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マスター:ガンマ
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
形態:
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2016/03/11


みんなの思い出



オープニング

●スクールのルーム

「冬だ! 海だ! 俺だ!」

 無駄にケイオスドレストしながら全力跳躍を使用して開け放たれていた窓から飛び込んできたのは教師棄棄、@海パン&アロハシャツでサングラス姿。
「ハイこないだプールでシミュレーションしたように今年も海のシーズンがやってきましたよ!! やったね! 最早恒例行事となったね! やったぜ! 海だぜ! 嬉しいね! なにげに四年目ですよ!」
 何故かルインズブレイドスキルの臨戦を発動しながら棄棄が怒涛の勢いで『うみのしおり』を生徒達に配った。

☆うみのしおり☆
 今年も海に行きます。
 水着着用必須。
 おやつは三〇〇久遠まで。バナナがおやつに含まれるかどうかは先生と議論しましょう。
 なお、今年の海は「絶対に寒いと言ってはいけない二月の海」です。
 寒いと言った生徒には「一寒い」ごとに腕立て伏せ一〇〇回です。
 頑張りましょう。
 ところで↑の☆はヒトデです。星ではありません。

「まぁつまりだな生徒諸君よ」
 教師は「よっこら小籠包」という謎の掛け声と共にいつも通り教卓に座る。足を組む。
「海行こうぜ海」
 にこり。
「海好きだろ海」
 にっこり。
「……海は二月に行くものだってこの四年間で立証されただろ?」
 暴論極まりない。
「今年もいこうよ海! な! 海楽しいじゃん! 大自然じゃん! なんかもう毎年二月に海に行かないと駄目な体になっちゃったの先生は! 責任取ってよね!」
 意味不明である。
「はい というわけで〜先生と一緒に海に行きましょう。泳ぐも良し、お水でキャッキャするも良し、スイカ割りするも良し、渚のマーメイドをナンパするも良し、サーフィンするも良し、ビーチバレーするも良し、バーベキューしちゃうのも良し、花火もパーティーもバレンタインもなんでもドンとこいだ! あと絶対『寒い』って言わないこと!
 諸君、海だよ海! 楽しみだろぉ! 楽しいよなァ! 最高だよなァ!!」

 だが二月だ。

 大事な事なのでもう一回言うが、

 二月だ。
 如月だ。
 Februaryだ。

 真冬だ。
 気温一桁だ。
 大寒波だ。

「でも海だよ。楽しめ、それが任務だ」

 今年もきっと楽しいさ。
 今年も来年もその次も、二月は海と決まっている!


リプレイ本文

●Kion/Zero

 今年も二月が来た。そう、海の季節が――。

 学園指定の女子水着姿、イリス・リヴィエール(jb8857)は二月の海を一望した。
「今年もまた、海の季節がやってきましたねー!」
「二月といえば海なの、ですね……」
 凍てつくような潮風に櫟 諏訪(ja1215)のトレードマークであるあほ毛が揺れた。何の疑いも持たず目を輝かせる華桜りりか(jb6883)のワンピースとかつぎも靡く。ちなみにワンピースの下にはちゃんと水着だ。
「海ですね〜。……もう恒例になったんですねこれ」
 にこにこ。信楽焼風狸のキグルミを着た石田 神楽(ja4485)は笑顔である。キグルミの下は黒のトランクス型水着に白いパーカーを着用済みである。
「冬の海ももう何度目でしょう。なんだか恒例になりつつありますね」
「うん、二月といえば海だね」
 穏やかな笑顔でそうやり取りしたのは星杜 藤花(ja0292)と星杜 焔(ja5378)のおしどり夫婦だ。藤花は青色の半袖ロングワンピースに白いニットカーディガン、焔は水着と青いパーカーだ。夫妻で青で揃えた爽やかコーデである。寒色で見た目が寒いなどと言ってはいけない。

 そう、二月といえば、海。
 それはいつの頃からか一部の界隈で謎の常識へとなっているイベントであった。
 恐ろしいのがこの二五人の中に「いや二月に海っておかしいだろ!」と発言した生徒がいないことである。ツッコミ不在? いや、二月の海は、当然のことなのだ。なのだ。

「冬だ! 二月だ! うーみーだーーー!!」
「……今年もやってきたのですね! うみぃいいいいいい!」
 ダッと砂浜を駆け出したのは月居 愁也(ja6837)、耐水仕様のもふもふ黒猫キグルミを着たカーディス=キャットフィールド(ja7927)。二人が駆ける先には――勿論海! どぼーーん!
「この時期に海に来ると……なんだか少し寂しさがあるな」
 青い空、青い海、気温は極寒。志堂 龍実(ja9408)が独り言ちたのは昨今の天魔との争いに関わることだ。その姿はセーターとダッフルコートにマフラーに手袋と完全装備。冬の海と言われて大凡の人が着てくる服装である。
 と、思いきや。
 徐にコートの前をバッと開ける龍実。
 そこには――ラッシュガードとボクサータイプの水着が!
「……いや、海と言われれば泳ぐだろう?」
 マジレス。そのまま大真面目に、至極当然の顔をして海へと飛び込んでいく……。
「二月の海、か」
 まぁいくか、という気軽さで礼野 智美(ja3600)はこの場に立っていた。真面目な彼女ですら「二月に海だなんて常識的に考えておかしい」と言わない空間。
「……」
 その隣には智美の悪友である音羽 聖歌(jb5486)。寒い、と言いかけては「この場のルール」を思い出して口を噤む。なぜこんなクソ寒い場所に来てしまったのか自分でもよく分からない。勿論水着はちゃんと着ている。防寒対策もちゃんとしている。
「俺が風邪引いて倒れたらうちの家事がストップしますんで……」

