●メモリー
「……二月、極寒の海に潜る。無謀……勇者をここにしるす」
ピ。と、橋場 アトリアーナ(
ja1403)が構えるカメラが回り始めた。
●冬だ! 海だ!
青い空、青い海、燦々とお日様――そして吹き抜ける寒風! 容赦の無い大寒気!
「……ま、想像してたけれど寒いな」
「えぇ、寒いです」
遠い目で海を眺める宇田川 千鶴(
ja1613)と、その傍らでにこにこしながら寒いの苦手だと黒マフラーに顔を埋める石田 神楽(
ja4485)。二人共防寒具をバッチリ着込んでいる。冬だし。
「久々にセンセと遊べるのは嬉しいけど何で海なのもっと他にもあったと思うんだけどたくえつしたるいんずならしかたのないこと」
「そう……これわしかたのないこと……」
すんごく寒くて歯をガチガチならす加倉 一臣(
ja5823)のシャツの中に顔面を突っ込んで暖をとる棄棄がうむと頷いた。仕方ないね。近くでは小野友真(
ja6901)が寒さの限界点突破で最早爆笑している。
「海ー! ってセンセ寒すぎやでこれ!」
「ひあぁー……想像してた以上に寒いです」
「寒いー」
「んひゃうーー、海風が冷たいのですワっ!」
奥戸 通(
jb3571)、高虎 寧(
ja0416)、ミリオール=アステローザ(
jb2746)も抱えた腕を摩って震えている。だがミリオールは鼻をズビィと啜りながらも元気一杯だ。
「寒いと思うから寒いんだよ! 頑張れよ生徒諸君! 俺だってオミーのシャツの中で頑張ってるんだから!」
「センセそれ、思いっ切り暖とってるよね……俺の背中がオホーツク……!」
ぶわっと両手で顔を覆うオミー。
「まるでプライベェトビィチだな! 海、めっちゃ綺麗だぜチキショー!」
「そうですものね、2月ですし海で……え? 2月……2月……?」
棄棄や愉快な仲間達と海にこれた事は嬉しいが、寒い。いっそ笑う他に無い。赤いマフラーを靡かせ、テンションをマックスにする事で防寒という苦肉の策を決行するギィネシアヌ(
ja5565)は蛇の魔族(自称)なので今にも冬眠しそうだけど寒い時に眠いって死亡フラグだよね。
その隣で十八 九十七(
ja4233)は愕然としていた。海へ行く、とは聞いていた。しかし何をするとは全く聞いていなかった。後の祭りなう。
そう、二人はスク水姿であった。渚のエンジェル。太陽に輝く白い素肌が眩しいNE!(※真冬です)
(真冬……? ちゃう、今は夏……今は真夏や……!)
マリンレジャーを最大限楽しむ為と笹本 遥夏(
jb2056は寒さに歯をガチガチ鳴らしながら自己暗示の真っ最中。うん、ちょっと、冷夏なだけ。夏です。summerです。だから当然、年頃らしくちょっと大胆な山吹色のビキニで決めてます。寒いです。テラさぶいぼ。
「やー、ここは涼し……」
今は夏です。鳥海 月花(
ja1538)はニコリと微笑み空を見上げ……
「いや、強がるのやめますやはり寒いですね」
吹き抜けた冷たい風にぶるりと震えて自己暗示を諦めた。
「気分転換の為、という理由だったら良かった……」
「ここまで寒いと精神の鍛錬と考えた方が良いかも知れませんね」
「流氷が無い分まだマシか。氷が来るともっと冷える」
ボソリと呟いた咲村 氷雅(
jb0731)に楯清十郎(
ja2990)は苦笑を浮かべる他に無い。夜来野 遥久(
ja6843)はあくまでも冷静だ。
「でも諸君! 海だよ海! やったねぇ!」
「この企画を立てた人、ばっかじゃないのーーーー!!」
「誰が馬鹿ですか!」
海に向かって叫んだナナシ(
jb3008)に愛のコブラツイストをかけている棄棄はさて置き。
海。何はさておき海。海なのである!
「「いえーーい!!」」
海となれば子供心がはしゃぐもの。寒くて呆然としている者もいれば、その逆もいる。
「うおー、海だー! 泳ぐぞー!!」
「海! 海で御座る〜! いやっほ〜、で御座る〜♪」
「海だな! 寒いな! なんか楽しいなっ」
年齢相応にハシャいで、寒さなんて何のその。わぁいと元気よく跳び出したのは緋野 慎(
ja8541)、静馬 源一(
jb2368)、大狗 のとう(
ja3056)。尤ものとうは大学生だけど楽しい事が大好きだから仕方ない!
「綺麗な海を見ると心が落ち着きますわ。特に冬晴れのときは」
「同感だね。冬の海の雰囲気って何だか好きだな」
「絶好の海水浴日和ね」
静かにノリノリなのは、気品ある雰囲気を漂わせながらお茶会の準備を整えてゆく長谷川アレクサンドラみずほ(
jb4139)、桜木 真里(
ja5827)は同意の頷きを示しながらフェミニストとしてその手伝いをし、田村 ケイ(
ja0582)は巻きロングスカートの付いたビキニ着て、片手にボディボード持ち仁王立ちである。
空は快晴。海は青く、キラキラと光を集めてウインクしてくる。
折角の機会だ、満喫せねば損である。
「海なのです! 海なのですー!」
波の髪を靡かせて。箱入りのお嬢様育ちで世間知らずな逸宮 焔寿(
ja2900)には、仲間と海で遊ぶなんて貴重な経験だ。すっかりハシャいで波打ち際に立つ。ぶるりと寒さに震えながらも、冷たい冬の空気をうんと吸い込んで。
「うーみーがーすーきーーー!!」
力一杯、叫んだ。
「よっしゃ海だ〜!!」
それに続けと水着にパーカー姿のヨナ(
ja8847)も砂浜を踏み締める。が。
「って、寒いわ!?」
寒風に容赦はなかった。と――不穏な気配に振り返る。
「海……水着……ふふ、ふふふふっ……」
「ウホッ! 男の水着ィ……」
ギラリと目を輝かせる桐村 灯子(
ja8321)に嵯峨野 楓(
ja8257)。お腐れ様@冬だから厚着がログインしました。
「こんな時期に男の人の水着見られるなんて!」
冷静沈着でマイペースなんてなかったんや。灯子はバッチリ準備してきたデジカメで水着の男子をバッテリーの限りバシャりまくっている。
(冬はみんな厚着だし、私の心も冬景色……でもここで目の保養をしておけば、春まできっと大丈夫!)
(良いわぁ、新刊の良いネタになるわぁ……!)
