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マスター:稲田和夫
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/11/18


みんなの思い出



オープニング

「せーんせっ!」
 明日から週末という放課後の久遠ヶ原学園小等部。ある教室にてHRも終え、職員棟へと戻る準備をしていたその教師に、彼が担任である一人の生徒が声をかけてきた。
 小等部『男子』制服が良く似合う、その少年はニコニコと笑いながら上目遣いで『教師』を見上げる。明らかに自分の容姿が他人にどう見えているか解っている人間ならではの計算された動き、と言うやつだ。
 しかし、教師は見た目は勿論、内面でも全くの動揺を見せずやや面倒そうに、それでも真摯な態度で先を促した。
「えっと、あのね! 先生にお願いがあるのー!」
 この生徒には、撃退士ではない双子の弟がいる。その弟が週末を利用して泊りがけで久遠ヶ原に来るとの事だ。ところが、その待ち合わせの時間に学園関係でどうしても外せない用事が入ってしまったという。
 10分くらい遅れるので、代わりに先生がその待ち合わせ場所に先に行って弟に事情を教えてやって欲しい、という事だった。
 その場所は教師が丁度その時間、いつも通りかかる場所なので決して無茶な頼みという訳では無かったのだが――
「行くのは構わん。だが、私では不適当ではないだろうか? ‥‥学園以外の者にとって私の容貌は余り好ましいものでは無かろう。無用な恐怖を喚起してしまうかもしれん」
 やや悩んでいる様子の教師。だが、男の子は全く意に介さず。
「ちょっとびっくりするかもだけど、ちゃんと説明すれば大丈夫! ぼくたちせんせーのクラスだってそうだったじゃない! それに、今から他の先生を探してる時間も無いよー‥‥」
 教師は時計を確認する。確かに今から代役を探すのは難しそうだ。また、この教師は人に面倒事を押し付けるよりは、自分がそれをする方が性に合っていた。
 結局、教師は頼みを承諾し大きな溜息をつくと巨体を椅子から浮かせた。
「ありがとー! せんせい大好きー!」
 抱きつこうとする男の子を『教師』は丁寧かつ冷静に押し退けた。


「おにいちゃん、まだかな‥‥」
 既に夜を迎えた久遠ヶ原の一角で、一人の少年がじっと誰かを待っていた。その容貌はさっき小等部で教師に頼み事をしていた生徒と瓜二つである。ただ、気弱そうな雰囲気は明らかに別人のものであった。
「え‥‥?」
 ふと、確かに誰かが自分の名前を呼んだ事に気づいて男の子は振り返った。
「お、おにいちゃん‥‥?」
 少年かわいらしい顔が見る見るうちに不安に染まる。呼ばれたのは確かに自分の名前だ。だが、この学園に自分の名前を知っている人は双子の兄以外にいる筈が無い。何故なら少年は撃退士ではなく、従ってこの学園の生徒ではないからだ。
 というか、そもそも声が違い過ぎる。太く、低く、地の底から響くその声は断じて兄のものではなかったし、それを言うなら同年代の少年の声でも――
「あ‥‥あ‥‥っ」
 そして、男の子は気付いてしまった。今、自分の名前を呼んだ物が
 
 人間ですら無い事に。

 ――少年の脳裏を、封印されていた悍ましい記憶がよぎって行く。
 鮮血に塗れたあか い  へや

 物言わぬ 肉の カタマリ に

 ぱパ ママ

 後にディアボロと呼ばれている事を知る バケもの

 そして

 黒い はネ

 を

 広げた

 あく

 ま

 記憶の中の羽の生えた若い男が/目の前にいる巨大な化け物が

 ゆっくりと て を 

 ――「い‥‥イヤァアアアアアアアッ!!」


 この季節は日も落ちて、周囲は完全な闇という時間に、あなた達は学園敷地内を数人で連れ立って歩いている。
 あなた達は、一日の授業を終え寮に戻るところだろうか。あるいは、困難な戦闘依頼を終え無事帰って来られた事に安堵しているのかもしれない。
 年齢も所属もバラバラな貴方たちが偶然帰路を共にすることになったのは、偶々途中まで道が同じだったから。

