●夏だ! 海だ! 人魚姫だ!
人魚ってアレ要するに半魚人だよね。
そう言ったら泡になって消えちまえと激おこだった旧友は今どうしているんだろう……。
いやなに、あまりの暑さに意識が彼方へ飛んで行きそうになっただけさ。
これ以上くだらない想い出を語る前に、演劇を始めてしまおう。そうしよう。
それにしても砂浜、暑いね。
誰だよロケしようとか言った奴。俺か。俺だな。ゴメンゴ。
それではふわっと参りましょうか。
白い砂浜に投影されたのは、くるくるまわる回転木馬であった。
お遊戯のようなイメージ映像にあわせて、エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)が姿をあらわす。
「――さあさ皆様お立合い、此度の劇の演目は、誰もが知ってる『人魚姫』」
その立ち振る舞いは正に道化師。
南瓜の仮面で顔を隠し、少年は高らかに劇のはじまりを告げる。
「紳士淑女の皆様方も、大筋は大概ご存じでしょう。されど踵を返すはまだ早い」
南瓜の上に被ったシルクハットを手にとって、くるりと回し空の中身を見せつける。
もう片方の手には魔法のステッキ。それで以てポンと叩けば、これは驚き、薔薇の花束が姿を現す。
「この度演じる『人魚姫』、そんじゃそこらとはモノが違う! 然らば老若男女、揃って皆様ご覧遊ばせ」
物語の幕が上がる。上がってしまう。いいのかそんなホイホイ上げて? 俺はキャラ崩壊も平気で(略)
●やっぱりこう昔話的なあれやこれやから始まるわけです
今から語られるのは遠い国のお話です。
間違っても日本じゃありません。だって人魚出てくるし。
日本で人魚を見たいなら寺へ……行くしかないでしょうね。それも干からびてるだろうけど。
さて、そんなことよりその国には、非常に美しいお姫様がいました。
人魚の国のお姫様だから人魚姫。わーい安直。
……え、彼女の本名? 人魚姫ですよ。人魚が苗字で名前が姫。姫ちゃん。日本人か。
そんな姫ちゃんを演じるのは長谷川アレクサンドラみずほ(
jb4139)。
美しい金の髪に誰もが見惚れるプロポーション。引き締まった肉体。
そのくせ出るとこは出ているわけで、人魚風の衣装をまとった姿も非常に魅力的です。
(女の子はやはりお姫様にあこがれるものですわよね)
きらびやかな衣装に心を躍らせつつ。
与えられた……というかもぎ取った役どころ、全うしようと気合を入れたようです。
一方、人魚の国のお隣に、もうひとつ国がありました。人間の国です。
この世界には大人の事情でやたら沢山の国があるわけですが、それらは追々説明していこうと思います。
それで、です。この人間の国にも当然王族がいるわけですが。
王族のほとんどが能天気なパッパラパーでした。パッパラパーって今言わないね。死語だね。
中でも群を抜いて酷いのが王子で、酷いちゃらんぽらんで頭も【子供は見ちゃダメ(はぁと)】も軽い軽い。
そんな王子を演じるのは藤井 雪彦(
jb4731)。
上はアロハシャツ、下は水着、ゴキゲンにイカしたハート型のグラサンをかけたバブリーな姿で登場です。
心なしかお肌が無駄につやつやしている。むきたてタマゴ肌。
え、何、泥パックしてきた? 道理で。
それにしてもぷにぷにです。ぷにぷに。赤ちゃん的な。若いっていいね! 躊躇わないもんね!
「ちょっまじでぇ〜お芝居だけど〜恋が始まっちゃったらどしよぉ〜ヒュー♪(さて、そろそろ主催の挨拶の時間だね)」
おい、台詞と本音が逆だぜ兄弟。
しかし天の声のツッコミよりも先に、何者かが王子の頭を思いっきりどつきます。
「浮かれてる場合じゃないでしょう、何考えてんですか……このアホ王子!」
佐藤 七佳(
ja0030)扮する、王子の護衛兼教育係でした。
「ひでぶっ!?」
理由のある暴力が王子を襲う――!
カエルを●●したような声をあげて王子が吹っ飛びました。嗚呼。ご愁傷様です。
そして訪れる教育係のターン!
「この時期は嵐の頻度が多いって申し上げましたよね? そんな時に海上パーティってだけでも訳が分からないのに」
そう――今日は季節はずれの海上パーティの真っ最中でした。
え、見事な大時化? ははは大丈夫だ気にすんなこのくらいどうってことないさ。
フィクションじゃないんだからそんな都合よく事故なんか起きやしねぇって!(フラグ)
猛烈な悪天候にもめげない楽観的な王子に対し、教育係はもう早いとこ帰りたくてしょうがない様子です。
「えっとほら〜パーティって楽しいじゃない」
「……アナタの楽しさの為にどれだけの臣下が迷惑を被っているとお思いですかこのスカポンタン」
くどくど。
めそめそ。
くどくど。
もそもそ。
……もそもそ?
おうじ は にげだした!
語りまくる教育係()から隙をついて逃亡を企てる王子。
だが教育係を出し抜く事などできやしなかった。というか、出し抜こうが逃げ切ることなどできやしません。
なぜならこの女騎士、ものっすごい脚力の持ち主なのですから。
「全くあなたはいつになったら学習するんですか、このバk……アホ王子ーーーー!」
しかし まわりこまれてしまった!
