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マスター:神子月弓
シナリオ形態:シリーズ
難易度:非常に難しい
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/03/26


みんなの思い出



オープニング

●カナリア・3


 撃退士さん。
 すごく親身にお話を聞いてくださいました。
 あんなふうに、自信にあふれていらっしゃるのは、やはり恐ろしい天魔に立ち向かえる力を持った、特別なかた達だから、でしょうか。
 わたしには‥‥そんな力は、ありません。
 わたしには、歌、しか、ないのです。
 撃退士さんの存在が眩しくて、わたしは、‥‥わたしは、自分がどんどん、矮小になっていく気がします。

 だって、あのひと達は、特別だから。
 トクベツ、だから――。


●演目「二羽の小鳥」


 やや喜劇仕立ての、このストーリーは、以下の通りである。

 幕開けは、籠の中の小鳥の歌(小鳥A)。
 小鳥Aは、自分を可愛がってくれる王様(1名)と、歌を褒めてくれる貴族(数名)たちのために歌う。
 誰かに必要とされるって幸せ。褒めてもらえると頑張れる。わたしを見て、歌を聞いて。
 小鳥Aの後ろには、青い青い空に繋がる窓がある。でも、振り向いたことがない、小鳥A。

 空を自由に飛ぶ小鳥の登場(小鳥B)。
 あたしは何者にも束縛されない。自分で餌を取り、自分で死に場所を探す。
 自分で愛する若者を見つけ、自分で卵を産みあたためて孵す。
 それがあたしの生き方。誰にも邪魔させはしない。

 王様と貴族たちは、毅然とした小鳥Bに目を奪われる。
 なんと美しい鳥だろう、あれは、王宮に飾ってこそ相応しい。
 捕らえよ、捕らえよ、あの美しい誇り高き鳥を。
 剥製にして、永遠にこの王宮を飾ってもらうために。

 王様、貴族さま、もう、わたしの歌を聴いてはくれないのですか。
 必死に歌う小鳥A。狭い籠の中からでは、王宮の騒動の詳細はわからない。
 わたしに興味がなくなったのですか。虚しい、寂しい、誰かわたしの歌を聞いて。
 わたしを褒めて、わたしを以前のように可愛いと言って。
 誰も小鳥Aを相手にはしない。

 その時現れた小鳥B。王様の手をすり抜け、貴族たちを翻弄して、開いた窓から飛び立っていく。
 あたしは自由。あたしの自由は誰にも犯せない。
 颯爽と飛び去る小鳥Bの歌。遠のいていく、自由への賛歌。
 小鳥Aは愕然とその歌を聞き、そして、はじめて、青い空がどこまでも窓の外に広がっているのを見つける。 
 
 こんなに世界が大きかったなんて!
 こんなに空気が澄んでいたなんて!
 わたしは何も知らなかった、何も見てこなかったのだわ!
 世界は、わたしの真後ろに、振り返れば見えるところに、ずっと前から広がっていたのだわ!

 小鳥Aは驚きを歌い上げ、そして閉幕となる。


 必要な配役は、小鳥A、小鳥B、王様、貴族数名。

 音楽関係(作詞作曲、演奏等)や、モブ、衣装、演出などは、ミルキーウェイ歌劇団が主に担当する。
 勿論、撃退士が裏方にまわることも、大歓迎である。
 作詞などを担当しても構わないそうだ。

「この演目が成功するかどうかは、皆様にもかかっております。どうぞご協力をよろしくお願いいたします」
 団長は、集会開始の挨拶の前に、撃退士たちに向かって頭を下げた。


●新しい演目だって!


 歌劇団は、撃退士たちのもたらした刺激に浮き足立っていた。

「誰が小鳥を演るのかな、撃退士さんかな」
「カナリアかなあ、ナイチンゲールかも知れないね」

 孤児たちは、勉強の時間だというのに、お祭り騒ぎだった。
 空の下、広げた折り畳みテーブルの周りで、勉強そっちのけで、ノートにぐりぐりと絵を書いたり、楽しげに話をしている。
 時折吹き抜ける春めいたあたたかい風が、より孤児たちの心をわき立たせているようだった。


 クロウだけが、つまらなそうな顔をして、コツコツとちびた鉛筆でノートを叩く。
(自由は‥‥姉さんを飢え死にさせる自由でもあるって、確かにそうだけど)
 撃退士に言われた言葉が、クロウをかき乱す。
(でも、姉さんは‥‥ここに居たら駄目になっちゃうんだ。人形みたいに顔色も消えていって、おかしくなっていくじゃないか‥‥)

