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マスター:十三番
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
形態:
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2014/03/12


みんなの思い出



オープニング

●久遠ヶ原学園

「私だ。定刻前だが救助隊を向かわせてくれ」
 電話の先で相手は渋った。市川は冷静を努める。
「いいか、今すぐ向かわせてくれ。それと人数が増えた。資料は追って送る」
 駄目だ、と相手は告げた。だが市川は
「行け」
 強引に念を押しつけると、そのまま通話を終了させてしまう。年下の役員気質にはこれが一番効率的であることを、彼は身を以て知っていた。例えば今夜の手筈とか。
 自嘲して首を振る。教え子1人説得できないでくの坊が老獪を気取るなど莫迦らしい、と。

「(……万が一の時は、その時は、私だけを恨め、小日向)」

 星ひとつ窺えない曇天に、市川は白い息を吐きだした。



●放棄区画・元市立図書館駐車場前

「――……こっち……!」
 先行する五所川原合歓の指示に従い、三ツ矢つづりも白い道を駆け抜ける。初めは都度払っていた雪も、戦闘音が近くなる度に気にしなくなっていた。できなくなっていた。
 やがて通路の左手、その大半を白に覆われた壁を発見すると、2人は更に速度を上げた。酷使した体に鞭を打ち、敷地内に転がるように飛び込んだ。
 塩に埋め尽くされていく、深海の底のような世界。
 その奥にあった光景を見た瞬間、合歓の隣の足音が消えた。

「……うそ……なんで……」

 つづりは腰を抜かし、その場にへたり込んでしまっていた。

「――参(サン)……」
「……なんで……やだ……やだよ……!」

 合歓は声を掛けようとして、でも見つけられなくて、迷って、結局、低く唸りながら奥を目指した。



●放棄区画・元市立図書館前

 小日向千陰は尚も立ち上がろうとしていた。
 立ち上がることなどできなかった。全身に負った傷はそのどれもが深い。指どころか息をするだけで全身が軋んだ。その呼吸もとてもか細く、吸っても吐いても口と鼻から血が零れた。そしてその全てが、既に黒い靄が掛かり始めた彼女の意識を更に深く、昏く濁らせていく。
 それでも千陰は立ち上がろうとしていた。


「(……まだだ……)」


 諦めることができなかった。


 どれだけ非情を気取ったところで、共に来てくれた者を放っておくなどできなかった。
 そこに後悔などあるはずもない。
 偏屈なきっかけだったが、司書の職も、今の立場も心底、愛していた。

 頼っていいと言われた。
 独りで戦う必要は無いとも言われた。

 それが堪らなく嬉しかった。

 だからこそ、勝ちたかった。
 片付けたかった。
 決着をつけたかった。

 あなたたちが共に居て、語り合い、笑い合った司書は、
 仲間に見捨てられた『落ちこぼれ』なんかではないと、胸を張りたかった。

 諦められることではなかった。


 だから。


「(……まだだ……!!)」





「終わりだよ」

 図書館の前から、ヴァニタス・グレイリップが溜息混じりに言い捨てた。

「その傷で何ができる。
 どうしてそんな傷を負った。
 結局何しに来たんだ、てめえは。
 心底愛想が尽きたぜ」

 殴打を受けた頭部と、雷の斬撃を受けた胴の傷を、周囲の肉が包み込もうと動いている。二刀は既に片付けられ、太い腕は腹の前で組まれている。赤黒い舌がそこに巻き付いていた。
 頭の傷が余計な水分を吐き出す。それと同時、布の取れた顔があなたたちを向いた。目が収まるくぼみすら無いのに、あなたたちは明確な視線を感じていた。

「連れて帰りな。今なら間に合うだろ。少なくとも、命だけは」

 鼻を鳴らして見解を告げる。萎えた、というのは本心だ。期待していた夜とは大きくかけ離れてしまい、戻れるとは思えぬ状況に至った。興は完膚なきまでに冷め切っていた。

 では何故、千陰の命を絶たないまま終わりを告げたのか。


 彼女の後ろにあなたたちがいたからである。


 グレイリップは警戒していた。連れてきたディアボロは烏合の衆ではない。万が一襲撃を受けた時、安全にその場を切り抜ける為に用意しておいたものだ。それを全て、この短時間で倒してのけた。しかも自分が直接相手にした者を除いて、全員無傷で。懸命に隠しているが、動揺していることは否めない。
 あちこちに負った傷もまた、彼の動揺を助長していた。治りが明らかに遅い。特に腕の裂傷は中々癒えそうにない。それは冷えの所為などではなく、単純にそれだけの痛手であることを意味していた。
 千陰は彼らを『選抜』だと称した。それが信頼関係に水増しされた贔屓目の誇張だったとしても、少なくとも出鱈目ではあるまい。更に今、新手が駆け付けた。遠くで動かないのはともかく、こちらに向かっている者は間違いなく手練れだ。負けるとは思わないが、戦えばただでは済むこともないだろう。敗北、或いは最悪の事態もあり得る。『二度目の死』など御免だ。あの女にならいざ知らず、今遭ったばかりの連中になど、断じて。
 千陰は彼らを『仲間』だとも言っていた。同じ思いは彼らにもあるのだろう。それは今まで散々窺えた。ならば、瀕死の仲間を見捨てて攻撃してくるはずがない。いつかのように撤収するに違いない。それこそ物の怪でなければ。或いはこちらの手の内が全て見透かされ、その上で、万全で完璧な対策でも取ってこない限りは。