寒中水泳なんて元気ね、と微笑みながらネタ帳メモメモな楓。
と。同じ電波に、シンパシーに、ふと。目が合った二人。
――邂逅――
出遭ってしまった二人。
「……!」
取り敢えずサムズアップからのシェイクハンド。
「こんな機会を作ってくれた棄棄先生には感謝ねっ……圧倒的感謝ねっ……!」
「全くよ、えぇ」
そんなこんなで。海に入らない不届きもののイケメンがいたら海に突き落としましょうか。
「さぁ……我らの手に……濡れ透けセクシーを……!」
「えっ、ちょっ落ち着きましょ、ねっ良い子だから」
じり。じり。ヨナを追い詰めるお腐れダブルス。
と、そこへ。
「ヒャッハー! 海だぜ諸君ーーっ!」
ずどーん。走ってきた棄棄が3人諸共引っ掴んで引っ張って一緒に海へ。どぼーん。
「「「わぁああああっ!?」」」
楓とヨナは驚きと海水の冷たさに。灯子はビニールで防御していたとはいえデジカメが海に入ったショッキングで。まぁ結果としては壊れてなかったし保険として使い捨てカメラもあったりしたんだけども。
わいわい、そんな声を鼓膜の裏で聞きながら。
「……」
ざざん、ざざん、寄せては返す波の音。エルレーン・バルハザード(
ja0889)は砂浜に寝転んだまま一人、何とは無しに聞いていた。
半分開いた眼には何処までも蒼い空が映る。冬の高い空。彼女は空が好きだ。
「……」
ボンヤリ。頭もカラッポ。網膜にただ空を映しているだけで、何だか自由になれる気がする。
そのまま――いつのまにか――ぐぅ。瞼は落ちて、すやすや眠りの世界へ。
同じく、海に空に身を任せているのはケイだった。準備体操と柔軟をしっかりして、海へ突撃して、ボディーボードに身体を乗せて日光浴。
「ふう、潮風が心地いいわね……」
存外に日光は温かいものだ。サングラス越しの太陽。冬の冷たい空気だからこそその温もりをより感じるのだろうか。吹く風が彼女の黒髪を揺らした。
そのやや離れた所には寧が水上歩行の力を使って海面の上に立っていた。こんな季節に海――或る意味精神を鍛えるのにも良いかもしれないし、自分としても緊張感を維持するのに打ってつけだ。悪い意味と捉えず気持ちを入れ替えるが吉。
つまり、ストイックな彼女にとっては海岸で行う課外授業のようなものである。……流石に、水中に入るのは勘弁だけれども。
そういう訳で、彼女は槍をヒヒイロカネより取り出し演舞を開始する。日々の地道な鍛錬こそ自力に繋がるのである。
「さて……僕も遊びますか!」
楽しげな雰囲気に何処か浮き浮きとしながら清十郎も意気込んだ。サーフィンに挑戦。やった事は無いけれど、ボードも持ってないけれど、折角の機会なので。
「それに僕には頼れるこいつがいますので!」
ドヤーっと取り出したのはヘラルドリースクトゥム。長さ120cm、幅80cm程度の長方形型の盾。非常に強固な素材でできた表面に退魔の紋章が刻まれた、物理的にも魔法的にも強固な盾。あ、サーフボード代わりです。失くすと困るから脚と紐で繋ぎます。
「えぇと、次は……」
取り敢えず海に行こう。小天使の翼でぱたぱた海へ。初心者の思い付き。
さぁ波が来た。乗るぞー!
ぼちゃーん。
ぶくぶく。
「……!?」
V兵器(しかも金属の塊みたいなでっかい盾)はサーフボードにはなれません。その上脚に縛った紐も絡まり清十郎はどんどん沈没。がぼがぼ。
(あぁ、これが走馬灯なんですね……)
そして意識を手放しかけた、その時。
消えかけた視界に見えたのは伸ばされる手。
それから――引き上げられたのだと、思う。
気が付いたら清十郎は砂浜で大の字だった。その傍には、すっかりずぶ濡れになってしまった寧が。
「貴方が助けてくれたのですか?」
「うち、濡れるつもりはなかったのですが……」
髪から雫を滴らせて独り言つ少女。彼女が沈んでいた清十郎を引き上げ、救出したのだ。
あぁ、と少年は反省する様に苦笑する。
「やっぱり素人が見よう見まねでやったら危険ですね」
温かいお汁粉ドリンクでも飲んで、一息吐こう。勿論、『恩人』の分も。
そんな彼方では、ケイがノリッノリでドンブラコーとボディーボードで波乗り遊びをしていましたとさ。
「私は海の風……なんちゃって」
超楽しそう。
「……つっくんよ」
「如何したのですぎーちゃんよ」
そんな皆の様子を、スク水貧乳ズは震えながら眺め。
「この絶望的な状況から脱出する方法を思い付いたのだ」
「奇遇ですねぃ、九十七ちゃんもですよ」
アイコンタクト。頷き合う。
そして。
「「ワァーーーイ海だアァアアアアア!!」」
必殺ヤケクソの術。海へ駆け出す高校二年生魔族() &女子高生()。さぶーん。
「わぁい 海水浴 タノシイナ ウフフ」
「づぇッすらァアアアくっそ寒ぃってんだよ冬将軍のボケ■■がァ゛ア゛アァアアアア!!」
きゃっきゃうふふとヤケクソ水かけっこ。突き刺さる様な冷たさ。グワアアアアとか女の子らしからぬ悲鳴を上げながらばっしゃこばっしゃこ。
動けば体が熱くなる
つまり:はしゃげば寒さが紛れる
ならば:熱くなりすぎたら水をかければいい
という、完璧に無茶なシナリオである。
でも段々マジになってきた。インフィルだから無駄に精度とか求め始めちゃった。
あとなんかいつのまにか棄棄がホイホイされてた。山ギたんと妹かわいすぎる。水着マジ眼福。くそ萌える。
因みに先生は久遠ヶ原学園の男子水着の上に男子体操服の上を着てます。
「だらっしゃぁあああああ上等ォオオア!」
「いくのぜセンセェエエエエエ!!」
「覚悟せよ諸君ーーーッ!!」
ウンドラー。エイコラー。ばっちゃんばっちゃん。
揺れる水面。アグレッシブな一方で、最上 憐(
jb1522)は銛を手に静かに水面を覗き込んでいた。水面にいつもの表情が映る。
「……ん。マグロとか。ジンベイザメとか。釣れないかな」
それはちょっといないかな! 流石にアレかな!
