●夏と言えば!
「「 プ ーーーー ル だ ーーーー !!!」」
颯爽。夏の日差しの下、駆け出したのは、水着姿の生徒達。氷結晶柄の青フリルビキニを着た雪室 チルル(
ja0220)に、アロハシャツに学園指定男子用水着の月居 愁也(
ja6837)だ。
まるで競争するように飛び出した二人は一直線、ビニールプールへだっぱーん。宙に舞う飛沫が、キラキラと輝いた。
「噂には聞いてたけどおっきいなー……!」
水着にパーカー着用の青空・アルベール(
ja0732)は照りつける日差しに対して手でひさしを作りながら、ビニールプールに足を入れる。見渡せば、広い屋上に大きなプール。カナヅチなので泳ぎはしないけれど、水の冷たさが心地良い。
「暑い……この際、ビニールプールでもありがたいです」
学園指定女子用水着にパーカーを羽織った雫(
ja1894)は、早くも夏の暑さにやられ始めている様子であった。
「夏は暑い分、プール楽しみましょー!」
対照的に櫟 諏訪(
ja1215)は元気一杯、アホ毛もみょんみょん揺れている。
「海ではないですけど、こういうのもありですね!」
パレオ付きの黒ワンピース型水着の橋場 アイリス(
ja1078)は脚から伝わる水の冷たさに心地良さげだ。
「夏と言えば海やプール! ……でも先生の場合、海って二月よね」
蓮城 真緋呂(
jb6120)はレース飾りのついた清楚な青ビキニ姿だ。見るも眩しい身体に良く似合う。
「プールも良いですが、今年は寒くない海でも泳ぎたいです」
近くにいた川澄文歌(
jb7507)も苦笑を浮かべ、教師棄棄を見やった。が、
「海は二月に行くものだよ」
ニッコリ頷く棄棄。
「でもプールは夏なんですね先生」
「そうなんです」
真緋呂の言葉に淀みない返事。でもまぁ夏に水浴びできることは喜ばしい!
「ともあれビニールだろうがプール、全力で楽しむわっ」
タッと駆け出した真緋呂。揺れる水面の輝きは、見ているだけで心が涼む。心が弾む。
「……とりあえず、おみおにーさんここは海じゃないな? プールだな?」
彼女達の会話を聞き、ふと矢野 胡桃(
ja2617)が傍らの加倉 一臣(
ja5823)に呟いた。
「言われて気付いた。二月じゃないのに俺たち水辺にいるな?」
「まさか、二月以外に水辺で遊ぶとは……」
アスハ・A・R(
ja8432)も神妙な表情でプールを見つめていた。ハーフパンツ水着にパーカーという格好で寒くないだなんて。寧ろ暑いだなんて。
そのままぐるりと見渡せば、そこにいたのは二月の海と変わらない『いつものメンツ』。ふむ。アスハは一つ頷いた。
「……ちょっと、魔装取ってくる」
その直後である。
「プールといえば飛び込みやろー!」
だばーん。プールに思い切り飛び込んだ小野友真(
ja6901)が巻き起こすスプラッシュ。アスハが、一臣が、胡桃が、べっちょべちょ。
「あっちょゆーまくん待って私泳げねーnわああ」
ざぱーと流される青空。
「……」
真顔で友真の首をガッと掴むアスハ。
「はしゃぎました 正直ごめんなさい ほんまごめんなさい」
そんなこんなの一方では、華澄・エルシャン・ジョーカー(
jb6365)と九鬼 龍磨(
jb8028)が和やかな雰囲気。
「夏が来たってわくわくするね。龍磨さんの水着も今年の新作ね?」
似合ってるよ。華澄の視線の先、ハーフパンツ型水着の龍磨が「にはは」と笑った。
「ありがとー。華澄ちゃんも水着似合ってるねー、さわやかさんだ!」
華澄は青グラデーションのビキニとパレオ、大人っぽい魅力を持った装いだ。龍磨が贈ったシルバーネックレスが、青い水着と白い素肌に良く映える。
「今日は一緒に夏を楽しもう♪」
「うん! 目一杯楽しもうね」
季節の幕開け、今年の夏も親友と共に。
「ああ、ビニールプール! この背丈でも入れるなんて……浸かるぞー!」
仲間に続け、龍磨は華澄と共にプールへ駆け出した。
と――そんな二人がプールに入るや、真正面からバシャーと水をかけられる。クリスティーナだ。羽をわさわさして、手当たり次第の生徒に水をかけている。勿論、近くでバシャバシャ泳ぎまくっていたチルルへもだ。
「ぶはー! やったわね!」
笑顔のチルルが身構える。受けて立つ。
「うりゃりゃー! 水か遊びでもあたいがさいきょーよっ!」
両腕ぐるぐる水かけアタック。
「ほう……なかなかやるな……!」
クリスティーナも全力でチルルへ水をかけ始める。飛沫が飛び、水同士がぶつかり合って、また飛沫。
