.


マスター:火乃寺
シナリオ形態:シリーズ
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/08/09


みんなの思い出



オープニング

「……ママ、ドコニイルノ――?」


 ざわめく魔性の宮。
 その一角、賭博の観覧場でもある大ホールにて、中央中空に映し出されるヴィジョン。
「ふふ…ふふふ♪」
 そこに映しださるのは、絡み合う樹木のような内壁を持った通路を駆け抜ける、人間達の姿。
 ゲート入口前における番人との戦闘を経て、内部へと突入した撃退士達であった。目指すは第一の部屋にして、このゲームの第二の関門。

ラーベクレエは、そこを“白の魔”と称していた。

「何を思惟ておる、ディルよ? 此度の世界、そしてヒト共は、左様に興味深き存在(モノ)かえ?」
 震えるほどに圧倒的で、蕩けるほどに蠱惑せしめる声が、背後の一際高い壇上から降り注ぐ。
「いいえ、お姉さま。ふふ…♪ きっと変わりませんわ、どの世界とも」
 向き直って跪き、頭を垂れ。そして顔を上げて。見上げる御方は、全てが完璧に映った。強さも、知も、身姿も。
 比して、背後に映し出される存在は余りにも弱く、そして不完全だった。
 彼女ら魔族が、ほんの少し本気を出せば、容易く捻り潰せてしまうような、矮小な存在。――されど。
「完成品には、これ以上手の加えようがありませんわ。…でも、この世界は、何もかもが未成熟で、未完成。そこが、だからこそ惹かれてしまうのかもしれません」
「かつて慕うた者のように…かのう?」
「まぁ…お姉さま、それは意地悪ですわ♪ 今、私が心からお慕いしておりますのは、お姉さま唯一ですのに♪」
 強さこそが全ての基準たる魔族。大公爵と、無爵位の悪魔。本来なら決してこのような言葉を交し合える立場ではない。
 だが己に比肩し得る者が稀有な段階へと至った時、判断基準としての用を為さなくなる。気に入れば可愛がり、気に入らなければ捨てる。それが許される故に。
 大公爵の座(みてぐら)に威たる者は決して強さのみでは至れない事を、ここに集う全ての魔族が理解していた。
 なればこそ恐れ、しかして魅了されずには居られない。同時に想うのだ『いつか己こそがその座に』と。
「―――」
 その時、大公爵の傍らに言葉なく控えていたメイド姿の女性が、主たる者へと何事かを伝える。
「ふむ、そのようさな。――ディル、此度も楽しみにしておるえ」
 艶と微笑むその絶対者に暫し見蕩れ、そしてディルキスは最敬愛を込めて腰を折り、ホール中空へと再び浮揚する。
「それでは皆様、駒が第二の遊戯盤へと辿り着く頃でございます。お手元にチップの準備は済まされましたか?
 これより、第二ゲームの開幕を宣言いたしますわ♪」
 手を振り上げ、そして身に纏う漆黒のドレスに掛ける。掴み引き剥がすような動作の後、そこには純白のドレス姿となった彼女の姿があった。
 先の肌も露なドレスから、清楚さを前面に出したデザイン。隠されてこそ扇情を誘う時もある。それは、全てにおいて通ずる真理。