 対照的に全力で防寒対策していない者もいる。

「アロハシャツとパーカーとハーパンと……俺」
「普段から露出多めの人間舐めるなぁ!! 寒くなんてないわぁー!!」
 ガタガタと震える小野友真(ja6901)の姿は宣言どおりだった。歯をガチガチさせるエルナ ヴァーレ(ja8327)のすがたは赤と紫のビキニにマントという姿だった。二月の寒風にアロハシャツとマントがめっちゃ靡いている。
「二月! 海やでセンセー!!」
 寒さに震えながら友真は棄棄のぽんぽんに冷えた手をペターとくっつけた。
「ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛!!!」
 棄棄がローリングソバットどごぉ。
「んぐぅううう!!」
 ぐぼぉ。膝から崩れ落ちる友真。
「出た! 教師棄棄の割と本気ローリングソバット!」
「反射的にローリングソバるほど冷たいの嫌やったん……?」
 クリスティーナの謎解説。そして友真はガクッと力尽きた……。
「ゆ、友真ァアアーーーーーーーッ」
 加倉 一臣(ja5823)は真っ白に燃え尽きた友真を掻き抱き寒空に慟哭した。そんなオミーの格好は棄棄とおそろいである。そのためのウィッグ(三つ編み)であり、サングラスであり、アロハシャツである。でもマンゴスチンはなかったのである。
 そんなオミーを見下ろし、棄棄がこれ見よがしにマンゴスチンを食べていた。あてつけである。なんであてつけているのかは棄棄本人もよく分かっていない。
「マンゴスチンうまっ」
「センセッ……!」

「もうなにもいうことはないわ……」
 なんかもう最初からツッコミ不在というかツッコミがいないケイオス状態にシュルヴィア・エルヴァスティ(jb1002)は達観の至りである。その遠い目は水平線を見つめている。
 彼女は先日、この二月の海のシミュレーションを学園で行ったばかりである。それは蓮城 真緋呂(jb6120)も同様、プールシミュレーション時と同じ白レースのフレアービキニだ。爽やか(寒)
 そんな爽やか(寒)な姿の真緋呂は天才的に閃いた。

 日本には――「愛しています」を「月が綺麗ですね」と言い変える美しい表現法がある。
 つまりアレ、「寒い」も言い換えればいい。
 あの言葉は……「抱きしめてください」ね、よし!

 という訳で。
「抱きしめて下さい! 抱きしめて下さい! ぐうう……ウオアアアアア抱きしめッ 抱きッ 抱きしめて下さいッ!! 抱きしめてくだすぁあああっ!! ンアアアア!!! ヴォア゛ア゛ッ!!!」
 真緋呂はとても寒がっt……抱きしめて貰いたがっていた。
「そうか」
 神妙に頷いたクリスティーナがそっと真緋呂を抱きしめる。ふわっと翼で包み込んでもくれる。
「ててー……て てんしの……はーね……!?」
「うむ、背筋ピーンだ」

 ツッコミ不在の恐怖。



●鳥人間コンテスト(飛ぶとは言っていない)
 一同が集ったのは、去年の海もわちゃわちゃした例の崖。

「『寒空に負けるな! 鳥人間コンテスト!』、……だ」

 どんどんぱふぱふ。大真面目な顔でアスハ・A・R(ja8432)が友人達を見渡した。海(崖だけど)にふさわしい、黒に赤ラインのハーフパンツ姿である。風が強くて(しかもクッソ冷たい)髪がめっちゃ荒ぶっている。
「ようは……ここから飛び込み大会をしようということ、だ……。評価者? 誰か見てるといい、な。高評価ならBBQ、低評価なら闇鍋王特製の闇鍋、だ」
「鳥人間コンテストとおっしゃいますが俺去年も飛んだ気がするのは気のせい?」
 一臣は頭を抱えて問い返す。飛んだというか撃ち出されたというか、あれれー?
「大丈夫よオミーさん! 貴方の人生七転び八転びでしょ!」
 エルナが謎の励ましを贈る。
「転んでしかなくない……!?」
 ぶわっと絶望ポーズになるオミー。の、肩をポンと叩く者がいた。矢野 古代(jb1679)である。
「今回は、お互い生き残るか早めに脱落しような加倉さん……!(俺だけは)」
「古代さん、それフラグだからぁ!」
 オミーが振り返る、そこにいた古代の姿は。裸エプロン+アロハシャツ。ワーオ。
「海は戦場だから最も信頼できる(ネタの)格好で挑む」
「……古代さn」
「安心して下さい、はいてますよ」
 徐に古代がオミーに背を見せた。ちゃんと褌しめてました。とにかく明るい古代だった。
「脱落に定評のある俺たちに生き残る術はあるのか?」
 一臣はその謎を明らかにすべく南米アマゾン奥地(崖先)へと向かった……。

 <鰹><鰹>

「!」
 これは――殺気!
 一臣が咄嗟に振り返る。そこには。

「やあ、良い海日和だな加倉」

 名指しで微笑む夜来野 遥久(ja6843)。これからの惨劇もとい喜劇に楽しげにしつつ、早くも獲物をロックオンしたのだ。
「安心しろ神兵なら既に活性化済みだ」
 意訳:簡単に気絶してはつまらないので^^
「あ、万が一けがをした場合はきちんと回復するの……ですよ?」
 審査員のお手伝いです、とりりかがフンスと意気込んでいる。こっちは遥久とは違って純然たる善意である。悪意なしである。(だからこそタチが悪いとか言っちゃダメ)

 そんなこんなで始まる鳥人間コンテスト。

 BGM担当は友真。火サス――と見せかけて髭舞踊の軽快なテーマだ。
「さて今回の崖だが、気付いてると思うが去年と同じ崖で……」
 アスハが舞台の説明をしている。

 ――そこへ疾風の如く間合いをつめる影一つ。

 薄青のワンピース型水着にいつもの外套を翻す、橋場 アイリス(ja1078)だ。縮地。脚部にこめたアウルによって爆発的なスピードだ。
「第一飛者アスハさんいきまーす!!」
 目にも止まらぬ突撃を相手に打ち込みます! 命中した相手はあまりの衝撃に4スクエア後ろに弾き飛ばされます! つまりは烈風突です! 冷刀マグロでドゴォ!
「がホッ」
 縮地で助走をつけた上で烈風のような勢いで叩きつけられたマグロ(のようなもの)。背中をマグロられたアスハが逆くの字になって勢い良くぶっ飛ぶ。具体的に言うと8mほどぶっ飛ぶ。
「さよならアスハさん―― って、はむぁ!?」
 キメ顔のアイリスだったが。
 勢いあまって、自分もポーンと崖の外へフライアウェイ。

