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マスター:ガンマ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
形態:
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/10/29


みんなの思い出



オープニング

●傷痕の上に咲く花
 アウル覚醒者による過激結社『恒久の聖女』。
 京臣ゐのりの『声』。
 大悪魔サマエルの権能。
 テレビ局および監獄への強襲事件。
 全国で発生し始めたアウル覚醒者による事件。

 それは、そんな中の一つだった。

 遠藤 希理恵。
 中学生である彼女は酷いいじめを受けていた。
 だが彼女はアウルに覚醒し、ゐのりの『声』を聞き、いじめっ子達を皆殺しにするという事件を引き起こす。
 それに対し久遠ヶ原撃退士が出動、彼女は確保され、その事件については幕を閉じた――。

 現在、希理恵は更生施設にて更生プログラムを受けている。
 彼女は非常に優秀だった。ゐのりの『声』の影響からも脱却し、体に負荷をかけない正しいアウルの使い方もぐんぐん習得している。
 その思想も性格も、平凡でおとなしい女子中学生そのもので。かつての時より随分と明るくもなった。
 更生プログラムが完遂した後には、久遠ヶ原学園へ入学したいとも希望している。
 確かに、己のした『殺人』とは重い重い罪だけれど――贖罪だなんて傲慢かもしれないけれど――それでも、今度こそ自分の力を正しいことに使いたい、と。

 なにより、希理恵には『約束』があるのだ。
 いつも抱きしめている、古びたクマのぬいぐるみ。
 それは事件があったあの日、自分の心を救い出してくれた撃退士が貸してくれた宝物。

 何度も、自己嫌悪に陥った。
 自分のような人間、生きている価値なんてないんだと。
 自分は酷い人間だ、悪い人間だ、役立たずだ、いいことなんて何もない。
 いっそ死んでしまえたら……と。

 けれど、それでも、ここまで歩いてこれた。
 この子がいたから、返しに行くよと約束したから。
 挫けそうになっても、立ち上がることが出来た。
 退院するまでお貸しします。事件直後、怪我から病院の世話になった時、見舞いに来てくれたその撃退士はそう言ったけれど、退院してからなんだかんだで返せていない。誰かに返してくれるよう頼もうかと思った。けれど、自分の手で返したいとも思った。
 だからこそ、久遠ヶ原に入学して、自分の手で、この子を返すんだ。
 ありがとう。きっと、そう伝えるんだ。

 それは希理恵が、人生で初めて抱いた確かな希望。


●遠足に行こう
「遠藤さんは学生さんだもの。遠足に行きたくない?」
 ある日、更生施設の職員がそう言った。
 なにも思い付きではない。職員同士で話し合って決めたことだ。希理恵は『優秀』だ。であるからこそ、『更生』の一つとして、偶には外の世界に触れなくては、と。
「遠足……」
 希理恵は瞬きを一つした。
 遠足。いい思い出なんか一つもない――だからこそ、『楽しい遠足』というものに憧れていた。
「行きたい、です」
「よし、決まりね! 丁度秋だもの、紅葉でも見に行って、梨狩りなんてどうかしら?」


 赤、橙、黄。
 静かに流れる川に、鏡のよう。
「綺麗」
 橋の上から、山を彩る紅葉を眺める希理恵は思わずと零した。
 そうだねぇ、と、両隣には二人の職員。『もしも』に備えて二人ともそれなりの実力を持った能力者である。
(しかし……)
 職員達は目を合わせる。
 希理恵の立場を考えて、出来るだけ人が少ない場所を選んだつもりだったのだが。
 周囲には、予想外に――人が多い。
 しかも妙なのだ。
 紅葉を見に来たというのに、彼らはまるで楽しそうではない。寧ろどこか張り詰めているような気配すらも感じる。
 異質さ。
 嫌な予感がする。
「遠藤さん、」
 そろそろ行きましょうか。予定より早いその言葉は、
「遠藤 希理恵さんですね?」
 不意にこちらへ寄って来た青年の声に上書きされる。
「……失礼ですが、どちら様でしょうか」
 怪訝。職員は希理恵を守るように立ちながら、問い返す。
 異変に気付いた希理恵は目を丸くした。けれどその視界は、彼女を守る職員の背中に隠される。
「どちら様?」
 問いかけた青年がニタリとした笑みを浮かべた。
「遠藤 希理恵に殺害された者の兄ですが」
 言うなり向けられた、銃。

 ぱん。


●だって皆、そう思ってるし
 希理恵に殺された少年少女達の遺族の怒りや恨みはどれほどだろう。
「カルトな組織の思想に従い大量殺人を犯した者がのうのうと生きている」という事実に嫌悪感を示す者がどれほどいるだろう。
 死刑肯定派。世間に一定数いるだろう。
 凶悪犯が刑事的責任能力だのなんだので無罪放免になって怒りを覚える者もいるだろう。
 悪には罰を。それはおそらく、常識として浸透している思想ではなかろうか。