「ドコ…ママ、ドコニイッタノ…?」
 真っ白な、円筒形の部屋。天井は何処までも高く、果てが見えないほどであった。ゲートとは時に天魔の住居でもあり、また空間操作技術を用いた異空間要塞であり、構造から広さまでを主の力量により左右されるという。
 その部屋の中央で、先ほどから行ったりきたり。小さな幼子が白いだぼついたローブを纏い、裾をズルズルとぞろびいて歩く。
 白い肌、白い髪はツインテールに分けられて腰まで伸び、殆ど人間にしか見えない容姿の中で、唯一開いた双眸の瞳孔だけが、紅く縦に裂け“ヒトならざるもの”の痕跡を示していた。
 片手には、外見には如何考えてもアンバランスな、赤黒い巨大な大草刈鎌を引き摺って。
『いたたた、おいこら、いい加減にしろっての。頭が擦り剥けて禿ちまう! ここにお前のカアチャンはいねぇって言ってるだろ』
 何処からか響く声。それは空気を震わす肉声ではなく、少女の精神に直接伝わってくる思念の声。
「ママ…ココニイレバ、ママニアワセテクレル……テ、クレ様ガイッテタ」
『あー、言ってたな。但し、そいつはここにこれから来る奴らを、俺とお前でぼこぼこにしてからの話だぜぇ?』
「ココニ…?ダレカ、クルノ?」
『おめえは…もう忘れたってのか。…たくっ、これだから思念核型のディアボロは』
 上位のディアボロは、稀に自我に近い知能を持つ。と言っても、プログラミングされた行動パターンのようなものではあったが、時に生前の記憶や強い感情を核にして、それが組まれる事があった。
 手っ取り早いと言うのもあるが、そういった“執念”の様な物が驚異的な力を発現させる事がままあるという。
 少女は、そのタイプだった。

『(つっても、どうせ後で記憶を弄られて忘れるんだから、一緒か)』

 魂なきマリオネット。永遠に糸繰られる存在に、救いなど永劫ある筈もない。
 だから、思念の声はそれ以上少女に諫言するのを止めた。
 それに――少女の母親だった者は、彼女を差し出す事で己の命を救ってくれと懇願してくるような者だったのだから――。
 ラーベクレエは、それを受け入れ、彼自身は母親を見逃した。
 直後に少女をディアボロに変え、生まれ変わった少女は、最初に目にした人間をその手で肉片に変えた。

『(…どいつもこいつも、碌でもないねぇ)』


前回のシナリオを見る


リプレイ本文

 ゲートへと入り、どれだけ走ったか。
「これがゲート内部…、思っていた光景とぜんぜん違うわね」
 駆けながら床、そして壁面を観察しつつ東雲 桃華(ja0319)が呟く。
(或いは、ゲート内部の造りも創造主に応じてそれぞれ違うって事かしら)
 後方を駆ける天羽 流司(ja0366)もまた胸中でぼやく。
(やれやれ、最初から強敵だったな…)
 ゲームとはいえ、主催者は悪魔。そう簡単にクリアさせる気がないのは当然かと溜息をつく。

やがて目の前に現れる、白い両開きの門の前に彼らは集う。
「さぁて、次のゲームだねぇ」
 それを見上げ、Caldiana Randgrith(ja1544)がニヤリと口角を吊り上げた。
「執事のクレちゃんのお茶が冷めるといけないな。さくっと通りたいものだね」
 隣に立つ平山 尚幸(ja8488)が涼しげな顔で茶化す。
『ご心配には及びませんよ』
「――ッ」
 全員に緊張が走る。位置の判然としない虚空から、あのヴァニタスの声が響いてきた。
『勤めとして、お客様にお出しするお茶は常に万端整えております。どうかゆるりとお楽しみください』
 言って、くつくつと含み笑いを添える。
『では、先と同様にベット品をそちらの櫃へお納め下さい』
 門前に現れる長櫃に、それぞれが魔具を一つずつ収めると、再び音もなく消えうせた。
『では第二のステージへとご招待いたしましょう。ご検討をお祈りします…クックッ』
 門が、軋みを上げて大きく内側へと開き始めた。


「ふふ、さあ、始まりましたわ♪ 今回は前回と違い、人間達に賭ける方々も些少ですが居られて、主催の私としましては嬉しい限りでございます♪」
 ふわりとドレスのスカートを摘み上げ、優雅にお辞儀するディルキス。その無邪気な微笑もあいまって、彼女の本性を知らなければ、穢れなき妖精と見紛う清らかさだった。
「ふん、相手があんな小者ではな」「私は、純粋にあの坊やが気に入ったのよ」「フォフォ…偶には遊びもよかろうて…」
 ざわめく貴賓席から、様々な言葉が飛び交う。それを聞きながら、彼女は振り返った。
「お姉様は、今回はどういたしますか?」
「ふむ…、前回一人勝ちしてしもうたからの…此度は、観戦に回らせて貰うえ」
 嫣然とした笑みを扇で隠し、気怠けに長椅子に身を横たえる大公爵。
「承知致しました。…では皆様、ここに第二の賭けの成立を宣言させて頂きます。此度のゲームの行く末、存分にお楽しみ下さいませ♪」


