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マスター:烏丸優
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:6人
リプレイ完成日時:2014/06/23


みんなの思い出



オープニング

●東北某所

「くそっ……あの包帯野郎、どこに消えやがった!」
 森の中を駆けながら、屈強な男が叫ぶ。
 男はフリーランスの熟練撃退士で、ヴァニタスと戦う危険度は充分に理解している。だが、このままサバクを見逃す事は、どうしてもできなかった。
 サバクは出現以来、何人もの撃退士を傷つけ、殺している。男の仲間も、サバクに殺された犠牲者の一人だった。
 男のようなフリー撃退士は、一定数存在していた。報酬ではなく、憎悪や復讐心で動く者達。
「――あの糞ったれ野郎がしてきた事を、俺は絶対に許さない。必ず殺してやる!」


●東北某所・撃退署

 少女を救った不死王の手は、幾人もの血で赤く染まっている。
 けれど、彼女を救えるのはあのヴァニタスしか居ないのではないかと、公務員撃退士の女は思った。
「これ、事実だとしたら本当にひどいですよね……」
 調査中、と印のついたミズカに関する書類を読みながら、女が口許を手で覆う。資料に落とした目には、憐憫の色が浮かんでいた。
「私なら耐えられないですよ。あの子がヴァニタスに縋るしか無かったのも、仕方ないような気が……」
 少なくとも彼女にとっては、人類を離反する理由になり得るほどの辛苦だ。改めて『サバク側に寝返った』と認定されたミズカは、状況次第では現場の判断で殺害しても構わない、と指示が出される事になったが、果たしてそれで良いのだろうか。
「まぁ、難しい問題ではあるな」
 と、先輩の中年男が禿げた頭を掻く。ミズカの処遇については、なにやら『上』も意見が割れているようだった。
「ミズカには同情できる余地があり、彼女自身が誰かを傷つけたという訳でもない。しかしサバクは、あの娘を連れ戻す為だけに撃退署を襲った。理由はよくわからないし興味も無いが、それだけの執着があるという事は再び捕縛に成功しても同じ事が起きる可能性が高い。ミズカを救済する事も難しく、ならばもう敵として殺すしか手は無い訳だが……仮に殺せたとして、サバクが黙っていると思うか?」
 少しの沈黙のあと、女は答えた。
「……どうするのが一番いいんでしょう。私は、ミズカちゃんには幸せになって欲しいです」
「悪いが俺はあの娘がどうなろうと、最終的にサバクさえ殺せればそれで良いと思っている。サバクを放置しておけば、大勢の撃退士や人間が傷つく事になるからな」
 そう言って、中年男が溜息を吐く。実に厄介な問題だった。
「ま、もうすぐ結論が出るだろう。それより今は、天界の連中だ」




 九魔が去った東北地方では、鳥海山の天使達を始め、天界勢力が勢いを増している。
 故にその撃退署も、管轄地域で出現するサーバントの対応に忙殺されており、『サバクらしき不審人物を発見した』という連絡を警察から受けても、そちらに人員を回す余裕は微塵も無かった。
「わかりました、代わりに久遠ヶ原の撃退士を呼んで対応します。それで、あのヴァニタスはどこで見つかったのですか?」
『それが……そのぅ』
 歯切れの悪い、警官の声。電話越しに聞いていた現地撃退士は、次の言葉に驚愕した。
『サバクが目撃された場所は――』