「「あああぁあぁああぁぁぁーーーー〜〜〜〜」」

 二人そろって落下中。絶対に冷たいんだろう海水が無慈悲に迫る。
「……ふっ、こんなこともあろうかと」
 アスハは冷静に掌を翳した。空虚ヲ穿ツ<バーストスフィア>。アウルを用いて海水面直前の空間に干渉、その場の空気を瞬間的に圧縮――そして開放。衝撃を回避する心算、だが、
 だぱーん。
(思いの他……しょぼい、だとッ……!)
 と、その一方で。
「えぇぇぇっとー……Regina a moartea!」
 アイリスはバトルシャベルに鮮血色のアウルを纏わせた。それを両手で構え、大きく振りぬく。放たれた一撃は死国の女王を冠する一撃。
 叩きつけられたそれに、水面がモーセの海割りみたいにだっぱーーーーーん。
「!? ちょ――」
 アスハを巻き込むだっぷぁーーーーーん。
「はむぁーーーーー!!?」
 アイリスも予想外に水がだぱーんして巻き込まれだっぱーーーーーーん。

 そして誰もいなくなった。

「お水のパフォーマンス、きれいです……」
 りりかは感心した眼差しで「10,0」の札を上げた。
「はははすごいなー」
 古代は凄い棒読みでそっとその場から離れようとした。バーベキューを用意している場所へ行き、調理でもしようか、と。
(これで火に当たれるから寒いとはそうそう言わない……!)
 だが。
「飛ばないんですかー?」
 ぽん……。諏訪がその肩を後ろからそっと掴む。
「えっ、鳥人間コンテスト? GAKE!?」
「飛ばないんですかー?」
(しまった、これは火に当たる事を考えすぎていた俺のミス……!)
「飛ばないんですかー?」
「っていうか怖いよ! 同じトーンで言い続けないで怖いよ!」
「飛ばないんですかー?」
「目が! 目が笑ってない! ヤメテ! あっ、ちょっ、やめ、あいきゃんとふらい! 飛べない! 褌は飛べないの! 風にしか乗れなあああああ」
「いってらっしゃいですよー?」
 ぽーい。諏訪に飛び込み台の方向へ投げられる古代。着地地点は飛び込み台――だったのだが。

 ばき。

「えっ!?」
 割れた。飛び込み台が。
 落下しつつある古代はスロモーションに見える視界で見た。
 諏訪が――「計画通り」な邪悪な顔をしていたことに。

「謀ったなキサマーーーーーーーーーーーーー!!!」

 真っ逆様。
 と、その時だ。
 古代の落下が急停止。
 そう、褌になんかこういい感じの木の枝が引っかかったのだ。
 どうなる古代!

 それと同時刻。
 りりかはケセランを抱っこしてぽかぽかと暖を取っていた。もふもふ。
 しかし先ほど飛び込んだ(落下した?)古代だが、飛び込めた音が聞こえない。あれ? どうしたんだろう。そう思っては、りりかはそっと崖を覗き込もうとして……

 ずるっ。
 ついウッカリ足を滑らせた。

「ひゃわぁああぁあ〜〜〜!?」
 
 咄嗟にケセランの召喚を解除して、鳳凰を召喚! 高く鳴く霊鳥がりりかのワンピースを爪ではっしとキャッチする。
「ふぅ、ききいっぱt――」

 びりっ。
 鳳凰の爪は鋭かった。
 ウッカリ、りりかのワンピースが破けてしまったのである。

「ふにゃああーーーーーーーーー!!?」

 落ちるりりか。
 そして、その落下先にはふんどしが枝に引っかかって止まっていた古代がいて……
「えっ?」
 見上げた古代の視界いっぱいに。
 頭から落ちてきたりりか。
「えっ」

 ごっ。

 頭と頭がごっつんこ。
 そしてセルフスタンになった二人は仲良く海にドボーンしましたとさ。

 さて崖上。
「いやぁ〜この飛び込み台、どうしたんですかねー? 壊れちゃいましたねー? 誰か細工でもしたんですかねー?」
 なんてものすんごい白々しいことを言いながら、諏訪が飛び込み台を修理していた。
「はい! 修理完了ですよー? 次の方どうぞー」
「ではっ!」
 ざん、位置に着いたのはカーディスだ。巨大手作りグライダー背負っている。
「猫だって飛びたい時がある! 飛べない猫はただの猫ですの★ 逝って参ります! とりゃー!」
「飛び込みに悩む貴方にはこちらを! 悩んでなくても喰らえ」
 トラップ発動! 友真がシャッとカーディスの足元にバナナの皮を投擲!
「にゃっ!?」
 とぅるん。
「あぎゃあああ!?」
 顔面から飛び込み台へ。
「もぎゃあああああああああああああああ!!?」
 ばいーーーん。
 それは想像以上のブッ飛びだった。さっきまでとバネの力が明らかに違う、めっちゃ強い。
 落下しつつあるカーディスはスロモーションに見える視界で見た。
 諏訪が――「計画通り」な邪悪な顔をしていたことに。

「謀ったですねーーーーーーーーーーーーー!!?」

 真っ逆様。
 だぼーん。
 ぷかー。

「カーディスさんの勇姿は忘れない! そして俺はヒーローらしく前宙で飛びこみいっきまーーす!」
 そして友真は華麗に跳んだ。諏訪の仕掛けを計算した上での見事なフォームだ。
 が。
「待ってめっちゃ高ない?」
 せやで。
 海面迫ってるで。
「だが俺には急所外しというスキルが」
「友真、急所外しは急所以外の全てに当たるぞ」
 経験者オミーは冷静に語る。急所外し(急所以外に当たらないとは言っていない)
「マジか!? あっ待ってそもそも入替してへn」

