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マスター:神子月弓
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
形態:
参加人数:8人
サポート:11人
リプレイ完成日時:2012/02/03


みんなの思い出



オープニング

●どす来い! 青春!
 ここは和室の男子寮「イセエビ」。
 替えたての畳の香りが心地よい。せんべい布団も敷かずに同室の男衆でごろりと転がり、佐村たかしは天井を見上げていた。
「相撲部かあ‥‥どうしようかな‥‥」
 入学早々に渡された部活紹介のチラシを見る。同室の仲間3名も含め、たかし達はスモウレスラー体型のアストラルヴァンガードであった。
「相撲じゃ、女子にはもてないだろうなあ‥‥」
「一度でいいから、キャーキャー言われてみたいよなあ‥‥」

 2月の某聖なるなんちゃらデーに、彼らが得たものは、母親からのチョコレートしかなかった。
 もうすぐ華やかな高校生活が始まるというのに、彼女いない歴15年、ほのかな初恋の相手は幼稚園の先生。
 そんな、4人だった。

●依頼斡旋所にて
 開け放たれた窓に白いレースのカーテンが揺れ、奥のテーブルで文庫本に目を落としていたアリス・シキ(jz0058)は、カランカランとドアにかけたウインドチャイムの音で、目をあげた。
 ささっと読んでいた本を隠し、上品な微笑を浮かべて、来客を見る。

 十両力士のような4人が、すごい迫力でやってきた。

「女子に、もてたいんです!!」
 だん! 依頼所のテーブルに手を叩きつけて、たかしは叫んだ。
「それで、俺ら、俺らを‥‥アイドルにしてください!」
 長年心に秘めていた想いを吐露するかのように、たかしは叫んだ。
「お願いします!」
「うーっす」
「どす恋!」
「どす恋!!」
 4人が頭を下げる。アリスは手際よくお茶を淹れると、たかし達の前に上品に置いた。
「「お願いします!!」」
 声を揃えて叫ぶたかし達。もてたい想いで必死なのは伝わった。
「あの、落ち着いて頂けませんか? 所長は生憎留守でして‥‥」
 アリスがゆっくりとした口調で4人をなだめにかかった。
「それとも、わたくしのお茶はお口に合いませんでしょうか?」
「あ、いえ、‥‥頂きます」
 たかし達は、お茶の存在にも気づいていなかったようだ。
 
  うまーい!
  何これ!
  女子の淹れたお茶サイコー!!

 たかが依頼斡旋所のバイトに過ぎないアリスのお茶で、感動の涙を迸らせる4人組。
 体もハートもあたたまったところで、ずずいとたかしが前に出る。
「重ねてお願いします。俺らを、アイドルにしてください!」

「それが依頼内容ですのね。承りましたわ」
 さらさらと必要書類を揃えて記入する、出来るバイト秘書アリス。
「将軍様だってキンキラピカピカになれる時代なんだ、演出は激しく頼むよ!」
「はげしく‥‥ですの?」
 小首を軽く傾げて困惑するアリスに、4人組はずいずいと迫ってきた。
「アイドルになって、もてたいんです!」
「ママからのチョコ以外も欲しいんです!」
「どうか、どうかお願いします!」

 しまいには、斡旋所の床で土下座を始める4人組。

「皆様、何か芸はお持ちなのかしら?」
「いや‥‥俺は、特には‥‥」
 言いよどむたかし。

「オレ、指相撲なら得意です!」
「おれ、百面相できます!」
「ぼくは‥‥死んだふりが出来ます」
 胸を張る3人。

 ‥‥こりゃ無理ぽ。
 内心で呟きながらも、営業スマイルと上品な口調を崩さずに、アリスは続けた。
「1週間限りのアイドル、などでも構わないかしら? アイドルになるのが目的なのですわよね? アイドルになって、その後も続けていくことまで、考えていらっしゃるの?」

「「「「女子にもてれば、なんでもいいです!!!」」」」

 4人の声がハモった。
「女子にキャーキャー言われたいんです!」
「某聖なるデーに、チョコの山に埋もれてみたいんです!」
「サインをねだられてみたいんです!」
「俺らだって、ステージの上で目立ってみたいんです! 薔薇色の青春を謳歌したいんです!」

