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マスター:ガンマ
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2016/08/15


みんなの思い出



オープニング

●いつもの

「今年もまんまとひっかかりおって!!!」

 生徒が教室に入るなり、教室後ろの掃除用具ロッカーから全力跳躍で飛び出してきたのは教師棄棄だった。
「七月にプールとかいうマトモなことをしたから今年こそ本当にエロ依頼かなーとか思っただろ! フハハハハハ! そんなことはない! 残念だったな!! 七月のプールは盛大な伏線だったのだ!!!」
 謎の高笑い。
「それはそうとエロ依頼(笑)だよ諸君。すけべのSの字もないけどな! 毎年恒例だからさ! HAHAHA!
 で、肝心の依頼内容ね。ええっと、セミファイナルって知ってる?」

 セミファイナルとは――
 夏になると道端で死んでいるように見えるセミが、近付く・触れるなどすると突然暴れだすこと。

「てなわけなんだけどさ……学園にセミファイナルが大量発生したんだよね」
 言いながら棄棄が学園のマップを広げ、とある中庭を赤いペンで丸ッと囲った。
「理由は不明だがここにセミファイナルがわんさか! 虫が苦手な生徒がグロッキー! てなわけで出動だ生徒諸君! セミファイナルを片付け、グロッキーな生徒を救うのだ!!」

 ところで先生。
 普通にセミを片付けるだけの任務ならエロ依頼なんて詐欺をしなくってもよかったんじゃなかろうか。

「そのことについてだが――」
 真剣な顔で棄棄が頷いた。

「だってあつかったんだもん」

 そんなこんなで2016年もいつもの夏のアレが始まる。


リプレイ本文

●納涼(笑)

「こういう風物詩はいらないんだけど」

 ガタガタと掃除用具ロッカーから飛び出してきた教師棄棄――それに全く動じることなく、シュルヴィア・エルヴァスティ(jb1002)は机に頬杖を突いたまま呆れた目をした。
 シュルヴィアにとって『これで三回目』。随分と慣れるものだ、妙な感心すら芽生えた心で色々と冷静に聞き流す。窓の外を見た。猛暑。暑いなぁ。そんなブリーフィングだった。

 かくして炎天下である。気温は最早、人間で言うならインフルエンザだ。

「ふっ……」
 輝く太陽。額に手をあてがった若杉 英斗(ja4230)の眼鏡も光る。
「今年もまたひっかかってしまったか」
「保健の授業かと思ったら清掃依頼だった……」
 星杜 焔(ja5378)が笑顔のまま呟く。「だがちょっと待ってほしい」と英斗が傍らのディバインナイトに勢い良く振り返る。
「落胆するのはまだ早いんじゃあないか? この真夏の猛暑のただ中! 当然、女子は薄着なわけですよ! そんな女子が、セミファイナルの犠牲者として中庭で気絶しているんです! 汗だく薄着美少女が、気を失って倒れている!」
 先生、美少女が倒れてるとは一言も言ってなかったんだけどなぁ。By棄棄。
 とかく、英斗の走り出したパッションは止まらない。

「これはっ! すぐにでも助けに行かないとっ!!」

 ばびゅーん。
「もう大分こっちの気候に慣れたけど、やっぱり暑いね〜」
 風の如く駆けて行った英斗の背中を見送って。学園に来る前は北海道在住だった焔は麦藁帽子に首タオルを装備しつつ、のんびり歩き出すのだった。
「棄棄先生もいい感じに脳みそが湯だっているようだし、みんなも熱中症には注意しないとだね」
 狩野 峰雪(ja0345)も同じくと帽子や首タオルや保冷剤、スポーツドリンクに塩飴と万全の対策。よっこいせと台車で運ぶのは大きなクーラーボックス、倒れている生徒の分のそういった対暑アイテム入りだ。

