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マスター:火乃寺
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/02/03


みんなの思い出



オープニング

年が明けて三が日も過ぎ、しかし天魔にはそんな事は関係ない筈…ではあるが、何故か年始たいした事件も起こらなくなる傾向がある。
彼らも人間界の風習に感化されているのか、或いは単にサボって居たいのかは謎であるが、まあ何も無いに越した事は無い。

「お?」
 青年が河原沿いの沿道を歩いていると、河川敷でなにやら二十人ほどの学生たちが集まって何かを組み上げていた。
「おーい、何してるんだ?」
 堤防を降りて近づいていくと、手隙の一人が応える。
「ああ、鬼火焚きの準備をしてるのさ」
「おにびたき?」
 鬼火焚きとは、九州で正月七日に行われる火祭りの事である。竹櫓を組み、その中に正月飾り等を積み上げて火をつけ、炎と竹の罅ぜる音(この音は古来より魔除けになると言われる)で祖霊と共に、飾りに引き寄せられた悪霊(鬼)を祓うという伝統行事である。
「へー、でもまたなんでいきなり」
「内のサークル、九州出身者が多くてさ、大晦日集まって地元の話してたら流れでやろうって話になってね」
 笑いながら、丁度やってきたトラック二台に積まれた正月飾りを下ろしだす。
「まあ、県ごとで『トンド焼き』とか『左義長』なんて言う呼び方もするんだけど、要するに正月最後の締めくくり行事さ」
 一度やると決めてしまえば、実行力の高さが売りの久遠ヶ原生徒である。
 正月早々に生徒会と学園に届けを出して許可を貰い、学園のあちこちから正月飾りを集めて巡っている最中だという事らしい。
「7日の夕方から火をつけて一晩、過ごし方は自由に。火の番をしながら鏡餅を残り火で焼いたり、花火をしたり、他愛無い雑談をしたりさ」
「へ〜」
 作業を見守りながら、竹櫓の中に積み上がって行く正月飾りの山を眺める。
「なあ、うちの飾りも持ってきたら焼いて貰えるのか?」
「勿論。一応サークルのイベントとして、一般自由参加で開催するから。ま、特に面白い物でもないから、それほど集まらないだろうけどね」
 まだ肌寒い風の中で、額に汗を浮かべて笑う青年に彼は頷く。
「了解、なら一丁、俺も手伝うかな」
「お、助かるよ、大歓迎だ」


「ふぁ〜ぁ…」
 とある女子寮。目覚めと共に大きな欠伸をした少女が、冷えた室内の温度にぶるりと背を震わせ、慌ててベッド傍にかけておいたカーディガンを手繰り寄せる。
「ん〜、もう直ぐ登校日かぁ…憂鬱だなぁ」
 どうやら学業は得意ではないらしい少女は、よっこいせ!という若者らしからぬ掛け声と共にベッドから飛び起き、朝食を取る為に食堂へと向かった。

「〜♪」
「ん?」
 階段を下りてきて食堂前に来たその時、中から妙なハミングが聞こえてくるのに気づく。
(なんだろ…厨房のおばちゃんかな)
 特に気にも留めず入り口の戸を押し開いて中に入ると、
「お、おっはよー♪ はやいねぇ」
「おはー。って、何してんのアンタ?」
 厨房に強ってエプロンをしてなにやらごとごとと動き回っていたのは、顔見知りのクラスメートだった。
「んー、あれ作ってんのよ、あれ」
「いや、アレじゃ分からんし」
 再び妙な鼻歌雑じりにざるに盛られた食材(?)らしき物を取り出してくる。
「…何これ、雑草?」
「っておいおい、雑草は無いわよ。良く見なさいよこれ!」
 しかし植物に対して興味の無い少女にとっては、どれもそこらで見た事がある様な無い様な草にしか見えない。
「見て分からんから聞いてるんじゃ」
「もー。あのね、今日は一月六日、これは分かるわよね?」
「お?、あ、うん、そだね」
 壁際に掛けられたカレンダーを見て頷く。
「で明日は七日、七日といえば定番の物があるっしょ♪」
「……?」
 言われても分からず首をかしげる。
「んー、地方によっては食べないトコもあるからなぁ。んとね」
 厨房の少女が、食材をひとつ引っ張り出して少女の目の前に差し出す。
「これがセリ、こっちがナズナ、でゴギョウにハコベラ、ホトケノザでスズナ、スズシロ」
「…やっぱ草じゃん」
「いやまあ、草なんだけど。春の七草って知らない?」
 そこまで言われてようやく朧げに見えてくる。
「ぁ、あーあー。そういや昔聞いたような…アレでしょ、御粥」
「そうそ♪」
 ようやく得心がもらえ、笑顔で頷く。
「六日に叩いて、七日に炊いて御粥にするの。厨房のおばちゃんと有志の提案でね、幾つかの寮で明日の朝食に決まったのよ」
「ほーん、なるほど。…って言うか、今日の朝ごはんは?」
「それならもう作ってあるわよ。その辺で座って待ってて」
「ほーい」
 背を向け卓子に向かう少女の後ろで、再び厨房から聞こえ出す歌。
『七草ナズナ 唐土の鳥が 日本の国に 渡らぬ先に セリこらたたきのタラたたき♪』
(…変な歌)
 これでも七草囃子という由緒正しい(?)唄なのであるが…現在や知っている者の方が珍しくあるのだった。


