●いきなり真骨頂
こちらは御影光(jz0024)の部屋。意外と、と言うべきかごくごく普通の、中学生の女の子が好みそうな部屋である。全体的にパステルカラーの色調の家具が置かれた部屋は、淡いピンクのカーテンを通し柔らかな日差しが注がれている。
「光さん、まずはサイズをとらせてください、ついでにティーナさんも」
そんなことを言っているアーレイ・バーグ(
ja0276)だが、事前に辻村ティーナ(jz0044)まで含む2人のサイズを見切っており、既に合いそうなサイズの服を用意していた。だが本当の職人とは見切りに頼らず実寸を取るものである。そう、つまりこれはアーレイの真摯な姿勢なのである。というかティーナサイズを公称しているんだけどね。
「私の着ているこの服が似合うと思います。男の子にモテモテになりますよ」
「これは今流行の、重ね着というものですね」
光はニコニコと笑いながらアーレイから服を受け取るとTシャツの上から羽織った。
「アーレイ先輩ごめんなさい。胸の部分が、たっぷり余ります」
アンダーバストから下のウエスト部分を締め付ける事で纏うアーレイの服は、トップバストにリボンが横一直線に走るデザインである。しかし光が着るとリボンが下にだらんと垂れるのだ。Tシャツの前で垂れているリボンを持ち上げながら寂しそうに光は微笑む。
「ウェイト、光さん。重ね着と違う。素肌の上に直接っ」
今まで横しか見せなかったアーレイが真っ正面を向けようとする。慣性に従い大きくたゆんたゆんとバストが動く。アーレイは横から見ると無問題に見えるけど。と言うか、激しく動くとかそのまま正面を向くと何かがやばい、気がする。
「御影さんっ、窓の外になんかおるで!」
光が視線を窓の外に移した瞬間。突如ドアから多数の黒服が参上しアーレイを抱え出て行ってしまった。この間僅か0.1秒。
何かの気配を感じて部屋の中に視線を戻した光。
「あれ?」
何も変わっていないのに、アーレイの姿だけが痕跡も残さず消えている。不思議がる光に「何も見なかった」ティーナはにこっと微笑み「ほら、下でみんなが待っとるで」と見送った。
●少女+契約=魔法?
「ふふ、皆で買物ってわくてかするよな!」
光を囲む集団の中で七種戒(
ja1267)は上機嫌である。今まで何度か同行して貰った縁もあり、光の中では「きれいなお姉さん」のイメージがあるのだが、そんな憧憬に似た光の感情を戒は未だ知らない‥‥はず。
「ここが私の行きつけなんだぜっ!」
「ここの店って‥‥ちょっと戒さん!?」
戒に誘われるまま同行していた七海マナ(
ja3521)が絶句する。 なぜならば戒が指し示した店はコスプレ衣装専門ショップであったから。
「制服がいっぱいですね!」
久遠ヶ原学園に限らず見た事もない学校の制服やら体操着まで置かれている不思議に首を傾げながらも「七種先輩のお勧めでしたら」と光は素直に試着する。特攻服、チャイナドレス、ナース服、メイド服、パイレーツ風、サンタ、女教師風、きぐるみがどん、と光の前に置かれた。
「光は可愛ええから、どれも似合うんだぜ」
Tシャツの上から色々合わせて戒がこくこくと頷く。
「んー。パイレーツも捨てがたいけど。御影さんならビシっとしたこの女教師が一番いいんじゃないかな?」
放っておくと暴走しそうな戒を制するように、一番硬そうな衣装を薦めてみる。お二人のお勧めなら、と更衣室に入ること数分後。
「どうでしょう、か」
真っ赤にうつむきながら白のブラウスにベージュのタイトスカート、伊達眼鏡の光が現れる。
「これはこれで‥‥」
恥ずかしいです先輩っ、ともじもじしながら抗議する光。するとぱしゃ、とフラッシュが。見ると白銀の髪の子が無言のままでデジカメを構えている。その横にいる青の髪の子が紙の束を差し出す。
「同世代の子に取ったアンケートの結果が出ました。ばっちり女の子らしくなりますよ」
日本のファッションに疎いカタリナ(
ja5119)は、「可愛らしい女の子の格好」の意見を求めアンケートを採ってきてくれたのである。ちなみに回答してくれた一群は久遠ヶ原アニメ研究部ご一行様だったことをカタリナは知らない。