 日中。
 デパートの明るい店内には、数多くの洋服が整然と並んでいる。
 整理具に吊り下げられた様々な衣服の奥、婦人服売り場の一角――より正確に言うなら、ティーン服コーナーの試着室前に、サバクは居た。
「……いったい何をしてンだ、俺は……?」
 ふと我に返ったようなざらついた声が、デパートの磨き抜かれた白い床に落ちる。ヴァニタスは変装のつもりなのか、着崩した黒のスーツと、同色のサングラスを着用していた。
 事の発端は数時間前。
 無事ミズカと合流できたサバクは追っ手を撒く事に成功したが、そこで幾つかの課題にぶつかった。
 一つは、撃退士から逃亡を続ける中で、ミズカの栄養状態や衣服に問題が出ていた事。ミズカは逃走中殆ど食べ物を口にしておらず、一張羅のセーラー服はもうぼろぼろだった。
 当然サバクはどこかから強奪する事を提案したが、ミズカはそれを受け入れなかった。代わりに、街まで降りて必要なものを買い揃えようとサバクに告げた。
 勿論これにはサバクが猛反対。テメエ狙われてるのわかってンのかよ、と怒鳴り返した。これが第二の問題、ミズカの安全をどうやって確保するかだ。無能力者の人間を連れてとなると、サバクの行動にも制限が多々かかる。ミズカは自分がサバクの『重荷』になっている事を自覚しているのか反論しなかったが、その時サバクは余計な事に気づいてしまった。ミズカが、ヘンテコな襟巻きを持っているという事に。
 その襟巻きは撃退士の男から貰ったもので、おまけに同じ人物から食べ物まで貰っていたという事を聞いて、何故だか分からないが、サバクは酷く不快な感情を抱いた。ミズカに対してなのか、その男に対してなのかは、分からないけれど。
 そして、気がつけばミズカを連れて、前回撃退署を襲った所とは別の小さな町に、買い出しを行うべく出向いていたのだ。
 ――くだらねェ独占欲だよな、と今は冷静に思うサバクだった。しかし、もう遅い。
 試着室のカーテンが開かれる。目を向けると、肩までかかる茶髪を緩く巻いた少女が、少し恥ずかしそうに立っていた。
「ど、どうかな……?」
 花柄のワンピースの上に白いカーディガンを羽織ったミズカが、上目でサバクに訊ねる。男はサングラスをずらして数秒見つめた後、「良いんじゃねェのか」と素っ気無く言って視線を逸らした。
「あなたが好きそうなのを選んだのに……」
 ウィッグと眼鏡で変装したミズカが、反応の薄さにしょんぼりと肩を落とす。それを見兼ねたように、サバクはぶっきらぼうに手を伸ばした。ミズカの瞳に、ぱぁっと輝きが宿る。
「オイ、さっさと次行くぞ。早くしろ」
「……うんっ」
「離れンじゃねェぞ」
 手を繋いだサバクとミズカが、デパートの中を仲良く歩く。
「…………」
 彼らのすぐ後ろでは、マスクや帽子を着用した黒衣の男が、無言で連れ従っていた。
 それは、デイモスリッチの変装した姿。庇護対象をミズカに設定し、いざという時の為の護衛として使えるよう、サバクが同行させたものだった。
 けれど、リッチのその怪しい外見は流石に目立ち過ぎたのか入店早々に一般客に通報され、警察にも顔が割れていたサバク達は存在を気付かれ、密かに久遠ヶ原を呼ばれる事になるのだった――。


●依頼概要・斡旋員より

 東北某所の百貨店にて、サバクとミズカらしき不審人物を発見しました。今の所、平和にデートをしているようにしか見えませんが……相手は殺人ヴァニタスです。油断はできません。
 彼らの行動を監視し、一般人に損害が出ないよう対処して下さい。
 場所は東北某所にある、そう大きくない規模のデパートです。不要な混乱を避ける為、ほとんどの従業員と一般客への通告はまだ行われておらず、ヴァニタスがいる事は周知されていません。
 地下一階は食品売り場。惣菜やパン、菓子なども売られています。一階は靴や鞄、二階から三階は衣服、四階はアクセサリ、ファンシー雑貨などが主に販売され、五階は食堂多数、屋上は休憩所となっているようです。屋上を除き各階は常に沢山の人がいます。
 今回はヴァニタスの撃破より、一般人の安全が大事です。各判断は現場の皆さんに委ねますが、くれぐれもご注意ください。

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リプレイ本文




 色とりどりのブラジャーやショーツが陳列されている。
 デパートに駆けつけた学園生たちがヴァニタスと遭遇したのは、女性向け下着売り場の一角だった。
 恐らく、ミズカ用の下着を購入しようとしていた途中なのだろう。
 フェミニンな白いブラジャーとキュートなチェック柄のブラジャーを両手に握ったまま、サバクは硬直していた。

「――選んであげないのかい?」

 そんな、第一声。
 ハルルカ=レイニィズ(jb2546)は気軽な足取りでヴァニタスに近づくと、まるで友人に挨拶するように話しかけた。
「やあ、こんにちはサバク君。あの不死王が女の子を連れて買い物だなんて、随分と丸くなったものだね?」
「……けっ。よりによってテメエが来やがるとはな。こんな場所までわざわざご苦労なこった、くそったれが」
 ハルルカの接近でようやく我に返ったのか、サバクがWブラジャーを投げ捨てる。代わりに、隣にいたワンピース姿の少女――ミズカを庇うように前に出ながら、サングラス越しにハルルカを睨みつけた。
 ヴァニタスの全身から、ぴりっとした殺気が迸る。
 一触即発の空気。
 だが、ハルルカは涼しい顔でサバクの威圧を受け流した。
「おやおや、そんな怖い顔をしないでおくれ。別にキミたちのデートを壊しにきた訳じゃないんだから」
「……なんだと?」
「おーおー、なんか面白いことやってるじゃないか」
 ハルルカの後方から聞き慣れた声が聴こえ、サバクがそちらに視線を向ける。
 蒼桐 遼布(jb2501)は隠れる気などないのか、「よぅ。元気してたか、サバク」と普通にヴァニタスへと歩み寄っていた。
「……龍野郎まで来てやがったのか」
「蒼桐遼布だ。そういえば、ちゃんと名乗るのは初めてだったか?」
 と、遼布がサバクと話している傍ら。
 床に落ちたブラジャーを拾う、小さな手があった。
 前髪に青のメッシュを入れた娘が、さきほどまで両手ブラ装備だった男に冷ややかな視線を向ける。
「へー……テメェそーいう下着が好きなわけ? ってーか表出てろ表! ミズカといちゃつきてぇのは分かるが、悪目立ちし過ぎだっての!」
 ついて来い、と宗方 露姫(jb3641)がサバクの手を掴んで引っ張っていく。



