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マスター:烏丸優
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/08/16


みんなの思い出



オープニング




 東北某所。
 人里離れた山の中に、サバクはいた。
 撃退士と休戦の約束を交わしてから、ここしばらくは平和な日々が続いている。戦いが存在しない日常はサバクにとって刺激に欠けるものだけれど、不満があるかと言えばそうでもない。
 いつも側に、ミズカが居るからだ。
 朽ち木に腰を下ろしたサバクが、眼前に広がる退屈な山林の風景から右隣へと視線を移す。彼女は肩にもたれかかるようにして、サバクに頭を預けていた。
 心地よさそうな表情を浮かべて隣に座る少女を、改めて観察する。黒髪のロングヘアに、整った顔立ち。手足は細く、華奢な体つきをしている。おとなしくしていれば人形のような印象だが、こうしていると人懐っこい小動物といった感じだ。
 再会して以来、ミズカは過剰なほどに甘えてくるようになっていた。一度離別の恐怖を味わったことで、より依存心が強くなったのかもしれない。
 ミズカが目を閉じ、うっとりとした口調で語る。
「あのね。私、今すっごく幸せ。あなたと一緒にいるだけで楽しいの。こんな感覚、少し前までは知らなかった」
「…………」
 サバクも同じ気持ちだった。しかしここで『俺様も大好きだぜヒャッハァ!』などと返せるはずもなく、無言のまま右腕でミズカを抱きしめた。自分の胸板まで引き寄せて、彼女の頭を優しく撫でていく。
 ミズカは嬉々としてサバクの手を受け入れた。拒絶する理由は何もない、とでもいうように、されるがままに撫でられる。
 ふと愛撫を中断して、サバクは訊ねた。
「なァ、ミズカ。お前、俺が怖くねェのか」
「……? どうしたの、急に?」
「俺がこの手で人間共をぶっ殺してきたのは知ってンだろ。お前の知ってる奴も、どっかで殺してるかもしれねェ。それくらい殺して殺して、殺しまくってきた。それでもお前は、こんな俺が怖くねェのかよ」
 サバクにしては、割と真剣な質問。もっともミズカにとっては今更すぎたのか、彼女はふるふると首を振った。
「怖くなんかないよ。はじめて遇った時は怖かったけど……でも、今は違う。私たちは『同じ』だもの。『あなたが私を殺さなかった理由』も、『あなたが戦っていた理由』も、私はちゃんとぜんぶ分かってるよ」
 そう言って、今度はミズカからサバクに抱きついた。柔らかな感触にサバクがたじろぐのを気にせず、密着した体勢のまま顔を上げて言葉を続けていく。
「それに、私はあなたが大好き。あなたの手がどんなに血で汚れていても、そんなのどうでもいいの。もっといっぱい、その手で触って欲しい。……だめ?」
 零距離から上目遣いでねだられ、サバクは心臓を銃弾で撃ち抜かれた気分だった。反則だ、とつくづく思う。
 あの女、余計なテク教えやがって……。
 だが、そのおかげで吹っ切れた、ような気もする。
 ミズカを抱きしめ返して、サバクは言った。
「あー……ったく、仕方ねェな。お前がそこまで言うんだったら、してやンよ。嫌だっつっても止めてやんねェからな」
「うんっ」
 サバクのぶっきらぼうな返事に、ミズカは嬉しそうな笑みを浮かべた。サバクの胸板に頬擦りしながら、撫でて撫でて、と言わんばかりに頭を差し出す。
 そんなミズカの小さな頭へと、再びサバクが手を伸ばした。指で梳くように後ろ髪をゆっくり撫で下ろしていくと、ミズカは気持ちよさそうに目を細めた。
 平穏な時間が緩やかに過ぎていく。
 退屈だが幸せな日々だった。
 けれど、そんな砂糖にまみれた日常は、突然に終わりを迎えた。
 まるで世界が、二人の幸福を否定するかのように。