「じゃあな。風邪引く前に帰りな」

 一方的に切り上げると、グレイリップはあなたたちに背を向けた。





「……て……」





 赤く溶けた雪の中、千陰が、全身を痙攣させながら、もがいた。





「……待……て……!!!!!!」





 グレイリップは止まらない。
 ただ、彼は一瞬だけ歩幅を狭めた。
 長い間繰り返してきた仕草をし、もう不要だと気付いたのだ。
 そして灰色の唇からピンポン玉のような白を吐き捨てると、それを踏み潰し、図書館の入り口に手を掛けた。

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リプレイ本文

●インターミッション

「(――今、『何』を踏んだ――!!)」

 目を見開いて駆ける五所川原合歓を、月詠 神削(ja5265)が身を挺して止めた。
「駄目だ、伍(ウー)」
 合歓が視線を突き刺す。
「そんな状態で勝てる相手じゃない。伍まで傷ついたら、先生が悲しむ。だから駄目だ」
 諌めも届かない。合歓は暴れ、彼の腕を振り解くと、遠く、ヴァニタス・グレイリップを再び目指した。
「ったく……」
 久我 常久(ja7273)がひょいと彼女を抱え上げた。腕を腰に回して強く締める。それでも合歓は進もうとした。振り回した肘が背を叩き、膝が腹を打つ。
 常久は腕の力を強めた。

「千陰ちゃんがアブねぇんだ」
「――ッ」

 細身の身体に走る動揺。それを赦すように、常久はもう一つ分だけ腕に力を込めた。

「まだだ。まだ大丈夫だ。だがアブねぇ。
 ワシ等が頼れるのは合歓ちゃんとつづりちゃんだけなんだ。
 わかってくれ」
「――……ッ」

 顔を上げた先。
 凛とした表情の神喰 茜(ja0200)と、硬く口を結んだマキナ(ja7016)が、揃って頷いた。

「――……」
「おう。サンキューな」


 常久の視線にあごを引き、神削が小日向千陰の傍らで膝を折る。背中は丸まり、手足は忙しなく震えていた。優しく、慎重に抱え上げる。
 千陰が首を振った。
「……ごめん」
 短く呟くと、神削は仲間に目で意志を伝え、その場を離れていった。


「一安心、だな」
 重い溜息を落とし、グレイリップは律儀に扉を開け、図書館に入っていく。
 強い風が吹き抜け、辺りに雪が舞い散った。


「さて」
「はい」
「だナ」
 茜とマキナは自前の、狗月 暁良(ja8545)はナナシ(jb3008)から借り受けた暗視装置を首に提げ、進む。
「怪我の具合は?」
「『問題じゃない』わ」
 ナナシは翼を広げて空を征く。
 高い位置からは戦場がよく見えた。図書館も、入り口に近づいていく仲間も、離れていく仲間も、仲間の腕に抱えられたあの人も。
 身を襲った震えは寒さの所為でも、恐れの所為でもない。堪えた理由も、殺した気配を悟られぬ為ではなかった。




●参(サン)

 何度渾名を呼ばれても、三ツ矢つづりは応えることができなかった。脚は竦み上がり、喉はひくついている。
 それでもなんとか立ち上がるが、一歩目で躓いてしまった。
「……はは」
 情けなくて笑えて、その不甲斐なさで辛うじて立ち直る。
 呟くような神削の言葉が聞こえてきた。




●トーキング・アバウト

 図書館の中にグレイリップの姿は無かった。館内は一度ひっくり返されたかのような有り様で、書物が床を埋め尽くすほど散乱し、本棚は崩れ、倒れ、或いは壁に肩を預けていた。
 奥は闇そのもの。目を凝らす程度ではどうにもならない墨の海。
 マキナと暁良がスコープに手を掛け、茜がポケットの中に神経を傾ける。

「はーぁ……」

 心底落胆したような溜息が黒の奥から飛んできた。
 居場所を特定するには至らない。粘り気のある声は館内に反響していた。暗視装置で探りを入れるが、見えるのは積み重なった本棚の丘。

「俺ぁ言ったよな。風邪引く前に帰れって」
「つれないコト言うなヨ、化ケ物」
「出てこい。お前は、お前だけは、この場で必ず斃す」
「勇ましいねぇ、怖気が走る程にな」