 衝撃の遭遇から数分後。
 場所を屋上に移して、撃退士とヴァニタスは改めて対峙していた。
「……テメエら、一体どういうつもりだ。どうして襲ってこねェ。あと何だその生ぬるい目は」
 警戒心を剥き出しにした、サバクの疑問。
 それに答えたのは志堂 龍実(ja9408)だった。
「ここを戦場にする訳にはいかないからな。オマエと本格的に戦うことになれば、ここにいる人たちにも被害が及ぶ可能性が大きい。そんな事態になることは極力避けたい」
 それに、と龍実が続ける。
「オマエだって、ここでの戦闘を望んではいないんだろう? もしも戦う気なら、ミズカを連れてくる訳がないしな。本当にただデートをしているだけだというのならば、自分たちとしても無理に戦うつもりはないさ」
 それは龍実だけではなく、参加者全員の総意だった。撃退士の側に、戦意を見せる者は一人もいなかった。
「まぁ、オマエの用事が終わるまでは監視させて貰うが……こちらから仕掛ける気は無い。勿論、ミズカにも手は出さない。どうだ、ここは一時休戦といかないか?」
「…………」
 あくまで警戒を解かないまま、サバクが龍実たちをじっと睨む。撃退士の本心を探るように。
 やがて、撃退士たちに本当に戦う意思が無いと判断したのか、サバクは口を開いた。
「けっ、勝手にしろ。その代わり、少しでもミズカに妙な真似しやがったらブッ殺すぞ」
「……ん、わかりましたの。被害が出ないのが一番ですの」
 こくん、と橋場 アトリアーナ(ja1403)が小さく頷く。彼女も一時休戦には賛成だった。休戦を証明するように、武装は完全に解除されている。
 穏便に事を済ませたい、という計算は勿論あった。でもそれ以上に、普通に買い物をしている二人を彼女は見てしまっている。
 戦意など、湧くはずもない。
「馬に蹴られる趣味はないので、ね。むしろ、こちらこそ喜んで護衛させてもらおう、か」
 アスハ・ロットハール(ja8432)が友好的な笑みを浮かべる。女ひとりの為に敵陣に乗り込めるこの男を、アスハを嫌いでは無かった。
 いまだ警戒した様子を見せるミズカにも、アスハは笑顔のままで近づいた。
「……安心しろ。嫌がるレディを無理に連れ戻す気はない。少なくとも僕は、キミの味方、だ」
 そう言って、アスハが雑誌を差し出す。
 マタニティ雑誌だった。
 ミズカの顔が一瞬で茹蛸みたいに赤くなる。同時にサバクが物凄い勢いで手刀を放って雑誌を叩き落した。
「ぶっ殺すぞ赤毛!」
「安心しろ。サバクの分もちゃんと用意しておいた、ぞ」
 そう言って、アスハが再び雑誌を差し出す。
 結婚情報誌だった。
 咆哮と共に雑誌を破り捨てるサバク。その肩に、ぽん、と白い手が置かれる。
 ハルルカだった。
「で。ミズカ君の下着、選んであげないのかい?」
 サバクの悪夢は、そんな感じで始まった。





「ほらミズカ君、気になるものをいくつか持っておいで。サバク君が選んでくれるそうだよ」
 再び下着売り場。
 ハルルカの隣には、露骨に不機嫌そうな顔をしたサバクの姿があった。
 ミズカが戸惑いながらも、チョイスした下着――さきほどの白とチェック柄の二枚を、サバクに提示する。
 男はしばらく無言で黙っていたが、やがて諦めたように白いほうを指さした。すかさずハルルカが追及していく。
「ほう、サバク君はそちらが好きなんだね。どうして白なんだい? 決め手は何かな? ミズカ君が穿いているところでも想像してみたのかい? そこのところ是非詳しく聞かせて欲しいのだけれど」
「ンなもん言えるか!」
 露姫がにやにやと笑ってサバクを眺める。ヴァニタスは舌打ちすると下着から視線を逸らした。早く買い物を済ませてこいつらから離れたい、と思っているのが丸わかりだった。無論、ハルルカは獲物を逃がさない。
「ふむ。サバク君は何も買わないのかい?」
「……だったら何だよ」
「正直スーツ似合わないし、服でも買ってみたらどうかな。何なら私も手伝うよ――というか今、無性にサバク君を着せ替え人形にして遊びたいんだ。さあ、私に遊ばさせておくれ」
「絶対に嫌だ」
 本気で抵抗するサバク。
 しかしその傍らで、露姫がミズカの肩に腕を回し、ひそひそと、しかしサバクに聞こえる程度の声量でこんな話をしていた。
「なぁミズカ、お前ぶっちゃけサバクの格好どう思うよ? 暑苦しくね?」
「えっ? えっと……その、正直……ちょっと」
 思わぬカミングアウトに、サバクが砲弾を直撃したような顔になる。
「さっきも言ったろ? お前とリッチは目立ち過ぎなんだよ」
 そう言って露姫が、周辺警護を務めているアトリ、アスハのほうに視線を向ける。二人は、サバクらを不審がる一般客にも対応していた。
「……久遠ヶ原学園ですの。これは社会見学なので、危険はありませんの」
 学生証を提示するアトリアーナ。アスハも騒ぎを鎮めるべく、作り笑いを浮かべて説明を繰り返している。それもこれも、サバクが無駄に目立っているせいである。
「そ、そんなに変か……?」
「……せめてもう少しマシな変装にしておくべきだったな……たとえば、ミズカに合わせるとか」
 龍実が本気で同情しているような声で、ガチへこみしているサバクの肩を叩く。本人はこれで周囲に溶け込んでいると思っていたらしい。
 とどめを刺すべく、ハルルカがミズカの耳元で何事かを囁いた。
 ミズカは赤面して戸惑いの声をあげたが、最終的にはハルルカの説得に折れ、言われたとおりに実践することを決断。サバクのほうを向き、恥ずかしそうな声音で台詞を読み上げていく。
「……えっ、と。今のままのあなたも……その、す、好きだけど。なんていうか……もっと格好良くなってくれたら、嬉しいかな、って……」
 瞳を潤ませたミズカが、唇にひとさし指を当て、上目遣いでサバクを見上げる。
 そして、ちょこんと首を傾げて一言。
「だめ?」
「……っ」
 ミズカにお願いされて、サバクが無視できる訳がない。
 彼女を味方につけられた時点で、サバクの敗北は確定していた。
 露姫とハルルカが、笑みを浮かべてサバクに近づく。
 サバクの悪夢はまだまだ終わらない。