ずざーと音を立てて回り込む七佳。縮地など使わずとも移動力では負ける気などしませんでした。
「知らなかったのか、大ま……もとい、教育係からは逃げられない」
「え、えっとぉ〜」
「言い訳無用ですっ!」
すぱこーん。
響く快音。嗚呼……ご愁傷様です。(合掌)
そんなこんなで続くお説教。
涙目で体育座りする王子の心境を映したかのように、空模様の方もだんだん怪しくなってまいりました。
「ちょっと王子! 聞いてるんですか!?」
「聞いてる聞いてる〜」
「人の話も十分に聞けないようでは、いつまで経っても王になれませんよ!」
むん、と仁王立ちで説教を続ける七佳。
いくら見た目が可憐な少女でも、周囲の男達がビクビクするのは仕方のないことかもしれません。
なにせ彼女の前でヘラヘラしていられるのは、後にも先にもこのアンポンタン王子だけのようですから。
「そんな事よりボクとトゥギャザーしようよ〜折角のダンスパーティなんだからさぁ」
「なんで私が。王子にはもっとお似合いの姫君が沢山いらっしゃいますよ」
どうやら謙遜じゃなく結構マジメに言っているようでしたが、空気の読めない王子にそんなことは関係ありませんでした。
「だって他の子とはもう踊っちゃったし〜?」
「本当、女なら何でもいいんですねアナタ」
「そうそう、へっちゃらだよ〜何が起きても気分h」
「言わせませんよ!?」
これを夫婦漫才――などと形容したら、きっと怒られるんでしょうね。
当人達よりも、深森 木葉(
jb1711)演じる王子の妹姫に。そう、妹に……。
「まったくお兄さまは……わたくしがいないと何も出来ないのですわ」
頼りない兄に代わって、パーティに招待された賓客の接待をする幼妹。
けれど何か様子が変です。
表情こそ笑顔ですが、それはどこか無理やり貼り付けたような不自然ささえ感じるものでした。要するに怖い。ヤバい。
「お兄さまどいてそいつ【検閲削除】」
ちょ、姫様、漏れてます! 何か言ったらダメな言葉が漏れてます!
ですがご存知の通り圧倒的ツッコミ不足が続いていますれば。
誰か、ツッコミの補填はよ! はよ!
「何が必要かしら、蝙蝠の羽、ヤモリの姿焼き……それから乙女の生き血……(あら? ごめんなさい、わたくしとしたことが)」
あ、やっぱなんだかんだ言って兄妹なんですね。っておい。問題そこじゃない。
淡い白と水色のドレスを真紅に染める気満々の妹姫。誰か止めて下さい。ほんと割とマジでガチで。
若干ヤンデそうな妹も大概アレですが、それ以上にアレな女性もいました。
否もはや女性……イエナンデモナイデス。
「ちょっとソコの女! そう、アンタよアンタ! 一体誰の許可取って王子様の隣に立ってるワケ!?」
ピッチピチムッチムチの衣装(ドレス)に身を包んだ、御堂 龍太(
jb0849)です。
曰く、王子の恋人役。嘘やん。
「王子様……あたしというものがありながら、他の女に現を抜かしてたって言うの!?」
王子に詰め寄る龍太。その迫真の演技は、見るものを圧倒する存在感に満ち溢れていました。(意訳:超怖い)
「このアホ王子で良ければのしつけて差し上げたい気分ですが」
「まっ……自分が圧倒的有利だからって余裕かまして! バカにするのもいい加減にしてよねッ!」
どうしましょう、場が混沌としています。
颯爽と救世主が現れ……ればよかったのですが、生憎そうも行かないのがこの世の条理です。
次いで登場した少女によって、場は更なる混沌へと導かれていくのでした。
「きゃーやだぁー★ 修羅場も修羅場、ド修羅場なんだねー☆ミ」
またおまえか新崎 ふゆみ(
ja8965)。
大体ここは船上だというのに、なぜ木が生えているのでしょう!?(全編通して出演とか言うからです)
植木鉢的なサムシングに両足を突っ込んだままピョンピョン跳ねる椰子の木は、やたらめったら雄弁に語りました。
「ふゆみは『てぃーぴーおー』をちゃーんとわきまえてるんだよっ?」
ざわざわ。ざわ……?
一応は海辺にあわせて来たらしい椰子の木。でも気を遣うべき場所が致命的に間違っている気がする椰子の木。
そもそも冷静に考えたら木が喋ったり動いたりする時点で以下略。
「わはー★ 今日も出歯亀がんばっちゃうからねー! ふゆみの今後の活躍にご期待下さいなんだよーっ☆★」
えっと、何だっけな。
そうそう修羅場だ。修羅場。
恋に恋する乙女(※多分)、自称21歳王子の恋人(※ストーカー)・ミドウ!
