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マスター:神子月弓
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2016/03/26


みんなの思い出



オープニング




 その影は、彼に似ていた。
 その影は、彼女に似ていた。
 その影は、あの子に似ていた。
 その影は、あの人に似ていた。

 そっくりだった。

 既に亡くなった大事な人に似ていた。
 行方不明の家族に似ていた。
 遠くへ行ってしまった人に似ていた。

 そう、そっくりだった。

 影はいざなうように踊りながら、遠のいていく。
 人々は、再び喪失する恐怖を、感じた。

 大事な人を。
 忘れられない誰かを。

「待って」

 誰かが声を発した。
 サンダルをつっかけて、影を追う女性がいた。
 歩行器を押しながら、ゆっくり影へ向かう老人がいた。
 車椅子を両腕で漕いで、追う者がいた。
 鬼ごっこのように、影に近づこうとする子供がいた。

 影は誘う。影は踊る。
 脳に直接響く、笛のような音を奏でながら。

 人々には、
 大事な大事な、そして、もう会えないであろう、誰かに見えていた。

 憑かれたように影を追う家族を、その家族が追いかける。
「お母さん、どこへいくの?」
「おじいちゃん、待ってよ」
 振り返らない、立ち止まらない家族を、子供が、大人が、足ばやに追う。

 追いつけない。追いつかない。
 そのうち、相手を追うことだけしか、わからなくなっていく。


 町が、静まりかえる。
 人の気配が、魔法のように、消える。
 踊る影を追いかけて、皆、どこかへ去ってしまった。





「ハリボテのマネキンみたいなディアボロで、町ごと釣れるなんて、人間って単純な生き物よねー」

 小悪魔娘、ジェルトリュード(jz0379)は、己の放ったディアボロ「影」が、人々を引き連れて進んでいくのを観察していた。
 「影」の向かう先には、ディアボロ「ヘルくじら」が口を大きく開けて、待ち構えている。

「デビルキャリアーとかも考えたけど、あれ醜いもんねー。ヘルくじらのほうが多く運べるし、よっぽど創り直したほうが早かったわ」

 そう、「影」にいざなわれ、人々は口を開けて待ち構えている「ヘルくじら」の中に、自ら進んで飛び込んでいた。
 町の住人をまるごと呑み込んで、「ヘルくじら」は、ゆっくりと空へ浮かび、<光学迷彩>で雲に姿を溶け込ませて、ジェルトリュードの指示した「かの地」を目指す。





 関東郊外の小さな町から順に、突如住人が消えて、ゴーストタウンとなるケースが増えている、という報告が、久遠ヶ原学園に伝わった。
 県外から遊びに来た親戚であったり、仕事の取引関係者であったり、他所から訪れた様々な人が、無人の町を目にして、途方に暮れていた。

 干したままの洗濯物。
 食卓に並んだ、食べかけの料理。
 湯の張られたお風呂。
 放り出されたままのおもちゃ。
 乗り捨てられた車や自転車。
 中には、エンジンがかかったまま、バッテリーがあがっている車もあった。

 様々な痕跡が、住民の「突然の失踪」を物語っていた。

 無人の町には、当然、目撃証言者はいない。
 近隣の町の住民も、何もわからないまま、次は自分の町が狙われるのではないかと、怯えていた。

 その上空を、雲に溶け込んだ「ヘルくじら」が悠々と泳いでいく。
 だが、いくら霞んだ青い空を見上げても、「ヘルくじら」の存在を見抜くのは至難の業だった。





「もしかして、天魔が、<光学迷彩>などで姿を隠している可能性もありますわ」
 斡旋所バイトのアリス・シキ(jz0058)が、大雨の日に戦った天魔「カビカビ星人」を思い出して、考え込んだ。

「もし、以前と同じ能力を眷属に与えているといたしますと、天魔の創造主は同じかたかも知れませんわね‥‥」

 今のところ、町角に防犯カメラなどもついていない、辺境の田舎町ばかりが狙われている。
 だが、住民の大規模な誘拐が狙いなら、徐々に大きい町に狙いを定めてくると、アリスは予想した。
 広げた地図に、アリスは白い指を滑らせる。