「よし。これでちったぁマシになったな」
「うんうん、中々に素敵だね。どうだい、ミズカ君」
「い、良いんじゃないかな……? さっきより似合ってると思う……」
 試着室から出てきた男を、女三人はそう評した。
 カジュアルな装いをした青年ヴァニタスは、もはやどこからどう見ても普通の若者だった。
「やっと解放されンのか……」
 げっそりとした顔でサバクが項垂れる。ハルルカに好き放題に弄り回された不死王(笑)は、露姫の手によってデートに相応しいコーディネートに仕立て上げられていた。
「お客様お客様。これなんかもどうですか?」
 明るい声と共に、サバクの眼前に何かが差し出される。
 それは所謂、紐パンと呼ばれる代物だった。
「……は?」
「サバクさん絶対似合うと思うんですよ! 是非! 穿いてみてください!!」
 ひーもーぱーん! ひーもーぱーん! と店員に扮した(扮せてない)残念な美少女が叫ぶ。はぁはぁと息が荒い。
 エリーゼ・エインフェリア(jb3364)はサバクに女性用下着を売りつけながら、妄想を炸裂させていた。
「サバクさんって普段包帯じゃないですか。つまり下も包帯で巻いているはず。常時紐パン状態というなんとも変態チックなファッションなのかもしれないと思うと……うへへへへへへへ」
「よだれ垂れてンぞ」
「はっ!? いえ、淑女の私はそんな妄想してません。してませんよ……あ、ところでいつも巻いてる包帯って、ちゃんと洗ってるんですか? 私気になります!」
「…………」
 暴走するエリーゼの妄想に、ちょっと退くサバク。本能的に身の危険を感じているのかもしれなかった。
 しかしエリーゼの毒牙が及ぶのは、サバクだけにとどまらない。
「そういえば、そろそろ夏ですねミズカさん!」
「えっ? う、うん……?」
「夏といえば海、海といえば水着。というわけで、新しい水着をここで買っちゃいましょう――私も一緒に選んであげます!!」



