●投票結果発表
それはまるで、選挙の如き光景であった。
或瀬院 由真(
ja1687)、カタリナ(
ja5119)、ギィネシアヌ(
ja5565)、斉凛(
ja6571)、ヨナ(
ja8847)、橘 優希(
jb0497)、白蛇(
jb0889)、八尾師 命(
jb1410)の8名が、各種投票箱に票を入れていく。その結果、以下のように決定した。
施設名:AMPウィンタースフィア(4票獲得)
喫茶店名:スノー・ベル(3票獲得)
浴場名:久遠の湯(5票獲得)
コース別愛称:アリ(概ね5票獲得)
(スキー「チョモランマ」/スノボ「モンブラン」/スケート「バイカル」)
そしてコラボユニットは戦乙女3人組に決定した、のだが。
・ムーンライトヴァルキリー(3票獲得)
・月天三華(3票獲得)
と、同数票になってしまった。園長は考え抜いた末、当人達を呼び、更に意見を聞いた。
「どす恋プロミネンスが、どすプロと略されるのですから、私達もきっと略されるでしょう」
「では、ゲッサンか、ムンヴァル、と略称で呼ばれる可能性が高いわけですね」
「ゲッサンは何だか『毎月三回』や漫画雑誌の略みたいです。呼ばれるのでしたらまだ、ムンヴァルの方が」
そう言えば、そんな雑誌もありますね。
という経緯で、ユニット名は「ムーンライトヴァルキリー(略称ムンヴァル)」に決定した。
●演技指導はびしびしと
「よろしくお願いします。ユニットリーダーの伊勢田かなです」
「さ、佐村たかしです」
どすプロとムンヴァルの初顔合わせが無事に行われる中、思わずもふりたくなるような猫の着ぐるみが現れた。
「こんにちは、ねこ先生です。演技指導を担当させて頂きます。びしびしとやっていきますので、そのつもりでっ」
ねこ先生(中身は由真――あ、中の人なんていませんよね、失礼しました)は、真顔(?)で挨拶をした。
「佐村さん、それに皆さんお久しぶりです。今回”も”私が担当させて頂きますね」
(あのどすプロが、なんと女子に教える側になるとは‥‥人は成長するものですね)
既にどすプロのいちファンとなっているカタリナが、佐村たかしと握手を交わす。
「よろしくですよ〜」
命がのんびりした口調で挨拶し、皆に頭を下げた。
いよいよ企画会議が始まる。
「演目としては子供向けのヒーローショウ、大人向けのライブを考えていますよ〜。子供向けの方はどす恋が、大人向けはムンヴァルがメインですね〜」
命がホワイトボードに書き出した。
「何はともあれ、まずは基礎的なものから覚えていきましょう」
用意してきた子供向けヒーローショーの動画を、園長に借りたポータブルDVDプレイヤーで再生し、皆で観賞して「客への魅せ方」を学ばせる、ねこ先生。
「基本的な立ち回りを確りと覚えてくださいねっ」
何度もリピート再生をかけて、経験の少ないムンヴァルに基本動作を叩き込む。
「AMPウィンタースフィアのテーマ曲を作ってきました。如何でしょうか?」
動画の鑑賞が終わると、続いてカタリナが音楽を流す。
J−POP的な軽さと、クリスマスやウインタースポーツ施設に合うような、ケルト調の落ち着いた美しさを融合した曲が流れる。どすプロの相撲体型を活かす意図か、和楽の旋律も取り込まれていた。
「意外かもしれませんが、和楽とケルティックは相性がいいと思うのです」
カタリナは微笑んで、用意してきた楽器を施設スタッフに運ばせ、ユニットメンバーにあてがった。
「BGMだけでは寂しいでしょう。最初はフリだけでもいいですが、いずれ演奏まで出来ると面白くなると思います。あ、佐村さん、楽器ができる男性はモテますよ?」