 くぐもった笑いは暫く続いて、唐突に途切れた。

「あの女はどうした」
「その汚い舌が届かない所、かな」
「ほーーーぅ」

 闇の中で巨体が蠢く。

「つまりこういうことか。
 『3人』いりゃあ俺を斃すなんて簡単だ。
 命が危ないあの女は他の連中が逃がした。
 これで安心して、心置きなく戦える、と……」

 グレイリップは嗤った。

「あの女が退く? 本気で思ってんのか?
 その程度の理解でよく仲間面なんかできるな、ああ?
 それとも戦いたいだけか? てめえらの方がよっぽど化け物じゃねえのか? ああ!?」

「来るぞ!!」
 鉈の柄を強く握り、マキナが叫んだ。

「ああ行ってやる! あの女が来る前に雑魚を片しとかねえとなあ!?」

 中二階から本棚がふたつ、飛び出した。それは簡素な手すりを易々と喰らい潰し、一階に墜落する。
 舌を打ち、身を返した茜のポケットが震えた。
 暁良が銃を回して見上げた先、本棚の丘から出立した異形の大口が開いていた。


「後悔も残さず擂り潰すぜ! 震えて怯えてチビれやオラァッ!!」


 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!




●プライド

 グレイリップの絶叫は外まで轟いた。
 合歓を抱えて走る常久にも、彼の前を走る神削にも、その腕が抱える千陰にも。

「……て……」

 言葉を聴き取ることはできない。痛みと寒さでかじかんだ唇は暗がりの中でも色が悪いと判るほどだった。だというのに、手は神削の服を強く掴んでくる。

「……な……て……」

「ごめん」

 力になりたかったのに、こんな風になってしまった。
 胸中に持ち上がる後悔を、しかし、色濃い決意が塗り潰していく。

「……だけど、先生がナナシさんを庇った時、本当に誇らしかった。
 俺の尊敬する人は、こうも生徒を、仲間を大切に出来るんだって。
 そんな先生に、死んでほしくないんだ」

 誇らしい。
 尊敬する。
 その一言一言が、千陰の指に、更に力を込めさせていく。

「……でも、だから、あのヴァニタスには勝ってほしい。
 先生の行為を侮辱したあいつに、先生が正しいと証明したい」

「……はなして……」

「俺は先生に救われた。
 俺の力は先生の力だ。
 俺が、俺たちが勝てば、先生が勝ったことになる」


 だから――


「先生は、ここで――」


「……離せ!!」


 胸元を思いきり引かれ、神削は盛大にバランスを崩した。あまりに突然のことだったので反応が遅くなった。腕に乗っていた重みが消え、白が目の前に迫ってくる。受け身は間に合ったものの、彼はそれから二度転がってようやく勢いを殺し終えた。
「ちょ、大丈夫!?」
 つづりに背中を抑えられたまま、口に入った雪を吐き捨てる。
 離れた先で、千陰は立っていた。
 その背中に先程までの弱々しさは無い。憧れ続けた背中がその情景には在った。
 だが、それが精神面だけに因るものであることを、足元の赤い、幾つもの花が告げていた。
 千陰が一歩踏み出すと同時、合歓が駆け寄った。
「……泣かなーいの」
 ぽん、と彼女の頭を叩いて、千陰は進もうとする。
 その先では、

「ここまで馬鹿だとは思わなかったぜ」

 腕を組んだ常久が、まるで仇を見るような目で千陰を睨んでいた。




●クリティカル・ヒット

 グレイリップの咆哮は、折れ、破れたページを存分に舞い散らせた。まるで水面の鳥が一斉に飛び立ったような騒音が館内を支配する。
 訪れた声の塊は、茜が咄嗟に隠れた本棚を爆発させた。木製のそれは幾多の破片となって壁や床、或いは遥か彼方の天井を目指して散る。
 それら一切を気に留めず、茜は進む。髪は金色、纏うは深紅、手にした刀には光の焔。
 彼女の脳天目掛けて鉄塊が振り降ろされる。茜は頭上に刀を送り、戯れるように鉄塊の軌道を逸らした。更に前へ。
 確信した。心得の無い、ただの斬撃だ。恐れるようなものじゃない。もっと強い相手といくらでも斬り合ってきた。
 渾身の一撃を胸元へ叩き込む。焔の軌跡は胸から腹の唇を疾走した。
 視界の隅で毒々しい赤が動いた。茜は咄嗟にグレイリップの腹を蹴る。その反動で後方へ離脱、割れた唇から伸びた舌は虚空を貫き、遠くの本棚に激突した。
「ほーん……」
 顔を向けるグレイリップ。胴の傷は徐々に癒えている。
「やっぱり、続けないと駄目、かな。
 行くよ」
 走る茜に身構えるグレイリップ。
 彼の側面を、遠くから飛来した光の弾丸が乱打した。
「チッ……」
 頭の舌を打ち、体の向きを変える。
 そこには赤毛の青年が飛び掛かってきていた。
「っらああああああッ!!」
 猛りと共に振るわれた鉈がグレイリップの肩を割る。そこへ更に体重を傾け、押し込んだ。
 グレイリップはマキナの下で剣を逆手に持ち替えると、そのまま無理矢理振り回した。得物の広い腹がマキナの背を強く打つ。それでも彼は止まらなかった。肉が閉じる前に1ミリでも奥へと押し進める。
「だあああ、ウゼェ!!」
 茜の斬撃を剣で防ぎ、上体を大きく振ってマキナを振りほどく。
 その仕草からそのまま大口を開け、
「来るぞ、跳べ!」
「なんとかの一つ覚えっと」
 叫んだ。一瞬で迫り来る音塊は、大きく跳んだ茜のつま先を掠め、マキナが隠れた本棚を砕いた。
 少し離れた位置で別の本棚が木屑に変わる。その奥で気配が動いた。鬱陶しい射手のそれだ。
 返そうとした踵に、しかし、電流のような違和感が走った。