 白、白、白。
 全てを白く塗り潰さんとする光景の中に、ポツリと存在する色。緋い双眸と、赤黒い歪な鎌。
「ママ…?」
『ちげーよ…って言った所で無駄か』
「ドコニイルノ?」
 鎌の思念は、当然ながら撃退士達には聞こえない。ぶつぶつと独り言を言っているような少女をいぶかしむ。
 しかし、ただ一人。
(…ッ!)
 “ママ”という単語を耳にしたエルレーン・バルハザード(ja0889)だけが一瞬身を硬くする。
「天魔は、敵…ころす、ころす、ころす!」
 そんな自分を鼓舞する様に、憎悪を込めて少女を睨み据え、叫ぶエルレーン。
(ふむ…)
 サー・アーノルド(ja7315)はざっと室内を見回し、視線の焦点を白いローブを纏う少女の姿に合わせる。
(やりづらいな…)
 敵、と目される相手の姿を見て中津 謳華(ja4212)は眉を動かす。
(あの体格では懐に入り込んでの一撃は少々骨が折れる)
 少女の背は、彼の腰ほどもない。当然ながら徒手での技が一部当て辛くなる。
 同時に、妙な違和感も彼は少女から感じていたが、その正体は判然としない。
(…気に食わん『匂い』だ)
 他の前衛と共に、室内に踏み込む桃華。
(女の子?…いえ、悪魔の話では今回の相手は全てディアボロの筈。ならあれも…)
 前回の事もある、何かしら特異な能力があるかもしれない。
(始めから全力で!)
己の内より闘争心を解き放ち、全身に漲らせた。

