●日々いろんな天魔と遭遇し戦ったりなんかしているともうプリンの中にお尻が一個混じってたくらいじゃ驚かないどころか動じない人になるのかも知れない。
とあるスケートリンク。
そこに、限りなく「彼」に近い見た目だけど実際紛う方なき「彼女」である彼女は、今日も凛々しく敵を見つめ、立っていた。
久遠ヶ原学園中等部3年、礼野 智美(
ja3600)。
「プリンだろうが何だろうが天魔は天魔。退治は当然」
スケートリンクの上でプリンが手を繋ぎ合って滑ってようが、よしんばプリンの中にお尻が混じってようが、彼女が取り乱すことはない。
見よこの完成された平然顔を。
「攻撃を1体1体集中攻撃すれば倒し易いでしょうし、見た目でわからないなら色分けした方が分かり易いでしょう。そんなわけで今日はカラーボールを用意してみました」
カメラ目線(?)でそんな解説を述べた彼女は、カラーボールを掲げて見せて、尻映像をバックに従容とした様子のまま仲間達を振り返った。
「では皆さん準備はいいですか、そろそろ、行きましょう」
なんて、まさかこんな風に智美さんのクールフェイスとふざけた尻の映像が並ぶ日なんて来ると思ってなかったけれどとにかく、つまりまだプリン達は踊っていたし、お尻も一緒になって踊っていたし、つまりは襲いかかってくる感じとかまるでなかった。
ここに撃退士がいるのに、だ。
気付いてないのかもしれないしやっぱり程良くアホなのかも知れない。なんせコメディ依頼だし。
そんなわけでここは引き続き、智美さんのようにドライになりきれない残りの方々の「お尻をプリンだと思い込もう」とする健気な様子をお伝えしようと思うわけだけど、その前にまず、この人の様子をお伝えしなければならない気がしたので、お伝えしておこうと思う。
スケートリンクの片隅。
そこに英 知之(
jb4153)は立っていたっていうかちょっと前屈みになってなんかやってた。
ごそごそしてるスーツの背中が完全に「あやしー人」だったけど、幸いな事に、仲間内の誰も彼の様子には気付いておらず、むしろそんな仲間の様子を「誰も見てないな、よし」みたいにちらっちら挙動不審に確認しながら彼は、スケートリンクの銀色の手すりの所に、自分の顔とか映して鼻毛の有無とかズボンのチャックが閉まってる事を確認していた。
これから天魔と戦うって時に真っ先に気にすべき事柄がチャックや鼻毛って撃退士としてどうなのか人間としてもどうなのかナイーブなのかトラウマなのか。
ともかく鼻毛やチャックの開閉を確認し終えた知之は、とってもインテリな眼鏡を押し上げ、無駄にクールな顔を決めたのだった。
(ふふふ……これで今日こそ真のエリートたる僕の姿を下々の者達にお届け出来るだろう)←これぞ必殺、英知の脳内テロップ〜。
と、このように今日は、「アドリブ厳禁で一つ」と事務所サイドからNG出された演出家サイドとしては、例えそれがどんなお姿であっても手を加えず見たままのことを正直にお伝えするだけに留めていこうと思う。エリート氏ならきっとどんな姿も聡明かつスタイリッシュな事になってくれるに違いないので(サムズアップ)
なんてやってるとこに、遅れてフレームインしてきたのは、今日も女子力高いかわゆい女子高生を目指して奮闘中のポラリス(
ja8467)。
「んーやっぱりおっきいプリンとか可愛いよね! っていうか私くらい可愛かったらあれだよね、敵も可愛くないとー」
痛々しいっぷり……じゃないや、えー痛々しい自信過じゃないやえー……そう、自分を信じる力は知之さんと良い勝負の彼女はそんな事を言いながらスマホ片手に登場し、「だからさー敵も可愛くないと釣り合わないと思うん」DA・YO・N「え」
ってスケートリンクの中見た瞬間、物凄い真顔で固まった。
瞬間、スマホから突然流れ出すメロディ。
なんかてけてけしたやつ。きゃなんとかさんのやつ。
多分、固まった瞬間、指が画面タッチしちゃったんでしょうね。本人全然そんな場合じゃないくらいシビアな真顔してますけど、スケート場の微妙な音響効果であっかるい曲が切なく響いてます。
ここで「わー尻がプリンと一緒にすべちゃってるとかまじうけるPON」なんつって開き直れない辺りが、彼女のちょっぴり切ない経歴をとっても良く象徴しているのだけれどとにかく、かわゆいを目指すポラリス、これくらいじゃ負けません。
(……いや違うわ。そうよ、あれはプリンよ。プリンだと思い込むのよポラリス! そしたらプリンと戦う私可愛いの図が成立するんだから!)