「……ん。釣れないので。爆発させて。一網打尽」
スッと手を翳した。刹那。ズッガァアアンとド派手な爆発音が起きたのは――発破。それから間もなくプカプカと気絶した魚が。そいつを文字通り、手にした網で一網打尽。
「……ん。かなり。とてつもなく。大量。魚祭り」
涎がたらり。と、感じた気配に水面を見遣ってみれば。タコだ。でっかいタコだ。
ギラリと憐の目が光る。あと銛も光る。
が、それをズバーンと水の中から浮上しながらキャッチしたのはミリオールだった。宇宙を内包したかの様な自慢の翼、極光翼が水飛沫にキラキラ煌く。
「ワふふー、発破漁ってやつの応用なのですワっ!」
アウルによる特殊な衝撃波、滅心波動で混乱させた所をゲットという寸法だ。
と、銛を構えていた憐と目が合った。ふふー、と天使は笑む。
「折角ですし共闘とシャレこむのですワっ!」
「……ん。百人力。一騎当千。任せて」
そんなこんなで一狩りいこうぜ。張り切るミリオールであるが、ふと視線に気付いて顔を上げてみれば砂浜に立つクリスティーナが興味深そうにこっちを見ていた。
「はワ? 同郷の方ですワっ! ……今日はお互い楽しめると良いですねっ!」
笑顔で手を振ってみる。こんなにも素敵な世界だ、楽しまなくっちゃ損である。
その挨拶に片手を上げて返すクリスティーナ――その傍で、「くしゅん」。振り返ってみればリゼット・エトワール(
ja6638)が「ふわぁー」と声を漏らしながら鼻を擦っていた。
「リゼット……風邪か?」
「あ、いえ、自分がすごく寒いの苦手だという事を忘れてました……」
寒いです、寒すぎますと両腕を摩って苦笑。
「く、クリスティーナさんは寒いの大丈夫なんでしょうか……?」
「常日頃から鍛えているからな。大した事はない」
「す……凄いですね」
「私などまだまだだ」
「流石です」
ストイックだなぁと思いつつ、リゼットは「そうだ」と唐辛子がたっぷり塗してある煎餅を取り出して。
「偶にはブレイクタイムも必要でしょう」
一緒に食べましょうと誘えば天使は頷いたので、砂浜に一緒に座ってお煎餅タイム。
二人一緒に頂きます――それから一口。
「〜〜!!」
舌を指す刺激。リゼット悶絶。
「口が、口がっ」
「リゼット……やはり風邪か?」
「い、いえっ……お煎餅が、お煎餅がここまで辛いなんて予想を超えていました」
「そうか……?」
辛党クリスは変わらぬ調子でぼりぼり食べている。ので、残りはクリスティーナにプレゼントして、リゼットは持参したお茶で舌を冷やす事にした。
なんて――さっきからマトモな突っ込み役が居れば「大丈夫かこの子」と遠い目をしそうなリゼットだが。お茶を飲んでふぅと息を吐き海を眺めながら、思う。それを口にする。
「また大きな戦いが始まったら、天界との戦闘は避けられませんよね」
視線は海のまま。横では煎餅が割れる音。ざざん、と波の音。仲間がはしゃぐ声。
「辛くは……ないですか?」
同族と戦う彼女を心配しての言葉だった。ふむ、と一言、クリスティーナはリゼットの方を見遣っる。曲がりない、直剣の如く眼差し。
「……確かに積極的に天界の者と刃を交えるつもりはない。だが――『そうせねばならぬ』のであれば。
躊躇は刃を鈍らせる。……そして私は、『躊躇』する訳にはいかんのだ」
「そうですか……。でも、無茶は禁物ですよ?」
「無論だ。無茶と無謀は紙一重だからな」
変わらぬ生真面目さ。とは対照的に、フリーダムな声が砂浜に響いた。
「カーティス君の! 水着が見られると聞いて!」
2人が振り返ったそこに居たのは、謎の格好良いポーズを決めた不破 怠惰(
jb2507)が。だがそこへ容赦なく寒風が吹き付ける。
「って思ってたより寒い何これ皆なんで泳げてるの? 人の子ってたまにわけわかんないよね……カーティス君もそう思わないかい?」
サムイサムイと腕を摩り、クリスティーナの横に立つ。
「人の世は珍妙不可思議であるな、不破よ」
「全くだよ……ところでこんな話を聞いた事はあるかい?」
フフンと勿体振って、人差し指を立てて曰く。
「――『寒中水泳は精神修行の一環ッ! 真に鍛え上げた勇者なら! 冬の海に身を投げても寒くないッ!!』……と!」
「なんとっ……!」
流石1に努力2に努力3,4がなくて5に努力な堕天使である。思わず立ち上がるこの喰い付きである。
「そうそう! 水着着ようぜ水着!」
なんて話題が超エキサイティンなのは怠惰がクリスティーナの水着が見たいだけだったり。そんな彼女の目の前で、「任せろ!」とクリスは雄雄しく服を取っ払った。学園指定の水着姿がそこにあった。下に着てました系堕天使。
「ナイス!!! よっしゃ! 記念撮影!! 激写!! 記念、記念だよっ」
マジGJとサムズアップ。鍛え抜かれた体躯の美しさよ。肩を組んで一緒にデジカメでぱっしゃこぱっしゃこ。
「良し では泳ごう不破よ」
「えっマジでいくの……ええい! 言ったからには一緒にキャッキャウフフしてやるわー」
「その意気だぞ!」
何故か肩を組んだまま二人三脚で海へ突撃。水着天魔が海へIN。刃の様な水の冷たさが突き抜ける。
「さっみいい! 何考えてんだあの先生!」
「この冷たさが……我々を強くするのだ! さぁ不破、あの水平線まで競争だ!」
「マジで!? っていうか……妙に冷たい!」
何故か。それは。氷雅が『しっかりしてきた準備』の所為だ。
即ち――大量の氷をガンガン海に投入している。
寒そうだ。寒いだろう。だが皆元気そうで楽しそうだ。さて自分は何をして遊ぼうか、焔寿の視線の先には海から戻ってきた棄棄が。少女の表情にぱぁっと花が咲く。
「面白オーラが漂っているのです。きっと何かやらかしてくれるのですっ」
期待の眼差し。目が合った。
「よう焔寿! 楽しんでるかい」
海水に塗れた手を少女の頭の上にぽん。
「あのね先生」
「ん?」
「義理チョコね、いっぱい持ってきたの。先生にあげる!」
ホワイトラビットのぬいぐるみポシェットからお菓子を一杯。おぉ、と棄棄が目を丸くした。
「こいつぁありがてぇな! よし、折角だし一緒に食べようぜ。――ほら、ソーニャちゃんもおいで!」
手招きの先にはソーニャ(
jb2649)。はわっとした少女であったが、教師の笑顔にちょろちょろと寄って来る。
「海はどうだい?」
「ん……思っていたのと違うね」
パラソルの下、チョコをもぐもぐしながらソーニャは水平線を眺めつ答えた。こう見えてかなり感動している。だって、初めての海だから。
「でも……どうやって遊ぶのですか?」
広すぎて何処から手を着けたらいいのか。ふむ、と棄棄が頷いた。
「んじゃちょっとその辺いってみっか! 先生が一緒に行ってやらぁ。焔寿も行こうぜ」
よっしゃーと焔寿を肩車して、ソーニャと手を繋いで。向かった先は磯。
靴と靴下を脱いで、スカートをたくし上げて、冷たい水の中を歩いて、少女が覗き込んでみれば。そこには色々な生き物が、あっちにもこっちにも。
「先生、これは?」
「ヤドカリだな」
「これはなぁに?」
「カニだな」
「こ、これは……?」
「あ〜、アメフラシだな!」
見付けた生き物達は水槽の中へ。小さな巻貝や小魚や、色んな色んな生き物達。
それは宛ら、小さな水族館。
「すごい、すごい。いろいろな生き物がいるんだね」
ソーニャは目を輝かせて自分が作り上げた海の世界を見詰めていた。棄棄はその傍らで和やかに生徒を見守っている。
「だろ? 因みに食べると美味しいのも居るんだぜ」
「え〜、たべちゃうの? かわいいのに……」
「生き物っつーのはな、他の生き物の命を貰って生きてるのサ。人間も、そこの魚達も一緒。
ま〜確かに可愛いのを食べるのは胸が痛むかもしれんな! それはお前さんが優しい証拠だ。その優しさは大事にして欲しい。だが……」
可愛い、という理由だけで食べないのは『食べる』という行為に対する裏切りではないか?
