●なんとかウォッチング
「え? 水着? 風呂って裸で入るもんじゃないっけ?」
蒼桐 遼布(
jb2501)は、施設入口で立ち尽くし、暫く考えた。
「なら‥‥一番生地の少ないのを頼む」
こそこそ、こそこそ。
かぶり湯にて、エリーゼ・エインフェリア(
jb3364)が、何やら挙動不審な行動をしている。
(温泉の水は、髪を傷めると聞きましたし、これならばっちりです!)
長い髪を収めたヘアキャップ(施設貸出品)を念入りに確認し、お湯を浴びる。
(に、日本の学生には、一般的に着られているスク水という物ですし‥‥普通にしていれば目立たないはずです‥‥! 若干、サイズを間違えて、胸がきついですがっ!)
取材班を避けて歩くそのぴっちぴちのムネには、手縫いで「こーとーぶ1ねん えりーぜ」と刺繍が入っていた。
(B‥‥C‥‥F‥‥D、いやE‥‥おおっ、G?!)
蓮城 真緋呂(
jb6120)や、少し遅れてやってきた来栖 蒔菜(
jb6376)など、女性陣の身体の一部に視線を奪われながら、赤坂白秋(
ja7030)は存分に鼻の下を伸ばしていた。
場所は滝の湯。ここからは、かぶり湯が良く見える。
だが、彼も撃退士の一員。一般人には、そんな素振りは見せない、クレバーなイケメン(自称)である。
よもや、バストウォッチングをしているなど、取材班の誰にも気づかれないよう心がけている。
(おおお‥‥あのスク水のぴちぴち感がっ!‥‥ふむ、これは絶壁だな)
エリーゼのムネに目を留め、続いて、歩いてきた、痩せっぽちの黒夜(
jb0668)に視線を移す。
黒夜は白秋の視線に気づき、恥ずかしさの余り、気配を消して逃亡した。
そこへ遼布、登場である。
「これがかぶり湯だな」
長い、蒼から銀にグラデーションする髪を、ヘアキャップに押し込みながら、仁王立ちする遼布。
白秋の視線が、思わず、遼布に向かう。
勿論、遼布は、一番生地の少ない男性用水着を着用しており‥‥
「ごふっ!!」
‥‥白秋は、真っ白い灰になった。
●酒風呂にて
蒔菜は、待ち合わせていた、アイリス・L・橋場(
ja1078)を見つけ、早足で駆け寄った。
「ごめんね、アイリスちゃん、待たせちゃったね」
初めての水着に手間取り、着替えに時間がかかってしまったことを詫びる蒔菜。
黒ビキニにパレオを巻いたアイリスは、にこっと微笑んで手を繋いだ。
「むぃ、大丈夫なのです。さて、何処から回りましょう?」
2人で仲良く、案内板を見る。
「じゃあね、じゃあね、‥‥お酒のお風呂から!」
そこには、先客がいた。
「うぉーっ! 温泉だぞーっ! レッツ☆酒風呂っ!」
ドボォン、と勢いよく、ファラ・エルフィリア(
jb3154)が湯船に飛び込んだ。
白いタンキニのお腹が、勢いでまくれて、ちょっぴり色っぽい。
「ふ〜、ごくらくごくらく〜♪ あっ、どうぞどうぞ!」
ファラは、アイリスと蒔菜に気付き、ばちゃばちゃしながら場所をあけた。
お酒成分で白濁したお湯が、乙女達の肌にやわらかくあたる。
「はむぁ〜♪」
心地よく雰囲気に酔いながら、アイリスは蒔菜にすっぽりと抱きしめられた。