「……あ?」

 違和感はやがて痛みへ、そしてナナシが二振り目の魔法剣を突き刺すことで、激痛へ豹変した。

「こ……っ、何処から――!!」


「喧嘩を売りに来たわよ……貴方は、私の大切な人を傷つけた!」


「逆恨みしてんじゃねえぞチビ助が!!」


 憤慨の二連撃。掬い上げるようなそれはなんとか躱したものの、続く打ち下ろしはどうすることもできなかった。硬化させた腕を交差して受けるもナナシは大きく吹き飛ばされて、床に背中を強打した。体勢を持ち直して四肢でブレーキを掛ける。それでも床を滑り続ける彼女を、本棚の陰から飛び出した暁良が抱き留め、再び陰の中へ強引に匿った。
「奇襲成功、だナ」
「まだよ。こんなもので済まさないわ」
「トーゼン」
 精神を集中させ、自身の傷を癒すナナシ。
 彼女の様子を幾らか気にしつつ、暁良が本棚の陰から逆手に握った銃を向け、光弾を連射する。
 グレイリップにしてみれば、これが本当に疎ましくて堪らなかった。
 足の傷は深い。集中的に治してはいるが、できることなら庇いたい。だが甘えが通じるような連中でもない。事実、暁良の乱射は手当たり次第に見せながらも的確に傷ついた脚を狙ってくる。削られまいと剣を立てれば、意識が疎かになった反対側へ茜が息を殺して駆け込んできた。
 そのまま太い身を貫きそうな、脇腹への痛烈な刺突が決まる。
 怒りに任せて剣を振るうが、茜は冷静に、軸足を中心に必要分だけ回転してそれを躱す。
 と、同時、唐突に射撃が止まった。
 つい緩めてしまった、盾に見立てていた剣に、

「がああああああああっっ!!」

 マキナが手斧を叩き付けた。断ち割るのではなく、押し崩すことを狙った一撃。
 がくり、と傾く巨体。それを迎えるように振り上げた紅炎村正がグレイリップの胸元を深々と切り裂く。更にマキナが飛び掛かり、血で染まったような刃で肩を割る。茜が返す刀で腹の口の端を裂いた。そしてこの間もずっと、遠方からの射撃は続いていた。

「っ……オオオオオ!!」

 怒号を上げ暴れるヴァニタス。茜とマキナが離脱し、剣を杖にして起き上がった異形に、遠く、本棚の陰から飛び出したナナシが怒鳴り声を叩き付けた。

「グレイリップ!!」
「何粋がってやがる!!」

 黄ばんだ、岩石のような歯の間から飛び出した舌が一瞬で伸び、その先端がナナシの腹部を捉えた。

「……っ」

 視線を交わし、大回りに移動する茜とマキナ。

 舌がナナシを突き刺すべく、伸びようとする。
 呻き声を上げながら、しかしナナシは逃げなかった。硬化させた腹の奥、腸と骨が軋む音を噛み締めながら、舌の先端に漆黒の魔法剣を突き刺した。


「……ッッ!!」


 激痛が爆発する。
 大急ぎで引き戻そうとして、だがその挙動は本人が意図したものよりも数段緩やかなものだった。それだけはさせないと、ナナシが剣の柄を両手で握り、決死の覚悟で引き留めていたのだ。
 この思いに仲間が応える。
 離れた位置で茜が床を蹴った。刀を強く握り締め、宙で舞うように二度回転。勢いの乗った刀身は着地と同時に振り降ろされ、真芯を捉えられた舌はざっくりと裂けた。
 対面からはマキナ。再び手にした鉈を本気も本気で叩き込む。

「〜〜〜ッッ!!!」

 中央だけで続く舌を、グレイリップは思いきり振り上げた。茜が距離を置き、マキナは先端へ顔を向ける。
 ナナシは突き刺した黒い剣を握ったまま、高らかと持ち上げられていた。

 叩き落とす。

 敵の意図を感じ取ったナナシは、その腕を伸ばし、手のひらから生み出した剣を放った。狙いは仲間が裂き、割ったあの一点。
 ざく、と小気味よい音がした。
 グレイリップが堪らず舌を振り回す。堪えきれず手を離してしまったナナシを、飛び出したマキナが空中で受け止めた。抱えられながら見守る先、暗闇の中を暴れる赤に光が放たれた。それが黒い剣の向かいから激突すると、それでようやく、気味の悪かった長い舌は中央近くからぶつ、と切れた。
「よし……!」
「まだだよ!」


 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 絶叫が木霊する。


 !!!!!!!!!!!!!!!!!

