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マスター:神子月弓
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:14人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2017/01/02


みんなの思い出



オープニング




「クリスマス間近なのですー!」

 全学部合同の図画工作タイム。
 美術実技専任教師・マリカ(jz0034)は、楽しいイベントが近づいてくると考え、うずうずしていた。

「今年は、最寄りの老人会のパーティの飾り付けを任されたのです! この授業で、素敵なオーナメントを皆さんに作って欲しーのです!」


 最寄りの老人会。それは、フェリーで本州に渡ったところにある、最寄り町の老人会だ。
 久遠ヶ原島でオーナメントを作り、フェリーを使って持ち込み、飾り付けまで学生が担当する。

「まずは、クリスマスリースですー!」

 \ばーん/

 マリカせんせーは、様々な大きさ・材質のリースの見本を、箱から取り出して見せる。

「そして、30mのモミの木に飾り付ける、オーナメントですー!」

 \ばーん/

 続いて、箱から様々なオーナメント見本を取り出して見せる。
 こちらも、材質から形から、何でもありのようだった。

「こちらの箱の見本ではまだまだ足りないので、皆さんに頑張って作って欲しーのですー」

 材料費は授業なので、かからない。
 だが、例えば純金など、学費から捻出できないほど高額な材料は、使えないので要注意だ。

「老人会のクリスマスパーティに間に合わせるのですー、皆さんファイトなのですー!」

 マリカせんせーはにこにこしながら、授業に参加している学生たちを見回した。


リプレイ本文




 授業に参加した学生たちを見ながら、マリカせんせー(jz0034)はにこにこしていた。

「いーですかー、これは老人会のパーティに使うオーナメントなのですー。ですから、ご老人の皆さんが喜ぶようなものを作ってくれた人に、高得点をあげちゃいまーす!」

 今回の隠しミッションは、これだったらしい。

「高得点を得るには、斬新なデザイン、且つ、細やかな作り、とだけ、事前に発表してましたがー、パーティに来る人のことも考えてもらえたら、更に加点しちゃうのですー」


 \そんなの聞いてないよ!/

 思わず、学生たちがざわめく。

 マリカせんせーは、にこにこ笑顔のまま、言い切った。

「これは授業なのですー。せんせーの意図をどこまで読み解けるかは、いっぱい危険な依頼をこなしてきた皆さんになら、可能なはずなのですー」

 さあ、パーティでご老人たちが喜ぶ顔を思い浮かべながら、製作スタートなのですー!

 マリカせんせーは、そう言ってパンと手を叩いた。図画工作の授業の開始の合図である。





「あたいはさいきょーのオーナメントを作るよ!」

 雪室 チルル(ja0220)は、青くて透明なアクリル板に、雪の結晶の形を描き始めていた。

「きっとご老人たちも、綺麗な雪の結晶を見たいはずよ!」

 雪の結晶は複雑な形をしており、正確に描きとるのはなかなか難しい。しかしチルルは頑張って、定規やコンパスを駆使して格闘していた。

「よぉし、ここからは撃退士らしく、豪快に削るよ!」

 ヒヒイロカネからV兵器を取り出し、まさしく豪快に切り出し始めるチルル。
 V兵器に流し込むあうるの量を調整しながら、まずは粗く切り出し、そして細部へと移っていく。

