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マスター:神子月弓
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:25人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/08/01


みんなの思い出



オープニング

●夏こそ温泉!


 アリス・シキ(jz0058)がバイト中、依頼斡旋所を訪ねてきた者がいた。
 男――里延(さとのべ)は、遊戯施設AMPの復興の様子と、ホテル・プレシャスパレスの発行したウェディングカタログを見た、と語った。

「学園生の皆様に、お願いがございます」

 里延は頭を下げた。

「わたくしたちの混浴温泉施設にお越し頂き、ご感想や改善点を賜りたいのです。既に記者の手配と、新聞社の取材の段取りは決定してございます」

 報酬はこれくらいで、と計算機を打つ里延。
 天魔退治に比べ、危険報酬がない分、お安かったが、妥当と言える金額であった。


●混浴温泉施設『スパリゾート・美神の泡』概要


 混浴である。

 男女とも、水着着用である。

 ‥‥ちぇっ、と思った人は、素直に挙手。


1)かぶり湯:まずここで、水着の上から、体をざっと洗います。以降はお好きにどうぞ。

2)滝の湯:滝のように流れ落ちるお湯の水圧で、肩・首まわりをマッサージします。

3)超音波の湯:細かくお湯が振動するお風呂です。体の汚れがよく落ちるかも?

4)酒風呂:日本酒たっぷりの、お肌あたりのやわらかいお風呂です。飲めません。

5)珈琲風呂:珈琲たっぷりの、カフェイン豊富なお風呂です。飲めません。

6)ハーブ風呂:ハーブのエッセンシャルオイルが入れられた、香りのよいお湯です。バイト当日は、ユーカリエキスが入ります。清涼感のあるすーっとした香りです。

7)檜風呂:日本伝統の贅沢な檜を存分に使用したお風呂です。

8)磁気風呂:磁気で全身のこりをほぐすお風呂です。

9)ジャグジー風呂:泡によるマッサージ効果が楽しめるお風呂です。

10)大理石風呂:温められた大理石の上で横になり、布をかけ、汗を出す、無水サウナです。

11)高温室:木造のサウナ小屋です。

12)水風呂:10と11の間にあります。汗をいっぱい出したら、こちらへどうぞ。

13)岩風呂:岩に囲まれた、眺望のよいお風呂です。露天風呂の雰囲気が味わえます。

14)歩行風呂:お湯の流れる勾配をゆっくりと歩いて楽しむスタイルの足湯です。

加えて施設内には、シャワー室、温水プールを併設しています。


「以上にお話致しました、2〜14までのお風呂を、それぞれ評価して頂きたいのです」

 里延は丁寧に、バイト内容を説明する。

「どのお風呂も、『楽しく心身の健康を促進する』という謳い文句です。ですので、お怪我の多い撃退士の皆様に、お楽しみ頂いた上で、お疲れが取れるか、お怪我の治りが良くなるか、確かめたいのもございます」

「ええと、要するに、あの‥‥」

 バイトの内容をまとめようと考えこんだアリスに、里延は深く頷いた。

「はい。遊びにおいでになるつもりで、楽しんで頂き、ご感想を頂戴出来れば、それで構いません」


リプレイ本文

●なんとかウォッチング


「え? 水着? 風呂って裸で入るもんじゃないっけ?」
 蒼桐 遼布(jb2501)は、施設入口で立ち尽くし、暫く考えた。
「なら‥‥一番生地の少ないのを頼む」


 こそこそ、こそこそ。
 かぶり湯にて、エリーゼ・エインフェリア(jb3364)が、何やら挙動不審な行動をしている。
(温泉の水は、髪を傷めると聞きましたし、これならばっちりです!)
 長い髪を収めたヘアキャップ(施設貸出品)を念入りに確認し、お湯を浴びる。
(に、日本の学生には、一般的に着られているスク水という物ですし‥‥普通にしていれば目立たないはずです‥‥! 若干、サイズを間違えて、胸がきついですがっ!)
 取材班を避けて歩くそのぴっちぴちのムネには、手縫いで「こーとーぶ1ねん えりーぜ」と刺繍が入っていた。


(B‥‥C‥‥F‥‥D、いやE‥‥おおっ、G?!)
 蓮城 真緋呂(jb6120)や、少し遅れてやってきた来栖 蒔菜(jb6376)など、女性陣の身体の一部に視線を奪われながら、赤坂白秋(ja7030)は存分に鼻の下を伸ばしていた。
 場所は滝の湯。ここからは、かぶり湯が良く見える。