「‥‥それでは結果発表ー。どんどんぱふぱふー」
カタリナの採ったアンケートの集計を手伝った白銀の髪の子、ユウ(
ja0591)が満を持したように発表する。
「‥‥一位。魔法少女」
ざわざわざわ、とコスプレショップの中の空気が蠢く。何やら不穏な空気に光は一瞬怖じ気つくが、それを刹那に察知したユウは「ほら、この通り」と畳み掛けるようにアンケート票を見せる。
「『時代の風は魔法少女に向かっている』『武道少女が魔法少女に変身、まさにロマンでござる』、これほどまでご足労頂くとは。不覚でした」
「というわけで‥‥納得して貰えたならば。私たちと契約して」
「‥‥魔法少女になってよ」
こくんと頷いてしまった光を更衣室に連れ込む。しかし魔法少女の衣装とは何、と改めてカタリナが尋ねようとする前に、店内にいた優しい紳士や淑女たちが既に「それ」風の衣装を用意してくれていた。あくまで「それ」風。あれこれ何パターンか着せるごとにポーズを取って貰う。具体的に何がどうとかの描写は諸般の事情で割愛なのだが。
「‥‥これは、売れる」
ぱしゃぱしゃとシャッターを切りながらユウはひと思案。
●女の子の。
カメラの撮影合戦と化したコスプレショップをどうにか抜け出した一行が次に向かったのは衣料品ショップの並ぶ通り。
「記憶は無いのですが、パーティーのご迷惑を掛けてしまったみたいですね。今回のことでご恩返し出来れば良いのですが」
先日のパーティーで、記憶に残っていないのだけど光に甘えていたと後で聞かされた雫(
ja1894)は道中、気にしていたのだが「仲良くして頂いて嬉しかったです」と屈託がない光との会話を重ね次第に打ち解けていく。
「う〜ん、私と違って御影さんはもっと明るい色を基調とした物の方が似合うかな?」
雫が見立てたのは薄いピンクを基調とし流れ桜をあしらった仕立て済みの小振袖。雫も黒を基調として白い梅の花をあしらった小振袖を手に取ると試着しようとしてみる。二人並んで立ってみると、それだけで春の香が漂ってくる気がした。
これから作る事もあるかも知れないし一応採寸してみては、という話になり、和装用のメジャーを当てようとした時。ちょっと困惑仕掛けた光を助けるべく桐原雅(
ja1822)が周囲に立っていた男性陣との間で壁になる。
「いや、和装ならば採寸は着丈と袖丈くらいだが」
「それでも。女の子の秘密は秘密なのです。ですからボクが採ります」
雅がメジャーを構え、刹那のしゅるしゅると寸法を採る。
(むぅ〜、ボクよりスタイル良い)
一瞬恥ずかしそうにした光にちょっとだけきゅんとしながら着丈と袖丈を採った。数字は紙にメモしてふたつに折り、紫苑に渡す。
光のマル秘データが記載されているメモに関しては特に何事も思わないような面持ちのままで、紫苑が持ってきてくれたのは黒の地に朱の扇と牡丹、それに菊があしらわれた友禅であった。着付けも不得手な光は雅に手伝ってもらいながらタオルを入れた上で長襦袢をまとい、紫の帯、薄紅の帯揚、金茶の帯締めと着付けられていく。
「実家のひな祭りを思い出します」
ありがとうございます、と光は紫苑に頭を下げると紫苑は「ほら」とぶっきらぼうに包みを渡してくれる。プレゼントらしい。
「では。センチメートルの採寸は私がお採りしましょう」
一連の様子を見ていたファティナ・V・アイゼンブルク(
ja0454)は通常のメジャーを取り出し、背後から光をぎゅっと抱きしめる。まるで流れるような動きで光のトップバストをにメジャーを当てると即時に一周。とちゅうなんか「むぎゅ」とされた気もしたけどファティナは至って真剣に数字を読んでいる。
「ファ、ファティナ先輩っ!?」
「なるほど‥‥」
ふむふむ、とだけ言ってファティナは光に見立てた服を取り出す。可愛らしさを表現するために選んだのはワンピース。だが肩を出して大人の雰囲気を醸し出している。
「季節の先取りもよろしいかも知れません。肩出しチュニックワンピにフリルスカートかショートパンツを重ねてみましょう」
中性的な光の個性をそのままで活かすようなファッションに、光もこくこくと頷く。採寸の間、雑談で光を和ませてくれたのは鳥海月花(