 だが、平穏な時間は突如破られる。あなたたちが、とある大学部の講義棟が並ぶ一角に差し掛かった時、突如静寂を破る悲痛な悲鳴が聞こえてきたのだ。
 変質者か。学園に紛れ込んだ天魔の眷属か。悲鳴が聞こえてきた方角に走ったあなたたちは――見てしまった。


 『それ』は、黒檀色の皮膚をしていた。身長は人間より一回りも大きく。人間の残忍な戯画化を思わせる凶悪な筋肉が表皮の下に密生している。だが人間を思わせるパーツはそこで売り切れだ。
 人間など容易く掴み潰せそうな鉤爪付の掌。一見すれば山羊の様にも見えるその顔には鋭い牙の生えた口が左右を走り。何よりその背面には折り畳まれているとはいえ、一度開かれれば人間に原始的な恐怖を呼び起こさせるであろう皮膜。
 それは――紛れも無きデビルであった。

 あなたたちは咄嗟に間合いを取る! 各々のV兵器を構え――相手の表情を見据えたとき気づく。何故か爛々と燃えるその目の光を、野暮ったい縁のある四角いメガネが遮っている事に。

「ああ、丁度良いところに来てくれた。すまないが、迷子を捜すのを手伝ってもらえないだろうか? 仕事や授業の帰りで申し訳ないのだが‥‥」

 それは実に穏やかな物腰で、かつ申し訳なさそうに懇切丁寧な口調で何か事情を説明しようとする。その時、あなた達は気付いた。その巨体の足元で、小等部の男の子がぷうっと頬を膨らませて拗ねているのを。

●数分前
「だーかーらーっ! つのせんせは、僕の担任なのーっ!」

「うそだッ! お兄ちゃんがデビルと一緒にいる訳ないッ! お前はお兄ちゃんに化けたディアボロだッ!」

「もう、なんでそーなるのーっ! 入学した時の手紙ですっごく逞しい先生が担任になったって‥‥あ! どこいくのーっ!?_」

●再び現在
「という訳だ。この子に会いに来た子供が、私の姿を見て完全に怯えてしまったのだ。詳しい事情は省くが、我が眷属の暴悪の犠牲となった記憶を呼び覚ましてしまったのだろう‥‥やはり、この場合は迷惑がられても同僚の者に代りを頼むべきであったな」
 目を伏せるはぐれ悪魔。慌てて生徒がフォローする。
「せんせーは悪くないよ! ぼくが無理にお願いしちゃったんだから! それに、あの子も幼稚園の頃から人の話聞かないんだもん!」
「‥‥ともかく時間が無い。今は対処が先だ」
 気を取り直したはぐれ悪魔は、付近に立つ巨大な建物――大学部の講義棟を指す。
「この建物の中に逃げ込んでしまったのは間違いない」
 そして足元の生徒を見て。
「知っての通り小等部の門限まであと一時間しかない‥‥逃げた子の、学園滞在の手続きは済んでいるからそちらの心配は入らないが、この子が門限を破ってしまうと面倒なことになる。手伝っては貰えないだろうか? 心づけ程度だが我が不始末故、謝礼は払う」

「迷子になった子供はかなり怯えている。くれぐれも下手に撃退士としての能力など見せて刺激せぬよう注意してくれ。出来れば‥‥落ち着かせてやって欲しい。それは人間の眷属である君たちに任せるべきだろう」

「ああ、私の事は――グレーターモノホーンと呼んでくれ。人間界ではそう名乗ることにしている。見ての通り破廉恥ながら久遠ヶ原に教師として身を寄せているはぐれ悪魔だ」
 そう言うと、デビルは人間で言えば額に当たる位置から聳え立つ巨大な角をコンコンと鉤爪で叩いて見せる。ちなみに、このデビルがつけている眼鏡はその角に引っかかっていた。