「この町なんて、危ないと思いますの」

 辛うじて関東圏内の、郊外のやや小規模な町。アリスはそこに目をつけた。
 ゴーストタウンとなった町との距離もさほど離れていない。

「ここに、簡易防犯カメラを設置いたします。何か異変がございましたら、緊急招集をおかけいたしますので、皆様どうぞよろしくお願いいたします」





 アリスの手配で仕掛けた防犯カメラが、事件をとらえたのは、それから3日後だった。
 マネキンのような「影」が、踊るように人々をいざない、どこか町はずれの方角へ連れ去ってゆくところが、ざらざらした画面に写っていた。


リプレイ本文




「ねーさまに、人間3800人を献上しちゃいまぁっす♪」
 悪魔娘ジェルトリュード(jz0379)は、「ヘルくじら」で拉致した人間をベリアルに受け渡した。
「人間って釣るの簡単ねー。まあ、世界屈指の、ずのー派アイドルのあたしにかかれば、簡単なのも仕方ないけどねっ。次はもうちょっと多く捕ってくるから、ねーさま、待っててね♪」

 ジェルトリュードは「ヘルくじら」に移動を命じた。「ヘルくじら」はゆっくり、ゆっくりと向きを変える。雲に紛れ、<光学迷彩>で身を隠しているが、動きは緩慢そのものだ。

「‥‥小回りがきくのと動きの速さでは、デビルキャリアーも捨て難いっちゃ捨て難いんだけどねー」

 今頃、田舎町で「影」が集めているはずの人間たちを運ぶため、「ヘルくじら」はのんびりと空を泳ぐ。今度の村では、4500人弱の人間が得られるはずだ。





 撃退士たちは、町の主要道路沿いに転移した。
 歩きやすいのか、主要道は村人でごった返している。村人たちは「影」を追うように、そして「影」を追う人々を追うように、まっしぐらに西の山方面に向かっている。顔は前を向いたまま、正気をどこかへ置いてきてしまったかのようだ。

 脳の奥に、笛のような音が響き渡る。撃退士たちは、何事かと周囲を見回した。
 防犯カメラの映像だけでは、予測し得なかったことだ。

 何かが起こった。
 心の奥にしまいこんだ喪失感を煽られ、大切な人が消えてしまう危機感が募る。

 浪風 悠人(ja3452)には、愛する妻が、人々を煽動しているように。
 卜部 紫亞(ja0256)には、魔女狩りの時代を生き延びた魔術師でありながら、天魔との戦いで死亡した母に。
 詠代 涼介(jb5343)には、過去、戦いに巻き込まれた時に命を落としてまで救ってくれた、とある撃退士に。
 ファーフナー(jb7826)には、かつて自身の手で殺した女に。
 エカテリーナ・コドロワ(jc0366)には、今ここにいるはずがない妹に。
 赭々 燈戴(jc0703)には、黒髪銀目の、悪魔に殺害された実娘に。

 感じられた。

 耳を塞いでも音がする。追わねばならない焦燥感に駆られる。
 しかし、精神を鍛えている撃退士は、まだこの程度なら、自制できた。


「なるほど、手段はわかった。人々を洗脳し、自らの手を汚さずに人間を採集しようというわけか。敵ながら流石と言いたいところだが、お遊びはここまでだ」
 エカテリーナは冷たく言い放ち、村人の住宅近辺に視線を向けた。


「これだけの人数に邪魔されたら流石に参っちまう。ちょっくら、隣町まで行ってくるぜ」
 燈戴が、道脇の畑に降り立ち、人々の流れに逆らうようにして、無人となった町を目指して走りだした。

「多分、隣町まで戻る必要ないですよ。この町で色々調達できそうです」

 燈戴の背中に向かって声をかけたのは、悠人だ。
 乗り捨てられていた車に駆け寄り、すぐに走れるか、物色している。
 セダンタイプの車だが、キーは車内に放置されていた。これなら動かせる。

 だが燈戴は首を振った。
「隣町までの距離はさほどない筈だ。ここの住民を解放後、困らせるのも忍びないだろ」
 そう言い置いて、走り出す。

 涼介も、別の農道から、動かせそうなトラックを見つけていた。
「愚図愚図していると敵を取り逃すぞ」
 そう言って涼介は助手席に、紫亞を招いた。

「人が多すぎて、視界の確保が出来なかったから、助かるわ。一応礼を言っておくわね」
 紫亞はおっとりと、涼介に声をかけた。本当は<Voie de l'ombre>で瞬間移動を繰り返し、先頭集団の更に先まで移動するつもりだった。しかし人ごみで視界が遮られていたため、転移できなかったのだ。