 バレたら困るような大法螺を吹いてでも、助けたいと思っていた。
 カナリア姉さんの実力なら、きっとどこかの、もっと良い音楽家が拾ってくれると安易に思っていた。

『お前たち如きの実力で、世を渡っていけると思うな! 世界はそんなに甘くはないぞ!』
 ぴしゃりと団長に怒鳴りつけられた寒い夜が、クロウの脳裏をよぎる。

 自分だってソロパートをもらえるようになってきた。姉さんは間違いなく団の看板を背負っている。
 もっとやれるはずだ。それなのに、団長が。
 必要なものを申請しなければ、お小遣いも出してくれない、こんな団、抜けてやる。

 クロウの中には、思春期特有の自信過剰が渦巻いていた。
 ――この団を抜けても、きっと2人なら生きていけるはず。きっと何とかなるんだ、きっと‥‥。


「ほら、勉強に集中して!」
 お祭り気分ではしゃいでいる孤児たちを、諌めてまわる、教員免許もちの団員たち。
「今はポスターを作る時間じゃありません! 今は、あなたはこのかけ算を解く時間ですよ!」


●カナリア・4


 撃退士さん達と、共同で公演することになり、撃退士さん達が劇の内容を考えてくださったそうです。
 わたしが出ることになるのか、それとも、ナイチンゲールが出るのかは、まだ分かりません。

 きっと、わたしには、お声がかからないでしょう‥‥。
 わたしは、もう、不要な存在。

 くすくすくす。

 ソウ。ワタシハ、モウ、不要ナ歌姫。

 ‥‥

 ‥‥

 誰か。

 誰か、わたしを――。

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リプレイ本文

●クロウ


 月臣 朔羅(ja0820)は、楽器の手入れ中のクロウに接触していた。
 横に折りたたみ椅子を広げて座り、自身も撮影機材の手入れを始める。

「話は小耳に挟んだわ。カナリアさんをうまく連れ出せたとして、その後どうする気なの?」
「どうする、って‥‥」

 クロウの脳裏に、「餓死する自由」という言葉がよぎる。
 しかし、彼はその言葉をぎゅっとねじ伏せ、見ないことにした。

「大きな駅とか、人の集まるところで、姉さんと一緒に演奏したら、きっといっぱいお金が貰えます。スカウトだってあり得ると思います」

 短絡的で、非現実的な返答だった。

「家はどうする気? 姉弟そろって、雨風にさらされて生きるつもりなの?」
 朔羅に突っ込まれると、クロウは何も言えなくなってしまう。
「それは‥‥演奏でお金を集めて‥‥」
「食費はどうするの? 病気になった時の医療費は? 生活費って意外にかかるものなのよ?」

 畳み掛けながら、朔羅は思った。クロウは自分に都合のいい夢を見すぎている。

「きっと、きっと良い人に、すぐにスカウトされます! 姉さんはそれだけの実力があるし、そうなるべきなんだ!」
 クロウは、思い描いている素晴らしい未来について、とくとくと朔羅に語った。


●団長


 団長のキャンピングカーを訪れ、新聞記者・鷺谷 明(ja0776)は単独インタヴューを試みていた。
 胸ポケットに、ボールペン様のマイクロレコーダーを忍ばせ、こっそりスイッチを入れる。

  今回の公演が成功すれば、子供達にお小遣い程度はやれそうですか?
  ――むぅ‥‥難しいかもしれません。おやつの菓子くらいは奮発しようと思ってはいますが‥‥。

  歌姫殿を留学させたいとの事ですが?
  ――うむ。あの娘は未だ原石。然るべき教育を施さねば、宝の持ち腐れになります。
    海外の私の知人に預けたいとは思っていますが、まだ先方が受け入れられる状態に無くて。
    だからカナリアには伏せておいて欲しいのです。
    下手に夢を抱かれて、駄目でしたでは、かえって傷つけるだけでしょう。
    無論、彼女が別の道を選んだ場合も、応援するつもりはあります。

  もし歌姫殿の留学がかなった場合、その後の歌劇団の展望は?
  ――今までどおりです。歌は、ナイチンゲールに頼ることになるでしょう。

「そういえば、どこかの斡旋所に、こんな依頼があったらしいよ‥‥まぁ、立ち消えになったようだがね」
 明は、クロウが、カナリアから笑顔が無くなっていくと心配し、斡旋所を訪れていたことを、慎重に内容を選んで、伝えた。


 コンコン。
 扉が開いて、Robin redbreast(jb2203)と、歌音 テンペスト(jb5186)が車内にやってきた。

「オィーッス!」
 歌音が元気よく挨拶をする。
 2人は明を見つけ、「もしかして、取材の邪魔?」とロビンが尋ねた。
「いや、気にしなくて良いとも。丁度終わったところだ」
 にやっと笑い、明は軽く手を振った。