教師はあくまでも優しく、視線を彼女に合わせてその頭を優しく撫でる。だが天使はまだ何処か腑に落ちないようだ。
「……でもボクは天使だよ」
「そうだな……だが、俺の生徒になった以上は『命を吸う』ってのはちょいと許せねぇんだ、分かっておくれな?」
命を吸う。食べる事で命を貰う。何の違いがあるだろうか。仮定こそ違えど、同じ事ではなかろうか。
ソーニャは顔を上げてしっかと頷いた。
「うん、わかった。だから食べちゃう。それにボク、吸えないよ」
「おう、良い子だ! 偉いぞぉ〜」
あっちで料理してもらおうぜ、と。教師は生徒の手を引き、歩き始める。
「「さむい」」
一方で震えながら海から出てきたのは九十七とギィネシアヌ。カイロに埋もれる九十七、厚着してお年寄りの寄り合い所の如く震えているギィネシアヌ。
「美味しいラーメンはいかがっすか〜。季節外れの海……季節外れの海の家……暖かいラーメンなんて如何でしょうか? 美味しいよ!」
そこに聞こえてきたのは威勢の良い声だ。見遣ってみれば、仮説の海の家にてラーメンを振舞っている佐藤 としお(
ja2489)が。
寒い時は暖かいもの。震える手を上げてみれば、出前迅速落書き無用!
「へい、お待ち!! こんな季節は暖かい汁モノがいいもんです♪」
さぁ召し上がれ、とっておきの豚骨ラーメン!
「勿論、素敵な薬味デスソースもご用意しております……辛過ぎるから死なないでね♪」
てへぺろ!
「シンデレラのおしろくらい、おっきいの作ろうね」
「よっしゃー! 頑張ろなっ」
パレオ付の白のふりふりワンピースにピンクのビーチサンダルで決めた真守路 苺(
jb2625)が微笑みかけた先には遥夏、風除けも兼ねる巨大な砂の城造りの開始である。
「さぁ大阪城よりごっついん作るでーっ」
「日本のおしろは、かわいいの? かわいいなら、いいよ!」
遥夏の作成イメージは大阪城天守閣で、ましゅろのそれは憧れのプリンセスなお城だったりといきなりダイナミック擦れ違いしているが、
「同じ城を作るっちゅーんやから、打ち合わせなんかいらんやろ!」
ドヤァ。
まぁそれはそうと遥夏は一生懸命砂を運び、ましゅろは砂をせっせと形作ってゆく。
(ここはおどるところで……)
(堀も作るで……!)
嗚呼擦れ違い。片方はロココでオサレなお城が出来ていくのに、反対側では大阪城が作られてゆく。凄まじい和洋折衷。
「せやせや、貝殻とか海草とかも拾ってきてんで! デコるんは任せる!」
「うん、まかせて!」
年上としてフォローはしっかりしないと、と意気込み砂を集める遥夏、鼻歌交じりに貝殻やわかめやこんぶをかわいらしく飾ってゆくましゅろ。
火鉈 千鳥(
jb4299)も別の場所で砂の城を製作していた。なんと超精緻なバッキンガム宮殿と名古屋城。何故このチョイスなのかは不明である。
様々な道具も取り揃え、慣れた手つきで素早く正確に作り上げてゆく。なんかこういうコンテストとかがあったら良い線いきそうな感じ。その真剣な様子に邪魔をする者など現れない。
海だしとビキニを着たはいいものの、寒い。羽織ったパーカーの下でぶるっと震えながら、月花は冬の海をぶらぶら歩きながら見物していた。とろんとした視界に入ったのは砂の城。おぉ、自分もやってみよう。眠気飛ばしの鷹の爪をぽりぽりしながら。
「うぅ、寒いわね〜ほんっと」
そこへやって来たのはヨナである。目が合った。少女は苦笑を浮かべる。
「……流石に今日泳ぐ勇気は無いですね」
「そうね〜。砂でお城でも作りましょ!」
という訳で、折角なので共同作業。
月花が持ってきたカイロでぬくぬくしながら、バケツで汲んできた海水で砂を固めて。土台からしっかり本格的に。
「どんなお城を作りましょう?」
「――安土城よ。教科書で見た奴を細かく再現よ!」
「わぁ……! 折角ですし100cm以上、いえもっと大きいものを作りましょう!」
「よし、やるわよーっ」
スコップ片手にえいえいおー。
それにしても大阪城にバッキンガム宮殿に名古屋城に安土城、なんていうかスゴイ。
兎角やる気は本物だ、月花は海水を汲みに潮溜まりへ向かう。と。
「きゃっ……」
崩れる足元。危ない、咄嗟に踏み出した足。セーフ――
ぶにょ。
「――〜〜!!?」
足の裏からぞわわわわ。ナマコが……ナマコが踏み出した足の下に! ネバネバどろぉ!
「 」
ふぅ。硬直からの、失神ばたーん。
ふわり、金髪が揺れた。そこに居たのは亀山 淳紅(
ja2261)ではない、淳紅子。つまり女装。金髪のロングウィッグ、フードを被った膝丈ロングパーカー。
淳紅子の視線の先にはマキナ(
ja7016)が海を眺めている。しめしめ。そぉっと後ろから近付いた。肩を、とんとん。
「マキナ君、……みーつけたー……♪」
「……。そういえば海で花火をあげるとか……人間花火打ち上げるか」
そんなこんなで打ち上げるか打ち上げられるかの熱い戦闘パートがずがーんぼがーんずがががどっぎゃーーんです(割愛)
「くっ……やるな……!」
「お前こそ……!」
肩を弾ませ一触即発。じりじり詰まる間合い。
と、そこへ。
「かっめやっまくぅ〜んっ」
きゃぴる〜んと駆けて来る笑い声。浜辺で楽しく追い駆けっこでもしようかな☆なんて、楓ってばオトメティックエクスプレス!