 そんなこんなで、エリーゼとミズカが水着選びに旅立ったのだが。
「えっ、ちょっ、ひゃあっ!? どこ触って……」
「未成熟な少女の肉体……これはこれで……ごくり」
「ミズカにナニしてやがンだテメエ!」
「あ、採寸ですよ採寸。服を選ぶための。決してセクハラなんかじゃないので安心してください……え、ビキニ? ビキニの方が良いんですかミズカさん!?」
「そ、そんなこと一言も言ってないよ……!」
 ミズカとサバクは、完全にエリーゼのペースに翻弄されていた。
 それでも買い物自体はつつがなく進行していき、最終的に水着を二点購入。
 一点は白のビキニ。『サバクさんを落とすために、大胆にいきましょう!』というエリーゼの助言もあり、本当に買うことになった。
 そしてもう一点は、紺のスクール水着。『サバクさんはスク水のほうが興奮すると思いますよ!!』とエリーゼが断言した、かは定かではないが、こちらもやはりエリーゼお勧めの品だった。
「ちょっと恥ずかしいけど……これでサバクが喜んでくれるなら」
「喜ばねェよ!」
「さて。水着は決まりましたし、今度は夏服選びに行きましょうか、ミズカさん」
「……って、オイ待て。テメエ何ちゃっかりミズカの手ェ握ってンだ堕天使!」
 ミズカを引っぱっていくエリーゼを、サバクが追いかけようとして――止められた。がしっ、と両方の腕をハルルカと露姫にロックされる。
「クソっ、はなせテメエら!」
「生憎、私たちはまだサバク君で遊び足りなくてね。もう少し付き合って貰うよ」
「心配すんなよ。ミズカはエリーゼに任せておけって。アイツもミズカに手出しするつもりがないのは見りゃわかんだろ?」
「別の意味で手ェ出す気満々だろうが! 不安しかねェよ!!」
 女撃退士二人に掴まれたまま、取り乱す不死王。極悪ヴァニタスの威厳は微塵もなかった。
「ッ……オイ、そこの銀髪と赤毛! テメエら、アイツの護衛するとか言ってたな! あの堕天使を何とかしろ!」
 サバクは周辺警護を申し出たアトリとアスハに救いを求めたが、二人とも不動だった。
 アトリアーナは笑いを堪えたような表情を浮かべている。内心では、サバクの焦る様子を楽しんでいるようだった。
「……ん、ボクの仕事は周辺警護ですの(止めるとは言っていない)」
 アスハもあっさりと拒否した。
「さっきも言ったようにデートの邪魔をするつもりは無い、が……ミズカのほうは満更でもなさそうだ、ぞ?」
「あァ?」
 指摘を受け、サバクがミズカに視線を向ける。
 少女はエリーゼと共に、楽しげに談笑しながら買い物に興じていた。
 撃退士たちが皆気さくに話しかけていたからなのか、事実ミズカは撃退士への警戒をだいぶ解いている。若干戸惑っているようだったが、少なくとも嫌がっている素振りはない。
 ミズカが自分以外の相手に、心を開きかけている。
 それを見てサバクは多少なりとも安堵したが――それはそれで気に入らなかった。
 舌打ちする男の耳元で、ハルルカと露姫が愉しげに囁く。
「ふふっ、嫉妬してるのかい?」
「意外とお子様だよなー、サバクって。独占欲強すぎじゃね?」
「……うるせェ。服弄りがしてェんなら、さっさと終わらせやがれ」
 サバクが不機嫌そうに呟き、そっぽを向く。
 そうして、女たちに好き放題に弄られる時間が再び続くのだった。





 買い物を終えた一同が次に向かったのは、五階のレストラン街だった。
「うまいか?」
「う、うん……」
「そうか。どんどん食え」
「そ、そんなにじろじろ見られたら、恥ずかしくて食べられないよ……」
 ハンバーグセットを食べるミズカの様子を、対面の席に座って見つめるサバク。二人のテーブルにはリッチ(露姫コーデ済み)や撃退士たちも同席していた。
「あんまり邪魔はしないようにしますね」
 森林(ja2378)が控えめに言いいつつ、二人を観察する。自身が恋愛に疎いため、他の仲間と違ってあまりサバクをからかう気は起きなかった。
「そう言えば、人のデートとか見るのこれが初めてかも……?」
 世間一般のデートとは違うだろうし、そもそも片方は人外だけれど。意識すると何だかそわそわしてしまう。森林の胸中を知る由もないサバクは、ミズカの口元に付着したソースを拭ってやっていた。これは『はい、あーん』という例のアレが起きてもおかしくないな、と思う森林だった。
 ハルルカもそれを期待していたのだが、結局それ以上のイベントは起きずに食事はデザートまで進んでいった。折角のデートたというのに、何を恥ずかしがっているんだか、と思わなくもない。
「しかし、あの暴れん坊が随分と丸くなったもんだなぁ、オイ。これが愛の成せる技ってやつかねぇ……」
 食後の茶を啜りながら、しみじみと言う露姫。サバクは買い物中に散々茶化されていたが、約束通り撃退士に危害を加えることは無かった。相当我慢しているに違いない。
「ミズカいなかったら、テメエら全員ぶっ殺してるけどな」
 テーブルに肘をつけたサバクが、無愛想に答える。あくまで撃退士と馴れ合う気はないらしい。
「これからも人を……殺し続けるのか?」
 探るように問いかけたのは龍実だ。折角のサバクと会話するチャンスを無駄にはできない。敵であるこの男とちゃんと話せる機会など滅多にないのだから。休戦を申し出たのもそのためだった。
 龍実の問いに、サバクが唇の端を吊り上げる。
「当たり前だろうが。俺はヴァニタスだぞ。今回は仕方ねェから引いてやってるだけだ」
「……そうか。そう、だよな……」
 一緒に買い物をしたり食事をしている、今の状況が異常なのだ。本来、撃退士とヴァニタスは敵同士。分かり切っていた答えとはいえ、落胆は避けられなかった。
 ――また、サバクと戦うのか。
(それは、嫌だな……)
 内心の迷いを誤魔化すように、龍実が話題を変えていく。
 次に訊ねたのは、サバクの人間時代についての話だった。
 前回、サバクはミズカと『同じ』と言った。ならば、サバクも昔は彼女のような境遇だったのではないか?
 お前には分からない、と言われたが、それでもサバクのことを知りたかった。
「別に、今と大して変わらねェよ。喧嘩漬けの毎日だったな。むかつく奴は片っ端からぶっ飛ばしてた」
「……不良だったのか?」
「まァ、そんな感じだ。どこにでもいるような、ありふれた屑だった」
(ふむ……境遇が似ているミズカに同情した、という訳ではないのか……?)
 龍実が頭の中で推論を組み立てていく。確証はないが、もう少しで核心に迫れる感じはあった。しかしそれ以上のことをサバクは語ろうとはしなかった。
(サバクがなぜお姫さんを保護したのか、か……)
 遼布にとっても、それは引っかかっていた部分だった。そもそも、ヴァニタスが人間を連れて行動すること自体あまり聞かない話だ。その背景に何があるのか興味はある。だが、聞き出そうとは思わなかった。
(だって、野暮だろ)
 きっかけが何であれ、この二人が互いに特別な感情を抱いているのは明らかだ。今日ずっと一緒にいて、改めてそれがわかった。ならばそれで充分だろう。
「よし。用事はもう済んだし、帰るぞミズカ」
「何だよ、もう行っちゃうのか?」
 サバクが立ち上がろうとしたのを、遼布が制止する。
「これ以上、テメエらと一緒にいる理由がねェ」
「……そうかい。俺としてはもっとお前と仲良くしたいんだけどね――まぁいいや。デートの邪魔しちまったし、ここの飯代は俺たちが持つよ。迷惑料がわりだ」
「ケッ、誰がテメエらの世話になるかよ」
 毒づき、ぱんぱんに膨らんだ財布を取り出すサバク。『上司』から活動資金として与えられているのか、あるいはこれまで殺してきた相手から奪ったのか。ともあれ、懐には余裕があるらしい。
 サバクがそのままレジカウンターに向かおうとした時だった。
 それまでモンブランを食べていたアトリアーナが不意にミズカのそばへと近寄り、耳元でごにょごにょと何事かを囁いた。
 既視感のある光景。
 戸惑うミズカに、今度はアスハが接近。アトリアーナと同じように耳打ちし、無垢な少女を唆していく。
 相談はさくっとまとまった。
 アトリアーナが親指をぐっと立て、ミズカを鼓舞する。
 やがて決心したミズカが頷くと、サバクのもとへと駆け寄っていった。
「え、えっと……お願いがあるんだけど……」