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 窓ガラスが割れ、壁が揺れ、天井が解れ、紙吹雪が舞い上がる。
 痛み、怒り、憎み、悲しみ、或いはその全てを込めて、グレイリップは何度も、何度も叫んだ。

 暁良の付近の棚が連続して四散した。彼女は武器を逃がすように腕を伸ばしたまま破片の中に埋もれていく。
 茜は倒れていた本棚を踏みつけて無理矢理起こして難を逃れるが、連続する衝撃に辺りのバリケードが尽きてしまう。3度目のそれには直撃を許してしまい、背中から壁に激突。頭痛と眩暈に耐えられず膝を付いた。
 宙にいたマキナとナナシは初撃と追撃が決まっていた。彼らは互いを庇い合うようにしながら木屑と紙屑の山に墜落する。

 グレイリップが動き出す。切れた舌は繋がらない。そういう体にされている。斬られた足は踏み出すだけで激痛が走った。だが、それらを些細と思える程度には、彼はキレていた。
 どいつから潰してやろうか。
 いや。
 決めていたはずだ。
 先ずはあの鬱陶しい、疎ましい射手を。
 グレイリップは二刀を掲げ、瓦礫の中の暁良目掛けて爆走した。




●ペナルティ・エリア

「最初から間違ってんだよ。アレが前に言ってた解答欄で、今までの行いが答えなら、お前さんは0点だ。
 甘えるのと頼るのはちげぇし、仲間を見捨てたのはどっちだ? よく考えやがれ」
「見捨ててなんかない」
「見捨てたのと同じなんだよ。その傷が証拠だ。
 お前さんが手軽な逃げに走ったせいで、ナナシちゃんやあいつらがどんな気持ちになったと思ってんだ?」
「逃げてなんかない」
「逃げたじゃねぇか。自己犠牲なんつうのはただの独善だ。守られた身にもなりやがれ。
 それでもやるなら自分含めて全部守って見せやがれ。
 んで、それができなかった時点で、お前さんは0点なんだよ」
「どいてください」
「やなこった。
 この結果はお前さんが招いたもんだ。後は、お前さんを独りにさせないって全力を尽くしてる仲間を頼るんだな。
 大人しく先に帰ってろ」

「……ふふっ」

 千陰が歩みを進める。時折大きく左右に揺れながら。

「このまま、何もできないまま、帰れって?
 全部みんなに任せて、ひとりだけ、後ろで、休んでろって?
 ――んなこと……できるわけねぇだろがあああッ!!」

「どこまで馬鹿なんだ、てめぇは……!」

 常久が千陰の胸ぐらを掴んだ。
 傷口から赤が噴き出したが構わない。流れている涙も知ったことではない。
 言わねばならないことがあった。

「お前のその我が侭が、どれだけのあいつらを傷つけたと思ってやがる!
 つづりちゃんや合歓ちゃんがどんな気持ちで追い駆けて来たのか、わかってんのかてめぇは!!」
「必ず帰るってメールしたよ! 首だけになったって絶対帰るって、そういう覚悟で私は来たんだ!!」
「ふざけてんじゃねぇぞ!!」


 ――お前の笑顔は、たくさんの子供たちの支えになれたはずなのに。


「今の言葉を、学園で待ってる連中にも言えるのかよ、てめぇは!!」


「ここでみんなに任せて戻った私が、帰っていい場所なんか無いんだ!!!」


 ――今まで多くの、本当にたくさんの笑顔に触れてきてしまったから。


「……お願いです、征かせてください。ここで退いたら、本当に、私は……」


 がくん、と重心が下がる。
 常久が手を伸ばすより早く、駆け込んできたつづりと合歓が千陰の両脇を、神削が背中を支えた。

 そら見たことか。常久は短く息を吐く。
 だが、それを思わず呑み込むような言葉がつづりから発せられた。

「あたしからも、お願いします」
「駄目だ。この馬鹿連れて学園に戻れ」
「市川さんが救助隊を乗せたヘリを向かわせてくれてるらしいんです。
 到着したら、ケリがついてなくてもすぐに乗せて帰ります。
 だからそれまで司書をここにいさせてやってください。あたしと伍が守ります。絶対に」
 合歓が頷き、つづりが続ける。
「お願いします。
 司書はバカだけど、バカなりに考えたんだと思います。
 上手く言えないんですけど……そういうところ、失くさないで帰ってきてほしいんです」
「――ちゃんと、帰ってきて、ほしい……だから……私たちも、戦える、から……!」
 千陰が顔を上げた。
「……駄目よ。あなたたちは――」
 彼女の襟元を、右からつづりが、左から合歓がぐい、と掴む。
「いい加減空気読めよ……!」
「――救っておいて、勝手に捨てないで!」