 絶命の叫びと共に倒れ伏す烏天狗。
 正月など何処吹く風と跋扈する野良天魔。依頼があれば休みだろうと動かねばならないのが、天魔討伐機関たる久遠ヶ原の役である。
 応じるのは専ら、一人寂しく寝正月予定だったり、或いは――
「あー、折角今年はおこたで温々過ごす予定だったのにぃ〜」
 今し方天魔を切り伏せた二十代くらいの女史が、軽々と戦斧を肩に担ぎなおし、頬についた返り血を指先でふき取る。
「とか言いつつ、鬼気迫る勢いで真っ先飛び込んでったのは誰だったかねぇ」
 とん、と樹上から飛び降りてきた同世代の青年がライフルをくるりと回しながら苦笑する。
「しゃーないじゃん。好きなんだもの、アタシ」
 殺し合いが、とは口にせず、再び山麓を歩き出す彼女。要するに、こう云う手合いの学生らであった。
言外を読み取り、青年は肩を竦めてその後ろにつく。
「後何匹くらいだっけ?」
「あっちの班が5殺っていってたから、後2体かねぇ」
「よし、それはアタシが貰った」
「はいはい、姐さんのお好きに何卒っと」
 血生臭い正月もまた、学園にとっての“正常な”年始の風景なのであった。


リプレイ本文

●【添ゆる縁】
「ほぉ、これが七草粥」
 よそわれた椀を興味深げに覗きこみ、鐘田将太郎(ja0114)は徐にスプーンで一口頬張る。
「んむ…なんとも言えん塩味が絶妙。流石、厨房のおばちゃん」
 実際お姉さんな方も居るのだが、主導したのがおばちゃんなので間違ってはない。
「トッピングは白黒胡麻に梅干、鰹節、味噌に醤油と…出身に合わせてお好みにって奴か」
 七草粥とその類似の習慣は日本全国にあるが、地方によって様々な具材や味付けと聞く。
(ま、元の七草全部知らんけどな。一杯目は素のままで味わうか)
 素朴だが、さらりとした舌触りに七草の食感が好ましい。
「早いな将太郎。ここ、いいか?」
「おう、おはようさん」
 声を掛けて来たのは、良く講義で一緒になる青年。
「七草粥かぁ、昔ばーちゃんが良く作ってくれたなぁ」
「俺は初めて食ったよ。悪くは無いな」
「だろ。うちの地元じゃ鶏肉も一緒に炊いたりする。これだけだと腹に満たないからな」
「はは、違いねぇ。おかわりは必須だな」
 それから青年が二杯、将太郎が三杯と平らげながら雑談に花を咲かせる。
「お前、今年は何目標にするよ?ちなみに俺は『今年こそ彼女を作る』だ」
「そりゃ未達成確定だな」
「うるせぇ」
 笑いながら小突いてくる青年の拳を躱しながら、
「俺は…そうだな、強くなって奥義習得!」
 と力強く答える――彼女も欲しいな、とは思いつつも。

 そこから少し離れた卓子には、食事の傍ら携帯機器を垣間見る青年が1人。
(思ったより動員が遅いな。年始の影響があるのかな?)
 先の依頼での傷が癒えたばかりの龍崎海(ja0565)だ。病み上がりで自炊も面倒に感じていた矢先、寮外生にも開放されている学食の七草行事を知り、これ幸いと足を向けていた。
 高知ゲートの一件に関わった身として、次の大規模作戦の前に傷が癒えた事にほっとしながらも、学園の動きの遅さがやや気になる所だった。
「残っている枝門は二つか。動員前に攻略を行うのか、大戦力を調えて確実に攻略するのか、どっちかな?」
 脳内に描く戦略図を無意識になぞるように、指先が卓上を辷る。海の心は、已に次の戦場に馳せていた。


 処変わって女子寮。
(…七草粥、美味しいですの)
 一見小学生にも見間違えそうな小さな体で、とてとてと食堂内を行き来する橋場・R・アトリアーナ(ja1403)。その躰の何処にそれだけ入るのかと追加分を調理していた調理師が目を丸くするのだから、何杯目なのかはお察しである。
「…こういった、季節の食べ物は大事ですの」
 彼女は寮生ではないが、食堂自体は寮外生にも開放されている場所だ。
 適当な卓子に腰を下ろして、またぱくぱくと匙を動かし平らげていく。
 あっという間に綺麗に空け、漸くお腹がひと段落。ドリンクコーナーで焙じ茶を淹れてまったり…かと思いきや、持参した袋から取り出したお茶請けの和菓子タイムが始まった。
「ほう…」
 満足げな溜め息一つの隣の卓子で、寮生らしい女性が小柄な体型をみて羨ましげな視線を無言で向けてくるのに気づいたが…彼女アトリアーナに頓と心当たりは無かった。
「おはようございま〜す」
「鈴音、おはよー」
 そんな食堂に元気ない挨拶が韻き、返してくる顔見知りの学生らに笑顔で手を振って六道 鈴音(ja4192)はカウンターへと向かう。
「あー、今朝は七草粥かぁ。七草粥ってさ、お餅入れるよね?うちは入れるよ?」
「私んとこじゃ、七草って言うより山菜の煮付けだったなぁ」
 一緒に列んでいた寮生とそんな会話をし、適当に二人席の卓子を確保し匙を進めつつ、此処暫くの考え事を再開する。
(あの悪魔どもを倒すためには、なんかこう、新しいカッコイイ術が欲しいよね)
 とはいえ、考えてポコポコ新術が開発できるようなら誰も苦労はしないのだ。
(…私の得意な炎形の術が効かないから厄介なのよね、あの野郎は)
 ある悪魔の憎たらしい顔を思い浮かべ、むーっと腕組む。いっそ格好良さより威力を重視、と考えた所で見覚えのある姿を見つけ、
「あっ、お姉ちゃん!こっちこっち!遅いよ!」
 相部屋に住まう姉に手招きし、声を上げた。