「ねぇねぇ団長さん、皆に、将来の目的はまだまだ言わないの?」
 ボランティア・歌音が、団長にずずいと歩み寄った。
「最終目的が分からないまま進むのは、道に迷って遭難して潰れちゃわないかナ‥‥あたしはそれが心配ですぴょん」

「将来の目的? ああ、自立の話ですか?」
 団長は一瞬キョトンとした。
「私は、孤児たちには『今』を精一杯、頑張って欲しいと思っているのです。その間に、将来どんな仕事が向いているかをじっくり観察し、18歳になったら、行くべき道の選択肢を示せば良いと考えています」


「こんなこと言ったら、団長さんは、驚いてしまうかな。カナリアは、自信をなくしてしまっているし、クロウは、すごく不満を感じているみたいなんです」
 ロビンはおっとりと、丁寧に言葉を紡いだ。団長は更にキョトンとする。
「カナリアが何故、自信を‥‥?」
「それは、直接話してみたら、どうですか? あと、クロウには、貯金してること、教えたらダメですか?」


 明のマイクロレコーダーは、まだ、録音を続けていた。


●発表


【二羽の小鳥】
 籠の小鳥(小鳥A):カナリア
 自由な小鳥(小鳥B):ナイチンゲール
 王様:城里 千里(jb6410)
 貴族たち:シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)、歌音 テンペスト、孤児たち数名
 脚本原案:天宮 佳槻(jb1989)


「記念すべき共同公演、頑張って成功させますわよ! ファイトー、オー!」
 若干目の下に隈を作っているシェリアが、関係者一同で輪になり、景気付けの言葉を発した。
「‥‥お、おー‥‥」
 ちょう棒読みで、千里が遠い目をする。
(これ、あれですか。君ならできるとかいって、体よくやらされる、あれ。交流名目なのに、重要な役を撃退士がやらないのは変ですし、はいはい、やりますよ、王様役)

 出来れば、知り合いには来て欲しくない‥‥という千里の思いも空しく、明の手配したポスターが、ユウ(jb5639)を含むボランティアと団員により、校内に続々と貼られていく。
 勿論、バッチリ名前入りだ。

「公演、盛り上がるといいですね」
「きっといっぱい、見に来てくれますよ」
 すっかり団員や孤児たちと仲良くなり、ユウはにこにことポスターを貼ってまわる。

「そういえば、団長さんってどんな人なんですか?」
「怒るとすーっごくおっかないのー! でもね、でもね、なんか‥‥パパみたい、なんだよ」
 ユウの問いに、孤児たちが答える。
「もしかしたら、カナリアがいなくなっちゃうかも、って言ってた。ナイチンゲールに歌を任せるかも、って。カナリアは、もうじきオトナになるから、ここに居られなくなるかもしれないんだってさ。ぼくは、ずっとここにいたいなぁ」


「提案があります。ラスト近くに、この場面を加えたいと思います。従って配役を追加したいのですが」
 淡々とした口調で、佳槻がプリントを配った。


(王様、飛び回る小鳥Bを見上げる)

 おお、自由な小鳥Bよ、捕らえないから教えてくれ。
 小鳥Aは以前は幸せそうに歌っていた、自由に飛び回るお前さんにも負けない程に。
 その歌声を守る為に、雑音を排し、冷たい風を遠ざけ、大事にして来たつもりだ。
 なのに、今の小鳥Aは、爽やかな風やきらめく木漏れ日に目もくれず、悲しそうにこちらを見るばかり。
 一体何が足りないのか、我にはわからぬのだ。

(小鳥B、高らかに歌う)
 木枯らしの冷たさを知らない者に、春風の訪れはわからないわ。
 耳を閉ざせば、嫌なことを聞かなくて済むけれど、優しい声も聞こえなくなる。
 答えはすぐ傍にあるのに、気づかないなんて、可哀想ね。

(窓が開き、小鳥Bは飛び去る。
 広々とした空が見え、その下にいる人々の声が聞こえてくる。
 外から小鳥Aの歌を漏れ聞いていた人や、今まで聞こえなかった王様の声が、小鳥Aに届く。
 小鳥Aが、空と、その下にいる人々に向かって歌い、終幕となる)

 *追加配役 外にいる人々:孤児たち


 カメラマンとして、練習の様子を見にきた朔羅は、カナリアと、クロウの表情を観察した。
 クロウは、配られたスコアを確認しつつも、姉の顔をチラチラと窺っている。
 脚本をなぞるカナリアの顔が、蒼白な蝋人形のように見えた。