ムンヴァルにハープを、どすプロに和太鼓を勧め、カタリナは丁寧に音出しから教え始めた。
「そうですね〜。演奏については、一朝一夕でできるものでもないので、初めのうちは演奏しているふりみたいな形で音楽を流して、ある程度慣れてきたら本物に変えていくという形はいいと思います〜」
命がカタリナの意見に賛成し、おっとりと続ける。
「大人向けのショウとして、ムンヴァルがJ−POP系を中心にした歌と振付を、どす恋はそれに合わせてダンスを踊ったり楽器を演奏したりする感じもいいですね〜。私は、バク転や宙返り等のダイナミックな動きを取り入れては、と考えていますが、怪我をしてもいけませんので、もっと安全なものがいいでしょうか〜?」
命に心配されるが、どすプロは俄然やる気になっていた。これでも学園所属の撃退士である。そして、遊園地の方で、ショウの経験もかなり積んでいる。
問題は。
「バク転や宙返りは普通にできるんですが、ステージ衣装が着流しなので、チラっといやーんな見苦しいショウにならないかが、心配です」
たかしの言うとおり、相撲体型の男子のチラリズムって、誰得なんでしょう。
という訳で、バク転案は却下された。
「続いて、子供向けショウの概要をまとめましょうか〜。ムンヴァルが最初に悪の組織と戦闘を行い、途中で観客の子供がボスに人質として取られて舞台上にあがらせられ、ピンチ到来という感じです〜。そして颯爽とどす恋が助けに駆けつけ、後は共同戦線と合体必殺技でボスを撃破。子供向けの主題歌を歌っておしまい、という流れを考えてきましたよ〜」
命の言葉に続き、カタリナがホワイトボードにきゅっきゅとアイデアを書き込んだ。
ボス「おい、ごはんは食べたのか?」
(子供の反応で以下の選択肢が分岐する)
A:ボス「ほう、喫茶スノー・ベルで食べたのか、
数量限定の日替わりホワイトセットは美味かっただろうな!
勿論、残さず食べたのだろうな?」
B:ボス「何ィ、喫茶スノー・ベルで食わなかっただと!?
そんな子は、こうしてくれる!」
「‥‥など、露骨な宣伝をジョーク代わりに挟むというのも、いいかも知れません。あと休憩時には積極的に喫茶店を利用して、お客様と触れ合う機会を設けましょうよ。佐村さん、女子にサインをねだられるかも知れませんよ?」
カタリナさん、色々とお上手です。
ショウの流れが決まったところで、ねこ先生の演技指導が始まった。
「そろそろ、ケレン味のある動きを学んでいきましょうか。要は、決めポーズとか無駄に大仰でカッコイイ動きとかですね」
まずはどすプロに、模範演技を見せてもらう。不純な動機で結成された過去があるとは言え、今では遊園地のチビッコにモテまくるバイトヒーローである。天魔なにそれ美味しいの、くらいの勢いで毎日バイトに精を出し続け、経験と訓練を積んで、今や見違える程立派なバイトヒーローになっていた。ねこ先生もビックリである。
「素晴らしいです! ご褒美に、肉球の頬ぷにをしてあげましょう」
どすプロ3人組は、ねこ先生から存分に頬ぷにされ、とても満足そうであった。
一方、結成されたばかりのムンヴァルが、不安そうに佇んでいる。
「見得を切るという行為は、メリハリが重要です。こう、大きく動いて――ビシッと止めた瞬間に睨む様に視線を向ける。この視線の向け方とタイミングを覚えて下さい。先ほどのどすプロの演技も参考になりますよ」
魔具を用いて、ビシッと決めポーズの手本を見せる、ねこ先生。
着ぐるみなので、視線がどこへ向いているのかイマイチわからないが、ムンヴァル3人組は頑張って、ねこ先生の指導に応えた。
(先に動画を見ておいてよかったです)