 だが、彼も撃退士の一員。一般人には、そんな素振りは見せない、クレバーなイケメン(自称)である。
 よもや、バストウォッチングをしているなど、取材班の誰にも気づかれないよう心がけている。

(おおお‥‥あのスク水のぴちぴち感がっ!‥‥ふむ、これは絶壁だな)
 エリーゼのムネに目を留め、続いて、歩いてきた、痩せっぽちの黒夜(jb0668)に視線を移す。
 黒夜は白秋の視線に気づき、恥ずかしさの余り、気配を消して逃亡した。

 そこへ遼布、登場である。

「これがかぶり湯だな」
 長い、蒼から銀にグラデーションする髪を、ヘアキャップに押し込みながら、仁王立ちする遼布。
 白秋の視線が、思わず、遼布に向かう。

 勿論、遼布は、一番生地の少ない男性用水着を着用しており‥‥

「ごふっ!!」

 ‥‥白秋は、真っ白い灰になった。


●酒風呂にて


 蒔菜は、待ち合わせていた、アイリス・L・橋場(ja1078)を見つけ、早足で駆け寄った。
「ごめんね、アイリスちゃん、待たせちゃったね」
 初めての水着に手間取り、着替えに時間がかかってしまったことを詫びる蒔菜。
 黒ビキニにパレオを巻いたアイリスは、にこっと微笑んで手を繋いだ。
「むぃ、大丈夫なのです。さて、何処から回りましょう?」
 2人で仲良く、案内板を見る。
「じゃあね、じゃあね、‥‥お酒のお風呂から!」


 そこには、先客がいた。
「うぉーっ! 温泉だぞーっ! レッツ☆酒風呂っ!」
 ドボォン、と勢いよく、ファラ・エルフィリア(jb3154)が湯船に飛び込んだ。
 白いタンキニのお腹が、勢いでまくれて、ちょっぴり色っぽい。
「ふ〜、ごくらくごくらく〜♪ あっ、どうぞどうぞ!」
 ファラは、アイリスと蒔菜に気付き、ばちゃばちゃしながら場所をあけた。

 お酒成分で白濁したお湯が、乙女達の肌にやわらかくあたる。
「はむぁ〜♪」
 心地よく雰囲気に酔いながら、アイリスは蒔菜にすっぽりと抱きしめられた。

「あたし知ってるよ! このお風呂は、人間が、皮膚からお酒を吸収するためのお風呂なんだよね!」
 ファラが蒔菜に話しかけた。
「そうなの?」
 おっとりと蒔菜は微笑む。

(多分、違うだろう‥‥未成年も入れる風呂なんだから)
 久遠 仁刀(ja2464)が、湯けむりの向こうで、こっそりと考えた。
(ふう‥‥しかし、体の中の方から熱くなってくるような感覚がある気はする。体が芯から温まれば、傷の治りも早いかもな。まあ、気分だけかも知れんが‥‥)

 仁刀は、やわらかなお湯を腕にかけた。

(気分だけでもそう思えるのは、いいことだろう。しっかり回復して、また戦えるようにならないとな)
 ほうっと息を吐く。こんな風に寛げたのは久しぶりだな、と仁刀は考えた。

 湯けむりの向こうから、ファラの声が聞こえてくる。

「ふ。これで女子力をあげてやるのよっ。にーちゃ達に『なんでおまえは残念なんだ』とかもう言わせないんだからね! お肌すべすべのとぅるっとぅるになるといいんだよ!」
 一生懸命、お湯を肌にすりこむようにして、酒風呂の効果を高めようとするファラ。
 顔をあげた時、視線の先には、目立たないようにと湯船の端で身を縮めているエリーゼがいた。

「はむぁ〜、こんにちはですよ」
 アイリスもエリーゼに気付き、挨拶の声をあげる。
「そうだ、一緒に、とぅるっとぅるのモチモチ素肌美人になろうよっ!」
「きゃあ!」
 ファラがエリーゼの背中に、お湯をすり込み始めた。
「‥‥けっこう、香りが‥‥きつい‥‥です‥‥」
「おいおい、気をつけろ?」
 ぶくぶく沈没しかかったところを、仁刀に救われるエリーゼ。
「あ、有難うございます」

