.


マスター:稲田和夫
シナリオ形態:ショート
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2015/06/30


みんなの思い出



オープニング

●久遠ヶ原学園

「……不可解だな」

 学園内のとある資料室で――悪魔教師・太珀(jz0028)は人知れず眉をひそめていた。
 彼の手中にあるのは、彼と親交の深い幾名かの生徒から寄せられた情報、新聞同好会からの調査報告、そして依頼斡旋所の報告書の束。
 それらは凡そここ半月の間に発生し、久遠ヶ原学園で報告された『埼玉県』および『千葉県』での事件に関する報告であった。

 一つ一つを突き合わせながら首をひねる太珀のもとに、今また、新たな報せなが舞い込む。
 資料室の扉を壊さんばかりの勢いで、部屋へと飛び込んできたのは新聞同好会の中山寧々美(jz0020)である。

「お疲れ様です、太珀先生。やっぱり先生の言う通り――」
「……現れたか? 大物が」
「はい」

 寧々美が取り出したるは、今まさに教室の掲示板へと貼りだされている複数の依頼書。
 その幾つかには、学園へとやってきて以降、太珀が幾度も目にしてきたような冥魔の名前も連なっていた。

「……ん、いや? 待てよ」
「どうしました?」
「僕は『教室に学園生と交戦履歴のある強力な天使に関する依頼』が出ていないか調査してほしい、と伝えたはずだが」
「……あら?」

 やっちゃった、という表情で己の手中の情報を眺める寧々美。
 しかしその側で、太珀はふと、それらの奇妙な一致点を見い出すのであった。

「……待て、中山。もしかするとお前、凄まじいことをしてくれたかもしれないぞ」

 言葉の強さに怯え肩を震わせる寧々美をよそに、太珀は顎へ手をやり熟考する。
 彼の手に渡された紙束には――奇妙なまでに近距離のうちに姿を現した、様々な経歴を持つ難敵達の名前が連なっていた。

●埼玉県某市・郊外
 その「難敵」の一人、旅団長ソングレイ(jz0224)は興が醒めた、という風情で大鎌を肩に担いだ。
「何だ。存外呆気が無いじゃないか。後はお前一人だけだぜ。小僧」
 
 ソングレイの周囲には、5名の撃退士が血溜まりの中で呻いていた。
 学園側も、埼玉に高名な天魔が集まり始めていることは充分に承知しており、送り込まれた彼らは企業所属やフリーでも相応に名の知られた者などで戦力に不安はない。
 しかし、彼らの遭遇したソングレイが、かつて東北の戦いで多数の撃退士に凄まじい猛威を振るって見せた天魔であることを鑑みれば、この現実は決して意外ではない。
 だが、一つ奇妙なことがあった。
 それは、倒れている撃退士の傷がいずれもソングレイの最大の武器である大鎌によるそれではなく、銃創であることだ。

「俺の戦い方は大分お前らにも知られているみたいじゃないか。少しは工夫するのも当然って訳さ……ふん、お前膝が笑ってるじゃないか」

 ソングレイは、チームでただ一人残った箕星景真の様子を見ると侮蔑したように吐き捨てる。

「興醒めだな。……そうだ、こういう時人間共はこう言うそうじゃないか。『家に帰ってママのお乳でも吸ってな』」
「黙れ!」
 ソングレイがそう吐き捨てた瞬間、箕星は大地を蹴ると、愛用の槍を構え、猛然と相手に突撃した。

