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マスター:ガンマ
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:6人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2015/12/10


みんなの思い出



オープニング

●人はそれを「死亡フラグ」と呼んでいる

「五月病だ」

 教室へ集った生徒達へ、教卓をバンと叩いたクリスティーナ・カーティスが言い放った。
 五月病。それは五月になんだかダウナーになってしまう精神的な症状の総称である。
 でも今は十一月だ。彼女は何を言っているんだろう……。
 と、生徒達が怪訝な目で見ていると。天使は大真面目な口調で説明を続けた。
「周囲の生命体を五月病に類似した状態にしてしまうディアボロが出たのだ!」
 なぜそんなディアボロが。
「知らぬ!」
 そうか。
「兎にも角にも白昼堂々とディアボロが出現したことは由々しき事態だ。既に被害も出ている……」
 眉根を寄せるクリスティーナ。被害、と聞いて生徒達も表情を引き締め直した。
 が。
「このディアボロの所為で、ディアボロが出現した地点である布団専門販売店の人々は皆五月病状態になってぐったりしてしまっている!」
 というのが被害の内訳らしい。ちなみに死傷者は今のところいないらしい。
 まぁ、色々突っ込みどころはあるけれど、ディアボロが出現したことは揺るぎ無き事実だ。となれば、撃退士である学園生は出撃しなければならぬ。
「往くぞ、皆。我々の手で秩序と平和を取り戻すのだ!」
 凛と、天使は言い放つ。

「――絶対に、五月病に負けたりなどしないッ!」

 きりっ。


リプレイ本文

●半年タイムラグ
「12月だというのに5月病だとーなんて恐ろしい怪物なんだー」
 棒読みの不破 怠惰(jb2507)はゴクリと唾を飲み込んだ。
「さて、仕事も終わったし寝るとするかな」
「待て怠惰、まだ始まっていない」
 呼び止めたのはクリスティーナ。「えっ」と怠惰が振り返る。
「もーしょうがないなークリス君が言うならちょっと頑張っちゃう……」
「うむ、私も頑張るぞ。ゴガツビョウになど絶対に負けない!」

 で。

「クリスティーナさん、それフラグぅぅ!!」

 と、シェリー・アルマス(jc1667)が叫んだのが五秒前。
 なんかもうねむいボイスを喰らったクリスティーナが流れるような動作で布団でスヤァしたのが二秒前。

「(あの)クリス君がやられたーーーー!!」

 そして怠惰が戦慄したのが、今。
「だから言ったのに……!」
 マリー・ゴールド(jc1045)は両手で顔を覆う。
「突撃はダメです。アスヴァンは支援型なので仲間と連携と書いてあるです」――『よいこの戦闘教本(初等部用)』の一文を指して宥めたのに、止められなかった。
「へ、変なディアボロもいるもんだなぁ……」
 布団売り場に現れたディアボロ『ゴガツビョウ』、不知火あけび(jc1857)は率直な感想を漏らした。困惑しながらも身構えようとして、足裏から伝わる柔らかさにさらに困惑を。
「布団があっちこっちにあって足場悪……人!? 踏んじゃってすみません!」

 五月病にやられ布団と合体している一般人にすばやく、そして礼儀正しく頭を下げるあけび。礼儀は実際大事である。
「五月病ねぇ……年中めんどくさがりの俺には、全く関係ないなぁ……ふぁ……」
 既に五月病状態とでも呼ぶべきか、日比谷日陰(jb5071)は眠そうな顔で遠慮なく欠伸を一つ。
「自分を知り敵を知れば百戦百姓です。テスト勉強を(一夜漬け)で乗り越えた私は一味違うです」
 日陰とは別のベクトルで自信たっぷりに意気込むのはマリーだ。百戦百姓だ。お百姓さんマッシブ無双パワーだ。
 そんな自信のある(?)仲間にあけびも気を引き締める。
「私には立派な侍ガールになるっていう目標があるから! 五月病にかかってる暇はないよ!」
 敵の声を聞かないようヘッドホンも装備して。

 絶対に五月病に堕落なんかしないッ!