「あら、仁刀ちゃんじゃない」
 酒風呂を偶然見に来た、雀原 麦子(ja1553)が、おもむろに仁刀の頬をぷにぷにした。
「あーんまり怪我ばっかりして、好きな子に心配かけすぎちゃダメよ〜」

「はっ、はひふんはほっ!?(何すんだよっ)」
 頬ぷにされて、抗議の言葉もままならない仁刀。
 にま〜と満足そうに笑って、手を離す麦子。
「私は大理石風呂に行ってくるわね〜。バイトが終わったら、ビールで乾杯しましょ♪」
 麦子は、ひらひらと手を振り、歩き出した。


●檜風呂にて


 蒼いホルターネックビキニの真緋呂が、ぼっちでお湯を浴びていたアリス・シキ(jz0058)を捕まえた。
「あー、かぶり湯にいたんですね。後でシキさんの水着姿、スマホで撮ってあげますよ♪」
「はわ? な、な、何故にですの?!」
 ヘアキャップを直しながら、キョトンとするアリス。
「え? そりゃあ、彼氏さんが欲しいだろうと思って〜♪」

 無邪気に微笑む真緋呂。その笑みに、他意は全く無い。
 言葉も出せず、真っ赤になって慌てふためくアリスであった。


「今日は、日本のマナーに困ることもなく、過ごせそうですね」
 カタリナ(ja5119)が、エルリック・リバーフィルド(ja0112)とファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)を連れて、檜風呂にやってきた。

「此処はやはり、檜で御座るな(ぐっ)」
「ええ、やっぱり檜ですよね!(ぐっ)」
「うむ、日本のお風呂といえば、やはりこうで御座るな!」
 エルリックとカタリナで、ガッツポーズ!
「これが所謂、日本のお風呂なのでしょうね。雰囲気が何となく和風という感じがして、落ち着きますね」
 ファティナが木の香りを楽しむように、目をつむった。

 そこへ、シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)が、アリスの手を引いてやってきた。
「シ、シシ、シキさん!? ヒノキ‥‥ヒノキのお風呂ですわ! 凄い! 檜の良い香りがします〜! これが日本の、伝統的な浴槽ですのねっ!!」
 思い切り、アリスに抱きついて感激するシェリア。周囲の視線も何のその、湯船に頬ずりを始める。


 サーフパンツ姿を恥じらっていた星杜 焔(ja5378)も、檜風呂を見て、はしゃいでいた。
「わーいわーい、おうちにあったお風呂だよ〜、懐かしいなあ‥‥あれ〜?」

 突然、視界が滲む。何だろう? 胸の奥が、ざわざわする。

 ――ああ、そうだ。
 本当は、彼女さんと一緒に来たかったんだ。
 送迎バスを見送ってくれた、彼女さんの顔が、脳裏に蘇る。

 顔にばしゃーとお湯をかけ、ごしごしして、焔も笑顔で湯船に頬ずりした。
 シェリアが自身の頬に触れて、「そうよ、これが偉大なる檜の効用よ! つるすべよ!」と、胸を張った。

 自慢の赤い髪をヘアキャップで護った、織宮 歌乃(jb5789)が、外国人ズに話しかけた。
「私は、和の精神が大好きです。ですから、その雰囲気を大事にされた温泉は、本当に心安らぎます。物足りないと感じるかたもいるかもですが、落ち着いた雰囲気のほうが、身も心も落ち着けますからね」
 その言葉に、オリーブ色のビキニ姿の十八 九十七(ja4233)も頷いた。
「日本に生まれて本当に良かった、と思える時間ですねぃ、ええ」

「そうだね〜、俺もずっと入っていたいな〜。すごく安らぐよ〜。あ、シキさん、お久しぶりだね〜」
 焔は、笑顔を歌乃と九十七に向けたあと、アリスに気づいた。
「ねこかふぇのチーズスフレ、シキさん直伝だそうで〜。すごく美味しかったよ〜」
「はわ、有難うございますっ」
 アリスはもじもじして、頭を下げた。

「あの‥‥彼女さん、は?」
 きょろきょろして、アリスが尋ねにくそうに口を開いた。焔が笑顔で応じる。
「う〜ん、残念だけど〜、都合がつかなかったんだって〜。今度は彼女さんと来られると良いな〜」
「そうですわね」
 お互いに、慰め合う。

