●七月と言えば!
プールだ。
「ビニールじゃない……!?」
月居 愁也(
ja6837)は衝撃の表情で周囲を見渡していた。屋内プールだ。ビニールじゃない。
「何を狙ってるの……? 裏無しにこんなまともに普通な事する訳が……」
シュルヴィア・エルヴァスティ(
jb1002)も顔を顰めブツブツと考え込んでいる。
「七月にプールなんて、どうしたのかしら棄棄先生……」
熱とか無いわよね? 蓮城 真緋呂(
jb6120)は心配そうに棄棄の顔を覗き込んでいた。「冷やした方がいいかしら……」と氷結晶を押し当てている始末だ。
皆が疑心暗鬼だった。
普段の棄棄の行動に侵され慣れ過ぎてしまったのだ。洗脳済みとも言う。
「戸惑いが一瞬で済まない生徒がいるのですが、如何しましょう先生」
真顔で樒 和紗(
jb6970)が棄棄に問う。彼は「冷たい! しぬ!」と真緋呂に氷結晶を次から次へと押し当てられてそれどころじゃなかった。
「二月は海、七月はプール。ええ、覚えました」
イリス・リヴィエール(
jb8857)は大真面目に頷いた。
「なんだか……先生様主動ですと、妙な新鮮感を覚えます」
そんな棄棄を眺めつつ翡翠 雪(
ja6883)は神妙な様子。
「まぁともかく。この水着の供養の為にも、今日は精一杯泳ぐとしましょう」
パーカーを脱いで学園指定水着姿になりつつ、雪はクリスティーナへと見やる。
「天使様、私も少しご一緒します。ともに泳ぎましょう」
「心得た。泳ぎ明かそうではないか」
イエス。そんなこんなでプールである!
ゆらゆら、深森 木葉(
jb1711)はクラゲのように水面を漂っていた。
その水着……というか服装は、水色帯の白襦袢。水垢離(みづごり)――神仏に祈願するため冷水を浴びて体の穢れを清めることだ――にも使える代物だ。
「ひんやりですぅ……」
ぷかぷか。心地いい浮遊感に木葉はほぅと息を吐く。白い襦袢、水面に広がる長い黒髪……これはまるでオバケめいているというか。
「夜中に出くわすとホラーですぅ……」
なんて、クスリと笑った――瞬間、体に力がちょっと入った所為だろうか。沈没。顔面が水に。水を思い切り吸引。
「がぼぁ!」
明らかにヤバイ声を出しつつばじゃばじゃもがく木葉。
「ちょっと……あなた大丈夫!?」
そこに通りかかったのは華宵(
jc2265)だ。プールサイドから「掴まって!」と手を伸ばす。木葉が遮二無二それを掴んで……
だぼーん。
ミイラ盗りがミイラ。プールに落ちる華宵。
説明しよう。彼は住んでいた場所が山奥であったため、泳げないのだ!
「「だずげでーーーー!!!」」
この後めちゃくちゃ棄棄に救助された。
初っ端から死者がでかけたりしたが、これもまぁ久遠ヶ原の風物詩(?)
もちろん普通に遊んでいる者もいる。
(俺はユリアが傍にいれば満足だが、それだけでは勿体無いか)
一緒の時間を楽しもう。水着だって彼女に選んで貰ったのだから。膝丈の、黒地に白百合柄のハーフパンツ型水着を身に着けた飛鷹 蓮(
jb3429)は、恋人であるユリア・スズノミヤ(
ja9826)へと振り返った。
「……水着、ちょっと大胆だったかにゃ?」
はにかむユリアの水着は、セパレートパレオ付きのビキニだ。赤地に黒と白の薔薇が描かれており、ほっそりとした足首には百合のチャームのアンクレットが。
「……ユリア、肌が白いから水着がよく映えるな。いや、水着ではなくて君が、か。緩く編んだ三つ編みとか……可愛くて困る」
幸せそうに目を細める蓮。ユリアはポッと頬を染めつつ笑って照れを隠してみせた。
「でも、なんちゃってリゾートを味わう感じで楽しめばいいんだもんね? プールだけど」
ユリア、行きまーーーす☆ なんて。明るく笑ってユリアはプールへと。
「ほらほら、蓮も☆」
勿論、恋人も一緒に。腕を引いて手を繋いで。「分かった分かった」と蓮も口角を綻ばせつつ手を引かれる。ユリアとは対称の位置に付けた蓮のチャームのアンクレットがキラリと揺れた。
「蓮、スライダーやろう! めっちゃ早いほう!」
一緒に滑ろ、と急角度の方のスライダーを指差すユリア。
(……この顔、何か企んでいるな?)
分かりやすい。思いながらも蓮は「いいぞ」と頷いた。
そして階段を上り、スライダーの入り口。「私は後ろからしがみつくから」とユリアがピトッと蓮の背中に抱きついた。
(えへへ、着水でマウントポジションもらっちゃおうかにゃ♪)
と、思った瞬間――蓮がユリアの腕を掴んでスライダーへ飛び出した。
激しい水流に流されて、どっちがマウントを取れたかは……神のみぞ知る。ともあれ。好きな人と一緒に笑い合えるって、素敵だ。
一方で黒百合(
ja0422)は気ままにプールを楽しんでいた。シュルヴィアもゆったりとしたスピードで泳いでいる。
「スライダーは滑るものなんて誰が決めたの?」
そんな中、真緋呂は悠然とスライダーの前に仁王立っていた。滑る入り口の所ではない、出口の部分だ。
「久遠ヶ原なら登るでしょ!」
言うなり。
スライダーの流れに逆らい、ざぶざぶと登り始める真緋呂。良い子は真似しないでね!
