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マスター:神子月弓
シナリオ形態:シリーズ
難易度:非常に難しい
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/04/30


みんなの思い出



オープニング

●三者面談


 共同公演は大盛況のまま、最終日を迎えた。
 最後のカーテンコール。カナリアはナイチンゲールと、王様役の城里 千里(jb6410)と手をつないだ。
 ゆっくりと幕が下り、暗くなっていく舞台の上で、シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)、歌音 テンペスト(jb5186)とハイタッチ。

 大道具・小道具などを片付け、衣装も全て片付けて、キャンピングカー周辺に集まる。
 折りたたみテーブルを広げ、孤児たちは「お疲れ様〜っ!」とジュースで乾杯していた。


「カナリア、クロウ。ちょっと来て欲しい」
 団長が、2人を呼んだ。

 心配になった数名の撃退士が、後を尾ける。
 3人が引きこもった車内から微かに声が漏れてくる。


 ――団長は、カナリアに留学の話をしていた。


「通訳の目処がたった。カナリア、いや、初島美歌(はつしま・みか)。留学して本格的に声楽を学ぶ気はないか? 無論、日本に残りたければ音大を目指してもいい。20歳までに働き口を探して、就職するのも自由だ。自分の人生は自分で決めろ、私は全力で応援するだけだ」
「‥‥なんで!」
 感情を破裂させるかのように、食ってかかったのはクロウだ。
「なんで、家族の僕に前もって一言もないんです? 姉さんは歌劇団のカナリアだけど、同時に僕の姉さんでもあるんだ! 留学させて、僕たちを離れ離れにするつもりかよ!」
 
「決めるのはカナリア――美歌自身だ。彼女の人生は他の誰にも決められない」
「僕が決める! 僕は家族だ、ほんものの家族だ! 僕たちは一緒に生きてきた、これまでも、これからも、だ!」

 団長は押し黙った。

(お前がそんな風に姉にべったりだから、カナリアは自分用のキャンピングカーを望み、距離を置こうとしたのではないのかね)
(この先、カナリアに恋人が出来たらどうするつもりだ。早く姉離れしたまえ)

 クロウに言いたいことは本当に沢山あるが、団長は沈黙を守った。
 本人が聞く態勢でない時に、何を言っても通じるものではない。反感を増長させるだけだ。団長はそう考えていた。


「‥‥今すぐには、決められません。急な話で、動転していますし‥‥」
 カナリアの声がか細く聞こえた。

「そうか。すまなかったな。もっと前から話せていれば良かったのだが、通訳の目処が立つまで言えなかった。土壇場で駄目になった時に、がっかりさせたくなかったのだよ」


●近づく別れ


 天宮 佳槻(jb1989)が言っていた。関係者が皆、相手を「思っている」のに「見て」いない、と。

 ユウ(jb5639)は感じていた。クロウは、カナリアが団長を慕っていることに嫉妬し、その想いを、厳しく接することで無下にしている団長に、怒りを覚えているのではないかと。

 敢えて団長を模して王様役を演じた千里は、団長に対してずっと思っていた。「いい加減、団に目を戻せよ、父親」と。

 3人は、彼らの内面を鋭く見抜いていた。そして、皆の応援と誘導で、団長はカナリアの抱える孤独感に気づき、カナリアは自身が特別で且つ平凡な存在だと気づいた。
 残る課題はクロウである。


 共同公演を終えて、孤児たちと撃退士たちの心の垣根は、既に取り払われていた。一緒にご飯を食べ、一緒に笑い合える、『仲間』だった。
 その『仲間』たちは、もうすぐ、学園を去る。

「ねえ、お別れ会をしようよ」
 誰からともなく、そんな話が持ち上がった。
「みんなでご馳走を手作りして、演奏して、歌ったり踊ったりして、楽しくお別れしたいなあ。バイバイだけで終わっちゃうのは、なんか、さみしいよね」
 陽気はすっかり春。花も綺麗で、風もあたたかい。レジャーシートをいっぱい並べて青空パーティをするには、うってつけの季節と言えた。


