●先ずはお客になってみよう
テキパキと皆をアミューズメントパークに案内し、自身は喫茶店で自習待機するつもりだったアリス・シキ(jz0058)だが、星杜 焔(
ja5378)が「はい、シキさんのエスコート、鈴代くんにお任せ〜」と、恋人を目の前にいきなり引っ張り出したので、驚いて両目をパチクリさせた。
「せ、先日はごめんね。今日は遊園地、楽しもうね」
恋人――鈴代 征治(
ja1305)はそう言うとアリスに手を差し出した。
「うむうむ、久しぶりのデートである! 今日は沙耶さんを思い切り楽しませたいであるな」
樋渡・沙耶(
ja0770)をさりげなくエスコートする麻生 遊夜(
ja1838)。
清楚系森ガールな出で立ちの雪成 藤花(
ja0292)を「今日は一段と可愛いねえ〜」と目を細めて褒める焔。
9月10日に誕生日を迎える獅堂 遥(
ja0190)は、想いを寄せる久遠 仁刀(
ja2464)と共に参加していた。仁刀は、少し高級な洋菓子を「ルカ、誕生日プレゼントだ」と、どことなく素っ気なく手渡す。遥は嬉しそうに、本当に嬉しそうに、受け取った。
「まずは普通に楽しんでみましょう。そこで気になった場所をお客様も気にする筈です」
カタリナ(
ja5119)の提案に、恋人の権現堂 幸桜(
ja3264)が、「よし! リナと二人で頑張ってまた来たいって思えるような楽しい遊園地にするぞ♪」と気合を入れた。
手に手をとって入園していくカップル達、一部例外あり。
(いつになったら、手を取ってくれるのかな?)
手を差し出したまま、じっと待つ征治。
アリスは、恥ずかしそうに俯いて、征治の学ランの裾をつまんだ。
●第1部:デート編
「大きいですね」
「うん、そうだね〜」
「でも、何とかなりそうですね」
焔と藤花が早速レストランで、ハニトに挑戦している。食べ盛りの2人には、さほど苦戦する量ではない。味付けも、飽きが来ない程度の甘さに控えてあり、寧ろ賞品の限定Tシャツを広めて欲しいという意図が見え隠れしていた。
「時間制限を外せば、はいあ〜んとか、やる余裕もあるんじゃないのかな〜?」
「ファミリー向けも欲しいところですね」
「‥‥ぼっち向けもね〜」
焔が何だか遠い目をした。
場所はゲームセンター。
遥はぬいぐるみキャッチゲームの前で、テンションマックスではしゃいでいた。
「そっちの大きいの、それですよ! それが欲しいんです」
仁刀が苦戦して、漸く目的の大きなぬいぐるみをゲットする。「ありがとうございますっ!」と嬉しそうに頭を下げる遥。
(誕生日くらい、ワガママ言ってもいいよね?)
切ない想いを笑顔で隠し、「次は何処にいきましょうか!」と遥は仁刀に微笑みかけた。
両親に二度と乗るなと言い聞かされている乗物――絶叫マシンから降りた沙耶は、ブツブツと罵詈雑言をつぶやいていた。
「どした、沙耶‥‥さん?」
沙耶の様子をハラハラしつつ見守る遊夜。ジュースの自販機へ行き、面白そうな(!)飲み物を買ってきて、ぺたりと沙耶の額へくっつける。
「‥‥冷たっ!」
思わずおでこを押さえる沙耶。
「ん、落ち着いたかね?」
恋人の頭をポンポンして、隣に座る遊夜。プシュッと缶を開けると、ミョウガの香りが濃厚に漂ってきた。(!?)