 だばーん。

 しょうげきのじじつ、今んとこ綺麗に飛び込めた人ゼロ。
「では」
 次は私が、と遥久が飛び込み台の前に。その姿は愛用の『なすの着ぐるみ』姿だ。
「偽翼もついてます、鳥ですよ、鳥。うさみみも着けています。ウサギですよ、ウサギ」
「鳥人間なのかナス人間なのかウサギ人間なのか……」
 にこにこ、評価者という名の野次馬である神楽が冷静に呟いた。真相は誰にも分からない。うさみみだけは、見た目で寒いと言わせようかと目論んでいるものらしい。にっこり。
 そんな遥久は勢いよく崖を飛び出し、海面へと一直線。
 そのまま前回と同様、だぱーんだぱーんと石切りの要領で海面を跳ねて水平線の向こう側に消えていった……。

「真打登場!」
 では次! 颯爽と愁也が躍り出た。不撓不屈は活性化済み。おい誰だ周回ドMプレイとか言ったやつ。
 なお彼の姿は全身タイツに天狗の面。お面どこにつけてるんだろ。え、顔だよね? まさかだと思うけど股間の阿修羅様じゃないよね?
「とうっ!」
 まぁそんなこんなで愁也は雷打蹴を放ち、ポーズをキメる。

 がらっ。

「ん?」
 そしてウッカリ崖を踏み抜く。
 約束されし落下。
「あっ」
 崖に掴まろうとした。
 でもその瞬間、掴もうとしていた出っ張りを、目を赤く光らせた神楽に撃ち抜かれて失って。
「誤射です」
「えっ あっ……」


「テイク2いいっすか」
 息も絶え絶え崖を上ってきた愁也。
 気を取り直して、足に縮地のアウルを込めて――ダッシュ、からのジャンプ!
 凄いジャンプだ――これは今度こそいい感じに飛込みが達成されるのではないか――

 と思いきや(お約束)

 愁也の体に星の鎖が巻きついた。
「!?」
 霊的な力が、愁也を眼下の海へと引き摺り下ろす――!
 一体誰が。見渡せば、すぐに分かった。遥久だ。ナス人間だ。その手には大量の魚が。バーベキュー用だ。彼はウッカリ愁也を獲物だと勘違いしたのだ。そう、ついウッカリ。
「くっ! だが俺には『逆風を行く者』が――」

 愁也の『逆風を行く者』:射程25
 遥久の『星の鎖』:射程26

「えっ飛距離無しで失敗とかいやいやいやビデオ判定を要求する!」
 それが遺言となった。どぼーん。

 で、最後はオミーとなったわけだが。
 諏訪に足元を水鉄砲で撃たれて滑って落下したところを、「飛距離を伸ばしてさしあげます」と神楽にインフィの鬼命中でワカメを勢いよく投げつけられ、信頼と安心のドボーンしました。
「あれは、誤射です」
「紛うことなき、誤射」
 笑顔の神楽と遥久がしっかと頷いた。
 その目的は。海(に散る色々なモノ)を楽しむこと。とでも言わんばかりに。

 脱落確定者による美しい生存競争――それは(にこにこ)とか<○><○>とか満遍なく食らい、謎は謎のまま終わるのだった。

「鳥人間コンテストと聞いたのだが」
 色々ひと段落したところでクリスティーナがやって来た。「飛べば良いのか、なるほど」と頷いた天使は翼を広げ――空の彼方へ飛んで行ってしまった……。

 そして(飛び込み役は)誰もいなくなった(二回目)

「たーまやー、でいいんだっけこういうの……」
 遠巻きから眺めていたエルナが呟く。

「「「飛ばないんですか?」」」

 そんな彼女に、諏訪と神楽と遥久が振り返り――
「え? ちょっ 待っ」


 どぼーん。



●海、それは皆大好き。

 古来より、人は極寒の滝等に打たれ、己を磨いてきた――
 そして今、真冬の海と向き合う漢がココにっ!

「俺の熱いハートで、この海を真っ二つにしてみせる!!」

 ばばーん。
 理想郷<アルカディア>を発動させた若杉 英斗(ja4230)は、トランクス型水着でポーズをキメた。
「棄棄先生、行ってきます!」
「おう若ちゃん、行ってら!」
「おりゃあ〜〜!!」
 理想郷の効果終了と同時、二倍となった移動力で韋駄天の如く真冬の海へと突撃する英斗。臆することなく海に飛び込む! バシャバシャバシャ! 泳ぎまくる!

「これがっ! 俺がっ! ディバインナイトだーっ!!」

 その姿、まさに漢。


 一方でイリスは準備体操の後に軽く泳ぎ終わり、今は『ニュアージュ』と名付けた新入りのケセランに抱きついていた。湯たんぽ代わりだ。
「昼夜で温度差が激しくなっている。風邪には気をつけないと」
 と、その時だ。
 ヒュン――何かが飛んできて。
 反射的に、イリスはそれを受け止める。
「……大豆?」
 それが飛んできた方向には、クリスティーナ。天使の手には大量の大豆。
「セツヴンと聞いた」
「ふむ。弟が豆は年の数食べるものと言っていた。食べましょう」
「なるほど……食べるか」
 そのまま波打ち際に二人並んで座ってぽりぽりぽりぽり……。

 二人の後方では真緋呂が、棄棄のもとへと駆けていた。
「棄棄先生、マンゴスチンが好きだって噂で聞いたから……はい☆」
 ニッコリ笑顔で差し出したのは『マンゴスチン味酢昆布(超地域限定)』。今年もおやつ代は全て酢昆布に注ぎ込んだのだ。
「機密事項でどこの地域かは言えないけど」
 声を潜め、真顔で耳打ちする真緋呂。
「えっ……マジでなんなのこれ」
「シッ先生、声が大きいですよ……!」
(なにこれこわい)
 棄棄がゾッと戦慄している間に、真緋呂はクリスティーナにもマンゴスチン味酢昆布を手渡していた。なお、マンゴスチン味酢昆布は……文字通り、マンゴスチンの味がした。こわい。