「本来なら、専用の工具を使うんだけど、ぜったいにこっちのほうが撃退士らしいよね!」

 V兵器を用途にあわせて入れ替えながら、アクリル板から慎重に、雪の結晶を切り出していく。
 切り出した結晶を吹くと、アクリル屑が舞った。

「ここからは磨きをかけるわよ! うんと丁寧に磨いて、つるつるのピカピカにするんだから!」

 切断面に丁寧にやすりをかけたあと、研磨剤と研磨材を使い分けながら、ひたすらに全体を磨き上げるチルル。

「それにしても、撃退士の武器で日曜大工とか、たまげたなあ。V兵器に不可能はないわね!」





 龍崎海(ja0565)は、せんせーに「食用金箔と銀箔は使えますか?」と尋ねていた。

「少しですがありますよー、皆さんで譲り合って使ってほしーのですー」

 せんせーは用意してあった食用金箔・銀箔の小瓶を工作机に並べる。各色食紅もついでに並ぶ。

「飴細工用の道具があるなら、これで指先ほどの大きさの、立体的な星――金平糖みたいな形の飴を沢山作ろうかな」

 飴細工の基礎をせんせーに教わり、海は製作に取り掛かった。


「飴細工は‥‥死傷者が出る可能性があるから、却下では? 特にご高齢だと」

 何を作ろうか迷っていた雫(ja1894)が、海に指摘する。

「うーん、このサイズなら喉に詰めることもないと思うけどなあ。危ないかな?」
「でも、歳を重ねると、唾液が出にくくなるらしく、ご老人はよく飴を持ち歩いていますよね」

 フレデリカ・V・ベルゲンハルト(jb2877)が、不安そうな海の背を押す。
 雫はその言葉に、考え込んだ。

「もう少し小粒にして、喉に詰めにくいように改良したらいいかな?」
 海は、授業時間の大半をつぎ込んで、小粒の金平糖もどきを作り始める。


 出来上がった、金銀・淡い赤青緑の金平糖もどきを、丸いプラスチックケースに半分ほど詰め、蓋をして、球体の上のほうを、クリスマスカラーの3色の毛糸でくるくる巻いて接着し、帽子のように見せかける。

「せんせー、出来ました。これをツリーに飾りたいと思います。終わったらお土産にして持って帰ってもらいます。飴だから食べればいいと思うし、邪魔にはならないかなと思います」

 そう言って海は、金平糖もどき飴入りのカプセルオーナメントを、パーティに参加する老人たち全員の人数分を完成させ、提出した。





「さて、何を作りましょうか‥‥」
 雫は自分の席につくと、考え込んでいた。
「絵は‥‥人様に見せられる画力が無いから駄目ですね」

「‥‥ご老人‥‥日本家屋‥‥欄間! そうですね、欄間に彫刻を彫りましょう」

 彫り始める前に、授業用に貸し出されたタブレットで、欄間の大きさを確認してみる。

 京間(本間)、中京間、江戸間(真間)で、大きさの規格が違うようだ。
 更に、正式な和室では、様式によって欄間の規格が違うケースもあるという。

「‥‥どの規格で彫るか、そこが問題ですね‥‥」

 クリスマスらしい図案は考えついている。
 サンタクロースとトナカイを精密に再現した物にするつもりだった。

「‥‥よく考えたら、和室のある一軒家を持っている人以外には、無駄になりますね」

 欄間製作はサイズの問題で、企画段階から暗礁に乗り上げた。
 雫は悩みに悩んだ末、欄間を彫ることを諦めた。

「路線を変更しましょう。皆さんの長寿を願って、伊勢海老を精密に彫り上げ、リアルに塗装を行うことにします。脚や触覚が動くように細工を施すのもいいですね」

 まるで何処かの有名カニ料理専門店の看板のようだが、雫は構わずに設計図を引き始めた。

(ここにモーターと配線を施して‥‥これでいけそうですね)

 設計図が完成すると、早速伊勢海老を彫り始める。

「やはり刃物を常日頃から使っているせいか、出来の良い物が出来上がりそうですね」

 雫は口元に微かな笑みを浮かべた。





 佐藤 としお(ja2489)は、直径15cm程度の透明なガラス球を用意し、ひとつひとつに豆電球を仕込んでいた。

「上手く出来るかな?」

 自分たちを含め、老人会のパーティ参加者全員分を用意する。

「光る風鈴みたいだけれど、これは何をするものなのかな?」

 休憩をとっていた黄昏ひりょ(jb3452)が、としおの前で足を止め、尋ねる。

「うん、当日、全員の笑顔の写真を撮ってね、ガラス球の中に下げて、豆電球で光らせるつもりなんだ。皆の笑顔が照らし出される、ガラス球のオーナメントになるかなって。パーティが済んだらお土産として希望者に進呈すればいいしね」