リプレイ本文

「グレモノ先生、廊下の角からぬっと飛び出したの? 駄目じゃない、顔怖いんだから」
 エヴァ・グライナー(ja0784)は開口一番グレーターモノホーンこと角先生にそう言った。小等部のエヴァは直接の面識はなくとも、噂位には聞いたことがあったのだろうか。
「すごい角ですー……触って、良いでしょうか?」
 そう言って楠 侑紗(ja3231)はぐぐっと手を伸ばした。しかし、身長差が災いして中々届かない。
「……やはり人間には珍しいのか。担任となった初日も、子供たちが触らせろと騒いだものだった」
 わざわざ屈み込む先生の角を楠がぺちぺち。
(こんな優しい感じがする先生だから、本当に見た目だけで怖がってしまったんですね……)
 佐野 七海(ja2637)には、なんとなく普段の教室での先生と生徒たちの様子がわかるような気がした。
「えと、誤解がとけるように……がっ頑張りますねっ」
 と佐野。
「うんうん、よく分かるわぁ〜。ちょ〜っと人と違うカッコしてたりするだけで、すぐ避けられたり。騒がれたりするのよねぇ〜」
 自身の体験と共通する「外見で誤解された」という辺りに共感しているのは御堂 龍太(jb0849)だ。
「我々天魔が認識された世界ではそう人目を引くことも無いと考えていたが……私と近い容貌の者はそう多くは無かったようだ」
「こんなに悪魔悪魔してる、先生は初めてです」
 楠は真顔で角先生の言葉を肯定した。
「とにかく人(?)を見た目で判断するなんてイケナイ子ねぇ。人は外見じゃないって、教えてあげなくちゃね〜♪」
 と御堂。
「とりあえず早く見つけないと、いろいろ面倒なことになってしまいそうなので、部屋でお夜食を食べながら、ネットを見る時間が取れるようにがんばります」
 楠の両手には付近のコンビニの袋がしっかりと握られている。
「そうね。弟くんがびっくりした気持ちも解るけど……放っておくわけにも、いかないわよね」
 藍 星露(ja5127)も同意する。母性の強い藍は子供を放っておけないのだ。
「早く見つけて、誤解を解いて安心させてあげないとね」
 と月影 夕姫(jb1569)。
「……普通の子には刺激が強かったんだな……でも、このままじゃ駄目だよな」
 余り目立たない位置にいた長幡 陽悠(jb1350)も、静かに呟く。そして携帯を取り出すと周囲の生徒とアドレスの交換を始めた。
「本当に便利だよなー。携帯電話とか、もうおっさん世代の若い頃じゃSFの世界だったのに」
 綿貫 由太郎(ja3564)は交換したアドレスを確認しながら呟き、隣を歩く角先生を見た。
「なんというか……見慣れない、それも子供とくればうかつだったかもな」
「貴方もやはりそう考えるか……面目無い。やはり我らデビルは……」
 先生はやや消沈した様子。
「まー、たまには、先生みたいなはぐれとかそーいうのもいるんじゃね? 人間にもどうしようもない悪い奴はいるし」


 一階の吹き抜けでは、佐野と御堂、綿貫が相談していた。
「……ジッと身を潜めていたとしても、他の人の声や明かりがつく際に何かしらの変化がおきると思うんです。それを聞き逃さないように立ち止まることで集中して、耳を澄ませます。建物が無人なら……音がする場所に、その子がいる可能性が高いので」
「三階で探しているひとたちの音は大丈夫?」
 と御堂。
「多分、エヴァさんたちが二階に降りて来るまでは区別がつくと思います……」
 と佐野
「あー、じゃあ三階の皆が二階に来るまでに急ぐか。迷子の名前も聞いてあるしな」
 綿貫がそう言い、三人は捜索を開始した。

「いるかー。……あ、電気つけるぞ」
 約十分後、何度目かとなるその言葉を暗闇に向かって叫びながら綿貫は教室の電気を点けた。
 大学の講義教室のがらんとした光景が眩しい蛍光灯に照らされる。
 佐野が一心に耳を澄ましていたが……やがて御堂の袖を引っ張った。
「見つけたの!?」
と御堂。
「……足音、だと思います。多分、二階に……」
 綿貫が急いで携帯を取り出した。