そして、その傍で流れ弾ならぬ流れ水を浴びまくっていた龍磨と華澄は。
「……よし。僕らも参戦だ。行こう、華澄ちゃん!」
「OK! こっちは二馬力よ!」
颯爽と、水かけバトルに参戦。
「あー……流れ弾が丁度いい具合に涼しいです……」
近くで勃発した水かけ合戦。パラソルの下で足をプールの水に浸していた雫は「ふぅ」と息を吐く。彼女が呟いた通り、水かけ合戦の流れ弾が細かい飛沫となって雫にまで届くのだが、それがミストクーラーのようで心地よい。
普段使っている下敷きを団扇代わりに顔を仰ぎつつ、パラソルの日陰の中、雫は賑やかな光景に目を細める。
「小麦色に焼ける人は良いですね……私だと真っ赤になって全身やけどみたいになりますから」
雫は肌が弱い。それに『見られたくないもの』もある。ぱしゃぱしゃ、遊ばせるつま先で水面を掻いた。
「ええ、全く、同感だわ」
その近く、同意の頷きを示したのはシュルヴィア・エルヴァスティ(
jb1002)。学園指定の女子用水着にカーディガンを羽織り麦藁帽子を被るという装いで、雫と同じくパラソルの下からは動かず、足だけプールで涼ませている。
同意の理由は、シュルヴィアを一目見たら分かるだろう。色素の抜けた髪、肌、赤い目。先天性白皮症。紫外線は大敵だ。溜息の変わりに、よく冷えた麦茶を一口。
「……性懲りも無く、今年もやるのね……オマケに、何でスケールアップしてんのよ……」
「プールは皆大好きだからな」
答えたのは、いつの間にやら近くで水面に揺蕩っていた棄棄。丁度見上げるような様子でシュルヴィアを見ている。
「――あと俺の誕生日だからな!」
「なんというか、絶妙な間を空けたわね」
ドヤ顔の棄棄に慣れた様子で返事をするシュルヴィア。麦茶をもう一口、ふと水かけ遊びの方を見やれば、クリスティーナと目が合った。
何か――天使が言いたげな様子だった。シュルヴィアは去年のことを思い出す。「無理をするな」と言われた記憶。
「クリス。今年は無理しないから。遊んでらっしゃい」
だからここにこうしている。シュルヴィアは、日陰の中から手をヒラヒラ。
「ホントよ。ほら、行ってらっしゃい」
「……む。体調が優れなくなったらすぐに呼ぶのだぞ」
「分かってる、分かったわ」
そう念を押すと、ようやっとクリスティーナは水かけ遊びに戻っていった。
そんな様子を眺めてプールに揺蕩っていた棄棄。の、腕をちょいちょいとつつく者がいる。
「あの、先生……」
マリー・ゴールド(
jc1045)だ。あどけない顔とは正反対な、成熟した身体を大人用ビキニに窮屈そうに押し込めて、どこか恥ずかしそうな様子。
しかし彼女の恥じらいの原因は水着とかではなくて。
「私、山奥育ちで……今までまともに水泳の授業を受けたことがないのです。それで、その、恥ずかしい話なのですが……」
「カナヅチだ、と」
ズバリ、立ち上がった棄棄に言い当てられて顔を真っ赤に俯くマリー。
「今年こそは、泳げるようになるです」
「オッケー。それじゃ先生と水泳ブートキャンプだ!」
「はいなのです!」
張り切って、浮き輪をガッチリ装備して、いざプールへ。
「まずは、顔を水につけるです」
ぱしゃぱしゃ。顔を洗うように水を付けるマリー。
「水の中で息をしなきゃ大丈夫だ」
「分かりましたです! じゃあ次は、息を止めるです」
すぅぅぅぅ。マリーは限界まで息を吸い込んで――ばしゃっ。水面に顔をダイブ。
「……」
10秒経過。
「……」
20秒経過。
「……」
30秒経過。
「……」
「マリーちゃん! それ以上は! 死んじゃう!」
ざぶぁ。ヤバイと思った棄棄が慌ててマリーを自ら引き上げる。
「が……がんばりまひた……」
グロッキーなマリー。彼女は頑張り屋さんだ。でも頑張りすぎて変な方向にアレすぎた。
「大丈夫ですか!」
そこへ駆け付けて来たのは黒井 明斗(
jb0525)だった。プールで安全に遊ぶ為に必要なモノ――それは、監視員! という訳で今日の彼はプール監視員なのである。
「ヒリュウと視覚共有していたらこんな現場を目撃するだなんて……」
キィキィと明斗のヒリュウが主人の周りを飛び回っている。
「そうですねヒリュウ、まずは彼女を助けねば――心臓マッサージを! ヒリュウ、サンダーボルトをお願いします!」
「やめてぇぇぇマリーちゃん死んじゃう! 死んじゃう!」
棄棄の滑り込みでなんとかガチAEDは不発に終わった!
