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マスター:久生夕貴
シナリオ形態:シリーズ
難易度:非常に難しい
形態:
参加人数:10人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2014/07/02


みんなの思い出



オープニング


 星がその一生を終えるとき、ひときわ強く輝くという。
 ずっとずっと秘めていた熱が溢れ、花開くように光を咲かせる。
 それはそれは鮮やかに。
 それはそれは美しく。
 満開の命を燃え上がらせるのだ。


 それはきっと、忘れられない――夢



●それは甘く


 踏み入れた先は、真っ暗な闇だった。
 星も、灯りも、自分の存在さえも溶け込んでしまったかのような。
「真っ暗……ですねー?……」
 一人がそう呟いた時、頭上にぽうと橙火が灯る。
 ひとつ、またひとつ。
 淡く穏やかな光が、次々に漆黒の闇を覆い尽くしていく。
「あれ……もしかして」
「スカイランタンやね」
 惚けたように見上げ、息を呑む。これと同じ光景をつい最近見た記憶があったから。
「ああ……そう言えば、ミスターも見ていましたね」
 遙か遠い異国の地。
 橙色の光で埋め尽くされた夜空は、忘れ得ない祈りの幻燈祭だった。
「綺麗だね……」

 幻燈が染め上げる上天と。
 その下で咲き誇る花水木と。

 それはあまりにも幻想的で。


「――この日をずっと待っていました」


 道化の悪魔が、微笑った。
 淡い光に照らされた頬は、わずかに上気しているのかいっそ艶めいてさえ見える。
「あなた方と魂をぶつけ合い、そして越えられる瞬間を」

 いつか。
 いつか。
 どれほど待っただろう。
 どれほど待ち焦がれただろう。

 全てを投げ打ってでも手に入れたいと欲した願い。

「私の命をあなた方の魂に刻みたい」

 ただそれだけのために、生きてきた。

「……どうしてそこまでするの?」
 ずっと、わからなかった。
 友も仲間も自身の命さえ失ってでも、自分たちを追い求める理由。
「わかりませんか? 簡単なことです」
 クラウンの口元が緩やかにほころぶ。

「あなた方に心奪われてしまったからですよ」

 撃退士達は思わず顔を見合わせた。今の言葉の真意を測りかねていたからだろう。
 そんな彼らを見て悪魔はくすくすと笑う。
「そう面食らった顔をしなくともよいでしょう。私は本気ですよ」
「えっと……心奪われたん言うのはどういう……」
「ええ。あなた方に恋をしたのです」
「え、ちょ」
 突然の愛の告白。
 目を白黒させる彼らを愉快そうに眺め、クラウンは袖を振ってみせる。
「あなた方が言う愛のかたちとは違いますか? ですがこれが私にとっての真実なのです」

 だからいつだって彼らは特別で。
 いつだって届かない存在だった。

 手に入れられないのなら、せめて。

「あなた方の記憶が欲しかった」

 魂の系譜を彩りたかった。忘れえぬほどの鮮烈な色となって。
 敵でいるのも。相容れぬのも。
 偶然と運命の狭間で、たった一瞬を勝ち取るために選んできたこと。
 刹那が永遠に変わる至福のときを、ずっとずっと夢見ていたから。

 淡い光に沈黙が溶ける。

 道化の悪魔は、やっぱり微笑った。
 その瞳に秘めた熱が花開くように。
 告げる声に想いがあふれる。

「それが私の、愛のかたちです」



●それぞれのかたち



 クラウン

 何ですか

 我輩、クラウンとたくさん遊んだである

 ええ、そうですね

 我輩、クラウンといろんなものを見たである

 ええ、そうでしたね

 クラウン

 何ですか

 我輩、クラウンと出会えて、とても楽しかったである

 ええ、私もですよ

 我輩、クラウンが幸せなのが、一番幸せなのである

 ええ、知っていますよ――レックス


 ※※


 甘い香りが、どこからかただよってくる。
 緩やかな上り坂と、立ち並ぶ花水木。
 頭上を淡く照らすのは、溶けるような幻燈の光。

「ではそろそろ、開幕といきたいところですが」
 その前に、とクラウンは視線を坂上へと馳せ。
 突然、彼の声が一際結界内に大きく響いた。

『ルゥ。これからあなたに、私が出した答えをお見せしましょう』

 言い終えたと同時、結界が広がり周囲を覆い尽くしていく。
 現れた”観客”を見て、撃退士たちは思わず苦笑を漏らす。
 やはりという思いと。
 やられたという思いと。
「結構、結構。宴はやはりこうでなければ」
「……もう何があっても驚かねえナ」
 そこにいたのは一匹の黒犬と盲目の少女。
 そして彼らと同じ撃退士たち。
 道化の悪魔は愉快そうに”観客”へと告げる。

『最高の終幕とは、観客と共に迎えるもの』

 まさに今がその時であり。

『さあ、あなた方も共に楽しもうじゃありませんか!』

 あまりの事に観客はあっけに取られていた。
「えっ……これ、俺たちも参加しろってこと…?」
「そう言うこと……みたいですね?」
 そんな彼らに、演者たちは笑いながら呼びかける。