引きつった笑顔のまま、カタリナ&幸桜コンビがやはり絶叫マシンから降りてくる。
「これは、説明、いります、よね?」
別の意味での恐怖を味わったカタリナが、肩を上下に震わせていた。
藤花と焔、遊夜と沙耶、幸桜&カタリナはお化け屋敷に向かった。
多くはがっつりコースを選択、幸桜&カタリナは両方を体験してみた。
焔に手を引かれながら怯えつつ挑戦する藤花。
「ここはやはり、ガッツリコースで!」
非力と断言する恋人を守りつつ挑む遊夜。お化けは平気だが、ドッキリには弱い。
「大丈夫です、か‥‥?」
平気なフリをして、しっかり遊夜の服の裾を掴みながら歩く沙耶。
「無問題ぜよ」
強がる遊夜の声が、震えていた。
「マイルドもがっつりも面白かったです♪ 思ったよりも仕掛けが一杯で‥‥でも、同じ仕掛けで同じコースだとやっぱり飽きるのかな?」
幸桜は、自分の腕にしがみついているカタリナを見て、気づかれないように微笑した。
(リナが強がって「こ、怖くなんてないです!」って言いはっているのが可愛いなぁ‥‥)
休憩を挟んで、2人はそのまま忍者屋敷へ。
こちらもまた、工夫された仕掛けがいっぱいで、楽しかった。
あとから、遊夜&沙耶も混ざる。遊夜はクスクス笑いながら、童心に返って楽しんでいた。
「ロマンが尽きないねぇ、こういうのは」
しかし、恋人である沙耶の手は決して離さない、実に男らしい遊夜であった。
忍者屋敷を堪能し、コスプレ写真会場へ。
某アニメの、白いプラグスーツをじぃっと見つめる沙耶。
(もしかして‥‥似てるのを気にしてるのかな? ‥‥そんなに気にしなくて良いと思うんだけどなぁ)
遊夜は敢えて口には出さずに見守っていた。
いよいよ音楽が流れ出し、「どす恋プロミネンス」のヒーローショウが始まった。
仕事モードで見つめるカタリナ。
「さて、一度しっかり見せていただきましょう」
ショウが始まる前に、慌てて駆け寄る遊夜。
「知り合いの娘が熱狂的なファンでして、是非サインをお願いします!」
金ピカスパンコールの「どす恋プロミネンス」は、すっかり垢抜けていい役者に育っていた。テーマ曲の作者としても、プロデュース経験者としても、カタリナの胸に熱いものが宿る。
「‥‥いくらか案が浮かびました」
新曲のイメージが湧いたらしい。すぐにメモ帳を取り出し、書きつける。
幸桜は「どす恋プロミネンス」メンバーと、記念撮影をしていた。
いよいよ、ライトアップされた観覧車へ。
「夜の観覧車は綺麗ですよ」
遥が仁刀をぬいぐるみごと押し込む。2人きりになったところで、遥が口火を切った。
「ごめんなさい。でもこういうの憧れだったから‥‥あ、あの、叶わないまま終わってしまうのって辛いですよね。伝えられないまま終わって悲しかった。だからあの時は本当に嬉しかった。今日の最後のお願いです、目を‥‥閉じて下さい」
肘をつき、外を見ている仁刀に、泣きすがる遥。
「‥‥ルカ。ルカの事は後輩として気にかけてはいるが、それを越えた関係は望まない。こんな場でとは思うが、場に流された答えは不幸だろう‥‥告白はしっかり聞くが、その上で想いは受け入れられないと答えておく」
ゴンドラが地面に到着する。遥は光纏し、瞬華で追う間も与えず泣きながら去った。
「さよなら、先輩。先輩の事が大好きです」
その声だけが、残った。
「あ、ハートライトアップ見つけましたよ!」
「え、どこどこ〜?」
観覧車から外を覗き込む、焔と藤花。
「‥‥焔先輩のこと、大好きです」
「うん、俺も‥‥」
2人きりのゴンドラで、そっとキスを交わす。
あちこち回って最後の締め。観覧車に遊夜たちも乗っていた。
「お誘い、有難う、ございまし、た」
沙耶がいつもの調子で御礼を述べる。
「ん、楽しんでくれたのなら何よりさ。どうだったかね?」
「ええ‥‥正直に、言います、が‥‥」
沙耶の口から、ありとあらゆるダメ出しが流れ出た。
主に、遊園地のアトラクションに関して。
●第2部:改善点をまとめよう!