 結論。
 殺害された少年少女達の遺族は犯人を憎悪した。
 大衆雑誌、ワイドショー、インターネット、SNS。世間はその憎悪を肯定した。
 遺族は復讐の機会を狙い続けた。
 やがて「悪人がのうのうと生きていずれ世に放たれるなど許すまじ」と正義感を抱いた善意の協力者も加わった。

 結果。
 どこからか――人間の執念とは時に怪物の如しである――希理恵が外出する情報を得た彼らは、復讐を決行する。
 彼らの中にはアウル覚醒者もいた。戦力としては十二分。
 遺族の一人が放った弾丸。彼はフリーの撃退士である。
 一撃は、職員が活性化させた盾に阻まれる。

「遠藤を出せ!」

 それを皮切りに、復讐者達が雪崩れかかる。
 『恒久の聖女』ではない覚醒者は一般人を攻撃できない。そのことを知っているからこそ、非覚醒者達は職員達に掴み掛かる、数の差で押さえ込もうとする。
「希理恵ちゃんッ!!」
 多数の人間に圧し掛かられ押さえ込まれた職員の一人が叫ぶ。
「逃げて! 走って!!」
 言下に再度の銃声、名を呼ばれた少女の頬を何かが掠める。熱い。生温い。弾丸に裂けた頬。
「早くッ!!」
 その声に、我に返って。
 希理恵は走り始める。

「逃げたぞ!」
「追え! 追え!」
「殺せ!!」
「よくもうちの子を!」
「許さない!」
「人殺し!」
「殺してやる!」

 罵声、怒声、多数の足音、銃声。

(どうして、どうして)
 けれど、希理恵は心の隅では理解していた。
 己がしたこと。
 人を殺した。
 誰かの大切な人を奪った。
 私は、悪い、人間だ。
 私の幸福は、彼らの不幸だ。
 彼らの幸福は、私の不幸だ。

 少女は走る。少女は逃げる。
 思い出すのは、過去の傷。
 こうやって、追いかけられて、悪口を言われて。追いつかれたら殴られる。痛いことをされる。嫌なことをされる。怖い! 怖い! 怖い!!
「ああ、あぁ、うわぁああぁああああん」
 気が付けば泣き叫んでいた。
 そして。
 忘れかけていた、あんなにも聞き慣れていた言葉が、

「死ね!!」

 ――希理恵の心を、無惨に引き裂く。
 我知らず、少女は古びたクマのぬいぐるみを抱きしめていた。
 大事な大事なぬいぐるみ。
 返しにいくねと約束をした。
 幸せへ通じている筈の、地獄から這い上がる為の、蜘蛛の糸。

 紅葉が落ちる。血のように。


リプレイ本文



 存在自体が罪なのだ。


●逆襲の逆襲
 血潮のよう。鮮烈な赤。
「ここは私達で何とかするわ。迷える子羊によろしく」
 転移装置から降り立ってすぐ、シュルヴィア・エルヴァスティ(jb1002)は仲間達へ告げた。
「怖いお姉さんは希理恵に近付かない方が……っていうのは冗談だけど、『そっち』にゃ適任が居るからな、任せるゼ」
 狗月 暁良(ja8545)も同じくと、仲間へ視線をやった。眼差しの先には、しっかと頷く山里赤薔薇(jb4090)。

 遠藤 希理恵。
 その名を、撃退士は知っている。
 彼女に、何があったのかも……。

(待ってて希理恵ちゃん。……必ず守るから。あなたの身体も心も全部……!)
 早急に行動開始。赤薔薇の姿が掻き消える。――瞬間移動。あっという間に、彼女は橋の向こう側へ。
 その上空、翼を広げて一直線に飛ぶ影二つ。小田切ルビィ(ja0841)、咲魔 聡一(jb9491)。
「……」
 ひゅるり。黙すルビィの耳に届くのは、竜めいた真紅の翼に風が渦巻く音。
 その表情は硬く引き結ばれている――聡一も同様。繁栄の翼と名付けられた植物が纏う翼の葉擦れめいた羽音だけが、ただ聞こえている。羽ばたきの度、鼻腔に届く甘酸っぱい香り。しかしそれは彼の心を安らがせてはくれなくて。
 その下方では、橋から飛び降り川を水上歩行で駆け抜ける雁鉄 静寂(jb3365)、そして視認を避けるために小天使の翼で低空飛行をする九鬼 龍磨(jb8028)。
(希理恵ちゃんは、二度死んだ子)
 小天使の翼で空を行きつつ、龍磨は思う。