 2人の言葉に耳を傾けながら、常久は視線を伸ばす。
 神削は暫く悩んでいたが、やがて顔を上げ、強い瞳で静かに頷いてきた。

 ここで駄目だと伝えれば、千陰は、それこそ命と引き換えに戦場へ向かうだろう。
 それでは駄目なのだ。
 全員で生きて帰らなければ、例え勝利したとしても、そこにはなんの意味も無いのだから。


「「お願いします!」」
「……」


 常久は短い髪を混ぜながら膝を折り、千陰を正面から見据えると、頬を裏手で二度叩いた。


「……いきなり突撃したりしねぇか?」
「しません」
「こいつらやあいつらのこと、信じて頼れるか?」
「はい」
「無茶なことするんじゃねぇぞ。したら承知しねぇからな」
「……善処します」


 馬鹿野郎が。重い溜息を吐き、常久は立ち上がる。


「先に止血だ。神削、頼む」
「ああ、判った」
「つづりちゃん、できるか?」
「……はい!」

 2人は呼吸を合わせ、千陰を横にしていく。倒される本人は唇を噛み締めていた。
「月詠君」
「ん?」
「……ごめんね」
「いいんだ。先生が先生であり続けている限り、先生は俺の誇りなんだから」
 これを、と、口に丸薬を運んだ。喉が動いたことを確認しながら、頭や胴の深い傷を包帯できつく締めていく。
「参」
「なあに?」
「……下手じゃね?」
「同じ温度で来いよ!!」

 こんなんで大丈夫なのか。口元を揉む常久の背に、遠くから振動が届く。
 図書館の中から轟く敵の声は警鐘のように聞こえた。
 楽観などしていない。間違いなく中は激戦だ。守ることも容易ではあるまい。
 だが。

「――大丈夫」
 合歓が黒い服の裾を摘んだ。
「――頑張るから」

 こうまで真っ直ぐ言われて、無碍に出来るわけがなかった。
 全力を尽くす。全員必ず生かして帰す。その為だったら何でもやる。
 心に固く決め、黒いフードの雪を払ってやった。




●イン・ザ・ライブラリー

 グレイリップが剣を振り降ろす。
 その直前、彼の足元の木屑が爆ぜ、暁良が跳び出してきた。ご苦労なこって。笑みを深め、しかしその挙動は唐突に止まった。
 胸元を襲った衝撃は一度にして特大。
 暁良の手に銃は無く、代わりに文字が並んだ布が巻かれていた。攻撃は最も慣れ親しんだ拳に因るもの。
 それを穿った胸の中で握る。
「ようやく」
 帽子のつばの向こうで暁良は括目する。
「ようやくだ。こっからだゼ」
 言葉通り、暁良の猛攻が始まる。果敢に、強引に踏み込めば、剣の威力は半減する。身を襲う痛みさえ甘受しながら彼女は殴り掛かった。何度も、何度も、何度も何度も。
「こっ……いつゥ……ッッッ!!」
 彼女はずっと見ていた。
 グレイリップが現れた時から、千陰に存在を聴いた時から、この夜が始まった時から、ずっと。
 全てが布石。この瞬間、確実に、その醜悪な全てに全身全霊をブチ込む為の置石。
 それが遂に実を結んだ。
 ボディブローが絶好の角度で癒え切らない裂創に決まる。
「俺を銃使いと思い込んだのは手前の罪で」
 振り上げられた剣に肩を削がれながらも前へ。
「今、ブッ斃されて消滅するのが、手前の罰だ」
 渾身のストレートが初撃と同じ位置に叩き込まれた。

「気取ってんじゃねえぞぉぁああッッ!!」

 怒りに任せて振られた剣を、帽子を抑えて半身で躱す。
 その向こうから黒剣が飛来した。ナナシの怒りを乗せたそれは腕へ、決意を孕んだそれは腹の上唇に突き刺さる。
 更に押し込むように暁良が拳を打ち降ろす。彼女の陰から飛び出したマキナが胸元の患部を鉈で叩き割った。
「だ……ッッ!!」
 彼を薙ぎ払うべく力を込めた片腕に茜が斬り込んだ。すれ違いざまの連斬は全て直撃、太い腕の5箇所から黒ずんだ体液が噴き出した。

「……ッ」

 慣性を踏ん張る茜の胸元に、出鱈目に振り回された剣が直撃した。突風のような一撃を受け、彼女はごろごろと床を転がり、壁の寸前で受け止められる。
 もう一振りはマキナを捉えていた。首の付け根を思いきり打たれた彼は床に墜落、一度大きく跳ねたところをナナシに支えられ、なんとか立ち上がる。口の中には鉄の味が充満していた。
 嵐のような斬撃を前に、それでも暁良は退かなかった。横薙ぎは軸足を大きく下げて屈んで躱し、そのまま飛び込むようにして左右のコンビネーションを決める。手応え有り。だが敵も必死だった。
 沈黙を守っていた腹の口が開き、先端が平たくなった舌が伸びてくる。暁良は舌打ち、これを跳んで回避する。
 そこにグレイリップが、抱き締めるように両腕を振った。
 身体を×字に割られた暁良が墜落する。
 その音に茜は思わず眉を寄せ、ナナシは背筋を凍て付かせた。
「あの野郎……!!」
 得物を替えるマキナと、跳び出そうとしたナナシを、