 ある日の朝。起床したミズカが近くの川まで顔を洗いに行こうとした時に、『それ』は現れた。
「きゃあああああっ!」
 ミズカの悲鳴が川のほうから聞こえ、サバクが即座に振り向いた。
 そこで見たのは、ミズカの全身に絡みつく半透明の青い物質。スライム状の触手が上流から無数に伸び、ミズカを襲っていた。苦しそうな表情のミズカが必死に抵抗しようとするが、触手の束縛からは逃れられない。
 サバクは考えるより先に動き出していた。思い切り地面を蹴り、ミズカのもとへと全速力で駆ける。
「……っ、サバク……!」
 触手に囚われたミズカが、助けを求めて必死に左手を突き出した。サバクはその手を掴もうとしたが、その寸前でミズカが後方に引っぱられた。ミズカが夥しい数の触手にずるずると引きずられ、根元にいた本体らしきスライムの塊に呑み込まれる。
「ミズカっ!」
 サバクが叫び、巨大なスライムの中に取り込まれたミズカを救うべく川に飛び込んだ。そのままスライムに向かって突撃する。同時に四方から衝撃。
 サバクは無数の少女たちに囲まれていた。桃色の髪に白いドレス姿。一見するとミズカと同年代の人間のようだが、決定的に異質な箇所があった。彼女たちの両手は、鎌状の刃になっていたのだ。それはサバクに、蟷螂の前脚を想起させた。が、今はどうでもいい。ミズカ以外はどうだっていい。邪魔だから全員死ね。
 周囲を見渡せば、他にもサーバントらしき異形の獣や亜人がわらわらと姿を見せている。管理者を失った凶暴な野良サーバントの集団と、不運にも遭遇してしまったのだろう。
 カマキリ腕の少女たちの攻撃を捌きながら、ミズカに視線を向ける。
 スライムに捕縛されたミズカは意識を失っていた。首や手足の一部だけがスライムの体外に出ている。
 まだ死んではいないようだが、このままでは、おそらく――
「糞ったれが……テメエらなんざに、ミズカを殺されてたまるかよォォッ!!」







 同日同時刻。
 野良サーバントを討伐すべく派遣された学園生たちが、現地に到着していた。
 デイモスリッチや無数のサーバントの死骸が転がる中、そこにはサーバントの大群と独りで戦うサバクの姿があった。
 すでに戦闘が開始してそれなりに時間が経過しているのか、サバクの身体はぼろぼろだった。全身を切り裂かれ、あちこちから血を流している。
 サバクを取り囲む少女型サーバント――華蟷螂たちが、両手の鎌を振るう。避けようとするサバクの肩や腕、脇を華蟷螂の刃が掠め、血飛沫が弾ける。
 血塗れの不死王が吼えて、大鎌を薙ぎ払った。渾身の一撃。だが桃髪の少女は読んでいた、とでもいうようにひらりとかわし、再び苛烈な集中攻撃を繰り出す。また、サバクの身体に新たな傷が刻まれていく。
 撃退士から見た戦況は、明らかにサバクの劣勢だった。サーバントが多すぎる。
 どうやらサバクは、囚われたミズカを助け出すために、単体でサーバント集団と戦っているようだ。そして奇しくもそれは、撃退士が追っていた相手でもある。
 今この場において、撃退士とサバクの利害は一致している。一時的にサバクと手を組むことも、できるかもしれない。
 無論、サバクとサーバントが消耗した後に漁夫の利を狙うという手もある。
 もしもここでサバクかミズカ、あるいは二人ともが死ねば、未来は何か変わるだろう。
 すべての可能性は、この場にいる撃退士ひとりひとりの手に委ねられていた。 
 
 
 