「どうだシキ、衛星ネットと防犯カメラで現在の敵の進路、そこに至る道幅、並走・合流する他の道の確認が出来そうか? あと隣町までの往復時間はどれくらいだ?」

 乗り捨てられた軽自動車に乗り込み、斡旋所に待機するアリス・シキ(jz0058)と連絡をとっているのは、ファーフナーである。

『防犯カメラによりますと、主要道沿いに集団が進んでいるようですの。カメラ映像だけでは、詳しくはわかりませんわ。衛星写真は地図ツールですので、オンタイムの人影などは写りませんのよ。ですが、迂回路などのご案内は出来そうですの〜。それと隣町の件ですが、地図上での直線距離は短うございますが、道のりは‥‥山越えが必要ですわ‥‥』

(主要道を歩く一般人が多い。道幅を占領されている現状では、車両で無理に通れば、撥ねてしまう!)

「集団の動きから察して、敵の進路先は恐らく西側の町はずれだ。迂回路の指示を頼む。こちらはセダンとトラック、軽を入手した。現在地はGPSで確認してくれ」

『はいですの、迂回路のデータを送りますわ』
 ファーフナーに答え、全員のスマホに、アリスからナビデータが送られてくる。

「コドロワさんも乗って!」
 悠人に急かされ、アサルトライフルMk13を構え、隙のない軍人らしく乗り込むエカテリーナ。

 3台の車は迂回路へと道をはずれた。





 山道を走ること2時間弱。隣町についた燈戴は、別途、軽トラックを手に入れていた。

 燈戴は、適当に目についた庭やガレージから、洗濯紐や物干し竿、梯子などを拝借し、また、商店や集合住宅から消火器を幾つかと、自転車も見つけ次第、荷台に放り込んだ。

「急いで戻らなくちゃな」
 脳裏に響いていた音はもう聞こえない。愛娘の幻覚もすっかりなくなっていた。

 燈戴は軽トラックを飛ばして仲間の後を追った。





 天魔「影」は、人々の歩みに合わせた速さで、ゆっくりとじっくりと、老若男女を惹きつけていた。
 踊りながら、いざないながら、町はずれの畑の奥へ至る道をゆく。

 主要道から農道に入り、山道に至る手前。
 ひろびろと広がった麓の畑では、「ヘルくじら」が<光学迷彩>で身を隠し、その巨大な口を大きく開けて待っていた。

 アリスは「ヘルくじら」の存在に気づかず、広々とした畑へ撃退士の車を誘導した。

 どんどん脳内に響く笛の音が大きくなる。喪失感、大切な人の面影が、膨れ上がる。

 「影」と人々が、どっと畑になだれ込んでくる。
 「ヘルくじら」の存在に気づいたものはいない。

 紫亞が<北風の吐息>で「母」を集団から引きはがした。
 よろけた「影」を3台の車で囲む。





(俺は、過去に縛られず現在を生きることを選んだ)

 ファーフナーはグラールハルバードを振るい、人々の先頭集団と「昔殺した女」の間に、巨木を伐り倒して障害物とした。空気を斬り裂く音とともに、聖なる音色が響き渡る。

(今、守りたいのは若い友人達、そして、罪もないこの人々だ)


 人々は倒木を乗り越えようと必死だ。足の悪い老人や子供もいる。彼らが苦戦しているところへ、紫亞が<スリープミスト>を2発打ち込み、涼介が召喚したフェンリルに<超音波>を5発使わせた。

 先頭集団は沈黙する。後から来た人々は、何が起きているのかわからないものの、正気を失ったまま、倒れた人々、立ちすくむ人々をかき分けて前に出ようとする。

 ファーフナーは<ダークハンド>で人々を止めた。

 涼介も一般人の抑止に回った。眠ったり、動けなくなっている一般人を抱え、少しでも畑から遠ざける。まだ動ける一般人は、直接体を抱えて制止していく。

(俺が助かるより貴方が生き残るべきだった‥‥その方がきっと多くの命を救えていたはずだ。‥‥そう考えたことは一度や二度じゃない。でも、過去は変わらない。起こってしまったことは変えられないんだ。だからせめて、それが無駄ではなかったと示したい。ニセモノだろうが、恩人のカタチをしたあの撃退士の目の前で、見せつけてやる)