「学ばない奴らだな」
 だが、ソングレイは慌てた様子も無くパチンと指をならす。
 直後、戦場の背後の林に追われた斜面から、一条の紅い光が放たれた。
 それは弾丸にしては不自然な軌道で箕星の身体に迫る。
 そう、この正体不明の弾丸こそが撃退士たちを壊滅させた原因であった。ソングレイが撃退士たちの攻撃をいなしている隙に、長距離から謎の狙撃手が次々と彼らを射抜いたのだ。
「これでゲームオーバーだな……ああ?」
 欠伸すらしていたソングレイの目に好奇の光が宿る。
 しかし、箕星はこれを読んでいた。それまでの狙撃から、大体のタイミングと方向を掴んでいた箕星はこれを武器で受けると。そのまま全体重を乗せてソングレイに槍を叩きつける。
「ははっ! こいつは……!」
 流石のソングレイも数m吹き飛ばされる。
 そして、体勢を立て直して、今だ膝を震わせる箕星を面白そうに見たソングレイはようやく気付いた。
「何だ……お前、怯えていたのじゃなく、怒っていたんじゃないか」
「『九魔』の一人ソングレイ……僕は、僕はあなたを許せない! 面白半分に東北を荒らしまわって、魂を奪った人たちを、あんな恐ろしいディアボロにっ……!」
 箕星は、かつて九魔侵攻の首魁であるザハーク・オルスの作成したブラッドウォリアーと呼ばれるディアボロの変種に一度敗北し、最終的にそれの最期に立ち会った。
 その事が、九魔の幹部の一人であったソングレイへの怒りに繋がったのだろう。
「あなたなんかには絶対に負けない、今度はこの埼玉で何を企んでいるのか、必ず明らかにして見せます!」
 受けに成功したとはいえ、弾丸の威力は凄まじく傷は深い。それでもなお、戦意と勢いを失わぬ箕星にソングレイは唇の端を釣り上げた。

 ――こいつは、好みだ。

「面白いじゃないか。まずは仲間を呼びな。どうせ、この辺には今、お前らの仲間も集まって来ているんだろ?」

 余裕の態度に箕星は唇を噛む。しかし、ソングレイの性格を考えればここは相手に乗ることが、情報を引き出す最良の策であることは箕星も理解していた。
 じっと相手を睨みつつ、買い替えたばかりの携帯を操作する。

 やがて、箕星の救援要請を受けて急遽現場に急行したあなたたち学園生を前に、ソングレイ「ゲーム」を提案した。
「ルールは簡単だ。俺のチップはあの斜面にいるディアボロだ。邪蛇のじいさんのを俺が改良した特別製だ。それなりに手間もかかっている。俺を掻い潜ってそれを倒せたらお前たちの勝ちだ。そうすれば」
 そう言ってソングレイは倒れている撃退士たちを指す。
「そこの負け犬共を無事連れ帰っても良いし、ついでに幾つか質問に付き合ってやっても良い。そして――」
 ここに来て、ソングレイは始めて彼が強力なデビルであることを思い出させるような凶悪な笑みを浮かべ。大鎌を構え直した。
「負ければ、お前らが全員死ぬだけだ。簡単だろ? さあ、始めようじゃないか」


リプレイ本文

「ソングレイ!」
 箕星の緊急連絡によって集まった撃退士の中、最初に叫んだのは鈴代 征治(ja1305)であった。
 不機嫌に聞き返すソングレイに構わず、征治は続ける。
「天の動きは掴めましたか? 情報が少なすぎて後手なのはこちらも同じです……が、新たに掴んだ情報もある。こんな所で遊んでないで、情報交換といきませんか?」
「そいつはルール違反だ。俺がお前たちと話すのはゲームに勝った後だけさ。さあ、グズグズせず、始めようじゃないか」
 提案を一周するソングレイ。
「ゲーム……だとっ」
 最前列に立っていた天羽 伊都(jb2199)の表情がピクリと強張る。
「巫山戯た真似を……腹立たしいですね」
 傍らのカタリナ(ja5119)も小さな声で天羽に同意する。
「余り熱くなるな」
 怒りに震える二人の肩に。ぽんと鷺谷 明(ja0776)が手を置く。
 そして、大真面目な声で宣言した。
「生は娯楽、だろう?」
 それが、「遊戯」の開始の合図でもあるかのように、数名の撃退士たちが一斉にソングレイの背後にある林に向けて駆けだした。
「……それじゃあ面白くないな」
 ソングレイは溜息をつくと、想像を絶する速度で林に向かう撃退士の進路に立ち塞がり、大鎌を振り上げる。
「させません……!」
 白い輝きを放つカタリナの大鎌が、黒い大鎌と交差し火花を散らす。
 一見、互角にも見える攻防はしかし直ぐにソングレイの圧倒的な力によってカタリナが押されてゆく。
「……この力、ゲームに付き合うだけで素直に引いてくれると言うなら乗らない手はありませんね。ですが……」
 黒い刃が身体に届かんとした時、突如カタリナのから銀の光が広がり刃を弾く。
「あの狙撃手だけでなく、貴方も倒して構わないのでしょう?」
「ククク……嬉しいことを言ってくれるじゃないか、撃退士」
 ソングレイが凶悪な笑みを浮かべた。