 ファティナとエルリックに、シェリア、歌乃、九十七も混ぜて、背中の流し合いをしていたカタリナが、焔とアリスに声をかけた。
「日本にも、水着の混浴あるんですね。ドイツではこれが普通なんですよ。これなら気楽に、彼女さん彼氏さんとも、来られそうですね」
「だね〜」
 焔が頷く。
「また機会があるといいな〜」


「ふう‥‥気持ちが良いです」
 心安らいで、うとうとし始めたファティナの様子に、エルリックとシェリアが気づいた。
「危ないですの、お風呂で眠ると溺れてしまいますの!」
「そうで御座る! 気をしかと保つで御座る!」
 急いでファティナの首を支え、抱きかかえる2人。
「じじ、じんこう呼吸が必要であれば、この九十七ちゃんが‥‥!」
 唇を突き出す九十七、そっと目を覆う歌乃。
「いやいや、ファティナ殿の面倒は、友人である拙者が!」
 負けじと唇を突き出すエルリック。

 我を取り戻したファティナが、悲鳴をあげて湯船の中を逃げ惑った。


●珈琲風呂にて


 不破 玲二(ja0344)は、酒風呂から、逃げるように、珈琲風呂へと移動してきていた。
「いやはや、思った以上に女の子が多い。嬉しいような恥ずかしいような‥‥、いや、やっぱ孤独感が増すだけか」
 一緒に来るはずだった相方を思い、不精ひげを擦る。
「まさか一人になってしまうとは、‥‥参ったねえ」
 まあでも、1人で思い切り楽しむか、と、茶色い湯に体を浸す。

 閑散とした印象の珈琲風呂には、黒夜が浸かっていた。
 包帯を外し、左目を閉じている。

 玲二と黒夜は互いに背中を向けていたため、タイミング的にも、なかなか、互いの気配に気づかなかった。
 湯気と珈琲の香りで、心身がほぐれていく。

(珈琲風呂って変わってるな。あんま見たことねーし。色があれだけど結構好きだな)
 黒夜がそう考えたところで、取材班がやってきて、玲二にマイクを向けた。
(‥‥人がいたのか?)
 湯気を盾にして、そーっと逃げ出す黒夜。大理石風呂に足を向ける。

「あー、えー、あー、酒風呂とここに。いや、酒風呂も、いい匂いだった、です」
 体験した風呂の感想を尋ねられ、一見だるそうに、しかし実は精一杯の笑顔で応じる玲二。
「一度日本酒に浸かってみたいと思ってたが、こんな感じか、と。飲めないのが残念だが、入ってるだけで酔っ払いそうな気がするかな、と思いましたね」
 頑張って敬語も使う。
「珈琲風呂もいい、ですよ。この後眠れるんだろうか? と、心配にはなる、ですね。カフェインの効き目で、眠気サッパリこねえ! とかは、困るんで」


●ハーブ風呂にて


 ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)と一条常盤(ja8160)は、和やかにユーカリ湯を楽しんでいた。
「バイトとして、きちんと評価はしないとだけど、お風呂を楽しめるだけでもお得だよね」
「ですね。日々の鍛錬での傷と肌荒れが気になりますし。ユーカリは豪州で万能薬として使われていた程の、消毒作用と抗炎症効果があるそうですよ」
 風紀委員らしく、きびきびと語る常盤。
「そうですわね。とても上品なお風呂ですわ。ユーカリの精油は保湿や抗アレルギーにも効果があると聞きますし、お肌の弱い方も安心して入れるのではないかしら」
 シェリアが檜風呂から移ってきて、お湯をすくっては、肩や腕にかけ直す。

(お風呂で美肌になれるかな? 好きな人には綺麗な姿を見せたいです‥‥)
 そう思った瞬間、かあっと常盤の顔に、全身の血が集まった気がした。

 麦子が「お邪魔するわね」と入ってきて、話に加わった。

「週替わりとかで香りを変えていくと、リピーターとか増えそうね」
 麦子の言葉に、ソフィアが頷く。
「そうね、加減は難しいとは思うけど、今回はスーッとした香りが売りだもの、香りの強さは大事だよね‥‥って、どうしたの?」
 ソフィアは常盤を見つめた。
「の、のぼせただけですよー!」