その日は大方がデート気分で帰宅し、翌日再び集まって、改善点の提案を行うこととなった。
同意見なども多くあったため、皆の意見をまとめて園長に提出する。
1)カオスレート(辛さ)を選べる「天魔カレー」の導入。大天使(超甘)から悪魔長(激辛)まで選べる。子供でも食べられ、アレンジで大人向けにもなる、焔の開発した秘伝の絶品カレー。
2)男性客向けに、対決物を準備し、来園し易い状況を作る。
3)ゆるキャラマスコットのデザインと名前を公募し、グッズ展開も視野に入れる。着ぐるみを着て風船配りなども。
4)来場記念ストラップの種類を増やして(どすプロ、ゆるキャラ、食べ物の柄など)、規定回数を減らし(5本程度?)、リピート回数が少なくても乗り放題チケットを貰えるように改善。
5)リピーターのお子様向け記念品の提案。
6)スタンプラリーの特典に『ヒーローショーの飛び入り参加権、記念アクセサリのプレゼント』という、恋人を助けに行くタイプのヒロイックファンタジーな要素を加えてみるのは?
7)観覧車から見えるライトアップは日替わりにして、夕方からの割安入場券を販売する。
8)純粋なスリルを味わえる絶叫系もあるといい。急降下やループ系など。「あの」絶叫マシンは「安全である」という仕様をしっかり説明し、危険さのウリは1つで十分。
9)迷路のほうにもカップル・ペア向けに、協力して解いていく謎々みたいなものがあると良い。達成したら割引券とかの特典があると尚良し。
10)忍者屋敷に、おもしろ仕掛けマップというのを作成。無意味でも面白い仕掛けを増やしてもらい、それを探す楽しみを増やす。毎月コースが変更になるようにすると更に面白いかも? 途中のチェックポイントを全てまわると忍者屋敷オリジナルのストラップが貰える。
11)お化け屋敷は飽きが来るので、リピーター狙いでガンシューティング要素をつけてみる。お化けに的をつけて、当たれば点数が入る。一瞬しか出ないようなレアお化けもアリ? スコアは最後に見られて、毎月の順位とかも出す。これなら、カップルも家族もぼっち様も楽しめるのでは!
12)子供向けのメニューの追加。お子様ランチA(ミニオムライスとおかず少量ずつ栄養バランス良く)、お子様ランチB(野菜スープベースのコク深く栄養満点甘口カレー+ハンバーグやから揚げ等メイン具選択式、Aと使いまわせるもの)
13)ハニトは時間制限なしの小さめサイズがあっても良い。
14)客層ターゲットに「ぼっち様」もいれて欲しい。デートの下見などに1人で来る可能性がある。
15)「どす恋プロミネンス」はショウだけでなく、グッズやスタンプなどの展開も企画する。
以上がモニターからの意見として、遊園地側に提案された。
●第3部:新しいショウが始まる
カタリナが、ばーんと大発表をした。
「新しいショウの概要が決まりました!」
この時のために作られた新曲、事件パート『危機〜Crisis〜』及び解決パート『英雄〜Heroes〜』が披露される。
「今から演出は私がします。あ、女性陣の皆さんちょっと‥‥練習台に‥‥」
ごそごそ、もにょもにょ。
「え! そんなことをなさるんですの!?」
混ぜ込まれたアリスが顔を赤くする。
一体、何を仕込もうとしているのか。
舞台が幕を開け、『危機〜Crisis〜』が流れ始める。
女性を攫った悪役天魔相手に苦戦する「どす恋プロミネンス」メンバーたち。