「駄目です。反応が多過ぎて……」
 林では「生命探知」を用いた箕星が唇を噛んでいた。
 初夏の野山ということを考えればサーチする対象が多過ぎて、目標のみをピンポイントで探せないのは無理からぬことである。
 これは、鷺谷も同様であった。
「案の定か……少々乱暴な手だが。燻り出すさ」
 鷺谷は自身のアウルを集中させると、適当な位置に向けてコメットを叩き込む。
 木々が倒れ、下草や灌木が土砂や石と混じって舞い上がる。
「やったか? おっと、これは禁句だった……」
 鷺谷が言い終えるより早く、その土砂や木屑で遮られた視界の向こうから紅の弾丸が飛来する。完全に虚を突かれた形になる鷺谷は直撃を受ける。
(どうだ?)
 林の別の場所から一部始終を目撃したミハイル・エッカート(jb0544)が同行していた雨宮アカリ(ja4010)にジェスチャーで尋ねる。
 アカリは首を振る。
「狙撃手にとって一番危険な行為は攻撃……そのリスクを最小限に抑える一発……天魔にも『本物の狙撃手』がいたなんてね……ふふっ」
 しかし、アカリは躊躇なくその場で射撃姿勢を取った。
「だから本来はギリギリまで攻撃はしないものなんだけど……」
 敵の狙撃を誘うための覚悟の一発が放たれる。
 しかし、直後に敵が放った弾丸は林の外でソングレイと戦う仲間たちに向けて放たれた。
「あくまでも、分の役目を果たす気ね? なら私も……!」


「これだけ探しても見つからないということは……木の上ではない、ということか」
 サガは気配を絶った状態で木々の上スレスレを飛びながら、狙撃手を探していた。そして、彼が上空からの捜索を切り上げようとしたまさにその時、地上の一角から紅の弾丸が放たれたのである。
「そこか」
 サガは武器を抜くと、少し離れた位置に物音をたてぬよう注意して着地。敵がいると思しき地点にゆっくりと忍び寄っていく。
 慎重さと根気強さが求められるが、かつて暗殺者であったサガにとってはお手の物である。
 しかし、サガが後僅かで目的の地点に辿り着くという時、再度、狙撃が行われた。
「何だと……」
 サガの目が驚愕に見開かれる。
 何故なら、彼の眼には弾丸がさっきとは離れた、全く別の位置から発射されたように映ったからである。