「来なさい、貴方の相手は私よ」
 先頭に立って突っ込むのは暮居 凪(ja0503)。重厚なディバインランスを構え、少女との距離を詰める。
 一定の距離まで達した所で、少女の先ほどの言動をヒントに言葉を組み立てる。
「さあ、ママに会いたいんでしょう?だったらこっちに来ないとね」
 アウルを乗せた言霊に、少女は即座に反応を示す。
「ママ!ママッ!」
 そこまでは予定通りだった。次の瞬間、目と鼻の先に現れた少女の速度を除いて。
「なっ」
ギィイン!
 下方から撫で上げる様に振るわれた大鎌。その鋭い刃が突撃槍を絡め取り、高々と宙に舞わす。
 同時に、凪が身に着けていたヒヒイロカネが固定を引き千切って魔具を追い弾け飛んだ。
 撃退士の使う魔具、V兵器と呼ばれるそれはヒヒイロカネにアウルを流し込むことで顕現するヴァイサリス鉱という幻在物質で構成される。必然的に両者には強い力の場が繋がれ、引き合う。
 結果、この様な事も起こり得る。
 魔具と魔装では別々のヒヒイロカネが支給される為、凪が失ったのは武器のみであるが、この瞬間より一切の魔具が使用不可能。
 つまり、天魔に対する効果的な攻撃が出来なくなる。
ドボ!
「が、はっ?!」
 直後、回転する様に繰り出された大鎌の柄が、防具の上から凪の腹部にめり込む!
「くっ」
「いかん!」
 左右から迫っていた桃華、サー・アーノルド(ja7315)が軌道を変え、咄嗟に少女と凪の間に割り込む。
「私達が押さえている間に、早く!」
 尚も凪へと追撃の構えを見せる少女の目前へと、桃華が長大なハルバードを振り下ろす。
「ママ…ドコ?ソコニイルノ?」
 だが、相手は斧槍をするりと右にすり抜け。
「かふ、…お願い、すぐ、戻るわ」
 痛撃を受けた腹部を押さえながら、飛ばされた魔具の元へ走りだす凪。
「速いっ、そっちへ行ったわ!」
「おおおっ!」
 緑光の軌跡を刻み降りぬかれるアーノルドのパルチザンだが、それすら僅かに仰け反る事で少女は回避してみせる。
『なってねぇな』
「ママニアワセテ」
 少女と声無き思念が異口同音を発する。だが、降り抜いた姿勢そのままに流したアーノルドの片手が後ろに一瞬隠れる。
「――!」
 視界の端にそれを捕らえた流司が、その意図を読み所持していた阻霊符にアウルを流し込む。
バシャッ。
「キャゥッ」
 生温い液体を浴び、飛び退る少女。茶褐色の液体がその身に滴って、ローブに染みを広げていく。
 ただ液体を撒くだけでは、透過能力により素通りしただろう。
「アーノルドさん、そういうのは先に言って置いて欲しいですね」
「すまぬ、失念していた。…だがこれで少しは捉え易かろう」
カランカラン…。
 手にしていたコーヒー缶を戦闘の邪魔にならぬ様、部屋の端へと放り投げ、アーノルドが構え直す。
「やるじゃねぇか、オッサン!」
「お、おっさん?」
 ちょっとショックを受けたアーノルドをよそに、“III”の文字を手の甲に輝かせたCaldianaの銃口が閃く!
ガン!ガン!ガン!
 しかし。
「今のを避けんのかよ!なんてぇ動体視力してやがるっ」
 舌打ちをして走る。
ガァン!
「ギャッ!?」
 直後、逆方向から放たれた一射が、少女の肩を捕らえて弾き飛ばした。
「お、当たった。やっぱり目印が濃いと楽だね」
 ガシャリ。次弾を装填し、膝立ちに再び構える尚幸。彼は部屋の端、少女の速度でも一足飛び出来ない距離を見極め、攻撃位置をとっていた。
 しかし、軽口を叩く彼の体には多重の負担が圧し掛かっている。ゲートの吸収作用の上に、魔具、魔装の許容限界を超えた装備を維持する為、彼は生命力を多量に消耗していた。
(あれに一撃でも食らうとやばいからな)
 細心の注意を払って、位置を変え続ける。
『おい、その服ぬいじまえ!』
「クレサマ、ママガイルッテイッテタ…ドコ?」
『だめだコリャ…』
 尤も、例え服の様に見えてもローブは少女の体の一部、脱げと言うのは体を引き千切れと言うに等しいのだが。
『うおっ!?』
 余所見をしていた少女。それに気づいたのは鎌の方が先だった。
「中津荒神流、中津謳華…参る!」
 アウルの黒焔を右肘と右膝に纏わせ、挟み込む様に繰り出す謳華!狙うは少女――ではなく、その所持する鎌の刃。
『今すぐ後ろに飛べ!早く!』
 少女は身を起こす途中、彼の姿は捉えていなかったはず。
だが、完全に謳華の攻撃を察知して、避けきって見せた。本来なら避け得ないタイミングで。
 着地した彼は、スッと構えを取り直しながら口を開く。
「やはり何か別の匂いがするな。智を持つならば名乗れ、お前という業の全てを背負おう」
 だが、手品のネタを自分からばらす者は早々居ない。
『…誰が名乗るか、阿呆』
「…ママ…ドコ?」
 絶えず同じような台詞を、ただ延々と繰り返す少女。
 その頃に、ようやく凪は魔具の落下点にたどり着く。既に顕現が解け、ヒヒイロカネに戻っていたそれを掴み、再び突撃槍を手にする。