(七草粥…?)
 カウンターでよそって貰った椀を物珍しげに見つめる少女もまた、同時刻の食堂に居た。
 一見ふわふわとした雰囲気の美少女、だが同時に深く遠くを見渡すような蒼い瞳の彼女、名をレティシア・シャンテヒルト(jb6767)という。
 その出自ははぐれ、つまりは悪魔。外見からは及びもつかない永い時を生きる。
 どこか懐かしい香りに匙を取り、一掬い。それは古き縁故を懐い起こす。
(…人に混じっていた時に、ご馳走になった事ありましたね…久しく忘れていました)
 曾て耳にした古き唄、同じ時を生き、そして死に別れた人の子ら。友となった者、或いは心ならず敵対した者も。
「あの」
「食器はそこに置いて――」
「ありがとうございます」
 空になった食器の載った盆を搬んできたレティシアに突然お礼を言われ、厨房に居た調理人達はきょとんとする。
「皆様のおかげで、久しく忘れていた大切な物を取り戻せた気がします。感謝を」
「…なんだか良く分からないけれど…、そうかい、良かったね」
「はい。それで…実は級友が徹夜で宿題に取り組んでいて、こちらまで来る余裕もなさそうなので」
「ああ、なるほど。一寸待ってな、出前用の岡持ちがあった筈だから」
「重ね重ね、ありがとうございます」


「蕪と大根はどうする?」
 マンションの一室で、住人である音羽 聖歌(jb5486)に、
「晩飯をシチューにして蕪入れて、大根は…おでんにしたらよく消費するんだよな」
 七草を一緒に持ち込んだ従兄弟の神谷 託人(jb5589)が返す。
「じゃあ一緒に作っても良い?こっち2人だし」
 共に此処に自室を持つが、今朝は二人共通の友人であり幼馴染でもある少女から、屋上菜園で育てたという七草のお裾分けを貰い帰って来た所だ。
「さて、弟達が起き出す前に作ってしまうか。」
 大したもので毎年この日の為に自家栽培しているらしい。こちらもスーパーに買いに行く手間もお金も省ける。
(自生している七草も島にはあるらしいけど、流石に衛生的に気になるし…ゴギョウ・ホトケノザなんて地元でも見つけにくかったからな)
 とはいえ聖歌の弟達は育ち盛り、粥だけでは到底足りまい。追加のボリュームは必須だ。
「そっちに餅と、冷蔵庫に鮭があるから出しておいてくれ」
「了解」
 序でに寮を多めに作って明日、明後日のおかずにしようと二人並んで調理を始める。
「少しは蕪、生で持って帰るか?」
「うん、妹が生蕪スライスにペースト載せで食べるの好きだし。明日の朝はサンドイッチにしようかな?」
「こっちは腹にたまるもんじゃないと弟達が騒ぐからなぁ、飯かな」
 和やかに調理が進む中、七草を叩く託人の顔色が微かに翳る。
 ぴしゃっ!
「わっ!?」
「なんて顔してやがる」
 いきなり顔に飛んできた水滴に驚く託人に、飛ばした指先を突きつけ聖歌はにやりと笑う。
「俺ならいいが、妹にそんな顔は見せるなよ」
 すぐ何とも無かったように鍋に向き直る彼に、
「分かってる」
 沈みかけた心を振り払い、託人は頷くのだった。


 ふと時計を見ると、已に昼を大分回っていた。
 寮で自習の後、ジムに直行してトレーニングに没頭していて時間を失念していたらしい。
 シャワーで汗を流した黒井 明斗(jb0525)は、ふと更衣室のカレンダーに目を向ける。
「七日ですか」
 そう云えばいくつかの寮で、今朝は七草粥を振舞うと聞いた覚えがある。
「そうですね、折角ですし」
 着替えながら呟いた明斗は、ジムを出たその足で近場のスーパーへと向かった。
「こう云うのは、普通が一番ですからね」
 昨今は七草粥用に、七草を纏めたパック売り等も店頭に並ぶので便利な物だ。自身の分だけでなく、依頼等で出払っている知人らの量も確保する。
(お腹を空かせて帰って来るでしょうし、何かボリュームもあったほうがいいでしょうね)
 夕食や夜食用に鶏肉を加えた中華粥板の献立も考えながら、ゆっくりと買い物をこなすのであった。