「貫け!」
 カタリナが必死にソングレイを押し留めている隙に、その側面に回り込んだ征治は相手に向けて全力でスタンエッジを放った。だが、ソングレイはその動きを見切り、最小限の動作でそれを躱す。
「まだです」
 征治の鋭い突きを躱したソングレイの体勢が崩れる――その瞬間を狙って、夜姫(jb2550)が雷光を纏った一閃を繰り出した。
 しかし、ソングレイはその態勢から恐るべき鋭さで鎌を振るう。攻撃を弾かれ、今度は逆に夜姫のほうが体勢を崩してしまう。
「くっ……」
 喘ぐ夜姫に、ソングレイは嗤う。
「――BINGO、とか言ってみるか?」
 直後、林の一画が光り紅の弾丸が凄まじい速度で夜姫を襲った。
「やらせるかぁ! この外道!」
 しかし、次の瞬間天羽が一陣の黒い疾風の如くソングレイに切り掛かった。
 真紅の閃光は素早くその軌道を変え、天羽へと着弾する。天羽は大きくよろめくが頑丈な天羽はその一撃に耐え切った。
「ハハ……ハハハ! まさか、この程度の人数相手にコレを使うことになるとはな!」
 哄笑するソングレイ。その大鎌に、凄まじい量の魔力が充溢していく。
「皆、備えてっ!」
 天羽が叫ぶ。
 同時に、大鎌から放たれた黒い魔力の波動が容赦なく撃退士たちを薙ぎ払った。
「がはっ……」
 吐血し膝をつく天羽。他の仲間たちはいずれも地面に叩きつけられている。
「少し本気になり過ぎたな。立っているのはお前だけじゃないか……いや。それも終わりか」
 ソングレイは天羽に近づくと、鎌を振り上げる。
「ぐぅ……っ」
 呻いたのはカタリナであった。
「カタリナさんっ」
 驚いて振りむく天羽の背後で、たった今天羽の受ける筈だった斬撃を代りに受けたカタリナがそれでもゆっくりと立ち上がり不敵に微笑む。
「残念ですけど、もう少し殺されてはあげません」
 それと同時に、カタリナの全身にアウルが巡り受けた傷を急速に修復していった。
「そうだ、仲間を信じるんだ……」
 征治もまた、よろよろと立ち上がると自らの傷をアウルで癒す。
「最後まで立っていれば僕達の勝ちだ。撃退士は絶対に膝を屈したりはしない!」
「……口だけではないようじゃないか」
 とソングレイ。
「旅団長……階級で実力を測るのは愚行ですが、あのレイガーと同等の実力だとすれば、ここで皆の足を引っ張る訳にはいきませんね。……少々無茶をさせて貰います」
 最後に立ちあがった夜姫は、自らの手に雷光の刃を形成した。
「それで俺に立ち向かう気か?」
 呆れたように呟くソングレイ。
「いいえ。これはこう使うものです」
 夜姫は刃を自らに突き立てる。途端、凄まじい量のアウルが夜姫の全身を循環し始める。
「ははは。何だ、お前。死ぬつもりか」
「……そのくらいの覚悟がなければ貴方は止められないと判断したまでです」
「面白いじゃないか! どこまで持つか、確かめてやろうじゃないか……!」
 ソングレイは再度大鎌を構え、夜姫たちに向って突っ込んで行った。


「これって……」
 木に括り付けられたうさみみカチューシャを見た瞬間、アカリは唐突に気付いた。
 これは、ミハイルが用意したもので仲間に敵の位置を知らせる際に使うためのものだ。問題は、さっきもこのカチューシャを見ていたということである。
「一周していたってこと?」
 先刻から、アカリはミハイルが狙撃の度につけた目印を辿るように移動していた。
 その結果、ある一定の範囲を丁度一周してたのだ。つまり、こ弾丸の発射された地点がランダムのように見えて実はある円の中に納まっていたということである。
 アカリはしばし目を閉じて黙考した後、微笑んだ。
 敵は『本物の狙撃手』だからこそ、一発撃つ度に移動するというセオリーの裏をかいた。
 この弾丸はかなり変則的な弾道を飛ぶことが出来る。
 最初は弾丸を林の中に撃ち、適当な場所で林の外の撃退士たちに向かうようにコントロールすれば、あたかも全く別の位置から撃っているように見せかけることは不可能ではない。
「そんなことが出来るんだったら……その円の中心に陣取るのが一番効率が良いわよね……?」
 範囲さえ絞りこめれば射撃に特化したインフィルトレイターの術式を用いての索敵が可能となる。
「いた……」
 アカリの銃の照星が、一見では地面や草と区別のつかないギリースーツの一端を捕える
 直後、一発の銃声が林を震わせた。