●クロウ・2


 今でも、何度も同じ夢を見る。繰り返し、繰り返し。


 埃にむせながら、背中にずっしり重たく乗っている瓦礫をどけると、黄色く霞んだ空が見えた。
 僕の腕の中で姉さんが凍りついている。

「おかあさんは? おとうさんは?」

 半分だけおもちゃみたいにひしゃげて、崩れたおうちが見えた。台所がむき出しになっていて、ほかの部屋には入れそうになかった。
 ごめんね姉さん、わかんないや、と答えた。その時、僕は正義のヒーローで、そう、首に巻いた風呂敷がその証だった。
 ヒーローは女の子を守るものだって知っていた。だから姉さんを守った。
 街を襲ったカイブツみたいなのは倒せなかったけれど、瓦礫に隠れて、姉さんを守れた。
 

 ――僕たちが、2人っきりの家族になった日の夢だ。


 孤児院に入ったのは、何日か経ってからで、歌劇団に誘われたのはもっとあとのこと。
 それまでは、半壊した台所から食べ物――缶詰とか干物とかを色々見つけて、食べられそうなものはなんでも食べた。
 いつもお腹は空いていたけど、なんでも姉さんと分け合って、頑張って生きぬいた。


 あの時は小さくて、何もできなかったけど、でも2人だったから、励まし合って何とかなったじゃないか。
 今の僕にはヴァイオリンがある、姉さんには歌がある。
 こんなに頑張ってきたんだ。ずっとずっと頑張ってきたんだ。
 僕たちの苦労は報われて当然のはず。次だって、きっと何とかなる。2人なら、きっと。

 なのに――なんで、団長の思惑ひとつで、ばらばらに引き離されないといけないのさ。
 ヨーロッパだって? 遠すぎるよ。そんな留学話、蹴るべきだ。

 そうでしょう、姉さん?


●カナリア・6


 本当は、歌を、学んでみたい。
 でも、ひとりで留学する勇気がない。
 弟を置いていくのも躊躇われる。クロウには、心配をかけたくないから。
 誰かに弱音をこぼして、クロウの耳に届くのが怖いから。
 だから、わざと距離を少しだけ置かせてもらったけれど、まさか、国レベルで離れてしまうことになるなんて‥‥逆に不安になる。

 ――特別とは、自分の手で掴み取るもの、だから勇気を持って世界に羽ばたこう。
 シェリアさんは、そう言って歌を書いてくれた。

 撃退士の皆さんは、怖くなかったのかしら? 祖国を離れ、日本で暮らすことになって。

 どうしよう、どうしよう、わたし、どうしたらいいの?

 世界に羽ばたく勇気が欲しい。
 今のわたしじゃ、駄目。
 クロウが心配。
 置いていけない‥‥。

 変わりたい。

 優柔不断で八方美人なわたしを辞めたい。
 このままじゃ――このままじゃ本当に、自分で何ひとつ、決められない!

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リプレイ本文




 ユウ(jb5639)は、団長の車を訪れていた。
「団長さん、あの‥‥ひとつ相談なのですけれど、あのことを皆さんに明かしてはいけないでしょうか?」
 その言葉に、団長は難しい顔をした。
「‥‥孤児たちの耳には入れたくないのが、正直なところです。ユウさんは誰に打ち明けたいんですかね? 相手次第では、大丈夫かも知れませんが‥‥」

 ひそひそと、密談は続く。





 誰もいない舞台を見上げ、カナリアは佇んでいた。
 数日前から、結構長い期間、ここで公演をした。立ち見が出るくらいお客さんも来てくれて、自分は舞台に居た。そこで高らかに歌っていた。