 としおは楽しそうに豆電球の配線を仕込み続けている。

 そこへマリカせんせーもやってきた。
「光源は写真の後ろになるんですー? なんか、怖い写真になっちゃわないでしょうか?」

 試しに、マリカせんせーの顔をデジカメで撮り、その場でプリントして、ガラス球に入れてみる。

「うわ、陰影が‥‥ちょっと、ホラーだね」
 ひりょが口の端をひきつらせた。

「あと、ご老人の中には、お写真を嫌がる人も多いみたいですよー。老いた自分を見せつけられる感じがしちゃうんでしょーねー」

(しかも、若くてぴちぴちな学生さんの写真と並べられると‥‥複雑な気持ちになりそうですー)

 マリカせんせーはそこまでは言わずに、心の中で続きを呟いた。

「ああ‥‥そこまでは考えて無かったです。確かに、客観的に老けた自分の顔を見せられるのは、ご老人には不愉快なものかもしれないですね」

 としおは、写真の代わりに、綺麗な千代紙を入れることにした。





 浪風 悠人(ja3452)は、妻、浪風 威鈴(ja8371)と同じ工作机で、粘土をこねていた。

「先生って思い立ったら吉日な人ですよね」
 芯材となる新聞紙を丸めながら、悠人は通りがかったマリカせんせーに声をかけた。

「ふふ、褒め言葉と受け取っておくのですー」
 せんせーはマイペースに微笑んだ。

「オーナ‥‥メント‥‥何でも‥‥良い‥‥のかな」

 妻、威鈴は不安そうに言いながら、やたらとリアルな動物たちの木彫り細工を作っていた。
 熊・シマリス・猪・トナカイーーまるで生きているような、見事な細工。躍動感もあり、素晴らしい出来栄えだ。

「せんせ‥‥まだ、木‥‥ある?」
「ありますよー、どんどん作ってくださいですー」

 大小と2つ丸めた新聞紙にそれぞれ粘土を貼り付け、乾くのを待っている間に豆電球の配線とスイッチを細工する悠人。

 そんな夫を、いや、夫の本体(眼鏡)をじぃっと見つめる妻。

「コレ‥‥作る‥‥」

 木材を彫り始め、威鈴は眼鏡のオーナメントを作成し始めた。
 羽根の生えた眼鏡・ボロボロになった眼鏡・神々しくしてる眼鏡‥‥神々しい眼鏡ってどんなでしょうか?
 とにかく、腕をふるって、訳の分からない眼鏡オーナメントをせっせと作り続ける威鈴。


「すごい本格的だなあ」

 同じく、眼鏡のオーナメントを作っていたひりょが、威鈴の木彫りの眼鏡を覗き込んだ。

「俺なんて針金にカラフルな色紙を巻いて作ったし。自分の眼鏡をモデルにしようとしたんだけど、裸眼だと全然見えなくって。慌てて予備の本体(=眼鏡のこと)を持ってきたよ」

「お〜ま〜え〜ら〜」

 悠人は粘土が固まったのを確認し、大きい方は所々に小さく模様を描いてくり抜き、平らな面を作り、立てた時に頂点になる部分を面と平行になる様にカットして、芯材の新聞紙を抜き取った。

「何でクリスマスに眼鏡なんだよ!」

「だって、老人会のパーティだから、馴染みのあるものがいいと思って‥‥」

 ひりょの言葉に、便乗してうんうんと頷く威鈴。
 はあ、とため息をひとつつき、悠人は小さい方の玉の加工を開始する。

 外側に目と口を描いてくり抜き、底辺を作ってカットし、芯材の新聞紙を抜き取る。
 豆電球と電池とスイッチの簡素な回路を、大きい玉の中に入れ、スイッチだけ外から押せるように加工する。
 カット面を合わせる様に2つの玉を結合し、絵の具で白く塗装する。
 結合部を隠す様にマフラーを貼り付け、電飾式雪ダルマの完成である!