 常盤は、ヘアキャップが浸からない程度に、湯に顔をうずめた。
 鎮まった水面に、自分の顔が映る。
 おでこに、くっきりと残る傷痕。
(お肌を綺麗にしても‥‥顔に傷なんて、可愛くないですよね‥‥)

「あら、そんなことないわよ」
 同じく、檜風呂から移ってきたカタリナが、常盤の心を見透かしたように、優しく声をかけた。
 シェリアと歌乃もうんうん頷く。
「傷痕は、確かに気になりますけれど、撃退士の勲章でもあります」
 物静かに語る歌乃。
「それに、本当に好きになりましたら、傷のあるなしなんて、気にならないものですよ」

 暫く、ガールズトークに花が咲いた。


「んー‥‥」
 真緋呂が、ガールズトークを子守唄に、半ば微睡みながら、リラックスしている。とろとろと瞼が重ーくなっていく。
「ねっ、寝たら死にますよ!?」
 カタリナが、真緋呂の様子がおかしいのに気づいて、慌てて揺さぶった。
「‥‥ふぉっ!? うっかり沈んで溺れるところだったわ。少し目を覚まそっ」
 真緋呂は、ヘアキャップを濡らさないように気をつけながら、顔を洗う。
「ふぉっ!! 目が、目がぁぁ!?」

 スーっとするを超えて、しみる〜ッ!

 慌てて、かぶり湯まで走っていく真緋呂。
「走ると危ないですよ。気をつけてくださいね」
 風紀委員らしく、常盤が声をかけた。
「き、き、気を付けるわ〜!」


「こう湯船が気持ちいいと、風呂上りのビールが待ち遠しいわ〜」
「そうですね。帰りのバス、楽しみですね」
 片手でぐいっとジョッキを傾ける仕草をして見せた麦子に、カタリナが頷いて微笑んだ。


●岩風呂にて


「今日は、お相手頂き感謝、だ。お手柔らかにヨロシク、な?」
 アスハ・ロットハール(ja8432)は、イシュタル(jb2619)をエスコートして、風呂に案内していた。
 赤いライン入りの黒いハーフパンツ姿のアスハ。なかなかお洒落である。
「ふむ‥‥水着、似合う、な‥‥普段見慣れない分、可愛い、かな?」
「‥‥全く‥‥よく平気でそんなことを言えるわね‥‥。奥さんに言いつけるわよ?」
 白のパレオ付きビキニを着用中のイシュタルは、(‥‥まさか私を誘うとは思わなかったけど‥‥ね)と、内心、肩を竦めた。

 ゆったりと岩風呂に浸かる。
 傷痕にお湯がしみて、少しだけアスハの顔が翳ったが、岩場に背中を預けると、やがて痛みも和らぎ、心地よい気分に包まれた。
「こんな機会、滅多に無いから、な。たまにはのんびりするのも悪くない、か」
(眺めの良い岩風呂に美少女、か。絵になるな)
 イシュタルを見て、ふとそう思う。
 そして、奥さんと一緒にまた来たいな、次はバイトでなく、と、最愛の人に思いを馳せる。

「いい眺め‥‥天魔と争っているのが嘘みたいね‥‥」
 岩場越しに景色を眺め、イシュタルが感嘆の声をあげる。
「そうだ、な。こんな時間を過ごすようになるとは、最初の頃からは想像できん、な」
 どこか楽しそうに、アスハが答える。
「‥‥? よく分からないけど、ロットハールが楽しそうなのは、いい事だと思うわよ?」
 少し首を傾げながら微笑むイシュタルであった。


 そこへ。
「がぶぅ!」
「のわぁ!?」
 酒風呂で酒気にあてられたアイリスが、挨拶がわりのひと噛みをアスハにお見舞いした。
 長湯をしたせいか、完全に酔っ払って、蒔菜に抱きしめられながら甘えている。
「あ、ごめんなさい!」
 蒔菜が代わって謝る。アイリスは、蒔菜をはぐり返し、すりすりと頬擦りをしていた。

 エリーゼ、仁刀、真緋呂、遼布、そして月臣 朔羅(ja0820)も、岩風呂にやってくる。
 時間と共に気分もリフレッシュし、酒風呂組の皆の酒気も飛んだ。
 酔って噛み付いたことをアイリスが恥じ入り、アスハに謝り倒す。