 三階の休憩所。エヴァが講義棟の地図を眺めつつペンデュラムでダウジング……ではなく隠れ場所を一心に推理中だ。
エヴァは子供の目線に立とうと努める。びっくりしてパニックに陥ったら自分は見知らぬ土地のどこに隠れるか脳内でシミュレート。
「逃げ場を失うような真似はしたくないでしょうけど、隠れないわけにも行かない……階段の裏側、かしらねえ」
 エヴァが推理に集中して、周囲が見えなくなった瞬間、いきなりペンデュラムが激しく振動し始める!
「ダ、ダウジング成功‥‥?!」
 成功したと思った? 残念マナーモードの振動でした! とにかく、携帯は一階の佐野たちからのものだった。迷子が二階に逃げ込んだことを知ったエヴァは推理を一旦切り上げ楠、月影と合流。二階へ降りた。


 六名が二階に集まっている頃、正面玄関では藍が時間や弟を気にして気もそぞろな撃退士を宥めていた。
「弟君はどんな場所に隠れそう? かくれんぼとかしたことない?」
 藍の質問に男の子は考え込んだ。
「んーとね……、かくれんぼだと、すぐトイレとかに隠れちゃうの。それでなかなか見つけて貰えない内に、勝手に怖がるんだ!」
「トイレ、ね。ありがとう。一応皆に伝えておくわ」
 早速、スマホを操作する藍。
「それから、先生が悪い悪魔じゃないって解らせられるのが一番いいはずよね? ……でも、あたし自身が先生と初対面だから……先生の良い所とか、聞かせてくれないかな?」
 と藍。
(……うん、我ながら凄く無難)
 心中でそう思う藍。だが、撃退士は藍の言葉を聞くと喜々として色々な事を語り始める。
「せんせーは、ああ見えてすごく『いんてり』なんだよ! 色んな外国の言葉とか知っているし!」
「そ、そう……」
(なんか想像出来ないわね……)
 しかし、古い魔術書などには召喚された悪魔が外国語の知識を与える、という記述が少なくない。そういう意味では意外にオーソドックスなのかもしれない。
「すっごく優しいよ! 解らないからって怒ったりしないから、せんせーのおかげで苦手な科目が出来るようになった子、クラスに一杯いるよ!」


「よろしく。しーっ、だぞ?」
 その頃、裏口では長幡が召喚したヒリュウに指示を与えていた。可愛らしい外見のヒリュウはきぃ、と一声鳴くとふわりと二階の窓まで舞い上がった。
「この子は可愛けど、怖がられないとは限らないですから……見つからない様に注意しますね」
 と角先生に言う長幡。
「その召喚獣とは視覚を共有出来るのだったな」
「ええ、弟君が興奮して窓から逃げないとも限らないし、いざという時は俺の代わりに助けてくれると思います」
「なるほど……人間という生き物は闘争のための力を良き方向にも用いるものだな」
「あはは、ちょっと大げさですね」
 角先生の物言いに、苦笑する長幡。
(でも……最初の印象通り、やっぱり見た目と違って感じのよい人? みたいだな。何とか弟君の説得に繋がれば良いけれど)
 

「私たち学園の生徒よ。びっくりさせてごめんね、出てきてくれないかしら。今から電気をつけるわね」
 連絡を受けた月影は三階の捜索を途中で切り上げ、二階を西側から捜索している。
 藍からのメールでトイレにいそうなことは解っていたが、念の為教室も一つ一つ見て回っているのだ。トイレの方には一階から上がって来た佐野たちが向かっている。
 時計を見ると、捜索開始から20分が経過していた。早い段階で一階と三階の捜索が切り上げられたので、時間的には余裕があると言えそうだった。

「これから、電気を点けます。驚かせたら、申し訳ないですー」
 楠もトイレの隣の教室に辿り着いていた。まだ、直接確認した訳ではないが、既に消去法で二階のトイレにほぼ場所は絞られている。六名は全員が配置につくまでは行動を起こさないつもりなのだ。
 そして、323教室のチェックを終えた楠は他の五名が待つトイレの前に辿り着く。