「動くんじゃねえええッッ!!」


 グレイリップが一喝し、暁良の喉元に剣の先端を向けた。
 巨躯の息は上がっていた。舌、胸元、肩、腕、脚、そのどの傷も深く、中々癒えない。このままでは本当に命が危ういと全身が叫んでいる。
「もう充分だろ。見逃せ。ここで一人失うよりはマシだろ」
「ふざけンナ」
 否定の言葉は、他ならぬ暁良から。眼の輝きは未だ失われていなかった。
「まだ何にも終わってネーぞ」
「黙ってろ!!」
「やってみれば?」
 隣を一瞥した茜が、刀を握り直して立ち上がる。
「絶対にできないと思うけど」
 状況を理解したマキナとナナシもあごを引く。
「俺はお前のそういうところが心底気に入らないんだよ」
「貴方は詰んでるのよ。貴方の前に私たちと小日向さんが現れた時から。せめて最期まで戦士として戦いなさい!!」

「……上等だよ」

 力を込めた腕が一回り大きくなる。

「この……ボケ共がぁぁぁあああああ!!!」

 振り上げた腕


 が、


 ピタリと止まった。

「あ……!?」

 太い腕には赤い鋼糸。
 茜の隣、完璧に気配を殺した合歓が操るカーマインが絡み付いていた。

「ッ……がああああッッ!!」

 強引に振り回される腕の下、暁良が床を突いて離脱する。まだ刃圏の内にいた彼女の脚にマキナが黒い鋼糸を振った。思いきり彼女を引き寄せる。飛ばされそうになった帽子を抑えながら、暁良は離脱に成功した。
 縛られた腕を体ごと振り回す。合歓の体が浮いたが、茜は手を出さない。互いの力量は知っている。
 宙に運ばれた合歓が身を返して腕を引く。赤い鋼糸は幾重もの切り傷を残してグレイリップの腕を離れた。
 入り口を蹴破り、神削が駆け込んでくる。
 中二階に着地した合歓は、そのまま大きく回り込む。
 傷だらけの腕を潜ったマキナが、滑り込むようにしてグレイリップの脚を薙ぎ払った。
 どん、と床に突かれた腕を、茜が鋭く息を吐きながら一閃する。刃は一旦骨に手間取ったものの、向かいから暁良が殴り飛ばすと、その勢いを糧にして切断を成した。
 不格好な腕が闇へ飛ぶ。
 館内に響く化け物の嬌声。
「(やべえ――!!)」
 急ぎ立ち上がるグレイリップ。その頭上には黒ずくめの巨漢が跳んでいた。手にした直刀の柄が異形の頭を正確に打ち抜く。ぐらり、と揺らぐ巨体の肩を蹴り離脱、常久は叫んだ。
「決めてやれ!!」
 神削が応える。
 彼は大きく踏み込むと、大きく、腹の底から叫びながら、存分に振り回した眩く輝く三節棍を、怨敵の胴体目掛けて振り抜いた。
 身体を袈裟懸けに抉られ、それでも剣を握るグレイリップの鼻が、ある匂いを拾った。

 いつか何処かで嗅いだような、血塗れの匂い。

 極限下の感覚が、神削の背後から飛び出した気配を探り当てる。
 ほらな、言ったろ?
 せめてお前だけは。
 逆手に握った剣を振り上げる。
 持ち主に似た無骨な鉄塊は、軌道の途中で、館外から撃ち込まれた橙色の光に弾き飛ばされた。


 己の全てで叫びながら千陰が旋棍を振り抜く。



 パンッ



 軽い音を残して、グレイリップの頭が、熟れた石榴のように弾けた。



「――」
「――」



 一同が見守る中、

 グレイリップの腕が持ち上がり、千陰の足を掴んだ。そして次の瞬間には、目的も目標も無く、彼女を放り投げた。
 先回りしていた合歓は間に合う。床を蹴り、千陰を受け止めるが止まらない。
 体を強張らせる2人を、常久が確りと抱き留めた。
 そのまま壁に激突する。
 合歓が名前を呼ぶ。
 千陰から視線が返ってきた。
「偉いぞ。良く守ったな」
 後は任せろ。合歓の頭をくしゃくしゃと撫で、常久は図書館の中央を目指す。


 グレイリップは、

 !!!!!!!!!!

 残った口で喚きながら、

 !!!!!