 さて酢昆布タイムも終わったので。
 真緋呂は颯爽と海へ繰り出した。
 予習はバッチリだ。準備体操も済ませていざ海へ――
「さm抱きしめてください! 抱きしめてください!! 抱きしめてください!!!」
 ものの十秒足らずで海から戻ってきた。
 では次は予習通りにカキ氷(ブルーハワイ)を――
「さm抱きしめてくださいッ抱きしめてくださいッッ」
 こうなったら予習通り飛込みを――
「さm抱きしめてください抱きしめてください抱きしめてくださいッ」
 真緋呂は悟った。これアカンやつや。
「……」
 ので、死んだ目でケセランを抱っこしている。もふもふ。
「……炎焼でなんか……なんか燃やすか……」
 ボソリと呟かれた言葉に、一瞬ケセランがビクっとしたそうな。ケセランってよく燃えそうだね……。


「ぶぁっくしょん」
 その頃、目一杯泳ぎ終えた英斗が砂浜に帰還していた。
「ふぅ、さすがに、この時期の海の水はつめた……あ、『冷たい』ならいいのかな? 冷たかったぜ」
 タオルでガシガシ頭を拭いて、いつもの眼鏡を装着して……にしても寒い。いや冷たい。流石のディバインナイトも寒いもんは寒い。どんだけ防御が高くても寒いもんは寒い。じゃなくて冷たい。
「だがっ! こんなこともあろうかと、ホットの缶コーヒーを持ってきておいた!」
 じゃじゃーん。取り出したのはあったか〜い缶コーヒーだ。
「これで、冷えた身体もポッカポカだぜ!」
 ごくごくぐびぐび。
 ……。

「って、冷めてるじゃーないかーい!! 」

 そらそうだわな! この寒い時間にずっと置いてたらそうなるわな!
 英斗は怒りのままに缶を握りつぶすのであった……。


「……それにしても、何で皆ノリノリなのよ……お祭りに該当するの? このイベント」
 焚き火の傍、シュルヴィアは賑やかな皆の様子に独り言ちた。焚き火の中にはアルミで包んだ芋を入れており、更に鍋で湯煎をし、缶コーヒーやココアやコップ酒を温めている。予習も相まって予め決めていたことなので淀みない。
「……はぁ。さ……けほん。芋も焼けたし釣りにいこ」
 焼きあがった芋を取り出し、温もった飲み物と釣り道具を手に、シュルヴィアは海へと。
 釣りスポットには先客がいた。龍実だ。
「皆元気だなぁ……」
 奇しくもシュルヴィアと似たような心境らしい。ポツリ、はしゃいでいる皆の様子にそんな呟きを漏らしている。
「こんにちは。お隣よろしい?」
「ん? ああ、どうぞ」
 というわけで、シュルヴィアも龍実と同じ釣りスポットにて釣り糸を垂らした。
「召し上がる?」と焼き芋や温かいココアを龍実に差し入れつつ、シュルヴィアはのんびり、芋をつまみに酒をあおる。完全に休日の釣り人である。水着だけど。というか厚着でも寒い気温なのに。そんな寒さを焼き芋と酒で誤魔化しつつ、釣りを満喫。
「……平和だなぁ」
 波の音、遠巻きにはしゃぐ喧騒。それらとは対照的に、龍実は穏やかに呟いた。
「そうねぇ……」
「そーだなー」
 いつの間にやら棄棄がいた。「オイッス」と二人に片手を上げる。
「これ食べる? マンゴスチン味酢昆布」
「「なにそれ」」
 龍実とシュルヴィアの声がダブった。
「先生もよく分からない……酢昆布なんだけどマンゴスチンの味がする……マズくはないんだけどなんか複雑な気持ちになる……」
 いいから食べてみ、そう差し出され、酢昆布を齧る生徒二人。
「……うん」
 シュルヴィアはノーコメント。
「マンゴスチンの味だな」
 龍実は大真面目に頷いた。
「だろ? で……どう? 釣れてる?」
「まだかかってないわね」
 答えたのはシュルヴィアだ。酢昆布の外見を裏切るフルーティさという奇妙な感覚を酒で洗う。「そかー」と隣に棄棄が腰かけた。水平線を見やる。平和な波の音。
「楽しい人には草も花、いじけた人には花も草……」
 ふと、シュルヴィアが呟いた。
「……ん、うちの国の諺。大丈夫、ちゃんと楽しんでるわよ。もうちょっと厚着したいけど」
 棄棄の眼差しを感じ、問われる前に彼女は答えた。教師がからから笑う。
「やっぱ海って楽しいよなー」
 言いながら、アロハシャツをシュルヴィアの肩にかけてやる。
「ちょっ……」
「うーん常夏フィンランド人」
「なにそれ」
 肩を竦めた。煌く水面を眺めつつ、吐息一つ。
「マグロでも釣れないもんかしらね……ここで釣れたら学会で発表できるわ」
 ふむ。それに頷いたのは意外にも龍実だった。
「マグロか。……まぁ、努力しよう」
「いや……冗談よ?」
 だが何故か龍実はマグロ釣りを本気にし始めたらしい。

 勿論、マグロは釣れなかった……><。


 一方、砂浜では智美と聖歌が料理の準備を進めていた。
 簡単な調理道具はある。けれどやっぱり火を熾した方が楽しいので、ということで燃料持参。材料も二人でお金を出し合って持参。野菜は家庭菜園のものを。そして調理器具と真水も持参だ。
 パチパチ爆ぜる火。なんにしてもお湯はあったほうが良いだろう、と沸かされつつある水が湯気を立てている。
 その温かい傍らで二人は調理に取り掛かっていた。作るものは豚汁。里芋、大根、人参、葱は智美の屋上菜園から産地直送。聖歌が皮を剥いて、智美が手際よく切ってゆく。
 二人とも無駄のない完璧な動きだ。瞬く間に豚汁ができあがってゆく。調理の間、二人がああだこうだ無駄に会話しないのは、お互い沈黙が気にならない間柄というのもあるし、そもそもあんまりぺちゃくちゃお喋りするような性質でもないが故に。
(喋りながら調理をして……唾液が料理にかかるようなことなど言語両断)
 ……とか思ってるんだろうな、と聖歌は悪友の横顔をチラと見やった。
「聖歌、味噌溶かしておいて」
「はーい」
「あと味見も」
「はいはい」
 仕上げは聖歌に任せ、智美は持参したタッパーを開く。持参したオニギリだ。豚汁に合わせるのはやっぱりご飯でしょ、というわけで。
「冷たくなってるけど、どうするの? 電子レンジとかないけど」
「大丈夫、焼きオニギリにすればいい」
 その為のこれだ、と智美は悪友に持参した網を見せる。焼きオニギリを作り始める。
 それを見て、聖歌も「ああそうそう」と。
「冷凍庫に餅が入っててさ、持ってきた。貰ったの二月なんだけどまぁ問題ないよな」
「お餅? 構わないが……ああ、先生用に餡子入りも持って行くか……」