だが、その時六人の携帯が同時に鳴った。
ヒリュウで窓を監視していた長幡からの緊急連絡であった。
 

「来ないで、来ないでぇっ!」
 6人がようやく見つけた男の子は、トイレの窓の外の狭い足場で泣き叫んでいた。一時的な人間不信の状態であった男の子は上と下から捜索隊が迫っていることで、取り乱してしまったらしい。
 すぐに落ちてしまうほど狭い足場ではなかったが、落ちたら怪我をしてしまう危険があるのに変わりはない。
「どうしようか……」
 長幡は唇を噛んだ。まだ、少年はヒリュウに気づいていない。ヒリュウに助けさせることは出来るが、今ヒリュウの姿を見たらより自暴自棄名行動を誘発してしまうかもしれないのだ。
 角先生も状況は把握していたが、今は邪魔をすまいと冷静に長幡を見守る。……やがて、ヒリュウと視覚を共有していた長幡が言った。
「どうやらエヴァさんたちが説得に入るみたいです。もう少し待ってみましょう」

 とにかく、少年を止めようと意気込んで最初に走り出したのはエヴァだった。そのまま窓枠に手をかけたエヴァは、少年と同じように足場に降りようとするが……。
「きゃうっ!?」
 なんと、エヴァの方が足を滑らせて、少年の立っている足場から腕だけでぶら下がる状態になってしまった。
「あっ……!」
 それを見た少年は咄嗟に駆け寄って手を差し出した。
 根は優しい子なのか、同い年くらいのエヴァが危ないのを見過ごせなかったのだろう。
 しかし、両方が小学生というのは片方が頑強な撃退士とはいえ、見た目には危なっかしい。ヒリュウがどちらが危なくなってもフォロー出来るように、密かにエヴァの下へ回った。
「ん……っ」
 何とかエヴァを引き上げようとする男の子。
「!?」
 だが、突如男の子が身体を震わせた。同じように降りてきた佐野が、柵に掴まって体を支えつつ男の子の腕を掴んでいたのだ。
「大丈夫……私は……人間、だよ」
 安心させるように男の子に語りかける佐野。
「……触って……いるから、解るでしょう? それ以上でも、それ以下でもない」
 黙って佐野を見つめる男の子は、やがてこくん、と頷いた。
「じゃあ、皆でお兄さんの、所へ、帰ろう?」
 そう言うと佐野は一気に二人を引っ張り上げた。


「ほら、もふら様ですよもふら様ー」
 男の子を宥める為にもふらのぬいぐるみを見せる楠。
 無事男の子を確保した一行は、講義棟の外にある木の下に集まっていた。先生と男の子は見えない位置に隠れている。まだ、多少時間に余裕があったので一行が会わせるのはもう少し落ち着いてからにしたいと判断したからだ。
『特別に、抱っこさせてあげるもふー』(裏声)
 男の子の顔が少しだけ綻んだ。ぬいぐるみ、というよりは楠の優しさに安心したのかもしれない。
 そのタイミングを見計らってまずエヴァが改めて話しかけた。
「私はエヴァ・グライナー。あなたと同じ小学生、そして困った人を助ける魔術師よ!」
 と、ペンデュラムを見せて魔術師アピールするエヴァ。暗いのか男の子がちょっと目を凝らした。
「あ、暗い? 魔術を使って明るくしましょうか?」
 ニヤリと悪戯っぽく笑ってみせるエヴァ。雰囲気に魅了されたのか少年はコクコクと頷いて見せた。
「Wo viel Licht ist, ist starker Schatten」
 エヴァのトワイライトが周囲を暖かい光に包む。蛍光灯や電灯のそれとは違う天然の光は、人の心を和ませるのか、大分男の子も落ち着いたようだ。
「さて、あなたは悪魔に兄を取られたと思っているけれど、それは違うわ」
 と、ここで男の子の撃退士に対しての恐怖が薄れたと判断してエヴァは説得を始めた。怪訝な表情を見せる男の子。
「真相は……あなたの兄が、悪魔を魅了したのよ。なんて罪深い兄弟なんでしょう!」
 男の子は呆然とした。
「人間は……一筋縄ではいかぬ。我が眷属が語るように魂を簒奪されるだけの存在ではない。……この感情を魅了と呼ぶか」
「……言いたいことは何となく解るんですが、ここは否定しましょう」
 長幡は、先生の生真面目な反応に思わず突っ込む。