●【猛き灘たる】
 時は少し遡り、まだ日が上る前――黒き波頭の灘に、猛る意思と殺意が奔り亘る。
「海やーっ!」
 ばっ、と着ていたジャンパーを高々と投げ捨て、黒ビキニに包まれた魅惑の肢体とたわわに実った果実がばいーんと…、
「――寒ぅーーーーっ!!!」
 揺らした直後、鳥肌を立て先の服を拾いに行く黒神 未来(jb9907)に、釣り道具一式を担いだが鷺谷 明(ja0776)にこりと笑う。
「面白い人ですね。さて、打ち合わせ通りに。私はあちらの堤防に行ってくるよ」
 歩き去り掛けて思い出した様に、
「ああ、出力を上げれば寒く無くなりますよ」
「…ぉ、本当だ」
 日常時でも一般人よりは耐寒耐熱能力は高い撃退士だが、アウルを漲らせる光纏時のそれは平時を遥かに上回る。
 もう寒くない!と再びビキニで仲間と共に海に突進する未来に肩を竦め、明は再び歩き出した。
「んじゃ、うちは浜辺に来る奴ブチのめすで!」
 日の上る前の戦闘は、視界の確保という点でリスクが増す。しかし天魔が日の出前に出没して住人を殺戮するという習性を鑑み、この時間の作戦となっていた。

 体当たりの巨大な質量に貫かれ、未だ昏い海中に、体内から噴出す体液が靄の様に広がる。
(新年早々はた迷惑な敵ね!)
 仕留めた半漁人の天魔を蹴り飛ばし、雪室 チルル(ja0220)が自身の得物を引き抜くと同時に海水を蹴る。
 彼女達が受けた依頼は、熊本近海の海に出没するという天魔群討伐任務。固体そのものは強くないが、何しろ数が多いという前情報通り、尽きる事無く沸いてくるような錯覚を覚える数。
「そこね!」
 振り向き様に凍気の如く海中を染める白銀の輝きが、一直線に逸り二体を同時に飲み込んだ。

「元気の宜しい事…でも見ているだけで寒くなりそうですの」
 そんなチルルの様子を、日傘で陽光を障りながら海上より数m上で浮遊する紅 鬼姫(ja0444)が見やる。戦闘時のアウル全開状態の能力は前述の通り。だが視覚的な風景により体感温度を錯覚する事は普通にある。いわゆる「思い込み効果」という奴だ。
(とはいえ陽光も嫌いですの。早く終わらせますの)
「紅さーん、よそ見してない? とっ!」
 胸中で呟く彼女の左下方、海上辺りから声が上がる。
 その主は一見優男風の青年。彼は水面に沈む事無く波頭を走り、ひょいと右へ飛び退いた。刹那、海面下から鋭い爪が振るわれ、虚しく空を裂く。
 名を藤村 蓮(jb2813)。彼と紅の作戦は、紅がワイヤーで吊り上げた半漁人を蓮が仕留める…という方針だったのだが…。
「予定とは違いますけど、これはこれで都合がいいですの」
 浮遊している上に遁甲で気配まで彼女が消している物だから、的は自然と連に集中する事に。
 感情の篭らない声と共に紅の指先が動く。目に見えぬ何かが空を趨り、海面を切り裂いて蓮を襲った直後の天魔を搦め取る。
「生臭いですの。蓮、差し上げますの」
 ぐっと掌を握り締め、身体ごと回転させるように海中から天魔を吊り上げ、そのまま蓮に向け振り回す。
「いやいや、俺も生臭いのは要らないんだけど」
 微苦笑しつつ、それに向かって加速。彼のアウルを注ぎ込まれた刃が瞬時に伸張し、擦れ違い様に魚人の胴と首を別つ。
「もっと綺麗な首が欲しいんですの」
 その光景に溜め息を吐き、紅は得物であるワイヤーを手元に引き戻した。
「まぁ、あんま綺麗な首ではないとは思うけども」
 彼女の言葉に蓮は苦笑を深め応じる。斬首で仕留めろとは紅のリクエストなのだ。
「まあいいですの。引き続き生餌として蓮の成長を見て差し上げますの」
「いやさ、それ何かおかし…ととっ」
 再び海中からの襲撃を飛び退って躱す連。練り上げられた体術は、この程度の攻撃を翳める事さえさせない。
 順調に狩りをこなす二人。だがこの暫く後に待ち構える受難を、神ならぬ蓮は知る由も無かった――。