「すごいな! 俺も眼鏡だけ作ったわけじゃないけど、こんなに凝っていないよ」

 ひりょが感心して声を上げる。

「へえ、どんなのを作ったの?」
「こんなのだけど‥‥」

 ひりょは席へ一旦戻り、自分の作品を持ってきた。

 色の異なる二種類の色紙を、各色4枚ずつ、丸くくり貫いて、それぞれ半分に折る。
 紙の色が交互になるように、折った片面を糊で貼り合わせ、球状にしたものの一か所にパンチで穴をあけ、括り紐を通す。
 貼り合わせた色紙の表面に雪の結晶のスタンプを押し、銀の粉を振りかけてデコレーションする。

「割と普通だなあ‥‥ますます眼鏡がわからない‥‥」

 悠人は頭を抱えた。

「確かに斬新なんですけどねー。ご老人にとって馴染み深いものでもありますし。でもこれ、ツリーに飾るんですよね‥‥」

 威鈴の作ったボロボロの眼鏡を見つつ、マリカせんせーも、うーむと悩みこむ。

「知ってます? 火葬しても眼鏡のフレームは焼け残るんですよー。こんな感じにですねー。それを見たご老人が、大切な人との死別の日を思いだしてしまったら、やっぱりパーティは盛り下がりますよねー。むむー、難しいですー」





 Rehni Nam(ja5283)は、ショックを受けたふりをした。

「そんな?! お料理は依頼内容に含まれて居ないんですか!?」

「で、ですから、授業の内容説明に‥‥!」

 あわあわするせんせーを見て、ぺろりと舌を出すレフニー。

「‥‥なんて、言いませんよ。大丈夫、ちゃーんと依頼内容は読んできましたから。オーナメントの作成ですよね、大丈夫です!」

(いえ、最初は微妙に勘違いするところでしたが)

 そっぽを向いて、心の中で付け加える。
 ほっと胸をなでおろしたせんせーを見て、作業開始である。

「そうですね、鈴の林檎と、フェルトとビーズの音符あたりを作りましょうか」

 まず、鈴の林檎は、握り拳大の鈴、金・銀・赤の太目の毛糸を手元に用意する。
 鈴の輪の部分に、つるす為の針金をつけけたら、全体を覆う形ようにして、3色の毛糸で編み包む。

「3色林檎の完成です。針金部分が茎になっているので、緑の折り紙でくるんで、葉っぱを追加してみました」

 続いて音符のオーナメント製作である。
 フェルトを様々な音符型に切るのだが、下地になる部分は大雑把な形状にしておき、その上にしっかり輪郭を取って切ったものを貼り付けて、厚みを出していく。
 最後に、ビーズでちょこちょこと飾り付けて、出来上がりである。

「クリスマスと言えばジングルベルなのです」

 レフニーは3色鈴を鳴らしてみた。
 澄んだ音が響き渡った。





 皆の工作机を回って、どんな作品が出来ていくのか楽しんでいたフレデリカも、自分の席に戻ってきた。

「マリカ先生、随分と楽しそうですね‥‥」

 各工作机を回っているせんせーを見て、にっこりするフレデリカ。

「色々見てきたので、私もパーティの飾り付けが楽しみです。工作をするのは好きですが、他の人が何を作るのかを確かめていくのも好きなのですよ。マリカ先生の為にも、オーナメント作りに際しては少々本気出しちゃいますね」

 そう言って、木彫りの天使を作ることに決めた。
 天魔に見えないように、細心の注意を払ってデザイン画を起こす。

(30mもの大きなモミの木だとは予想外でしたが、同時に創作意欲がめらめらと燃えてきますね!)

 降臨し、舞い踊る天使達のオーナメントで、聖誕祭を表現しようと考えたフレデリカは、時間を精いっぱい使って、1つ1つ違った意匠の飾りを作っていった。






「老人会のクリスマス会の飾り付けですか、ふむ‥‥」

 自称・破戒僧の望人(jb6153)は、顔に巻き付けた包帯を撫でながら、悩んでいた。

(物作りが好きなので、この授業を受けてはみましたが、私は破戒僧とはいえ、仏僧です。クリスマスの聖人等はほぼ知らず、天使の造形も詳しくないときました。ここは、開き直るところでしょうか?)