そう、地味な自分とさよならするために、名前まで変えた君が尻と戦うなんてあってはならない! 頑張れポラリス! いけいけポラリス! 険しく遠い「可愛い」の道を今日も突き進むのだ!
「私、プロですから」
カメラ目線(?)でちっちゃくサムズアップするポラリス。
「あ、カイロ、要ります?」
の隣でわりとマイペースに使い捨てカイロ配ってるヴェス・ペーラ(
jb2743)。
ディアボロのあの状態からして、まだカイロ配ってる余裕あるんじゃないかな、みたいなそんな判断したのかも知れなかったし、実際その判断は間違ってはいない。奴らは一体いつになったら本気出すのか、とりあえず未だ輪になって奴ら踊ってる最中だったし。
「場所が場所だけに冷えますからね、はいどうぞ」
「あ、どうもありがとー」
チョコパイ的なお菓子でべったべったになった手で、差し出されたカイロを受け取ってるのは、スケートリンクの手すりに両肘乗せて「お友達滑ってんの見てるー」みたいな風情の高瀬 里桜(
ja0394)。
カイロをモミモミしてふわっふわワンピースのポッケに押し込みながら、彼女は世にも悲しげな溜息を吐いた。
「あーあ。なぁあんで一つだけお尻になっちゃうかなー! プリンだけならちょっと齧ってみたかったのにぃ!」
がさがさがさビリィもしゃもしゃもしゃもしゃー!!
そしてまた何処かからチョコパイ的なお菓子を取り出しやけ食い的なかぶりつきを見せる里桜。三度の飯より甘いもの好きな彼女には過酷なお仕事になりそうだ。
「ひはう。あれHAプリンHAほ」
すると隣から、ややダークでベーダーなSFの人みたいな深呼吸するコンチェ (
ja9628)が、なんか良くわかんないけど漠然と否定っぽい事を言った。
「みふひょくを駆使するんは」
すはー。
でもその状態で何言われても説得力全くなかった。いや、鼻栓て。どういうことなの苦しくないの大丈夫なのそれで戦えるの。
けれど実際の所、密教の厳しい修行を、それはもう視力を失ってしまうほどの厳しい修行を乗り越えて来た彼にとっては鼻栓の苦しさくらい屁でもないみたいだった。ただ、見た人がちょっとリアクションに困ってしまうビジュアルになってるってだけで、本人は自分見えてないし、これで唯一「尻」を「尻」と認識出来てしまう「匂い」の対策が出来るなら彼は満足なのだ。
「え? あ、みふ力……? う、うん。私大人だから、よ、よゆーだよー!!」
尻尾隠れてないヒヨコちゃんばりの危うさでガッツポーズする里桜。
●こうして涙ぐましい「尻をプリンだと思い込む」努力をされた方々の奮闘をアピールするシーン(別名、戦闘シーンとも呼ばれるくだり)
にそろそろ突入かと思われたその時。
リンクの上を妖精の如く滑っていく巨大なおっぱいの姿があった。
あ間違えた。雁久良 霧依(
jb0827)の姿があった、っていうかもうおっぱいのインパクトしかなくて、ぼよんぼよん揺れてるおっぱいのインパクトしかなくて、だからもうおっぱいが滑ってるってことでいいんじゃないかな。
「まあ〜! なんてユニークなディアボロちゃん達なのかしら〜♪ 私はあのプリンが一番好きよ〜美味しそうだわ〜♪」
淑女様はおめめキッラキラさせて、お尻ちゃんにまっしぐら。
そして一緒にバインバインしながら踊りだした。
プリンプリンブリンプリンプリンプリンバインバインプr……。
してる所へ、投げつけられたのは、カラーボールだー。
「当たったらその時はすいません!」
おっぱいでも年上なら礼儀を怠らない智美選手! スパイク付きの靴でしっかりと氷を踏みしめ。スタットレスタイヤみたいに踏みしめ。
振りかぶって〜投げた投げた投げた投げた投げた投げた〜!
