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『うぇるかむ・とぅ・××高校ぶんかさい』
花紙で飾られたアーチをくぐる。そこは轟闘吾(jz0016)の後輩の某男子校だ。
闘吾は、いかつい肩で風を切るように、ゲーム愛好会の発表会場へと、真っ直ぐに歩いていく。
キャラデザインを担当した6人、雪室 チルル(
ja0220)、仁良井 叶伊(
ja0618)、松永 聖(
ja4988)、Spica=Virgia=Azlight(
ja8786)、長谷川アレクサンドラみずほ(
jb4139)、咲魔 聡一(
jb9491)が順番についていく。
教室に近づくと、一昔前っぽい電子音楽が聞こえてきた。
「あっ、轟先輩、あと撃退士の皆さんも、ようこそっす! キャラデザイン有難うございやした!」
部長である、ぐるぐるの瓶底メガネ君が、深々と皆に礼をした。
備え付けられたモニターには、試作ゲームのデモ画面が写っている。
モニターからパソコンにコードが伸びていて、ゲーセンレベルの大型コントロールパネルに繋がっている。
「このコンパネも自作なんすよ」
メガネ君はそう言って前歯を光らせた。
「さて、じゃあマッチングを行いや〜す」
モニターに各キャラの絵が表示され、チカチカと点滅を始めた。
「おおー」
身を乗り出して見入ってしまう6人。自分の考えたキャラが、絵になっている!
これだけでも感動ものだった。
まあ、自作ゲームゆえに、少し前の、某ス■2程度の2Dグラフィックと操作性なのは、ご勘弁いただくとしよう。
「どんな感じになったかな? べ、別に‥‥楽しみとかじゃないんだから‥‥っ!」
ツンデレ全開で、呟く聖。
「な、何だかお恥ずかしいですわね」
みずほが、自分自身をモデルにしたキャラを見て、頬を染めた。
「ちゃんと声もついているのね!」
チルルが自キャラである黒鉄リナを動かしてみて、歓声をあげる。
「演劇部の伝手で、他校の女子学生に声をあててもらいやした!」
部長のメガネ君が嬉しそうに答える。
「勿論みずほちゃんには、モデルの長谷川さんが直々に声をあててくれたっすよ!」
画面がチカチカと光輝き、マッチングが確定した。
第1戦 黒鉄リナ(チルル)VS 蘭(聖)
第2戦 ザ・SUMO(叶伊)VS エイル(スピカ)
第3戦 みずほ(みずほ)VS 天草さとり(聡一)
ラスボスに挑めるのは、勝者の中でも、一番スコアが高かったもの、ということになった。
●第1戦
リナ「いざ! 正々堂々と勝負!」
蘭「キミの本気を魅せてっ!!」
小柄でスレンダーながらも、胸は程良い大きさの蘭。動くとちゃんと胸が揺れる。
蘭は、性格は勝気で自信家で、負けず嫌い、とインストレーベルに書いてある。
半袖へそ出しミニスカセーラー服を、ばっと脱ぎ捨て、艶感のある青系の生地に豪奢な金模様の刺繍が入った、ミニ丈チャイナドレスに着替える蘭。三つ編みのサイドヘアが揺れ、後頭部の大きなリボンが黒髪に映える。メリケンサックとピンヒールを身に付け、やや釣り目気味の紫の瞳は、真っ直ぐに対戦相手を見つめている。
一方リナは、ブレザータイプの学生服に赤いリボンをつけた、まさに主人公タイプの女の子だ。金属製の肘当てや膝当て、革の手袋がアクセントになっていて、戦い慣れして見える。
「やっぱり主役といえばこんな感じでしょ! 遠慮なくいくわよ〜!」
チルルはコンパネを固定した机にしがみついて、モニターを見つめた。
「格ゲーとか‥‥アツいわよね! こう‥‥心の中が燃え滾るカンジ?!‥‥って! べ、別にあたしが格ゲー好きってワケじゃ‥‥ない‥‥んだからね‥‥ッ! 勘違いとかしたら‥‥ぶっ放すわよ?! アウルの、リアル超必殺技をッ!!」
聖はぞろりと自分たちを囲むギャラリーの視線に気づき、ぐっと睨みつけた。
男子校内の女子は、それだけでも十分目立つ。だがギャラリーに気を取られている暇は無かった。
「ファイッ!」
ナレーションと同時に、闘いの鐘が鳴った。
「あたいの本気、魅せてあげるわ!」
チルルは、ばしばしとボタンを連打した。
リナ「虎王襲!」
手に風の力を集め、低空を跳躍しながらのストレートパンチが飛んでいく。
(回避はどうだっけ、レバー上だったっけ)
慣れないコンパネに苦戦し、リナの攻撃を受けてしまう蘭。大きく弾き飛ばされる。
(えっとえっと、空中で体勢を立て直すのは‥‥!?)