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リプレイ本文




 絶対絶命だった。
 サバクの全身を覆う包帯は、自身の血でべっとりと汚れている。体中を斬り裂かれ、多数の箇所から血液を噴き出していた。
 蒼白な表情に覇気はなく、顔からは多量の汗が流れている。スキル攻撃を喰らい、朦朧の状態異常を付加されているのだ。
 サバクは頭に靄がかかったような気分だった。思考がぼんやりとして、体に力が入らない。
 その間にも、蟷螂娘たちの群れは包囲網を狭めていく。
 前後左右を円状に囲まれ、最早、サバクに逃げ場はない。
(……俺は、ここで終わンのか。こんな雑魚共に……俺は負けるのかよ)
 やっと見つけた大切なものを、守ることすら出来ずに。
 サバクが絶望に沈みかけた、その瞬間だった。華蟷螂たちの後方で、突如として朱色の閃光が炸裂。雷鳴の如き轟音が響き渡った。
 まっすぐと迸る鮮やかな赤い雷が、野良サーバントの群れの間を貫き爆ぜていく。
 何が起きたのか、最初はサバクにも解らなかった。
 予想外の攻撃を受けた華蟷螂がそれぞれ振り向き、雷撃が放たれた方に視線を向けた。
 朦朧とする意識の中、サバクも緩慢な動作でそちらを見る。
 深藍色の瞳と、目が合った。
 藤色の髪をした女は優雅な微笑を浮かべたまま、口を開いた。
「おやおや、どうしたんだいサバク君? 不死王ともあろう者が、ずいぶんと押されているみたいじゃないか。その大仰な称号は飾りなのかい?」
 いつものように、ハルルカ=レイニィズ(jb2546)が芝居がかった口調でサバクに語りかける。
 それはサバクのよく知る、撃退士の姿だった。
「よぉロリコン、随分とみっともねぇ格好してんじゃねぇか?」
 続けて、右目に眼帯をつけた碧眼の少女――宗方 露姫(jb3641)が登場。男のように乱暴な言葉遣いで、サバクに声をかけた。
 未だに状況を掴めないサバクが、やっとのことで声を絞り出す。
「……テメエら……どうして、ここに……」
「あぁ? んなもん決まってらぁ。ダチとダチのカレシを助けに来てやっただけだよ!」
 思いがけない露姫の言葉に、サバクが目を見開く。
「よう、ダチ公。無事……じゃなさそうだな。お姫さんを助けるのに手を貸すぜ」
 さらに現れた蒼銀の髪をした少年、蒼桐 遼布(jb2501)はヴァニタスに向かってこう言った。
「お前の大事な人を助けるのを手伝うのに、理由なんていらねぇ」
「互いに利害は一致してるんだ……それに今は休戦中、だろ?」
 遼布に次いで女顔の双剣士、志堂 龍実(ja9408)がサバクに話しかけた。龍実はこれまでの経緯から、現在のサバクを敵としては見れない。建前上はサーバント討伐のためだが、本心ではそれ以上に二人を助けてやりたかった。
 そんな心情を察するように、銀髪の少女が頷く。
「……ボクたちは、敵じゃないですの。だから……背中は任せて」
 橋場・R・アトリアーナ(ja1403)も、現時点でサバクと無用な争いはするべきとは思わない。それに、個人的にだがミズカには幸せになって欲しかった。こんなところで、彼女を死なせたくはない。
 撃退士たちの言葉に、サバクの表情に戸惑いと驚き、そして希望の色が浮かぶ。
(この前のこともあるし、手助けしない理由もないよね)
 森林(ja2378)は内心でそう呟き、長弓を召喚。少年が首にさげる勾玉が、光纏に呼応して朧な赤い光を放った。
 弓矢を番いながら、森林がサバクに向かって叫ぶ。
「必ず、ミズカさんを助けましょう!」
 かくて、撃退士と不死王の共闘が始まる。