「あたし知ってるよ! このお風呂は、人間が、皮膚からお酒を吸収するためのお風呂なんだよね!」
ファラが蒔菜に話しかけた。
「そうなの?」
おっとりと蒔菜は微笑む。
(多分、違うだろう‥‥未成年も入れる風呂なんだから)
久遠 仁刀(
ja2464)が、湯けむりの向こうで、こっそりと考えた。
(ふう‥‥しかし、体の中の方から熱くなってくるような感覚がある気はする。体が芯から温まれば、傷の治りも早いかもな。まあ、気分だけかも知れんが‥‥)
仁刀は、やわらかなお湯を腕にかけた。
(気分だけでもそう思えるのは、いいことだろう。しっかり回復して、また戦えるようにならないとな)
ほうっと息を吐く。こんな風に寛げたのは久しぶりだな、と仁刀は考えた。
湯けむりの向こうから、ファラの声が聞こえてくる。
「ふ。これで女子力をあげてやるのよっ。にーちゃ達に『なんでおまえは残念なんだ』とかもう言わせないんだからね! お肌すべすべのとぅるっとぅるになるといいんだよ!」
一生懸命、お湯を肌にすりこむようにして、酒風呂の効果を高めようとするファラ。
顔をあげた時、視線の先には、目立たないようにと湯船の端で身を縮めているエリーゼがいた。
「はむぁ〜、こんにちはですよ」
アイリスもエリーゼに気付き、挨拶の声をあげる。
「そうだ、一緒に、とぅるっとぅるのモチモチ素肌美人になろうよっ!」
「きゃあ!」
ファラがエリーゼの背中に、お湯をすり込み始めた。
「‥‥けっこう、香りが‥‥きつい‥‥です‥‥」
「おいおい、気をつけろ?」
ぶくぶく沈没しかかったところを、仁刀に救われるエリーゼ。
「あ、有難うございます」
「あら、仁刀ちゃんじゃない」
酒風呂を偶然見に来た、雀原 麦子(
ja1553)が、おもむろに仁刀の頬をぷにぷにした。
「あーんまり怪我ばっかりして、好きな子に心配かけすぎちゃダメよ〜」
「はっ、はひふんはほっ!?(何すんだよっ)」
頬ぷにされて、抗議の言葉もままならない仁刀。
にま〜と満足そうに笑って、手を離す麦子。
「私は大理石風呂に行ってくるわね〜。バイトが終わったら、ビールで乾杯しましょ♪」
麦子は、ひらひらと手を振り、歩き出した。
●檜風呂にて
蒼いホルターネックビキニの真緋呂が、ぼっちでお湯を浴びていたアリス・シキ(jz0058)を捕まえた。
「あー、かぶり湯にいたんですね。後でシキさんの水着姿、スマホで撮ってあげますよ♪」
「はわ? な、な、何故にですの?!」
ヘアキャップを直しながら、キョトンとするアリス。
「え? そりゃあ、彼氏さんが欲しいだろうと思って〜♪」
無邪気に微笑む真緋呂。その笑みに、他意は全く無い。
言葉も出せず、真っ赤になって慌てふためくアリスであった。
「今日は、日本のマナーに困ることもなく、過ごせそうですね」
カタリナ(
ja5119)が、エルリック・リバーフィルド(
ja0112)とファティナ・V・アイゼンブルク(
ja0454)を連れて、檜風呂にやってきた。
「此処はやはり、檜で御座るな(ぐっ)」
「ええ、やっぱり檜ですよね!(ぐっ)」
「うむ、日本のお風呂といえば、やはりこうで御座るな!」
エルリックとカタリナで、ガッツポーズ!