「――爆破序に剥いてやらぁ!」
「!?」
亀山君(宿敵)ですしおすし。
「うふふまてまてー」
「あっはは、捕まえてごらーん……!」
遊びという名の本気。浜辺で全力追いかけっこ。やだなにこれこわい。
そんな最中にも――楓からマキナへアイコンタクト。ぎらり。刹那、楓が素早く不動金縛の印を結ぶや透明な糸が幾重にも淳紅へ襲い掛かる。
「しまった!?」
「もらったァ!」
マキナは隙を見逃さない。踏み込む間合い。そして掌打を、振り――抜いた。
「「「「たーまやー! かーぎやー!」」」
打ち上げられた淳紅は空中で禁呪『炸裂掌』を放った。どかーん。
「冬の花火は、空気が澄んでるから綺麗やからねぇ……!」
いい笑顔のアイツは、星になったのさ……空に輝く、一等星に……。
淳紅に敬礼!
そんな激戦など露知らず、真里は気ままに波打ち際を歩いていた。皆楽しそうだ。
(風も強いし冷たいけど、それでもあんまり寒いって感じないのは……皆の楽しそうな熱があるからなのかな)
なんて思いつ、ふとやった視線。そこには何故か空に敬礼している楓――恋人の姿が。目が合うと、彼女の方から駆けて来た。
「おーい!」
「楽しんでるかい?」
「勿論! そっちは?」
「うん、楽しんでるよ――手、出してみて?」
嬉しそうに微笑み手を差し出しながら。楓が受け取ったそれは彼が拾った奇麗な貝殻だった。
「おー……綺麗な貝殻! 持って帰って加工しようかな」
幸せ一杯に笑い返す。彼がくれたそれは彼女にとっては万金よりも価値があるものである。大事に大事に、小銭入れの中に仕舞った。そのままの流れる動作で彼の手を取る。
「ふふー」
悴んだ手も、こうすれば温かい。
「寒いからこのまま散歩しよっ?」
「そうだね、喜んで」
手を繋いで一緒に歩く。それだけでも、彼が――彼女が居れば、世界で一番幸せなのだ。
●寒いから鍋圧倒的鍋
「そんなことより寒いから鍋やろうぜ!」
と、矢野 古代(
jb1679)の声におぉぉーーーっと賛同し天へ突き上げられる手が幾つも。
そうと決まれば先ずは食料調達からだ。
「釣りを楽しみつつ魚を調達するとしようか」
「いざ! 獲物が待つ海へ突撃〜で御座る!」
良いポイントを探し釣り糸を垂らすソフィア・ヴァレッティ(
ja1133)に、源一は褌一丁で銛と魚籠を手に海へ突撃。
「さ、どんどん釣ってくよー」
ソフィアは釣りが得意である。様々な道具を駆使して安定して魚を吊り上げてゆく。一方の源一は水上歩行の技能によって海を『歩き』、手にした銛で魚を突く。
「大漁大漁〜で御座る!」
彼らだけではない。ミリオール、遥夏、憐、漁をしていた者達からも魚の差し入れが。
「どうも。料理はこっちでやる」
それらを受け取ったのは氷雅、折角なので「手伝え」と。序にムニエルの作り方も厳し〜く教えながら。
「う〜、さむさむっ!」
ぶるるっと震えながら源一が海から戻ってきた。古代が用意した毛布にくるまって暖を取る。そんな彼に、彼の様な者達に声をかけたのはみずほだ。
「皆様、寒いでしょう……暖かい紅茶はいかがですか?」
ティーセットと、焼菓子。ほっこり温かい香りに釣られた者は少なくない。
「せっかくだから、ご一緒させてもらいたいな」
「先生もいいかい。あとクリスも」
ソフィアに棄棄、クリスティーナ、etc。
「おいし〜」
「寒い海に潜った後の温かいお茶は最高で御座る〜♪」
「うむ。実に美味い茶だ」
ほうと息を吐くソフィア、机にぐてっと垂れてたれしずまな源一に、クリスティーナはうむと満足げに頷いている。
「冬の海でお茶会たぁ、気が利くなみずほちゃん! お茶も紅茶も美味しいし最高だぜ」
「えぇ。それは貴族として当然です」
棄棄の言葉に凛と答えるみずほ。矢張り、麗しい令嬢にはティータイムが良く似合う。
「……んでよ、みずほちゃんや」
「はい、如何なさいましたか」
「水着きねーの?」
折角なんだしーと冗句交じりな教師の言葉に。着るつもりはなかったんだけど、みずほは水着を持ってきてたり……着る事は吝かではなかったり……
(//ゝ´)b <GOOOD!
まぁそんなこんなで、古代はせっせと鍋を作っていた。寄せ鍋と鳥つくね鍋。持参道具もふんだんに、外での鍋には自腹も辞さない覚悟である。
「良し……できたぞーーー! ハラペコな奴は全員集合〜〜!」
大きく声を張り上げれば清十郎を始めわぁいと皆が駆けて来る。手招きすれば、クリスティーナと棄棄もやってきた。
さぁ、あったかくって美味しい鍋。
ぐつぐつあつあつ、一口食べればとっても幸せ。
皆で鍋を囲めば楽しさ倍増だ。
――そんな良い香りにつられて。
目を覚ましたエルレーンは一言。
「……何か食べるものが欲しいの」
ムクリ、起き上がって見遣ってみれば鍋が。来いよ、と古代が笑っている。その言葉に甘えよう。古代の隣に座れば彼が鍋をよそってくれる。
「本当は、おにくがいいけどぉ……」
「おっ、ならつくね鍋があるぞ! そら食え食え……ってお野菜もちゃんと食べなさい!」
「やー! おやさいきらい、だもーん!」
「好き嫌いしてると大きくなれないぞ!」
「誰がペタンコ絶壁東尋坊ド貧乳だーーーッ!!」
「そういう意味じゃnぐぼあーっ!?」
正義の鉄槌、雷遁・腐女子蹴!
光纏すると腹が減る。憐はお腹をぐうぐう鳴らしていた。いっぱい食べたい。いっぱいいっぱい食べたい。その為に擬態や煙幕を駆使してとにかく大量の食べ物を胃に収めていた。
「……ん。ココは。戦場。油断大敵。まとめ。頂いて行く」
「大丈夫だってまだまだあるから」
古代は苦笑を浮かべた。〆もちゃんとある。うどんにご飯の豪華二本立て。
●水泳競争!