止まらない妹のヤンデレ化! 荒れ狂う暴風雨! もう海は何者かの怨念が込められているとしか思えない荒れ模様でした。
帰りたい。帰りたい。あったかい家が待っている。幻聴系従者。労災認定したげてよぉ。
「アホ王子、あなた一体どうする気ですかこの状きょ……」
もう頭痛が痛い! と言わんばかりに頭を抱えて振り向く教育係。
だが頭痛は沈静化するどころか、
「って、王子いないじゃないですかーーー!?」
「王子様なら今さっき荒れ狂う海に飛び込んでいったよー☆ミ ふゆみってば空気読んで餞別にヤシの実投げつけてあげたんだよ〜★☆」
「お、お兄さま、お兄さまっ〜!?」
更なるカオスへと転がり始めていたのです。
「ダメ押しの致命傷与えないでください! ヤシの実って意外と固いじゃないですか!?」
「ごっめーん☆ でも王子様が悪いんだよ〜? 女の子をムシするよーな悪い男、シバかれても仕方ないよ〜☆ミ」
ざわざわしながらてへぺろされても……。
曲がりなりにも撃退士だし大丈夫だとは思いますが、万一当たり所が悪くて★☆昇天☆★とかそんな事態に陥ったらどうするつもりなのでしょう。
え、コメディだから死なない? そういうメタな話はやめなさいって先生いつも言ってるで――
「あばば、あし、足攣っ……へ、へるぷみぃぃ〜」
_人人人人人人_
> 命の危機 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄
そんな馬鹿な。自分から飛び込んでおいて……。
しかし突っ込むヒマを与えてはくれません。野太い雄叫びと共に、何者かが仄暗い海へ飛び込んでいきました。
「待っててェ王子様、早く足が攣って溺れてる助けて熱ぅ〜い人工呼吸という名のベーゼをプレゼントしてあげるわァー!」
ざぶーん。
まったく無茶しやがっt……え、あれ? あっ(察し)
「ご来賓の皆様にはご心労をお掛けして申し訳ございません。係の者の指示に従って、慌てず速やかに避難を開始してくださいッ」
いざという時の為、用意してて良かった救命胴衣!
しかしこの教育係の落ち着き方は……彼女が只者ではないのか、王子がトラブルメイカーすぎるのか。
奴は必ずその少し斜め上を行く! ってアレ言いたかったのに、むしろ王子より斜め上行ってる人が多くてもう。これぞカオス。
ちなみに人間たちの複雑な思惑を知ってか知らずか、彼らの行動をはるかな高みから見守る者がひとり。
え、石上 心(
jb3926)? ははは、いやだなぁ。ただのしがない風の精だよ。
風の噂()に近々新たな仲間が生まれると聞いて、いてもたってもいられなくなっただけのことさ。
……そういうことにしておいてほしい。
彼が誰かさんと結託して嵐を起こしたとか、そんな事実は絶対にないぞ。言いがかりはやめてくれたまえよ。ははは。
●そんな感じでようやく人魚姫と王子が出会う訳ですが
そんな経緯で軟派……じゃなかった、難破した王子。
がぼがぼと水を飲んでしまい気を失ってしまったところを、人魚姫に発見されたのです。
え、難破っていうか自分から飛び込んでた? いやいや細けぇこたぁいいんだよ!
初め、人魚姫は彼が死んでいると思いました。しかし心臓に手を当てると、彼のそこは不思議と強い鼓動を打っていたのです。
「まあ……こんな過酷な状況で心臓が止まらないなんて、とてもタフな殿方ですのね」
何かズレている気もしますが、それを言い始めるとそもそもの始まりから逐一ツッコミを入れ直さなければならないので割愛します。
生命の神秘と力強さに感動した人魚姫、しかし腕の中の彼は紛れもなく人間でした。
このまま冷たい海の中にいては、その力強さもやがて失われてしまう。
名残惜しく思いながらも、人魚姫は彼の体を近くの岸まで運んであげました。
岸に打ち上げられた王子を、たまたま海辺を散歩していた緋月(
jb6091)が見つけたのは、人魚姫が去ってすぐのことでした。
倒れ伏すアロハシャツの男を見つけると、緋月は彼に駆け寄り声をかけました。
彼の顔色は青白く、そのうえ全身びしょ濡れです。とても海水浴をしているようには見えません。
軟派……じゃなかった難破した船に乗っていた人かもしれないということは、ひと目でわかりました。
「あの、大丈夫ですか? ……死んでるのかな」
本来なら救急車でも呼ぶべきところでしょうが、一瞬、緋月の中に迷いが生じます。
もしこの人が死んでいたら、第一発見者の自分はあらぬ嫌疑をかけられ、無実の罪で裁かれてしまうかもしれません。
それは困ります。そうならないために、さっさと事態を隠蔽してしまおうと思いつきました。
あ、わかってます。ツッコミ不要です。
「えっと、スコップスコップ」
しかしその時。水死体――と思われた人物――が、突然息を吹き返したものだから大変です。
「ゲホッゲホッ!」
「?!」
「ビックリしたぁ。死ぬかと思ったよ〜……あれ、ボクを助けてくれたのは君かな〜?」
「えっと……はい」
保護責任者遺棄等の容疑で送検されれば法廷で勝てる見込みは少ない。咄嗟にそう判断して、少女は即座に頷きました。
それを見た王子は、頭にワカメを乗せたままにっこりと微笑み、彼女に告げたのです。
「君、かわうぃ〜ねぇ〜♪ ボクとトゥギャザーしな〜い?」
それは、前代未聞のチャラいプロポーズでした。
こうして緋月は、王子の命の恩人として城に迎え入れられることになったのです。
けれどそれを快く思わない者が当然いました。
「ぐぬぬ、庶民の小娘がお兄さまに取り入ろうなど……愚かですわ!」
木葉、もといヤンデレ妹です。
ハンカチを噛む演技にも熱が入ります。……演技、だよね……?