 負けるものか。若干フラグ感も否めない意気込み達――ー
 の、一方で。

(拝啓、先生様。負けたらゴメンナサイ)

 シュルヴィア・エルヴァスティ(jb1002)は心の中で呟いた。その目は淀んだ光を湛え、俯く顔は完全に無表情。
(……勝てないかもしれない。負けるかもしれない。これアカンやつよ)
 何故かやたらやる気のあった(過去形)クリスティーナ――今はナチュラルに布団の中に沈没した――を横目に、内心で緊張がピークのシュルヴィア。
 というのも最近、思っていた以上に己が『精神系』が弱点であることに気付いたからだ。
 確かに己は真面目である。自負している。けれどそれは素行であって、性格としては気分屋なのだ。特に毎年夏は「くっころ」なのだ。
(幸い……五月病とやらには罹った事がない、けど)
 知識としては知っているし、敵がそれを強制的に引き起こすこともまた知っている。

 ……パネェ。

「パネェ……マジハンパねぇわ……」
 震え声。普段の彼女が絶対言わないような、なんかそこはかとなくどこぞの先生みたいな口調で呟いた。
(私にも体裁とか、世間体とかスタンスとかキャラとかあるのよ……クリスの手前、無様な真似は出来ない……! あとこれの報告書絶対アイツ確認するでしょ余計に無様出来ない)

 絶対に、醜態を晒すわけには――!!

 顔を上げたら目の前にそんなことよりチーズ蒸しパンになりたいビームが迫っていた。
「あっ」
 フラグ。

「ぬわーーー!!!」

 こうかはばつぐんだ!
「シュルヴィアさアアアアアアアアアン」
 ぬわーぬわーぬわーとエコー付きスローモーションで倒れるシュルヴィア、あけびがその名を叫ぶ。
「おのれディアボロ! よくも仲間をっ!」
 ジャキン。物陰に隠れたあけびはその手の中に影手裏剣を作り出し、ゴガツビョウへと投擲する。ゴガツビョウに突き刺さる。
 すると反撃と言わんばかりにゴガツビョウが再びビームを放ってきた。あけびはこれをクリスティーナ(その辺の布団にいた)を盾にすることで難を逃れる。
「ふー、危なかった……よくも仲間を!」
 汚い流石忍者汚い。
「クリスティーナさぁぁん!?」
 お布団に完堕ちしたクリスティーナをゆさゆさ揺さぶるシェリー。驚きのあまり「あわあわ」とマトモな声が出ていない。クリスティーナの真面目な姿しか見たことがなかったものだから……。(尚、某遊園地でのアレは真面目なものと解釈している)
「くっ……カタキは絶対とるからね!」
 涙を堪えて立ち上がるシェリー。の、姿はパンダの気ぐるみだった。

「もふられ歓迎、シェリパンダ参上、ってね!」

 それにしても。うわー。シェリーは複雑な眼差しを冥魔に向ける。
(見るからにやる気なさそうなディアボロだね)
 人畜無害とはこのことなんだろうか? 油断なく、シェリーはじりじりと間合いをつめる――が、ハッと気付く。なんかねむい。
「うーん、眠くなってきた……」
 まさか、そのまさか、なんかもうねむいボイスの影響下に。
「でも、今はベッドでなくマットに転がりたい気分……あ、丁度いいマットがある〜」
 寝ぼけた視界はディアボロをなぜかマットと勘違い。ナックルバンドで武装した拳に白銀の聖火がボッと灯る。殴りかかる。力技ではっ倒してやる、あのマットを。
「隙あり!」
 同時にあけびも通路へと躍り出て太刀を構えた。新習得スキル辻風、それを試さんと刃を振るい――
「あれ?」
 振るった刃が布団に刺さる。
「あれっ」
 しかも抜けない。
「あっ」
 その瞬間、ビームが。
「……」
 徐に髪を解き、太刀を置くあけび。
「修行面倒くさいよ〜おこたで蜜柑食べたいよ〜。楽して侍になれる求人ありませんか……あれ、侍って何だっけ」
 そのままお布団へダイブ、抱き枕にしがみついてゴロンゴロン。侍になる目標とかどうでもいい。そのまま幸せそうにスヤァしてしまった……。

 ちなみにその近く、割とお高いお布団のコーナーでは日陰もスヤァしていた。まだ攻撃喰らってないのに。ていうか一目散にベッドに入ったのはこの人である。
「ん? あー、いやまあ、一応作戦、うん、作戦だな? 先に布団に入って寝ておけば、そもそも狙われることなんてねえだろう?」
 天才か。
「ほら、クリスティーナの嬢ちゃんだって、あっという間に寝ちまってるじゃないか、ああならんためにも先んじて布団に入るってわけだ。
 ……いや、それにしても、さすがにこの季節に外で寝るとなると寒いねぇ……んじゃ、お先に失礼させてもら……」
 スヤァ。
 追加でその辺から持ってきた毛布にすっぽり包まり、日陰はお布団と一体化したオフトゥンモンスターと化してしまった……。

 一方、先ほど倒れたシュルヴィアであるが。
 引き続き倒れていた。もふもふのお布団の上で。
「くっ……」
 やばい。
 チーズ蒸しパンになりたい。
 自分でもなに言ってるのかよく分からない。
 ていうか光纏するのも億劫だし面倒臭い。
 だが己にも意地がある、矜持がある。