 持参した愛用のノミと金槌、そして木彫り用の細かい設計図。

「私は仮にも仏僧ですし、木彫りもやはりソレ寄りに‥‥もうこの際、開き直りましょう」

 \ばさっ!/

 勢いよく開かれた設計図には、サンタ帽子を被り、白い袋を持つ、満面の笑顔を浮かべた仁王像が、みっちりと描かれていた。

 慣れた手つきで設計図にそって、ノミで木を削り出し、ヤスリで丁寧に形を整える。
 もともと木彫りは望人の趣味でもある。楽しく細かく削っていると、巡回していたマリカせんせーがやってきた。

「あらあら、すごいのですー! サンタさん‥‥じゃ、ないのです‥‥金剛力士像ですー?」
「ええ、そうですよ」
「こんな笑顔の爽やかな仁王様、初めて見たのです! 斬新なのですー!!」

 まあ、普通は、阿吽形像しか見られないものだ。
 笑顔の仁王像を見られたのは、この授業に出た者たちだけかもしれない。

「くっ! あたいのさいきょーの雪の結晶を凌駕するなんて、金剛力士、やるわね!」
 チルルが悔しそうに拳を握る。

「あまりの意外性に、すっと目がひきつけられてしまいますね」
 フレデリカも内心(負けた!)と感じていた。

 さて、老人会のパーティでどんな評価がつくのか、見ものである。





「今年のクリスマスツリーのテーマは『食べられるクリスマスツリー!』です。夏に見た飴細工の出来が感動的だったので、私も挑戦ですっ」

 水無瀬 文歌(jb7507)は、我が道を走っていた。早速マリカせんせーに飴細工の基本を教わり、定番のリンゴにキャンディ・ケイン、雪を模した綿のかわりに綿飴をあしらっていく。
 ベルや蝋燭も、クッキーやビスケット、チョコレートなどのお菓子で再現していく。

「食べられる蝋燭は、実はバナナとくるみでも作れますよー。くるみは油分を多く含んでいるので、火が灯せるのですー」

「そうなんですね。でも本物の火は危ないですし、やっぱり全部飴細工で作りたいです!」

 文歌は手袋をしたまま、器用に熱い飴をひねったり混ぜたりして、加工していた。

「老人会で使用されるツリーみたいですが、気難しいご老人も<匠>で納得の出来になるはずです! これで、マリ‥‥ご老人方やお孫さんたちも喜びますね♪」

(‥‥老人会のパーティなので、多分お孫さんは来ないと思う‥‥のですー)
 せんせーは、もごもごと口ごもった。 

「ツリーの天辺には、星ではなく、イギリスなどで見られる、クリスマス・エンジェルという天使を模した飴細工を配置しますよ!」

「高さが30mもあるんですよ。下から見えますか?」
 雫に突っ込まれるが、文歌は「なら大きく創りましょう♪」と気にしない。

「大忙しで大変そうなサンタさんとトナカイさんの為に、栄養ドリンクも下げておこうかな?」





 勉強家のファーフナー(jb7826)は、授業用タブレットで調べものをしていた。

(老人会ということだ、和風オーナメントにしよう。日本の縁起物にはどんなものがあるのだろうか‥‥クリスマスが終わっても、正月に再利用できるかもしれない)

「日本の八百万というか、何でも取り入れてしまう文化は、非常に興味深く、面白いものだ。宗教は信じていなくても、楽しめるものは楽しんでしまうのだろうか‥‥むっ」

 タブレットで検索し、『つるし雛』を知ったファーフナー。

「基本『衣食住に困らないように』願いをこめて作られるもの、か。色は赤や白や金にすれば、クリスマスにも正月にも合うだろうか‥‥」

 ファーフナーは、まずつるし雛の飾り台を作り、和紙で折り鶴を製作した。
 続いて、各種和布やちりめん、一越ちりめん、和紙などを、色や柄を選びながら準備し、慣れない手つきで裁縫を始めた。