「体力を使うとッ……食欲も増すッ! うおおおおおああああアアアアアアッッ」
ざばばばばばばばば。圧倒的な激流が真緋呂を襲う。負けじと(?)女子力が消滅した雄叫びを上げる真緋呂。
「……」
そんな真緋呂を、和紗は遠巻きから生ぬるい目で見ていた。そしてこう思った。「そっとしておこう」。
というわけで和紗は競技用プールへ。パーカーを脱げば露になる白いビキニ。アクセントの紫色のラインがストイックで爽やかな印象を与える。
実は和紗、久遠ヶ原に来るまでは泳げなかったのであるが。友人から指導を受け、今ではバッチリ泳げるのだ。
シッカリ体操をしてから、プールへ。見やればカーティスと雪が延々と競泳している。彼女達と競泳はしていないが、神谷春樹(
jb7335)もトレーニングも兼ねてと真剣に泳いでいた。
「一心不乱さならカーティスにも負けません」
張り合うように。和紗も勢い良く泳ぎだすのであった。
「さて、お昼寝お昼寝」
佐藤 としお(
ja2489)は持参したサマーベッドにゴロンと横になった。金色昇龍褌型水着という、なんとも男前な水着姿である。フンドシではない。
一方で春樹は競技用プールから上がっていた。薄い青地に白チェック、爽やかなトランクス型水着だ。水を滴らせつつ、ひと段落つこう、アミューズメントプールへ向かう。流れるプールに身を任せ、のんびりと。
最中、ちょうど春樹の視界に入ったのはスライダーだった。
(……折角だし、な)
そう、折角だから急傾斜の方。折角だから数回ほど。行ってみようじゃないか。今日は『遊ぶべき』時なのだから、そうしない方がよろしくないというやつだ。
「夏のプールは楽しいですね」
表情を花めかせ、星杜 藤花(
ja0292)は夫である星杜 焔(
ja5378)へ微笑みかけた。皆と来れること、それだけで心が浮き立つ。
「うん、そうだね〜」
ニコヤカに焔が答える。彼と手を繋いでいるのは養子の望だ。子供用のプールで、ぱちゃぱちゃと一緒に泳ぐ練習をしている。
そんな星杜一家であるが、「家族でまた来たいから」「家計に優しいから」とベスト水着グランプリ用に水着にも力を注いでいた。
まずは藤花。青と緑が基調の、フリルたっぷりフェミニンなセパレートだ。可愛らしさに加えて「子供と遊ぶから」という理由で、動きやすさも重視している。
次に焔。深緑のシンプルなハーフパンツ型水着と青いパーカーでシンプルに。前を開けた上着からは鍛えられた体が覗いている。
勿論、彼らの愛し子、望も水着姿だ。裾にもふらさまのアップリケがついた可愛らしい水着である。
そんな様子を――若杉 英斗(
ja4230)は水着グランプリの特別審査員として、審査員スタッフと混じって眺めていた。
眼鏡を押し上げ真面目な顔で手元の用紙に得点を書き込む英斗。一見すごくインテリだが、その実態は「好みな女子に高得点を与え、男子の得点はテキトー」というアレっぷりであった!
なんのためにプールに来たか?
もちろん女子の水着を見に来ました!
きり。
そんな審査員に、としおがムキムキポーズで光纏しつつ水着をアピール。
子供用プールで足だけを水に浸けていた華宵も視線に気付く。モスグリーンのサーフパンツに赤系アロハシャツ
「特に凝ったものじゃないけど、ワイルド感のある風合いかしら?」
ふふっ。含み笑いつつやたらセクシーにアロハシャツを脱ぐ。するする。700歳くらいだけどおっさん臭くはないわよ。ないわよ。
「野郎に興味はない……」
真顔で静かに言い放つ英斗は彼らに−1000000点とか付けるのであった。これはひどい。
「クリスティーナさんも参加してみませんか? 優勝狙えるかも?」
と、英斗は通りかかったクリスティーナに声をかける。愚問だと言わんばかり、天使はフッと笑った。
「真に気を遣うべきは外見ではない……心だ!」
くわっ。見当違いなことを言いつつ、クリスティーナは雪とスライダーに向かうのであった。
●スイカ割り
「スイカ割りならあたいがさいきょーよ!」
プールゆえと水着姿、雪室 チルル(
ja0220)はクリスタルの剣身を持つ愛用の大型エストックを掲げていた。
「武器が大きければあたるかくりつもたかくなる! すうがくてきでろんりてきな手段よ!!」
などと言いながらいそいそと目隠しをつけるチルル。
そして「多分こっちの方向にありそう」な場所目掛けて刺突! 刺突! ぶっちゃけめっちゃ危ない! ギャラリーが驚いた声を上げて逃げていく!
「ふんぬ!」
そして遂に、チルルの刃が巨大スイカを捕らえた。瞬間、その小さな体からは想像できぬ膂力でスイカを持ち上げたではないか。
「どりゃあああああ!!」
そのまま発動するのは氷連『チリングリンクス』。アウルを込めて、スイカを地面に叩きつける! 力任せの全力全開! ずどーん! 哀れスイカは爆発四散! 無事にスイカジュースへ進化した!