 毎年恒例の海。
 星杜夫妻の養子、望にとっては三回目。もう二歳になった。もふらさまきぐるみでもこもこになった彼は今、寄せては返す波にキャッキャとはしゃいでいる。ちなみに飼い犬はこの遊ぶ時間に合わせてトリミング中だ。
「元気いっぱいだね〜」
「ふふ、そうですね」
 我が子を見守る夫妻の眼差しはどこまでも優しい。二歳児の行動範囲と成長速度は目を見はるものがある。
「あんまり海のほうに入らないようにね」
 藤花の穏やかな呼びかけに、幼子は「あーい」と返事をする。おっとり優しい夫婦に育てられているからか、彼は随分と素直に育っている。素直というかマイペースというか。
「立派になったねぇ」
 餡子入りのモチ――智美と聖歌に貰ったものだ――を食べながら、棄棄が夫妻と子供を見守っていた。
「あ、棄棄先生」
「オッス」
 夫妻にそう返事しつつ、棄棄は目があった望にニコニコ手を振っている。
「望ちゃん、棄棄先生ですよ。すてきせんせい」
 きちんと呼べるかな? 藤花がそう呼びかけてみる。すると幼子は――しばらく考えた後に、綺麗な貝殻に興味が移ってしまったようで。
「わはは。子供らしくって可愛いじゃないの」
 教師はからから笑った。
 そうそう――そんな棄棄に、夫妻から贈り物があるようで。
「バレンタインなので、ホットチョコレートと……柚子の香りのするあんパンです」
「恵方巻でロールケーキも有みたいですから〜 今年はバレンタインの余裕がなかったので……それも兼ねて、です〜」
 棄棄先生にプレゼントです。差し出されたそれらに。
「おう! いつも美味しいもんありがとな二人とも!」
 棄棄は嬉しそうだ。星杜夫妻もまた、それが嬉しい。
「来年もみんなできましょうね。指切りげんまんです」
「うん。来年もまた二月に海で遊んでくださいね」
 小指。二人分の約束と願いを込めて。
「はいよ! もっちろんだぜ。来年も、その次も、その次もその次もずっとずっと……、皆で海いこうな! 二月に!!」
 教師はしっかと小指を絡めた。

 ゆびきりげんまん、うそついたら〜……



●闇鍋withカキ氷
 徐に砂浜に置かれていたラジカセ。
 そこから流れているのは某人食い鮫の有名BGMだった。
 そしてその傍らには携帯闇鍋セット。更にその傍らには「ご自由にお使い下さい」と書かれた看板。なお闇鍋の中には水も具材もないので本当にただの鍋だ。誰か水を持ってこないと海水で煮込むことになるぞ。ちなみに鴉乃宮 歌音(ja0427)がそこに蛸足一本を切らずに丸ごと投入して去っていった。
 で、この闇鍋の設置人は、まぁ皆の予想通り鷺谷 明(ja0776)である。
 彼は自身専用の闇鍋セットを手に海を泳いでいた。なお彼専用の鍋は魔女もかくやという大鍋で、入った物質はもれなく原始混沌と宇宙の大いなる意思による洗礼を受けるのである。つまりあいてはしぬってことだ。
 そんな明が海で鍋片手に何をしているのかというと、材料調達。海のなんやかんやをホイホイ鍋にいれていく。

 だけでなく。

 鳥人間コンテストで墜落したなんやかんやも、ジョ○ズのように海中から強襲してホイホイ鍋にいれていく。
「フィィィィッシュ!」
 冬の海と言えば鮫だよね。きっと。なお○の中に入るのはブである。ジョブスである。嘘である。あと鮫なのにフィッシュって言った理由は明本人もよく分かっていない。あなたつかれてるのよ。
「お前が闇鍋になるんだよオラッ! オラッ!」
 鍋パァンパァン!(?)

 そんなこんなで鍋が一杯になったので。
 ざぶぁ。海から現れる死屍累々の鍋を持ったガスマスク明。
 流石に人間を闇鍋にぶちこんでも食べたらアカンので捕獲した鳥人間はその辺に投げ捨てて、ゲットした海のなんやかんやを砂浜に設置していた鍋にぶち込んだ。

「闇鍋……しようか」
 振り返る暗黒微笑。
 ぐつぐつ。明の傍らに名状しがたい闇鍋のようなモノ。
「わあい美味しそうな闇鍋〜一回食べてみたかっt 鷺谷さんこれ何入れたの」
 愁也は真顔だった。
「海で手に入れたものだが?」
 それ以上明は語らなかった。
 ので、実食。
 すると、吐血。
「ああ、向こうでじいさんが手振ってるう……」

 詳細はお見せ出来ませんが端的に言うと皆死んだ。
 なお愁也のおじいちゃんは存命である。
 というわけでデザートタイムだよ。

「かき氷食おうぜ! 二月だし!」

 テンション崩壊したアスハが元気良くカキ氷器を手に微笑んだ。スマイル0久遠。唇と髪が同じ色をしている。つまりは真っ青ってこと。
「かき氷食おうぜ! 二月だし!」
 一臣は反射的に復唱していた。寒いわ闇鍋だったわで満身創痍だから誘導に乗るのは仕方ないよね。
「こんなこともあろうかとじっくりコトコト煮込んだかつお出汁シロップを用意してきたZOッッ!!!」
 アスハのテンションがおかしいのは寒さの所為です。
「ヤッター! 海に比べればかき氷めっちゃぬくいやん常識的に考えて! 食う!」
「かき氷? 食べるわよー!」
 友真とエルナもわぁいと盛り上がる。