 一度目はいじめっ子と共に毒に呑まれて。
 二度目は僕らに囲まれて落ちて。

「……三度も死なせるものか」
 誓うような言葉。握り締められた拳。

 五人の目指す先は、彼方の赤い山。希理恵のもとへ。

(実際に当事者になったらと思うと……)
 二手に分かれた撃退士、その片方を見送りながら若杉 英斗(ja4230)もまた残った仲間と共に走り出していた。
(襲撃者達の気持ちもわからないではないけれど、だからといって許される行為ではないな)
 目指す先は橋の上、ちょうど真ん中辺り、騒々しい人だかり。
「離して下さい! あの子に危害を加えるようなことは――」
「うるさい殺人鬼に加担する奴が」
 職員の声、復讐者の声。
 状況は混沌としていた。

 極めて複雑な感情。

 それが、シュルヴィアが心に抱いたモノだった。
(誰も彼も迷ってる。この橋のように、一直線に進めればどれほど幸福なのだろう)
 場違いなほどに晴れ渡った秋の空。色取り取りの美しい山。しかし、世界は綺麗なばかりではいられない。
「憎しみは、神をして原罪と言わしめ、神の子を磔にした――人の憎しみが見えるようよ……先生」
 独り言つ。まるで人間の醜い部分を切り出して、顔も瞼も固定された状態で突き付けられたようだった。
 撃退士三人分の駆ける足音。気付いた者が顔を上げる。そこに届いたのは、

「待った待った! ちょっと待ってくださーい!!」
「そこまで! 我々は撃退士です。全員止まりなさい!」

 英斗、それからシュルヴィアの張り上げられた声。
 同時に英斗は紳士的対応を取りつつタウントを発動。呼びかけもあいまって、橋の上にいた一同の視線が全て撃退士へと向いた。
「状況は、」
 ふぅ。ようやっと足を止め、軽く息を整え、「撃退士が何をしに来た」と問われる前に、英斗はニッコリ笑みを浮かべ。
「我々は既に把握しています。そのお二人に恨みはないはずです。貴方達のお仲間数人は遠藤さんの元へ向かったわけで、職員の足止めという目的はすでに達せられています。そんなわけだから、ここはひとつ、いったん落ち着いて話し合いましょう」
 先ずは。言いながら、英斗は押さえ込まれている職員二人を指し示し。
「その二人を解放してくれませんか?」
「離して下さい、私達は貴方達に危害を加えません!」
 職員達も嘆願する。
「『恒久の聖女』ならマダしも、少なくともその二人は善良な覚醒者だぜ? 俺達撃退士みたいにな」
 暁良が英斗と職員の言葉に同意を示し、復讐者達へ職員の解放を促した。
 だが……復讐者達は完全に撃退士達を『敵』であると認識したのか。敵の言うことに従うのが気に食わないのか。その体は動かない。ロクな反論が無いあたり、英斗達の言葉は的を得ているようであるが。
 英斗は相好を崩さないまま、少し肩を竦めて見せる。
「遠藤さんを恨みに思う貴方達の気持ちはわかります。俺も、実際に当事者になったらと思うと複雑な感情を抱くと思いますし……」
「だったら、」
 彼の共感の言葉に復讐者より発生した言葉。に対し、英斗は「でも」と続きを遮り、言葉を続けた。
「日本は法治国家です。日本の法律では仇討ちは認められていません。貴方達の行っている事は、犯罪なんですよ」
「……遠藤がやったことも犯罪だ、人殺しだ!」
 そうだそうだ。人殺しだ。犯罪だ。重罪だ。血走った声が湧き上がる。あいつのやったことに比べたら。

「犯罪と申し上げましたが、こちらからもう少し詳細をお話させて頂いても?」

 凛、と。
 口々の声に対し、声を張ったのはシュルヴィア。彼らが静かになるまで、じっと色素の欠乏した赤い瞳で一同を見据え。
「――警告します。貴方達の行為は明らかな私刑であり、憲法でも禁止されている。直ちに解散しなさい。
 命令に従わない場合、これを強制させる権限を、我々撃退士は有しています。我々撃退士は国内の一定の法律に縛られることなく行動することが可能であることを国から保障されています。これは最後通告です。直ちに解散しなさい」
 事務的で、淡々とした口上だった。調停者然。立場を明確に、そして絶対の隔たりを以て。
 復讐者達がたじろいだ。苦々しげな表情、忌々しげな視線、誰かが言う。「人殺しの加担者め」と。
 対し、細められたシュルヴィアの瞳は冷たいままで。
「『人殺しの仲間』……? その人殺しをこれから殺して人殺しになろうって連中の仲間に、悪し様に言われる筋合いはないわね。黙って下さる?」
 瞬殺された反論。それでも、まだ彼らは何かを言いたげで、しかし言葉も思いつかないのか、口が空気を吸い込んだまま。
「分からない?」
 その様子に、シュルヴィアは言い放った。
「対話は平行線なの。こちらからそちらに歩み寄る事は決してない。『そちらが』こっちに来なさいと言ってるの。ご理解?
 ……今なら只の傷害事件で済ましてやると言ってるの。痛い目見ないと、理解できない?」
「何だ、私達を傷つけるのか! 遠藤のように人を殺すのか!?」
 散々論破され、逆上した者が顔を赤くして勢い良く言い放った。
「なめやがって――」
 詰め寄る一歩、シュルヴィアへ振り上げられた拳。
 振りぬかれた拳は、