 再び海中。
(初日の出を見に来た人を襲うなんて…許せません!)
 水圧を物ともせず、強烈な蹴撃が天魔の左側面に叩き込まれる。ひしゃげる上体は脊椎を粉砕され、天血泡を吐き天魔が海底に沈んで行く。
(炎武式、ソニックインパクトっ! 久しぶりでしたが海中でもいけますね!)
 競泳水着の上に魔装を具現させた炎武 瑠美(jb4684)は、手応えにぐっと拳を握る。彼女とチルル、後もう1人が海中での掃討を進める。
 予定では包囲して行くつもりだったが、水中は上下の移動余地もあり自然と乱戦の様相を呈する。それでも三人は互いをフォローして巧く切り回していた。
(人間の都合は待ってくれないものね)
 ほんの一瞬、脳裏に浮かぶのは曾て平穏だった頃、平和な年始風景。それを振り払い、蓮城 真緋呂(jb6120)は突進する魚人の牙を擦れ擦れに翳めて躱す。
 目の前に今ある冷徹な現実。海水よりも尚冷たく、奪われ戻らぬ過去を知らしめる…だが。
(還してあげる)
 躱し様、無防備な背中を手にする直刀から放たれた赤光が貫く。天光を収束した一撃は天魔の胴に大穴を開け、的は血と内容物を散らしながら絶命する。
 冷たい瞳に、僅かな憐憫を宿してそれを見届ける真緋呂。ディアボロは魂を奪われ、殺戮の獣と作りかえられた骸に過ぎない。それを思えば憎しみより、今は憫れみを抱く。
「!」
 刹那、足元より吹き付ける殺気に直感のまま身を拈る。その傍を翳めた魚人の爪が彼女の編みこまれた髪を僅かに短くした。

 海中組の乱戦を抜け、三匹が浜辺へと到達する。
「せい!」
 その背後、薄闇に気配を紛らせて音も無く疾駆した未来が半漁人の胴をがっと抱き、引っこ抜く様にバックドロップを仕掛ける。
 グギャッ、という頭骨と頚椎の潰れる音を韻かせ絶命。そこで漸く敵襲を感知し戦闘体勢を移る二匹。
「反応が、遅いわ!」
 だが突進同時に未来の両腕が二匹の喉に強烈なラリアットを喰らわせ、薙ぎ倒す。
 喉を押さえ砂上で悶え打つ二匹を見下ろし、彼女はパキパキと拳を鳴らす。
「一発で逝かんかったか。安心し、苦しいんはもう一寸だけや」
 一見可愛らしい小顔に獰猛な笑みを浮かべ、彼女は天魔に死期を宣告した。

「皆元気だねえ」
 堤防に簡易チェアを置いて腰掛け、釣り糸を滴らす明。仲間の戦闘の気配を捉えながら、のんびりとした風情は欠片も揺らぐ事はない。
「おっと、掛かったね」
 ロッドに感じる手応えに、ぐっと力を込めて引いて見る。だがその必要も無いと言う様に、海中から水飛沫を蹴立てて歪な人形の影が彼の喉笛目掛け飛び上がった。
「大当たり」
 目を細め、ぬるりと左方に立ち上がり身を躱す。同時伸ばされた右手に握られた銃の、ラッパ状の銃口が天魔の側頭部にそっと宛てられた。
 乾いた破裂音と、爆け飛ぶ魚人の頭部。脳漿と骨片を撒き散らし、横倒しになる骸を一瞥した明は掌中のマスケットを収める。
「それなりの釣果かな」
 見回す堤防上に天魔の末路が十と散乱する最中、白々と差し始める彼方の空。
「…御来光、とねえ」
 今年最初に見る日の出を暫し見やり、明は眩しげに目を細めた。

「日が出たら一斉に逃げて行ったね。ていうか何匹居るのさ」
「多分どこかに巣があるんですの。最終的にそこを潰さないと駄目ですの」
「うへぇ」
 浮遊する紅に追従し、海面を駆けた蓮が砂浜に上がる。
「おーい、こっちこっち、焚き火やでー」
 海岸の流木を集めて火をつけていた未来が、戻ってくる仲間達に手を振る。
「あたいはこの程度の寒さなんてなんでもないわ!」
 凹凸の控えめな胸を外らすチルル。此処で一つ簡単な事を述べてみよう。
 彼女は当然戦闘中は魔装を纏い戦っていたのだが、その下に着ていたのは普通の水着である。
 それが戦闘に置ける機動で繊維が酷使された上、たまに掠める攻撃が一部を裂いたりしていたらどうなるか。
 ビッ!という軽い音と共に爆ける何か。
「あ」
「…はぁ」
 直ぐ隣で目撃した蓮が思わず声を出し、鬼姫は次の騒動に備えてそっと移動する。
「みんなどうし……」
 言いかけて、直ぐに自身がどんな状態かを把握、思考フリーズ。
「あたいの水着がない!?どこいった!」
 何処も何もその付近にばらばらになってる切れ端ですよね、と蓮は模糊と思った。そして側に居る彼にチルルもまた気づく。
「あ、ぁ、な、ぁっ…」
(震えてる真っ赤になってる…来るな)
「見るなー!!!」
 瞬時に繰り出される必殺(一般人即死確定)の拳をコンマ秒以下の感覚で捉えながら、蓮は思考を巡らす。
(これ避け様と思えば…でもそしたらもっと状況悪化しそう)
 一瞬で判断し、わざと喰らうと同時、後方に飛んで衝撃を逃がす。これで傍目には殴り飛ばされたように――、
「きゃあっ!?」
「へっ?」
 だが、何も無かった筈の背後で誰かに接触、それを下敷きにしてしまう。
「ご、ごめん」
「いたた、な…にが」
 ふにょん。
「っふぁ!」
「…ぇ」
 無意識に漏れる艶やかな吐息に、状態を把握した蓮が固まる。
 その正体は真緋呂だった。戦闘により水着が形を成さなくなった彼女は、それを隠す為に蜃気楼の術式で自身を透明化させていたのだが。
 タイミング悪くそこに飛んできた蓮と絡み合い倒れ、彼が身を起こす為に地に着いた筈の左手が。
「……消す」
(あ、俺死んだかな)
 顔を紅潮させ、涙目に宿る殺意。確りと鷲掴んでいた柔らかな塊から手を離し、来るべき物を待つ。
 先のチルルほどではない物の、十分に威力の乗った拳が彼の身体を勢い良く吹き飛ばす。
 無論再度に衝撃を逃がすべく努めたが、流石に二連檄で意識がゆれ、砂浜に落ちごろごろと転がっていく。
 その先には一足疾く上陸し、熊の着ぐるみを着込んで暖を取っていた留美の足元で。
「ぴゃっ!?え、えっちなのはいけないと思いますっ」
 顔を真っ赤にしながら酷い誤解をして逃げて行く。あれ、これ俺がいけないの違うよね?と状況を再確認しつつ。
「…女の子って、理不尽だ」
「おやおや、楽しそうだねえ。何かあったのかい?」
 おっとり刀で釣具を担いだ明が戻り、一堂を見回してにっこり笑うのだった。