「これが所謂、日本のお風呂なのでしょうね。雰囲気が何となく和風という感じがして、落ち着きますね」
ファティナが木の香りを楽しむように、目をつむった。
そこへ、シェリア・ロウ・ド・ロンド(
jb3671)が、アリスの手を引いてやってきた。
「シ、シシ、シキさん!? ヒノキ‥‥ヒノキのお風呂ですわ! 凄い! 檜の良い香りがします〜! これが日本の、伝統的な浴槽ですのねっ!!」
思い切り、アリスに抱きついて感激するシェリア。周囲の視線も何のその、湯船に頬ずりを始める。
サーフパンツ姿を恥じらっていた星杜 焔(
ja5378)も、檜風呂を見て、はしゃいでいた。
「わーいわーい、おうちにあったお風呂だよ〜、懐かしいなあ‥‥あれ〜?」
突然、視界が滲む。何だろう? 胸の奥が、ざわざわする。
――ああ、そうだ。
本当は、彼女さんと一緒に来たかったんだ。
送迎バスを見送ってくれた、彼女さんの顔が、脳裏に蘇る。
顔にばしゃーとお湯をかけ、ごしごしして、焔も笑顔で湯船に頬ずりした。
シェリアが自身の頬に触れて、「そうよ、これが偉大なる檜の効用よ! つるすべよ!」と、胸を張った。
自慢の赤い髪をヘアキャップで護った、織宮 歌乃(
jb5789)が、外国人ズに話しかけた。
「私は、和の精神が大好きです。ですから、その雰囲気を大事にされた温泉は、本当に心安らぎます。物足りないと感じるかたもいるかもですが、落ち着いた雰囲気のほうが、身も心も落ち着けますからね」
その言葉に、オリーブ色のビキニ姿の十八 九十七(
ja4233)も頷いた。
「日本に生まれて本当に良かった、と思える時間ですねぃ、ええ」
「そうだね〜、俺もずっと入っていたいな〜。すごく安らぐよ〜。あ、シキさん、お久しぶりだね〜」
焔は、笑顔を歌乃と九十七に向けたあと、アリスに気づいた。
「ねこかふぇのチーズスフレ、シキさん直伝だそうで〜。すごく美味しかったよ〜」
「はわ、有難うございますっ」
アリスはもじもじして、頭を下げた。
「あの‥‥彼女さん、は?」
きょろきょろして、アリスが尋ねにくそうに口を開いた。焔が笑顔で応じる。
「う〜ん、残念だけど〜、都合がつかなかったんだって〜。今度は彼女さんと来られると良いな〜」
「そうですわね」
お互いに、慰め合う。
ファティナとエルリックに、シェリア、歌乃、九十七も混ぜて、背中の流し合いをしていたカタリナが、焔とアリスに声をかけた。
「日本にも、水着の混浴あるんですね。ドイツではこれが普通なんですよ。これなら気楽に、彼女さん彼氏さんとも、来られそうですね」
「だね〜」
焔が頷く。
「また機会があるといいな〜」
「ふう‥‥気持ちが良いです」
心安らいで、うとうとし始めたファティナの様子に、エルリックとシェリアが気づいた。
「危ないですの、お風呂で眠ると溺れてしまいますの!」
「そうで御座る! 気をしかと保つで御座る!」
急いでファティナの首を支え、抱きかかえる2人。
「じじ、じんこう呼吸が必要であれば、この九十七ちゃんが‥‥!」
唇を突き出す九十七、そっと目を覆う歌乃。
「いやいや、ファティナ殿の面倒は、友人である拙者が!」
負けじと唇を突き出すエルリック。
我を取り戻したファティナが、悲鳴をあげて湯船の中を逃げ惑った。
●珈琲風呂にて
不破 玲二(
ja0344)は、酒風呂から、逃げるように、珈琲風呂へと移動してきていた。
「いやはや、思った以上に女の子が多い。嬉しいような恥ずかしいような‥‥、いや、やっぱ孤独感が増すだけか」
一緒に来るはずだった相方を思い、不精ひげを擦る。
「まさか一人になってしまうとは、‥‥参ったねえ」
まあでも、1人で思い切り楽しむか、と、茶色い湯に体を浸す。
閑散とした印象の珈琲風呂には、黒夜が浸かっていた。
包帯を外し、左目を閉じている。
玲二と黒夜は互いに背中を向けていたため、タイミング的にも、なかなか、互いの気配に気づかなかった。
湯気と珈琲の香りで、心身がほぐれていく。
(珈琲風呂って変わってるな。あんま見たことねーし。色があれだけど結構好きだな)
黒夜がそう考えたところで、取材班がやってきて、玲二にマイクを向けた。
(‥‥人がいたのか?)