「待ってたよ」

 ずっと見られているのは気付いていた。だから。
「来てくれるってうちは信じてた」
 繋がりは偶然、だけど集ったのはきっと運命。
「最後の舞台、一緒に頑張るんだよー!」
 そこには観客を舞台へと送り出す旅人の姿も見えた。

 演者が揃った瞬間、クラウンの周囲に巨大トランプが出現する。
「ふふ……では、私も本気を出させていただきましょう」
 ゆっくりと彼の周りを移動し始めたトランプを見やり。
「この障壁は、私への攻撃をオートガードする仕様になっています」
 一定の攻撃を与えるまで、崩れることは無いと説明し。
「もちろん、私の攻撃は通ります。手加減はしませんよ」
 直後、周囲の空気が一瞬で鋭利さを増す。
 最初に出会った時から変わらない、禍々しき重圧。
 そして彼らは一年前と同じ台詞を耳にする。

「全力で戦いましょう。命を賭して向かってきてください」

 それは偶然と運命のマスターピース。
 フィナーレの幕が上がる。
 悪魔の嬌声が結界内に満ちる。

「さあ、最高の終幕劇を!」

 最後の宴が、始まった。



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リプレイ本文




 さあ、この舞台に花を添えよう


 打ち上げるのは『本音』という名の祝砲


 遠慮なんていらない


 掛け値なしの想いを、貴方に贈ろう




 ※※




 幾重にも

 幾重にも




 ※※




「――何度目でしょうね。貴方とこうして向き合うのも」

 花水木の元に集う、愛しき者たち。
 加倉 一臣(ja5823)がクラウンへ向けてわずかに微笑する。
「俺もずっと、この日を待っていましたよ」
 貴方が待ち焦がれた年月には、遥かに及ばないのだろうけれど。
「名乗ったことがなかったですね。加倉一臣と申します」
 初めて面と向かって告げたその名に、悪魔の口元が綻ぶ。
「同じく、小野友真です。よろしくな」
 一臣の隣で小野友真(ja6901)も一礼し。
 思い出すのは、始まりを告げたあの日の声。


 ――初めまして。私はマッド・ザ・クラウンと申します。


 最初に名乗られた時の鮮烈さと。
 それから流した涙の数と。
 一度だって、忘れたことはない。

 結界内に淡い光が充ち満ちてゆく。
「俺は、貴方の覚悟を殺しに来ました」
 一臣の言葉に、クラウンがその瞳に興味の色を宿す。
「ほう。私の覚悟を、ですか」
「ええ、それが――」
 向けるまなざしに、万感込めた想いを乗せる。


「俺の覚悟です」



 最高の終幕劇を。




●狂奏道化


 廻る、廻る、幻想と恍惚の輪舞華。
 幻燈の光が、演者を淡く艶やかに彩り照らす。

「さて、最高のフィナーレを目指して、全力で行きますよー!」
 櫟 諏訪(ja1215)の明るく抜けるような声に、藤咲千尋(ja8564)も力強くうなずく。
「みんなはわたしが護るよ」
 まだまだ未熟な自分。けれど精一杯その手を伸ばしてみせる。
 そこに秘められた強い願い。気付いているのか諏訪が千尋の手をそっと握る。
「すわくん、あのね。わたし…」
「ん。大丈夫ですよー?」
 思わず顔を上げた千尋に、恋人はただ微笑みかける。
 その蒼く澄んだ瞳が、わかっていると告げていて。


 始まりを告げる鐘が鳴る。


「さあ、演ろかミスター!」
 あの時の約束を果たすために。すべての答えをここで叩きつけるために。
 友真の双銃から放たれるアウルが、クラウンを護るカードに撃ち込まれる。
 続く一臣と諏訪の撃ち込む弾丸がカードの一部を破壊すると同時、狗月 暁良(ja8545)の放つ猛射が、まるで流星群のようにうち放たれる。

 それまるで、開幕を謳うファンファーレ。

「漸くダ、待ち草臥れた戦いが始まる」
 マシンガンを手に暁良はにやりと笑む。
「俺が愛して已まない戦いを…命削って、愉しもうゼ」
 道化の望むがままに。
 意地と意地との応酬を。
 魂のぶつけ合いを。

 もう一度この場所で演じてやろう。

「ずるいんだよー…この勝負、勝っても負けてもミスターの一人勝ちなんだね!」
 頬をふくらませる真野 縁(ja3294)に、道化の悪魔はくすくすと笑う。
「おや、そうですか?」
「そうなんだよー!」
 抗議の声をあげながら、縁ははやくも泣きそうになるのをぐっとこらえる。
 クラウンは、自分たちの記憶が欲しいと言ったけれど。

 忘れるはずがないのに。
 忘れられるはずがないのに。

 だって自分は、出会ったときからずっと――

「クラウンに生きてて欲しいけど…夢を叶えて欲しいとも思う」
 矛盾してるよね、と七ツ狩 ヨル(jb2630)は銃でカードの一部を破壊し。
「けど、やる事は変わらないから」
 今は全力で挑むだけ。
 ヨルの前方で、双剣を手にした蛇蝎神 黒龍(jb3200)が笑う。
「まだ、ヨルに魅せてない世界がある、そしてクラウンにもそれを見て欲しい」
 だから今は、最良の物語を紡いでみせよう。
 いつもはヨルの為に、今はクラウンの為に。