「まぁまぁ、落ち着きましょうよ」

 間に割って入った英斗の頬へ。
「っ……!?」
 殴った者は数歩後ろへよろめき、へたりこんでいた。
 例えるなら、そう――巨大な巨大な鉄の門に拳を打ちつけたかのような。弾かれたのだ。殴った勢いがそのままに。
 確かに人間の感触だった。
 なのに、堅い。そして、重い。
 殴ったこっちの拳が砕けそうに痛かった。
 そして当の英斗はというと――無傷。よろめきすらもしない。直立不動。しかも、相変わらずニコニコ微笑んでる。何事も無かったかのように。
「あ。大丈夫ですか、立てますか?」
 視線が合う。差し伸ばされた手。
「う、わぁ!?」
 殴った者が腰を抜かしたまま後退する。
 英斗の笑顔がいっそ、恐ろしかった。
 それは復讐者達の根本的本能へ、強制的にこう理解させる。

『絶対に適わない』と。

「まったく不勉強ね。急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、止むを得ず行った行為。知ってる? 『正当防衛』って言うのよ」
 動揺する彼らへ追い討ちをかけるように、シュルヴィアが言い放った。
「貴方達は私刑を実行中。私達は、防衛する権利がある。……大丈夫。過剰防衛の線引きは心得てるの。法学科修士を甘く見ないで頂戴」
 傍らには笑顔のままの英斗。もう傍らには、黙したまま冷たく睥睨し拳を鳴らす暁良。
 そしてシュルヴィアは、『トドメ』を放つ。

「貴方達はね、もう『詰んでる』のよ」

 一帯が静まり返った。
 ずい、と暁良が一歩出る。
 びく、と肩を跳ねさせた一同を無視し、暁良はそのまま歩調を落とさず職員のもとへ。
「立てっか?」
 伸ばされた手。職員はここで、復讐者による拘束の力がほとんどないことに気が付いた。
「あ、はい……」
 暁良の手を取る。ぐいと引き起こされる。押さえ込んでいた復讐者達がよろめくように後退する。もう一人も同じように立ち上がらされても、止めたり文句を言う者はいなかった。
「ナニ見てんだよ。まだなんかあんのか?」
 まごついたまま呆然と集まる視線の束に、暁良は眉根を寄せた。
 復讐者達は何も言わない。けれどその場から、動かない。最後の抵抗のつもりだろうか。やれやれ。
「ふー」
 深呼吸ひとつ。暁良は肺を空気で膨らませ、

「……用事もネェならとっとと帰れや――!」

 凄味の効いた、動物的本能を恐怖で握り潰すかのような声だった。
「ひッ……!」
 ゾッと背骨を震わせる声に復讐者達が竦み上がる。非アウル覚醒者はたちまちその場から逃げ始め、覚醒者もそれに追随するように走り出した。

 慌しい足音、やがて辺りは川のせせらぎだけになる。

「すみません、ありがとうございます」
 頭を下げる職員達。
「怪我はない?」
 シュルヴィアの言葉に、二人は「大丈夫です」と答える。
「それより遠藤さんが」
「彼女についてなら、もう仲間が向かっているわ。きっと大丈夫」
 安心させるようにシュルヴィアが微笑んだ。それから仲間達を見やる。
「私は二人とここに残るわ。……ないとは思うけど、また『彼ら』が来る可能性も零じゃあないし」
「Понял.ンジャちょっくら行ってくるわ」
 片手をヒラリ、暁良は英斗と共に紅葉の山へと走り出す。


●「愛されたい」などおこがましい
 はらり、はらり。
 紅葉が落ちる。
 赤い色。

 はぁ、はぁ。

 肺が痛い。泣きながら走って、ひりつく喉。
 胸が痛い。心臓がギュウと痛んで、止まらない。
 もう足を止めて死んでしまおうか。
 死にたい。消えたい。いなくなくなりたい。楽になりたい。
 けれど、希理恵のそんな思いは。
 抱きしめたクマのぬいぐるみの柔らかさが、優しい感触が、食い止める。

 直後だった。

 逃げていた希理恵に対し、回り込むように。正面に現れたのは、ショットガンを構えた復讐者。
「あ、――!」
 銃口、睥睨、死ねの二文字。
 銃声、散弾、殺す為に。

「――まあまあ、女の子一人を相手にずいぶん乱暴じゃないか」

 散らばった弾丸は、希理恵には届かない。
 予測防御。間に入って翼を広げた聡一が、全て防御する。
「冷静にお話ししようよ」
 向けられた聡一の眼差し、驚愕に見開かれた復讐者の瞳。
 そのすぐ後、ルビィが、静寂が、希理恵を守るように立ちはだかった。
「遠藤さん。わたし達はあなたを守りにきました」
 振り返る静寂が、呆然としたままの希理恵へ微笑みかけた。
「山里さんも来ています」
「山里さん、が……!?」
 ハッとした顔の少女。ああ、とルビィも頷いた。
「――山里から伝言だ。『ヌイグルミより自分の身を守ることを優先するように』だってよ。山里自身も直に助けに来るだろうぜ」
 その言葉は本当だった。
 駆けてくる足音、その、姿に。
「あ、あ……!」
 希理恵は、涙を溢れさせる。