 ひとつひとつ、メモを取りながら、アリスは依頼書を作成し、掲示板に貼りつけた。
 更に、久遠ヶ原学園ネットの依頼斡旋データにも、当該依頼について書き込んでおく。
「運が良ければ、あなたたちの望みは叶うと思いますわ。でも過度の期待はなさらないで。なりたいものになれるとしたら、他人の力だけではなく、最後にはご自身の力がものを言うのです」
 上品な口調でアリスは告げた。
「まずは、ご自身のどこを売り込むべきか、お考えになってみてはいかがかしら?」
 にっこりと微笑する。だが、緑色に輝く神秘的な目は、決して笑ってはいなかった。

●俺たちのウリ
 依頼はした。
 しかし、確かに、あの真っ黒なゴスロリ女子生徒が言うように、自身も芸を磨かなければ、アイドルになんてなれないだろう。
 たかしが自信を持てるものといえば、歯の白さだけだった。
「なあ、どす恋プロミネンス、なんてどうだ?」
 一芸をそれなりに持つ(?)他の3人は、ユニット名を考えているところだった。
「やっぱり、この4人の相撲体型を、前面におしていくしか無いか‥‥」
 たかしは腕を組んだ。


リプレイ本文

●険しきデビューへの道
 カタカタカタカタ。家庭科室のミシンがフル稼働で、ステージ衣装の着流しを仕立ててゆく。
「ここまでリビドー全開だと、いっそ清清しいですね。別に痺れたり憧れたりはしませんが。さて、男物の服を作るのは教会の弟達以来ですが‥‥まあ、何とかしましょう」
 紫乃 桜(ja2243)は、口の堅いクラスメイト達にも手伝ってもらいながら、金、銀、銅、青銅のスパンコールを、縫いあがった着流しにつけていく。裾を長めにしてマント風に型を取った陣羽織には、黒生地に赤で炎の縫い取りが施される。着流しがはだけても問題ないよう、短パンとTシャツの色も着流しと同色にする予定だ。これだけで、大量のスパンコールが消費されることとなった。

「モテたいからアイドルを目指そうだなんて発想が、まずモテない気がしますが‥‥」
 カタリナ(ja5119)は自作の和風ポップチューン「紅炎〜Prominence〜」の作曲に悩んでいた。依頼人たちからサンプリングした「どす恋!」の肉声をうまく使い、ポップでキャッチーで輝くイメージの曲に出来ないものかと、思案を巡らせる。
 パソコン上の五線譜が消されたり書き足されたり、ミキサーでアレンジが加えられたり。
「ステージ上で殺陣を披露するんですよね。佐村さんはトークも入るから‥‥トークの時は音量を落として‥‥でも、うっすらBGMになるように‥‥」
 カタリナの苦悩と試行錯誤が、「紅炎〜Prominence〜」を、よりよい作品に仕上げていく。

 相撲部にとって神聖なる土俵、ではなく、土俵を模したギラギラのドヒョウステージを作り上げ、クララ(ja5485)はため息をついた。
「ある意味高難度の依頼だな‥‥まぁ、最善を尽くすまでだ」
 
 ステージが出来上がったことで、佐村たちを呼び出し、演技指導という名の特訓が始まった。

「したいよな〜青春、俺もしたい、とってもしたい! だからお前らの気持ちはよくわかる、一緒にがんばろうぜ!!」
 練習用のジャージに竹刀を持った成宮 梓(ja4094)は、続けてびしりと言い放つ。
「だが女にもてればなんでもいいなんて根性は気に入らない! しっかりびっちりその腐った根性叩き直してやるぜぇ!」
「え、俺ら、腐ってますか?」
 先輩に叱咤され、うなだれる佐村達。
「ああ! 誰でもいいとか言ってちゃアイドルじゃねぇ、全員恋人くらいの気持ちでやりやがれ!」
「全員‥‥恋人‥‥」
 一瞬だけ、薔薇色のオーラが佐村達を包み込んだ。
 何を想像したのだろう。
 ぴしゃり。梓の竹刀がステージを叩き、依頼人たちは我に返った。

「まあ、もてるもてないはともかくとしても、自分で変わりたいって思う事、いーんじゃね? アタシが出来る手伝いは出来る限りすっからな♪」
 白虎 上総(ja0606)が日本刀にみえる模造品を佐村に手渡した。
「本物ってのは一流の人でも死を招くからな、コレで一人前に魅せる、それが先輩たちのすべき事だぜ♪」
 そして、抜刀と収刀のお手本を見せた。
「これが出来るだけで格好良くみえっぜ?」
「俺が‥‥こんな技、やれるかなあ」
「やれっかじゃねえ、やるんだよっ」
 気弱な発言の佐村に、強く言い聞かせる上総。
「みっちり訓練するために合宿届けもだしておいたぜ。体調管理も特訓もビシバシやったるよ」
 梓がまた、竹刀でぴしゃりとステージを叩いた。

 びくっと身を縮める、「どす恋プロミネンス」の面々。
 あなた達、本当に大丈夫ですか?

