放たれた蒼い光弾は、慎に直撃する寸前で不自然に軌道が逸れた。
 彼を護ったのは、灯子が発動した守護の風による竜巻。
 灯子が後方からレインに語りかける。
「あなた、魔法性能が高いのね。攻撃力だけじゃなく、防御力まで……まるでダアトみたい」
 レインが無邪気に笑う。
「えへへ。よく分かりませんけど、あたしはディアナ様のヴァニタスですもん。強くて当たり前じゃないですか」
「……『ディアナ』? それが、あなたをヴァニタスにした悪魔の名前なのかしら?」
 怜悧な射手が言葉の矢を紡いでいく。
 少しでも情報を引き出したい。
 灯子の問いに、レインはうっとりとした表情になった。
「そうですよ。ディアナ様は、家畜同然の人間だったあたしを特別なしもべにしてくれた、あたしだけのご主人様です。強くて綺麗な、あたしだけの……」
 恋する乙女のように頬を朱に染め、レインが喋り続ける。
 エリーゼも上空から訊ねた。
「随分と人間を収集する事にご執心みたいですけど、貴女は何を企んでいるんですか? そのディアナというかたが関係しているんですか?」
 エリーゼを見上げ、口を尖らせたレインが答える。
「見てのとーりです。たくさん家畜を集めて、ディアナ様に魂をあげようと……はぁ」
 レインが溜息をつく。
「あーあ。まさか、こんなにはやく見つかるなんて思ってませんでした。どうしてバレちゃったんだろ。やっぱりあの時の撃退士、ちゃんと殺しとけば――」
 レインの言葉を、轟音が遮った。
 飛翔するオーデンの放った封砲が、レインの頭上に迫る。

 だが、それがレインの体を貫くことは無かった。

 上空の動きに気づいていたレインが、封砲を紙一重でかわし、そのまま反撃の光弾を撃ちこむ。
 オーデンは咄嗟に盾を活性化させ、何とか光弾を受け止めた。
 レインが驚いたような声をあげる。
「あはは。あたしの攻撃を受け切るなんて、けっこうすごいですね。じゃあ、もう一回っと」
 レインに斬りかかろうとしたオーデンの全身を、蒼い光が包みこむ。
 光弾は、今度は直撃だった。
 衝撃波でオーデンが吹き飛び、地面に堕ちていく。




 オーデンが倒れる少し前。

 レインを誘い出すことに成功したという陽動班の報告を受け、救出班は作戦を決行した。
 天耀がハイドアンドシークを発動。
 ケイとアスハ、悠司が見張りのドールたちを引きつけている間に、潜行の効果を得た天耀が、単身で小屋に突入していく。
 畜舎に足を踏み入れた天耀は、思わず入り口で立ち止まった。

 ――小屋の中では、十数名の一般人が監禁されてた。

「えぐいことしやがって……」
 天耀が眉をひそめながらも、鎖で繋がれた少女の一人に近づいていく。
 意識を失っているが、依頼人の娘、望月佐織で間違いなかった。
 超人的な腕力で鎖を引きちぎり、天耀は佐織を抱えて小屋を出た。

 娘を連れて逃げる天耀の前に、一体のドールが壁となって立ちはだかる。
 天耀は立ち止まらない。

 天耀の傍らを、一閃の弓矢と赤髪の人影が駆けていく。

 ケイの弓矢が命中し、ドールの脚に刺さった。さらに、接近したアスハが杭を撃ち出す。
 二人の集中攻撃を浴びて、ドールが一瞬だけひるんだ。その隙に天耀はドールを抜け、全力で疾駆。
 天耀を追いかけようとした二体目のドールを、悠司が掌底で後ろに吹き飛ばす。
「人形風情が……撃ち抜け、バンカー!」
 アスハも攻撃を重ねる。そのまましんがりを努め、仲間たちの離脱を補助する。

 救出には成功した。あとは、無事に死地を脱するのみ。




 離脱に移行した救出班の撃退士たちが、エリア内を走り抜けていく。
 目指すは、あらかじめ決めておいた合流地点。
 追いかけてくるドールの脚を潰しつつ、ケイが周囲に視線を巡らせる。
 向こう側から走ってくる何かの姿を、ケイは捉えた。
 キラードール、ではない。
 それは仲間たち――陽動に動いていた面々だった。
 陽動班と救出班が予定通り落ち合う。
 だが、なかには気絶寸前まで追い込まれている者もいた。

 彼らの後ろから現れたのは、数体のキラードールと、青いワンピースを着た青髪青眼のヴァニタス。
 人形を従える蒼い女王に、ケイが一歩近づく。
 口許には穏やかな微笑。
「それ、素敵な青いドレスね――思わず、汚したくなるくらいに」
 反応を窺うべく、ケイが牽制の弓矢を放った。
 レインは軽く首を振って矢をかわした。
「んー。それはちょっとイヤですねー」
 ゆるい声と動作で、レインが光弾を発射。
 おそらく本気の攻撃ではないのだろう。
 けれど、ケイは回避できなかった。
 まともに光の衝撃波を浴びて倒れたケイのもとに、悠司が駆け寄る。
「ケイさんっ!」
 駆けつけた悠司が縮地を発動。ケイを抱え、レインから離れていく。
 これで戦闘不能者は三人。
 灯子、慎、悠司の三人も彼らを抱えてるので、本格的な戦闘は難しい。
 救助対象を抱える天耀も除外すると、まともに戦えるのは残り二人だけしかいなかった。
 赤髪の青年が前に出る。