 蒼い影が疾る。
 零の型で一気に加速したアスハ・A・R(ja8432)は、サバクの死角である背面に瞬間移動していた。
 不死王と背中合わせで並び立ち、光纏により完全な蒼髪へと変化したアスハが構える。直後、魔術師の正面、左右の三方向から放たれた少女たちの腕が閃いた。
 無数に繰り出された華蟷螂の鎌を、アスハはどれも寸前で避ける。首を狙った横薙ぎの一撃は屈んでかわし、即座にバックステップで後方に跳んだ。鋭く伸びてきた蟷螂の腕の間合いから何とか逃れ、反撃に移ろうとかけて再び跳躍。誓いの闇で阻みつつ回避し、猛攻をやり過ごした。
 そうしてアスハが引き付け、一箇所に密集させた敵をエリーゼ・エインフェリア(jb3364)が見下ろす。光翼で上空を飛翔する黒衣の天使はにこにこ微笑みながら、爆撃の狙いを定めていた。
 地上へと両手をかざしながら、エリーゼがつらつらと考える。
(運が良いのか悪いのか……サバクさんに出会えただけ、運が良い方でしょうか)
 このタイミングで二人と出くわすのは予想外だった。対サーバント戦力が増えたというべきか、あるいはミズカを助け出す負担が増えたというべきか。
 とりあえず、今のサバクを殺すつもりはない。ミズカが『生きて』そばにいる限りは、サバクも撃退士との休戦協定を守るだろうし。
「それじゃ、当たったら危ないので頑張って避けてくださいねー、サバクさんも?」
 そう言ってエリーゼは掌に集束した魔力を解き放った。光の豪雨が猛烈な勢いで華蟷螂たちに降り注ぐ。
 浴びれば即死する死の雨を、サーバントは予測回避能力を発揮して辛うじて避けた。エリーゼの狙い通りだった。
 予見の発動にインターバルがあることは把握済み。あくまで本命は、仲間の攻撃だ。
「『彼女』には及ばんが……とくと味わえ」
 包帯を巻いたアスハの左手から蒼い燐光が漏れる。魔術師の周囲に三日月の如き蒼い刃が一つ、二つと出現し、弾け飛んだ。
 荒々しく舞う冥府の蒼月が、サーバントたちに炸裂し、そのうち一体の全身をばらばらに斬り刻む。まずは一体撃破。
 CRを負に傾けた代償で華蟷螂の反撃が苛烈になるが、リスクは承知の上だ。頬や肩口に鎌を掠めながらも、不利を愉しむようにアスハは笑っていた。
 他方、アトリアーナ。
 両手にアウルを集中させた阿修羅の娘は、紅く輝く巨大な球体を創り上げていた。
 紅空堕太。
 アトリアーナが太陽のように輝くソレを発射し、友人であるアスハに群がる蟲たちへと撃ち込んだ。着弾と共に爆裂した球体が、範囲内の華蟷螂を次々と葬り去っていく。
 無機質な瞳の少女型サーバントたちは怯まずに突撃。手近な前衛撃退士やサバクに猛進して襲いかかる。
 森林は味方に向かう華蟷螂に矢を放ち、牽制。回避されるが、予見を使わせることに成功。
 さらに流草を発動し、アウルの矢を沢山の笹の葉に変化。サバクに斬りかかる蟷螂娘の腕に当て、わずかに狙いを逸らさせた隙に不死王が離脱。ぎりぎりのところで死神の抱擁をかわす。
 回避射撃でサバクを支援しつつ、森林は無粋な天の眷属共に告げた。
「人の幸せの邪魔は、野暮ってものだと思いますよ」
「まったく同感だな」
 遼布が鋼糸を乱舞させ、サバクに近づく華蟷螂を追い払う。予見で見切られるが、立て続けに龍実が干将莫耶で斬り込み、連撃を浴びせていく。
 袈裟懸けに斬られた血塗れの蟷螂娘はそれでも動きを止めず、サバクに襲いかかった。龍実は咄嗟に庇護の翼を展開し、不死王へのダメージを肩代わりする。
 いくら不死身を気取ったサバクでも、これ以上の負傷は不味いだろうと龍実は感じていた。
 不死王に群がる華蟷螂を朱雷で掃いながら、ハルルカが訊ねる。
「サバク君、血啜りはまだいけるかい?」
「……あァ。あと一発くらいなら、何とか撃てる」
「OK。そこの彼女、橋場君とタイミングを合わせて使うといい。私たちには当てないでおくれよ」
 ハルルカの冗談交じりの助言を受け、サバクがアトリアーナに視線を向けた。ヴァニタスと目を合わせた銀髪少女は頷き、淡々と言った。
「……大きいの、いく。利用するなら利用して、ですの」
 アトリアーナの瞳に宿る紅いアウルの輝きと、両拳に宿る黒いアウルの輝きが共鳴。紅と黒の波動が膨れ上がり、二重の波動となって、周囲のサーバントを豪快に薙ぎ払っていく。
 紅黒攻撃が拡散する中、サバクも召喚した血色の刃を撒き散らし、華蟷螂たちを細切れに切断。紅刃で斬ったサーバントから生命力を吸い上げる。
 さらに、生き残ったサーバントたちの間で色鮮やかな爆炎が炸裂。潜行していた露姫だ。サバクの道を抉じ開けるために放ったファイアワークスで、蟷螂娘たちを焼き払っていく。
 露姫はサバクに近づくと、ダークフィリアを発動。影を集約したアウルの力で、ヴァニタスの傷ついた体に癒しを与える。
 撃退士はすでに半数以上の華蟷螂を討伐し、サバクは窮地から脱したと言っていい。だが、問題はまだ残っている。
「おい、聞こえてっかミズカ! お前のダチがお節介掛けに来てやったぜ!!」
 スライムに囚われた少女を振り向き、露姫は鼓舞するように大声を飛ばした。
 まだ間に合うと、信じて。
「――不死王の伴侶になる女が簡単にくたばんじゃねぇぞ、良いな!?」