「……うちはどっちかっていうとハッピーエンドが好きだよ」
 雨宮 祈羅(ja7600)の脳裏には出会った時からの景色が回り出していて。
「けどね。あんたの望みは叶えてあげたいから、全力で挑む」
 放つ銀蒼と黒猫の幻影が、カードの一部を打ち砕く。彼女の目に向こう側にいる恋人が映る。
 怪我を負ったまま戦おうとする姿に、動揺しなかったと言えば嘘になる。けれどいつものゆるい調子が告げた。
「それじゃ、行こうか。祈羅」
 思わず苦笑を漏らした。
「はいはい、行こうか」
 だって君にそう言われたら、仕方がないから。

「時に道化殿。喜劇と悲劇、どちらが好みかね?」
 鷺谷 明(ja0776)の問いにクラウンは迷い無く答える。
「もちろん、喜劇ですよ」
「だろうと思ってはいたよ」
 なぜならこの舞台は、道化の舞台。
 あらゆる秩序から抜け出した、枠組みの解体者。描く物語は悲劇でさえもどこか滑稽に。
「ならば私は望みを叶えるだけ」
 布槍が舞い、彼らは笑い合う。
 さあ、喜劇に相応しい幕引きをと。

 一斉にガードカードへの攻撃が始まる中、道化の悪魔を黒煙が覆い始める。
 現れたのはタキシード姿の青年。
 同時に現れた大鎌を手にゆっくりと飛翔する。

「では、行きますよ」

 言い終えた刹那、圧力が急速に収束し始める。
 凄まじいポテンシャルが漆黒の切っ先に集ってゆく。

 来る。

 全員の目に警戒色が宿る。
 悪魔は優美な微笑を絶やすことなく、高速の刃を振り抜く。
 迫る禍々しき高圧の一閃と瞬間的に繰り出す意地の盾。


 ――その挑戦、受けて立とう。


 漆黒の斬刃が、大気を切り裂いた。







 わたしは愛する人たちみんな抱きしめるよ

 これがわたしの愛のかたちだよ

 独り善がりかな

 愛って難しいね
 
 
 ※※

 ぽたり、ぽたり。
 流れ落ちる血は椿が白雪に色を落とすように、地を染める。

 千尋は親友が血濡れで立つ背を、見つめていた。
「耐えきった…んだよー…!」
 きっと気が遠くなるような痛みだったろう。
 クラウンの本気は清々しいほどに遠慮がなくて。

(でも、縁ちゃんは言ってた)

 クラウンに伝えたいことがある。
 伝えなければならないことがある。
 だから絶対に倒れたりはしないと。

(わたしも同じだから)

 どんなに辛くても、目を背けたりはしない。

「回復、急いで!」
 広範囲に及ぶ衝撃波を受けた前中衛へ向け、千尋や他の回復手が走る。一方で攻撃班はひたすらにガードカードを破壊。
「とにかくアレをぶっ潰さないコトには、まともにやり合えねぇからナ」
 マシンガンを手にした暁良が壁へと射撃。同じカードを狙って諏訪とヨルも確実に攻撃を当てていく。
「クラブの2破壊成功ですよー!」
 しかしそれから数秒と、次のカードが空いた穴を埋める。その様子を見たヨルが呟く。
「……なるほど。やっぱりトランプの枚数分出てくるって感じかな」
 クラウンの周囲を動くカードは全部で十枚。最初はクラブのエースから10まで。2を破壊した後に出てきたのは、クラブのJ。
「ってコトは後四十枚以上か」
 辟易としつつ、暁良は虎視眈々とその時を待つ。
 必殺の一撃を入れられる瞬間まで。

 ここでクラウンが水平に武器を構えたのを見て、黒龍が叫ぶ。
「あの振り、キャットテイルやで!」
 瞬後、前方に降られた刃の先端から細長いオーラが勢いよく伸びる。前中衛をすり抜け向かった先にいるのは一臣。
「俺が狙いか…!」
 避けようとした足にオーラが絡みつき、再び鎌を振ったと同時前方へ飛ばされる。
 手元にたぐり寄せたクラウンは、さも愉快そうに微笑んだ。

「捕まえましたよ、カ ズ オ ミ」
 
 強烈な斬撃に一瞬、意識が飛ぶ。
 朦朧となる頭上から、カードの檻が覆いかぶさってくる。
「一臣さん!」
 友真が血相を変えて叫ぶ。
「ミスターそれは俺のや! 渡さへんで!」
 くすくす笑う瞳が自力で奪い返してみせろと挑発している。
「ぐぬぬおのれええええ」
 憤怒の友真がカードへ乱射。同じく幻影を撃ち込みながら、祈羅がじろりと。
「あんたね。友真ちゃんも一臣ちゃんもあんたの事が好きって知っててやってるでしょ?」
「おや、なんのことでしょうか」
 とぼける道化にため息を吐く。
「ほんっとに、いつも通り性格悪いよね」
 でも。
 祈羅は複雑な表情を見せ。
「歩ちゃんほどじゃないけど…うちもあんたが好きだ」
 元々嫌いだったのに。
 いつの間にか変わってた。いや、変わらされたのかもしれなくて。