●【森羅翔りて】
「さて、昨年の残り物を片付けますか」
 フランクな口調で一同に呼びかける長身の青年、しかし応じる声は少なかった。
「ありゃ、つれない事で」
 肩を竦めて苦笑する片瀬 アエマ(jb8200)。美形ではあるのだが…その口調がそれを七割減させてしまう感じのはぐれ悪魔である。
「フン…」
 その傍を通り過ぎ様、ねめつける様な一瞥を投げつけ、凪(jc1035)というもう一人の青年が翼を広げ飛び立つ。
 今回の依頼、烏天狗型の天魔は出没範囲が広域に渡る為、ニ〜三人に分かれての探索及び遭遇戦で行く方針となった。
 だが参加者の多くが独立闊歩の気風が強く、連携という点では余り期待できそうには無い。尤も、相手はソロでもそう手子摺る獲物でもないのだが。
「…俺ナンカしたっけ?」
 凪の態度に訝しげに首をひねるアエマの背後から、別の羽ばたきが生じる。
「退屈してたンだ。楽しませろよ…!」
 それは銀髪の青年、ジーノ(jc1050)だった。相談時は終始気だるげだった彼が、嬉々として舌なめずりせんばかりの嗜虐的な笑みを浮かべ飛翔して行く態を、一瞬ぼけっと見上げ、
「って、待てよお前ら俺を置いてくなっ」
 慌てて二人の後を追い、アエマが銀の翼を広げ舞い上がった。

 三人が組んだ事は、単なるその場の成り行きでしかない。
「ちょっと痛いけど我慢してくれよ」
 潜んでいた幹の影から急接近し、電光石火の如き鉤爪の一閃が天魔を薙ぐ。
『クギャァ』
 体勢を崩し落下、だが中空で持ち直した烏天狗は再び上昇しようとして…、身に絡みつく何かに気づく。
「大人しく地べたに這い蹲りなァ!」
 その源はジーノより放たれた目に見えぬ極細の金属糸。膂力に任せて空中より引き摺り墜とされ、天魔が衝撃に悶える。
「千切りと微塵切り、ドッチが好みだァ、お前?」
 辛目取られ身動きの出来ない獲物の原を藉みつけ、酷薄に問うジーノに応える事も無く、天狗が生み出した風の刃が彼に飛ぶ。
 喉元を狙ったそれは、しかし仰けぞる様に彼が躱し、顎を僅かに切る程度で空に抜けていく。
「残念でしたァ」
 引き絞られた鋼糸が、天魔の首、胴、手足を輪切りに切断、吹き散る鮮血に塗れながら、銀髪の凶人が嗤う。
「足りねェ…全然足りねェなァ」

「うわぁ…ておわっ?!」
 それを見下ろしていたアエマが何とも言えない表情で呻き、直後飛来した投刃に慌てて身を躱す。
『クワァッ!』
 と、背後で上がる叫びに振り向けば、今の一撃で切裂かれた天魔が血飛沫を上げて高度を墜として行く所だった。
「うおいっ、助かったけど危ないだろ!?」
「敵に気づかずボーっとしてるのが悪い」
 一撃を放った凪に苦情を言うも、そう切り捨てた彼は今の天魔へと追撃に掛かる。
「いや、確かにそうだけどもう少しやり方ってもんがだな」
 ぶつぶつと愚痴りつつ、それに加勢する為にアエマもその後を追った。

(空を飛べて羨ましいな。…あたしも飛びたい)
 誰もが一度は抱くあろう羨望。しかしそれを抱いた少女――Robin redbreast(jb2203)にとっては多分に機能的な理由でしかない。
 戦闘に置いて空を飛ぶと言う事は、敵の頭上を取るという意味で、行動範囲や機動力を拡げるという意味で、有効な機能だから。
「逃げられないように、翼を攻撃した方がいいのかな?」
 頬笑みを浮かべた表情から放たれる無機質な呟き。確認というより確定事項のような響き。頭上に飛来する風の刃に、手にした青銅の紋章を介しアウルを障壁として展開し禦ぐ。
 白金の髪をふわりと揺らして見上げる瞳。敵を捉えるその内に何の感情も亡く、ただの破壊対象を捕捉する機械の如く。
 反撃と放たれる魔力は無数の目玉となって具現し、天魔の翼を穴だらけにして落下させる。その場所へ、対象の機能を停止させるべく、少女の姿をした何かが襲い掛かった。