「これがさいきょーのあたいによるさいきょーのスイカ割りよ!」
目隠しをとってドヤフンスするチルルは、スプラッタ映画の殺人鬼なみにドロドロの赤色に染まっていた。
なお、砕け散ったスイカジュースはチルルがキレイに全部食べました。食べ物で遊んだら片付けなければいけないのは、古事記にも書いてある。ちなみにどうやって飛び散りに飛び散りまくったスイカジュースを食べたかって?
「スプーンでたべられないたべものはないの! スプーンはさいきょーの食器なのよ!!」
と、先割れスプーンを手に勢い良く駆け出したのであった。チルルの冒険(プール)はこれからだ! 完!
「こんな時まで試験試験といい加減にしやがれ」
そこへ、悪態を吐きながら現れたのはラファル A ユーティライネン(
jb4620)。彼女は義体特待生、学園最新鋭の義体が使用できる代価として、動作試験レポートを受け続けなければならないのだ。
ぶっちゃけ面倒臭い……が、義体がなければロクに動けないので止むを得ない。というわけでスキルを発動して水中動作のテストをしていたのだが、術効果が切れたのでプールから出てきたところである。
「お? 面白ぇことやってんじゃねーか」
俺も混ぜろや、と首にかけていたタオルを遠くへブン投げ参戦するラファル。なおその姿は一糸纏わぬ的なアレだ。メカボディなのでメカ部分が水着に見えるメタリックスタイリッシュだ。
というわけで。
ルールに則り目隠しをしたラファルは、無駄に身体の偽装を限定的に解除。高機動トップガンフレーム。全身の余分な外装をキャストオフした高機動軽量化形態となり、風のような速度でスイカへと一瞬で間合いを詰めた。
「そこだァッ!」
言下、その手から繰り出すは魔刃「エッジオブウルトロン」。スッと突き込まれた刃よりナノマシンを送り込んで成す、内部からの防御無視破壊。
「ウム……」
神妙な顔で頷いたラファルが静かに刃を引き抜いた。代わりに取り出したるはストロー、切り口に差し込めば……内部を破壊されたことでできたスイカジュースの出来上がり。
優雅にスイカジュースを飲むラファルの背後では、目隠しをしたとしおがマーキングによって他のスイカに確実に弾丸を当ててスイカをカチ割っていた。
「なかなか面白そうな大会じゃないか」
次々とスイカを割っていく生徒達。春樹も息抜きがてらそれに続かんと、疾風の如く一気にスイカへの間合いを詰めた。繰り出すのは天狼牙突による天を衝く狼牙の一撃。精密殺撃。文字通りの一刀両断だ。
「割れれば蹴ってもいいですか先生」
学園指定水着姿のイリスが、スイカ割りの光景から棄棄に視線を移した。「泳ごうと準備体操していたら何やら面白そうなことになっていたので」と顔を出したのだ。
「いいんでね?」
割ったスイカを食べている棄棄が軽く答える。「分かりました」とイリスは言下にヒヒイロカネよりラーゼンレガースを自らの足に装着した。勿論目隠しも。
「では、割る」
助走をつけて、全力で。色々こもっている気がするが気にしてはいけない。
その執念で一撃必中。半壊するスイカ。ではとイリスは黒翼のヒリュウ、エールを召喚し。
「Ailes!」
「きゅ!」
主人に答えたヒリュウが口から稲妻を吐き出した。スイカ全壊。
「あっ。……焦げてないと良いのだけれど」
ハッとしたように目隠しを外すイリス。ちょっと焦げているが食べれないことはない。ちゃんと皆に配って食べました。
ユリアと蓮のカップルもスイカ割りにチャレンジしていた。
目隠しをしたユリアを蓮が声で導いている。かくして振り上げられたユリアの手にあったのは、ピコピコハンマーだ。
ゴルフの如く、すこーん。
「ふぁーーー☆」
打ち上げられるスイカ。それを蓮が銀の双銃アステリズムで狙いを定める。引き金を引く。
「……割るというよりも、スイカの雨降らせてないか?」
空中で割れば、まぁそうなるわな。仲良くスイカまみれになる二人であった。
一方、らぶらぶホンワカな雰囲気とは対照的。
真緋呂は修羅の如き歩みで目隠しをしたまま冷刀マグロを引き摺っていた。散々遊んでお腹が空いたのである。今、真緋呂を突き動かすのは食欲だ――本能のまま、衝動のままにスイカへマグロフルスイング。
和紗も黙々とスイカへ銃弾を打ち込んでいる。泳ぎ疲れて少々手元が狂っているのでぶっちゃけ怖い。あと泳ぎ着かれて若干ボーッとしているので完全に無になっている。こわい。
あとまぁ色々みんながハデにスイカをぶちわったので周囲一体は殺人現場の様相を呈していた……(スイカ果汁)
●水鉄砲
デデンデンデデン。
「俺やーーー!!」
ざばぁ。プールから飛び出してきたのは小野友真(
ja6901)。
「夏は鰹に冬鮪、つまり上りカツオが旬」