「貴女など、あのウサギ小屋がお似合いよ! ふふふ今に見てなさい身の程を思い知らせてあげるわ!」
懐から携帯電話を取り出すと、木葉は何やらどこかへ電話をかけ始めました。
「もしもし……ええ、ひとり消して欲しい女がいるのですわ……」
なんか非常に不穏でした。
大丈夫なんだろうかこの劇。一抹どころじゃない不安が過る、けれど。
ともあれ案ずるより生むが易い訳で、進めていくしか道はなさそうです。
●海の国でも色々すったもんだございます
生きた人間の気配を感じ、みずほ扮する人魚姫は海の底へと戻っておりました。
なにせ彼女たち人魚の肉は、不老不死を呼ぶなどと言われて地上の魔女達に珍重されておりましたもので。
人魚姫も例外ではなく、人間を見たら逃げろと日頃から教育されていたのです。
「……咄嗟に逃げてしまいましたけれど、あの殿方のことが忘れられませんの」
溜息と一緒にぽつりと零した人魚姫。
憂いの表情を浮かべた彼女を見つめ、姉であるユウ(
jb5639)は困惑をあらわにしました。
「私達人魚と人間は、相いれぬ存在です。共に歩むことは出来ません。……だから、その人のことは忘れなさい」
「お姉さま……、でも」
「人間はあなたが思っているよりも野蛮で残忍な生き物です。捕まったら殺されるより酷いことをされるかもしれないわ」
けれど、人魚姫は納得がいきませんでした。
お姉さんは、人間と戦ってもいないのに負ける前提の話をしているからです。
相いれぬ存在だからこそ、拳と拳で語り合うことでお互いを認め合う道を見つけることができる気がするのに……。
「お姉さま、止めないで下さるかしら。わたくしは、どうしてもあの殿方ともう一度お会いしたいのです」
「……その方の何があなたをそこまでさせるのか、私にはわからないわ」
「当然ですわお姉さま。これはあの方とわたくしの問題ですもの。どうか止めないで下さいな」
話の前提が大きく食い違っているような気もしますが、会話としては成立しているので深く突っ込まない事にしておきましょう。
その時、口論になりかけた2人の前を、偶然別の人魚が通りかかりました。
フレイヤ(
ja0715)です。彼女は人魚女帝と呼ばれ、他の人魚から若干距離を置かれているぼっち人魚でした。
今日は海辺だからか、いつもに増して露出高めのぼいんぼいんばいんばいんでお送りしております。
「……ってちょまてこら?! 誤解を招く表現は避けてくれたまえよ! 東海さいきょーと恐れられている魚人族女帝の間違いなのだわ!」
おまえはなにとたたかっているんだよしこ。
いやだからメタ表現やめてちょうだいって言ってるじゃないですかー! やだー!
あとイーストなんとかがアレでソレだからって東海っていう略称は完全に別の何かに誤解される系のアレだよね。なんでもないです。
「普段なら絶対に呼び止めないけど今は緊急事態なんです! 女帝あなたもこの子に言ってやって」
「自然に失礼ブッ込んでこないでくれますうううう!? べべべつに普段でも呼び止めて欲しいとか思ってないのだぜ!! だぜ!?
だけど話くらいは聞いてやってもいいんだぜ別に寂しいわけじゃないけどな! 何言ってんだ私!!」
「人間のイケメンなんて絶対ろくでもない男だと思いません? 人魚姫ったらそんな男の所に行こうというのよ!」
「えっ、イケメン?」
「ええ、顔だけ男と評判の人間国の王子」
「出逢ったの?」
「出会ってしまったんですって、この間の嵐の時に」
「な……なんで私じゃなくて人魚界の中でも最弱のはずの人魚姫風情が王子と出会えるんだぜ!!!?」
こんなに頑張って男探ししてる女帝にはイケメン()との出会いが全くないのに! なぜ!
もしかして:物欲センサー
ギリィ……。女帝の歯ぎしりが聞こえました。でも気にしたら負けだと思います。
「きゃっきゃあははが出来るのはリア充だけだって何度言えば分かるんですかおバカさぁぁぁぁぁん!」
砂浜をゴロゴロ転がるたしょがれの人魚女帝。なんという自虐芸でしょう。
転がる女帝を尻目に、コホンと小さく咳払いをして、お姉さんは言います。
「ん。話がそれたけど人魚姫、私達はあなたの為を思えばこs」
……ん?
なんとなく違和感を覚えてお姉さんが視線を上げると、なんということでしょう、人魚姫は忽然と姿を消していました。
「に……逃げられたー!?」
――そんなこんなで(無理やりまとめようとしている感ありあり)
姉の静止を押し切り、人魚姫は王子の元へ向かおうとします。
けれど彼女には、他に頼れる者がいませんでした。
一縷の望みをかけて向かったのは、女帝()以上に恐れられている海の魔女の棲家です。
「魔女様、ごきげんよう。いらっしゃいますか?」
「こんなところまで人魚が訪ねてくるとは珍しい。何の用だい?」
暗い家から姿を現したのは、悪名高い海の魔女ギィネシアヌ(
ja5565)です。
彼女はいつも、海に住む者に悪戯ばかりしている悪い魔女でした。
黒い帽子にウミヘビのような下半身。噂通り、目が合えば視線で【ピー】されそうな凶悪な目つきをしています。
「おい誰が【ピー】しそうだ誰が」
けれど人魚姫も、伊達にここまでやって来ていません。
恐ろしい魔女を相手に、交渉をするだけの覚悟は決めていたのです。
「魔女様、お願いがあります。わたくしを人間にしてほしいのです」
「人間に? へぇ、風変わりな人魚がいたもんだ。……なぜ人間になりたがる?」
「……人間の王子様にもう一度お会いして、(拳で)一晩中語り合うのが夢ですの」
「なるほど。そういうことなら話を聞いてやらんでもないぞ。――ただ、どんな願いにも相応の対価というものが必要になるよ」
「ええ、覚悟はしています」
「とはいえ、まあアレだ。尾びれを人間の脚に変えるだけでいいなら、今晩のおかずが一品減るだけのとかあるけどな!」
どんな魔法だ。
ツッコミたい気持ちは山々ですが、当の人魚姫は目を輝かせていました。
「それは本当ですの?」
「うむ。だが残念ながら、足の本数だけは保証できねーんだ」
「……本数? そ、それは困りますわね……」
「あれ、ダメ?」
「ええ、3本や4本では体幹のバランスが狂ってしまいますもの。勝負の中では不利になりかねませんわ」
成程地上でも女同士の美しさの戦いはあるのだなーと納得する魔女でした。
しかし残念ながらみずほが言っているのは多分その勝負じゃないと思います。残念ながら。
「ならば完璧に人間の姿になる代わりに、声が出なくなる魔法あたりでどうだ? 妥協できそうか?」
「まあ。それでしたら問題ありませんわ。わたくし、王子とは言葉など無くても(拳で)語り合えると思いますもの」
そんなこんなで交渉の末、魔女にとっておきの薬をもらった人魚姫。
王子のいる地上――人間の国に、満を持して降り立つことになるのです……。
●人龍姫とゆかいな仲間達?