「悪いが付き合ってもらうぞ、レディ」

 そう言って、アスハは一気に敵のレインに飛び込んだ。
 敵の能力を見極める。
 アスハが魔断杭を発動。巨大化させたバンカーから杭を射出し、レインへと撃ち込もうとした。
 物理攻撃として放たれたアウルの杭が飛ぶ。
 レインの顔つきが、一瞬だけ変わった気がした。

 レインは、勢い良く後ろに飛び退いた。

 それまでレインがいた空間をバンカーの杭が虚しく貫く。
「――っ!」
 レインの掌から暗青色の光が噴き上がる。
 光弾とは異なる、蒼い光。
 光は槍のように鋭く尖り、レインの掌から真っ直ぐ発射された。
 轟音が唸る。
 放たれた光槍は、アスハごと直線上のすべてを薙ぎ倒していた。

「……っ、あはは」

 レインが笑う。一瞬だけ見せた焦ったような表情はもう消えていた。
「つい本気になっちゃいました。あなたたち、ヒマ潰しの相手にしては面白いですね」
 レインが、アスハを抱きかかえたエリーゼに向き直る。
「それで、あなたはどう来るんですか?」
 更なる戦いを期待しているのか、レインは愉しげな笑みを浮かべていた。
 エリーゼは即答した。
「そんなの……即撤退に決まってます!」
「えー? 逃げるんですかー?」
 つまらなそうにレインが言うが、適切な判断だろう。
 すでに半数が戦闘不能。
 これ以上戦えば、全員生きて帰れる保証はない。
 それに、最優先目標はもう達成している。レインを足止めしている間に、依頼人の娘を連れた天耀はいち早く戦場を離脱した。今ごろエリアの外だろう。

 エリーゼは炎剣を召喚し、レインへと叩きつけた。
 爆炎で視界を遮った一瞬の隙に、エリーゼが全力で逃走。負傷者を抱えた他の仲間たちも、一斉に撤退していく。

 途中、追いかけてきたドールたちに何度か攻撃されたが、大したダメージを受けることなく、何とかエリア外まで辿りつくことが出来た。
 撃退士たちに傷を負わせたのは、それよりも、最後に放たれたレインの言葉だろう。
 支配領域を出てすぐに、レインは追いかけるのを止めた。 
 無邪気で残酷な笑みを浮かべて、少女はこう言ったのだ。

「撃退士って――すごく弱いんですね。やっぱり、殺す価値なんてないですよ」

 つぎも来たら、また遊んであげます。

 レインのその言葉が、まるで不快な雨音のように、撃退士たちの耳に残響した。


●エピローグ

 その後、無事に依頼人母娘は再会を果たした。
「あ、あのっ。助けてくれて、ありがとうございました!」
「あー、いや。別に気にしなくていいぜ。困ってるヤツ助けるのが、撃退士の仕事だからな」
 感謝を述べる佐織に軽く手を振り、天耀はその場を後にした。
 思い返すのは、小屋の中に監禁された人々の姿。
「なんとかして、全員助けてやりてぇよな……」
 今回、佐織を救うことは出来たが、同じようなことをやっていてはきりが無い。
 レインのエリア内に攫われた多くの人々を救うには、ゲートコアを破壊するしかないのだ。
 そのために必要な最低限の情報は、今回の依頼で得ることができた――はずだ。


 今回得られた情報は、以下のような形で報告書にまとめられた。
 そのうちの一部を抜粋する。

【ヴァニタス『レイン』について】

『魔法性能、特に魔法攻撃力と魔法防御力に優れた個体であると推測される。
 遠距離からの魔法攻撃を基本とし、並の撃退士であれば一撃で致命傷となるほどの破壊力を誇る。
 逆に、接近戦や物理攻撃が苦手だと思われるような挙動を示した。
 判明した攻撃技は二つ。遠距離攻撃の光弾と、近中距離攻撃の光槍。その他の攻撃技は不明』


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 胡蝶の夢・ケイ・リヒャルト(ja0004)
 蒼を継ぐ魔術師・アスハ・A・R(ja8432)
 Man of Devil Fist・天耀(jb4046)
重体: −
面白かった!:5人

胡蝶の夢・
ケイ・リヒャルト(ja0004)

大学部4年5組 女 インフィルトレイター
撃退士・
鈴木悠司(ja0226)

大学部9年3組 男 阿修羅
光の刃・
御子柴 天花(ja7025)

大学部3年220組 女 阿修羅
余暇満喫中・
柊 灯子(ja8321)

大学部2年104組 女 鬼道忍軍
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
駆けし風・
緋野 慎(ja8541)

高等部2年12組 男 鬼道忍軍
おでんの人(ちょっと変)・
オーデン・ソル・キャドー(jb2706)

大学部6年232組 男 ルインズブレイド
水華のともだち・
エリーゼ・エインフェリア(jb3364)

大学部3年256組 女 ダアト
Man of Devil Fist・
天耀(jb4046)

大学部4年158組 男 ナイトウォーカー
温和な召喚士・
日ノ宮 雪斗(jb4907)

大学部4年22組 女 バハムートテイマー