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みんなの思い出
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オープニング
●
１１月某日 正午 快晴
●
久遠ヶ原学園は群馬県への作戦を実行に移していた。
遥か彼方に県庁を臨む戦場では、多くの撃退士が数多のディアボロと相対し、懸命に討伐を続けていた。
誰もが疲弊の色を滲ませ、肩で息を整えながら、しかし一歩も退き下がろうとしない。
何度目かのディアボロの増援に、しかし声を張り上げ、互いを励まし合い、苦境に立ち向かっていた。
「そろそろだな」
「ですね」
後方、本陣で女性職員が光信機に口を近づける。
「各隊、行動を開始してください」
●群魔県庁
「トゥラハウス様、また敵の増援です！ 今度は南側、あの橋を渡って進軍してきます！」
「数は？」
「見た時はさほどでもありませんでしたが――目測ですが、実力が段違いと思われます。方々でディアボロと交戦している連中とは、匂いが違います」
狙いは突破か、或いは殲滅か。情報が足りない以上、迂闊に手を出すことはできない。
しかし捨て置くこともできない。
「スコルピオと東海林を向かわせろ」
「今しがた、交差点で迎撃するよう伝えてきたところです」
「重畳だ」
だが、果たして手負いの悪魔と、あのヴァニタスで事が足りるかどうか。
手駒が足りぬとはここまで歯痒いものなのか。トゥラハウスは重々しく息を吐く。
「トゥラハウス様……？」
「なんでもない」
彼の――無意識下の――心の支えは、動き出した事態を真っ赤な瞳で見つめるアバドン。まだ行動を開始しないとこを見ると、まだ『進言』を聞き入れてくれているようだ。ひとたび動き出せばすべてを呑み込むまで止まらないその力は、県庁という拠点を守るのに最適と言えた。
「（そうだ。いずれにせよこれが居れば、敗北など有り得ん）」
ほくそ笑むトゥラハウスの下で、アバドンの巨大な頭がぐい、と持ち上がり、北を向いた。
「……なんだ、どうした？」
「と、トゥラハウス様！！」
アバドンが見つめ、使い魔が指さし、トゥラハウスが振り向いた先。
空に、３名の天使が浮かんでいた。揃った衣装を着ている。白いシャツ、黄色い生地に黒の文様。胸元には彩色のリボン。嫌というほど見てきた、敵の証。
「……止めさせろ」
「は……？」
「早く行け！！」
トゥラハウスが檄を飛ばす間に、事態は急転する。
３名の天使が構えた銃、その口が一斉に火を噴いた。飛び出した光は一直線にアバドンを目指し、着弾する。
距離もあり、また力も不足していた為、致命的なものどころか傷を与えることさえ適わない。
それでも天使は狙撃を続けた。懸命に、執拗に、意地悪く。
そして、遂にそのうちの一発がアバドンの眉間、目元近くを捉えた。
「……アアアアアア……！」
成る程、と。
「ガアアアアアア……！」
敵でいいのだな、と。
「いけません、アバドン様。捨て置くべきです」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……！！」
おあずけを受け続け、挑発を受け、敵を認めた暴将は、
「アバドン！！」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！！！！！！！！！！！」
咆哮で震わせた空へ、翼を広げて飛び立った。
天使たちはトゥラハウスの想像通り、一目散に撤退を開始した。それを暴将が猛追する。
「ドクサはまだ見つからないのか」
使い魔は首を振る。
「同行したディアボロがやられた報告は受けていますが、行方は知れていません……」
「ならば貴様でよい。全身全霊でアバドンを補佐しろ」
「っ……尽力、いたします……」
苦々しい表情で飛び去る使い魔。それを軽く見送り、トゥラハウスは県庁の中へ戻っていく。
「（わざわざアバドンを『引き離した』ということは……本当の狙いは此処か。
念の為、迎撃の手筈を整えた甲斐があったというものだ。どの道、退路であるゲートを危険に晒すことはできない）」
勝手に鼻が鳴った。
「あのでくの坊だけが脅威だと感じているのであれば、見当違いだぞ、原住民」
残った僅かなディアボロに号令をかけ、彼は大急ぎで布陣を整える。
●県庁南方
巨大な交差点に差し掛かったあなたたちの目に入ったのは、正面から進軍してくる魔勢だった。カタカタと髑髏に似た頭を揺らして迫るそれらの奥には、女性の成りをしたヴァニタスが浮いていた。