「冬の海と言ったら寒中水泳よね! みんな準備は大丈夫?」
準備体操を行いながら水着姿の雪室 チルル(
ja0220)が元気一杯言い放った。海は泳げるような温度じゃないが、初めての寒中水泳。元気とやる気は十二分。
「まあ、せっかくの海だし? 冬ではあるけど泳いでみたいよね」
こういうきっかけでもないとやらないし、と碓氷 千隼(
jb2108)は極寒の海を見る。北海道出身でもあるし寒いのは平気――とまではいかないけれど、きっと周りよりは強い筈。
だが似たような者も居る。慎は故郷の山では年中川で泳いでいたので寒中水泳もお手の物だ。
「おしゃー! 泳ぐぞ泳ぐぞーっ」
泳ぐ事は大好き。普段のハイテンションよりハイテンション。
なのだが、ふと疑問。皆を見渡して。その果てに居たのは真里。寒中水泳する者の為に焚き火の準備の真っ最中。
「……火力が足りなければ男はファイヤーブレイクで……いや流石にこれは駄目だよね……」
「なぁ、どうしておとことおんなの体はあんなにもちがうんだ?」
「え?」
唐突に汚れ無き質問。キラーパス。そうだなぁ、と彼は苦笑した。いつか分かるさ、と。
そんなこんなでアーユーレディ?
「あたいが一番早く泳ぎ切って見せるわ!」
「上等。負けないんだから!」
「いくぞー!」
チルル、千隼、慎。火花を散らし、今スタート。目標は遥かの岩島までだ。
ぐん、と最初から猛速でかっとばしトップに躍り出るのは千隼。どれだけ鍛えようが寒さだけはどうにもならない、容赦のない低温に体も鈍る。
ならば、それまでに差をつけられるかが勝負。最初からクライマックス。
「……!」
それならこっちもとチルルも加速した。寒くても我慢、一生懸命。
「!」
負けじと千隼も加速する。加速、加速、加速――
の、一方で。
『阻霊符使用禁止』
防寒具をモコモコに着込んだナナシはそんな立て札を立て、ウムと頷くと海へ向かった。物質透過。水には触れず、息を止めて海を飛ぶ。寒中水泳はせずに銛を片手、意気揚々と漁をしながら。
「あ、ナナシ!」
その様子を見、泳いでいた慎は思った。水泳競争なのに彼女は泳がずにズルをしている!
「ちゃんと泳がないとダメでしょー!」
コラァと怒りながら阻霊符展開。
「!?」
がぼっ。油断して思い切り海水を吸い込んだナナシの体が硬直した。噎せる。同時に海水がどんどん防寒具に染み込んでゆく。がぼがぼがぼ。何が起こったどうしてこうなった。白目を剥いて溺死寸前。大・惨・事。
「わわわわわわ!?」
慎は慌てふためいて彼女の救助に向かった。一生懸命何とかかんとか彼女の救出に成功する。
ぜぇ。はぁ。グッタリ。ナナシはげほげほ水を吐いて、ヨロヨロ立ち上がって、フラフラ律儀に濡れ鼠のまま獲った魚を鍋をやっている面々に渡して、移動力上昇を活性化させて。
「……」
ゆらぁと慎へ振り返った。乾いた笑い。ヒッと竦み上がる少年。超スピードで駆けてくるナナシ。
「ごっごごごごごごめんなさいぃいい!!」
即土下座。でもボディプレス喰らいました!
因みにナナシはその後、鍋の皆に混ぜて貰い火に当たりながら震えながらもぐもぐしていたそうな。その場のノリで来てしまったものの、楽しんでいない訳ではないのだ。
さてさて泳いでいたチルルと千隼がどうなったのかというと。
「はぁ、はぁ……」
「や、やるじゃない……」
結局同着ゴール。砂浜に大の字。息を弾ませて。
ぶえっきし、とチルルは大きなくしゃみを一つ。寒い。本当に寒い。
「大丈夫?」
「……ま……まあこれ位なんてことはないんだから!」
鼻水ズビィ。千隼は苦笑を浮かべ提案する。何か温かい飲み物でも飲もう、と。
●鰹
「2月の海なのに皆元気と言うか……」
「はむぁ……」
苦笑を浮かべるファティナ・V・アイゼンブルク(
ja0454)に、たくさんの人におどおどして彼女の後ろに隠れているアイリス・L・橋場(
ja1078)。戦闘時以外の彼女は人見知りなのだ。
「わーい鰹鰹〜この海鰹いるのかな〜」
蓮華 ひむろ(
ja5412)は年齢相応にわぁいとハシャぐ。鰹のたたき、馬肉ユッケ、色々食べたい。いつになく彼女のテンションが高いのは、絶望の面々や他にも沢山の名高い仲間達が揃い踏みだからだ。
「すっごく楽しい一日になりそう!」
一方の蒸姫 ギア(
jb4049)は沈黙していた。人界では海は冬に行く物なのかと、それに従い来てみたものの。来てから何をすればいいのかサッパリ分からない。つまり途方に暮れていた。
と、俯いていたその顔を覗き込んだのはのとうである。
「君ってば何してるか? 一緒に遊ぶ? 遊ぼう? はい決定ー!!」
「ギア、熟考してただけなんだからなっ……でも、誘ってくれるなら」
半ば強制だが、悪くはない。あくまでもフンと仕方なさげにしながらも、キャッキャとはしゃぐのとうに手を引かれてゆくギアは何処か嬉しげだった。
「おっ、重っ……」
バーベキュー用の野菜を大きな鞄に入れて持ってきた通はそれらを置き、ふぅと息を吐いた。
そこへ、おーいとのとうが声をかける。一緒に遊ぼう、と。泳げない通ではあるが、ちょっと波打ち際ではしゃぐ位はしたいもの。
「おりゃー水かけどーん!」
「きゃっ冷たっ、やめてー♪」
「これくらいの冷たさ、ギアは全然平気……くしゅん、平気なんだからなっ!」
浅い所で水かけ合戦。冷たくて指が悴むけれどとっても楽しい。
「水が冷たいのにゃー。可愛い貝殻は君にあげるねっ」
「じゃあ私からもっ」
のとうが冷えた指で拾い上げたのは奇麗な貝殻だった。通が拾った貝殻と交換。
「ギア、宝石拾ったぞ」
「ホントだー! きれいだー!」
ギアが手にするのは緑色で半透明の欠片。すげーすげーとはしゃぐのとう。あらあら、と通は思う。あれは瓶の欠片が海に流され滑らかになったものだが――なんだかそう言うのも野暮ったくて、「素敵ね」と微笑んだのであった。
「お魚獲りならまかせるにゃ!」
「え? カニ? ホタテ? ……任せろッ!」
続いて海へ向かうのは猫宮ミント(
jb3060)、魚のコスプレな下半身に素ボンベというシーホースモードな金鞍 馬頭鬼(
ja2735)。
「……変態?」
「お馬さんと一緒に遊べるの嬉しいなー 、シーホースモードかっこいい面白ーい」