 少女と撃退士達の、更なる攻防は繰り返される。
「つぅっ!」
 弾き飛ばされる桃華の斧槍が回転しながら壁に突き刺さり、同時脇を蹴り抜かれて吹き飛ぶ。
 少女の殺意は今も凪に向いていたが、射程内に居る相手に攻撃しない道理はない。
 それを横目に、流司の放つ召炎霊符がその身を雷撃へと変え少女へと奔る。
「アゥッ」
 ぎりぎりで避け損ね、腕を焼かれる少女の泣きそうな顔。
(…くそっ、やりづらいな)
 相手はディアボロ。そう頭で分かっていても、視覚から伝わる情報は彼の心に微かな痛みを齎す。
 どうにか相手の動きを止めようと、別の術も狙うのだが、相手の動きが素早過ぎて近づきかねていた。
「桃華殿、受け取られよ!」
 彼女の武器が弾き飛ばされたと見た瞬間、そちらへ走り寄っていたアーノルドが壁から顕現が解けかけていた斧槍を引き抜き、放り投げる。
「…!ありがと」
 腕を伸ばしてそれを掴み取り、桃華は微笑む。振り向き、凪へ襲い掛かる少女のを追う彼女。
 だが、その目の前で。
「―――ッ!!!」
 長い絶叫が響き渡る。
「凪さん!?」「凪殿!!」「ナギー!」

 真紅の輝きが鎌を包む、しかしそれは恐ろしく冷たい輝き。
(あれは…不味い!)
 振り下ろされる軌道に、咄嗟にカイトシールドを顕現させる凪だったが、その防御をすり抜けた刃は彼女の胸元を貫く!
「ぐ…っ、ぁ…?」
 がくりと膝が落ちる。だが、見た目ほどそれは深く彼女の肉を裂いては居なかった。
「ママ…ドコカナ」
『けっけっけっ』
 何かが、体の中から流れ出る、抜け落ちていく。痛みとそれを自覚しながら、彼女の意識は一時的に閉ざされる。
貫かれた傷口から彼女の血流が鎌に吸い上げられ、それは傷ついた少女の肉体の傷まで修復していく。
「貴様、離れろ!」
 尚幸の銃撃が掠め、飛び退る少女。ずるりと鎌の刃が凪の体から抜け、支える力を失った彼女の体が白い床に倒れ付す。
「おい、しっかりしやがれ!おい!!」
 駆け寄るCaldianaがその体を抱き起こし、呼びかける。
「おのれ!」
 後退する少女に謳華が、桃華が、アーノルドが追撃するも、その攻撃はほとんどが外れ、或いは受け止められ、逆に反撃を受ける。

 しかし、その場に居る全員がほぼ忘れかけていた人物が動いた。
「はうぅーっ!萌えはせいぎぃぃ!!」
 緊迫した空気を、その一声が盛大にぶち壊した。
「ギャン!!」
『なんじゃぁ!?』
 遁甲の術で気配を消し去り、さらに慎重に少女の背後まで回りこんでいたエルレーンの、雄叫びと共に放たれた渾身の雷遁・腐女子蹴が少女を完全に捉え、叩き伏せる!
 二転、三転して身を起こそうとする少女。しかし全身に亘る痺れが、それの邪魔をする。
『おい、どうした?!さっさと起きろ!』
「ア…ウゥ、グウゥ…」
 それでも何とか立ち上がろうともがく天魔を前に、流司が意を決して駆け出す!
(今なら!動けない今なら!)
 手にする符は流し込まれるアウルに反応し、術式を起動する。雷撃が刃となって彼の手から伸びる!
『餓鬼が!テメェごとき!』
 初めて、鎌の思念が少女以外に向けられ、全員の頭にその声が木霊する。
「漸くか」
 鎌を狙い、こちらも突進する謳華。だがそれよりも一瞬早く流司へと振り下ろされる!
(くっ…せめて相打つ!)
 刻一刻と迫る刃、雷撃の術。その軌道は交差する事無く過ぎ去り、片方は流司へ、片方は少女へと――。
ガヅンッ!
「ア゛アアァァ!?!」
「え?」
 確かな手応えが彼の手に伝わる。だが、自身に襲い来る筈の痛みはなかった。
「まったく無茶をする。そういうのは前もって言って置いて欲しい物だな」
 大きな背が、流司の前に現れていた。それは穂槍にアウルを最大限に流し込み、鎌を受け止めるアーノルドの姿。
「…それ、さっきの意趣返しですか」
「さて、どうだかな」
 にっと笑う彼だが、鎌の一撃を完全には受けきれず、肩を裂かれていた。だが。
「今が好機!全員総力を叩き込めぇ!」
 叫ぶ、声も枯れんばかりに。