 サーバントとの戦いが終盤戦に突入する中、アスハとアトリアーナは残った華蟷螂たちと対峙していた。
「……助ける邪魔はさせないのですの。相手は、こっち」
 敵を引きつける役目を担った二人の前衛に、蟷螂娘たちが襲いかかる。アスハの背後から飛びかかろうとした華蟷螂の頭が、光の渦に呑み込まれて瞬く間に灼き尽くされた。エリーゼの光焔だ。上空から戦況を俯瞰する天使は、味方の死角を潰すように支援射撃に従事していた。
 アスハと背中を合わせたアトリアーナの左右から、二体の華蟷螂が迫り来る。死神の抱擁を狙う一体目の攻撃を転がって何とか避けたアトリアーナだが、起き上がるより早く二体目が間合いを詰めてきた。回避が間に合わない。
 ついに、アレを叫ぶ局面が訪れたのだ。
 きりりっと真顔で、アトリアーナが言った。



\ 助けて、ハルルカシールド /



「はいはいお任せあれ」
 アトリアーナの左側面に飄々と割り込んだハルルカが、傘を模した盾でサーバントの鎌を受け止める。強烈な魂刈りの一撃だったが、そこは流石のハルルカシールド。余裕で耐えた。
 アスハを狙う華蟷螂には、森林が牽制の矢を仕掛け、エリーゼが黒雷槍で畳み掛けて爆砕。ごりごり削れて逝く敵の数をカウントしながら、森林は勝利を確信した。
 最後の攻防を終えて、高火力三人娘――アトリアーナ、エリーゼ、露姫がそれぞれ範囲攻撃をブチ放し、残党の制圧に乗り出していく。
 爆音が轟く中、ハルルカの呟きがやけに鮮明に響いた。
「本当に、久遠ヶ原の女性は怖いねえ。ふふふっ」





 他方、対スライム。
 ミズカを救うべく、サバクが怒号を上げてスライムに突撃していく。
 共に救援に向かうのは、龍実と遼布だ。
 一体の華蟷螂が不死王の突貫を阻み、迎撃の鎌を振るう。
 龍実は防壁陣を展開して対応。ヴァニタスの受け防御をサポートしつつ、
「サバク、オマエが無茶してどうする! 助けたいなら冷静に行動しろ! 助けるんだろ、彼女を!」
 龍実がサバクを諭す傍ら、遼布は武装をゾロアスターに切り替え、サバクと一緒になって突撃。華蟷螂に、掌底を叩き込む。
「邪魔だ」
 蟷螂娘を弾き飛ばしながら、三人はスライムのもとまで到達。龍実がスライムの肉体を掻っ捌き、何とかミズカを取り出した。
「ミズカっ!」
 解放されたミズカを、サバクが両腕でしっかりと抱きしめる。無事を確かめ、サバクは安堵のあまり膝から力が抜けそうになった。しかし、まだ気を緩めるわけにはいかない。
 遼布が二人を護るように前に出る。スライムはまだ生きているのだ。龍実に斬り裂かれた箇所も、すでに再生しつつあった。まだ油断はできない。
 とはいえ、いくらタフでも数の力には抗えない時もある。今回サバクがそうだったように。
 ちょうどミズカが救助された五秒後、大半の華蟷螂を撃破した他のメンバーが対スライムに合流していた。
 つまりはそこが、戦いの終わりだった。 