 折り鶴に続き、末広がりに栄えると言われる扇子、紅白の水引。

 円満にはずむ心豊かな暮らしを願う七宝毬、長寿を願う海老。

 将来の夢やお金をいっぱい詰めて、幸せでお金に困らない人生を歩めるようにと祈る、しあわせ巾着。

 魔よけの赤い色で作られた、「めでたい」を表す鯛。

 来年の干支でもある鶏。朝を招き、滋養がある卵を産むこと等から、長寿や健康の象徴でもある。


 これらをひとつずつ時間をかけて丁寧に製作し、飾り台から吊るしていく。

「難しいな‥‥」

 慣れない裁縫で指を時々刺しながら、それでも頑張るファーフナー。

「休憩時間ですよー」
 チャイムが鳴り、マリカせんせーが声をかけても、ファーフナーは無心に針を動かし続けた。





 逢見仙也(jc1616)は、「まあありきたりだけどな」と言いながら、葡萄とお菓子の家を作っていた。

 紫色のビー玉を思わせるビーズを沢山と、黒い細糸、アクリルの小さいお椀を用意した。
 お椀はガラスでもいいかと思ったが、重量を考えて出来るだけ軽く仕上がるように工夫する。

 丸いビーズに、折った糸を半分程度まで通し、瞬間接着剤等を反対側の穴から流し入れて固める。
 それを繰り返して、多少の数が揃ったら、糸が見えない様にまとめつつ葡萄らしく成形する。
 片方の糸の端は、外に出して接着剤で固め、枝に見立てる。
 絵具で網目模様を付けた御椀に、出来上がった葡萄をのせ、接着剤で止めて、完成である。

「何でクリスマスに、葡萄なんですー?」
「パンと葡萄がキリストに関わると聞いて‥‥そも、クリスマスってキリストの誕生祝いだよな‥‥なんで悪魔が祝おうとしてるんだろうな」

 せんせーの問いに答え、作業中なのに首を傾げてしまう仙也。

 さて、続いて、粘土とアクリル板で、お菓子の家の制作である。
 家型にした粘土の、窓に当たる部分にアクリル板を貼りこみ、飾りつけを施す。
 茶系の絵の具で色の濃淡を付けつつ粘土を塗り、お菓子の家も完成である。

「これ、ツリーに飾るんだろう? 楽しみだよな」

 なかなかの出来栄えに、仙也はニッと笑った。





 数日かけて、しっかりと乾燥させ、完成したオーナメントを、パーティ当日、全員で手分けして、フェリーで運ぶ。

 高さ30mのモミの木は圧巻であった。
 公民館の中庭の吹き抜けに、どどーんと配置されている。

 そこを囲むように、自由にくつろげるスペースが広がっており、クリスマス料理は壁際のテーブルに置かれていた。
 老人にも食べやすいような、柔らかく煮込んだメニューがメインである。

 老人会の面々が来る前に、皆でオーナメントをツリーに飾る。


 文歌のクリスマス・エンジェルがツリーの天辺に飾られ、フレデリカの天使たちがその周囲を舞い踊った。

 チルルの雪の結晶が透きとおった青に輝き、仙也の葡萄とお菓子の家、レフニーの音符と鈴の林檎がツリーを彩る。

 ひりょの紙玉、威鈴の木彫りの動物たち、そして‥‥様々な眼鏡のオーナメントの数々。

 としおの光るガラス球、海の金平糖もどき、雫の動く伊勢海老。

 悠人の電飾式雪ダルマ。

 ファーフナーのつるし雛に、望人の笑顔の仁王サンタ像。

 文歌の飴細工があちこちに飾られ、その場で作った綿あめが雪を模して盛り付けられ、ツリーの飾りは完成した。

 何故か下のほうに、ドリンク剤がぶら下がっているのは、ご愛敬である。


「今回はクリスマスリースを作ってくれた人がいなかったのですー」
 せんせーは、老人会の幹事さんに説明をしていた。
「その代わり、ツリーがゴージャスになったのですー」