「あーもう! これだから憎たらしくて困る!」

 ここで我に返った一臣が動こうとするも、傷の深さに視界が歪み上手くいかない。
「くそっ…早く抜け出s」
「一臣! 俺が助けるからそこで大人しく待っとけや!」
「あ、ハイ」
 メンバーはプリズンカード破壊を友真に任せ(ざるを得ない殺気を感じ)、ガードカード崩しに集中。

 布槍でカードを破壊した明がふと。
「ところで道化殿、久遠ヶ原に来る気は無いかね?」
 その問いを口にし、すぐにかぶりを振り。
「何、言ってみただけさ。言ったろう? 私は惜しみつつも、思うが侭に喰らうとね」
 それなのに何故こんな問いが出たのか。相反する本音の同居に思わず苦笑が漏れる。

 ずっと戦っていたい、ずっと話していたい。
 そうなればこの一瞬の充足は永遠となろう。

「だがいずれ終わるが故に、充足は充足たり得るとあなたは言うのだろう?」

 聞いた悪魔は大鎌をくるりと回す。

「――あなたと」

 しなやかに弧を描き、振り抜きざまに妖声が舞う。

「一度飽きるほどに遊んでみたかったですね」

 踊る刃、呼応するように黒衣が翻る。
 凄まじい集中力で斬刃をかわした明は、瞳を細め。
「ああ。それはさぞかし愉快な事だったろう」
 ついその刃を受け止めてみたくなるほどに。

 現在破壊数は十枚程度。破壊後のタイムラグを狙ってクラウン本体の攻撃を試み、相応のダメージは与えている。
 仲間の傷を回復させ、縁は必死に皆の状況を把握する。
「今の感じだと、こちらの消耗の方が速いんだよー…」
 それ程に、クラウンの攻撃力は凄まじい。
 恋人を庇った祈羅もこくりと頷き。
「どれだけ早くカードを壊せるかが、勝負だね」
 ぐっと痛みを堪え、クラウンを見据える。

「うちは絶対に負けないよ」

 この想い、ぶつけるまでは。

「さあ、まだまだこれからですよ!」
 クラウンは大鎌を構えると一層大きく振りかぶる。
「あの振りは…!」
「前衛気をつけて!」

 道化が廻る。
 高速の刃が周囲を巻き込みはじき飛ばしてゆく。
 生じた隙を狙い、クラウンが空を蹴る。
「くっ…まずい!」
 続く攻撃の先に立つのは中後衛の姿。唸るような衝撃波が彼らに向けて一気に放出される。
「させへんで」
 間に割り込んだ黒龍が、稲妻のように走る黒刃をその身で受ける。
 全身を貫く衝撃と悲鳴の中、黒龍の身体から大量の鮮血が舞い上がった。







 ヨルと出会えたのは<奇跡>

 ここには皆が紡いできた<軌跡>がある

 もちろん君もやで、クラウン

 君にとって大事な何かに出逢えるように、皆で一緒に手繰り寄せたい

 それはきっと<輝石>の様に綺麗だから


 ※※


「黒さん!」
「黒!」
 駈け寄る仲間の足音と、愛する者の声が聞こえる。
(皆が輝ける、最良の場を)
 自分の防御力では、あの攻撃を完全に受けきるのは難しい。それでもその身を投げだしてでも護りたいと思った。
 共にした仲間と。
 何よりヨルとクラウンに終幕の全てを見せてあげたかったから。
 黒龍は喉から溢れ出てくる血を吐き出しながら、朦朧とする意識の中で口を開いた。

「……なあ、クラウン。満てみたいと思わへん?」

 同朋であり、仲間であり、そして兄弟である君を。
 ボク等が其々想い願い紡ぎ寄せるように。

「満たしてあげたいんや」

 そして君の奥底にあるボクらを、未来の友を信じ愛していきたい。

 背中に大きく傷を負いながらも、クラウンはゆっくりと微笑う。

「あなたの覚悟は受け取りましたよ」
 
 だから全力で撃った。
 振りの合間に隙を突かれるとわかっていても、敢えて撃ってみたかった。

 受けた傷も流れる血も、与えられる痛みさえも甘く。

 もっと。
 もっと。


 まだ足りないと言わんばかりに。


「ああ、そうこなっくちゃナ」
 暁良も嗤いながら道化へと向かう。
 一気に間合いを詰め、綻び始めた防御壁の合間から渾身の一打を打ち続ける。
「お前はこれを望んでタんだろ?」
 互いに撃ち合いはじくように乱れ飛ぶ。
「死ヌまでは生キている……言葉の通り、俺は死ヌまで足掻くだけ」
 打ち合いに勝てるなどと思っちゃいない。これはあくまで最後の一打を叩き込むまで布石。
 けれど手を抜いていられる相手じゃないのは百も承知。