レバーをガチャガチャする聖。
その間に、リナの飛炎拳があらぬ方向に飛んでいく。
「あー、違う違う、ここは飛燕落としを当てるところよ!」
リナ「飛炎拳! 飛炎拳!」
手に炎の力を集めて撃ち出す飛び道具技が連発する。
チルルは、対空技の「飛燕落とし」を出そうとしているのだが、うまくコマンドが入らない。
撃退士たるもの、依頼に授業にバイトに忙しく、ゲーセンで遊んでいる時間はあんまり無い。
ゆえに、複雑なコマンド技は、方向を間違えたり、空振りになることが多かった。
蘭「胡蝶の夢!」
リナに向かって、無数の蝶が飛ぶ。
「あ、あれ?」
チルルが、レバガチャを繰り返すが、リナは美しく輝く蝶をよけられず、硬直していた。
蘭がジャンプし、ナックル攻撃を綺麗にキメる。
リナ「天地の構え!」
超必殺技が発動した。パワーアップオーラに包まれたリナは、蘭を捕まえると「激震投げ」で地面に叩きつけた。ガッと蘭の体力ゲージが減る。
蘭「無双乱舞:蝶!」
こちらも超必殺技でお返しだ。画面が暗くなり、2人だけにスポットライトが当たる。
リナの周囲を舞うように攻撃を繰り出し、その後上方へ放り投げて三角跳びピンヒールキックをかます蘭。扇を持ち、くるりと一回転して決めポーズ。
カンカンと、ゴングの音が鳴る。
リナ「くっ……次は負けません!」
蘭「当然? 鍛え方が違うっての☆」
「勝てたぁ〜!」
自分で設定した決めゼリフ「勝利時」を聞いたとき、聖は正直、万歳しそうだった。
「うああ〜悔しい! 結構頑張ったのになあ」
チルルはリナの体力ゲージを見た。かなりの接戦だった。
思うようにコマンドが入っていれば、もっと楽に倒せた相手だろう。
「あたいもしゅぎょーが足りないわね!」
数日間、チルルはゲーセンにこもることを考えた。
●第2戦
???「行きなさい、SGX−00」
エイル「貴方は、あの人に不要‥‥。だから消えて‥‥」
黒いフリル傘を手にした、銀髪ロングに蒼い瞳の、ヤンデレ黒ゴスロリまな板娘エイルと、謎の白衣のセクシー3年女子が相対する。しかし、白衣女子こと科学部部長、黒鋼みゆきは、ピンク色の相撲ロボットを残して、立ち去ってしまった。
みゆきは、背景の群衆に紛れ、前世紀的なコントローラを握り締めて正面向きで立っていた。
「‥‥相手‥‥歩くだけで胸が揺れる‥‥スゴイ‥‥」
スピカは、グラフィッカーの、胸揺れ表現への情熱に、思わず呆れて呟いた。
「容赦は、しない‥‥」
そして対戦相手である叶伊をぐっと睨みつけた。
コンパネのレバーを握る手に、力が入る。
「こちらこそですよ」
叶伊も微笑みを浮かべて、コンパネに手を置いた。
「ファイッ!」
試合開始とともにビットをばらまくエイル。特殊技SHI−KOを踏み、地鳴りを起こしエイルをスタンさせるザ・SUMO。
素早くスタン状態から立て直し、突撃技ZUTUKIで飛び込んできたザ・SUMOを大ジャンプで大きく躱し、傘による突き刺しと蹴りを組み合わせ、多段攻撃を仕掛けるエイル。
ザ・SUMOの体力がじわじわと減る。だが、まだ数ミリ程度である。
相手はしぶとく、硬い。しかし、その分体も大きく(=当たり判定も広く)、移動スピードも遅い。
遠距離からのビット攻撃に、傘からの光線を加え、必殺技にコンボを繋げようとするエイル。
そこで炸裂するのが、ザ・SUMOのHARI−TE。必殺技相殺技だ。
エイルの召喚した炎剣レーヴァテインは、HARI−TEの前にもろくも崩れ去った。
「くっ‥‥固めコンボ‥‥崩された‥‥」
コンパネと格闘しながら、悔しげに呟くスピカ。レバー慣れしていないため、ふらついてコマンドが思うように出せない。左にレバー、右にボタンという、ゲーセン式のコンパネの構造にも不慣れだ。