「発見するとは大したものじゃないか。だが、まだゲームオーバーにゃ早すぎるぜ」
「行かせる訳にはいきません……くっ!?」
 夜姫は、自らにかけたアウルの過負荷により、痛覚を無視してなおも切り掛かろうとするが、突如膝をつく。
 時間切れである。
「こんな所で……!」
 過負荷の反動により動くことすらままならない。
「夜姫さんっ!」
「他人を心配している場合か?」
 直後、ソングレイの鎌が一閃し打ち合っていた征治の槍を弾き飛ばす。
 そして、ソングレイは空中に飛び上がると、凄まじい速さで林へと向かう。
「く……」
 既にリジェネレーションが追いつかなくなっていたカタリナも膝をつく。
「! 待てぇ!」
 天羽も同様に翼を広げ、後を追うがみるみる引き離されていく。
 だが、ソングレイが林に近づこうと高度を下げた時、突如彼の周囲にアウルで形作られた無数の流星が降り注いだ。
「お前、さっき撃たれたんじゃなかったのか?」
 その攻撃を放ったのが、箕星にヒールで応急手当てを受けた鷺谷であったことに気付いたソングレイはゆっくりと着地する。
「――問いは一つ。この地で起きようとしているのは祭りかね? 楽しい愉しい祭りかね? それを確かめるまでは倒れてなどいられないのでね。どうせ、敵わぬまでも一矢報いてやるさ。仲間がディアボロを倒すまでの時間は稼がせて貰う」


 アカリは、ブルートイェーガーに向けて発砲した瞬間、時間の流れがスローになったような感覚を覚えていた。
「ああ、撃たれたのね……」
 まず、引き金を引いた直後に敵の弾が自分を貫いたのを感じた。。
 イェーガーは潜伏しながらも、此方の動向を把握しており、アカリに狙われていることを理解した瞬間先手を打ったのだ。
 だが、アカリの方も引き金は引いていた。
 アカリのアウルを練り込んだ弾丸が、敵に着弾しその装甲を腐食していく。
「ミハイルさん、後は……」
 アカリは自身の意識がゆっくりと失われていくのを感じ始めていた。
 最後に彼女が見たのは、その場から移動しようとするイェーガーと、それに切り掛かるサガの姿だった。


「ここで決める」
 サガの大剣が猛然と振り下ろされる。
 対悪魔の力を解放したサガの一撃は、ディアボロに対して高い威力を発揮する。
 しかし、気配を絶っていたサガの接近を、恐らくアカリのように何らかの魔力で察知していたイェーガーは素早くギリースーツを脱ぎ捨てると、長大なマスケット銃に装着された銃剣で、サガの切っ先を弾き返す。
 思いの外思い一撃に歯を食いしばるサガ。更に斬撃を繰り出すが、長柄の武器同士ということもあり、両社の剣戟は膠着状態に陥るかに見えた。
 その時、横薙ぎに振り抜かれたサガの一閃を、素早く屈みこんで回避したディアボロが強烈な勢いで銃剣を突き出す。
 腹部に打突を受けたサガが数m吹っ飛び、木の幹に激しく叩きつけらる。
 そして、ディアボロが止めを刺そうと銃を構えた瞬間
「アカリ、それにサガ。ありがとう」
 アカリやサガにディアボロの意識が向けられていたために、気付かれていなかったミハイルの弾丸がディアボロの胴を貫通した。
 ディアボロはこの世の物とも思えぬ悲鳴を上げて仰け反る。
「勝機、か」
 その隙に、体勢を立て直したサガの渾身の一撃がディアボロの頭部を粉砕する。
「大したものじゃないか、撃退士」
 そのディアボロの身体が崩れ落ちるより早く、ソングレイの声が響く。
「約束通り、『話』につきあってやろうじゃないか――ついでにこいつも返しておくぜ?」
「鷺谷さん!?」
 どさりと地面に転がされた、ボロボロになった鷺谷を見て箕星が悲鳴を上げる。
「コイツが邪魔しなければ、間に合ったんだがな。お前たちにとってはお手柄じゃないか」
 ソングレイが笑った。