 ――これくらいじゃないとナ。

 削り取られる度に魂が高揚する。
 溢れくる生への実感が、恍惚の媚薬のごとく自分を酔わせる。
 血濡れで踊る闘神の阿修羅。
 紅く、紅く、さらに紅く。


「ガードカード、残り7枚!」
「あと少しですよー!」


 その言葉に、終わりが近付くことを全員が感じ取る。
 終わりへのカウントダウンのようにカードが一枚、また一枚と消えてゆく。

 
 47枚目、破壊。

 48枚目、破壊。


 明は刃を振るいながら、その口元に弧を刻み続け。

「これは喜劇。故に私も最後まで笑っていよう」

 互いに笑い合い、ただひたすらに刃を交え続ける。
 愛を交わすように、哀を交わすようにその魂へと軌跡を刻む。
 享楽に充ち満ちる喝采の場、それなのに漏れるのはなぜか苦笑じみた笑みばかりで。

「なに、心配はいらないよ道化殿」

 あなたの願いは叶えよう。
 ただ。
 ただ――


 もう少し話したいと思った。


 それだけ。


 49枚目、破壊。


「クラウン! 聞いて!」
 抑えきれず、千尋が叫ぶ。
「本当は、本当はね…あなたに生きていてほしいよ…」
 でも、だかといって期待を裏切ることもしたくない。
 我が侭だけど。
 自分勝手かもしれないけれど。
「共に生きることを望んでくれたら……てゆーか!!」
 こぼれそうになる涙を必死に堪え、ありったけの想いをぶつける。
「クラウンは人間のことわかったつもりかもしれないけど、まだまだ全然!! 人間って奥深いんだからね」
 全然、足りないんだから。
 楽しいことも美味しい物もまだまだいっぱいあるんだから。
「ここにいる人たちの記憶に残ってそれで満足? もっともーっといろんな人がいるんだよ?」

 あなたをもっと知りたい。
 あなたにもっと知ってほしい。

「最後なんてやだよ!!」


 50枚目、破壊。


「ていうかね、あんたはもう、一生忘れられないほどうちらの記憶に刻まれてるよ」
 祈羅もこみ上げる想いをぶつける。
「逆にさ、うちらが寿命迎えた時に、あんたの記憶の中で生かせて欲しいのに」
 わずかに、声を詰まらせながら。
「……うちはね、好きな人の幸せを祈りたいんだ。さっきも言ったと思うけど、うちはあんたが好きなの!」

 だから君の望みも叶えてあげたい。
 君の幸せも祈りたい。

「でも死んだら何もかも終わり」

 あんたは本当に本当に。

「それでいいの?」


 51枚目、破壊。


「クラウンさんは意外と臆病なのですねー?」
 諏訪が抱き続けた想いを告げる。
「手に入らないと諦めちゃうのは勿体ないんですよー?」
 自分は望む未来を勝ち取るために闘うと言った。
 その夢を認めてくれたのは何より貴方なのに。
「クラウンさんにもまだまだ闘って欲しいと思うのですよー!」
 だってこの舞台のアンコールは、まだまだこれからなのに。

「ここで終わったら、後悔させてあげますよー!」


 52枚目、破壊。


 ダイヤのキングを破壊した一臣は他班のメンバーとうなずき合う。

 ――ここまで来たら、もうやるしかない。

 互いに最高潮にまで達した熱を、止められるわけがなく。
「そう簡単にミスターの覚悟は折れない」
 友真も頷き。
「ああ、だから俺の全てをぶつけたる」


 53枚目、破壊。


 縁が魔法書を手に、覚悟を決める。
「ミスターの気持ちには応えたい。だから縁も全て出し切るんだよ」
 ヨルはまともに動けない黒龍に、ありがとうと告げ。
「俺、黒の分まで全力でぶつかってくるから」
 
 そして。

「54枚目、ガードカード全て破壊!」

 直後全身にアウルを纏った暁良が、瞬時に地を蹴り間合いを詰める。
 
「この瞬間を待ち望んだゼ? マッド・ザ・クラウン」

 渾身の蹴りを胴部に叩き込む。確かな手応えと同時に全身に激痛が走るも、そんなことには構わずに。
 既に身体は限界。
 だからこそ、全てを賭けて打ち砕く。

「ミスターがひるんだ、今だ!」

 全員での一斉攻撃開始。
 絆で結ばれた者達が技を繰り出せば、各々の矜持と祈りを込めた一打が撃ち込まれていく。
 強襲を受けたクラウンは、苦痛にわずかに顔をゆがめつつもそれでもその口元から弧が消えてはおらず。

 あと少し。
 あと少し。

 互いに撃ち合う遊興の奏で。
 命が燃え上がるように鮮やかに濃く。


「――さあ、人の子達よ見せてください」


 甘い夢が咲いてゆく。

 魂が共鳴し合う恍惚のマスターピース。



「あなた方の輝きすべてを!」



 その刹那。



 眩きほどの閃光が――結界を覆い尽くした。





 ※※






 ねえ、クラウン




 俺たちは約束通り全力でぶつかったよ





 だから、もし












 もし、運が君を生かした時は――















 それを受け入れてくれる?