 ――歌いたい。もっともっと、歌を、学びたい。でも‥‥でも。

「所詮この世は一つの舞台、万人皆役者に過ぎぬ」
 鷺谷 明(ja0776)が姿を現した。カナリアは振り返った。
「『お気に召すまま』第2幕7場、ジェイクイーズの台詞ですね」
「おやおやご名答。流石、団長が留学を薦めるくらいには優秀なようだね。さておき、万人皆役者とは言え、自分がやりたい役を演じる程度は許されるだろうさ」
 明の声が反響する。

「どうして、そのことを?」
「新聞記者は耳ざとくないと勤まらぬものでね」
 明はカナリアの問いをはぐらかし、常に浮かべている笑顔の中で、唯一笑っていないまなざしを、歌姫に向けた。

「さて、自分に正直になって答えて欲しい。お前は今、何がしたい? 弟の為に己の欲を押し殺すか、己の為に弟の欲を断つか」
 カナリアが息を呑む。答えは‥‥無言。
「私は、お前が決めた道ならどちらでも構わない。心より祝福しよう。だが、時間に流されることだけはやってくれるな。選択できるということが、如何に幸福かを知りたまえ」
「‥‥」
「まあ、そんな前置きはさておいて。個人的に言うなら、誰であろうと、独り立ちはせねばならないと思うよ」

 汝の行く先に幸運あれ。
 俯いてしまったカナリアに背を向け、明は靴音だけを残して、その場を去った。





(わたしのしたいことを押し通して、クロウの気持ちをないがしろにするか、その逆か‥‥なんて)
 明が去った通路を見ながら、カナリアは、力なく客席に座り込んだ。
(‥‥わたしは、クロウが辛い思いをするくらいなら‥‥)

 歌を捨てても‥‥そう思いかけて、カナリアは我に返った。
 ――あら? どうして‥‥視界が滲んでいるのかしら?





「ここに居たのね」
 月臣 朔羅(ja0820)が、客席でうなだれているカナリアを見つけた。
 朔羅の後ろから、Robin redbreast(jb2203)が、小鳥のように顔を出す。

「留学の噂は聞いたわ。迷っているのね」
 朔羅が聞くと、歌姫は潤んだ目を向け、そして、小さく頷いた。
「こわい、です‥‥知らない土地へ、しかも外国へひとりで行くなんて。わたし、諦めようかと思っています。クロウも反対しているみたいですし‥‥」

「怖いと感じるのは当然でしょう。未知の域に踏み込むのだから」
 さらりと朔羅が答えた。
「だからこそ、その恐怖という壁の向こうにあるものを、確りと見据える必要があるわ。――そこにあるのは、壁を越えてでも手にしたいものかしら? それともあなたは、クロウのほうが大事?」

「‥‥」
 黙ってしまったカナリアに、ロビンが話しかけた。

「外国に行く不安と、クロウのことは、別のことだよ? クロウのことを、言い訳に使っても、二人とも幸せになれないよ」
「えっ‥‥」
 カナリアは、驚いた様子で、ロビンを見つめた。
「クロウのこれからは、クロウが決めることだよ。カナリアが、クロウを手放さないと、クロウも一人で歩くことができないよ」

 それにね、と、ロビンは続けた。

「初めてのことは、自信がなくてドキドキするし、失敗すると怒られたりするけど、いちど失敗したら、次に間違えないように、注意深くできるし、どんどん上手にできるようになれるよ」
「そうね。思い切って飛び込んでしまえば、案外大した恐怖ではなかった、ってことになるかもしれないわね」

 2人の言葉に、カナリアは迷った。心が揺れた。
 どうしよう、どうしよう、どうしよう‥‥。





♪君は一人じゃない。そこにはいつも大きな愛が見守っているから♪

 シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)の歌声が響いた。カナリアが振り向くと、シェリアと歌音 テンペスト(jb5186)と、城里 千里(jb6410)の姿があった。