「なかなか操作が難しいですね。家庭用コントローラならもっと上手く出来そうなんですけれど」
両手利きで器用なはずの叶伊も頷いて、倒れたエイルを下段蹴りで浮かせ、飛び道具TEPPOUビームを放った。
危うく傘を開いてガードするエイル。ガードの音とともに、ごりごりと体力が削られていく。
ノーダメージでガードするには、TEPPOUの威力が高い。
「まだ‥‥召喚技、使い尽くして‥‥ないっ!」
投げ技OOSOTOにも捕まり、エイルは空中に放り出された。レバーを上へ入れて宙で多段ジャンプし、華麗に着地。投げられダメージを軽減させる。
「‥‥ラグナロクで‥‥全てを終わらせる‥‥!」
エイルの体力ゲージは真っ赤に点滅している。ザ・SUMOの体力は残り3分の1程度。
超必殺技ラグナロクを使うべき時だ。上手くハマれば、一発逆転のチャンス!
炎剣レーヴァテイン、輝槍グングニル、雷槌ミョルニル、邪剣ダインスレイヴの4武器を全て召喚。
一気にザ・SUMOに突撃させ、連撃開始! 更に傘の溜め攻撃とビットの集中砲火を食らわせる!!
「これで‥‥終わる‥‥はず!」
はず、だった。しかし、ザ・SUMOはのっそりと立ち上がり、赤く点滅した自身の体力ゲージを確認すると、超必殺技・SENSHURAKUのモーションに入ったのだ。
「エイル逃げて‥‥!」
スピカが画面内に訴える。だが、格闘ゲーム内のキャラに、逃げ場所などない。
「あっ」
やってしまった、という顔で、叶伊は頭を抱えた。最後の最後にコマンドミスだ。
自身の器用さを過信して、油断してしまった。
SENSHURAKUはモーション途中で不発に終わり、タイムアップで、僅かにエイルの勝利となった。
エイル「勝った‥‥。これで、邪魔者は‥‥」
みゆき「計算ミスか‥‥出直しますわ」
●第3戦
「ええええっ、わ、わた、わたくしそのままですの? お、お恥ずかしいですわー!」
真っ赤になって両頬を押さえているみずほは、モニターから目を背けた。部員が首をかしげる。
「喜んでモデルになってくだすったじゃねぇですか」
「で、ですが‥‥声まで‥‥」
「ご自身で入れてくだすったじゃねぇですか」
「そ、そうですけれど‥‥」
自分で自分の声を聞くのは、恥ずかしいものだ。しかも別人の声に聞こえるから余計に。
「まあまあ、長谷川先輩、とにかく試合しましょう、試合」
聡一がなだめて、みずほを対戦席につかせる。
みずほ(キャラ)「さあ、かかってらっしゃい‥‥ませ!」
天草さとり「喧嘩なんて野蛮ね。レディのする事じゃないわ」
「ファイティングポーズは確かにこのようにいたしますが、こ、こんなに大きく足を開いてございましたかしら‥‥!?」
ボクサースタイルの自分自身(のCG)に、泣きそうな声をあげるみずほ。
「ゲームですよゲーム。始めましょう、行きますよ」
聡一は、さとりに軽いジャブを打たせることから始めた。
みずほ(キャラ)は、ファイティングポーズをとったまま、初期位置から全く動かない。
「‥‥そんなにご自分の姿が恥ずかしいですか? なら明かしますが、出来ればここだけの話にしていただきたいのですが、さとりは、僕がとある依頼で女装した時のものを、モデルにしています。長谷川先輩よりずっと恥ずかしいですよ」
「そ、‥‥そうなんですの?」
涙声が対戦台の向こうから聞こえた。聡一は頷き、「これはゲームです。折角デザインに参加させていただいたのですし、楽しみましょう」と説得した。
みずほは涙を拭き、そしてコンパネを見て、また固まった。
「これは‥‥どう操作いたしますの?」
さとりは、初期位置を保ったまま、みずほ(キャラ)を見守っていた。
「コマンドが出ませんわー!」(奇妙な踊りを踊る)
「こちらのボタンがジャンプですの?」(キックが出る)