 で、カキ氷タイムなんだけど。

「寒い上に美味しくな……あ」
 アスハの絶望ポーズ。
「これ、あったかい出汁だと温めの出汁になるだけよね……」
 エルナの絶望ポーズ。
「ぬくい訳ない……シロップにより冷汁感ぱない……冷汁なら帆立入れれば美味いのでは……はっ……寒さで頭……死んでる……」
 友真の絶望ポーズ。
「……」
 遥久は寒さで唇をナス色にしながら食べていたが、やがて約束されし絶望ポーズ。
「海と言えばビールにかき氷でしょ! ってただただ体が冷えていくわぁー!!!」
 遂にエルナが叫んだ。ビール片手に。地団駄。
「明日何人風邪で倒れるのかしらね……」
 もう遠い目をする他にどうしたらいいのか分からなくなったエルナなのであった。

 そんな隙を突いて(?)アイリスはそっと、先ほどの闇鍋の汁を掬ってカキ氷にかけていた。それをそっとカキ氷の列に混ぜていた。
 自分では? 食べませんよ! 火傷したくないもの!
 さてその『アタリ』を手に取ったのはりりか。
 どろっどろに甘いココアを用意し、あとはチョコとかチョコとかチョコとかをカキ氷にかけてゆく。ていうかもう九割チョコ。
「おいしい……」
 チョコすぎて闇鍋霞むレベル。これには流石のアイリスも絶句。
「先生もどうぞ、ですよ?」
 そして通りすがりの棄棄にキラーパス。
「あっ先生色々食べちゃったからお腹一杯なんだわー」
 しかし棄棄これを華麗に回避。

 一方で、アイリスの『いたずら』を見抜いた上でそれにチャレンジする猛者がいた。彼の名はカーディス。
「かき氷をおかずに闇鍋を食す……ということですね。覚悟完了です! かき氷&闇鍋といえども感謝の心を忘れずいただきます!」

 2秒後。

『さ さむ……』
 そこには砂にそんなダイイングメッセージを遺して召されたカーディスの姿が!
「さむい」
 そして禁句ワードを言ってしまった愁也の姿が! 平和に苺シロップでカキ氷食べてただけなのに! そう、ナス鳥人間こと遥久のうさみみというシュールな姿に今更ながら「寒い」という感想が沸いてきてなんだかんだ!

・今年の海のルール
 寒いと言った生徒には「一寒い」ごとに腕立て伏せ一〇〇回です。

 なので腕立て伏せをすることになった愁也。
 その背に、遥久がめっちゃいい笑顔で砂袋を積んでいく。
「背中に乗られるのはご褒美d……砂袋かYO!」
「砂袋だが何か問題が?」
「アッハイ」
「二月はやはり海ですね」
「うんやっぱ二月は海だよねー!!!」
 半ばやけっぱちで腕立て伏せる愁也であった。なお砂袋はエンドレスで積まれ続けていた。

「……」
 一方でオミーも腕立て伏せをしていた。というのも、
「侍から『ら』を引くと何になるでしょうかー?」
 そう諏訪に聞かれ。
「それには引っかからないぜ!」
 と答えると。
「え?」
 ニッコリ笑顔の諏訪にゼロ距離で眉間に水鉄砲を押し付けられたので。
「……ハイ サムイ デス」
 ついつい言っちゃったのである。
「頑張れオミー! 頑張れ頑張れできるできる絶対できる頑張れもっとやれるってやれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ! そこで諦めるな絶対に頑張れ積極的にポジティブに頑張る頑張る愁也だって頑張ってるんだから!」
 その背中には棄棄が乗っていた。凄い熱くなれそうな応援をしていた。
「センセありがとう……! ご褒美です!!」
「今日から君は富士山だ!」


「カキ氷……冬のアイスと同じようなものね」
 一方でイリスはケセランと一緒にレモンとメロンのカキ氷をのんびり美味しく食べていたのであった。ここだけ聖域的に平和。



●バーベキュー!
「風がひゃっこいねぇ」
 凍てつく潮風に歌音は目を細めた。ダイバースーツに白衣という出で立ちだ。白衣は呪われてるので外せない。仕方ないね。なお「ひやっこい」は「寒い」ではないのでセーフである。である。
「まー皆は遊んできなー。私はバーベキューとか準備してるよー」――そう言って皆を送り出して、歌音は宣言通りバーベキューの準備をしていた。なお、裏方仕事が好きなだけである。他意はないのだ。
 という訳で手際よく火を点けて、それを絶やさない。風邪ひいてはいかんからな。
(風邪薬は救急箱に入ってたかな?)
 なんて、思いつつ。食材は質より量で肉野菜バランスよく揃えた。それらをいい具合に切っては焼いてゆく。飲み物はシュワッと爽やかに炭酸をご用意。焼いて食わせ飲ませる、それが今日の彼のミッションだ。

「冬の海は一般の人間がおらんので気兼ねなく遊べるのう」
 黒いビキニの水着姿、ザラーム・シャムス・カダル(ja7518)もまたバーベキューの準備中。その隣には、
「ううううう……」
 キグルミがびしゃぶしゃになったカーディスが震えながらそれを手伝っていた。
「あっだめ……着替えてきます」