「カナリアさん、クロウさん、ちょっと来ていただけます?」
 シェリアは2人を招き寄せて、幕間にミニコンサートをしたいと持ちかけた。
「団長さんの許可は得ていますわ。作詞も徹夜で頑張りましたの。どうでしょう、一緒に練習しませんこと? わたくしピアノを担当いたしますわ」
 2人に歌詞を渡す。

「‥‥小鳥Bの言葉みたいですね。ナイチンゲールが歌うほうがいいのじゃないかな」
 つまらなそうにクロウが感想を漏らす。カナリアは、じっと固まって、歌詞を見ていた。
「団長が許可したのでしたら、やります」
「姉さん?」
「わたしには、歌うことしか、できませんから‥‥シェリアさんが折角書いてくださった歌ですし、頑張ります」
 カナリアの顔には、あの、団員や孤児たちの前で見せる、「心配させまいと浮かべる笑顔」が、張り付いていた。


●団長、そして秘密の会話


 最初の練習が終わり、皆が食事の準備に入ったところで、朔羅は団長の車に向かった。

「自立資金と留学について、秘密にしておくには、限界が近い様に思います」
 練習風景の映像を流しながら、畳み掛ける。
「カナリアさんは自分抜きの練習があることを知っている。その影響は‥‥この表情を見て、気づきませんか?」

「‥‥知られて、いたのですか」

「はい。クロウさんは彼女の様子を見て、危機感を抱いています。それはやがて、強引な手段に発展しかねない。彼は、姉が良き音楽家に拾われ、笑顔を取り戻す事を願っています。それは、貴方の留学させたいという思いに近い。一度、彼と話してみては、どうでしょう?」

 わかりました、何とかして時間を作ります。団長はそう約束した。


 孤児たちの多くが食事を終え、眠りにつく頃。
 練習用に、学園から借りた夜の第2講堂は、人気を失ってがらんとしていた。
 カナリアが弟とともに、何度も間違えながら、シェリアの書いた歌を練習している。


  誰かのためにあり続ける事 それは本当に幸せ?
  自分で羽ばたいて 自分の手で掴み取って
  君が望む 君だけのトクベツ
  誰かのためじゃない 君のためのトクベツ
  さあ あの青い空へ飛び立とう 君は一人じゃない
  そこにはいつも 大きな愛が見守ってるから


(声に覇気がない。感情もイマイチ伝わってこない。巧いけれど、それだけだ)
 密かに見守っていた千里が、率直な感想を抱く。


「良かったら、ちょっとあたしの歌も聴いて欲しいな! カナリアちゃんの歌を聴いて練習したの」
 貴族役で出演予定の歌音が、練習に飛び入りした。

 なんとも表現しがたい、破壊的な歌声がボゲェ〜と響く。思わずクロウが耳を押さえた。

「‥‥ふっ。自分の惨状に泣けてくるわ‥‥」
 ほろりと涙した歌音に、クロウがだみ声で言った。
「どんまいです。僕も歌は全然で、だから楽器を選んだんです。テンペストさんも自分に合う楽器とか絵とか、何か見つかるといいと思います」


「クロウさん、ちょっと、構いません? 衣装のサイズ合わせをしたいのですけど」
 ユウが手招きをした。クロウはバイオリンを仕舞って、立ち上がった。
 歌姫のどこか平坦な歌声を背に、2人は講堂内の廊下を歩き出した。

 クロウが足をとめた。空き部屋から、団長の声が聞こえてきたからだ。
 部屋の中で、明がマイクロレコーダーをスピーカーにつないで、インタヴューの一部を流している。勿論ユウも共謀者だ。
「‥‥自立資金? 留学??」
 混乱した様子で、クロウはユウを見た。
「なにそれ、僕は聞いていない。知らないよ。なんなんだそれ」

「ここの団長さんは優しいね、みんなのお金を貯金してくれてるんだって。あたしは、タダ働きだったし、自由な時間もなかったな‥‥ぐんたいみたいに、殴られたりも普通だったよ。ここの団長さんはぜんぜん殴らないね、なんか不思議」
 闇の中から姿を現し、かくりとロビンは小首をかしげた。クロウの目が揺れる。


 練習後。カナリアに青汁を差し出し、自分も一気飲みしながら、歌音は呟いた。
「あたしもクロウくんみたいな家族が欲しいな‥‥」
 本音だった。
「結果を出したら認めてくれるのは社会、だけど、結果が出なくても、努力や生き様を認めてくれるのは、家族や友達なのよ。カナリアちゃんにはクロウくんという家族が傍にいるでしょ。今のあたしにはそういう人がいないから、結果を出して‥‥笑いを取ったり敵をやっつけたりして‥‥認められるよう頑張るの。誰にも認められないのは、つらいことだもの」

 ね、カナリアちゃん、と歌音は続ける。

「カナリアちゃんは、団長さんのために歌ってるの? クロウくんのために歌ってるの? それとも、お客さんに喜んでもらうために、歌ってるの?」


●カナリア・5


 電気が全身を走り抜けた気がした。

 わたし――わたし、誰のために、歌っているの?