「通さないわ。通れもしない。そして逃しもしない！」
ヴァニタス・東海林が合図を送ると、南へ続く道路に別の魔勢が出現した。まず小粒な蛙を模したディアボロが群れを成し、それらの前に頭からローブをまとったような骸骨の一団が整列する。
間髪入れず北から届いたのはキュラキュラという轟音。
見れば巨大な戦車が進軍してきていた。胴体から伸びた５つの頭のうち２つは潰れていたが、残りの頭部は猛々しく口を開き、あなたたちを威嚇している。
「調子に乗り過ぎたな、原住民共！！」
戦車の上には、片腕を失った異形の悪魔の姿があった。
「誰ひとり逃がすものか！！ ここは絶対に通さんぞ！！」
三方からの殺意が、包囲網となってあなたたちに迫り来る。
●県庁北方
囮を務めていた３名の天使は、背中に当たる咆哮に耐えながら下方を確認した。ディアボロの群れが引いた建物の裏手を、精鋭たち――県庁強襲班が駆けて行く。
彼らを追い越したところで３名は高度を落とした。アバドンは一際大きく咆え、続いてくる。立ち並ぶ民家やビルを砂のそれのように踏み潰し、蹴散らしながら追い立ててくる。
大通りに出ると、３名は速度を上げた。待ち構える仲間――あなたたちの視線を受けながら、特大の施設に飛び込む。
「あとは任せたからな！」
「よろしくお願いします！」
「みなさん、お気を付けて！」
激励に応えるように、あなたたちは南を向く。
全身に闘気を滾らせた暴将は目前に迫っていた。
●県庁屋上
「ダッセ。あっさり分断されてやんの」
誰の影もなくなったその場所で、ドクサは独り、胡坐をかいて戦況を見物していた。
「アバドン様は無敵として、あそこは――あーなるほど、包囲したわけか。でも……や、まだわかんないか。
トゥラハウスはどうせいろいろ細工してんだろうけど。アイツだけマジで死なねえかな」
或いはヴァニタスが残っていれば賭けにでも興じるのだが、彼女は孤独だった。
だから淡々と独り言を紡ぐ。
「精々頑張ってよ、ゲキタイシ。あっちに帰ったときの土産話にするからさ」
どうせ勝つのはこっちだろうけど。
呟き、ドクサは身を乗り出す。
１１月某日 正午 快晴
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久遠ヶ原学園は群馬県への作戦を実行に移していた。
遥か彼方に県庁を臨む戦場では、多くの撃退士が数多のディアボロと相対し、懸命に討伐を続けていた。
誰もが疲弊の色を滲ませ、肩で息を整えながら、しかし一歩も退き下がろうとしない。
何度目かのディアボロの増援に、しかし声を張り上げ、互いを励まし合い、苦境に立ち向かっていた。
「そろそろだな」
「ですね」
後方、本陣で女性職員が光信機に口を近づける。
「各隊、行動を開始してください」
●群魔県庁
「トゥラハウス様、また敵の増援です！ 今度は南側、あの橋を渡って進軍してきます！」
「数は？」
「見た時はさほどでもありませんでしたが――目測ですが、実力が段違いと思われます。方々でディアボロと交戦している連中とは、匂いが違います」
狙いは突破か、或いは殲滅か。情報が足りない以上、迂闊に手を出すことはできない。
しかし捨て置くこともできない。
「スコルピオと東海林を向かわせろ」
「今しがた、交差点で迎撃するよう伝えてきたところです」
「重畳だ」
だが、果たして手負いの悪魔と、あのヴァニタスで事が足りるかどうか。
手駒が足りぬとはここまで歯痒いものなのか。トゥラハウスは重々しく息を吐く。
「トゥラハウス様……？」
「なんでもない」
彼の――無意識下の――心の支えは、動き出した事態を真っ赤な瞳で見つめるアバドン。まだ行動を開始しないとこを見ると、まだ『進言』を聞き入れてくれているようだ。ひとたび動き出せばすべてを呑み込むまで止まらないその力は、県庁という拠点を守るのに最適と言えた。
「（そうだ。いずれにせよこれが居れば、敗北など有り得ん）」
ほくそ笑むトゥラハウスの下で、アバドンの巨大な頭がぐい、と持ち上がり、北を向いた。
「……なんだ、どうした？」
「と、トゥラハウス様！！」
アバドンが見つめ、使い魔が指さし、トゥラハウスが振り向いた先。
空に、３名の天使が浮かんでいた。揃った衣装を着ている。白いシャツ、黄色い生地に黒の文様。胸元には彩色のリボン。嫌というほど見てきた、敵の証。
「……止めさせろ」
「は……？」
「早く行け！！」
トゥラハウスが檄を飛ばす間に、事態は急転する。