「……無事でよかったですの」
 戦闘後。アトリアーナは、ミズカの頭をぽふぽふと撫でていた。ミズカは多少生命力を吸い取られていたものの、それほど大きなダメージはない。スライムから救出された後、森林の応急処置を受け、すぐに意識を取り戻した。
「気休め程度ですけどね……」
 森林が謙遜しつつ、治癒葉でミズカ、サバクの傷を治療していく。その傍では露姫がリッチに哀悼の意を捧げていた。
(辛酸舐めさせられまくった相手には違いねぇが、ダチを守ってくれたことにゃ変わりねぇしな)
 仮にリッチがいなければ、撃退士たちが到着する前に、二人のうちどちらかが死んでいた可能性は大いにある。そう考えると、撃退署での戦いでリッチが生き残ったのはむしろ幸運だった、のかもしれない。
「……今回はマジでヤバかった。だから……テメエらが来てくれて、助かった」
 ミズカを守ると言った挙句、このざまだ。もしも撃退士が味方をしてくれなかったら、取り返しのつかない事態になっていただろうとサバクは思う。
「……本当に、助かった。その、なんつうか……あれだ。あ……あり……が……あー……」 
 ちゃんと礼を言いたかったが、上手く言えないサバクだった。
 相変わらず不器用な奴だ、と龍実は苦笑しながら、サバクを窘めた。
「もう、絶対にこんなことになるんじゃないぞ」

 

 撃退士たちとサバクのやりとりを眺めながら、エリーゼが胸の中で呟く。
(もしもミズカさんが死んじゃったら、サバクさんも一緒に殺してあげようと思ってたんですけどねー)
 あの世で仲良くする方が、幸せでしょう? とあるヴァニタスを思い出しているのか、エリーゼはそんなことを考えていた。
「……しかし、この現状。奴らがほっとくとは思えないな」
 遼布が思うのは、例の撃退士たちのことだ。この場は切り抜けたが、根本的な問題は何一つ解決していない。
「くそが……せっっかくお姫さんにもサバクにも、幸せが訪れようとしてたのに……」
「……幸せ、か」
 呟き、アスハがミズカを見る。サバクに救われた少女、サバクの隣にしか居場所がない少女を。
 彼女の抱える闇とも、いずれ向き合う必要があるのかもしれない。
「サバク君。キミは――キミたちは、これからどうするんだい?」
 ヴァニタスとしての使命を捨て、ミズカと共に生きる。その困難さを、痛感したはずだ。
 それでも尚、危険と隣合わせでも尚、ミズカと一緒に流浪の道を歩むのか。
 それとも――。
「…………」
 サバクは黙ったまま、何も答えなかった。
 ただ、何かを考えている、あるいは悩んでいる様子だった。
 もしくは、答えは出ているが、『ミズカの前では言えない』ということなのか。
 重たい静寂が、深い澱のようにその場に溜まっていく。
 けれど、決断の刻は間違いなく迫って来ていた。



依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

無傷のドラゴンスレイヤー・
橋場・R・アトリアーナ(ja1403)

大学部4年163組 女 阿修羅
優しき翠・
森林(ja2378)

大学部5年88組 男 インフィルトレイター
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
遥かな高みを目指す者・
志堂 龍実(ja9408)

卒業 男 ディバインナイト
闇を斬り裂く龍牙・
蒼桐 遼布(jb2501)

大学部5年230組 男 阿修羅
黒雨の姫君・
ハルルカ=レイニィズ(jb2546)

大学部4年39組 女 ルインズブレイド
水華のともだち・
エリーゼ・エインフェリア(jb3364)

大学部3年256組 女 ダアト
激闘竜姫・
宗方 露姫(jb3641)

大学部4年200組 女 ナイトウォーカー