 この程度の逆境がなんだ。

(私はあらゆる逆境を乗り越えてきたでしょう)
 勝て、勝つのよ私。
 己に勝つのょzzz……

「ぬふぇ……かつのよ……ふへへ……」

 お布団に轟沈。完堕ちそして即堕ち。
 モフモフ毛布に包まれ、ふにゃーっとしたニヤけ顔で涎まで垂れている始末。
 眠いボイスには勝てなかったょ……。

 一人また一人と倒れて眠りゆく撃退士達。
 そこで怠惰がとった行動とは――

「クリス君も寝てるなら私も一緒に寝る!」

 クリスティーナと一緒のお布団に潜り込んじゃう!
(あったかい……これは……幸せ……)
 瞼を閉じる。寝ぼけたクリスティーナが怠惰をもふもふしてくる。
(ディアボロはあんまり好きじゃないけど、あれはセンスあるね)

 だってさ、今こうしてみんなで寝てたら平和じゃないか。

(私はこういう世界を求めてるんだよ。天使も悪魔も人間もみーんな寝ちゃったら、誰も死なないし誰も恨まない。この世界は平和だよー……)
 思いながら、夢見ながら、怠惰は眠りに意識を手放す。

 そして戦場には寝息だけが満ちた……。

 ……。

 ……。

 怠惰は。
 ふわふわ羊の夢を見た。
 たくさんの羊。ぎゅうぎゅう埋もれてみんなで楽しく眠る夢。
 羊は増えて、眠たくなって。
 どんどんみんなが離れていって。

 怠惰は。
 寝るのは好きだ。
 でも起きてゲームしたり、ちょっと料理してみたり、友達と話したりも、好きだ。

「ダメだよクリス君寝ちゃダメだ!!!
 こんなところで負けちゃダメなんだよ!!!」

 跳ね起きた怠惰は真横のクリスティーナを力いっぱい揺さぶった。
(皆がだらだらしてしまえば平和かもしれない。けれどそれは多分楽しくない。なんかやっぱり違うんだよ)
「クリス君はクリス君らしくなくちゃ! 寝てちゃあダメだよ、私は君を理解したい」
「う、うーん……どうした怠惰」
 寝ぼけているクリスティーナ。完全に意識がとろんとろんである。
 やれやれ。起きないならディアボロを倒して起こすまでだ。
 遁甲の術で己の気配を消しつつ、怠惰はゴガツビョウへと振り返る。

 丁度その頃。
 マリーはスマホを手に大真面目な顔をしていた。動画として状況を撮影しているのである。
 決してふざけている訳ではない。表情の通り至って真剣だ。
 謎の敵、ゴガツビョウ。それの弱点を探り、スキルを解明するためだ。解析のために撮った映像(仲間が寝てたりする奴)を何度も再生、じっと見つめる。
「……取り敢えず……近付いたら危ないのですね」
 では、とマリーはスマホをポケットに仕舞い込み、ヒヒイロカネより生者の書を取り出した。
「(仲間が倒れるのを傍観してたおかげで)敵の強みも解ったのです。仇をとるのです」
 割と酷いことを一切の悪意なく大真面目に言いながら、マリーは書より金の円盤を顕現させた。
「攻撃開始です!」
 武器の射程ギリギリより間断なく敢行する攻撃。
 が、ここでゴガツビョウがかえりたい電波を放ってきた!
「ぐぬぬ」
 安眠していた日陰が眉根を寄せた。
「俺はまだ、この安住の地から帰りたくねぇ……」
 布団から出てたまるか。まるでそう言わんばかり、彼は布団を被ったまま匍匐前進を開始した。無音歩行の術によるサイレイントオフトン行進である。
(ちぃと早めに片づけることにするか)
 攻撃動悸:布団から出たくない。布団大福と貸した日陰は冥魔へと間合いをつめ――布団を被ったまま飛び上がった! 繰り出すのは兜割りだ! 自身の体重とオフトゥンの重みを乗せた一撃に、ゴガツビョウがぐらぐらする。
(よし、今のうちに――)

 寝よう。スヤァ。

「寮の自室に、このマット持って帰りたいなぁ」
 一方で帰りたい電波に当てられたシェリー。相変わらずゴガツビョウをマットと思い込んでいる。なぜかは不明。
「私はマットにごろんしたいの!」
 そして『マットで寝転びたい』という謎の願望のため、再び繰り出す聖火の拳。
 その少し離れたところではあけびが、いきなりガバッと身を起こし。
「安眠妨害はやめてよ!!」
 一方的に怒りながら辻風発射。それが当たったか確認することもなく再びお布団へ。幸せなる安眠。