ばしばしばしばしバイン!
「いやあん、優しくしてぇ〜」
妙に嬉しげなおっぱい先輩、真っ赤にペイントされたお尻を突き出し、無駄に腰ふりふりしながら智美選手に無事をアピールだ〜。
「あはいすいません」
智美選手動じずスルー。
してる間にも、里桜が「コメットいくよー! 離れててねー!」とか叫びながら、リンクを滑りこんでくる。
しゃ〜がみ込みィか〜ら〜の\ヤッホー/体制で、コメットを詠唱。アウルで作り出された無数の彗星が、リンク上に降り注いできた。
に、思いっきりメニョっと押し潰される、プリンディアボロ×3
辛うじて息はあるものの、明らかに身動きは封じられ、「も、もう僕はだめだよパトr」みたいな感じのそこへ。
「す、すすす滑る、滑るぞ! ききき、気をつけろ!!!」みたいなノリで辿りついた知之さん。左手にビジネス手帳、右手に天使の翼と薔薇をモチーフにした白銀のシンボルと、なんか漠然とクリスチャンのビジネスマンみたいな格好をしつつ、クールな切れ長の瞳で敵を見下ろしてらっしゃいます。
「ふん。先程は少し油断したが氷の上でもエリートっは……っとと、問題なく仕事をこなせ……こなせ……るるるんだっ」
はいいですけど思いっきり足元かっくかくして生まれたての小鹿みたいになってますよ大丈夫ですか。革靴ですし。
「……ま、まあ、あまり魔法は使いたくないのだがこの場は致し方ない。僕の魔法で終われることを光栄に思うんだな。喰らえ! 英知の魔術師、7つの秘技そのいち! 導かれしかみなr」
って言ってるとこに、バビューンッって思いっきり横から突っ込んでくるプリン。にヘぶシッ!! って思いっきり飛ばされる知之の貧弱じゃないや、えー、痩身の身体。
詠唱っていうか詠唱前のごたごたが長かったんだねきっとね。今日一防御力の低い知之さんは当然ながら無駄に思いっきり跳躍して、地面ズベベべシャアアアァァァッッって切りもみ回転して、無駄にド派手に着地してはります。
一応雷はさりげに飛び出してたんで、プリンにダメージは与えましたが。
「あばばばば、知之先輩大丈夫?! か、回復するよーー!」
「わわわあ、ああはなりたくないよゥ」
そんな里桜のライトヒールで癒される(NOT心の傷)知之の姿を見つめポラリスは、シルバーマグ構えた格好でガタガタ震えた。
事務所的には「体張ったプレイも全然大丈夫です!」とのOKは頂いているのだれど、本人はこの可愛子ちゃんキャラ(……)捨ててなるものかと! 絶対捨ててなるものかと必死ですから!