 パーティの始まる時間がきた。
 公民館前にバスが停まる。

 老人たちが杖を突き、あるものは車椅子で、バスを降りて、集まってきた。
 皆、立派なツリーに目を丸くして、口をあんぐり開けて見上げている。

「「ハッピーメリークリスマス!」」

 学園生たちは、クラッカーを鳴らして老人たちを出迎えた。
 クリスマスソングの演奏が始まる。ボランティアの皆さんが合唱しているのだ。
 マリカせんせーも、学園生たちも、合唱に加わった。

 老人たちは弱弱しくも、心のこもった拍手を送ってくれた。
 しわくちゃの顔に、いっぱいの笑顔があふれだした。


「さあ、一緒にいただきましょう。ごちそうですよ」
 老人会の世話をしているボランティアさんが、一人で食事をするのが困難なご老人に介助を始める。
 自力で食べられる人は、めいめい料理を取りに行くと、ゆっくりとくつろぎスペースで食べ始めた。

 フレデリカもとしおも、介助を手伝う。


 ご馳走タイムが終わると、少し部屋を暗くして、ツリーに照明をあてた。
 光るガラス球、金平糖、雪だるま、伊勢海老、眼鏡、つるし雛、お菓子類、天使像、仁王像などが浮かび上がる。

「あの金平糖は食べられるのかい?」
 老婆が海に尋ねた。海は頷いて、「お土産にどうぞ」とツリーから一つ外して差し出した。

「金平糖、懐かしいねえ。子供の頃よく食べたものだよ」


「あの仁王様はいい笑顔をなさっておいでだねえ」
 別の老人が、仁王像に向かって合掌する。

「お墓参りでお寺によく行くんじゃが、あんないい笑顔は見たことがねえだ」
「そうじゃねえ、寺の守護者らしく、おっかない顔ばかり見とるから、新鮮じゃね」


「つるし雛まであるんじゃね。まあ、縁起の良いこと」
 感心したように、老人が見上げる。

「‥‥あの飾りは、正月にも使えるだろうか?」
 ファーフナーは絆創膏だらけの指を隠しながら、そっと尋ねた。

「勿論じゃよ。飾らせてもらおうかの。金に白に赤、ほんにめでたい色ばかりじゃのう。わし等の長寿を願ってくださったんじゃな」
「有難う、有難う」


 ツリーの飾りを眺めながら、会話に花が咲く。
 そして、和やかにパーティは幕を閉じたのであった。





「これは皆さまへの寸志です。心ばかりですが、お受け取り下さい」
 老人たちが去ってから、残ったボランティアさんが、皆に封筒を配って歩く。

 としおは「全額寄付させてください」と固辞した。

「いいんですよ。お気持ちだけで」
「いやいや、こちらこそお気持ちだけで‥‥」

 暫し、押し問答が続き、としおは「では一万久遠だけでも受け取ってください」と折れた。
 

 パーティが終わった時に、もう老人たちとはお別れか、と思っていた学園生一行だったが、幹事さんは気を利かせていてくれた。
 フェリー乗り場に、老人たちの乗っているバスが止まっていたのだ。

 フェリーで、久遠ヶ原島に去っていく学園生たちを、老人会の皆さんとボランティアさんたちは、ずっと、ずっと、見送ってくれた。
 遠ざかるしわくちゃの笑顔が、学園生たちの目の奥に、くっきりと焼き付いた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 歴戦勇士・龍崎海(ja0565)
 忘れられない笑顔・望人(jb6153)
 されど、朝は来る・ファーフナー(jb7826)
重体: −
面白かった!:7人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
白銀のそよ風・
浪風 威鈴(ja8371)

卒業 女 ナイトウォーカー
忘れられない笑顔・
フレデリカ・V・ベルゲンハルト(jb2877)

大学部3年138組 女 アーティスト
来し方抱き、行く末見つめ・
黄昏ひりょ(jb3452)

卒業 男 陰陽師
忘れられない笑顔・
望人(jb6153)

大学部3年7組 男 アカシックレコーダー:タイプA
外交官ママドル・
水無瀬 文歌(jb7507)

卒業 女 陰陽師
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
UNAGI SLAYER・
マリー・ゴールド(jc1045)

高等部1年1組 女 陰陽師
童の一種・
逢見仙也(jc1616)

卒業 男 ディバインナイト