そしてそのざばぁの波飛沫を背景に、加倉 一臣(
ja5823)は棄棄へ勢い良く振り返る。
「センセ、俺の旬だよ!」
テテーン。アッピル。
「ふむ、旬の鰹ならやはりタタキですね……」
「タタキ(物理)?」
そんな一臣をじっと見つつ、夜来野 遥久(
ja6843)と棄棄が物騒な言葉を交わしている。
「たたきの場合……紙じゃなくて藁ではないか?」
アスハ・A・R(
ja8432)が首を傾げる。紙。そう、この場に集まった面子は何かしら紙を身に着けていた。
それもその筈。彼らは特殊な水鉄砲バトルを繰り広げようとしていたのだから。
ルールはこちら。
・総当たり戦。
・水着の上に紙製シャツ着用。濡れて脱げたらアウト。一部でも残ればセーフ。
・戦闘および移動スキルと魔具は使用禁止。
というわけで。
「一部でも残ってればセーフなんだろ?」
黒のサーフパンツに紙製シャツ、目の部分だけ穴を開けた紙袋。「紙袋で紙部分を補足とか俺、頭いい」とドヤるのは一臣だ。
しかしこの時は思いもしなかったのです
濡れた紙袋が鼻や口を塞ぐことになるとは――……。
「別に重ね着禁止とは言わなかったろう?」
アスハも毎年恒例ハーフパンツ水着に紙製シャツを着て、更にパーカーを着るという重装備(文字通りの“紙”装甲だが)。夏にプールで遊ぶことに違和感を禁じえないが、遊ぶのならば全力だ。
「俺の専門知識が火を噴くで!! 水やけど!!」
あっ今の面白すぎて単位貰えるレベル。橙色のハーフパンツ水着に黒パーカーを羽織った友真はSUGOIドヤ顔だ。
さてパーカーの上に紙シャツも着て準備万端。と意気込んでいたが。しれっとパーカーの下に紙シャツを着ているアスハが視界に入る。
「えっ……もしかして俺、服着る順番、逆……?」
口を両手で覆い、ニュータイプ絶望ポーズ驚愕型。
「プールだやっt……待って私カナヅチ」
学園指定水着姿の矢野 胡桃(
ja2617)は凍りついた。剣は浮かない。剣の人形も浮かない。
「水に落とされてはいけない」
真顔で呟いた言葉。を、アスハが耳聡く拾い上げる。
「……ほぉ」
凄く楽しそうな笑みである。
そんなこんなで各々水鉄砲を手にする面々。
戦が、始まる。
「へへーん、紙質指定なかったもんね!」
愁也は紙製シャツに耐水紙製バンダナ、ランチャー型水鉄砲を手に胡桃へと狙いを定めた。
「銃といえばインフィ! 厄介なのから潰すが常道! 胡桃ちゃん覚悟!」
が。
愁也を待ち受けていたのは、大〜きく開かれたパサランの口で……。
「パサラン口オープン。しゅやおにーさんこんにちはーさよーならー」
「あっ」
ぱく。
ぺっ。
プールへ愁也をペッするパサラン。ドボンする愁也。フローティングシールドβ1で防御しつつ……折角そんなシミュレーションしてたのに、現実は無情である。そしていかに耐水紙でも沈めば無関係だった。
「知ってた」
両手で顔を覆って絶望ポーズ。そんな愁也に胡桃が容赦なくPDW型水鉄砲でトドメを刺している。
「インフィ狙うと思った。先にとどめだ」
びしゃーーーーーー。
「慣れないのは反動が辛い……」
ガチインフィ胡桃ちゃんのガチ思考。これには愁也も絶望ポーズ。
そんな二人を背後から狙う友真がいた。
(ふふん、この日の為に覚えてきたサーチトラッ……)
罠、無い……?
せやな……?
卓越した専門知識()で真実に至る友真。そのまま卓越したせんもんティシキで胡桃と愁也を狙う! 漁夫の利ヒーロー!
だがしかし。
避弾【La Campanella】。振り向きながら胡桃が銃より放った水が、友真の水の軌跡を書き換える。更に急所外しで完璧に回避。
「アッ……」
思わずダブルピース(?)した友真の眉間に突きつけられる……冷たい水鉄砲。
その時だった。
胡桃、友真、とばっちりで愁也も巻き込んで、爆ぜるような空気と共に大量の水しぶきが三人を襲った。空気を圧縮・開放するアスハの魔法、空虚ヲ穿ツ<バーストスフィア>である。
ゴゴゴゴゴ……
なんかエフェクトかかりまくりでアスハが凄い。魔王感。
誓いの闇<プロマイズ・フェザー>で無数の黒い羽根を伴った黒色の霧を纏い、両腕には破邪崩槍<ペネトレイトイービル>と悪意穿槍ペネトレイトマリス>、アウルによる魔法槍。両手のおもちゃめいた拳銃型水鉄砲が申し訳程度である。
どれぐらい凄いかと言うと、としおが水鉄砲でバレットパレードを撃ち込んでも微動だにしていないレベル。
「もうだめだぁ……おしまいだぁ……」
プールに沈んでやり過ごそうとする愁也。
だが彼の腕を掴んで自ら引き上げる者がいた――遥久だ。
「この程度で諦める? まさかですよね」