 “Robinさんが一体撃破、その後方六時と七時より二体接近。六時を対処します”
 天狗が舞う高度より更に上空、貸与された無線にそう呼びかける。覗き込んでいた双眼鏡を外し、廣幡 庚(jb7208)は背の翼を大きく拡げ、空中での姿勢を制禦して狙撃銃のレティクルに的を捉える。
 已に一帯では各人が発動させた祖霊符により透過が封じられていた。天魔は木々を避けてRobinへの軌道を取り迫る。
 一射、銃声と共に背から射ち抜かれた一体が墜落、地に叩き付けられ動きの鈍った一瞬に止めの引鉄を引いた。
 あと一体…とスコープを向けると、そちらに向かい駆ける少女の姿が映っていた。
「無茶な…戦い方をしますね」
 三体を片付け、舞い降りた庚が二匹目に痛手を被った少女に治癒術を施す。
 真っ直ぐ、迷いも無く…だが何処か見る者を不安にさせるRobinの戦闘術に、庚はポツリとそう漏らす。
「…?」
 意味が解らない、という風に首を傾げる少女は、傷が塞がると同時に新たな敵を捕捉すべく動き出す。
(如何したらそんな風に…迷いも無く戦えるの?)
 胸中で庚は、そんな少女の背言葉に出来ぬ羨望を含んだ問いを投げかけていた。

 連続する銃火。
 ばら撒かれる弾丸に吹き飛ばされた右手を押さえ、烏天狗は更に高度を取る。
「…ふうん…逃げるんだ?」
 一見すると幼い少女にしか見えない紅香 忍(jb7811)は、うっすらと微笑する。
 だが、覚醒により一時変質した縦長の瞳孔を細める其れは、獲物を甚振る爬虫類の嗜虐に何処か通じて。
 ふわりと身を屈め、跳躍。天魔の直近に聳える大樹に足をつけると、一気に並ぶ位置まで駆け上る。
『クワァッ!』
 喙を開け号ぶ天魔。生じた雷球から放たれた電撃は、だが一瞬前まで忍が居た空間を空しく灼く。その直後、右側面から放たれた弾幕に射たれ、悲鳴を上げて墜落して行く。
「…ん…問題ない…」
 別の木の枝にぶら下がった少年は、実践に初投入した自動小銃の遣い勝手に満足げに呟いていた。

「オオッ!」
 昏き翼を畳み風雷を纏い急降下に繰り出される刺突は、違い無く獲物を、その背の片翼を貫いて左胸まで通し、勢いのまま両者は大地へと激突する。
 土煙が収まれば、クレーター上にへこんだ斜面にめり込む天狗と、その背を踏みつける初老の男性の姿が現れる。
「フン…他愛もない」
 がっしりとした体躯の、蒼い瞳の白人。名をファーフナー(jb7826)と学園に記録されている彼は、一撃で息絶えた天魔から無造作に金色の斧槍を引き抜く。
 その直後、傍らに落下してくる別の一体。上空で忍に撃墜されたそれは瀕死ではあったが、まだ息があった。
 血飛沫。
 天狗の喉に食い込んだ斧刃を払い、再び翼を広げた彼は次の標的を求め、山林を翔ける。

 結果として、全ての天魔を掃討するのに三日を要したのだった。

●【送る懐いに】
(ぅー、寒ぃなー)
 夕に点火された竹櫓が、内に盛られた正月飾りを盛大に燃え上がらせる。河川敷に吹き渡る寒風に、マフラーに顔を半分ほど埋めた少女がぶるりと身を震わせ、より暖を得ようと近づく。
(ぉー…良い感じな!んむ!)
 程よい熱を得られる距離を得られ、満足そうに頷きつつ、きょろきょろと付近を見回して、
「おにーさん、俺の餅も焼いて欲しいのな!」
 一角でドラム缶を割った即席の焼き台を見つけ、皆が持ち寄った餅や魚等を焼いていたサークルの青年に駆け寄った。
「おう、そこに置きな。焼けたら呼んでやる、ええと…お嬢ちゃん名前は――」
「大丈夫なっ、此処で見てるし! あ、名前はのとうな!」
 そう快活に笑う大狗 のとう(ja3056)に釣られ、青年も笑顔で頷く。
 椅子代わりの丸太に腰を下ろした少女は、じりじりと焼かれる餅から、再び燃え盛る炎へと視線を移す。
(やー、どんど焼き。懐かしいのにゃ)
 自身が学園に来て、三年が過ぎた。その間、実家に戻る事は無かったが、今頃同様に正月飾りを焼いているのだろうと。
「お嬢ちゃん、まずは二つ焼けたぞ。ほら、皿と箸と、たれは好きなのを使ってくれ」
「おっ!ありがとなのなっ、おにーさん!」
「どういたしまして…しかしまた、沢山持ってきたなぁ」
「いっししし!」
 持ち込んだ全ての餅を焼いて貰い、礼を述べて少女はその場から離れる。
 火から離れた堤防に腰掛け周囲を見回すと、徐々に人が増えているようで、賑やかな喧騒が満ちていた。
 その中で、ごうごう、ぱちぱちと焼ける竹の罅ぜる音、舞い散る赤の破片。飽く事無くそれを眺め、さっそく餅を平らげ始めた。