湯気を盾にして、そーっと逃げ出す黒夜。大理石風呂に足を向ける。
「あー、えー、あー、酒風呂とここに。いや、酒風呂も、いい匂いだった、です」
体験した風呂の感想を尋ねられ、一見だるそうに、しかし実は精一杯の笑顔で応じる玲二。
「一度日本酒に浸かってみたいと思ってたが、こんな感じか、と。飲めないのが残念だが、入ってるだけで酔っ払いそうな気がするかな、と思いましたね」
頑張って敬語も使う。
「珈琲風呂もいい、ですよ。この後眠れるんだろうか? と、心配にはなる、ですね。カフェインの効き目で、眠気サッパリこねえ! とかは、困るんで」
●ハーブ風呂にて
ソフィア・ヴァレッティ(
ja1133)と一条常盤(
ja8160)は、和やかにユーカリ湯を楽しんでいた。
「バイトとして、きちんと評価はしないとだけど、お風呂を楽しめるだけでもお得だよね」
「ですね。日々の鍛錬での傷と肌荒れが気になりますし。ユーカリは豪州で万能薬として使われていた程の、消毒作用と抗炎症効果があるそうですよ」
風紀委員らしく、きびきびと語る常盤。
「そうですわね。とても上品なお風呂ですわ。ユーカリの精油は保湿や抗アレルギーにも効果があると聞きますし、お肌の弱い方も安心して入れるのではないかしら」
シェリアが檜風呂から移ってきて、お湯をすくっては、肩や腕にかけ直す。
(お風呂で美肌になれるかな? 好きな人には綺麗な姿を見せたいです‥‥)
そう思った瞬間、かあっと常盤の顔に、全身の血が集まった気がした。
麦子が「お邪魔するわね」と入ってきて、話に加わった。
「週替わりとかで香りを変えていくと、リピーターとか増えそうね」
麦子の言葉に、ソフィアが頷く。
「そうね、加減は難しいとは思うけど、今回はスーッとした香りが売りだもの、香りの強さは大事だよね‥‥って、どうしたの?」
ソフィアは常盤を見つめた。
「の、のぼせただけですよー!」
常盤は、ヘアキャップが浸からない程度に、湯に顔をうずめた。
鎮まった水面に、自分の顔が映る。
おでこに、くっきりと残る傷痕。
(お肌を綺麗にしても‥‥顔に傷なんて、可愛くないですよね‥‥)
「あら、そんなことないわよ」
同じく、檜風呂から移ってきたカタリナが、常盤の心を見透かしたように、優しく声をかけた。
シェリアと歌乃もうんうん頷く。
「傷痕は、確かに気になりますけれど、撃退士の勲章でもあります」
物静かに語る歌乃。
「それに、本当に好きになりましたら、傷のあるなしなんて、気にならないものですよ」
暫く、ガールズトークに花が咲いた。
「んー‥‥」
真緋呂が、ガールズトークを子守唄に、半ば微睡みながら、リラックスしている。とろとろと瞼が重ーくなっていく。
「ねっ、寝たら死にますよ!?」
カタリナが、真緋呂の様子がおかしいのに気づいて、慌てて揺さぶった。
「‥‥ふぉっ!? うっかり沈んで溺れるところだったわ。少し目を覚まそっ」
真緋呂は、ヘアキャップを濡らさないように気をつけながら、顔を洗う。
「ふぉっ!! 目が、目がぁぁ!?」
スーっとするを超えて、しみる〜ッ!