こそりと心の中で呟き、視線の向け方を思い起こすムンヴァル3人組。
なかなか、思うようにうまくいかない。自分では決めポースをとっているつもりでも、メリハリが無いと言われたり、動きがカッコよくないと言われたり、ねこ先生の指導は厳しかった。
「上手く出来たら、ご褒美に、先生を好きなだけもふることを許します」
●一方、料理指導班
「食というのは人間の根源的な欲求に働きかけるものだ。適当ではダメだ。遊び疲れて小腹が空いた時、ここで食べてまた遊びに全力を出せる‥‥ッ! という訳で、魔族(設定)的にも人気が出るようなものを考えてやる、デザートは俺に任せるのぜ!」
くわっとギィネシアヌが拳を握った。クリスマス開園準備とのことで、ミニスカサンタの格好に、汚れ防止用の前掛けエプロンをつけている。同じくミニスカサンタ姿の白蛇様がうむうむと頷いた。
「わしは麺類担当じゃな」
「元プロのメイドの意地で、完璧な仕事を目指しますわ」
メイド姿の凛がおっとりと微笑を浮かべ、用意してきた接客マニュアルを取り出した。
「こういう事は段取りが大切なんですわ。きっちりしたシステムがあれば、スムーズな接客が出来ますの」
食券式の導入を提案。食券をカウンター(買い間違い対応レジ有)に持っていき、番号札と交換。料理が出来次第、番号で呼び出す形式。食べ終わった後の食器は返却口へセルフ返却、席に残された場合は速やかに店員がさげて席を空ける。こまめにテーブル及び椅子を清掃。
食品は営業時間前から少し多めに用意し、売り切れたメニューは終了とする。注文を受けたら盛る、温めなおす、麺をゆがく等、極力手間をなくし、スピーディな提供を心がける。
おおー。マニュアルに目を通した皆が賞賛する。
「汁物・粥・雑炊はそれぞれ調理用大なべに一つずつ作っておき、予備の材料は全てカットし、茹でてから冷蔵庫で保管、不足したら随時追加できるようにしておくわ。おにぎりは味ごとに100個ずつ握って、保温装置行きね。こちらも足りなくなったら随時握るわよ! ただし海苔だけはカットしておいて出すときに巻くようにするの、どうかしら?」
ヨナがオネエ言葉で補足した。
「あと飲み物だけど、サイズはSMLとして、ノンアルコールカクテルは、リンゴ・オレンジ等の果物ジュースを炭酸系(ジンジャーエール等)で割ったやつとかでいいのかしら? アクセント用にカットオレンジや缶のサクランボを乗っけてあげるのもいいかもね。あと、珈琲やココアは砂糖とミルクの調節ができるように、そうねえ、食券方式にするなら、砂糖とミルクを無・少量(一杯)・中量(2杯)・大量(3杯)程度に分けて選べるようにして、ささっと作れるようにするのがいいんじゃない?」
さらさらと優希が、皆で絞り込んだメニューを書き出していく。
『珈琲、カフェオレ、珈琲牛乳。カップルジュース。ノンアルコールビール、ノンアルコールカクテル、甘さやトッピングが選べるココア、天ざる、パン、パスタ、カレー。ミネストローネ、豚汁、おにぎり、温かい蕎麦やうどん、雑炊、粒あんとこしあん両方を用意した和菓子、お子様ランチ、ベジタリアン用メニュー、施設型チョコケーキ、シチュー、日替わりホワイトセット。施設型チョコケーキと日替わりホワイトセットは一日限定100食まで』
「結構すごいね。並みのレストランより揃っているかも‥‥」
「ふむ。『食堂利用客が、施設も利用する』という考え方も世の中にはある。人の子は食い意地が張っておるからな」
優希の呟きに、うむうむと白蛇様が反応する。
「園長殿、この拘りを上手く宣伝に使うと良い。場合によっては食堂施設拡充の必要もあるやもしれぬが」