ja1538)。
雑談を重ねながら好む服の傾向などを聞き出している。
「この中だったらどれが好きですか?」
光に自分の好みを自覚させて選ばせるようにうながしてくれる月花であった。決まったのは黒のタートルネック、水色チェックのキャミソールミニワンピ、緑の二ーハイブーツ。
「ところで。好きな方っていらっしゃるのですか?」
唐突に月花が聞くので光は「はわわわ」と大慌てで手を上下に交差させている。思ったよりは反応があったな、と思った月花。ただ光に特定の個人が好きという感情はなさそうだけど。
雀原 麦子(
ja1553)は冷たい空気の中にも春の陽気を感じながら。
「ん〜、普段着にするんならそんなに奇をてらわない方がいいかな〜」
チュニックとショートデニムにレギンスの組み合わせと春らしく。
「チュニックはオレンジかピンクかで悩むね。ところで光ちゃんは犬派? 猫派?」
虚をつかれて戸惑いながら「どちらかといえば犬が好きです」と答えると、麦子はファンシーなパジャマが置かれている売り場に光を誘う。
「わあ」
きらきら、と赤の瞳を輝かせるのを見て麦子は満足する。この年頃で可愛いものへの興味が薄い事に心配を感じていたからだ。自分も一緒に「どれがいい」と選んだパジャマの柄を見せ合った。
カジュアルブランドショップではソフィア・ヴァレッティ(
ja1133)の独壇場だった。水を得た魚のように店内を誘導していくソフィア。
「動きやすい服が好みなら、やっぱりカジュアル系が合ってるかな」
圧倒的なボリュームの店の中から「これは」と思える服だけを選び出す。手慣れた様子に光はただただ感心するのみである。
「今あるTシャツを捨てるのも、となるなら、上にジャケットを羽織ったりしてみるとかはどう?」
鏡の前で着てみると、確かにイメージが変わり楽しい。
「後は、Tシャツをオフショルダーのに変えてみるとか。これだけでも結構印象違うよ」
言いながらソフィアは自分の服も探していた。在庫の入れ替わりが激しいので宝物探しのようなものらしい。
「御影ちゃん、誕生日おめでとう!ボクと同い年だね。もう少ししたら、ボクがまた一つお兄さんになるけど」
肩をすくめながら微笑んでくれる犬乃さんぽ(
ja1272)。入った店内で迷うことなくピンクのフリフリ付いた服を選んでくれた。
「トップはフリルでフェミニンに、スカート丈は短めで、お姫様風に」
ぴったりとしたジャストサイズを見切られていることに光は驚く。
「はわわ、サイズは、何となく目算だからっ‥‥。あと、今日来た人達の中で気になる服装の人いたら、それも似合うんじゃないかな。服って、自分の感性が大事だと思うもん」
にこっと、笑顔がまぶしいさんぽ。応援されていること、その幸せを噛みしめる。
「‥‥ボクからはこれ」
気がついたら横にいたアトリアーナ(
ja1403)が訥々と話しかけてくる。手に持っているのは制服だろうか。だが、ぷるぷると首を振ると自身が着ている儀礼服を見てと言う。
「‥‥改造儀礼服」
硬いイメージの儀礼服がなるほど、フリルで装飾されふわっとした雰囲気を醸し出している。
「これは可愛いですね」
儀礼服(ただし男子用)を着ている姿しかイメージされない光にとってこのリメイク案は新鮮だった。
「‥‥突然の事態にも対応できる。元々、制服だし、なの」
「なるほど、なのです」
「お洋服、かあ‥‥いろいろ見てみたいよねえ」
ちょっと遅れて現れたエルレーン・バルハザード(
ja0889)らもここで合流。
「けっこう『派手かな?』と思うくらいの色を使うと、かぁいいよ!」
勢いに押されうんうん、と頷くしかない光に畳み掛けるエルレーン。
「バッヂとかネックレスとか、そうゆう小物も欲しいよね?」
こくこく、と頷く光。エルレーンは勝利を確信したように自分の装いを見せる。パーカーに赤いミニスカートにタイツ。特にパーカーに付いているエンブレムこそがポイントであると説明。
「うふふ。光さんがもし。こうゆう方向に興味があったら、そっち系のお店に案内する、よ? 」