にっこり。おら戦って来い。神の兵士(物理)。顔を青くした愁也をアスハの前にぶん投げるスパルタン遥久であった。
「さてと……」
背中で悲鳴を聞きながら、水着の上に紙のシャツを着用した遥久は拳銃型の水鉄砲を手に。
全ては計画通り――
アスハと遥久は口角を吊った。
最初から二人の掌の上。人類最強の鰹節は最後まで意図的に生存させられ、そして――追い詰められていた。
獲物、つまり一臣は、ライフル式の水鉄砲を手に物陰にて息を潜めていた。
「センセ……生きて戻れたら一緒にアンパン食べたいな……」
窮地に陥った彼はラミネート加工で完全防水した棄棄プロマイドに語りかける。ちなみに先生の写真の予備は五枚以上はある。
無事に(?)死亡フラグを立てたオミーは意を決した。
やらねばやられる――物陰から飛び出した。遥久へ引き金を引く。
だがその一撃は、遥久が展開したシールドに容易く阻まれてしまい。
「くっ……あのシャツさえ濡らせられれば……!」
歯噛みするオミー。鼻で笑う遥久。
「あのシャツ? どのシャツのことだ?」
「……え? つまりどういうことだってばよ」
「誰が一枚しか着ていないと言った」
「なん……だと……!?」
これが絶望。
そしてオミーへ向けられる銃口。
放たれた水は――オミーの顔を守る紙袋の、目の部分へ。しかも大型水鉄砲と違ってリロードが早いのでほぼ永続。
「目がァ! 目がァアーーーー!」
「紙袋が破れたらつまらないだろう」
狙えと言わんばかりだったので。
「ほぐぁッ」
そして濡れた紙袋が顔に張り付いて息が出来ない。やばい。
そんな時だ……
「オミー着ろよな!」
ビーチチェアに座って悠々としている棄棄が謎の野次。
「着てますし!」
こてにはオミーも反論だ。だが次の瞬間、濡れた紙シャツがはらり……。
「やだ、脱げた……」
「着ろよなオミー」
「着ますセンセ……」
そんなときだ……(2回目)
びしゃーーー。アロハシャツ先生が突如として襲い掛かってきた水にべしゃべしゃになる。
「ぬぅ……何奴!」
サングラスをバッと取り払い(だって水滴すごかったんだモン)、水鉄砲の主を見やる棄棄。
「ふふ、油断大敵ですよ先生」
そこにはライフル型水鉄砲を構えた雫(
ja1894)。
「雫ちゃんこれ改造したでしょ……水圧けっこう……痛いなこれ……」
「はい、圧縮空気を込められる様にして威力を上げました」
「夏休みの自由工作だな!」
工作は工作でも破壊工作とかの工作であるが。
「暑い……蒸し焼きになってしまいそうです」
そんな雫はふぅと息を吐きつつ次のターゲットを探していた。ちなみに水着は、青いラインの入った黒エイムカットスーツ。薄手の白い上着を羽織っている。シンプルでスッキリとしたいでたちだ。
と、目があったのは通りすがりのクリスティーナ。ふむ、と彼女は雫の手のものを見る。
「水鉄砲か」
「……クリスティーナ」
そんな天使を、雫は上から下まで見渡し、そしてある一点に視点を留めた。
「……? どうした雫?」
ジッとこちらを見たまま動かなくなってしまった雫にクリスティーナは首を傾げる。
「……ぎり……の……」
ぽつり。雫が呟いたとある言葉。それは、
「裏切りもの……っ」
雫はクリスティーナの胸を見ていたのだ。
かくしてクリスティーナは貧乳ではなく、かといって巨乳というほどではなく、『普通』だった。だがクリスティーナの引き締まった体躯には良く似合うストイックさ、整い具合。とりあえずデカけりゃいいってもんじゃないことを心根に教えてくれる。
だからこそ、口惜しいというか、ドス黒い感情を雫は覚えた。なまじデカイだけならそれだけの直情的な憎しみで済んだものを。
「同士だと信じていたのに……裏切ったんですね」
まな板だって、仲間だって、信じてたのに。
「ゆるさない」
勝手な裏切者扱いである。氷を用意。それを水着の背中側に放り込んでやろうと。
だがクリスティーナはこう思ったのだ。なるほどこれが水鉄砲の遊び方の一つなのか――
かくして雫とクリスティーナの凄まじい追いかけっこが幕を開ける。
なおこのあと二人揃って「プールサイドは走らない」と先生に説教されるのであった、まる。
●カキ氷
(人間さんの世界もこの学園も、まだまだ知らないことだらけで面白いなー)
キョロキョロ。この世界のこと、もっとよく知りたいな。グレン(
jc2277)は真新しい学園指定水着の姿で賑やかなプールを見渡していた。
と、目に付いたのは不思議な装置?だ。曰くアウル式カキ氷器と言うらしい。
「アウル式かき氷器? 何だかよく分からないけどかっこいい……!」
外見年齢相応に目を輝かせるグレン。傍にいた棄棄とクリスティーナへわくわくしながら振り返り、
「棄棄先生、クリスティーナ姉ちゃん、かき氷作って!」