「大丈夫、みっちりおしえちゃるけんねぇ!」
 ニヤリと笑みを浮かべ、菰方千織(ja2417)は佐村の手を握った。
 佐村の顔がみるみる赤くなり、頭から、ぷしゅーと湯気が立ち上った。

 センパイの、女子の手、やわらか〜い! あったか〜い!!!
 鼻血ふきそう!!

「お、俺頑張ります! やります、抜刀と収刀!」
 見る間にやる気を取り戻し、上総の指導を受けながら模造刀の扱いを特訓し始める佐村。
「ちょーかっけぇぜ先輩! そのちょーしだっぜ!」
 上総が喜んでヨイショする。ますます図に乗る佐村。千織のアドヴァイスが飛ぶ。
「女子の目線からすると、こういう感じがカッコいいかな!」
「お、貴重な女子の意見だぜ、よーく聞いとけよ」
「ういっす!」
「どす恋!」
「どす恋!」
 梓の言葉に、やる気メーター上昇中の「どす恋プロミネンス」。
「おまーらも、確り受け身を覚えんだぜ? じゃねーと怪我すっからな!」
 上総が実演してみせる。攻撃の勢いを殺すため&上手く目立てるよう、転がる演出も取り入れて、「どす恋プロミネンス」の皆に教え込む。
「結構、きついっすね‥‥」
 相撲体型といえど、筋肉ではなく贅肉で出来ている彼等は、ちょっとしたアクション指導にも音を上げつつあった。その都度、千織が優しい言葉で励まし、時にはヨイショして、特訓を続けさせた。

 その様子をじっと見守るカメラが一台。
 鏡極 芽衣(ja1524)である。プロモーション映像を作るべく、練習風景を撮影しているのだ。
(正直、普通に相撲部に入って活躍すれば、それなりに女性ファンもつきそうな気がしますけどね‥‥? そういう発想にいかないあたりが、ダメな連中のダメな所以でしょうか。でも、この様子を見ると、体力的に無理なのかもですね)
 撮影機材を持ち、もっとカメラ映りがよい場所を選んで、芽衣は撮影を続ける。

「佐村は白い歯が目立つように、トークも少し入れっだぜ」
「ト、トーク!? 俺なにを言えば‥‥」
「リーダー、がんばっす」
「がんばっす」
「がんばっす」
 上総に言われ、目を白黒させる佐村に、仲間たちは声援だけを送った。
 ‥‥ひとつも台詞案が出ないところが、「どす恋プロミネンス」の駄目なところであった。

「指相撲が得意なあんたは、指で相手の急所を押して倒す役な。百面相のあんたは、打ち合いの最中にちょー苦しむ顔とか、嬉しそうな顔とかの演技が出来そっだな。死んだふりのあんたは、2、3歩よろめきぱたりと死んだふりをして、その後復活し、仲間のピンチをを助ける役だ。どやぁ!」
 上総に続いて梓が頷く。
「俺が悪役チンピラになって乱入するからさぁ、カッコよく倒してくれよな!」

 ななな、なんだってー!!
 すげえ、マジすげえ。
 俺らの特技を、ばっちり活かしたアトラクションを考えてくれてるんだ!
 依頼サイコー!!

「ああそんなこと考えてる場合じゃなくて! 俺、トークなんて出来ないですよー」
 佐村が我に返った。
「じゃあ一緒に考えよう!」
 千織が再び手を握ってあげ、優しく励ました。

 佐村のやる気メーターがMAXを振り切った。

「‥‥出来ました、衣裳‥‥」
 桜がゴージャスキラキラ着流しと陣羽織、短パンにTシャツを持ってくる。
 無論、手伝ってくれたクラスメイト達には、クララが裏工作により口止めをしてくれている。
「音楽も用意できました」
 カタリナが自作の和風ポップチューン「紅炎〜Prominence〜」を流す。

 すげー!
 すげー!!
 俺ら、マジ、アイドルになるんだ!