実はこれ、アニメのエンブレムであり、エルレーンも自覚するするおたくアイテムなのである。もし光が同好の士になれば嬉しいと思っての案なのだが、ここでコスプレ服ならさっき着てたというツッコミが入り、エルレーン、痛恨のダメージ。でも、光にはそれを受容れる天然さがあるとしってこれからに期待か。
「さっきのは先生のコスプレだったけど、本格的なレディースーツもいいかもね」
光の生真面目さを活かすのならば、スーツの方がに合うのかも知れないと九真尋(
ja4121)は提案してみる。紺色のスーツでは就活スタイルにも見えそうだが、それが逆に女の子らしさにも見える。
「この間お世話になったからお礼参りにきたのだ。レナちゃんマジ天使だから忍び装束って言いたいのをぐっと我慢するのだ」
と、握り拳を硬く結んで忍者レナ(
ja5022)参上。
「女の子らしいと言えばワンピースなのだ。光お姉ちゃんには淡い青のグラデーションのロングワンピースが似合うと思うのだ。ワンピースなら体型もある程度隠せるのだ。ばっちりなのだ」
口上のようにレナが述べる言葉。そしてレナの年齢。そしてそしてレナの胸の谷間。それらを認識した時、光の涙腺がちょっとだけ緩んだのは多分、春風に舞う砂塵のせい。ほろり。
続いて光を連れ出してくれたのは鳳静矢(
ja3856)、鳳優希(
ja3762)夫妻。
「おめでとうございます」
光は結婚を、鳳夫妻は誕生日の祝辞を笑顔で交す。
「何度も採寸してるかも知れないけどごめんねー」
優希が改めてメジャーを当てる。ゆったりとした口調とは裏腹に採寸の速度は猛烈に速く、さらさらとメモを取る。
「よし、参考にさせて貰おう」
静矢が優希の採ったメモを頭に入れて服を選んでいる間に優希はノータイムで服を見繕っていく。
優希は水色とピンクのチェック柄カーディガン、ピンクのワンピース、黒のスパッツ、レースのパンプスを選んでくれた。
「これもつけてあげるねー」
そう言うと優希とお揃いの首飾りとブレスレットと指輪をそっとつけてくれた。鏡に映っている自分に、光はちょっと信じられない思いがした。自分では、いや、自分だけでは決して気付けなかった女の子の姿が映っているから。
「これも着てみてくれ」
静矢が持ってきてくれたのは青色のロングスカートのワンピース、ウサギの飾りのついたカチューシャ、ブレスレット、アクアマリンが輝くネックレス、かかとの低い水色のパンプス。光の軽快さを際立たせながらも鏡の中にいるのは文句なく女の子だった。
●紅の花
紙の色が黒ならば妹みたいに見えるのかも知れん、と水無月神奈(
ja0914)は思う。外見が似ている後輩がいると聞き興味を持ったのが同行の理由なのだが、会ってみればなるほどと納得する。自分と同じ紅の瞳を覗き込む。それだけ背負っている覚悟の大きさがわかる。なぜ普通の家に生まれその覚悟を得るに至ったのかまでは分からないが。
「動きやすい服を選ぶべきだな。夢が無くてすまないがいつ戦いになってもいいように」
思いやっての言葉だと光は即座に気がつき、その優しさと強さに感謝を述べる。
「先輩は伝説の英雄みたいですね」
祖父から聞いた英雄は、神奈のような人なのかも知れないと光は思った。花のようなと喩えられた女性にして剣聖。その英雄の二つ名・一丈青と自分の青い髪を比されたが、神奈にこそ相応しい気がした。たわいのない話をしている内にそっと、神奈の手が光の髪を撫でる。嬉しそうに微笑む光。まるで、妹のように。
「ほう、誕生日‥‥それはおめでとう、御影殿」
仲睦まじそうな二人の邪魔を避け、時を見計らいながらラグナ・グラウシード(
ja3538)は偶然出会ったような口ぶりで声を掛けてくる。これも、騎士道。
「何、装いの話か。そうだな、私なら‥‥このような感じのアクセサリーをつけている女性を素敵だと思うな」
実は可憐なピアスも用意していたのだが光の耳にピアスの跡がないのを確認すると懐からネックレスだけを取る。
「よく似合う‥‥可愛いな、御影殿」
素直に照れて真っ赤になっている光を見ていると、なぜかラグナは無性に不安を覚えてしまう。自分は久遠ヶ原学園では非モテ騎士として名を轟かせているつもりだ。しかし目の前にいるこの少女はまるで意に返さないというか、知らないのか?