舞台上に残されたのは、杉 桜一郎(
jb0811)ひとりでした。
そんな不気味な静寂の中、桜一郎はゆっくりと語り出します……。
「先程まで人魚姫の話を聞いていたのだけど、何やら面白いことになりそうだね」
髭的なもじゃもじゃをもしゃもしゃさせながら舞台の上手から下手へぬるぬる動きます。
「ライバルの人魚姫が人間になったとあれば、人龍姫も黙ってはいないだろうけど」
はて、人龍姫とは?
人魚姫の話にそのような登場人物はいたものだろうかと首を傾げる聴衆に、蛸坊zげふん桜一郎は語りかけます。
その語り口はイインダヨ細けぇこたぁ気にすんな! と言わんばかりの適当さを孕みながらも、どこか暖かさを感じるものでした。(適当)
ていうか冷静に考えたらヤシの木とかストーカーとか明らかに余分なもの一杯出てますしもういいんじゃないかなって。
そもそもふわっと演劇ですし。そのへんふわっとでいいんじゃないでしょうか。ね。うふふ、オッケー☆
「さて、人の口に戸は立てられぬと言うし、早速人龍姫たちにも最新情報を伝えてあげないとね」
なんかよくわからないけど、波乱の予感がします。なんかよくわからないけど。
そんな経緯で蛸坊主から噂を聞いて、海の奥底に棲む龍の姫――人龍姫は憤りを隠せませんでした。
それもそのはず、いつの時代もいつの世も、彼女は人魚姫の影に隠れて脚光を浴びることがなかった不遇のアイドルだったからです。
え、アイドル違う? 細けぇこたぁ(略)
「うぅ、なんで人魚姫はいつもオイシイとこ持っていくんだよぉ」
ぽつりと呟く彼女が、幾分疲れているように見えるのは、迫り来る追っ手の脅威をひしひしと感じているからに違いありません。
そう、彼女は今――謎の探検隊に追われる身だったのです。
「きっとあのニンゲン達も、俺が子供っぽいからってナメてるんだ……っ」
ぶわわっ。
宗方 露姫(
jb3641)の目尻に浮かぶ涙は、まごうことなき正真正銘の涙です。女優だねぇ。え、マジ泣き? はははいやそんなまさか。
とにかく、日頃から踏んだり蹴ったりの人龍姫には、人魚姫が地上に向かったというニュースは追い打ちでしかありません。
「三島隊員……! あのドラゴンはどっちへ行ったんだ!?」
「隊長、今更ですが何故そんなに必死でドラゴンを追いかけるんです? 今回の探検の目的って人魚で……」
「だから、可愛いは正義だと何回言えば分かるんだ!? 人魚よりイルカさん、イルカさんよりちびドラゴン! だろう」
豪語する隊長こと雫石 恭弥(
jb4929)。
いやそんなキリッとした顔で言われても……。助手・三島 奏(
jb5830)の心労? もはや言わずもがなです。
ふよふよと泳いでいくドラゴンを追いかけるのは、恭弥お手製の手こぎボート。
もはや追いかける気があるのか無いのか! いえあります! 予算が無いだけです!