 かくして、不死王の休日は終わりへと近づいていく。





 仏頂面の若い男と、照れ笑いを浮かべた清楚な少女が、一緒に並んで映っている。
 そのプリントシールには、ファンシーなフォントで『初デート!』という文字が描かれていた。
「えへへ……」
 刷られたばかりの写真シールを大事そうに両手で持ちながら、ミズカが表情を緩ませる。初デート記念。いざ文字に起こしてみると、何だかくすぐったい。
 この手の写真を撮るのは、サバクも初めての経験だった。アトリアーナとアスハの助言がなければ、恐らく撮ることはなかっただろう。
 一同は食事の後、デパート周辺にあるゲームセンターへと立ち寄っていた。
 あの後、デートの記念に写真を撮ろう、とミズカが提案したのだ。無論サバクは猛反発した(サバクにとってここは敵地である)が、ハルルカに教わった上目遣いでミズカがお願いしたら、一発だった。ちょろすぎる不死王。当然めちゃくちゃ茶化された(主に女性陣から)。
 そして何枚かプリントシールを撮った後。
 ミズカは、化粧室の前で露姫と二人きりになっていた。
「悪ぃな、呼び出しちまって。どうしてもお前に言っておきたいことがあってさ」
 そう前置きして、露姫は切り出した。
「俺さ、彼奴のこと諦めてねぇから」
 露姫が打ち明けたのは、サバクへの想いだった。
 それは浮ついたものではなく、『撃退士』としてのもので。
「彼奴がお前のために、お前があいつのために生きようとしてることは受け入れるよ。尊重もする。でも――彼奴がまだ誰かを殺し始めたら、そうも言ってられなくなる。彼奴と戦うチャンスが、転がって来ちまう」
 再びサバクとの戦いが始まれば、その先に待っているのは、真っ赤で真っ黒な未来。
 きっとその未来には、サバクにとってもミズカにとっても――恐らく露姫にとっても、ろくでもない結末が用意されているのだろう。
 だけど、もしもその未来を、変えられるとしたら。
 不死王と殺し合う運命を、変えることができるとしたら。
「……なぁミズカ。今度はお前が、彼奴を俺らから守ってくれねぇか?」