「破ァアア!」
 謳華が少女の腕を蹴り上げ、鎌を中空に弾き飛ばす!
『て、てめっ!?』
「先に逝け…いずれ俺も其処に堕ちる」
 身を深く沈め、飛び上がった謳華の『牙』が鎌に触れる。其処に破壊力はない。
 だが次の瞬間、爆発的に込められたアウルの黒焔を纏い、弾かれる様に零距離から放たれる剛撃。
 似た物を挙げるなら、中国拳法において発剄とも呼ばれる業に似ていた。
『―――がぁっ!!』
バキィイイン――!
 粉々に砕け散る刃。やがて柄の方も砂の様に崩れ始め。
「よい子はおうちに帰りな。Mutterが待ってるだろうさ。HimmelかHölleかは知らんがね」
 銃からコンポジットボウに換装、さらにスキルを切り替え引き絞る。
「Gute Nacht,,kleines Mädchen」
 解き放たれた鋭い矢が、少女の喉下へ吸い込まれ。
「さーて、どんどんいくよ!」
ボッ!ボッボッ!
 喜色満面に、歌う様に引かれるトリガーが少女の胸元に鮮血の花を咲かせ。
「逝きなさい!」
「しんじゃえ!」
 桃華の斧刃が右の肩から、エルレーンのエネルギーブレードが左肩から、両腕を切り落とし。
「マ、ママ―…」
「――ッ!!」
 少女の呟きを耳にしたエルレーンが、耳を押さえて蹲り。
「…送ってあげるわ、ママの所へ」
 気絶から意識を取り戻した凪がよろける体を叱咤し、突進する。背後から貫いた槍の穂先は、少女の胸から飛び出し。
 白い床を緋く、緋く染め上げた。

 誰も何も言わなかった。
 床に横たえられた少女の姿を模った遺骸へと歩み寄り、アーノルドはそれを抱き上げる。
「…哀れ?残酷? 解りなさい…ソレは終わった残骸、というべきものよ…」
「解っている…解っているのだ…それでも…ッ」
 ぐっと抱きしめる彼に、溜息を吐く凪。
「私達が殺したのは天魔、それ以外の何者でもないわ」
 震える肩を抱きしめ、桃華が皆に言い聞かせるように呟いた。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 終演の舞台に立つ魔術師・天羽 流司(ja0366)
 ┌(┌ ^o^)┐<背徳王・エルレーン・バルハザード(ja0889)
 Shield of prayer・サー・アーノルド(ja7315)
重体: −
面白かった!:11人

黒の桜火・
東雲 桃華(ja0319)

大学部5年68組 女 阿修羅
終演の舞台に立つ魔術師・
天羽 流司(ja0366)

大学部5年125組 男 ダアト
Wizard・
暮居 凪(ja0503)

大学部7年72組 女 ルインズブレイド
┌(┌ ^o^)┐<背徳王・
エルレーン・バルハザード(ja0889)

大学部5年242組 女 鬼道忍軍
笑みを流血に飾りて・
Caldiana Randgrith(ja1544)

大学部5年22組 女 インフィルトレイター
久遠の黒き火焔天・
中津 謳華(ja4212)

大学部5年135組 男 阿修羅
Shield of prayer・
サー・アーノルド(ja7315)

大学部7年261組 男 ディバインナイト
猛る魔弾・
平山 尚幸(ja8488)

大学部8年17組 男 インフィルトレイター