どのぐらい予算が無いかっていうと、お揃いの探検隊衣装さえ自腹で夜なべして手縫いしたレベルです! 涙を禁じえない。
「っていうかそもそも番組のタイトル『迫り来る大自然の恐怖!! 巨大台風の謎に迫る! 太平洋海底に人魚は実在した!!』でしょ!?」
「そうだ!」
「いやちょーっと待ったぁあああー!! 人魚は!? ねえ人魚は!? どこ行っちゃったんですかねえ目的が迷子!」
「だってちびドラゴン可愛いんだもーん!」
「だもーんじゃねぇよ自覚持てこのアホ隊長ぉぉぉぉ!! 人魚探すって言ったじゃないですかーやだー!!」
ただでさえ人魚姫(そういえばそんな題目でした)に関係ない役どころ。
これ以上脱線させてたまるか、とばかりに全力で隊長を引き留めようとする三島隊員なのでした。涙を禁じえない。
「あらら? こんな沖合いに人間がいるなんて珍しいのだわ」
通りすがる人魚女帝には目もくれず、龍の子供を追いかけようとする隊長。
一方の隊員は眼前を過ぎっていったナイスバデー女帝様を思わず目で追い、一瞬の空白の後に大声で叫ぶのでした。
「隊長、その目は節穴ですか?! 今まさに目の前で人魚が泳いでるでしょうがぁぁぁあ!!」
「だから人魚じゃなくてドラゴ」
「まだ言うかこのバカ隊長ーーー!!」
♪大発見して海原を後にする
来る時あれだけいたタコや
クラゲ毒フグいやしない
渦潮さえも消えている
ゆけゆけ雫石恭弥 ゆけゆけ(以下略)(そもそもこのネタ今どれだけの人に通じるのか)
……ていうか、今更だけどお前ら何がしたいんだ?(褒め言葉)
さて。
意図せぬ内部亀裂()により緩む追求の手。
これ幸いとばかりに、人龍姫は小さなドラゴンの姿に変身して海上へと飛び立ちました。
「やれやれ、どうなることかと思ったぜ」
これが幸運だったのか、それとも不運だったのか。
ともあれ何とか逃げ果せた人龍姫。急ぎ海の魔女のもとへと向かいます。
「魔女殿を魔女と見込んで頼みがある、俺を人間にしてほしいんだ! 俺は人魚姫を倒して世界最強の姫になる!」
ちょっと訳がわかりません。
魔女――第二の魔女・黄昏ユキ(
jb5973)も、残念ながら当然のように彼女の願いに関心を持ちませんでした。
けれどめげずに交渉を続けると、ユキ様はおもむろに言うのです。
「ふふふ……そうね、しっかり私の命令に従うなら……考えてあげてもいいわ」
「命令……?」
「ええ。人魚姫に幸せな結末を迎えさせないこと――べ、別にあなたの熱意に負けたわけじゃないわよっ!」
その条件を呑んだ人龍姫は、すぐさま人間の脚を手に入れて地上へと向かいました。
代償として自らの(なけなしの)幸運を捧げ、人魚姫が求める王子との再会を阻むため立ち上がったのです!
監視役として魔女のしもべ・ルルディ(
jb4008)を連れ。
人龍姫with龍使い〜どっちがリーダーか正直よく分からない〜旅へと。
龍連れの旅人が珍しいのでしょう。道中、謎の忍に声をかけられたりもしました。
「え、何なに? どこ行くの? 面白い事しようとしてるなら、あたしも混ぜてよね!」
鬼灯丸(
jb6304)と名乗ったその忍は、人龍姫の右腕として、人龍姫による地球侵略計画の助けとなるのです。
おっと待て、いつの間にか目的が変わっていないか? ソーリー気のせいだ。多分。おそらく。きっと。
「地球侵略への道は長く険しそうだね……」
「うん、だけど諦めるもんか! 俺はいつか最強の姫になって……人魚姫の魔の手から王子を救い出すんだ!」
「さすが人龍姫……! そうだ、あたしも頑張らなきゃ。どんな手段を使っても……そう、すべては地上侵略という目的のために!」
話が迷子。
●同じ頃、人魚姫サイドでは姉が奮闘しておりました
「あの子は本当に大丈夫かしら……」
人魚姫が陸へ行ってしまってからというもの、お姉さんはずっと考えていました。
もう無理に人魚の国につなぎとめようとは思いません。けれどせめて、可愛い妹が幸せになってくれなくては困ります。
諸々あって、ちゃらんぽらん王子の悪評は海の底にまで広まっていました。(情報源:蛸坊主とヤシの木)
せめて、そうせめて、噂に聞くようなダメ男にだけは妹をやってたまるか、と思うようになっていたのです。
「人魚姫をあの男の魔の手から救うにはどうすればいいのでしょう? 知恵をお貸し下さい、水の精霊国の王女様」
お姉さんが願うと、シェリア・ロウ・ド・ロンド(
jb3671)扮する水の精霊国の王女が静かに姿を現しました。
そして、言うのです。
「……大変なことになっていますね。このままでは人魚姫まであの王子の餌食に……早く抹殺しなくては」
「王女様……!?」
「お姉さんを話のわかる女性と見込んで話しましょう。実は――」
ひそひそ。
ごにょごにょ。
ざ
わ
・
・
・(※椰子)
そして精霊王女の口から語られる驚きの真実!
なんと……かの王子様には、認知していない子どもがいるというのです!
「結局わたくしとのことはお遊びだったのよ。最低な人……せめて、せめてこの子だけは認知してもらわなければっ」
憂いを帯びた表情で、大きなお腹をさする精霊の王女。
本当になんと言っていいやら……王子許すまじ。
思い返せば、事態がややこしくなったの大体王子のせいじゃね? って思ったら余計腹立つわー!
「行きましょう王女様、絶対に彼の好きにさせてはなりません」
「ええお姉さん、協力して必ず……王子を【検閲】しましょう! 人魚姫を、そして世界中の女の子を救う為に……っ!」
結束し立ち上がる2人。しかしその行く手を阻む者がいた!
説明するまでもありません。人龍姫とゆかいな仲間達です。
「おーっほっほっほ! どうせ人魚姫に、王子を刺せば自分だけは助かる魔法の短剣を届けるつもりなんでしょう!?」
「はーははは! 貴様らの幸せは、このぼく――誇り高き海の魔女様の手下・ルルディが許さないんだよ!」
わざとらしい高笑いと共に、2人目の魔女とその下僕が姿を現します。
彼らに行く手を阻まれて、お姉さんと王女様は無言のまま、わずかに唇を噛みました。
「皆、海のもずくになれなんだよ!」
それを言うなら「もくず」では、と皆が思った訳だが、状況が状況ゆえに誰も突っ込まなかった。突っ込んでやれよぉ!
「……って、あれ? そのちっちゃいドラゴンは」
「もしかして人龍姫では……」
「みぎゅ!? みぎゅ、みぎゅ〜!!」
「人魚風情が人龍姫さまを愚弄する気かー!!」
どうやら魔女様登場の際の水しぶきをかぶって、姫は龍に戻ってしまったようでした。
「え? 何ですか姫様……えっと、えー……え? 人魚姫のことだから、……刃物は絶対に持たない?」
まさかの同時通訳。
コミュニケーションって難しいですね! ……え、そこじゃない?