慌てて、かぶり湯まで走っていく真緋呂。
「走ると危ないですよ。気をつけてくださいね」
風紀委員らしく、常盤が声をかけた。
「き、き、気を付けるわ〜!」
「こう湯船が気持ちいいと、風呂上りのビールが待ち遠しいわ〜」
「そうですね。帰りのバス、楽しみですね」
片手でぐいっとジョッキを傾ける仕草をして見せた麦子に、カタリナが頷いて微笑んだ。
●岩風呂にて
「今日は、お相手頂き感謝、だ。お手柔らかにヨロシク、な?」
アスハ・ロットハール(
ja8432)は、イシュタル(
jb2619)をエスコートして、風呂に案内していた。
赤いライン入りの黒いハーフパンツ姿のアスハ。なかなかお洒落である。
「ふむ‥‥水着、似合う、な‥‥普段見慣れない分、可愛い、かな?」
「‥‥全く‥‥よく平気でそんなことを言えるわね‥‥。奥さんに言いつけるわよ?」
白のパレオ付きビキニを着用中のイシュタルは、(‥‥まさか私を誘うとは思わなかったけど‥‥ね)と、内心、肩を竦めた。
ゆったりと岩風呂に浸かる。
傷痕にお湯がしみて、少しだけアスハの顔が翳ったが、岩場に背中を預けると、やがて痛みも和らぎ、心地よい気分に包まれた。
「こんな機会、滅多に無いから、な。たまにはのんびりするのも悪くない、か」
(眺めの良い岩風呂に美少女、か。絵になるな)
イシュタルを見て、ふとそう思う。
そして、奥さんと一緒にまた来たいな、次はバイトでなく、と、最愛の人に思いを馳せる。
「いい眺め‥‥天魔と争っているのが嘘みたいね‥‥」
岩場越しに景色を眺め、イシュタルが感嘆の声をあげる。
「そうだ、な。こんな時間を過ごすようになるとは、最初の頃からは想像できん、な」
どこか楽しそうに、アスハが答える。
「‥‥? よく分からないけど、ロットハールが楽しそうなのは、いい事だと思うわよ?」
少し首を傾げながら微笑むイシュタルであった。
そこへ。
「がぶぅ!」
「のわぁ!?」
酒風呂で酒気にあてられたアイリスが、挨拶がわりのひと噛みをアスハにお見舞いした。
長湯をしたせいか、完全に酔っ払って、蒔菜に抱きしめられながら甘えている。
「あ、ごめんなさい!」
蒔菜が代わって謝る。アイリスは、蒔菜をはぐり返し、すりすりと頬擦りをしていた。
エリーゼ、仁刀、真緋呂、遼布、そして月臣 朔羅(
ja0820)も、岩風呂にやってくる。
時間と共に気分もリフレッシュし、酒風呂組の皆の酒気も飛んだ。
酔って噛み付いたことをアイリスが恥じ入り、アスハに謝り倒す。
「景色を楽しみながら、のんびりと浸かる。やはり、温泉と言ったらこれよね」
朔羅がヘアキャップを濡らさないよう、岩場に身を預けてゆったりと湯に浸かる。
「ジャグジーもなかなか良かった。泡の量や放出の強さを色々と試せたんだ」
遼布が先に行った風呂の感想を口にした。
酒風呂組は酒風呂についての感想を、真緋呂はハーブ風呂の感想を、それぞれ語った。
「ハーブ風呂も少しだけ立ち寄った、な」
「いい香りだったわね。たまにはああいうのも有りなのかもしれない」
アスハとイシュタルが、真緋呂の言葉に、こくこく頷く。
「バイトとして、しっかりと調査する風呂とは別に、一通りの風呂は体験しておきたいな。なかなか、どの風呂も面白そうだ」
遼布はそう言うと、岩風呂から出ていった。
立ち上がった瞬間、彼の水着の面積の少なさに、女性陣が慌てて目を覆った。
ブーメランビキニ‥‥恐ろしいはかいりょくだ!!
●滝の湯にて
その頃、白秋は、まだ例のウォッチングを続けていた。
何しろ女性いっぱいである。見飽きることがない。
チェック柄のビキニで、菊開 すみれ(
ja6392)は、鴉女 絢(
jb2708)をナンパしていた。
「あ、ねーねー、もし良かったら一緒に回らない?」
浴場を、単独でうろうろしていた絢は、渡りに船とばかりに、すみれの手をとった。
「うん、是非ぜひ!」
(ふふっ、せくしー美少女、ゲットだぜ!)