３名の天使が構えた銃、その口が一斉に火を噴いた。飛び出した光は一直線にアバドンを目指し、着弾する。
距離もあり、また力も不足していた為、致命的なものどころか傷を与えることさえ適わない。
それでも天使は狙撃を続けた。懸命に、執拗に、意地悪く。
そして、遂にそのうちの一発がアバドンの眉間、目元近くを捉えた。
「……アアアアアア……！」
成る程、と。
「ガアアアアアア……！」
敵でいいのだな、と。
「いけません、アバドン様。捨て置くべきです」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……！！」
おあずけを受け続け、挑発を受け、敵を認めた暴将は、
「アバドン！！」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！！！！！！！！！！！」
咆哮で震わせた空へ、翼を広げて飛び立った。
天使たちはトゥラハウスの想像通り、一目散に撤退を開始した。それを暴将が猛追する。
「ドクサはまだ見つからないのか」
使い魔は首を振る。
「同行したディアボロがやられた報告は受けていますが、行方は知れていません……」
「ならば貴様でよい。全身全霊でアバドンを補佐しろ」
「っ……尽力、いたします……」
苦々しい表情で飛び去る使い魔。それを軽く見送り、トゥラハウスは県庁の中へ戻っていく。
「（わざわざアバドンを『引き離した』ということは……本当の狙いは此処か。
念の為、迎撃の手筈を整えた甲斐があったというものだ。どの道、退路であるゲートを危険に晒すことはできない）」
勝手に鼻が鳴った。
「あのでくの坊だけが脅威だと感じているのであれば、見当違いだぞ、原住民」
残った僅かなディアボロに号令をかけ、彼は大急ぎで布陣を整える。
●県庁南方
巨大な交差点に差し掛かったあなたたちの目に入ったのは、正面から進軍してくる魔勢だった。カタカタと髑髏に似た頭を揺らして迫るそれらの奥には、女性の成りをしたヴァニタスが浮いていた。
「通さないわ。通れもしない。そして逃しもしない！」
ヴァニタス・東海林が合図を送ると、南へ続く道路に別の魔勢が出現した。まず小粒な蛙を模したディアボロが群れを成し、それらの前に頭からローブをまとったような骸骨の一団が整列する。
間髪入れず北から届いたのはキュラキュラという轟音。
見れば巨大な戦車が進軍してきていた。胴体から伸びた５つの頭のうち２つは潰れていたが、残りの頭部は猛々しく口を開き、あなたたちを威嚇している。
「調子に乗り過ぎたな、原住民共！！」
戦車の上には、片腕を失った異形の悪魔の姿があった。
「誰ひとり逃がすものか！！ ここは絶対に通さんぞ！！」
三方からの殺意が、包囲網となってあなたたちに迫り来る。
●県庁北方
囮を務めていた３名の天使は、背中に当たる咆哮に耐えながら下方を確認した。ディアボロの群れが引いた建物の裏手を、精鋭たち――県庁強襲班が駆けて行く。
彼らを追い越したところで３名は高度を落とした。アバドンは一際大きく咆え、続いてくる。立ち並ぶ民家やビルを砂のそれのように踏み潰し、蹴散らしながら追い立ててくる。
大通りに出ると、３名は速度を上げた。待ち構える仲間――あなたたちの視線を受けながら、特大の施設に飛び込む。
「あとは任せたからな！」
「よろしくお願いします！」
「みなさん、お気を付けて！」
激励に応えるように、あなたたちは南を向く。
全身に闘気を滾らせた暴将は目前に迫っていた。
●県庁屋上
「ダッセ。あっさり分断されてやんの」
誰の影もなくなったその場所で、ドクサは独り、胡坐をかいて戦況を見物していた。
「アバドン様は無敵として、あそこは――あーなるほど、包囲したわけか。でも……や、まだわかんないか。
トゥラハウスはどうせいろいろ細工してんだろうけど。アイツだけマジで死なねえかな」
或いはヴァニタスが残っていれば賭けにでも興じるのだが、彼女は孤独だった。
だから淡々と独り言を紡ぐ。
「精々頑張ってよ、ゲキタイシ。あっちに帰ったときの土産話にするからさ」
どうせ勝つのはこっちだろうけど。
呟き、ドクサは身を乗り出す。
リプレイ本文
該当リプレイは特設ページで公開しています。
http://www.wtrpg9.com/event/event_gunma02/novel_list.html
http://www.wtrpg9.com/event/event_gunma02/novel_list.html
依頼結果
＜暴将との激戦を戦った＞という理由により『重体』となる