「刃物は持たないって、それどういうことです?」
「人魚姫は何でも拳で解決できると信じています。だから、刃物に頼るようなことは絶対に――」
……だがその時、彼女たちはまだ知らなかった。
すぐ背後に何者かの魔の手が迫っていることを――。
●その頃、当の人魚姫はといえば
お城へ一目散に向かっていました。ええ、一目散に。己の信念のまま、様々な人と拳で語り合いながら……。
けれど警備の為に配置された衛兵を次々になぎ倒してしまうと、みずほ姫は少しだけ物足りなさを感じはじめます。
(もっと……もっと正面から語り合える方は……)
そこへ、騒ぎを聞きつけた王子の妹姫が現れます。
「全く、こんな騒ぎを起こすなんて卑しい娘、どこの田舎からやってきたのかしらねぇ? ……あら、なんだか魚臭いですわ。何ですの?」
詳しく話を聞けば、どうも王子の婚約者を【ピー】させる為に呼んでいた刺客を、人魚姫に倒されてしまったということらしく。
それは彼女の機嫌を損ねても仕方のないことでしょう。
(ごめんなさい、わたくし事情を知りませんでしたの)
ぺこりと頭を下げると、どうやらお姫様は事情を察してくれたようでした。素晴らしいね空気読める子!
「……どうしても許して欲しいなら、王子の婚約者を倒してきて下さらない?」
何やら、今日はお城でブトーカイなるものが開かれるといいます。王子の婚約者をお披露目するパーティだそうです。
へぇ武闘会か。やべぇなオラわくわくしてきたぞ。え、舞踏会? 何それ美味しいの?
……。
「お兄さま、お義姉さまー!」
兄に駆け寄る妹を、王子は優しく抱きとめます。
「木葉どうしたんだ〜い? あれ、そっちの君もカワウィ〜ねぇ☆ どこ住みー? よかったら舞踏会トゥギャザーしな〜い?」
(武闘会へのお誘い? それはとても嬉しいですわ。ぜひご一緒させてくださいませ)
という意味を込めた(希望的観測)渾身の右ストレート――。
「ひでぶっ!?」
「お兄さまぁぁぁぁぁぁあー!?」
「お、王子……」
そして王宮敷地内の崖から華麗に海へと転落する王子。南無。
そのとき、妹以外の人々は確信したそうです。
ああ、これが天誅だな……って。
●褌と海
――海は混沌としていた。
ぎゃあぎゃあ、やいのやいの。
赤城 羽純(
jb6383)が突然放ったお手製の投網により、一所に集っていた人龍姫with魔女一味と人魚姉達は文字通りの一網打尽にされておりました。
網の中には桜一郎の姿もあります。もがもが。
ついでにその上に王子まで降ってきたのだからもう、目も当てられないカオス。
そこへ、ふらり、と。
更なる来訪者がやってきました。招かれざる来訪者が……。
リンド=エル・ベルンフォーヘン(
jb4728)です。
「我は水を大の苦手とする、母なる大地より生まれし魔神……」
非常に説明的な自己紹介ありがとうございます。
その魔神さんですが、アレですよね。本来的には人魚姫に水が苦手な人とか出てきませんよね?
こう言っちゃなんですが、もしかしたら皆さんご存知かもしれませんが、アレですね?
前にやったアラジン的なふわっとした劇のアレやソレを引きずってますね?
オーケーブラザー、そういうことなら仕方ないな。何が? 細けぇこ(略)
「地底大魔神たる我を呼び覚ましたのは……誰だ……」
……。
……?
もしかして、この場にいる方たち全員気を失ってます?
「……えっと、じゃあ我、海を干上がらせちゃおうかな……」
やったーやりたい放題できる! なのにこの微妙で絶妙な寂しさは何なんだぜ?
立ち向かう正義を絶望の底に叩き落としてこその悪役なのぜ? 要するに張り合いがないぜ?
等と、贅沢な悩みを抱えて立ち尽くしていたところに――なんと第二の悪役が!
まって☆ 正義のヒーロー登場やないんかい☆ どっせーい!!!!
怒涛のテンションで乗り切らなければもうダメな気がしています。
だがまだ希望を捨ててはいけません。今こそ、希望を胸にすべてを終わらせる時なのですから……!
立ち上がる。我らの希望――その名は!
「人龍姫ッ!!」
っていうか彼女達ついさっきまで人魚姫倒すとか物騒なこと言ってたよねってそんな無粋なこと言わないで!!
ほら立ち上がった! 立ち上がったんだから! 応援してあげようよ! ね!
……あ、えっと、天の声別に酔っ払ってませんのであしからず……。
「ふはははは! そこらへんに居る人を力技で取っ捕まえ、順番に逆さ吊りにして鼻にコーラ注いでやるぞー!(精一杯の悪役ヴォイス)」
「ぐっ汚いな、さすが地底大魔神きたない!!」
「ち……チクショぉぉおぉおくらえ地底大魔神! 新必殺(略)!」
「さあ来い人龍姫ェエ! 我は実は一回ケツバットされただけで倒れるぞオオ!」
「まそっぷ!!(知ってる!!)」
「ぐわあああああ」
(中略)
「やった……ついに地底大魔神()を倒したぞ……これで世界は平和になる!」
「そうはさせぬ……」
「な 何だって!?」
そして登場する真の黒幕(っぽい立ち位置に成り行きでなってしまった)ユーサネイジア(
jb5545)。
「我は活力にあふれた若者達が羨ましく……そして……妬ましい……。故に、邪魔をして……滅茶苦茶にして、やりたいと、思う……」
「そ、そうはさせない……!」
「まずは、……余計なことばかりする……魔女。それから、人魚姫を弄ぶ、………王子。
邪魔する連中も……皆、我のふんどしアタックで……地獄へ…送って、やる」
「え」
……あっ(察し)
えっ? いや察した、察したけど甘んじて受ける気など更々ないのだぜ!?