「ぉ〜、クラクラクラ。楽しそうだねぇ〜」
 三三五五に散らばり、鬼火を囲む人々。その中に無畏(jc0931)の姿もあった。
 実の所、彼はちょっとした依頼の最中だったのだが…自分が居なくても簡単に片付きそうだった為、抜け出してきていた。
 つまりサボりである。
「小さいイベントだって聞いてたけど…クラクラ。意外と賑わってるねぇ〜」
 持参した注連飾りを受付に渡すと、一通り見て巡ろうと歩き始めた。
 ちょっとした焼き鳥や団子などの屋台が立ち、有償無償の飲料、飾りと一緒に寄付された餅の無料配布を貰って食したり、気ままな時間を過ごして行く。
「クラクラクラ。ちょぉ〜っと、休憩しようかなぁ〜」
 喧騒から離れ、一体を見渡せる堤防の一角に腰を下ろす。すっかり暮れた空を見上げれば、煌々と輝く月が一つ。
 暫くして視線を下ろすと、少し離れた場所に耳付のフードを被った少女が同様に腰掛けている事に気づく。
 視線に気づいた少女が、にかっと笑うのに釣られ軽く手を振り返し、彼は徐に何かを取り出した。
「?」
 それを見て首を傾げる少女にクラクラと笑い返し、取り出したエレキヴァイオリンに閑かに弦を奔らせる。
 奏でられたのは、夢の物語。やがて醒め、現実に戻される者を吟う、哀しみと向き合う為の。
 気づいた人々が、そしてのとうが、暫しその演奏に聞き入るのだった。

 そこに居た事に、特に理由も目的もありはしない。しいて言えば、「理由が無かったから」ぶらついていた、という所だろうか。
 故に影野 恭弥(ja0018)が高台に居た事も偶然なら、ふと視線に翳めた紅い光に気を向けたのも、気紛れでしかない。
「ああ、そういえば」
 昼間、講義の予定を大学部のネットワークで確認した時、ポップアップで告知が出ていたと思い出す。河川敷で何かをやる、という部分を目にした憶えがある。
「……」
 何故、立ち止まったのかは自分でも分からない。ただ暫し凝と、赤々と揺らぐ灯を彼は見つめ続ける。
 鍛え上げられた眼力は、篝火とその周囲で歓談する人々の様子すら鮮明に捉える事ができた。
 やがてそこから天に昇る煙を辿り、視線を冷たき冬の空へ仰ぐ。
「まるで送り火だな」
 呟く彼の胸中が誰に向けられたものなのか、余人に知る由は無かった。



依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:9人

God of Snipe・
影野 恭弥(ja0018)

卒業 男 インフィルトレイター
いつか道標に・
鐘田将太郎(ja0114)

大学部6年4組 男 阿修羅
伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
暗殺の姫・
紅 鬼姫(ja0444)

大学部4年3組 女 鬼道忍軍
歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
無傷のドラゴンスレイヤー・
橋場・R・アトリアーナ(ja1403)

大学部4年163組 女 阿修羅
絆を紡ぐ手・
大狗 のとう(ja3056)

卒業 女 ルインズブレイド
闇の戦慄(自称)・
六道 鈴音(ja4192)

大学部5年7組 女 ダアト
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
籠の扉のその先へ・
Robin redbreast(jb2203)

大学部1年3組 女 ナイトウォーカー
撃退士・
藤村 蓮(jb2813)

大学部5年54組 男 鬼道忍軍
惨劇阻みし破魔の鋭刃・
炎武 瑠美(jb4684)

大学部5年41組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
音羽 聖歌(jb5486)

大学部2年277組 男 ディバインナイト
撃退士・
神谷 託人(jb5589)

大学部2年16組 男 アストラルヴァンガード
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
刹那を永遠に――・
レティシア・シャンテヒルト(jb6767)

高等部1年14組 女 アストラルヴァンガード
星天に舞う陰陽の翼・
廣幡 庚(jb7208)

卒業 女 アストラルヴァンガード
Lightning Eater・
紅香 忍(jb7811)

中等部3年7組 男 鬼道忍軍
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
憂心払いし銀翼の悪魔・
片瀬 アエマ(jb8200)

大学部4年165組 男 阿修羅
とくと御覧よDカップ・
黒神 未来(jb9907)

大学部4年234組 女 ナイトウォーカー
送る懐いに夜火の馳せよと・
無畏(jc0931)

大学部1年153組 男 アカシックレコーダー:タイプA
撃退士・
凪(jc1035)

大学部5年325組 男 阿修羅
森羅翔りて武に明けて・
ジーノ(jc1050)

大学部3年88組 男 阿修羅