 というわけで中庭到着。

「今回は天魔ではなくて普通の蝉なんですね」
 美森 仁也(jb2552)は中庭中にちらばったセミを見渡す。ふむ、と峰雪がそれに答えた。
「セミって言っても天魔じゃないなら、普段戦闘してる子たちなら恐るるに足らずって感じはするけど……」
「まぁ蝉なんて真近で見たら結構グロテスクですし、都会出身の生徒や虫が苦手な人でしたら卒倒するかも」
「好き嫌いは人それぞれだからねぇ。あなたは大丈夫?」
「え、俺? 少し前住んでいた所が田舎ですからねぇ、セミファイナルなんて見飽きてますよ。それより犠牲者救助の方が大変そうですね」
「それもそうだね。しかし……これだけたくさんセミがいるってことは、緑が豊かってことなのかな」
 峰雪はそう締め括る。「任務が終わるまでこの辺りは立ち入り禁止要請を出しておいたよ」とそのまま仲間に告げる。これで、これ以上犠牲者が増えることはないだろう。
「『一寸の虫にも五分の魂』という諺もあるしのう……。できる限りの事はしてやりたいものよ」
 仲間達の言葉に続いたのは小田切 翠蓮(jb2728)。白い割烹着に三角巾と、『古き良き日本のお母さん』ルックである。そして作業カートに掃除用具等を積んで移動している。オカンみもあるし掃除のおばちゃんみもある。すごいハイブリッドだ。
 さて純白の衣を纏いし翠蓮はしみじみと周囲に転がりまくっているセミを見やった。
「永きを生きる天魔から見れば、人間も虫も瞬く間の命……。まるで生き急いでいるかの様な彼等の『生』は、我等にはあまりにも眩しく映るものよ」
 儚き命のあはれなり。など。あまりの蒸し暑さにポエム脳。

 そんなこんなでセミの片付けを始めよう。

「何時ぞやの毛虫を思い出すわね……」
 独り言ち、暑さ対策は完璧なシュルヴィアは地雷のように点在するセミを踏み越え一先ず倒れている生徒のもとへ向かう。
「まだ生きてるの混じってるんだよね〜。セミって唐揚げとか燻製にすると美味しいんだよね〜、先生も蝉って食べますか〜?」
 わ〜セミがたくさんだ〜、と同じく救護のために動き出していた焔がそんなことを。
「そういえば毛虫が大発生したとかいう依頼で……なぜか集めた毛虫を食べ始めてたなぁ生徒達が……」
 焔の言葉に遠い目をする棄棄。シュルヴィアも無言で遠い目をしていた。
「ほら、大丈夫? 肩貸すから、とりあえずそこの日陰に行くわよ。飲み物も用意してるから」
 深く思い出すことは止めにして、シュルヴィアは倒れていた生徒を安全な場所――日陰へと牽引していく。弱々しい声での返事に、彼女は肩を竦めた。
「やれやれまったく。何でうちの生徒達はこういう所でガラスハートなのかしら」

 同様に、翠蓮や仁也や、他の撃退士達も倒れた生徒を日陰へと運んだ。
「よしよし、冷たい水じゃ。慌てずゆっくり飲むが良い。それと、儂が天塩に掛けて作った梅干しも食え。美味いぞう」
 倒れた者達を放置しておくと危険だ――日陰に運ばれた者達のケアも忘れない。翠蓮は仲間が持ってきたクーラーボックスで冷やさせてもらったミネラルウォーターを彼らに飲ませる。だけでなく、壺に入れた自家製梅干しを彼らに与える。塩分摂取は大事だ。
 その近くでは峰雪と焔が、クーラーボックスから取り出した保冷剤や氷で生徒達の体――セオリーに従って首や脇を冷やしつつ、水分を与えている。もちろん、塩飴などで塩分も。
 炎天下よりかは幾ばくかマシな日陰、そこで体を冷やされ水分と塩分を与えられれば、やはり流石の撃退士。みるみるうちに回復してゆく。保健室など医療関係に世話になるほどではないだろう。
「大丈夫そうかな〜?」
「思ったより重症でなくて一安心だよ」
 よかったよかった、と頷きあう峰雪と焔なのであった。
 彼らの言う通り、意識が戻らないほど重症な者はいないようだ。手間がかからなくてとかったと仁也は冷えたスポーツドリンクを彼らに渡しつつ。
「もう少し安静にして、動けるようになったクーラーの効いた教室に戻るといいですよ」
「楽しいカキ氷器もあるので〜」
 焔も続ける。棄棄が遊ぶ時に用意するあのアウル式カキ氷器だ。
 などと呼びかけ、ふう。一息。仁也は凍らせておいたハンドタオルで自らを冷やしつつ、クーラーボックスに入れていた紅茶を飲む。スポーツドリンクの甘みは好みじゃない。スッキリとした茶葉の風味と氷のような冷たさは、一瞬だけでも真夏の暑さを忘れさせてくれた。
 しかしこれのどこがエロ依頼なんだ――など、信じているわけないだろう。というのも仁也、二年前のエロ依頼参加者から話は聞いていたのだ。
「本当に色気ある依頼だったら絶対受けませんよ、妻に誤解される方が俺は嫌です」

「……暑い」
 じーわじーわじーわ。みーんみんみんみん。麦藁帽子を被っているものの焼け石に水。英斗の顔を汗が伝う。スポーツドリンクを小まめに飲んでいる、ものの。
「なるほど、これはたしかにエロい依頼を出したくなる気持ちもわかる……それぐらいの暑さだ……」
 だが、暑さに負けるわけにはいかないのだ。
 薄着美少女を救出するという使命が、英斗にはあるのだ!