 一方その頃。
 ミズカを待つサバクは、森林やハルルカと一緒にいた。
「せっかくだし、ミズカさんにこっそりプレゼントでも買ってあげたらどうですか?」
「……やっぱ、テメエもそう思うか」
 森林の提案に、サバクがどこか苦い表情を浮かべる。実は最初からアクセサリの一つでも買ってやる予定だったが、何を贈れば良いのかと迷っている間に撃退士と遭遇し、結局ここまで来てしまったのだという。
 そんな甲斐性のないヴァニタスに、森林がそっと助言を添える。
「さっき、あれを欲しそうに見てましたよ」
 そう言って森林が指さしたのは、クレーンゲーム機。サバクもそちらに視線を向けて納得した。筐体の中には、デフォルメされた白い猫のようなぬいぐるみが沢山入っている。いかにも子供が好きそうな、可愛らしいデザインだった。
 そうして、不死王がクレーンゲームに挑戦。一発で獲るつもりだったが、用意した軍資金は瞬く間にゲーム機へと呑まれてゆき、ようやく一匹目のぬいぐるみを救出できた頃には、あれだけ膨らんでいた財布がぺらぺらになっていた。見た目どおりというべきか、器用さに欠ける男である。加えて、ぬいぐるみを持った姿が致命的なまでに似合っていない。
 お姫様の為に頑張る不死王のその格好悪さを、不恰好さを、ハルルカは愉しく思う。好ましく思う。
「ねえサバク君」
 だからハルルカは、真剣な声で不死王に話しかけた。
 ミズカはまだ戻ってこない。
 彼女がいない間に、彼に聞いておきたいことがある。
 きっと、とても大事なことだから。
「……ンだよ」
「キミとミズカ君は同じだと、そう言ったね。あの娘も以前まったく同じことを言っていたらしい」
「…………」

「――キミは彼女に、ずっと自分と同じでいて欲しいと。そう、思うかい?」





 一同がゲームセンターを出る頃には、すでに空は赤く染まっていた。
 互いに攻撃を仕掛けることはなく、平穏無事に全てが終わろうとしてしている。
 だけどそれは、今日だけの話。
「……これから、どうしたいと思ってるのですの?」
 今後どうするのか、とアトリアーナがミズカに訊ねる。真剣な表情だった。
「……撃退士じゃなくてボク個人としては幸せに過ごして欲しいと思ってるの」
 敵同士だとしても、放っておけない。
 ミズカは昔の自分に、少しだけ似ている。
 かつてアトリアーナは、興味が無いこと対しては無関心だった。けれど義姉妹達との出逢いを経て、感情を表に出せるようになった。
「……できた大切な人、失うのはとても……つらいから」
 目の前で殺された義妹を思い出し、腕に巻いたリボンに視線を落とす。彼女の形見だ。
 これからもサバクが敵として立ちはだかるのならば、撃退士はサバクを討たなければならない。
 そうなれば、彼女はきっと、つらい思いをする。自分と同じように。
 この弱く儚い少女は、その痛みに耐えられるのだろうか――?
「……ミズカをどうするつもり、だ?」
 アトリとは逆に、アスハはサバクに対して問いかけていた。
 無能力者の彼女を連れて行動するのは、厳しいものがあるだろう。ヴァニタス化は必須と思われたが、サバクは答えない。何かできない事情でもあるのだろうか?
「……眷属にするにしろしないにしろ、その腕の中で保ちたいのなら、使える物は何でも使っておけ……例え、敵だろうと、な」
 もし仮に、ミズカがサバクを喪えば、彼女は壊れてしまうだろう。
 そしてサバクも、ミズカを喪えば恐らく――。
 最悪の事態を想定しているのか、アスハは二人に連絡先を渡した。サバクが何気に携帯端末を持っていることに驚いたが、ともあれ、これで非常時にも連絡はつくだろう。サバクが撃退士を頼ってくれれば、だが。
「俺からも伝えとくことがある。サバク、ちょっと耳貸せ」
 遼布がサバクに近づき、そっと耳元で告げる。
「お前とお姫さんを狙ってるフリーの撃退士たちがいる。そいつら、ちぃっとばかし思いつめちまっててな。今日みたいな街中でも襲ってくるかもしれん――気をつけろよ」
 遼布のリークはサバクにとって衝撃だったが、ある程度は予想していたことだ。だからむしろ驚いたのは、『それ』を遼布が隠さずに教えたことだった。
「……テメエら、マジでどういうつもりだ?」
 遼布だけではない。敵である自分に連絡先を渡してきたアスハを含め、好意的に接してきた撃退士たち全員に対して、サバクは疑念を持っていた。
 なぜ、敵である自分に、ここまでする?
 遼布は当たり前のように言った。
「前も言ったろ。『お姫さんとお幸せに』って。多分、ここにいる奴は皆そう思ってるぜ」
 少なくとも遼布は、サバクに悪い感情は無い。友人にでもなれたら面白いだろうな、とさえ思う。
「…………っ」
 撃退士たちの言葉が、サバクの脳裡を駆け巡る。同時に、胸の中にあった疑問が氷解していくのを感じた。
 ずっと、撃退士たちから感じていたものの正体。
 それは『祝福』だ。
 この場にいる撃退士の多くは、本当にサバクとミズカの幸せを願っているのだ。
 二人が幸せで在れるように、と。
「なぁサバク。この休戦協定、もう少しだけ続けないか? 俺たちは一般人に手を出されると困るし、お前だってお姫さんを危ない目に遭わせたくなんてないはずだろ?」
 この場凌ぎの休戦で、終わらせたくはなかった。
 それは、ミズカも同じだった。
「ね、サバク。信じてみても、良いんじゃないかな? 私はこの人たち……嫌いじゃないよ」
 そう言って、ミズカが露姫を見る。
「…………わかった」
 サバクはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
 撃退士と馴れ合う気など砂粒ほどもない。まして撃退士は殺すべき相手であり、信用するつもりなど全くなかった。
 だけど、その思いは今、揺らいでいた。
 こんなのは、ただの口約束に過ぎない。いつでも破れる、都合の良い嘘。そう、自分に言い聞かせて。
 ミズカとずっと一緒に居たいのは、どうしようもなく真実だったから。
 サバクは、言った。