「その歌は‥‥」
 戸惑うカナリアの手を、シェリアがやさしく握る。

「人との絆は距離ではなくて、思う心の強さなんだと思います。どんなに遠く離れていても、カナリアさんを思う大切な家族がここにいる‥‥カナリアさんが愛する故郷がここにある」
 シェリアは真っ直ぐに、カナリアの瞳を見つめた。
「自信を持って。貴女は独りじゃない。何処にいても、この空が繋がっている限り」

「友情や絆は、距離、生死、そんなものに負けず繋がってるハズ。だから寂しくないよ。離れても皆のこと思ってる、あいしてる、繋がってる、だからあたし、みんなと離れて一人になっても、頑張れるんだぴょん!」
 歌音がシェリアの言葉を引き取る。
「だから安心して、お互いに頑張るぴょん! あたし応援するぴょん!」

「で、でも‥‥わたし‥‥」
 カナリアは戸惑い、自らの不安を口にした。

「いいんじゃないですか? 変わらなくても、誰かのせいにしても」
 千里は、自分が撃退士になった経緯を話した。
 天魔の事故に巻き込まれて環境が激変したこと。誰かを殺せる力を知ってしまった恐怖。自分が変わってしまうんじゃないかという不安。
 だが、彼は変わらなかった。
 城里千里は、紛れもなく、城里千里だった。
 長所も短所も全て抱えて生きている、ごく普通の人間のままだった。

「どうして、弟想いなのを、優柔不断って言葉に置き換えるんですか。どうして、人に気を遣える自分を、八方美人なんていうんです」
 カナリアの言葉を非難するように、千里は畳み掛ける。
「必要な物なんて、もう持ってるじゃないですか。これ以上何を望むんです。自分を変えたいなんて言う前に、もっとありのままを曝け出してみたらいいでしょう。大丈夫だと思いますよ、たぶん。‥‥俺は嫌じゃなかったし」

 カナリアは目をパチパチとさせ、そして、その白い頬に、初めて、涙の筋が伝った。

「わたし‥‥歌いたいです。もっと上手になりたいです。世界中の人に、わたしの歌を届けたいです」
 ぽろぽろと、宝石のように、雫がこぼれ落ちていく。
「わたしの歌で皆さんが元気になれたら、楽しくなれたら、すごく幸せです。だから‥‥留学したい、です。もっと歌を磨きたい、です‥‥」

 それは、カナリアの、心からの希望。
 漸く言葉にした「わがまま」だった。





「そんなのわかっているよ!」
 朔羅の追及に、クロウは、だみ声で叫んだ。
「全部僕の我侭なんだ、僕の望みはどうせ、全部自分のためだよ!」
「待って、勘違いしないで。否定する訳ではないの」

 朔羅は言葉を選びながら続けた。団内での唯一の肉親ゆえに、依存も、別離への不安も、自然な感情だ、と。自分の為に引きとめようとしてしまう事も、当たり前だと。

「自分の為、姉の為。その双方を納得させられる答えを出せるのは、当事者の貴方達だけ。私は、道標だけ示しておくわね。彼女は本気で歌を学びたがっているわ。でも貴方を心配するが故に、迷ってしまってもいるの。それを踏まえた上で――勇気をもって、答えを出しなさい。周りと道の先を見据えてから、ね? 頑張って。貴方なら出来るわ」

 地面を睨みつけるクロウに声だけかけて、朔羅はそっと立ち去った。
 様子を見ていたユウが、クロウに近づいて、声をかけた。

「クロウさん、貴方は、ヴァイオリンをどうやって学んだんですか? 歌劇団に入ってから、どうやって生活して来たんですか? 共に学び・努力し・生活してきた皆とは何の繋がりも持たなかったんですか? カナリアさんの事で大変なことは理解しているつもりです。でも、一度深呼吸して周りを見渡して下さい。貴方に何があるのか、貴方は誰と繋がっているのかを」