「わ、わたくしが自ら殴りましたほうが、早いですわー!!」(ぴょんぴょんジャンプ)
「あ‥‥こういたしますと、パンチが出ますのね!」(大きく空振る)
さとり「テレキネシス」
釘や金鎚がみずほ(キャラ)に飛んでいった。さくさく、と体力ゲージを削る。
「きゃー! 何か飛んでまいりましたわ! こういう時はどのようにいたしますの?」
「そんな時はこうしろ」
後ろから闘吾のごつい手がのび、みずほをサポートした。
みずほ(キャラ)は背中から蝶の羽根の様なオーラを出し、すっと移動した。
「テ、テレポート技のF.L.B.ですわね!」
「‥‥そしてここから、こう繋げて、こうだ」
右ストレート「黄金の拳」で牽制し、左ボディブローの「D.B.」で、さとりの動きを止めて、「L.C.C.」の左フックから左アッパーへ 繋げるコンビネーション技が炸裂する。
十字架型の軌道が画面に残像を描いた。
点滅しているみずほの体力ゲージが、超必殺技「B.K.」のチャンスだと告げている。
「今ですの!」
「おう!」
みずほと闘吾が、息を合わせる。
蝶のオーラを撒き散らしながら放たれる、連続パンチの乱舞技が、まさに発動しようとしていた。
「なかなかやりますね」
だがさとりも負けてはいない。「B.K.」発動の瞬間、「テレキネシス」で技を強引にキャンセルさせる。
タイムアップ!
さとり「不思議ねぇ、何もしてないのに倒れちゃって」
みずほ「くっ、こんなはずでは‥‥」
(長谷川先輩がゲームに不慣れで救われたかな)
聡一は肩をすくめた。
撃退士のみずほは、「次の機会までには練習いたしますわ! 今度こそ自分の力で勝ちますのよ!」とリベンジする気満々であった。
●ラスボス戦
結果、さとりが最高スコアだったため、ラスボスと戦うことになった。
帝華ゆりね(ラスボス生徒会長)「あたしに楯突くとはいい度胸ね」
さとり「文化祭の練習を無碍にされては演劇部とて黙っていられないわ」(ボス専用ボイス)
ステージ全体がせり上がり、エレベーターのような背景の縦スクロールが始まる。
(やれやれ、やっと本気で遊べるな)
聡一は何処かで昔覚えた遊び方を思い出す。232年もの人生において、駄菓子屋の10久遠ゲームで遊んだことが一度もないわけではない。
さとり「パイロキネシス」!
投げ技を仕掛けるため、近づいてきたゆりねが発火する。ゆりねが炎を振り払うまでに「テレキネシス」で金鎚や釘を次々と撃ち込む。
――来た! ボスのダッシュ攻撃技だ。さとりの頭を掴んで一気に画面端まで叩きつける。
ぐぐっと体力ゲージが削れ、さとりの体力ゲージが赤く点る。
ここで戦況をひっくり返さないとまずい。さとりは超必殺技「サイコバースト」を発動!!
接近距離にいるゆりねを「テレキネシス」で思い切り、画面端まで突き飛ばす技だ。
画面端に衝突すると、ボキッという骨折音とともに、敵に大ダメージを与えた。
ゆりね「やるわね!」
ゆりねはダッシュで詰め寄ってくる。ひらりと、さとりがジャンプで躱す。
空中から「テレキネシス」でガラクタを弾丸のように飛ばす。
着地点で待ち構えていたゆりねに「パイロキネシス」。
「隙がない動きですわ」
みずほが観戦用モニターを見て、息を飲んだ。
「もう少し削れば勝てるよー! いっけー!」
チルルが応援する。
「うちのキャラが勝っていたら、去勢エンディングだったんですけれどねえ‥‥残念です‥‥」
叶伊が呟く。
「ああっもう、とっとと勝ちなさいよ、別に応援している訳じゃないけどね!」
聖も拳を握り締めている。
「慣れた‥‥動き。‥‥ゲーム経験者?」
スピカが訝る。
スピーカーから、ゆりねの悲鳴が聞こえた。
ナレーションが「さとりウィン!」と、勝者を告げる。
「面白かったですよ」
聡一は部長と握手をし、皆は口々に再挑戦を希望した。