「――ミズカが無事な限り、俺のほうから人間共に手は出さねェ。……これで良いかよ」

「それが、キミの答えかい?」
 ハルルカの言葉に、サバクは拗ねたような顔で返した。
「……だったら文句あっかよ」
「まさか。喜んで応じさせて貰うよ――ああ、そうだ」
「何だよ?」
「結婚式には呼んで貰えると、もっと嬉しいかな」
「……やっぱテメエは殺す!」
「お、落ち着いてサバクっ」





「今度こそお別れだな……ちゃんとミズカを護ってやれよ」
 笑みを浮かべた龍実が、サバクに別れの挨拶を告げる。戦わずに済みそうだからか、安堵したような優しい笑顔だった。
 その傍らでは、エリーゼがミズカを抱きしめていた。それはハグってレベルじゃあなかった。
 ぎゅううう、と少女の頭を胸に押し付けながら、堕天使が別れを惜しむように言う。
「エ、エリーゼさん、くるしい……!」
「次はもっと遊びましょうね、ミズカさん。お姉さん色々はりきっちゃいますよ!」
「べたべたくっつくんじゃねェ、堕天使。さっさと離れろ。コイツに触っていいのは俺だけだ」
 ミズカからエリーゼを無理やり引き剥がして、鬼の形相で睨むサバク。
 それをジト目で見るのは露姫だ。
「なんつうかさ、お前ホントにミズカ大好きなんだな」
「うるせえ。引ん剥くぞテメエ」
「おっ、なんだよ。俺のカラダが気になるのか? やっぱサバクはロリが好きなんだなー……って誰が幼児体型だゴルァ!」
「言ってねェよボケ。つーか俺はロリコンじゃねェェェッ!」
 露姫とサバクがぎゃーぎゃーと言い合う様子を、森林が苦笑しつつ眺める。
「……戦わないでいられるなら、それがいいのかもですね」
 騒がしいながらも、平和な一日だった。このまま休戦が続くのであれば、サバクや撃退士が一緒になってプリを撮れる日も、もしかしたら訪れるのかもしれない。
 それとも、そんなのは所詮夢物語なのだろうか。



 サバクが去った後、学園生たちの前に数人の男がやってきた。件のフリー撃退士たちである。
 目を血走らせた彼らの一人は、いきなり遼布に掴みかかった。
「あのヴァニタスを見逃しただと!? ふざけるなっ!!」
 彼らはやはり、是が非でもサバクを殺す気だったのだろう。自分たちなら、たとえ民間人を犠牲にしてでもサバクを討っていた、と学園生たちに怒鳴り散らした。
 が、これには学園生も黙っていられない。遼布は胸倉を掴んでいた男の手を振り払うと、啖呵を切った。

「――お前らがやろうとしていることは身勝手だ! それはお前らが普段倒している敵と何ら変わらないってことくらい気づけよ!!」

 戦いに関係ない人まで巻き込むな。
 遼布に一括され、男たちが言葉に詰まる。倫理に反した行いであると、自覚はあるようだった。
 しかし、その瞳に宿る復讐の焔は、消えてはいない。
 夕焼けの空は流血を予感させるように、不吉な赤に染まっていた。



依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 遥かな高みを目指す者・志堂 龍実(ja9408)
 黒雨の姫君・ハルルカ=レイニィズ(jb2546)
 激闘竜姫・宗方 露姫(jb3641)
重体: −
面白かった!:16人

無傷のドラゴンスレイヤー・
橋場・R・アトリアーナ(ja1403)

大学部4年163組 女 阿修羅
優しき翠・
森林(ja2378)

大学部5年88組 男 インフィルトレイター
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
遥かな高みを目指す者・
志堂 龍実(ja9408)

卒業 男 ディバインナイト
闇を斬り裂く龍牙・
蒼桐 遼布(jb2501)

大学部5年230組 男 阿修羅
黒雨の姫君・
ハルルカ=レイニィズ(jb2546)

大学部4年39組 女 ルインズブレイド
水華のともだち・
エリーゼ・エインフェリア(jb3364)

大学部3年256組 女 ダアト
激闘竜姫・
宗方 露姫(jb3641)

大学部4年200組 女 ナイトウォーカー