断固! 阻止! NO、ふんどし!
「く、く……食らってたまるかぁぁぁぁぁーーー!」
「さあ来い……人龍姫とやら……我の死に場所を、その可能性を……我に見せてくれ……」
皆の勇気が世界を救うと信じて……! ご愛読ありがとうございました!(やけくそ)
……真面目な話、これ、どうやって収拾つけたらええんですのん?
●無秩序と投げっぱなしは違うんだぜ(多分)
図らずして世界の存亡をかけた戦いが起こっている傍ら――。
王宮で行われていた武闘会いやいや舞踏会もまた、すっかり佳境に入っておりました。
やってたんかい、とかそういう無粋なツッコミを入れてはいけません。
本来は王宮での出来事のほうがメインになるはずだったんです! ……だったん、です。
「人間になる薬はベリー苦かったデース☆ だけどこれでプリンスマイケル☆Mk2デース☆」
敷地内を闊歩するマイケル=アンジェルズ(
jb2200)は、完璧な(本人比)人間と化した己に満足している様子です。
けれどその傍に、いつもなら欠かさないはずの女性がいません。彼は、誰かを探しているようでした。
「王子の婚約者はベリーベリービューティなレディだったのデース☆ 彼女の為に海から揚がったようなものデース☆」
噂をすれば、なんとやら。
不意に黒髪の美少女がマイケルの前を横切りました。
過ぎ去ろうとする彼女を呼び止めようと、マイケルが口を開いたその瞬間。
彼の周囲に、突然辻風のようなものが集まったかと思うと――音もなくマイケルの身体を刻んだのです!
風の精ほんと罪深いな。
「オーマイゴッド、痛いデース☆」
全く緊迫感のない悲鳴をあげ、マイケルはその場に倒れこみました。
そんな彼に気づいた少女――緋月は、慌ててマイケルの隣で膝を折ります。
「だ、大丈夫ですか?」
「正直無理デース☆ ぶっちゃけベリー痛いデース☆」
「大変……誰か、誰か!」
このままでは保護責任者遺棄(略)
そんな感じで助けを求めて声をあげる緋月のもとに、一人の男が駆け寄ってきます。
それはアホ王子()の親友で、隣国の王子である小田切ルビィ(
ja0841)でした。
今日の舞踏会には、どうやらお忍びで参加していたようで、緋月とも色々な話をして親睦を深めておりました。
「……ああ、傷自体は浅そうだな。心配はいらねェだろう」
「本当ですか? 良かった……」
ほっと胸を撫で下ろす緋月でしたが、ふと、青年が止血用にと取り出したハンカチの奥――胸ポケットの中で輝く女性用の髪飾りに目を止めました。
それは、ほかでもない――自分が以前、別の仮面舞踏会でなくしてしまったはずの髪飾りだったのです!
「この髪飾りがどうかしたのか?」
「それ……って──! み、見つけた……! 私の探し人っ!」
「ん? もしかしてコレ、お前の……?」
驚き、目を見開くルビィに、緋月はこくこくと頷きを返しました。
「マジかよ、それじゃ……あの日一緒に踊った御婦人も……?」
「あの日は……助けてくれたお礼も言えずじまいだったから……また会えて、本当にうれしい……!」
(♪ここでなんか良い感じのBGMが流れます)
このあと自分の国へ戻ったルビィ王子は、緋月を正式な后として迎えることに決めました。
そして2人は幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。
――って、ちょっと。ちょっとちょっと。
何イイハナシダナー的にまとめようとしてるんですか。この話人魚姫だったじゃないですか。
これじゃ灰かぶってる系女子の話じゃないですかー!!
天の声が発した魂の悲鳴が、久遠ヶ原学園の某所にある海岸(ロケ地)まで届いたかはわかりません。
けれど一つだけ確かなことがあります!
だってほら! ヤシの木は見てたんだよ、最初から最後まで! 余すところなく!
途中若干ステルスしてたかもしれないけどさ! ざわざわ……ざわ……。
「えっ、人龍姫の一味VSふんどし魔神の決着〜? なんでふゆみにそんなこと聞くのかな〜??
いくらヤシの木だからって全部見てたとおもったら大間違いなんだよ〜☆★
だってほら細かいことまで全部チェックしてたら疲れちゃうからね☆ミ 木の役もこう見えて結構タイヘンなんだよ〜☆
なにせ数時間立ちっぱなしだからね〜? ふゆみ実はエライんだよ〜褒めて褒めて〜☆(フェードアウト)」
――そんなこんなで。
半ば無理やりの幕引きと相成りましたわけですが。
「さあさ皆様、此度の人魚姫いかがでしたでしょうか?
彼女達の物語はまだまだ続きますれど、此度の劇はこれにて終演! お・し・ま・い、に御座います」
南瓜男がにやりと笑う。
「諸々言いたい事もございましょうが、ひとまずお決まりの文句をば皆々様どうぞご一緒に――それ、なんでやねん!」
おしまい!
(代筆 : クロカミマヤ)