 燃え上がる情熱。「どす恋プロミネンス」メンバーは、進んで特訓を再開した。
「そんな事でアイドルがつとまると思っているのですか?」
 やる気にそぐわない、足りない体力、足りない精神力に、カタリナの叱咤が飛ぶ。
「アイドルたるもの、全速力で走りながらでも、息を切らせることなく歌を歌えなくてはいけません!」
「大丈夫、きっと出来るって!」
 鞭のカタリナ、飴の千織。
「角度的に美しくないです‥‥もう少し顔だけ右向きでお願いします」
 指示を飛ばしつつ、カメラを回し続ける芽衣。
「おー! 先輩サマになってきたじゃねっすか!」
 抜刀練習を評価する上総。

 女子がこれだけ応援してくれていて、頑張れないわけがない。
 こんなこと、一生に一度、あるかどうかだ。

●カウントダウン
 キラキラ衣裳を身に纏い、ドヒョウステージで、本格的に演技の最終調整が始まった。
 芽衣がカメラを回す中、やはりトークで躓く佐村がいる。
「そこで歯切れよく場を盛り上げないで、何がアイドルですか!」
 カタリナの叱責が飛ぶ。佐村はめげずに、つっかえつっかえ、来場者への感謝を述べた。
 誰もいない観客席に、佐村の声が響く。
「殺陣はかなりいい線イケてるし、トークがもう少しすらっと言えたら完璧なんだけどねえ」
 梓が腕組みをして眉間を押さえた。

 ぐりぐりぐり。
 千織は配布するビラを製作していた。
 らくがきたっぷりで目を引くビラは、掲示板に貼ってある勧誘のチラシを参考にしたものだ。
 学園内の印刷機を借りて、無事に印刷終了。あとは人海戦術だ。

 クララの用意したサクラ要員(全員女性)、カタリナ、勿論千織も、口コミ、ビラ配りに精を出す。カタリナは一般人を装い、ネットにも宣伝を流していた。
『ハロー、みんな! ちょ〜っとお時間ちょうだいな♪ これから素敵なアイドルを紹介するよっ♪』
 校内放送では、ソフトフォーカスで美化200%超えの「どす恋プロミネンス」の宣伝番組が幾度となく流れている。キラキラの衣裳、派手な殺陣、佐村の白い歯には輝きが付け足されている。芽衣のアレンジと編集の成果だ。無論BGMは「紅炎〜Prominence〜」である。
「へえ‥‥見にいってみようかなあ」
「これ何の催し?」
 学生たちの興味が徐々に高まっていく。
「どす恋プロミネンスという、新進気鋭のアイドルユニットだよ」
 すっかり有名人になったつもりの佐村たちは、いつサインをねだられてもいいよう、色紙とペンを持ち歩くようになった。
 ‥‥まだ、早すぎるとは、気づいていない。

●そして本番当日!
「‥‥というわけで、ステージが終わったら、このチョコをあげて欲しいな」
「‥‥こういうことだから、ステージが終わったら、サインをねだってあげてくれないか」
 舞台から少し離れた入場者ゲートのところで、梓とクララが、サクラ要員や来場者に、こそこそとチョコを渡したり、指示を出したりしていた。
「えーなになに、何がはじまるのー?」
 上総が他の人にも聞こえるようにわざと大声を出す。
 会場から「紅炎〜Prominence〜」が微かに聞こえてくる中、ぞろぞろと人が集まってくる。

「みんな、おっ待たせ〜っ♪ 目一杯楽しんでってねっ♪ それじゃはっじまるよ〜♪ 本日デヴューの新アイドルユニット、どす恋プロミネンスの皆さんでっす! 拍手よろしく〜っ♪」
 かわいらしい恰好でキメた芽衣が、司会として舞台に立つ。
 会場の灯りが落とされ、舞台のゴージャスドヒョウステージに、スポットライトがあてられた。
 流れる「紅炎〜Prominence〜」、上手から登場する「どす恋プロミネンス」メンバー。
 スパンコールがキラキラとまぶしく輝いている。
 桜が最初にパチパチと手を叩くと、やがてあちこちから手を叩く音が上がり始め、そして会場を拍手の音が包み込んだ。
 カチコチにあがっているどす恋プロミネンスに、舞台袖から梓が囁いた。
「みんなで楽しくハッピーにやろうな♪」

 そうだ。
 この機会。指導してくれた先輩後輩たち。
 がんばってがんばって、練習して、完成させた演技。
 楽しまないでどうする。

「どす恋ー!!」
 佐村は腹の底から野太い声を轟かせ、しゃきんっと素早く抜刀してみせた。
「どす恋ー!!」
「プローミネーンス!」
 佐村の声に応じるように、サクラたちが声をあげる。
 じゃんっ。BGM「紅炎〜Prominence〜」フルバージョンが、流れ始めた。
 演技が、始まる。