 涼介はちらりと後ろを振り向いた。「影」に立ち向かっていく仲間の姿が目の端に留まる。

(俺が一人でも多くの人を救えば、それはそのまま、貴方のしたことが間違いではなかったという証明になる。そのためにも‥‥今ここで、この人たちを助けるぐらいのことは、やって見せなくてはな)


 <悪鬼険乱>を使用し、アサルトライフルを構え、「影」を待ち受けるエカテリーナ。背後に黒紫色の炎が出現し、皮膚の至る所に黒い模様が浮かび上がり、その姿は不気味で悍ましく感じられた。


 <ボディペイント>で【潜行】した悠人が、愛妻の姿を認めて、歯を食いしばった。
 もし彼女が本物だとしたら? しかし‥‥その時は、大怪我をさせてでも正気に戻して連れ帰る!


「maman、貴女には沢山の事を教わったわ。魔法も、生き方も、戦い方も‥‥でも一番今役に立つことは‥‥邪魔をするなら誰が相手でも容赦しない心構えね。貴女がニセモノだってことは、このカードが示しているわ‥‥maman、占いを教えておいてくれて、本当に有難う」

 紫亞は、懐からタロットカードを1枚取り出して、掲げた。<ラグナロク>をため始める。

「maman‥‥要は貴女を消し飛ばせばいいわけね」

 罪もない一般の人々から、今の「妻」を少しでも遠ざける為に、悠人は【潜行】状態のまま、人々の隙間を縫って「妻」に接近し‥‥<ウェポンバッシュ>を打ち込む!


「おじいさん! おじいさんが‥‥!」
「ままを、たすけて! ままがころされちゃう!!」

 ざわっと一般人からあがる悲鳴。
 彼らには、彼らの「大切な人」に見えているのだ、あの「影」が。

 迷わずに涼介は発煙筒を投げた。白い煙がもうもうと立ち込めて、戦いを人々の目から隠す。
(誰だって見たくないよな、ニセモノとはいえ、大切な人がボコられるところなんざ)


 奇襲を受け、吹き飛んだ「妹」に、エカテリーナがアサルトライフルを容赦なく撃ち込む。
 <アウル炸裂閃光><アウル毒撃破>を使い分け、「妹」を林に追い詰める。

「例え肉親とて、人類を裏切るような真似をするなら容赦はしない。こんなことで、私を止められるとでも思ったか。その甘さを後悔させてやる! 所詮、貴様は私に目をつけられた時から、ただの的なのだ。的は的らしく、素直に弾を喰らえ!」

 「妹」に容赦なく弾丸を撃ち込むエカテリーナ。
 傷ついた「妹」の無差別範囲攻撃が、戦闘中の撃退士全員を巻き込む。
 更に反撃を食らいながらも、「妹」は容赦なくバステスキルを放つ。


「泡剤で見えなきゃ近づき難いだろ!」

 かなり遅れて、現場に到着した燈戴が、トラックから飛び降り、消火器を放つ。
 脳裏の娘の面影は消えない。

 愛娘の葬儀には間に合わず、死に顔すら見ていない。
 もし本物だったら、敵に操られているのでは、与しているのでは、脅されているのでは‥‥様々な父親としての感情が交錯する。

 胸にさげた、楕円形のロケットペンダントが揺れる。 燈戴と亡き妻と娘の3人で写った家族写真が収まっており、裏面にはラテン語【Dum vivo vivam】の刻印がある。