そんなこんなでマリーの水泳ブートキャンプはまだまだ続く。
「んじゃ先生が手掴んであげるから、バタ足してみような」
「頑張りますです!」
「水に顔を入れるのは3秒だけな! 3秒つけたら息継ぎ!」
「はいなのです!」
が、しかし。
「がぼがぼがぼがぼ!」
棄棄が手を持っている&浮き輪を付けているのにも拘らず、無駄に頑張って力んでしまって水に浮かず……息継ぎタイミングもメチャクチャで水を飲みまくるし、泳ぎのフォームも壊滅的で。
「がぼがぼがぼ……ごふっ」
「えっ衛生兵ーーー!」
「お呼びですかー!」
スレイプニルに跨って明斗参上! 水を飲みすぎて沈没したマリーを颯爽と救助し、そのまま保健室へ向かったのであった……。
●スイカ割りだー!
「お……重い……」
若杉 英斗(
ja4230)の両足がプルプル震えていた。その姿はTシャツを着ていて――胸は爆乳だった。というのも、巨大スイカを二つ、胸の位置に仕込んでタオルで固定しているのである。
「どーですか、棄棄先生!! バインバインですよ!!」
そんな爆乳をたゆんぼいんさせながら、英斗はいい笑顔で棄棄のもとへ。
「すげーな若ちゃん、ダイナマイトボディだな! でもそれTシャツズルンズルンにならねぇ?」
「それは気にしない方向で……いや、一度やってみたかったんです」
しかも、「ボン! キュッ! ボン!」を擬似的に実現しようとしたのに「ボン!」しか無理だったという。
(棄棄先生、元気そうだな。よかった)
なんて、英斗は先日のことを思い出しつつ――
「重いから、そろそろいいですかね」
「ええんやで」
棄棄が頷けば、貧乳に戻る英斗。ゴトンゴトン、と大きすぎるスイカが二つ。
「しかしこのスイカ、アルティメット園芸部が作ったんでしょ? ちゃんと食べられるのかな……」
「味については全く問題ないらしいぜ?」
という訳で……。
「スイカ割り大会を始めっぞ!」
どどん。
並べられたのは、アルティメット園芸部作の巨大スイカ達。
「斬ったら楽しそう……」
そう呟いたアイリスの眼差しはどこか爛々としていた。「とてもスイカを見る眼差しではないな……」とアスハが思っていると、ふとかち合う視線。獲物を見る目。「斬りたい」と語る瞳。悪寒。アスハはそっと視線を逸らす。
「仲間内ならどれだけ血の雨降らせてもいいが、周りに迷惑かけるなよ?」
「あらー。そんな、流血沙汰なんて怒られそうなことしませんよー。ネー?」
と、アイリスは刀身にダイヤモンドダスト全開のディープフリーズに微笑みかけるのであった。ていうか仲間内でも血の雨降らせちゃ駄目だからね!