「あ、ちょ、ちょっとつけまつげの様子がおかしい! なんかおかしい! 一旦タンマ!」
へっぴり腰でシルバーマグあっちへこっちへ向けつつ、エビみたいに後退していく彼女が見たのは。
「はむ……ちゅっ、ぺろぺろ……」
とお尻に齧りついてらっしゃるおっぱい先輩の姿。
「ん〜微妙な塩味がたまらないデリシャース」
ガタガタガタガタガタガタガタガタ。
大人の大人による大人のためのへヴィー過ぎるサービスショットに、体中の骨という骨震わせるポラリス。あの時のカメラ目線は何だったのか!
「で、でもあ、ああ、あんな大人にはなりたくないなりたくない、いくらおっぱいでも……」
こら。おっぱい先輩に失礼でしょ。
「うん大丈夫! 羞恥心は脱いできたから!」
さすがおっぱい先輩はおっぱいが大きいなあ。
「もっとお味見させて〜」
ぶーっ!
とそこで拒絶なのかさすがに鬱陶しかったのか、強烈な匂いのする空気を放つ尻。
「うはああああ、くっさ、くっさやばやばい!」←これ普通のリアクション@ポラリス。
「あああ! なんて素晴らしい芳香なの♪ これはきっと有名菓子店の超高級プリンね〜♪」スーハー。←これ最後まで決してぶれない人のリアクション@おっぱい霧依。
一体彼女はどこまで進むのか。このまま彼女の姿を移し続けていても放送規制に引っ掛からないのか。
誰もがそんな不安を抱き始めた頃。
「プリンにしては揺れがあまーーーい!」
とかなんかハリセン持ったコンチェが氷の上をヘッドスライディング状態で滑りこんで来た。
ちなみに彼は今回、初めてスケートに挑戦し、挫折し、立つことを諦め、「うん! この状態の方が滑りやすいしよし!」と納得しこの状態に落ち着かれたんである。さすが鼻栓とか思い付く人はやることが違う。
「もっとぷるんぷるん揺れろ! それがプリンというものだ〜!」
極度に女性が苦手過ぎて、最早、霧依のおっぱいですらプリンだと思い込もうとして実際その類稀なる克己的な禁欲主義がおっぱいを「プリン」に見せたのか、彼はそんなことを叫びながら、霧依の前でくるんと回転し、てかーらーの、強烈なツッコミを放った!
されていやああんなんつってちょっと飛んでったおっぱい先輩が離れた隙に、これでやっとまともな攻撃が出来るとばかりに闘気解放状態の智美参上。
「プリンのくせに臭い匂いなんて放ってんじゃねぇ!!」
パルチザン突き出しての強烈な烈風突の一撃を放った。
パオーーーン!
それが一体どこに突き刺さり、どんな状態になっちゃったかはあえて詳しくは書かない。
とにもかくにも相当なダメージを受け、弾き飛ばされ、レイジングアタック状態のストラスクローによる攻撃でプリンを全滅させていた里桜の元へ、飛んだ。
幸か不幸か。
「いやぁあああ! お尻が寄っいやああああ! みふ力とか無理無理無理! どうみてもお尻! なんか臭いし! お尻のくせにプリン気取るなんて、図々しい!」
そして逃げ回りながら里桜は決意したのだった。
残り一回のコメット。
使いどころは……ここしかない!! と。
思った瞬間だった。背中越しにごオオオオオオっと激しい勢いで噴き出す、凄まじい炎の気配を感じた。
「いやあそれにしても今日は火炎放射器の炎が派手ですね。もう何もかも炎の塊にしか見えませんよええ。何も見えませんよ」
ヴェスだった。
闇の翼で浮遊しながら火炎放射器ぶっ放すヴェスだった。
「助かった。ナイスタイミングヴェス」
空中に浮かぶ彼女は小さく笑いながらサムズアップした。
●こうしてディアボロは今日もしっかりと始末されましたとさ。
ちなみにこの依頼に本当にみふ力が必要だったかは謎だったし、最後まで一切謎のままだったわけだが、最後に智美さんのこんな言葉があるのでご紹介しておこうと思う。
「まあ。差別はいけないけど区別は必要だよな、うん」
間違いないです。
おしまい