 撃退士たちは負傷者の治療を箕星に任せ、改めて林の外でソングレイと対峙していた。
 「ミハイルだ、よろしく。懐かしいな。覚えてないだろうが東北で、お前に光の弾丸浴びせたんだぜ?」
 とミハイルが挨拶する。
「ああ、邪蛇の爺さんに乗った時か。ク、あの時は大勢から攻撃されたからいちいち覚えちゃいないが、確かにかなり効くやつが混じっていた気もするな」
「光栄だね。ところで、最近、大層な悪魔や天魔が集まっているな。何をしている?」
 ミハイルは質問を始めると天羽たちも次々と疑問を投げかける。その中には、意識を失っている夜姫から託された質問も含まれていた。
「さっきの申し出はまだ有効です。此方は天界勢の情報を提供する用意が――」
 最後に、征治がそう言おうとするのをソングレイは面倒そうに手を振って遮った。
「お前らが把握しているような情報を俺達が知らない筈はないじゃないか。そもそも、俺たち冥魔がこんな所に来る羽目になったのも天使共が先に動き始めたせいだからな」
「なるほど、そういうことでしたか」
 征治が納得する。
「そして、俺がお前らに教えてやるのはこれだけだ。『俺達』はこの埼玉とかいう地域に眠っているモノを探しに来た。ま、ここは見当外れだったようだがな。それが役に立つモノかどうか……言わなくても解る筈じゃないか」
「……」
 ソングレイの言い方にムッと来たのか、天羽は改めて相手を睨みつける。
「ついでに言えば、この地球で俺やリザベルに命令を出来る相手は限られてるぜ。こう言えばお前たちも解るんじゃないか……まあ、一部の奴は四国の方から直接指示を受けたらしいが」
「……ルシフェル」
 箕星の治療で意識を取り戻した夜姫が呟く。
 無言で嗤うソングレイ。答えとしてはそれで十分だった。
「さて、これで今日のゲームは終わりだ」
 とソングレイ。
「なるほど。何かデカいことが始まるのは確からしい。血が滾る話じゃないか。いずれ、またお前と戦えるのかな」
 ミハイルが不敵に笑う。
「さあな。とりあえず、そこで気絶している奴にも伝えるといいんじゃないか。愉しい祭りはもうすぐだとな」
 そう言い捨てて、ソングレイは何処かへと飛び去って行く。
 天羽は、改めて今回ソングレイの刃によって傷ついた撃退士たちの方を悔しそうに一瞥した後、旅団長に向かって吠えた。
「忠告しておくぞ! 次会ったらぶった斬ってやるからな!」

 ――ハハハハハハ! そいつは楽しみじゃないか!

 青空に、悪魔の哄笑が響き渡るのであった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 紫水晶に魅入り魅入られし・鷺谷 明(ja0776)
 魂繋ぎし獅子公の娘・雨宮アカリ(ja4010)
 聖槍を使いし者・カタリナ(ja5119)
重体: 紫水晶に魅入り魅入られし・鷺谷 明(ja0776)
   <傷ついた体で旅団長の攻勢を止めようとした>という理由により『重体』となる
 魂繋ぎし獅子公の娘・雨宮アカリ(ja4010)
   <真紅の魔法弾に対する囮となった>という理由により『重体』となる
面白かった!:8人

紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
最強の『普通』・
鈴代 征治(ja1305)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
魂繋ぎし獅子公の娘・
雨宮アカリ(ja4010)

大学部1年263組 女 インフィルトレイター
聖槍を使いし者・
カタリナ(ja5119)

大学部7年95組 女 ディバインナイト
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
影に潜みて・
サガ=リーヴァレスト(jb0805)

卒業 男 ナイトウォーカー
黒焔の牙爪・
天羽 伊都(jb2199)

大学部1年128組 男 ルインズブレイド
撃退士・
夜姫(jb2550)

卒業 女 阿修羅