「景色を楽しみながら、のんびりと浸かる。やはり、温泉と言ったらこれよね」
 朔羅がヘアキャップを濡らさないよう、岩場に身を預けてゆったりと湯に浸かる。

「ジャグジーもなかなか良かった。泡の量や放出の強さを色々と試せたんだ」
 遼布が先に行った風呂の感想を口にした。
 酒風呂組は酒風呂についての感想を、真緋呂はハーブ風呂の感想を、それぞれ語った。
「ハーブ風呂も少しだけ立ち寄った、な」
「いい香りだったわね。たまにはああいうのも有りなのかもしれない」
 アスハとイシュタルが、真緋呂の言葉に、こくこく頷く。

「バイトとして、しっかりと調査する風呂とは別に、一通りの風呂は体験しておきたいな。なかなか、どの風呂も面白そうだ」
 遼布はそう言うと、岩風呂から出ていった。
 立ち上がった瞬間、彼の水着の面積の少なさに、女性陣が慌てて目を覆った。

 ブーメランビキニ‥‥恐ろしいはかいりょくだ!!


●滝の湯にて


 その頃、白秋は、まだ例のウォッチングを続けていた。
 何しろ女性いっぱいである。見飽きることがない。


 チェック柄のビキニで、菊開 すみれ(ja6392)は、鴉女 絢(jb2708)をナンパしていた。
「あ、ねーねー、もし良かったら一緒に回らない?」
 浴場を、単独でうろうろしていた絢は、渡りに船とばかりに、すみれの手をとった。
「うん、是非ぜひ!」
(ふふっ、せくしー美少女、ゲットだぜ!)
 胸中でほくそ笑む、すみれであった。
「じゃあ、滝の湯に行こっか♪ 私、ムネが大きいせいか、肩こりがひどいのよね」
「滝に打たれるなんて、なんか修行みたいだね。うん、いいよ、行こう行こう♪」


「ふうーっ、首肩もほぐれたし、ここはこの辺にして、次は大理石風呂にでも――」

 白秋が滝から出た途端、ムネの大きな美少女――すみれとぶつかった。
「きゃあ!!」
 すみれが足を滑らせ、転びそうになったところを、白秋に抱きとめられる。
「だ、大丈夫か?」
 クレバーなイケメンは紳士的にすみれを抱き起こした、だがしかし、その手にはひんやり、ふにっとしたやーらかい感触が、バッチリしっかりはっきりと‥‥。

「あ」
「あ」

 ふるふる震えだすすみれ、慌てて手を離す白秋。

「いやあああ!!」
 バッチーン! すみれの平手打ちが、白秋のイケメンフェイスに、紅葉マークを浮かび上がらせた。
「赤坂君、女の子においたしちゃダメだよー!」
 絢が、ほぼ同時に、全力で蹴りを放つ。

「へぶーっ!?」

 放物線を描いて蹴り飛ばされるイケメン一匹。

「い、痛そう‥‥ごめんなさい! 大丈夫です?」
 すみれが慌てて駆け寄ると、ゆらありと白秋は緩慢に立ち上がった。

 様子が変だ。

「コフー‥‥コフー‥‥オッ■イ‥‥コフー」

 打ち所が悪かったのか、白秋は正気を失い、オッ■イバーサーカーとなってしまった!
 白秋しっかり! クレバーなイケメンはどこへ行った!

「きゃああ!」
「お、おまわりさんこっちです!」

 すみれと絢が悲鳴をあげる。流石におまわりさんは来なかったが、朔羅が駆けつけた。
「あーもう、またこんなことに‥‥。あなた達は逃げて!」
 朔羅は、水色のモノキニとたゆんたゆんなバストを白秋に見せつけ、視線を奪った。
 今のうちに、と、すみれと絢が、こそこそ逃げ出す。

「うふふ、ちょっと興奮しすぎよ、おにーさん?」
 朔羅が光纏し、水上歩行も使用して、転ばないように白秋を引き回す。
「うーん、そうねぇ。私を捕まえる事が出来たら、胸を触らせてあげてもいいわよ?」
「コ‥‥コフー!!」

 その挑発に白秋も光纏し、なんとかセクハラに及ぼうと手を伸ばす。
 ひょいひょいと躱す朔羅。その間に、いつでも兜割りが出来るよう、準備を整える。

 白秋が業を煮やし、緑火眼を発動させようとした瞬間。

「てぇいっ!」

 先手必勝。朔羅が危ういタイミングで、体重を乗せた鋭いチョップを叩き込んだ。
 ぐらあんと白秋の頭がふらつく。
 その首根っこを捕まえて滝に突っ込む朔羅。女性の敵に対して、容赦ない。
「はーい、そこまで。そろそろ、頭を冷やしましょうか?」

 ごん!