「……金鞍馬頭鬼の、ちょっといいとこみてみたいー」
海の馬。異常な光景にぼそっと呟いたアイリス、手を叩くひむろ。
「取りに行くんやろ。ほたてな! 沢山取ってくるまで上がるん禁止なー」
「ふ……BBQの網の上を竜宮城にしてやんよ」
うきうきしながらも行ってらっしゃいの構えな友真、オミーは意気込み海に向かうが超冷たかったのでそっとバックステップ急所外し(^ω^)
「オホーツクの本気、見せてやんよ!」
ガチな馬頭鬼に燃え上がる月居 愁也(
ja6837)。そのまま彼はアスハ・ロットハール(
ja8432)へとアイコンタクトを送った――頷くアスハ。ニヤリと笑う二人の視線の先にはバーベキューの支度をしている遥久が。
「何となく、覚悟しろ!」
「ウォリャー!」
飛び掛かる。狙いは一つ、彼を海に放り込む事――
ばきゅーん☆
「たわばがに!」
要は神楽の回避射撃が愁也にヘッドショット。どうでもいいけど今『かぐら』で変換したら『加倉』になったぞ。
「鰹節の皆さん。里帰りの時間です」
私は行きません♪ にこにこ神楽。
その間に千鶴が影縛(物理)でまとめてゲット。
「え、寒中水泳のお手伝いやよ? 躊躇して海に入れないとか無いように後押しですよ?」
「飛び込み? 手伝う? マーキングする? 鋭敏聴覚も使って異変は聞き逃さないようにするから安心して!」
ひむろもひょっこり顔を出す。
「知ってた! 逃げられないって知ってた!」
遥久が狙われてる間に調理班へ行けると思っていた時代がオミー@縛られ状態にもありました。笑うしかないね。
「言わん! それは、手伝いと言わn」
「覚悟はいいな?」
遥久の声は大きくも無いのにヤケに良く響きましたと後に愁也とアスハは語る。
そんなこんなでぶつりてきなこめっとがずぎゃーんでどぼーんです。
「コメット(物理)ェ……くっそお前も泳げ「あ、手が滑った」ばぶら!」
「やーい負けてやんのわぁぁあオノユウマッ」
文句を言った瞬間に神楽の回避射撃ヘッドショットをカチ込まれた愁也、指さし爆笑していたおのゆうまも無事に巻き込まれました。
「フーハハハ、そう簡単に海へ還ると思 寒いじゃないですかーやだー!」
「あれが……『久遠ヶ原の鰹』と呼ばれた男、か……」
「加倉さん……星になったんだね」
「魚類じゃないからね! 人間だもの!」
海の中で震えるオミー。頷くアスハ。「え、違う?」とヒトデ片手の愁也。
「恋人のためにホタテを自ら探しに行くか。愛だな」
遥久がオミーに言う。一方の恋人といえば、
「準備運動無しとか心臓止まるやろ!? ……えぇい、この冷たさ、お裾分けやー!」
上着をキャストオフして水面を撫でる様にブン回していた。
「飛び散れ海水! 流星の如く! この冷たさを思い知るがいい!」
海水スプラッシュ。うわぁ、と盾でガードしつつ眉根を寄せる遥久――そこへ密かに忍び寄る愁也。
「トキメキトイレットパワー全開!」
「!?」
羽交い締め、そして跳躍。海へ。落下地点には友真が……その眼前に遥久が構えて居た盾が……
ゴッ。
ばしゃーん。
「すみまがぼごぼ」
友真は沈没していきました。そんなこんなで愁也アンド遥久ウィズ冷たい海水。
「海水まみれやーいやーい」
「……」
「あっ痛い盾で人を殴っちゃいけまs すいませんでしたー!」
「まぁそんなこんなで海で遊ぼうぜ諸君^^」
更にそんな全員しっちゃかめっちゃかすぎて正直どう収拾付けて良いのか分かんなくなってきたので膝だけで全力跳躍してきた棄棄にまぁそんなこんなでフライングボディアタックくらってみんななかよく海へドボーンヌ。
「先生……全員まとめてですか……」
「平等って……素敵やん? そして俺は棄棄やん?」
棄棄のドヤ顔に遥久はイエスかハイしか言えない状況に陥ったとさ。
まぁクールな子は華麗に回避したと思うしアレな子は某わんわん神家の一族的な感じで脚が海から突き出てたんじゃねぇの?
「先……生……!」
愁也は海面に顔面を打ちつけ絶望ポーズ。漂う赤い海草の様に水面にうつ伏せで流されるアスハ、オミーは砂浜に打ち上げられ砂の上に『ピンクハインラン』とダイイングメッセージ。ファティナがそんなオミーを木の棒で突っついている。
「あ、何か文字見っけ。消しときますね」
だがおのゆうまに消された。
そんな彼等は千鶴が網で引き上げてくれました。よかったね、ちづちゃん優しいね。そんな彼女の背後に忍び寄る影――ファティナである。
「隙ありですよ!」
呼び出すのは異界の呼び手。だが回避。流石の回避。その代わり傍にいた神楽が何故か束縛されてしまい。
「……さて、分かってますね?」
「はい。回れ右で緊急離脱しないと不味い事が」
無駄と分かっていても逃げずにはいられない。走り出した瞬間。どん、と衝撃が伝わったのはクリスティーナとぶつかったから。
「む。すまん」
「いえ、こちらこそ」
転倒したファティナが起き上がるのを手を差し出して手伝うクリスティーナ。に、彼女は声をかけてみる。
「私達、今からバーベキューをするのですが……良かったら一緒にどうですか?」
「ばーべきゅー……ふむ、興味深いな。参加させて貰おう」
ところで思うんだけどクリスの『随分とこちらでの生活に慣れてきたと思う』ってあれ嘘やんね。
「海に投げ込まれるの楽しそうだにゃー! いいなー!」
一部始終を見ていたミントは目をキラキラ。誰か投げ込んでくれないかときょろきょろ。そしたら棄棄と目が合った。ハッとして尻尾ぱたんぱたん。
「おーしゃおしゃおしゃ ねこねここっちゃこい」
チチチと呼ばれたので教師へ駆け寄った。瞬間。ぶぉん、と投げられ――すっごい投げられ――海が眼下。
「にゃーーーーっ♪」
まるで鳥になったような。つかの間の空中、それからミントは勢い良く海の中へ。
さぁ食料調達タイムだ。
「冬に冷たい海に入り身を清める……これが日本伝統の寒中水泳か」
神妙に頷いたマキナは手掴みで魚取りに挑戦。でも魚って水中じゃすばしこいのね。カッとなったので薙ぎ払っておきました。
「あ、この魚籠に入れていいですよっ!」
ミントがニッコリ魚籠を差し出す。そんな彼女は大きな魚や赤い魚を沢山ゲットしていた。
「ヒェッホォオオオオォォーウッ!」