「お〜〜じゃあ先生が作ってしんぜよう」
ドヤ顔でサングラスを外す棄棄が、鼻歌を歌いながらカキ氷を作り始める。グレンはそれを見守っている。その最中。
「むー……落ち着かないなー」
「ん? 何がだ生徒よ」
「棄棄おじちゃんって呼んでいい?」
「そうだな……俺もう40だもんな……。はい、お待たせ、召し上がれ」
ちょっと遠い目をしながらグレンにカキ氷を渡す棄棄であった。
「棄棄先生、かき氷作って?」
そこへ華宵も顔を出し、「シロップは梅酒でお願いするわ」と棄棄へ新たなカキ氷をねだる。快諾した棄棄が嫌にゴリゴリしたカキ氷を作り上げ、梅酒をかけてくれる。
ただの梅酒ロックな気もするが、気にしてはいけない。カキ氷を受け取った華宵はニッコリと微笑んで、
「先生の瞳に乾杯」
「片方ないけどな! わはは!」
「じゃあ、ある方に乾杯。そういえば先生、お誕生日ですってね?」
だったら、と手持ちの持ち物をゴソゴソする華宵。まもなく取り出されたのはオヤツに持って来ていたうめえ棒三十本。である。
「はい、好きなの十本あげるわ。選んで?」
「じゃあコンポタとコンポタとコンポタと……あとはコンポタかな」
「コンポタだけじゃないの」
「美味しいし……」
一方でアウル式カキ氷器は盛況。
「どんな氷ができるのでしょう……?」
木葉も早速自分で氷を削ってみる。ガリガリガリ……まだ心が定まっていない少女ゆえに、出てくる氷は不揃いだった。ふんわり氷、ゴリゴリ氷、塊そのまま。
「これは……これで……?」
わびさび? 首を傾げつつも抹茶シロップに練乳をかけて、抹茶ミルクの出来上がり。いただきます。
「かき氷……作らせて!」
「へえー、俺にもさせろや」
としおとラファルの声が重なった。空いているカキ氷器は一つだが。
「じゃあジャンケンで勝った方が先な。じゃーんけーん闇歩戦技『ウルトラスターデストロイヤー』!!」
「おごあああ!!」
ラファルにバックドロップを決められるとしお。そして爆発するとしお。理屈は不明だが、プレイングに「爆発したい」みたいなことを書いていたからだろう。
「酢醤油をかけるのがおつなんだぜ」
特撮みたいな爆煙を背景に、ラファルはプチプチと口の中で炸裂する氷に酢醤油をかけていた。優雅だった。
そして無事に蘇ったとしおは元気にカキ氷をシャカシャカ作っていた。そこはかとなく金色のオーラが見えるようなハデなやつができた。
そういえばとしお、最初は「昼寝昼寝」なんぞ言っていたが結局昼寝していない。お祭り漢なので仕方なし!
TENYA-WANYAの一方で、雪は気ままにのんびりと。
シャーベットのようなカキ氷を食べつつ、賑やかな周囲を見渡す。戦場とは違って、そこにあるのは平和。戦場では凛とした雪の表情も、シロップの甘さと冷たさに解れている。
戦場から離れたら、これぐらいゆったり過ごすのも悪くない。
(何時か、こういった日が日常になるように、頑張らないと)
そう、心に活を入れる雪であった。
春樹も雪のように、相変わらずゆったりと時間を過ごしていた。
「お手数をお掛けしてすみません」
「かまわん」
サクサクのカキ氷が好きなので、という訳でクリスティーナにカキ氷を作ってもらっていた。
「神谷、シロップはどうするか?」
「ではイチゴで」
「どのぐらいかけるのか?」
「普通……ですかね」
「普通……とは?」
「えーっと……ですね……」
哲学的な(そして面倒くさい)ことになりそうな気配を察知。とりあえず「このぐらいじゃないかと思います、あくまでも一例です」と自分でシロップをかけて事なきを得た春樹であった。
「カーティスさん、私も私もー!」
そこへ真緋呂が、クリスティーナにカキ氷をリクエスト。
「大盛で! シロップはカレー!!」
「心得た」
そして特大カレー皿に作られる大盛りカキ氷カレー。
「このカキ氷器何度見てもいいよね〜いくら積めば仕入れられるのだろう将来的に……いやもういっそ一から作る……?」
にこにこしながら、しかし目はマジになって焔は考え込んでいた。
「いつか手に入れたいですね、まるで魔法みたいですし」
そんな夫の様子に藤花はくすくすと微笑む。そうだね〜、と顔を上げた焔もつられるように微笑みかけた。
「そうだ……藤花ちゃんの、前のふわふわ氷が美味しかったから……また作って貰いたいな〜なんて〜」
「わたしも焔さんの氷、また食べたいです。何味にしますか?」
「いちごミルク味で〜。藤花ちゃんは?」
「今年もマンゴーのピューレでお願いします。ふふ、結構好きなんです」
なんて、ほのぼのと。お互いに作ったカキ氷をわけっこしながら、去年の話に花を咲かせる星杜夫妻なのであった。