 ※※




「あ……」
 ヨルは目前に映る光景の前で、立ちすくんでいた。
 彼の紅い瞳には、地面に次々と赤い染みを作るクラウンの姿があって。
 流れ落ちる雫は次第に、血溜まりへと変わってゆく。

「――見事です」

 息が荒い。
 細身の体躯は今にも糸が切れそうに淡く明滅している。
 溢れる血でうまく息さえ吸えておらず、それでもその表情は恍惚とさえ見え。


 満ち足りた微笑はそのままに――


 道化の悪魔は、意識を失った。


「ミスター!」

 倒れ込むクラウンを縁が抱き留める。
 体重を預けられているにもかかわらず、その体は驚く程に軽かった。恐らく実際の姿が関係しているのだろうが、彼女にとってそんな事はどうでもいいことで。

「……死なせんで」

 黒龍がヨルに支えられながらクラウンにダークフィリアを使用する。この時の為に自分にさえ使わなかった。
(ボク等は賭けに勝ってみせるんや)
 望む結末はこの手で掴み取ってみせると抗うように。
 わずかに意識を取り戻したのか、クラウンの身体が微かな反応を見せる。再び昏睡させまいと、縁はクラウンの耳元で囁く。
「ね、ミスター聞いて欲しいんだよ」
 抱き締めた体から体温が伝わってくる。
 まだ生きている。
 そう感じるだけで、涙がこぼれそうになる。
「ミスターは、縁達に覚えていて欲しいって言ったんだよ。でもね、縁はきっと墓標になろうって思った時から――」

 初めて出会った時の、鮮烈なその輝きも。
 雪をはらってくれた優しさも。
 そして今この瞬間も。

「ミスターの言う恋をしてたんじゃないかな」

 縁は耳元に唇を寄せ、その想いを告げる。
 ずっとずっと、伝えたかったこと。
 君が私たちを愛してくれたように。



「あなたを愛しています、クラウン」



 だから、生きて。




 触れあった頬を伝う涙が、悪魔の体温に溶け込んだ。





●その手に



 生物の本質は好きとか愛しいて感情やと思う

 表現も形もそれぞれなんがいいと思うん

 実はミスターの愛のかたち、超同感しちゃうんやけど

 ――でもな、俺の愛はもっと強欲なん



 ※※


 クラウンはぎりぎりの所で命をつないでいた。
 かろうじて意識のある彼に向け、友真は気を抜くとこぼれそうな涙を我慢しつつ。
「――俺、ミスターからの質問にまだ答えてへんかった」
 ずっと抱えていた『回答』。

「俺の愛は、愛しい全てと共に行く道」

 薬指の指輪に触れ恋人、ここに立つ友人、仲間、そしてクラウンに視線を移し。
「一つだけじゃ全然足りへん」
 全部を手にすれば一つもちゃんと入ってるやろ? と微かに笑ってみせ。
「俺な、ミスターに負けへんくらいわがままで欲張りやから」

 だからごめん。

「やっぱり、そう簡単には終わらせられへん」

 クラウンの身体に、自分のアウルを流し込む。


「――俺はね、腹が立ってるんですよ」


 満ち足りた瞳に向け、一臣は告げる。
「今が最高潮で後は……なんて。そう思ってそうで」
 たゆたう幻灯の下、猫の如き瞳が期待と不安の狭間で揺れ動いているのがわかる。
 そこでほんの少し笑ってみせながら。
「折れない貴方の覚悟を打ち砕くもの。それが人間だって教えてあげます」
 新たな覚悟が生まれる日となるようにと。
 抱き続けた想いの丈を告げる。

「その覚悟も憂いも。失う痛みすら享受する貴方が恐れるものを」


 かつて恋人に言われた言葉。
 今度は自分が貴方に贈ろう。



「何度だって、俺達が殺して差し上げます」



 だから、覚悟しておいてください。




「――いいのですね?」


 返ってきたのは静かな声音。
 それはわざと困らせるかのような口ぶりで。

「私はあなた方に期待を負わせ、追い求め続けますよ」

 もっと。
 もっと。

 際限など知らずに。

「あなた方の意志は関係無くどちらかの命尽きるまで。あなたも知っての通り一度約束したことは必ず果たしてもらいます。それでも、後悔しないと言うのですね?」
 顔を見合わせた撃退士達は、やれやれと笑い。

「今さらでしょう」
「当たり前や。俺をなめんな?」

 何度だって殺すし、何度だって色付き輝かせてみせてやる。
 友真が笑いながら言った。


「俺はヒーローやからな!」


 それを聞いたクラウンは、ゆっくりと瞳を閉じ。
 まるで気が抜けたかのように大きく吐息を漏らした。





 ――ああ。


 まったく。


 呆れるほどの殺し文句だ。





 やがて視線を上げたそのとき。




 一雫の涙と共に、結界が砕け散った。









 ――ねえ、クラウン

 俺、何だかわかった気がする

 終わりは『終わり』だけじゃないって

 新しい事の『始まり』なんだって

 この終幕劇が最高だったのなら、同時に最高の開幕劇が始まってる筈なんだ


 ※※


 ランタンが空へと昇ってゆく。
 それぞれの祈りや願いをその穏やかな光に乗せて。
 
 それは甘い夢。

 終わりと始まりの輝き。


 一斉に広がってゆく天灯たちを見上げ、ヨルはただ立ち尽くしていた。
 言葉が、出なかった。
 こんなにも胸がいっぱいになった事などなくて、初めての感情をただ受け入れるしかなくて。
 いつの間にか、頬を涙が伝っていて。
 ヨルは黒龍を支えながら同朋の元に歩み寄る。
「クラウン、これから俺たちと新しい劇を始めようよ」
 今度はどんな劇になるかは、まだわからないけれど。
「俺も黒も、どこにも行かない。ここで生きて、いろんなものを心に受け入れて」
 人よりずっとずっと長い命で、君と共に。