 今まで、カナリアの中をすり抜けてきた言葉が、すとんと心に落ちてきた。

『きれいな声。歌で、色んな人を楽しませられるって、すごいね』
 ロビンのまっすぐな褒め言葉。

『ねぇ、戦いで疲れ傷ついた人達の心を、その歌で癒して貰えないかしら。泣けなくなった目に涙を。笑えなくなった顔に笑顔を。貴方のような人が支えてくれるから、私達は天魔と戦えるの。お願いよ、考えてみてね?』
 朔羅の「依頼」。

 ああ、わたし――本物の、籠の中の小鳥Aだった。
 空も窓も何も見ていなかった。振り返ることさえしなかった。
 わたしの歌に拍手をくれる人たちのことも、何も考えていなかった!
 ただ、団長に認められたくて、褒められたくて――いやだ、わたし、ただの子供じゃないの!

 美しい蝋人形の瞳に、光が灯った。


●公演前夜


「どうです? 練習の方は。小鳥Aの役、だいぶ慣れてきたようじゃないですか」
 練習の合間に、佳槻が淡々とカナリアに話しかけた。

 カナリアの歌は、あの夜から突如、命を宿した。
 迫力ある声量。胸を打つ歌声。空っぽだった歌が、生き生きと息づいていた。
 次席歌姫のナイチンゲールがたじろぐほどに、実力の差を見せつける。

(大丈夫。カナリアさんの歌は、ちゃんと聴衆に向いています)
 陰ながら姉弟を心配していたユウが、胸をなでおろした。


『誰かに特別と認めてもらうんじゃない、特別とは、自分の手で掴み取るもの。だから勇気を持って世界に羽ばたこう、そういう意味を込めて作った歌詞ですわ』
 ミニコンサート用の歌詞を手渡した時の、シェリアの言葉。
『公演が終わって幕が下りましたら、ハイタッチで締めましょうね』

『人はだいたい一緒でほとんど違う。似てても違ってても別にいいだろ? 誰だって平凡で、そして誰だってトクベツなんだ』
 どう見ても団長を模した王様を演じる、千里の言葉。
『撃退士の書いたストーリーだ、あんまり現実と混同するなよ。この脚本を通してくれた団長を信じろ』
 千里は、舞台の上の戦友。一緒に歌と演技を合わせ、練習を重ねてきた。
 彼の言葉も、今なら信じられる。

 そう。
 わたしはトクベツで、そして平凡な歌姫――誰かのトクベツになるには、自分で掴み取らなくちゃ。
 カナリアの歌に力がこもる。
 この公演、絶対に成功させてみせるわ。


「姉さん、なんか昔みたいだ」
 ミニコンサートの練習中、クロウがぽつりと呟いた。
「歌が好きで、大好きで、いつも楽しそうに歌っていた頃の姉さんが、戻ってきたみたいだ」


●開幕


 客席は人でいっぱいだった。立ち見も多い。
 明と朔羅は、取材と称して、オーケストラボックスの近くに陣取っていた。

 幕が上がり、カナリアの切なく美しい歌声が、聴く者の心を震わせる。
 その瞬間、会場の空気が、貴族の館のそれに変わった。


 <続>


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 絆は距離を超えて・シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)
 主食は脱ぎたての生パンツ・歌音 テンペスト(jb5186)
 Survived・城里 千里(jb6410)
重体: −
面白かった!:10人

紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
封影百手・
月臣 朔羅(ja0820)

卒業 女 鬼道忍軍
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
籠の扉のその先へ・
Robin redbreast(jb2203)

大学部1年3組 女 ナイトウォーカー
絆は距離を超えて・
シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)

大学部2年6組 女 ダアト
主食は脱ぎたての生パンツ・
歌音 テンペスト(jb5186)

大学部3年1組 女 バハムートテイマー
優しき強さを抱く・
ユウ(jb5639)

大学部5年7組 女 阿修羅
Survived・
城里 千里(jb6410)

大学部3年2組 男 インフィルトレイター