そんなカキ氷を見たり、作って貰ったり……。
「これでよし、と」
グレンは作って貰ったカキ氷を並べ、そこに自分が作ったもの――氷がキラキラしているものができた――を最後に並べた。レッツ食べ比べ。並べたそれら一つ一つにイチゴシロップをかけ始める。食べ比べなので、同じシロップに……というワケだ。
「……できた!」
ズラリ。かくして、満足げな言葉通り完成した皆のカキ氷の列。スプーン片手にグレンはドキドキが止まらない。
「あー……」
様子を見守っていた棄棄が言い難そうに声をかける。
「……食べ過ぎて腹は壊すなよ?」
「え? かき氷って食べ過ぎるとお腹壊すの……?」
衝撃の事実。ガタブル震えるグレンであった。
「……」
ここにも青い顔をしている者が。イリスは俯いたまま沈黙していた。
というのも。棄棄にカキ氷を作って貰ったのはいいものの。
「棄棄先生の色みたいになるでしょうか」――そう思って、メロンとイチゴのシロップをかけた瞬間、悲劇は生まれた。
理想:緑とピンクのカキ氷ができる。
現実:緑とピンクが混じって茶色のカキ氷ができる。
「……」
砕かれた理想、突きつけられた現実。しょぼくれかえるイリスに、棄棄は無言で肩ポンする他になかった。
「……」
そしてここにも、同じ悲劇を見た者が。ユリアである。
悲劇が起こる数分ほど前――
「かき氷か。ユリア、食べるか?」
そう、蓮が持ちかけて。ユリアはすぐさまスプーンを手に正座待機した。
「……待機が早いな。待ってろ、今削ってくる」
苦笑する蓮はそう言って、まもなく花弁のような氷のカキ氷を持ってきてくれた。そしてユリアに問う。シロップはどうするのかと。ユリアは答えた。「レインボーシロップで!」と、様々なシロップを手に。
かくして悲劇は起きた。
理想:色々なシロップによりカラフルなカキ氷ができる。
現実:色々なシロップの色が混ざり茶色のカキ氷ができる。
「……」
砕かれた理想、突きつけられた現実。しょぼくれかえるユリアに、蓮は無言で肩ポンする他になかった。
「棄棄先生、俺にもかき氷をお願いします!」
イリスを慰めていた棄棄に英斗がスプーン片手にそう言った。
「おういいぜ若ちゃん。何味がいい?」
「シロップは、先生のオススメで!」
「オーライ心得た」
かくして英斗に渡されたのは。
カキ氷の頂に、うめえ棒(コンポタ)(華宵から貰った)が刺さっている――というモノ。
「……。先生、これ、味見はしましたか?」
「うん、したかしてないかで問われたら後者だな」
「もしかしたら、俺が人類初の試みをする事になるのか!?」
「そうだな! 頑張れ若ちゃん!」
「いただきます!」
「お味はどうだ?」
「うめえ棒とカキ氷を別々に食べたいです!」
「そうだな! 先生も理性的に考えたらそうかなって思ったところ!」
という訳で先にうめえ棒だけ食べた英斗。的確な判断である。
「せっかくだから色んなシロップを試してみよう……たらこスパソースとか冷やし担々麺のタレとか」
「マジで? 若ちゃんマジで?」
「案外いけるかもしれません」
「そっか……ちなみにカレーかけてる子いたぞ」
蓮城 真緋呂ちゃんって言うんだけどさ……。
「ふう……」
一通り泳いだ所で、ビーチチェアに身を預けたシュルヴィアもまたカキ氷を食べていた。冷たい氷にかけたのはトマトジュースを用いたカクテル、ブラッディ・マリー。自作だ。
他にもウォッカマンゴーやらピニャ・コラーダやらも作って、お菓子をつまみながら飲んでいる。昼間っから酒をかっくらうなんておっさん化が進んでいる気がするが……まぁ、気にしない気にしない。
「ほう……不思議なものだな」
カクテルを作るシュルヴィアを見ていたクリスティーナが感心したようにそう言った。
「クリスは普段お酒は飲まない? まぁ、飲めた飲めないで何かある訳でもないけれど」
「ふむ……酒というものは知っているが、そう頻繁には飲まんな」
人間界の酒は凄いな、と天使はシュルヴィアが飲んでいるものをまじまじと見ている。
「エルヴァスティはもう泳いだか?」
「私はもう飲んじゃったから、ここでのんびりしてるのよ。まだ泳ぎ足りないでしょ? 行ってらっしゃい」
手をヒラリ。ウムと頷いたクリスティーナは再び競泳プールへ戻っていった。
「そんな訳で、」
くるり。シュルヴィアが振り向いたのは、うめえ棒をさくさく食べている棄棄の方向。
「誕生日おめでとう先生。四十路の気分は如何?」
「いやぁ……もう俺さぁ……逃れようもなくおっさんなんだなって……ハハ……」
「歳をとらない人間はいないもの」
遠い目をする教師に「当然よ」とシュルヴィアはむべなるかな。
「種類は限られてるけど、何かカクテル作ってあげましょうか?