カタリナの指示通り、客席に向かって、「さあ、ヒロイン達よ! 恋人の名を呼び、助けを乞うのです!」と叫ぶ、リーダーの佐村たかし。
「我々だけではあの天魔にはかなわない! 愛のチカラで、早く!!」
「助けて、幸桜〜!」
自身も囚われの身を引き受けたカタリナが、真っ先に叫んだ。
幸桜が舞台に飛び乗り、恋人の危機を切欠に、アウルに目覚めるという設定だ。
そして「どす恋プロミネンス」と共に悪役天魔と戦い、逆転する撃退士的な演出を見せる。
拍手があがった。
あがったが。
「‥‥」
カタリナに続いて、恋人の名を呼ぼうという者がいない。
舞台の上から彼氏の名を呼ぶのが、こんなに恥ずかしいとは。
「私はやりましたよ? さあ、照れながらでいいから、叫ぶのです! 寧ろ照れるがいいさ!」
しゃあしゃあと言ってのけるカタリナ。
「くっ‥‥久遠先輩、助けてー!」
「たすけて、焔先輩‥‥っ!」
焔は光纏し、藤花を助けに舞台に飛び乗った。過去に眼前で妹的存在がやられているためか、真に迫る演技をみせる。光翼で護り小天使の翼で退避し、彼女救出完了である。
仁刀はそこまでの演技はせず、さらりと遥を救出して終わった。
「‥‥‥遊夜、さん‥‥‥」
大声こそ出さなかったものの、沙耶も恋人の名を何とか口にする。
「沙耶さんを、返してもらおうか‥‥!」
無事に、颯爽と舞台にあがった遊夜に助けられていった。
1人、ぽつねんと残っているお茶汲みバイトがいる。この状況下で1人残されるのも、ツライものがある。
「せ、征治‥‥さん」
漸くおろおろと絞り出したアリスの声に、臆面もなく反応して、精一杯の殺陣で盛り上げ、舞台から恋人を助け出す征治。
曲が変わり、解決パートの新曲『英雄〜Heroes〜』が流れ出す。
うんうん、頑張った。みんな、照れと戦いながら、頑張ったよ。
でもこの舞台、そのうち、爆弾投げ込まれませんかね?
●後日譚
幸桜がネット系SNSで「遊園地が改装オープンしたけど面白いよ」と流した成果もあるのか、少しずつではあるが、遊園地に客が戻ってきた。
皆が話し合ってまとめたとおり、お化け屋敷は「ガンシューティングホーンテッドハウス」と名称も内容もごっそりと変えられた。
協力者がいないと解けない植え込み迷路、ぼっち専用のアトラクション。そこかしこにスタンプが隠されていて、自力で見つけてスタンプ帳を埋めないといけないスタンプリレー。
イルミネーションも日替わりで電飾の色が変わるように変更され、レストランには子供用のメニューや椅子も揃えられた。
意外だったのは、「ゆるキャラ」を募集したハズなのに、「ゆるい萌えキャラ」が大量に応募されてきたことである。ちょっと、Tシャツにして売るには恥ずかしい絵柄がどんどん集まってくる。
これが今の時勢なのか、と園長は頭を抱えていた。
「何だかんだで面白かったですし、またいつか、行きたいですね。今度はモニターではなく、お客さんとして‥‥」
藤花は焔に微笑んでみせた。
「今回は楽しめましたか、アリスさん?」
アトラクションを一つずつ説明し、感想を聞きながら回っていた征治が尋ねる。
「はいっ。有難うございました。遊園地ってとても楽しいところだったんですのね」
心からの笑顔で応えるアリス。
結局、殆ど手は繋げなかった‥‥あ、カタリナ提案の新舞台で一瞬だけ繋いだか。
(恋人つなぎ、したかったな。でもアリスがこんなに楽しんでくれたから、いいかな?)
まあ、のんびりやりましょうか。
征治は楽しそうなアリスを見て、自然と顔をほころばせた。