「Dum vivo vivam(生のある限り、私は生きよう)、これは俺が、失った家族、生を紡ぎ続ける家族の為、誓った言葉だ!」

 消火器が空になるまで泡剤を吹きかけた。
 「娘」は泡剤を<物質透過>して、にゅるりと這い出てきた。
 にたあ。黒髪銀目の娘が微笑む。

 トラックに積み込んできた、洗濯紐や物干し竿、梯子、自転車等を投げつける燈戴。
 今更バリケードを作っている暇などない。

「お前の息子は元気だ‥‥後は任せておけよ。お前の親父だぜ、俺は」
 燈戴は、双銃インフィニティを構えた。
「お前の代わりに俺が。そしてお前を‥‥」

 「愛娘」を討つ覚悟を決め、引き金に指をかける。
 その姿勢のまま、燈戴はバステ【朦朧】を受けていた。


 紫亞は<ラグナロク>を、確実に「母」に打ち込んだと思った。
 しかし、手ごたえがなかった。
 狙った場所に、「母」は居なかった。

 「母」はにゅるりと、柔らかな畑の地面から這い出てきた。

(<物質透過>で避けたの!? どういうこと!?‥‥まさか、阻霊符を、誰も発動していない!?)

 当たり前すぎて、意識にのぼらなかった。誰も思いつかなかった。
 あと少し、あと少しで倒せるところまで追いつめている筈なのに、決めるつもりだった大技など、肝心なところで、機敏さや<物質透過>などで、避けられてしまっていた。

 失策だった。





「遅いと思ったら害虫がわいていたのね」
 空から可愛らしい少女の声がしたと思うと、強風が巻き起こった。
 同時に巨大な「ヘルくじら」の姿が浮かび上がる。

 撃退士たちは衝撃で吹き飛ばされ、ごろごろと地面を転がった。
 一般人を拘束するスキルが解除される。また、倒木も瞬時に粉みじんになり、風に散った。

「害虫ごときが、あたしたち上級知的生命体の邪魔をしようだなんて、数百億光年早いわよ」

 皆「光年は、時間ではなく距離だ」と反論が喉まで出かかるが、地面に縫い付けられるような圧力に耐えかね、声が出ない。動かない体を動かしてやっと見ると、ちょう生意気そうな悪魔族の小娘が、大口を開けた「ヘルくじら」に生き延びた一般人を誘導して飛び込ませているところだった。

「だいぶ生存者の数が減っちゃったわねー、まあ良しとしましょう。あんたたちは、ねーさまに運命を預ける栄誉を得たのよ、家畜にしてはついてると思いなさいね。さ、行くわよ」

「うう‥‥」
 ファーフナーは、もう一度、目だけを精いっぱい動かして「影」を見た。
 まだ、あの時「この手で殺した女」にしか見えない。
 
 しかし、「影」を全く違う者の名で呼び、慕い、憑かれたようについていく人々。
 勝ち誇ったように見守る悪魔の小娘。

 自ら「ヘルくじら」の口に飛び込んでいく人々を、助けることもできず、止めることも出来ず‥‥人々が攫われていくさまを見守ることしかできない。

 悔しい。

 人は誰かのために生きているのだ。
 それが故人であったとしても、生前に抱いた感情は、時を経ても決して消えることはない。
 色あせていくことはあっても‥‥だ。

 そんな人間の純粋な感情を利用する小娘、ジェルトリュードに、ファーフナーは強い嫌悪感を覚えた。

 咄嗟に、体が、動いた。
 ファーフナーは「あの時殺した女」に飛びかかり、<コレダー>でとどめを刺していた。





「ごめんね、ねーさま、少し殺しちゃったわ」

 「ヘルくじら」で「とある場所」にジェルトリュードが運んだのは、死者300人を含む4500人弱。
 その全てをベリアルに献上し、小娘はてへっと無邪気に笑った。

「でも、まだまだ頑張っちゃうわよー! ちょっとイイコト思いついちゃったのよね。あたしの邪眼が疼いて止まらないの、新しい子作ってもいいかしら?」

 ジェルトリュードはそう言って、自身の所有するゲートがある方角を、見つめた。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: セーレの大好き・詠代 涼介(jb5343)
 されど、朝は来る・ファーフナー(jb7826)
重体: −
面白かった!:4人

原罪の魔女・
卜部 紫亞(ja0256)

卒業 女 ダアト
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
セーレの大好き・
詠代 涼介(jb5343)

大学部4年2組 男 バハムートテイマー
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
負けた方が、害虫だ・
エカテリーナ・コドロワ(jc0366)

大学部6年7組 女 インフィルトレイター
おじい……えっ?・
赭々 燈戴(jc0703)

大学部2年3組 男 インフィルトレイター