 そう。
 クロウは歌劇団の一員。大きな家族の仲間だ。
 年下の孤児たちに親しまれ、団員には「難しい年頃ですけれど、いい子ですよ」と評判も悪くない。

(お願い、気づいてください。カナリアさんだけが家族ではないのですよ。貴方には、たくさんの家族が居るんです)
 祈るような思いで、ユウはクロウを見つめた。
「クロウさんの演奏は、勢いの良い滝のようだと言う話ですね。まだ荒削りですが、決して評価は低くないですよ」

「そうだよ。クロウは、音楽が好き? カナリアの傍にいるためにヴァイオリンをしているの? それとも、歌は下手でもヴァイオリンは楽しい? 練習して上手く弾けると嬉しい?」
 ロビンがひょこりと顔を出した。
「う、うん‥‥そりゃあ‥‥褒められたら、嬉しいけど‥‥」

 そこへ、天宮 佳槻(jb1989)が、姿を現す。

(彼の言動の底には、歌姫ばかりが注目され、演奏者に光が当たらないことで、自分にとっての音楽というものが、価値の低いものとなっていることもあるのかもしれない)
 そう思って団員たちに話を聞いて回ったのだが、ソロパートを任されるだけあって、かなり音楽の評判は良いものだった。

「この先、お姉さんのように、音楽を学び続けて行く気はないのですか?」
「‥‥えっ?」
「お姉さんを引き留めるのではなく、共に歩むという選択肢は考えないのですか? 一人でもやっていけると思えるのなら、何故その道を行かないのです」
「‥‥」
「本当は、お姉さんを引き留めても何にもならないこと、理解しているのでしょう? 一緒に居たいという気持ちを否定はしません。ですが、ならばクロウさんは、そのために、どんな努力をしているのですか? クロウさんにとって、音楽とは何なんです?」
「‥‥」
「同じ、或いは先で交わる道を歩むという形で、共にあることも出来るのですよ。演奏や作曲の道を歩む、或いはマネジメントを学ぶ――方法は様々です」

 淡々と連ねられる佳槻の言葉に、クロウは絶句していた。
 ロビンが畳み掛ける。

「楽しそうに歌うカナリアを見て、クロウも嬉しそうだったよね。カナリアがやりたいことを、応援してあげたら、カナリアももっと喜ぶよ。歌姫としてのカナリアをお手伝いするために、ヴァイオリニストとして留学できるように頑張るとか、マネージャーとしての技能を身に付けるとか、ただ傍にいるだけじゃなくて、他の方法を探すの、すごくいいかも」

「‥‥」
 クロウは、俯いていた。涙をこらえるようなしわがれ声で、必死に言葉を絞り出す。
「‥‥僕が追いつけるようになるまで、姉さん‥‥待っていてくれるかな」

「大丈夫、クロウくんなら、カナリアちゃんに追いつけるぴょん! カナリアちゃんを支えるためにも、楽器の力と、離れていても大丈夫な力を、鍛えなくちゃね」
 歌音がクロウの背を押した。
「絆はね、時間を、距離を、生死をも超えるものなんだぴょん! クロウくんとカナリアちゃんの絆も、距離くらいで壊れてしまうものではないでしょう?」





 お別れ会が始まった。

「一緒に舞台させてもらってありがトン、これからもずっとお友達でいてね。団長さんも、ありがトン!」
 歌音が全員にジュースをお酌してまわり、子供たちには手持ちのチョコ菓子をプレゼントした。
 孤児たちが一斉に立ち上がり、歌音に「チョコありがとうー!」と口々にお礼を言う。
「皆と折角お友達になれたから、ずっと一緒にいたいな。でも、それぞれの目標があるから、それぞれの道を頑張って進まなきゃね。皆、もっともっと立派になって、また慰労公演とか、しに来てね!」

 シェリア主催のビンゴゲームがスタート。
 続いて歌とダンスと音楽の演奏。ユウも、素人ながら、頑張って合唱に混ざる。
 あちらこちらを飛び回り、歌音のヒリュウが<和気藹々>で場を和ませる。