「そうだな。じゃあお前が飲んでるやつで」
「ブラッディ・マリーね。いいわ」
そう答え、ほどなくして。血のように赤いカクテルが教師へと手渡された。
「なあシュルヴィア。ブラッディ・マリーのカクテル言葉は『私の心は燃えている』だってよ」
「それで、あなたの心は燃えているのかしら?」
「そらもうメラメラよ」
●来年もきっと
楽しい時間はあっという間だ。
そろそろ、帰る時間である。
だがその前に、最後に。
「先生様、お誕生日おめでとうございます。時が経つのは、本当にあっという間ですね」
棄棄へ、雪が祝いの言葉を。
「ありがと! あと十年で五十って考えるとスゲーよな……。雪ちゃんは今いくつだっけか」
「来年で二十歳です。……その時は、晩酌にお付き合いしますね」
「お! それじゃ約束な! いい居酒屋つれてったげるよ」
「はい、今から楽しみです。居酒屋って、一度行ってみたかったんですよ」
ふわりと雪は微笑んだ。
「棄棄教師、誕生日おめでとう」
「おめでとうございます!」
そこへ蓮とユリアが、棄棄へあんぱんの詰め合わせを。
「遅くなりましたが、誕生日おめでとうございます、先生」
更にイリスもあんぱんを差し出す。
「……。はっ。弟達監修で作ったので、はい」
説明しよう、イリスは殺人料理なのだ。一瞬フリーズした棄棄の様子から察して慌てて補足する。
「ありゃ〜、アンパンかぶっちゃったね〜」
苦笑しながら、焔が藤花と共に棄棄の前へ。
「棄棄先生お誕生日おめでとうございます。家族三人で作った天然酵母使用のミニあんぱん四十個セットです〜」
「一つ一つ、先生への感謝と健康への祈りこめて作りました」
「主に小豆餡で、いくつかうぐいす餡や梅餡とかもあって〜……ちょっとずつ食べれるように。今年は望ちゃんが包んだパンもあるんですよ〜」
生徒からのアンパンの贈り物。もう棄棄の両手がいっぱいになっていた。
「おお……すげえ……」
語彙が死んでいる教師。感無量といった様子だ。
そんな棄棄に、焔と藤花は柔らかく微笑む。
「今年もプレゼントできてよかったです〜。来年も……贈りますからね」
「どうか、来年も、そのまた来年も、祝わせてください。そしてこれからも、どうか導いてください」
先生は、みんなの『素敵』な先生なんですから。星杜家から贈られる優しい言葉に、教師は一つはにかんで。
「歳食うってのも悪くねぇな」
「プレゼントはまだありますよ!」
今度は真緋呂が、とびきりの笑顔で棄棄のもとへ。
「お誕生日おめでとうございます、棄棄先生!」
差し出すのは、若草の包装紙に桜のリボンを飾られた可愛らしいラッピングのプレゼントだ。
「可愛いな〜〜、中身は何なんだ?」
「ふふん、恒例の酢昆布よ♪ 夏バテ防止の超すっぱいやつ!」
「四十年生きててこんな可愛い酢昆布は初めてかもな!」
そこへ今度は和紗が、「先生」と声をかける。
「……三百久遠=材料費ですよね?」
「材料費? ん、まぁ、オヤツならそうだな!」
「分かりました。少々お待ち下さい……焼いてきますので」
「焼く!? 何を!?」
「饅頭を」
キリッ。
和紗恒例のT●KI●めいた「イチから作る和菓子」である。
というわけで粉から自作した饅頭を持参していた和紗は、真緋呂と目配せ。頷いた真緋呂が炎焼を発動。饅頭をコンガリ上手に焼き上げる。
「お待たせしました」
できたて熱々を、教師に差し出しつつ。
「四十路の誕生日おめでとうございます。祝い事は饅頭ですよね日本人なら」
キリリッ。棄棄はもうツッコミとかそういうのを通り越してただただ感心である。
「すげえ……折角だし熱い内に食べるわ」
上手に焼けました&美味しく食べました!
「「先生!」」
まだまだ。教師を呼ぶたくさんの生徒の声。
棄棄が振り返れば、そこには――円柱型の果物入り氷が重ねられて作られた氷のケーキ。食用花で飾られて。
「先生! お誕生日おめでとー!! これカキ氷にして食べましょーー!」
愁也が氷ケーキの前で眩しい笑顔で手を振った。
「今年も! 先生に幸せが降り積もりますように!」
胡桃が差し出すのはコレクションボックスとあんまん、ブーケとミラクルケーキ。
「冷えたアンパンも旨いかなって……。センセおめでとう!」
一臣はクーラーボックスからアンパンを。
「ミニアンパンを包んだ、水まんじゅうならぬ水あんぱんを用意しました。吉野の本葛粉を使用しています、楽しんで頂ければ幸いです」
遥久からは見るも涼しげな水アンパン。
「誕生日祝いやー! 俺からは〜〜〜超キンキン俺推薦コーラと皆で遊ぶすごろくっ」
友真はゴソゴソぽいぽいと棄棄の手にどっちゃりプレゼントを手渡して。
「もう、馬鹿野郎共め。持ちきれんだろーが」
少し照れつつも、棄棄の手にはお祝いがいっぱい。幸せが、いっぱい。
ふざけていないで本当に嬉しい時、棄棄は逆にリアクションや言葉が少なくなる。この男は少々不器用なところがある。つまり「まったくもー」なんて言っている時ほど、照れて喜んでいる何よりの証拠なのだ。
「よっしゃ胴上げしようぜ!」
一通りプレゼントが済んだ所で。愁也がそう提案する。
「え〜〜〜 それは俺が退職する時にしてくれよな!」
ようは恥ずかしい。棄棄は笑いながらたくえつしたるいんずぶれいどのスキル全力跳躍で愁也にラリアットをかまし、プールに突き落とすのであった。な、何を言っているのかわからねーと思うが、愁也も何をされたのかわからなかった……頭がどうにかなりそうだった……催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。
まぁ愁也に関しては遥久が神の兵士するのでだいじょうぶである(鼻ほじ)
「さて、と」
わいわい。仲間達と教師の楽しげな声を聞きつつ、アスハは記念撮影の準備をしていた。
「今年も恒例の、だな」
「記念撮影するでー! みんな集まって貰えたら嬉しいな!!」
友真がこの場に集った全ての生徒に声をかける。折角だ、並べ並べと教師も笑う。
それでは。
はい、ちーず。
ぱしゃり。
ちなみに――
ベスト水着グランプリについては、星杜一家のものとなった。家族での参加が審査員の心にグッときたそうだ。
そして記念写真はアルバムとなって、生徒全員――そして教師に、配布されたそうな。
『了』