 朔羅が手を離した途端、水圧で、白秋の頭が勢いよく、滝下の湯船に叩きつけられた。

「はっ、俺は一体なにを‥‥!?」

 白秋の光纏が解けて、目に知性が戻った。
 ‥‥取材班に見つからなくて、良かったですね。

「ちょっと、浴場での遊泳は禁止ですよ?」
 まだ、半ばぼんやりと、滝の湯にぷかぷか浮いている白秋を見て、事情を何も知らない常盤が、ぴしりと注意した。


●高温室にて


「これが噂のサウナ‥‥健康には良いとお聞きしますが」
 木造のサウナ小屋に、エルリックと、パーカーを羽織ったファティナが移動していた。
「うむうむ。ここでじっくりと汗を流して、帰りのバスで、瓶牛乳を一気飲みで御座るっ(ぐっ)」

 エルリックがまたもガッツポーズをとった。

「ほむ、牛乳です? それが日本式、というものなのでしょうか?」
「腰に手をあてて、仰け反るように一気飲みで御座るよ」

 小首を傾げるファティナに、瓶牛乳の正しい(?)飲み方を教えるエルリック。
 だが、バスの中でやるのは難しいのでは、と、ちょっぴりファティナの脳裏に「?」が浮かぶ。

「では、取り合えず、いけるところまで挑戦です!」
 暑い小屋の中で、じっくりと汗を出す2人。

 小屋にこもって10分後。

「‥‥おろ?‥‥ファティナ殿お気を確かに!?」
 かくんと崩れ落ちたファティナを、慌てて抱きとめるエルリック。
 そのまま急いで小屋の外に飛び出し、膝枕で介抱する。

「ん‥‥」
 少しずつ体から熱が抜けて、ファティナの様子が落ち着いてくる。
「‥‥気持ちいいです〜。ごろごろ‥‥はにゃ〜ん」
 目覚めたファティナに、ほっと胸を撫で下ろすエルリック。
「暫くこうしているで御座るよ。ファティナ殿は、のんびりやすむで御座る」
 エルリックは微笑んだ。


●大理石風呂にて


「うーん、デトックス〜♪ なんか色々染み出している感じね」
 うな〜と大の字に横たわり、麦子はご満悦であった。
 ブラウン基調で、縁どりの黒いビキニが、よく似合っている。

 端っこで、目立たないように、黒夜が寝そべっていた。
 ほかほかに温められた大理石が、じんわりと効いて、汗と共に体の毒気を抜いてくれているようだ。
(へー、水がない風呂ってのも、何か不思議な感じだ)
 肌に汗の玉が浮かぶ。
(帰りはコーヒー牛乳飲みてーな‥‥)
 汗が出るだけ、喉が渇く。

「背中痛くならないかな?」
 絢がやってきて、ごろりと横になった。
「あ、案外大丈夫かも」
 一緒にすみれも横たわる。
 全身から汗がじわ〜っと出てきて、すみれは、胸の谷間や胸下が気持ち悪いと感じ、始終水着を弄っていた。
 視線が、絢の綺麗なボディラインに釘付けである。

「絢ちゃんってば、スタイル良いんだからっ」
「べ、別によくないよ‥‥! すみれちゃんの方がずっといいよ‥‥!」
 あたふたと赤くなる絢。微笑むすみれ。
「ああ‥‥暑いねっ。汗も毒も全部出て行っているみたい。これは、気持ちよくて、とろとろ寝ちゃうかもね」


●お疲れ様でした!