そして、担当の麺類の調整に取り掛かる白蛇様。
既に地の文でも様付けが定着しています。
「ここは専門店ではないがゆえ、職人技を披露しろとは言わぬ。が、時間を時計で管理、厳守し、一定水準を維持するのじゃぞ。幸い施設内の温湿度は一定、時期によって茹で時間が変わる事も無い。じゃが念の為、毎日開店前に一度試しに茹で、麺の味や茹で加減を確認するのじゃ。信頼できる製麺所でも、人の子に失敗は付きもの故」
白蛇様がてきぱきと指示を出す。実際に茹で時間を測り、秒単位で誤差を縮める。
「具の山菜やとろろ、油揚げ等も見てみよう。橘殿、天ぷらはどうじゃ?」
「それなんだけど、揚げておいて保温するとへにゃってなるし、味も落ちるんだよ。寧ろ、火の通りの良い具だけを選んで、直前まで冷やしておいて、さっと揚げて出したらどうかな?」
子供の頃から料理をしていた経験を活かし、おっとりと提案する優希。ふむ、と唸る白蛇様であった。
天ぷらの件と並行して、優希は日替わりホワイトセットに拘り抜き、徹底的に美味しい組み合わせを考え、試作しては悩んでいた。
「多くの人に満足してもらえる味、って考えると、難しいものだね。たくさんの人が食事もスポーツも楽しんでくれるといいな」
一方、ギィネシアヌは園長や食堂管理者と真剣な打ち合わせをし終えたところであった。
「アイスはコーンかカップを選べるようにしたのぜ。そして俺的に拘り抜いたのがこのスプーン案だ! プラスチック製で、ここオリジナルのデザイン! 柄にV兵器の絵が彫ってあって、お土産にもなるような見た目なんだぜ。俺もこれなら欲しいと思えるデザインに仕上げられそうだ」
満足した様子でギィネシアヌはスプーンデザイン案のスケッチを見せた。
「施設型チョコケーキは大量にストックを作るよりも、高級感を煽って、個数限定として宣伝したらいいのぜ。100食は微妙な数字だな。もっと減らしてもイイかも知れん」
メニューをチェックし、細かく赤を入れていく。
「これは案なのだが、アイスやチョコレートケーキにはトッピングで、ソースや場合によってはシロップを追加購入出来るといい。ベリー系とかオレンジ系、アイス用には変わり種として、塩キャラメルやバルサミコ酢とかな。和菓子も日持ちは余りしないだろうし、沢山は要らないと思う。ただ、外見には力を入れるべきだぜ。最中の皮にカッコイイ焼印を入れるとか」
大方決まったところで、皆、ステージの見えるガラス張りの観覧席に移動し、おひとり様席、カップル席などから、演技指導班の様子を見守った。
「どす恋とムンヴァルに喫茶店で休憩して貰えねーかな? 接客はともかく、サインくらいはして欲しいのぜ。それに、きっと遠目からでもアイドルと一緒は嬉しい筈だ、少なくとも俺準拠ではな」
ギィネシアヌは呟いた。ヨナが「そうねえ」と同意する。
(‥‥べ、別にああいう年上の女性が好みとか、そういうのはないから‥‥うん)
何故か優希が少し顔を赤らめて自分に言い聞かせていた。
●いよいよ開園!
「いらっしゃいませ! AMPウィンタースフィアへようこそ!」
凛が優しく、しかしきびきびとスタッフ達に接客指導した成果が早速あらわれた。凛自身は開店前から厨房にこもり、仕込み段階で念入りにメニューをチェックしていた。
「美味しくできましたわ。これでよし」
ミニスカサンタ姿の白蛇様とギィネシアヌが人員整理を行わなければいけないほど、施設は満員御礼状態。コラボステージの受けも良く、何より、喫茶店のレベルの高さが評判となった。
「クリスマスに間に合いました。有難うございます」
園長が皆に、何度も頭を下げた。