「希理恵ちゃん!!」

 赤薔薇。
 息が上がるのも構わずに全速で、駆け付ける。 
「お待たせ。……もう大丈夫だよ」
 手を取ったその微笑みに。
 希理恵の心は、どれほど救われたことだろう。
(あなたを闇へは戻さない)
 一度、赤薔薇は希理恵をぎゅっと抱きしめて。
「人殺しの加担者が――」
 殺意露にショットガンを再度向ける復讐者を、見やった。
「させない」
 希理恵から離れ、向ける掌。
 ごう。凍て付く北風が吹き抜ける。紅葉が舞い踊る。吹き飛ばされた者が転倒し、凍りついた体に顔を顰めた。
 それに続けて、静寂が発煙手榴弾を投擲する。白い煙が、赤い景色を覆い隠す。
「遠藤さんはもう裁かれた身です。これ以上の責苦を負う必要はありません、あなたの権利は全力でわたし達が守ります」
 背後の少女へ、静寂は凛と語る。
 そして、
「九鬼さん、遠藤さんを頼みます!」
「はいよっ」
 答えた声、現れた龍磨。希理恵は彼に見覚えがあった。そんな彼が、少女の手を握る。
「泣いてもいい、走ろう! クマさんと一緒に帰ろう!」
「……はい!」
 そう頷いたものの、希理恵の足は震えていた。安堵か疲労か恐怖か。ならばと龍磨は彼女を姫抱きに抱き上げた。
「大丈夫。……絶対に大丈夫!」
 絶対に守る。そう告げて、龍磨は走り始めた。事前に頭へ叩き込んだ地図や地理情報を思い返しつつ、安全圏を目指す。
 それを見送り。
 静寂は煙が晴れぬ間に、軽量化された闇色の個人防衛火気を空に向けた。
 引き金を引く。派手な銃声。そして、彼女は丸めた新聞紙をメガホン代わりに声を張り上げる。

「あなた達には裁判権はありません。法を守らず私的な復讐に出るのなら、こちらも被害者が陰湿な虐めを遠藤さんに与えていたことに対する積極的報復を一方的に開始します。撃たれたい人からこちらに来なさい」

 白の向こう、動揺の声が聞こえてきた。
 煙はやがて、風に吹かれて掻き消える。
 その場に居た復讐者達の視界に――希理恵はいない。代わりにいるのは、撃退士達で。
 希理恵が消えたことに復讐者達は驚いたものの、それが目の前に居る撃退士の仕業であると即座に理解すると唸るように口々に言葉を放った。
「なんだお前ら、なぜ人殺しの肩を持つ?」
「遠藤はどこだ、よこせ! 殺してやる!」
「人殺しの仲間なら容赦はしない!」
「そこを退け! 邪魔をするな!」
 そこに冷静さも理性も無い。暴走した感情。歯止めの利かない激情。
「っ……」
 ルビィは苦渋の表情を浮かべた。復讐者達の怒りと哀しみも分かる。分かってしまう。であるからこそ、心が歪むような感覚に、胸がざわつく。
「まず、俺達は撃退士だ。『恒久の聖女』でもなんでもない、依頼を受けて派遣された。それを分かって貰った上で、聴いて欲しい」
 一つ、呼吸の間を空けて。
「復讐は何も生まない……なんて綺麗事を言うつもりはねえよ。
 だが、報復殺人は許される事じゃない。――退いてくれ。俺はアンタ等を傷付けたくはない」
「……それで私達が納得するとでも?」
 返ってきたのは、突き刺すような敵意の眼差しだった。

『殺人はいけないことだ』

 それは正論だ。
 けれど正論は――理解は出来るが、納得できない場合もある。
 それは、誰だって、分かっている。
 分かっている。分かっているのだ。
 けれど……。そう、『けれど』が、心から無限に湧き上がる。
 心が、そこにあるが故に。

「否定はしないよ」
 一通り言葉を聴いた聡一が、口を開いた。
「理不尽な目に遭わされたら復讐したいのは誰だって同じさ、遠藤さんがしたようにね。
 だから誰かが止めなきゃいけない。遠藤さんの時は不幸にも誰も止めることはできなかった、けれど君達は違う。君達はまだ手を汚していない。まだ引き返せるんだ」
「残念ですが遺族の皆さんには同情しかねます。家族を失ったのは確かにお辛いことでしょう」
 言葉を続けたのは静寂だ。「しかし」と言葉を繋いで曰く、
「被害者が遠藤さんを虐めていたのに気づき、どうして悲劇が起こる前に止めなかったのか。それについて遺族の皆さんに責任は全く無いのでしょうか?」