 シャワーを浴びて着替え、レンタル水着やヘアキャップを返却し、皆は施設ロビーに集まった。

 エルリックは、赤ペンで二重丸をつけたメモを、担当者である里延(さとのべ)に手渡した。
 玲二も改めて感想を伝える。
 ソフィアは真面目に評価を伝えた。曰く、ジャグジーの泡の弾力についてである。
「ふわふわでも、もちもちでも構わないけれど、やっぱり泡の当たり心地が良くないとね」

「母さんの故郷では、俺も遂に酒が飲める年齢なんだ〜。お友達はお酒好き多いし、早く日本でも飲酒可能になりたいものだなって思ったよ〜。皆と酒盛りしてる気分で楽しかったよ〜」
 焔も、酒風呂の感想を、里延に伝える。

「ユーカリのアロマ効果は抜群ですね。気分もお肌もスッキリ爽やかになりました!」
 きびきびと常盤が、ハーブ風呂の感想を口にする。
「滝の湯も、邪念払拭、精神統一出来て、良かったです!」

「『ミス・温泉』等を決めて、宣伝に使えないか? 個人メモをとったんだが」
 遼布は、防水メモシートを里延に手渡した。
 そこには、温泉を楽しんでいる女性ベスト3(遼布の私見による)が挙げられていた。

「さすが世界一のお風呂大国、こんな大きな温泉施設は見たことがありませんでしたわ。実家の浴室よりずっと広いんですもの」
 シェリアが施設の規模を褒める。

「有難うございます」
 里延が皆に礼を言い、報酬の入った封筒を銘々に手渡した。
「取材班にも様子を見せていただきましたが、皆様に、存分に楽しんでいただけたようで、全く全く、何よりでございます」

 そして、丁寧にもう一度、礼。

「本当に、有難うございました」


●帰りのバスの中


 ビール。牛乳。珈琲牛乳。ジュース類。冷たいミネラルウォーター。お茶。‥‥などなどが、気前よく振舞われ(未成年はノンアルコールのみ)、バスの中は宴会騒ぎだった。
 その反面、湯疲れしたものも多く、くったりと気持ちよさそうにやすんでいる。

 1日限りの湯治であったが、効果は抜群だったようだ。

「また来たいね」
「そうですね」
 宴会騒ぎの中、何処からか、誰かの呟く声が聞こえた。
「今度は、バイトじゃなくて、遊びにこられたらいいなあ‥‥」


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:22人

銀と金の輪舞曲・
エルリック・R・橋場(ja0112)

大学部4年118組 女 鬼道忍軍
撃退士・
不破 玲二(ja0344)

大学部8年181組 男 インフィルトレイター
Silver fairy・
ファティナ・V・アイゼンブルク(ja0454)

卒業 女 ダアト
封影百手・
月臣 朔羅(ja0820)

卒業 女 鬼道忍軍
踏みしめ征くは修羅の道・
橋場 アイリス(ja1078)

大学部3年304組 女 阿修羅
太陽の魔女・
ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)

大学部4年230組 女 ダアト
夜のへべれけお姉さん・
雀原 麦子(ja1553)

大学部3年80組 女 阿修羅
撃退士・
久遠 仁刀(ja2464)

卒業 男 ルインズブレイド
胸に秘めるは正義か狂気か・
十八 九十七(ja4233)

大学部4年18組 女 インフィルトレイター
聖槍を使いし者・
カタリナ(ja5119)

大学部7年95組 女 ディバインナイト
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
リリカルヴァイオレット・
菊開 すみれ(ja6392)

大学部4年237組 女 インフィルトレイター
時代を動かす男・
赤坂白秋(ja7030)

大学部9年146組 男 インフィルトレイター
常盤先生FC名誉会員・
一条常盤(ja8160)

大学部4年117組 女 ルインズブレイド
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
撃退士・
黒夜(jb0668)

高等部1年1組 女 ナイトウォーカー
闇を斬り裂く龍牙・
蒼桐 遼布(jb2501)

大学部5年230組 男 阿修羅
誓いの槍・
イシュタル(jb2619)

大学部4年275組 女 陰陽師
子鴉の悪魔・
鴉女 絢(jb2708)

大学部2年117組 女 ナイトウォーカー
おまえだけは絶対許さない・
ファラ・エルフィリア(jb3154)

大学部4年284組 女 陰陽師
水華のともだち・
エリーゼ・エインフェリア(jb3364)

大学部3年256組 女 ダアト
絆は距離を超えて・
シェリア・ロウ・ド・ロンド(jb3671)

大学部2年6組 女 ダアト
闇を祓う朱き破魔刀・
織宮 歌乃(jb5789)

大学部3年138組 女 陰陽師
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
久遠ヶ原の砂浜二つ青星・
来栖 蒔菜(jb6376)

大学部3年172組 女 鬼道忍軍