胸中でほくそ笑む、すみれであった。
「じゃあ、滝の湯に行こっか♪ 私、ムネが大きいせいか、肩こりがひどいのよね」
「滝に打たれるなんて、なんか修行みたいだね。うん、いいよ、行こう行こう♪」
「ふうーっ、首肩もほぐれたし、ここはこの辺にして、次は大理石風呂にでも――」
白秋が滝から出た途端、ムネの大きな美少女――すみれとぶつかった。
「きゃあ!!」
すみれが足を滑らせ、転びそうになったところを、白秋に抱きとめられる。
「だ、大丈夫か?」
クレバーなイケメンは紳士的にすみれを抱き起こした、だがしかし、その手にはひんやり、ふにっとしたやーらかい感触が、バッチリしっかりはっきりと‥‥。
「あ」
「あ」
ふるふる震えだすすみれ、慌てて手を離す白秋。
「いやあああ!!」
バッチーン! すみれの平手打ちが、白秋のイケメンフェイスに、紅葉マークを浮かび上がらせた。
「赤坂君、女の子においたしちゃダメだよー!」
絢が、ほぼ同時に、全力で蹴りを放つ。
「へぶーっ!?」
放物線を描いて蹴り飛ばされるイケメン一匹。
「い、痛そう‥‥ごめんなさい! 大丈夫です?」
すみれが慌てて駆け寄ると、ゆらありと白秋は緩慢に立ち上がった。
様子が変だ。
「コフー‥‥コフー‥‥オッ■イ‥‥コフー」
打ち所が悪かったのか、白秋は正気を失い、オッ■イバーサーカーとなってしまった!
白秋しっかり! クレバーなイケメンはどこへ行った!
「きゃああ!」
「お、おまわりさんこっちです!」
すみれと絢が悲鳴をあげる。流石におまわりさんは来なかったが、朔羅が駆けつけた。
「あーもう、またこんなことに‥‥。あなた達は逃げて!」
朔羅は、水色のモノキニとたゆんたゆんなバストを白秋に見せつけ、視線を奪った。
今のうちに、と、すみれと絢が、こそこそ逃げ出す。
「うふふ、ちょっと興奮しすぎよ、おにーさん?」
朔羅が光纏し、水上歩行も使用して、転ばないように白秋を引き回す。
「うーん、そうねぇ。私を捕まえる事が出来たら、胸を触らせてあげてもいいわよ?」
「コ‥‥コフー!!」
その挑発に白秋も光纏し、なんとかセクハラに及ぼうと手を伸ばす。
ひょいひょいと躱す朔羅。その間に、いつでも兜割りが出来るよう、準備を整える。
白秋が業を煮やし、緑火眼を発動させようとした瞬間。
「てぇいっ!」
先手必勝。朔羅が危ういタイミングで、体重を乗せた鋭いチョップを叩き込んだ。
ぐらあんと白秋の頭がふらつく。
その首根っこを捕まえて滝に突っ込む朔羅。女性の敵に対して、容赦ない。
「はーい、そこまで。そろそろ、頭を冷やしましょうか?」
ごん!
朔羅が手を離した途端、水圧で、白秋の頭が勢いよく、滝下の湯船に叩きつけられた。
「はっ、俺は一体なにを‥‥!?」
白秋の光纏が解けて、目に知性が戻った。
‥‥取材班に見つからなくて、良かったですね。
「ちょっと、浴場での遊泳は禁止ですよ?」
まだ、半ばぼんやりと、滝の湯にぷかぷか浮いている白秋を見て、事情を何も知らない常盤が、ぴしりと注意した。
●高温室にて
「これが噂のサウナ‥‥健康には良いとお聞きしますが」
木造のサウナ小屋に、エルリックと、パーカーを羽織ったファティナが移動していた。
「うむうむ。ここでじっくりと汗を流して、帰りのバスで、瓶牛乳を一気飲みで御座るっ(ぐっ)」
エルリックがまたもガッツポーズをとった。
「ほむ、牛乳です? それが日本式、というものなのでしょうか?」
「腰に手をあてて、仰け反るように一気飲みで御座るよ」
小首を傾げるファティナに、瓶牛乳の正しい(?)飲み方を教えるエルリック。
だが、バスの中でやるのは難しいのでは、と、ちょっぴりファティナの脳裏に「?」が浮かぶ。
「では、取り合えず、いけるところまで挑戦です!」
暑い小屋の中で、じっくりと汗を出す2人。
小屋にこもって10分後。