 最後まで見届けるから。


 クラウンが頷いたその時、突然虚空から巨大な影が落ちてくる。

「……レックス?」

 千尋が目を丸くする傍で、大きな猫悪魔は呼び出した相手に頬ずりをしている。
「うわあああレックスうううう」
 千尋はふかふかの毛皮に抱きつくと、わんわんと泣き始める。
「もう…もう…心配したんだから……!!」
 温かな毛並みに顔をうずめるその背を、諏訪がそっとさする。
「ずっと我慢してましたからねー?」
 微笑む彼の瞳にもうっすらと安堵の涙が滲んでいて。
「ねえレックス」
 千尋は大切な『友だち』に向けて泣きながら問う。
「わたしたち同じ場所で生きられなくても…共に生きられるよね?」
 レックスは何も言わず彼女にも頬ずりをする。
 その瞳が澄んでいるのを見て、千尋はやっぱり泣いてしまう。

 道化姿に戻ったクラウンは、傍に来た友の姿に気付き。
 いつも通り一撫でして、ただ一言だけ告げた。

「賭けはあなたの勝ちですよ、レックス」

 その刹那。

 周囲の至るところから拍手が聞こえてくる。
 見渡す撃退士の耳に飛び込んでくるのは、観客たちによる称賛と喝采。

「素晴らしい舞台をありがとうございました。とても勉強になりました…!」
 軍帽の少女がぺこりと頭を下げれば、桃色髪のメイド悪魔が本を閉じ。
「ふうん。なかなかやるね、人間ってのも」
「(ぐすぐすずびずび)我まで泣いてしまったではないか…!」
 ロリコン悪魔が旅人に借りたタオルに顔をうずめる傍では、学園教師の太珀の姿も見える。
「ふん…こういのもたまには悪くないな」

 他にも感じる気配やら何やらで、上り坂はある種異様な高揚を見せている。
「な…なんか凄いカオスだよね」
 恋人を支えながら苦笑する祈羅に、明はさも満足そうに。
「名演には然るべき称賛を」
 観客の予想を覆すのもまた、痛快愉快と言わんばかりに。


「これもまた、”偶然という運命”であるのかもしれんがね」


 

●終幕


 終幕は観客と共に描く奇跡

 それは歓び

 それは悦び

 唄おう、謳おう、歓喜の歌を


 ※※


 花が舞い、光が踊る。

 恍惚と妖艶に満ちた悪魔の宴が幕を閉じる。
 

「あっ! 質問の答えまだ聞いてなかったんだねー!」
 縁が慌てたように問いかける。
「ミスターの望んだものは、手に入ったかなー?」
 クラウンは瞳を細めると、縁の頭上にぽふっと袖をかぶせる。
「うや!?」
 一瞬前が見えなくなった縁の頭に、触れる感触。恐る恐る手をやってみると、何が頭に乗せられていて。

「これ……」

 思わず、言葉に詰まる。
 彼女の手の中にあるのは、蒼銀の猫と道化師の絵が描かれたカード。

「約束は果たしましたよ」

 そして袖を振った瞬間、舞い降る花びらの一部が次々にトランプへと変わっていく。
 各々の元に落ちてきたカードを見て、諏訪が首を傾げ。
「これ、もしかして一人一人スートが違うんですかねー?」
 千尋と見せ合いながら、描かれた数字を読み上げてみる。
「わたしはハートの10!」
「クラブの6ですよー?」
 ヨルと黒龍が互いに見せ合い、
「……俺はクラブのエースだ」
「ボクはハートの2やね」
 祈羅は恋人とカードをかざし合う。
「うちはハートのクィーンだ」
 暁良は不思議そうにカードを眺め。
「……クラブの7だナ」
 明は愉快そうに笑う。
「スペードのエース、とねぇ」
「俺たちは――」
 一臣と友真が互いのカードを見て何とも言えない表情になる。

「「ジョーカーだ」」

 花びらが降りしきる中、縁はひとり呟いていた。
「……やっぱり、ミスターはずるいんだよ」
 くすりと笑んだ頬を涙がぽろぽろと伝う。
 彼女の白く小さな手には、ハートのエースが収められていた。


「さて、あなた方とは一旦ここで別れます」

 切り出された言葉に撃退士は沈黙する。
 どういう意味だと問いかける視線に、クラウンは優美に瞳を細め。
「色々とやりたい事も見つかりましたのでね」
 レックスと旅にでも出ますと微笑う。
「……もう会えないの?」
 ヨルの言葉に、かぶりを振り。
「いいえ。あなた方も、私も。それぞれが望む先を求め、夢を咲かせたその時に」