 でも。
 セミしかみえない。

「……邪魔だから排除する!
 燃えろ、俺のアウル! 天翔撃<セイクリッドインパクト>!!」

 極限上昇したアウルが白銀に煌く。『飛龍』と名付けられた刃円盾が圧倒的な破壊力でセミに襲い掛かる。
 セミ、粉砕。
 そうして築き上げた屍を踏み越えて。
「大丈夫ですか?」
 倒れていた者を日陰まで運び、氷嚢で冷やし水分補給をさせつつ。薄着女子薄着女子と思っていたのに、相手は悲しいことにバリバリの男子生徒。とはいえ英斗自身もエロ目的も忘れる程の暑さだった。幸か不幸か。もしこの男子生徒が可憐な美少女ならトキメキで動揺していたかもしれないので、やっぱり不幸なのかもしれない。



●セミファーーーー

 救助完了、セミ退治へ移行。

 軍手にちりとり、しっかり給水もしつつ。
(そう私は執行猶予の女……)
 など考えながら、シュルヴィアは冷却シートを額にペタリ。
(そういやこないだリアルでセミファイナル貰って素で驚いたなぁ)
 陽炎揺らめく道にしゃがみこんで、事務的に処理しつつ。まぁ、たまには清掃員の仕事を横取りするのもいいだろう。セミを片付けつつ道の清掃も出来る、一石二鳥だ。
 尚その間ものすごくセミファイナルっているのだが、虫嫌いでもないシュルヴィアは動じずにせっせと軍手で掴んでは塵取りに放ってゆく。
 そりゃ、鉄の心氷の心ではないのでセミファイナルが起きればビックリはするが。それは内面的なものに過ぎず、外見上は本当に『黙々』なのである。
「一々反応したり供養してたら日が暮れちゃうのよ、悪いけど」
 ばささー。仁也が用意していたビニール袋(青色にして外から見えない配慮つきだ!)へセミをシュートするシュルヴィアなのであった。
 同様に仁也も、セミファイナルには眉一つ動かさず。箒と塵取りでザッザッとセミを片付けていく。沈黙の人間、喚き散らすセミ。コントラストのもののあはれ。おっと、仁也は悪魔だった。

「短命で日々を精一杯生きているセミさんには申し訳ないけれど、人間様の心の平安のために、死んでください」
 ニコッ。峰雪はエクレールCC9を構える。笑顔なのに物騒。真夏の日差しを照り返す銀の銃、そこから轟雷の銃声を響かせ放つはバレットストーム。
「苦しませないように逝かせてあげようね」
 弾丸が尽きれば氷の夜想曲もあるのだ。策敵で不意のセミファイナルに警戒しつつ、峰雪は次々セミを粉砕してゆく。見敵必殺。プロのセミ片付けマン。セミ絶対殺すおじさん。
「死んでるのか生きてるのか不明なら、とりあえずやっとこうか」
「足を開いてるのがまだ生きてるやつで、足が閉じちゃってるのがもう死んじゃってるやつだね〜。突然鳴きだすのかわいいね〜大合唱楽しそうだね〜」
 銃声響く夏の中庭。焔はちりとりで平和(?)にセミ(とその残骸)を掃除している。
「地面でひっくりかえってる蝉はお腹すいてるから、うっかり人を木と間違えて樹液吸おうと口を指してくる事もあるのだよね〜」
「なるほど……策敵は切らさない方がいいね。気をつけよう」
「よろしく〜」
 ちなみに焔の物理防御の前では、セミの口吻など藁も同然なのであった。ディバインナイトっょぃ。

 こんな感じでセミ退治に移行したわけなので、辺りはセミファイナルの嵐。じじじじじみみみみみッと物凄くやかましい。どこもかしこもやかましい。

 幸いなことにセミファイナルでビックリ仰天してしまうような生徒は、片付け人達の中にはいなかった。英斗の聖なる刻印は使わずとも大丈夫そうだ。よかったよかった――なんて思えるほどの心の余裕が、今の英斗にはなかった。
 うるさいし、めちゃくちゃ暑いし、エロ依頼じゃないし。
 ふつふつと湧き上がる感情のまま、足元で発生したセミファイナルに対して英斗は対抗するかのように泣き喚く。