 床に転がって悶絶し、

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 残った頭を片腕で掻き集めていた。
 とても見ていられる光景ではなかった。
 蠢く腕の付け根を、常久が直刀で刺突する。びくん、と震え、拳が作られた。
 傷だらけの腕が動き出す直前に、神削が再び三節棍を叩き付けた。直撃の瞬間に光が弾け、巻き込まれた肉が削げ落ちる。枯れ枝のようになったそれが常久の上に垂れる前に、マキナが鉈で一閃、刈り取った。
 両腕を失い、膝で立ち尽くす巨躯に茜が向かう。柄を握る手にはつい力が入った。強く床を踏み鳴らし、神速の連斬を放つ。前面に生まれた4つの切り傷は盛大に中身を吐き出した。
 顔の横で刀を返すと同時、バン、とグレイリップの体が、口から上下に割れた。駆け抜けてきたナナシが手にした二振りの黒剣を下腹部に投げつける。
 上部に付いた上唇を暁良が掴んだ。彼女はその肉塊を引きずって数歩歩くと、手近な壁に向けて投げ付けた。そしてそれが落ちる前に、大きく振り被り、つんのめるような体勢になりながら拳を打ち付けた。
 首元さえ失った上体はずるり、と床へ落ちる。
 のたうっていた下半身も、数回震えて、ぐしゃりと潰れて、それきり動かなくなった。




●グッド・モーニング

 戦いが終わったことを実感すると、全身の痛みと、溜まった疲労が一気に主張を始めた。つい折れそうになる膝に手を突いてなんとか堪える。
 似た症状は茜とマキナにも現れていた。だが、まだ目を閉じるわけにはいかない。確かめなくてはならないことがあった。
「せんせー……」
「小日向司書……」
 合歓に抱き締められたまま、千陰がすっと手を挙げる。
「ふたりともー、大丈夫ー?」
「どうってことない、けど」
「大人しくしていられなかったんですか?」
「うん」
 カッコつけに来た。千陰はニッと笑って、指を二本立てて見せる。
「……ついてないと思うよ?」
「ええ、酷い有り様です」

「小日向さん!」

 震える声は背後から。
 2人が振り返り、道を開けると、ナナシは千陰の胸に飛び込んだ。

「何を考えてるの、貴方は!!
 そんな状態で出てきて……どこまで心配かければ気が済むの!?」
 揺らされる肩は痛んだが、千陰はそれを堪えた。
「……だーいじょーぶ。大丈夫だから」
「大丈夫なわけないじゃない!!」

 だって、その傷は――

「私は……私が、あの時……! 私のせいで、小日向さんが……!!」

 小さな頭をぽんぽんと撫で、抱える。

「ごめんね。大丈夫」
「でも……!」
「私は、もう大丈夫だから」
「……ぅ……」
「ありがとね」
「……ぁぁ……ぅぁああああああああああああああ!!
 ごめんなさい、ごめんなさい……! 私……私……!!
 うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「大丈夫。大丈夫だから。
 私の方こそごめんね。
 ほんとにありがとね」


 出口へ向かう暁良を神削が呼び止めた。
「……大丈夫か?」
「あぁ、大したことネーよ」
「混ざったっていいと思うぜ?」
 常久があごで示した先では、センセーとナナシが抱き合って泣いていた。
「ン〜」
 少しだけ考えるふりをしてから
「……いや、せっかくなら落ち着いた時だナ」
 それきり、帽子を抑えて外へ。
 雪はすっかり小降りになっていた。
 暁良の姿を確認して、ようやくつづりはスナイパーライフルを降ろした。
「司書は?」
「生きてるゼ」


「ナナシちゃんばっかりずりぃぞ! そろそろワシと代わってくれ!」
「……は?」
「うるせぇ結局突っ込みやがって! オシオキ☆も兼ねてムーンサルトで行くからな!」
「え? うそ、冗談ですよね久我さん。ちょっと待ってナナシさんどこいくの! あ伍もいない!? 待って待って待ってふぬあーっ!!」


「……多分ナ」
「……そう……」
 よかった。呟き、つづりは雪の上にこてん、と倒れた。
 高い位置から、ライトが2人を丸く照らし出す。少し前から聞こえてきたプロペラの音は、辺りの白を舞い上がらせるほど近くなっていた。
 冴えない朝日だ。暁良は目を細めると、長かった夜を回顧しながら、ゆっくりと息を吐いた。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 撃退士・久我 常久(ja7273)
 暁の先へ・狗月 暁良(ja8545)
重体: −
面白かった!:11人

血花繚乱・
神喰 茜(ja0200)

大学部2年45組 女 阿修羅
釣りキチ・
月詠 神削(ja5265)

大学部4年55組 男 ルインズブレイド
BlueFire・
マキナ(ja7016)

卒業 男 阿修羅
撃退士・
久我 常久(ja7273)

大学部7年232組 男 鬼道忍軍
暁の先へ・
狗月 暁良(ja8545)

卒業 女 阿修羅
誓いを胸に・
ナナシ(jb3008)

卒業 女 鬼道忍軍