 それは何年も先の事かもしれない。
 どちらかの命尽きるときなのかもしれない。


 けれどいつか、必ず。


「再び、会いましょう」


「ミスター……」
「それまで、そのカードは預けておきます」
 言わばそれは、いつかの為のチケットであり。
「なんかさ……恋人同士の約束みたいだよね」
 複雑な表情を見せる祈羅に、クラウンはくすりと笑み。
「会えない時間が愛を育てる事もあるでしょう?」
「……そういう台詞、さらっと言うのやめてくれる?」
 顔を赤くする祈羅にさも愉快そうに笑う。
「次の舞台には自分たちが招待しますねー?」
 諏訪の言葉に千尋も頬を紅潮させながら。
「あのね、あのね、その時はとっておきのたい焼き一緒に食べようね!」
 ちゃんと友だちも連れてくるよ。
「ええ、楽しみにしています」
 明がやれやれと腰を下ろしながら。
「さてと。次に会うときのために、私はくだらない話でも集めておくかねえ」
「ふふ…並の量では満足しませんよ?」
 だって語る時間はこれからいくらだってあるのだから。

「とりあえずさ。次会う時までに俺、クラウンよりカフェオレ淹れるの上手くなっておくね」
 ヨルの言葉に黒龍はちゃっかりと。
「あ、一番にいただくのはボクやけどな?」
 縁はほんの少し、目を伏せて。
「しばらくの間お別れなんだね…」
 寂しい気持ちはお互い様。でもきっとこれは始まりだから。
「行ってらっしゃいなんだよ、ミスター!」
 めいっぱいの笑顔で送り出す。
「ま…次ん時まで、俺は今まで通りあがき続けるゼ」
 暁良はそれだけ告げると、いつの間にか白み始めた暁の空を見上げる。
(長かった夜もそろそろ終わりか)
 この先には何が待っているのだろう。
 最高の瞬間を与えるのではなく、与えられた道化を思いながら。

 友真はやっぱり我慢できなかった涙で顔をぐしゃぐしゃにしつつ。
 万感の思いを込めて伝えるのは、やっぱりこの言葉。

「ミスター、ありがとう」

「私も礼を言いましょう、ユウマ」
 そして愉快そうに告げる。
「あなたの独占欲、なかなかのものでしたよ?」
「うっ…そ、そうやで、俺の愛は強欲やからな!」
 クラウンはひとしきり笑うと、皆をゆっくりと見渡し。
 いつも通り、別れの言葉を切り出す。

「では、私はもう行きます」

 去ろうとする背中を呼び止める声。
「ミスター」
 振り向いたその瞳。
 どこか名残惜しそうな色へ向けて、一臣が笑いながら告げた。


「今度は俺たちが会いにいきますよ」



 だからそれまで、待っていてください。




●偶歓のマスターピース


 クラウン、クラウン

 なんですか、レックス

 クラウンの恋は叶ったであるな

 ふふ……そうですね

 我輩、人間の真似をしてちょっとだけ本音をいうであるぞ?

 ええ、どうぞ

 我輩、クラウンよりも毛並みには自信を持っているである!


 ※※


 仄暗い闇の中。
 誰もいない校舎の屋上で二柱の悪魔は佇んでいた。

「――おや。夜が明けますよ、レックス」

 遙か稜線の合間、溢れるように光が生まれる。
 眩しいほどの陽光に、思わず瞳を細め。

「美しいですね」

 人の子たちが目覚める輝き。この世界にしかない始まりの景色。
 道化の悪魔は願うように咲んだ。





 光は何度も生まれ、季節が何度でもめぐるように






 幾重にも


 幾重にも






 一ひらを折り重ね、真愛しきすべてを貴び称え





 そしていつか――







 真の花を咲かせてください









 待っているから










 完


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: JOKER of JOKER・加倉 一臣(ja5823)
 真愛しきすべてをこの手に・小野友真(ja6901)
重体: By Your Side・蛇蝎神 黒龍(jb3200)
   <クラウンの強烈な攻撃を受け止めたため>という理由により『重体』となる
面白かった!:24人

紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
二月といえば海・
櫟 諏訪(ja1215)

大学部5年4組 男 インフィルトレイター
あなたの縁に歓びを・
真野 縁(ja3294)

卒業 女 アストラルヴァンガード
JOKER of JOKER・
加倉 一臣(ja5823)

卒業 男 インフィルトレイター
真愛しきすべてをこの手に・
小野友真(ja6901)

卒業 男 インフィルトレイター
撃退士・
雨宮 祈羅(ja7600)

卒業 女 ダアト
暁の先へ・
狗月 暁良(ja8545)

卒業 女 阿修羅
輝く未来の訪れ願う・
櫟 千尋(ja8564)

大学部4年228組 女 インフィルトレイター
夜明けのその先へ・
七ツ狩 ヨル(jb2630)

大学部1年4組 男 ナイトウォーカー
By Your Side・
蛇蝎神 黒龍(jb3200)

大学部6年4組 男 ナイトウォーカー