 おだやかな空気が流れるその席上で、クロウは団長に向き合い、頭を下げていた。

「お願いします、僕に、作曲を教えてください! それと、ヴァイオリンも、もっともっと上手く弾けるように、ご指導ください!」
 団長は、おや、というように片眉をあげ、そして言った。
「では、クロウにはその前に、勉強に身を入れてもらわないとな。今の成績では、留学は難しいぞ?」
「頑張ります!」
 クロウの目は真剣だった。
 その視線が、姉であるカナリアに向かう。
(絶対、姉さんを追ってみせる。いつか2人の道が交わるように、一緒に生きていけるように)





 西の空に日が傾く頃には、ご馳走も出し物も、全て終わっていた。
「フェリーの時間があるから、そろそろ片付けをしないとな」
 団長がお別れ会の終了を告げる。

 皆で集まって、記念撮影。団長は、ビンゴで当てたフランスパン型抱き枕を持たされ、決まり悪そうな笑顔を浮かべていた。
 シェリアは「ちょっと待っていてくださいね」と、すぐに写真を現像しに行った。

「カナリアは、りゅうがくするの? とおくのくににいっちゃうの?」
 まだ言葉も拙い孤児が、カナリアにすり寄った。
「ええ、そうですよ。でも、わたしが遠くへ行っても、心はみんなと、ちゃんと繋がっていますからね」
 カナリアは少し考えて、孤児に優しくそう答えた。

 撤収作業で、会場が騒がしくなる。
 その合間にカナリアとクロウは、撃退士たちを隅に呼び、感謝の言葉を伝えた。
「有難うございました」
 カナリアが頭を下げる。
「‥‥すみませんでした」
 クロウも頭を下げる。

 2人は、改めて、本名を名乗った。

「カナ――美歌さん。わたくしたち、ずっとお友達ですからね」
 シェリアが、スピード現像してきた写真を一枚手渡す。そして、しっかりと握手。
 ちょっぴり目を潤ませて、歌音が微笑んだ。

「‥‥今まで黙っていて御免なさい。別れる前にどうしても知って欲しかった。どうか、これからも頑張って下さいね」
 ユウが、こっそり、カナリアにだけ、自分が悪魔であることを打ち明ける。
 団長から、クロウ――響には知らせないほうが良いと、助言をもらっていたのだ。

 キャンピングカーが一台ずつ、駐車場を出て行く。
「あたし、離れてても皆と繋がってるから、何かあったらいつでも呼んで! きっと駆けつけるぽん!」
 大きく手を振り、歌音が叫んだ。





 美歌のキャンピングカーがエンジンをかける。
 団長の車が殿につく。

 車内で美歌は、写真の裏に書かれたメッセージに気がついた。
 急いで電子辞書の電源をつける。

『Du courge!』
(“頑張って”――フランス語?)

 美歌は外を見ようと、窓に駆け寄った。
 やっと見えたのは、滲んだ夕日と、空と、遠ざかっていく久遠ヶ原学園だけ。
 見送りの影は既に遠い。

「‥‥有難う」

 美歌は写真を胸に抱き、静かに微笑んだ。

 <了>


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 陰のレイゾンデイト・天宮 佳槻(jb1989)
 籠の扉のその先へ・Robin redbreast(jb2203)
 Survived・城里 千里(jb6410)
重体: −
面白かった!:26人

紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
封影百手・
月臣 朔羅(ja0820)

卒業 女 鬼道忍軍
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
籠の扉のその先へ・
Robin redbreast(jb2203)

大学部1年3組 女 ナイトウォーカー
絆は距離を超えて・
シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)

大学部2年6組 女 ダアト
主食は脱ぎたての生パンツ・
歌音 テンペスト(jb5186)

大学部3年1組 女 バハムートテイマー
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
Survived・
城里 千里(jb6410)

大学部3年2組 男 インフィルトレイター