 そんな仲間達と息を合わせ――
 否――息あってなかった全然合ってなかった――
『タイミングは』合わせ。

 災禍:枷剥ギ<カラミティアンスロウス>。
 脚部の能力を一瞬だけ完全に引き出した怠惰が、ゴガツビョウへ迫る。呪言が浮かび黒に染まった両足で地を蹴って、突撃の威力のまま打ち込むように突き出すのはオリエンスの魔剣。
 そしてマットネコロビタイ病に罹患したシェリーのパンチが決まり、日陰のワイヤーによる妨害するような攻撃が決まり、マリーの魔法攻撃がトドメとなって、ゴガツビョウは倒れたのであった!
「はわ……死んだフリかもしれません! いや寝ちゃっただけかもです?」
 安心は出来ない。マリーは倒れたゴガツビョウにビシバシ攻撃を続行する。死人に鞭打つとはまさに!
「マットはきちんと片付けないと!」
 シェリーの戦いもまだ終わっていない。彼女には未だにディアボロがマットに見えている。なんでかは知らん。それはそうとゴガツビョウをマットに見立てたシェリーはそれを畳み始めようとした。

 しかしここでゴガツビョウがしめやかに爆発四散!
 原因はたぶんマリーのオーバーキルじゃないかな!
 勝った! エリュシオン完ッ!


●おはよう

「修行不足だ恥ずかしい!」

 十二月の空にあけびの声が響いた。
 駐車場、寒空の下、顔を真っ赤にしたあけびは大太刀をブンブン素振りしていた。
「……」
 一方のクリスティーナの心もあけびに近いものがある。鍛錬不足だ。寝てたら終わってた。しょんぼり。三角座りで落ち込んでいる。
「……ああいう相手だったんだから仕方ねぇさ」
 目を覚ました日陰がそっと彼女へフォローを入れた。
 さて――彼は視線を店内に戻す。激戦でこそなかったものの、やはり多少は荒らしてしまった。
「とりあえず、無事になんとか倒せたわけだし……ある程度は片づけておかねぇとな」
 若干面倒だが、と付け加え。
 その言葉に「そうね」と同意したのはシュルヴィアだ。さっきのへにゃーっとした寝顔はどこへやら、いつものきりりとした表情。低血圧ゆえとコーヒーで眠気覚ましもして、いつも通り。

 さて後片付けの一方で、シェリーはようやっと見つけたマットでスヤァしていた。
「疲れたしちょっと寝ようかな!」と怠惰も布団で丸くなっていた。

 そんなこんなで。
 任務は無事に完遂した訳だけれど。

「いいこと? クリス。沈黙は金よ。余計なこと――じゃなくて、報告は私の方でやっちゃうから、貴方は何もしなくていいからね?」
 ニッコリ。シュルヴィアはクリスティーナへ微笑みかける。
 こくこく。蝙蝠令嬢より滲み出るただならぬオーラに黙ったまま頷くクリスティーナ。
(良し)
 内心でガッツポーズしたシュルヴィア。これで口伝は封じた。

 次は報告書の改竄を……。
 己の失態を知られるわけには……。

「あ、皆さんお疲れ様です!」
 にこ。マリーが微笑み、シュルヴィアを、そして皆を見渡した。
「なんだかディアボロの攻撃を喰らって、皆さん大変そうでしたね。でも命がご無事でよかったです! 学園の方にも、皆様が無事であることを映像と共に報告しておきました」
「えっ ちょっ 待って……映像?」
「はい! あと写真も」
「写真」
「はい!!」

 恐ろしいのが、マリーとしては悪意0%なところである。

 時に、悪意がないことほど恐ろしいことはない。
 そうまるで五月病のように。うん。



『了』


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: さよなら、またいつか・シュルヴィア・エルヴァスティ(jb1002)
重体: −
面白かった!:4人

さよなら、またいつか・
シュルヴィア・エルヴァスティ(jb1002)

卒業 女 ナイトウォーカー
撃退士・
不破 怠惰(jb2507)

大学部3年2組 女 鬼道忍軍
撃退士・
日比谷日陰(jb5071)

大学部8年1組 男 鬼道忍軍
UNAGI SLAYER・
マリー・ゴールド(jc1045)

高等部1年1組 女 陰陽師
もふもふコレクター・
シェリー・アルマス(jc1667)

大学部1年197組 女 アストラルヴァンガード
明ける陽の花・
不知火あけび(jc1857)

大学部1年1組 女 鬼道忍軍