 もしかしたら。
 希理恵が覚醒しなかったら、自殺していたかもしれない。
 何かの拍子でいじめっ子が彼女を殺していたかもしれない。
 もしかしたら――希理恵の位置に、復讐者がいたかもしれない。

「遠藤さんは法に則り既に裁かれています。そしてここは法治国家です。怨嗟により私刑を加えるのは筋違いではないでしょうか」
 臨戦態勢のまま静寂は言う。『先ほどの言葉』を復讐者達へ思い返させる。
 けれど臨界点をとうに超えていた復讐者達の感情は、それを是とはしなかった。
 が、彼らが動き出さんとした瞬間。
 紅葉をつけた枝の鞭が、復讐者の近くにあった岩を粉砕する。

「冷静に、と言っているだろう? 『不幸な事故』に遭いたくなければ大人しくしてほしいな」

 ツイッグウィップを放った聡一が、にこやかに――その笑みが歪まないように全力を尽くして――言い放った。
「うるさいッ!!」
 返事は、怒号。
 襲い掛かってくる復讐者。
 けれども。
 ルビィの手加減された峰打ちが。
 静寂の威嚇射撃が。
 赤薔薇のスリープミストが。
 悉くを、封じ込める。圧倒的な技量の差で、寄せ付けない。
「くっ……」
 一瞬で復讐者達は彼我の力量差を理解した。させられた。
 そのわずかな時間だけで彼らは半ば戦意を喪失する。なのにそこから去ろうとはせず、形だけは武器を構えて、撃退士を睨んでいる。反論は無い。食いしばられた歯軋りのみ。
 静まり返っている。肌を突き刺すように。敵意だけがそこにある。やり場のない怒りが、憎悪が、そこに蔓延っている。
 見えない針で刺され続けるかのよう。終わらない拷問のようだ。
「なあ、もうやめてやれよ」
 耐え切れなくて――俯いた聡一が、呟く。

「やめてくれ……もう、もうやめてくれよ。たった一人に辛いこと全部押し付けるなんて、そんなの……人間がする事じゃ、ない!」

 上げられた顔。その双眸から零れる、涙という感情。
 腐った血。冥界にいた頃、かつて彼はそう呼ばれ迫害されてきた。疎まれ、蔑まれ、嫌がられ、嫌われてきた。
 だから、聡一は信じている。信じたい。願っているのだ。

 人間は故郷の者とは違う、違ってあって欲しい、と……。

「頼むよ」
 ルビィも言う。沈痛な表情。震えそうな声。頭を下げる。
「俺からも、頼む。もうやめてくれ。退いてくれ。傷付けたくねえんだ。頼むから」
 人殺しはよくない。『けれど』。その『けれど』の先にある傷つけ合いも、よくないんだ。やりたくないんだ。意味なんてないんだ。ただただ辛いだけなんだ。

 怪我なんか一つもしていないのに、胸が、酷く、痛い。
 心だけが、だらだらと血を流し続けている。

「まだ、続けますか」
 静寂が問うた。
 返事はない。
 けれどもう、襲いかかってくる者も憎悪を吐く者もまた、いなかった――。


●幸福という大罪
 最後の発煙手榴弾を投げた。
 飛んでくる弾丸や魔法は、全てその盾で受け止めた。
 斬りかかって来る復讐者は、シールドリポストで吹き飛ばし。
「離さないでね!」
 龍磨は駆ける。希理恵を抱えたまま、赤い紅葉の道の中を。
 予想外に復讐者の数は多い――けれど希理恵に新たな傷はない。ぬいぐるみも無傷だ。
「あ、の」
 落ちたりしないよう龍磨にしがみついたまま、希理恵が躊躇いがちに口を開く。
「重くないですか」
「にははっ。重いレディーなんてこの世にはいないんだよー?」
 安心させるように笑いかけ、龍磨は足を緩めない。
 がさがさ、落ちた紅葉の葉擦れ音、駆ける音。
「……どうして、助けてくれるんですか」
 寸の間の後、少女が問う。
「私、貴方にも痛いことをしたのに……下手をしたら、貴方を殺していたかもしれないのに」
 思い返すのは最初の邂逅。あの時は敵で、互いに『本気』で。
「んー」
 龍磨は穏やかな表情のまま、彼方に視線を据えていた。

『罪は罪。ですが、苦しんだ果てのことです』
『できれば、生きていてほしい』

「……生きてて欲しい。って思った」
 思い返した『あの日』。「どうかな?」と彼は少女に視線を向けた。彼女は、泣いていた。でもその涙は、悲しみでも苦しみでもない。
「私……、今まで、『死ね』ってばかり言われてきて、嫌がられてばっかりで。だから、」
 鼻を啜って、希理恵ははにかんだ。
「『生きて』なんて、言ってくれて、ありがとうございます。……少し、恥ずかしいです」
「どう致しまして!」
 快活に龍磨は答える。
 が、直後に彼は表情を引き締めた。視線の先、先回りしたのか、復讐者達が。
「……!」
 抜けられるか。彼はすぐさま切り抜ける為の『穴』を探す。
 と、その時である。