「私から薦められて本当に嬉しいのか、御影殿」
心の奥を量ろうとしたラグナだったが、赤面しながらもニコニコと微笑む邪心なき光の視線にあえなく撤退するしかなかった。なるほど相手が無双の剣士である名もまた伊達ではない。ただラグナはやや同類の匂いもかぎ取ってしまう。この子は、どんなに想いを相手に持たれてもそれに気付くことはないだろう。学園の生徒はは先輩、同級生、後輩の三種類のどれかなのでは、と。
「お誕生日おめでとうっす!」
陽気なままで佐藤としお(
ja2489)が呼びかける。たわいもない会話のやりとり。ラーメンの話や花の話など繰り返す。竜のタトゥが気になるのではと案じていたのだが光は一向に気にする様子もなかった。
似合うと思うんだけど、ととしおが差し出したのはブルーのドレス。主張が少ないがそれだけに光を引き立てるような見立てである。光の結んだ青の髪が揺れるたびに現れるコントラストが面白い。
するとまるで風のように光の背中は優しく「とん」と叩かれた。
「試着、お疲れさま。疲れてない?」
背を叩いた手の中からキャンディーの包みが現れた。
「いちごみるくのキャンディなんだけど甘い物ってちょっと疲れとれるよ? 」
逆行の中から栗原ひなこ(
ja3001)の微笑みが現れる。光が悩んでいると聞いて駆けつけてくれたのだ。
「わたしもファッションは得意じゃないんだけど‥‥。髪を結ぶシュシュとかバレッタとかどうかな?」
目を閉じながらひなこは様々な姿の光を想像する。でも突然お洒落になってしまった光も想像がしづらい。
「少しずつ日常に取り入れていくといいと思うんだ〜。あとはね〜、携帯のストップとか可愛いの付けてるだけでも女の子らしいよ」
ひなこはシュークリームのストラップを見せる。スイーツのストラップをつけると女の子っぽくなるよ、と教えてもらい「なるほど」と納得する。
そこに、まるで押し出しのような勢いで丁嵐桜(
ja6549)が突進してきた。
「辻村先輩から聞いて来ました! 御影センパイ! お誕生日おめでとうございまーす!!」
さすが、と言うべきか小柄な体に見える桜だが、息ひとつ切らしていない。
「あたしのも! あたしのもつけてみて下さい!」
差し出した手の中から現れたのはテントウムシのブローチであった。女の子らしくなりたいという光の願いをティーナから聞いた桜が一生懸命考えた末に、用意してくれたものである。
「あたしとお揃いなんです!」
元気いっぱいに微笑む桜。光は嬉しそうに微笑み返す。
●みんなでお茶会
「わたしは、服選びにはさんかできませんでしたので。せめてお茶会の準備はわたしが」
そして仲良くなりたいのです、とリゼット・エトワール(
ja6638)が力説する。光は、ちょっと押されながらもその申し出を受諾し「うれしいです、エトワール先輩」とぎゅっと手を握る。
「では、私は紅茶を淹れますね」
光が作り持ってきたケーキ、らしきものにちょっとだけリゼットは驚いた。が、しかし味は問題なさそうなので見た目の方をなんとかすることする。生クリームとフルーツソースを盛りつけると見た目の難は消えていた。
給仕役として名乗り出てくれた静矢がサーブを行い、としやはトークで場を和ませてくれている。
「光ちゃん、一言お願いね!」
RECさせてね、とひなこに促され、恥ずかしそうに、だけどすっと光は立つ。鳳夫妻が選んでくれたチェックのカーデと黒のスパッツの姿で恥ずかしそうに立っている。恥ずかしそうに「似合います?」と真っ赤になっている。
「皆さん、今日は一日ありがとうございました。こんなに素敵な誕生日を迎えたこと、今まで一度もありませんでした」
ぱん、とクラッカーが鳴る。
「ステイツではクラッカーで祝すもの、なのです」
いつのまにかアーレイとティーナもいる。そして沸き上がる祝辞の拍手。
目に前にはたくさんのプレゼント。星型の首飾り、コスプレ図鑑と匂袋のセット、サンゴのネックレス、光の誕生石・トパーズが中央にはめ込まれたシルバーの十字架のペンダント、魔法少女「風」コスプレ、リボン、シルバーアクセサリー、サクランボの缶詰、テントウムシのブローチ。クマのストラップとテディベアのぬいぐるみ。そしてリゼットが盛りつけ直してくれたケーキ。プレゼントだけじゃない。今日この時、祝ってくれるひとの言葉それぞれにそれぞれの思いが詰っていて。
「私は何もお返しできません。ですからせめて皆さんに感謝して」
15歳になれた事を感謝しながらひとりひとりに紅茶を注いで歩く。みんなと出会えて良かったです。みんなに囲まれて誕生日を迎えられるなんて幸せです。その気持ちしか光にはなかった。
「お茶だけど乾杯」
としおが音頭を取るとみんなが「乾杯」と唱和する。そして一口飲んで。みんなの時間が一瞬止った。
「ひ、光ちゃん‥‥」
「‥‥まだ修行が必要だな」
みんなが一様にこく、っと頷く。たっぷりと砂糖を入れた上で一口飲んだ光も、おずおずと頭を下げる。
光が淹れた紅茶、の缶を表に返す。缶の後ろから「烏龍茶」という文字が現れた。
(2012年3月30日、修正)