 金色の佐村が、練習に練習を重ねた殺陣を披露し、青銅の武士がもんどりうって派手に転がり、得意の死んだふりをアピールする。銀の武士は銅の武士を指ひとつで打ち倒し、銅の武士は瞬時に表情を変えながら、如何に激しいダメージを受けたかを演技する。ひく、ひくと四肢を痙攣させて更にアピール。
「おおっと、乱入です! 場外から乱入者ですよぉっ♪」
 司会の声が響く中、梓が暗がりから姿を見せ、佐村に飛びかかる。
 激しい打ち合い。
「うぼらばぁ!!」
 意味不明の叫び声をあげながら、全力でチンピラを演じる梓。
「金色の武士、だいぴーんちですっ! 皆さん、ご声援を! どーす恋っ、どーす恋っ♪」

 どーす恋っ!
 どーす恋っ!!

 会場が声援でわき立つ。
 BGM「紅炎〜Prominence〜」も佳境に差し掛かった時。
 死んだはずの青銅武士が復活し、金色武士とチンピラの間に割って入り、必殺の一撃を見舞った。
「ひげぶぅ!!」
 錐揉み回転しながら派手にすっ飛ぶ梓。
 どっとわく客。
「お、覚えてろよッ!! どす恋プロミネンスーっ!!」
 チンピラは、大声でユニット名を叫びながら、暗がりに消えていった。

「異常なし、だ。相撲部が文句を言いにくるかと懸念したが‥‥剣士にしたのがよかったのだろうな」
 モニター越しに警戒しながら、クララが呟いた。
「‥‥想定通りに事が進むのも、存外暇だな」

「では、校内デヴューを記念して、リーダーの佐村さんからひとこと、おねがいしまぁすっ♪」
 芽衣がマイクを佐村に向ける。
 佐村は息を深く吸って、マイクを受け取った。
「この機会を下さった上、ご指導下さった先輩後輩の皆様、並びに、ご来場くださった皆様に、心より感謝いたします」
 すう、と息を吸って、ひと呼吸。
 そして。
 
「もて期、プリーズカモーン!!」

 ‥‥一瞬で、駄目なユニットになった。
 慌てて芽衣がマイクを取り上げる。
 だが、佐村は目に涙を浮かべて、叫び続けていた。

「俺たちは、俺たちは! 一度でいい、もてたい! もてたいんです!! 皆さんはそう思ったこと、ないですか?」
 あるあるー! サクラが懸命に佐村をフォローする。
「ありますよね!? ありますよね!!」

 かっこいいよ、どす恋プロミネンスー!!
 サインちょーだーい!!

 サクラたちががんばって声援を飛ばす。
 佐村は、立ち尽くしたまま、男泣きに泣いていた。
「有り難う! ‥‥有り難う!! 皆さん、俺、もう死んでもいい!!」

 生きろー!
 
「はい! 生きます! 生きて、どす恋プロミネンスの名に恥じないよう、輝いてみせます!」
 佐村は深々と客席に頭を下げた。

 その後、どす恋プロミネンスのメンバーには、来場者から山のようにチョコが渡され、幾度もサインをねだられた。サクラかも、ということは、佐村もさすがに勘付いていた。でも、純粋に嬉しい。
「がんばりましたね‥‥トークはちょっと、あれでしたが」
 珍しくやわらかな表情のカタリナが、チョコを差し出した。千織もにこにこしている。
「でも、これでモテたとしても‥‥恋人は出来ないと思いますよ? だって、女の子は不特定多数にモテたいと思う一人より、自分一人を好きになってくれる人のほうが大切ですから。キャーキャー騒ぐファン心理と、好きは違うのですよ」
 桜が正直に感想を述べた。佐村は頷いた。
「そう、ですね。それでも、夢を見せて頂いたこと、感謝しています」


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:9人

『封都』参加撃退士・
白虎 上総(ja0606)

大学部3年271組 女 阿修羅
撃退士・
鏡極 芽衣(ja1524)

高等部2年29組 女 ダアト
撃退士・
紫乃 桜(ja2243)

大学部2年163組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
菰方千織(ja2417)

大学部6年95組 女 阿修羅
撃退士・
成宮 梓(ja4094)

大学部5年51組 男 インフィルトレイター
聖槍を使いし者・
カタリナ(ja5119)

大学部7年95組 女 ディバインナイト
撃退士・
琥珀(ja5400)

大学部2年322組 女 阿修羅
撃退士・
クララ(ja5485)

大学部4年52組 男 インフィルトレイター