「待って下さーーい!!」

 大きな声、割って入ってきたのは、英斗だった。
「スっこんでな!」
 それよりも大きな声、咆哮を上げて非覚醒者を無力化させる暁良も到着する。
「はい、そこまで。ストップです」
 周囲の復讐者達を見渡し、英斗は携帯電話を取り出した。武力ではなく話し合いで解決するために。
『もしもし?』
 反論をさせる前に、通話上のシュルヴィアの声が携帯電話より響く。
『こちら撃退士です。皆様にお伝えしたいことが――』

 それは、橋の上の復讐者も、足止めされた復讐者も、戦意を喪失し希理恵殺害を諦めたとの事実報告。

『――以上。さて、まだ続けますか?』
 淡々。突き付ける現実。
 逡巡。復讐者達が歯噛みする。
「なにを……俺達は正しいことをしているんだ!」
「そーかそーか、ヨカッタな」
 一歩、踏み出そうとした復讐者へ。
 溜息のように答えた暁良が、縮地によって一気に加速接近しデコピン――阿修羅の攻撃力で行う痛烈なそれ――をお見舞いする。
「ぐがッ」
 デコピンとは言え特に加減もしていない一撃。バンッと爆ぜるような音、わずかに割れた額から一筋の血。目を見開く復讐者。
(正しいこと、ねぇ)
 暁良は内心で再度の溜息。苛々する。正義? なんだそれは。彼女にとっての正義とは自分自身のことである。苛々する――けれど外面は全く変わらず、ただ冷たく復讐者を睨め付けている。
「で」
 龍磨は復讐者達を見渡した。
「どうする? まだ続けるかどうか、答えを聞いてないよ」
 その言葉に。
 復讐者達は、武器を持つ手を下ろす他になく。


●いたいけな承認欲求
 収束した事態。
 復讐者達は去った。
 一同は最初の橋へと集合していた。

 安堵したからか。希理恵はただただ、幼い子供のように泣いていた。
 そんな彼女に、暁良が歩み寄り。
「……頑張った」
 ぽん。少女の頭に乗せる、掌。

「自信持てよ、お前は過去の自分に……力に訴えちまった自分に、我慢して打ち克ったンだから」

 希理恵が顔を上げる。視線が合う。微かに、暁良は笑いかけた。
「お前はお前の、俺は俺の都合で動く。俺はお前を生かソうと思った。ソレだけだ」
 あの時の言葉を吐いて。
 踵を返す。
「あ゛〜……」
 欠伸めいた溜息と、遠慮のない伸びと。
(似合わねェ)
 自分自身に苦笑が漏れる。
(やっぱ、説得とか助けるとか元気付けるってのは苦手だゼ……)
 歩いていく彼女の背中。それを見つめる希理恵の目からは、いつの間にか涙が止まっていた。
 そこへ、龍磨が金平糖の小袋とペットボトル入りのミネラルウォーターを差し出して。
「あげる。疲れたときには甘いものがいいのだ」
「ありがとうございます」
 涙の所為で枯れた声、受け取った少女はまず水を一口。それから、金平糖を一粒。
「おいしい……」
「よかった」
 にっこりと龍磨は微笑む。「さっきも言ったけどさ」と、笑みのまま優しく言葉を続けた。
「僕は、君に生きていてほしいよ」
「私も同じ意見かな」
 少女の隣、赤薔薇が顔を覗き込む。
「あのね、希理恵ちゃん」
 正面。彼女の目を見据え、赤薔薇はゆっくりと語りかけた。
「……私も、あの人達と同じ立場なら、一緒のことをしてしまうかも。実際、天魔に家族殺されて今でも復讐心は消えてないし」
 失うことは辛い。奪われることは苦しい。無くなるのは悲しい。やりきれない。嫌だ。許せない。元凶を同じ目に遭わせてやりたい。

 赤薔薇は。
 希理恵の気持ちがよく分かる。彼女自身、疎まれ蔑まれ、居場所の無い苦しい人生を送ってきたから。
 けれど。
 復讐者の気持ちもまた、よく分かるのだ。奪われたことが、あるから。

「……」
 黙し、希理恵が俯く。その頭を赤薔薇はそっと撫でた。
「あの人達の気持ちもわかってあげて。家族を失うのは辛い。あなたは人を殺めた。……私もたくさん殺めてる」
「山里さんが……!?」
 信じられないといった様子で希理恵が顔を上げた。赤薔薇が力なく苦笑する。
「幻滅した?」
「そんなことっ、ないよ……!」
「ありがとう。……一緒だよ? だから、二人で考えていこう? どうしたら償えるのか、許されるのかを」
 風が吹く。紅葉が舞う。空へ吸い込まれるように。
 それを視線で追いながら、晴れ上がった空を見上げる赤薔薇は希理恵へ語りかけた。