「あー、確かに、君とって悪魔は憎い仇かもしれん、でも悪魔全部がそうだと君が思ってしまうのは悲しいな」
 続いて綿貫が口を開いた。
「どんな世界にもたまーに変なのが居るんだよ」
 ある童話のタイトルを口にする綿貫。
「え? 今どきの子供童話とかしらねえ?」
 子供は黙り込んでしまった。冷静になり、綿貫の言葉を考える余裕が生まれたのだろう。
「つら〜い事があって、悪魔が怖いってのは分からないでもないわねぇ。 でも、いつまでも後ろを向いてちゃ、貴方自身のために良くないわ」
そして、御堂がそ角先生と兄を呼び寄せる。先生の姿を見てビクッとなる弟。
だが、月影が優しく震える弟の手を握った。
「大丈夫、見た目は怖いけど優しい先生よ、安心して」
 それを見て、更に続ける御堂。
「あなたと同じ体験をしているお兄さんがああして先生を信頼しているって事は、少なくとも先生はそういう人(?)だって事じゃないかしら」
 藍が口を開く。
「お兄さんが言っていたわ。先生の授業が楽しいって。……少なくとも、お兄さんにとっては、先生は悪魔である前に、『先生』なのよ」
長幡も言う。
「お兄ちゃんは本当に偽物だと思うかい?  違うだろ? 君の事を本当に心配していたんだ。お兄ちゃんの信頼する先生が本当に信頼できない?」
 三人の言葉を聞き、改めて兄を見る少年。
「ねーもういい加減にしようよー! まだ僕がディアボロに見えるってゆーの?!」
「……ううん。お兄ちゃんは、お兄ちゃんだよ……」
この言葉を聞いた一同に安堵の雰囲気が広がった。
「じゃあ、ちゃんと、センパイたちにごめなんさいと、ありがとってゆう事! 後、せんせーにも!」
 弟が自分の言うことを聞いたのを確認すると、兄のお腹が鳴った。
「うー……そう言えお腹すいた」
「あ……僕も……」
 そんな兄弟に、楠が持っていてた袋を掲げてみせる。
「お夜食にと思ってた物なのですがー、良かったらどうぞです」


「明日、私とかで学園を案内してあげる。行きたい処が無いか、考えておいてね」
 楠に貰った夜食を仲良く分け合いながら、足早へ寮のほうへ戻る兄弟に月影が声をかける。
 嬉しそうに手を振り返す弟。
 その様子を長幡が微笑ましそうに見守る。
「さてー、早くお部屋でネットサーフィンしたいのですがー、その前に点けた電気はちゃんと消しておかないとですねー」
 騒ぎのあった講義棟に戻ろうとする楠。その楠に角先生が声をかけた。
「何から何まで相済まぬ。私も手伝おう。後始末も教師という位階の役目だからな」
 そう言うと、先生はゆっくりと巨大な翼を広げて講義棟の上階へ舞い上がる。それを見た楠は、やっぱりこんな悪魔悪魔した先生は初めてだと改めて想った。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 雪の城主・楠 侑紗(ja3231)
 約定の獣は力無き者の盾・長幡 陽悠(jb1350)
 Heavy armored Gunship・月影 夕姫(jb1569)
重体: −
面白かった!:7人

撃退士・
エヴァ・グライナー(ja0784)

高等部1年1組 女 ダアト
包帯の下は美少女・
佐野 七海(ja2637)

高等部3年7組 女 ダアト
雪の城主・
楠 侑紗(ja3231)

大学部3年225組 女 ダアト
不良中年・
綿貫 由太郎(ja3564)

大学部9年167組 男 インフィルトレイター
あたしのカラダで悦んでえ・
藍 星露(ja5127)

大学部2年254組 女 阿修羅
男を堕とすオカマ神・
御堂 龍太(jb0849)

大学部7年254組 男 陰陽師
約定の獣は力無き者の盾・
長幡 陽悠(jb1350)

大学部3年194組 男 バハムートテイマー
Heavy armored Gunship・
月影 夕姫(jb1569)

卒業 女 ディバインナイト