「うわぁああーーっ! 今年もだまされたぁーー!! 今年もぉおーーーっ!!!」

 はたして英斗がエロ依頼に参加できる日は来るのか。来年こそ、来年こそは、毎年そんな感じのなんやかんやじゃないか。ド畜生。八つ当たりめいて英斗はシールドバッシュをガインガイン叩きつけ続けてセミを黙らせているのであった。
「くっ……キリがないぜ……ちょっと……休憩しよう……」
 そしてオニキスセンスもぶっぱしたシールドバッシュも使いきり、英斗はヨロヨロと日陰に休憩へ向かう。暑い。あんまりにも暑い。ハッスルし過ぎたのでやばいぐらい暑い。顎からポタポタ汗が滴り続けるレベル。

 こんな時は。

「時代よ、俺に微笑みかけろっ!」
 理想郷<アルカディア>。六人の美少女騎士の幻影が英斗の周囲に現れる。
「あぁ〜、美少女達に囲まれてる〜」
 美少女騎士はそれぞれタイプは異なるが、全員英斗好みの女の子なのである。幸せなのである。なお発動した意味などないのである。全部暑さの所為である。

 わりと皆、容赦なくセミを片してゆく。
 翠蓮も同じく、セミファイナルに動じることはなく、箒とちりとりで冷静に処理を行っていた。
「……命の最期の一滴まで燃やし尽くすが如く、か。――フッ、相分かった。好きなだけ鳴くが良いぞ……!」
 フフフ……フフフ……と、ジャパニーズオカンスタイルでしゃがみこんでポエミックにセミへ話しかけているいるおじさまは控えめに言ってちょっと不気味だった。全部暑さの所為である。
 が、翠蓮は他の者のようにセミを一緒くたに処理はせず。生きているセミはそっと木の根元に寄せてあげるのだった。だがその後ろで峰雪がズンドコ範囲攻撃をしているし、他の者も容赦なくセミをゴミ袋へバサーしている。
「すまんな……この手は無力……全ての命を救うことなどできぬ……だがたとえ偽善だとしても我は――」
 もう自分のこと「我」とか言っちゃうスタイル。全部暑さの所為である。


●お疲れ様でした
 小一時間もしないうちに、セミの片付けは終了した。倒れていた者も大方元気を取り戻し、もう大丈夫だろう。
「ところで……集めたセミは、どうしようかしらね……」
 ごみと一緒に、焼却場行きかしら。ふとシュルヴィアがそんなことを呟いた。視線の先にはいくつものゴミ袋にパンパンに詰まったセミがいる。
「腐ってなかったら唐揚げする〜?」
「いやいや……第一セミファイナル起こす蝉なんて、所詮瀕死状態なんですから片付ける方が良いでしょう」
 食べるのは流石に、と仁也が焔にそう答える。
「穴を掘って埋めて、慰霊碑でも建てておこうか? 夜な夜なセミファイナルのお化けが出たりするホラーな展開になっても困るしね」
 日陰で水分をとりつつ休憩している峰雪がそう提案した。
「うむ、儂も土に還すことに賛成じゃな。生きているものはできる限り野に帰してやりたいがのう」
「それじゃあ決まりかな。ちょっとスコップ借りてきます」
 翠蓮と英斗がそう言って。

 ――まもなく。
 中庭の片隅に、小さなセミの塚が出来上がった。

「南無妙法蓮華経、南無阿弥陀仏、アーメン……。地球の神の事はよう分からぬが、成仏しておくれ……」
「安らかに眠ってくださいな」
 翠蓮が十字を切り、峰雪が合掌する。
「こちらの都合で、ごめんなさいね」
 ではとシュルヴィアも日本式で手を合わせる。ま、この考えも人間の勝手なのかしら――周囲では鳴り止まぬセミの声。この声は、まだ数週間ほど続くのだろう。

 明日も例年通りな猛暑であるそうだ。



『了』


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: ブレイブハート・若杉 英斗(ja4230)
重体: −
面白かった!:12人

Mr.Goombah・
狩野 峰雪(ja0345)

大学部7年5組 男 インフィルトレイター
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
さよなら、またいつか・
シュルヴィア・エルヴァスティ(jb1002)

卒業 女 ナイトウォーカー
最愛とともに・
美森 仁也(jb2552)

卒業 男 ルインズブレイド
来し方抱き、行く末見つめ・
小田切 翠蓮(jb2728)

大学部6年4組 男 陰陽師