 というわけで。

 ちゃんと準備していた着替えのキグルミになりもふもふに戻ったカーディス。
「カーディスはあったかいのう」
 ザラームはカーディスに寄り添い、「なんだか胸の中がほかほかするのじゃ」と眠たげな目に嬉しそうな色を宿した。
 そのままモフモフしつつザラームは目一杯持ってきた牛の薄切り肉とソーセージを網に乗せる。カーディスをもふる。焼けたらひっくり返したりお皿に盛ったりする。食べたりもする。また焼き始める。もふ。以下ループ。
 なお上着を羽織るなどの発想はないぞ! 海だから水着なのは至極当然だしね!
 傍目から見たらカーディスともふもふイチャイチャしてるように見えるかもしれないが、ザラーム本人は真面目に暖を取っているだけだぞ! もふもふ!
「手伝おうか?」
 そこへイリスが顔を出す。
「む? では――」
「あっ……ええと、調理以外で。お皿を並べるとかそういう」
 イリスのその言葉にザラームは首を傾げる。気まずそうに、イリスは答えた。
「その……私が肉を焼くとどうしても毒々しい色になってしまう。他の手伝いはするから、焼いてくれると嬉しい。食材として豚肉と鶏肉は持ってきたから」

 説明しよう。イリスは暗黒料理人だ。作った料理で世界が滅ぶ。
 イリスのダークマターは健在だ。
 イリスのダークマターは健在だ。



 準備が終わればバーベキューが始まる。


 智美と聖歌が作った豚汁と焼きオニギリもそこに加わる。
 料理自慢の焔も加わった。
「二月といえば繋がりの料理を用意してみたよ〜」
 二月⇒節分⇒豆まき⇒豆⇒納豆⇒納豆汁! 納豆以外の具はえのきと豆腐で、トッピングは葱。七味唐辛子もお好みで。
 デザートは藤花が皆の為にと用意したホットチョコレートだ。

 星杜夫妻は三百久遠分のおやつを食べつつ皆の騒ぎを見守っていた。藤花は柚子のパウンドケーキ、焔は小豆ロールパンである。
 キャンプファイアーだ、と友真はズンドコ温まっており、諏訪も笑顔で皆を見ており、りりかはマシュマロやチョコを溶かしてビスケットと一緒に頬張っていた。神楽は調理を手伝いつつ、デジカメで皆を撮影している。なお、闇鍋からずっと撮ってますよ?
 一方で歌音は出来る範囲から片付けを始めて、撤収時間の早期化を図っていた。

 楽しい賑わいはまだまだ続く……。



●きっと、また来年も、そのまた来年も
 夕暮れ。
 青い空が橙色。

 冬の海は独特の趣がある――天宮 佳槻(jb1989)は水平線に沈みゆく太陽に目を細めた。
(元々海は魂が旅立つ場所だったという説もあるらしいし。冬は終焉と再生の季節でもあるのだから)

 そんな佳槻は海では遊ばずに黙々と『準備』を行っていた。今年も、そう、花火だ。並んだ筒。込められた火薬。
「今年も生き延びた訳だな……」
 独り言つ。その代わりに失われた命もあったのだろうか。
(もしかすると自分よりもずっと価値ある人もいたのかもしれない――だからどうという訳ではないが)
 思案と共に、燐寸を一つ。

 花火は元々、御霊送りの為だったという。
 大晦日には御霊を慰め、新しい年を迎えるという行事があったそうだ。
 ちなみに、今年。旧暦の十二月〜一月は新暦の二月。

(これだけ賑やかなら送られる魂も寂しくはないだろう)

 火を、灯す。
 ひゅるるるる。
 打ちあがる。か細い音を上げて。
 空に咲き乱れる大輪達。
 幾輪も。色取り取りに。
 遠くで、生徒達がはしゃいでいる。
 まもなく最後の一縷が空に上った。
 そして、

「さようなら」

 佳槻の言葉は、最後の花が開く音に掻き消える。
 さようなら。それが何に向けた言葉なのか、佳槻自身でさえ分からないけれども。それは確かに、おくる言葉だった。


 最後は記念撮影をしよう、という話になった。
「二月はステキ先生と海で遊ばないと、落ち着かないもの、な」
 アスハが教師へと薄く笑う。棄棄もそれに笑みを返す。
「うっし! んじゃ完全に日が暮れる前にちゃちゃっと撮って帰りますか!」

 では、と皆並んだ。
 二五人、全員だ。

「はむぁ!」
 シャッターの寸前、アイリスはアスハを踏み台にして。
「うぇーいピースピース!」
 友真は元気良くピースして。
 他の生徒も、思い思いの表情で。


 パチリ。
 フラッシュで、その日という思い出を――皆の心に、焼き付ける。


 きっと来年も。
 その次も、次も。
 二月になったら。
 皆で、行こうね。



『了』


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:14人

思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
ドクタークロウ・
鴉乃宮 歌音(ja0427)

卒業 男 インフィルトレイター
紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
踏みしめ征くは修羅の道・
橋場 アイリス(ja1078)

大学部3年304組 女 阿修羅
二月といえば海・
櫟 諏訪(ja1215)

大学部5年4組 男 インフィルトレイター
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
黒の微笑・
石田 神楽(ja4485)

卒業 男 インフィルトレイター
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
JOKER of JOKER・
加倉 一臣(ja5823)

卒業 男 インフィルトレイター
輝く未来を月夜は渡る・
月居 愁也(ja6837)

卒業 男 阿修羅
蒼閃霆公の魂を継ぎし者・
夜来野 遥久(ja6843)

卒業 男 アストラルヴァンガード
真愛しきすべてをこの手に・
小野友真(ja6901)

卒業 男 インフィルトレイター
Walpurgisnacht・
ザラーム・シャムス・カダル(ja7518)

大学部6年5組 女 アストラルヴァンガード
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
撃退士・
エルナ ヴァーレ(ja8327)

卒業 女 阿修羅
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
遥かな高みを目指す者・
志堂 龍実(ja9408)

卒業 男 ディバインナイト
さよなら、またいつか・
シュルヴィア・エルヴァスティ(jb1002)

卒業 女 ナイトウォーカー
撃退士・
矢野 古代(jb1679)

卒業 男 インフィルトレイター
陰のレイゾンデイト・
天宮 佳槻(jb1989)

大学部1年1組 男 陰陽師
撃退士・
音羽 聖歌(jb5486)

大学部2年277組 男 ディバインナイト
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
Cherry Blossom・
華桜りりか(jb6883)

卒業 女 陰陽師
目指せ二月海百周年・
イリス・リヴィエール(jb8857)

大学部3年1組 女 バハムートテイマー