海面に急浮上して飛び上がる馬頭鬼。仲間の腹を満たす為、生態系も壊さない為、大きく育った魚だけを狙うという仲間にも自然にも優しいお馬さん。見た目や挙動はまぁ……こまけぇこたぁきにするな。
「めずにぃ大漁だな!」
笑いかけたオミーは棄棄と浜辺でお菓子食べてました。棄棄の椅子と成りながら……
そんな様子を友真が激写。おのゆうまふらっしゅ。
「冬の海も楽しいな!」
「こんな2月の海も良いかもねェ」
「そうだなオミー、友真! 楽しいな! 超楽しいな!」
よし、センセと浜辺で追いかけっこしようぜ。
「随分と……酔狂な……ことを……なさるん……ですね……」
紅眼の状態、アトリアーナとファティナの傍で海を眺めていたアイリスが呟いた。
「そうね……でも、楽しそうね」
薄く微笑みを浮かべ、アトリアーナは姉妹達と料理をしてゆく。アトリアーナはファティナの補助、アイリスは主に切り分けを。
「くしゅんっ!」
「ぶぇくしゅッ!」
重なったのはミントと馬頭鬼のくしゃみ。同じくしゃみなのにここまで違うとは。
「お魚獲ってきましたーっ!」
「さすがにこの時期の海は冷えるなぁ」
大漁の加護を抱えて海から戻ってきたミントの一方で、震える馬頭鬼の下半身はいつもの馬脚に。更にもさもさ冬毛でふるもっふ。2月である。
「もさもさふかふか……冬馬頭鬼!」
「冬馬頭鬼……新しいですね、金鞍殿」
応えた遥久は既に着替えを済ませて料理の手伝いを行っていた。そんな彼をミントはじーっと見詰めている。味見させて下さいと言わんばかりの輝いた眼で。
「任せろーばりばりーわーいこれ面白い〜」
「おおっ……すごい」
こっちでも料理中。持参の野菜皮むきグローブで 牛蒡をゴシゴシしているひむろに通は感動している。
「あ、千鶴さん。豚汁の味見お願いします。熱いので気をつけてくださいね?」
「ん……、えぇんちゃう? 生姜多めやと温まるかもね」
「了解です」
豚汁製作中の神楽と千鶴はほこほこ湯気をたてる鍋の前で、二つ以上の意味であったかい。
さて、そろそろ準備も完了だ。
海から戻って来た面々を迎えるのはバーベキュー。豚汁もある。
宴の始まりである。
「美味しいですね。ありがとうございます」
「はふ、美味しいのです〜」
「ルナ、火傷しちゃ駄目よ?」
調理担当の者に感謝する遥久、アイリスとアトリアーナは並んで仲良く食べている。
「カツオと馬肉が食える、と聞いたのだが?」
「「ハツミミダナ」」
アスハの言葉にオミーと馬頭鬼が真顔即答。
「偶々沢山蒸しすぎたから……」
「蒸気の力って……おおおっ、万能なんだな!」
ギアはのとうに自分で作った魚や貝の蒸し料理を持って行き、感激しているのとうの様子にそっぽを向いた。只の照れ隠し。
ウマウマーと食べるのとう。だがその目がギラリ。刹那、鮮やかな串捌きで友真の好物であるホタテをゲットした。
「ホタテがーー!」
「大丈夫、別腹だからまだ入るよ。うん」
「はー……恐るべし冬の海」
絶望ポーズ友真。元気出せよと棄棄がのとうをナデナデしながら友真にサムズアップ。
でもまぁまだまだ食材はあるし、どれもこれも美味しい。
「全部美味しいなー」
毛布にくるまり、友真はすっかりご機嫌だった。
「美味しいね」
「これがばーべきゅーか……」
不破の隣でクリスティーナは感慨深げにもぐもぐしている。人の世とは不思議で一杯だ。
「あーん!」
「あーん♪」
口を開けたミントに、通は冷ましたお魚を食べさせてやる。
「とっても美味しいにゃ〜♪」
「えぇ、努力の結晶……とっても美味しいです」
「幸せだにゃー!」
「ね! 嬉しい……また楽しい思い出が増えました」
温かい空間。和気藹々。
だったのだが。
「……え、焼き土下座?」
いつからどうしてそうなった、と目を剥くオミー。
「「焼き土下座」」
千鶴と神楽がニッコリ。
「焼くの? 団扇でパタパタする?」
ひむろも見守る。
「成程……な」
「何が『成程』なんだーッ」
神妙に頷いたアスハに突っ込んだのは馬頭鬼だ。
「焼き土下座、とは?」
「説明しましょうクリスティーナさん! 焼き土下座とは日本に伝わる修行の一つらしいですよ」
ファティナは笑顔でクリスティーナに説明する。
まとめ:何でか知らんけど焼き土下座する話になってた
「それはそうと愁也とおのゆうま脱げよ」
困った時の棄棄先生。
「「何でですかー!」」
「オミーは着ろ……よな///」
「意味深な言い方しないでよねセンセ!?」
「まぁ俺はちょっと妹とイチャコラしてくるわ」
「フリーダムすぎるよセンセェ……!」
まぁそんなこんなでそんなこんな。
バーベキューはとっても楽しい。
●さよならオーシャン
太陽が水平線に沈まんとしている。茜色の光が、ビーチを幻想的に照らしていた。
バーベキューを堪能した寧はパラソルの下で微睡み中、他の者も銘々に時を過ごしていた。
「……できた!」
「先生これどう? 頑張っちゃったわ〜♪」
月花とヨナは遂に巨大安土城を完成させた。ナイフで彫刻の様に削り、貝を瓦に、枝で枯山水を。渾身の出来。
「おぉぉ〜〜、スッゲーなお前等!」
「でっしょ〜」
教師に得意げに笑いながら、ヨナは持参したデジカメで記念撮影。
一方で遥夏とましゅろの和洋折衷キャッスルも完成していたのだが。
「完成したら完成したで、こう、なんとも言えへん寂しさがやね……」
「おしろは波に流されても、たのしいきもちはこわれないんだよ。だから、たのしかったね。またしようね」
ましゅろは微笑み、友達の手を握った。
楽しい海の時間は今暫し。
遠くからバーベキューをやっている者が彼らを呼んだ。
最後まで全力で、遊びつくそう。この時間を。誰も彼も、笑顔だから。
●オマケ
そして太陽が沈んで。
「さて撤収撤収っと……」
海に来たら後片付けが大切。来た時より奇麗に、ととしおは片付け作業を行っていた。
(まさかここに来て、後でやる予定だった花火が何かがどうかして暴発なんてねぇ……)
チラッと見た。それが。何故か。導火線に。火が。
え。
――ひゅるるるるる、 どぉん。
「あ、見て見て花火!」
そう言ったのは誰の言葉か。
夜空に咲く花。そんなこんなで、楽しい時間はめでたしめでたし。
『了』