「前向きに、一生懸命生きていこうね」
「……うん。生きて、いこうね」

 手を握り締めた。
 寂しくて、辛くて、嫌なことばっかりな世界だけれど。
 手を繋げば暖かくて。
 それでも生きていこうと、自己の存在を信じられそうで。
 前を向こう。
 もう少し……まだ生きていても、許されるのだから。

「あ」
 希理恵がパッと赤薔薇へ振り返った。
「山里さん、あの、これ……!」
 そして、差し出されるのは古びたクマのぬいぐるみ。
 あの時、赤薔薇が託した大事なぬいぐるみ。
「ありがとう。……本当に、ありがとう。この子がいたから、貴方がいたから、私……頑張ろうって思えて、それで」
 言いたいことがいっぱいある。もっと上手く感謝を伝えられたらいいのに。でも下手糞な脳味噌は上手く言葉を紡げなくて、代わりに涙が溢れてきて。
「返すのが遅れてごめんね。でも、私、自分の手で返したくって……ありがとう。ありがとう山里さん、私、」
 泣きながら、けれど、希理恵は笑った。
「生きてて良かったって、今、最高に思うの」
「よかった。どういたしまして」
 笑みを返し、赤薔薇はぬいぐるみを確かに受け取った。
 そして希理恵へ渡すのは、プレゼント箱を抱えた可愛らしい白毛のくまのぬいぐるみ。
「はい、病院からの退院祝い」
「……! いいの?」
「うん」
「ありがとう。……かわいい」
「可愛がってね」
「うん! 大事にするね」

 笑いあう少女達。
 ルビィは橋の欄干にもたれかかり、それらを遠巻きに眺めていた。
 流れ続ける川を見つめ、溜息一つ。
 希理恵には未来がある。
 だが、被害者となった少年少女達にも等しく未来はあったのだ。
 目の前にある少女の幸せを心から幸せだと感じられない自分がいることを自覚する。

 この世界において。
 幸せの絶対数は決まっているのだろうか。
 誰かが幸せになれば、その分誰かが不幸になるんだろうか?

「――やりきれねぇな……」

 呟きはせせらぎに掻き消える。
 紅葉の中。聡一は一足先に帰路に就いていた。
(使うことがなくって、よかった)
 ポケットに入れていた携帯用ソーイングセット。希理恵のぬいぐるみが壊れていたら直すつもりだったのだ。
(……遠藤さんは僕を憎んでいるはずだ)
 あの時、伸ばして届かなかった手。届かせようとしなかったのか届かなかったのか、それは、もう、誰にも分からない。
 ただ彼は、逃げるように歩き続けていた。


●後日談
 復讐者はどこから希理恵が外出する情報を得たのだろうか?
 内通者が存在する可能性が高いと推測したルビィは施設の内部調査を提案し、静寂は復讐者自身から聞き込み調査を行った。

 結果、判明したことは――、一般人によるハッキング。
 動機は行過ぎた正義、面白半分、ネットによくある『晒し行為』の一つ。
 そのハッカーに関しては警察の世話になるという。

「……なんとも、まぁ」
 後味が悪い。調査結果資料に目を通し、ルビィは眉根を寄せる。
「まだ『恒久の聖女』や冥魔の仕業の方が良かったぜ。……良かった、なんて不謹慎かもしれねぇけどさ」
「まるで、ホラーものの話によくあるオチですね」
 ルビィに缶コーヒーを手渡しつつ、静寂は先に開けたコーヒーを一口。ふぅ、と一息。

「――結局、一番怖いのは化け物なんかじゃない。人間自身なんだ、という」

 心や感情は時に尊く、美しく。
 けれど時に、最も恐ろしい化け物と化す。

 ルビィは己の左胸に手を当てた。
 ドクンドクンと脈打つそれは、確かに心だった。
「願わくば、最悪の化け物にはなりたくないもんだな」
「ええ……、全くです」

 だから生きていこう。
 今日も明日も、『人間』として。



『了』


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:10人

戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
暁の先へ・
狗月 暁良(ja8545)

卒業 女 阿修羅
さよなら、またいつか・
シュルヴィア・エルヴァスティ(jb1002)

卒業 女 ナイトウォーカー
朧雪を掴む・
雁鉄 静寂(jb3365)

卒業 女 ナイトウォーカー
絶望を踏み越えしもの・
山里赤薔薇(jb4090)

高等部3年1組 女 ダアト
圧し折れぬ者・
九鬼 龍磨(jb8028)

卒業 男 ディバインナイト
そして時は動き出す・
咲魔 聡一(jb9491)

大学部2年4組 男 アカシックレコーダー:タイプB