「‥‥おろ?‥‥ファティナ殿お気を確かに!?」
かくんと崩れ落ちたファティナを、慌てて抱きとめるエルリック。
そのまま急いで小屋の外に飛び出し、膝枕で介抱する。
「ん‥‥」
少しずつ体から熱が抜けて、ファティナの様子が落ち着いてくる。
「‥‥気持ちいいです〜。ごろごろ‥‥はにゃ〜ん」
目覚めたファティナに、ほっと胸を撫で下ろすエルリック。
「暫くこうしているで御座るよ。ファティナ殿は、のんびりやすむで御座る」
エルリックは微笑んだ。
●大理石風呂にて
「うーん、デトックス〜♪ なんか色々染み出している感じね」
うな〜と大の字に横たわり、麦子はご満悦であった。
ブラウン基調で、縁どりの黒いビキニが、よく似合っている。
端っこで、目立たないように、黒夜が寝そべっていた。
ほかほかに温められた大理石が、じんわりと効いて、汗と共に体の毒気を抜いてくれているようだ。
(へー、水がない風呂ってのも、何か不思議な感じだ)
肌に汗の玉が浮かぶ。
(帰りはコーヒー牛乳飲みてーな‥‥)
汗が出るだけ、喉が渇く。
「背中痛くならないかな?」
絢がやってきて、ごろりと横になった。
「あ、案外大丈夫かも」
一緒にすみれも横たわる。
全身から汗がじわ〜っと出てきて、すみれは、胸の谷間や胸下が気持ち悪いと感じ、始終水着を弄っていた。
視線が、絢の綺麗なボディラインに釘付けである。
「絢ちゃんってば、スタイル良いんだからっ」
「べ、別によくないよ‥‥! すみれちゃんの方がずっといいよ‥‥!」
あたふたと赤くなる絢。微笑むすみれ。
「ああ‥‥暑いねっ。汗も毒も全部出て行っているみたい。これは、気持ちよくて、とろとろ寝ちゃうかもね」
●お疲れ様でした!
シャワーを浴びて着替え、レンタル水着やヘアキャップを返却し、皆は施設ロビーに集まった。
エルリックは、赤ペンで二重丸をつけたメモを、担当者である里延(さとのべ)に手渡した。
玲二も改めて感想を伝える。
ソフィアは真面目に評価を伝えた。曰く、ジャグジーの泡の弾力についてである。
「ふわふわでも、もちもちでも構わないけれど、やっぱり泡の当たり心地が良くないとね」
「母さんの故郷では、俺も遂に酒が飲める年齢なんだ〜。お友達はお酒好き多いし、早く日本でも飲酒可能になりたいものだなって思ったよ〜。皆と酒盛りしてる気分で楽しかったよ〜」
焔も、酒風呂の感想を、里延に伝える。
「ユーカリのアロマ効果は抜群ですね。気分もお肌もスッキリ爽やかになりました!」
きびきびと常盤が、ハーブ風呂の感想を口にする。
「滝の湯も、邪念払拭、精神統一出来て、良かったです!」
「『ミス・温泉』等を決めて、宣伝に使えないか? 個人メモをとったんだが」
遼布は、防水メモシートを里延に手渡した。
そこには、温泉を楽しんでいる女性ベスト3(遼布の私見による)が挙げられていた。
「さすが世界一のお風呂大国、こんな大きな温泉施設は見たことがありませんでしたわ。実家の浴室よりずっと広いんですもの」
シェリアが施設の規模を褒める。
「有難うございます」
里延が皆に礼を言い、報酬の入った封筒を銘々に手渡した。
「取材班にも様子を見せていただきましたが、皆様に、存分に楽しんでいただけたようで、全く全く、何よりでございます」
そして、丁寧にもう一度、礼。
「本当に、有難うございました」
●帰りのバスの中
ビール。牛乳。珈琲牛乳。ジュース類。冷たいミネラルウォーター。お茶。‥‥などなどが、気前よく振舞われ(未成年はノンアルコールのみ)、バスの中は宴会騒ぎだった。
その反面、湯疲れしたものも多く、くったりと気持ちよさそうにやすんでいる。
1日限りの湯治であったが、効果は抜群だったようだ。
「また来たいね」
「そうですね」
宴会騒ぎの中、何処からか、誰かの呟く声が聞こえた。
「今度は、バイトじゃなくて、遊びにこられたらいいなあ‥‥」