「暑い時はプールにスイカであるよなー」
学園指定の女子水着を着たギィネシアヌ(
ja5565)は忍刀・天月を抜き放った。そして目隠し代わりのタオルを巻いて。
「一番手、ギィネシアヌ。参るのである!」
でやぁと駆け出し、擦れ違い様の一閃。一瞬の間、パカーンと両断されるスイカ。
「おぉー、流石なのだ!」
青空はパチパチと拍手を送った。では次は自分だ、といそいそ目隠しをする。
「先生! スイカの皮は! 装甲に入りますのだ?」
「うーん、結構硬いし装甲かも?」
「OK!」
ジャコン、と青空が構えたのは【Dhampir】と名付けられたショットガン。スイカ割りには何を使ってもOK、銃とか――とあったので遠慮なく銃器。
「皮が溶けたら全部食べれたりしないかなっ」
アウルを装填し、放つ弾丸の名は『死の宣告<ヘルハウンド>』。赤い目の黒犬がスイカに襲い掛かる。がぶー。スイカぐしゃー。どろー。
青空はドヤ顔であるが……散弾で爆裂した上に溶けたスイカの見た目は、グロい!
ていうかなんかこう……グロいね! 爆裂したスイカって!
「剣、銃……なるほどね」
その間にも、次の挑戦者が現れたようだ。
「ならあたいは、拳でカチ割ってやるのだわ!」
フロースバンドを巻いた拳をゴキゴキ鳴らす彼女の名はエルナ ヴァーレ(
ja8327)。
「見せてやるわ! あたいのスイカ割り占いぃー!!!!」
説明しよう! スイカ割り占いとは、スイカをカチ割ってその割れ方で運勢を見る占いである! 一つの悩みごとに一玉使うのでスイカの消費量はハンパないぞ!
※こんな占い実在していませんたぶん。あと目隠しでやったら危険です。撃退士以外は絶対に真似しないで下さい。
「さぁ、何か悩みがある人がいれば占うわよー。……え、いない? え、あ、そっかぁ……」
しょぼくれるエルナ。と、クリスティーナが手を挙げて。
「では私を占ってもらおうか」
「! いいわよいいわよー。さぁ、割ってやるわ!」
俄然やる気が出たらしいエルナは颯爽と目隠しをつけ、拳を構え、いざ――
「でりゃあ!」
「ごふッ!」
腹パンがクリスティーナにクリーンヒット。目隠ししながらその辺を殴ったら、そりゃそうなるよね!
「あなた、不幸が起きるわ!」
※エルナの占いは絶対に当たりません。(ていうかもう不幸起きてる)
ちなみにクリスティーナは、救急箱片手にすぐさま駆けつけた衛生兵ならぬプール監視員の明斗によって介抱されました。
「折角なので、スイカ割りで外した人は罰ゲームとかどうでしょうかー? 当たった人はセーフということでー」
さてお次。「普通通りじゃ面白くないので」と諏訪は『いつもの面子』を見渡しそんな提案を口にした。
「ルールも決めておきましょうかー。目隠しでグルグル回って、範囲攻撃以外でスイカ割るのはどうでしょうかー?」
「いいでしょう、面白そうです」
ニコリ、夜来野 遥久(
ja6843)が頷いた。他の者も意義なしと頷いている。
「では言い出しっぺの法則ということでー、自分からいきますよー!」
目隠しをして、ぐるぐる回って、スナイパーライフルを構えて、クイックショット――あっさり命中。実はこっそりマーキングをスイカに施していたのだ。禁止されてないし!
「ん。じゃ、モモもがんばる」
次、胡桃。ちなみに彼女の水着は、タンキニにウサ耳パーカー。露出を好まない彼女らしい、そして夏らしい装いだ。
そんな彼女が手にしていたのは、剣の人形らしく抜刀・菖蒲。火力も命中もしっかり確保。つまりガチ。
「ヤるからには本気。モモ知ってる。……え? 意味が違う? 気にしちゃいけない」
きりっ。胡桃はしっかとスイカを見据えると、目隠しをしてぐるぐる回る。
そして、
「空駆けよ風。執行形態顕現。特殊選剣:インノ」
歌うように唱えた呪文。特殊選剣顕現【祝歌】。現れる純白の剣。刹那、胡桃の体が剣のあった場所に瞬間移動した。
「ていっ!」
「させないっ!」
胡桃が剣を降りぬいた場所。そこは一臣の眼前。だが急所外しを発動した一臣は、剣を真剣白刃取り。
「もう絶対に何か来るって知ってた……!」
「このスイカ……できるっ」
「胡桃ちゃん……今……あなたに直接……話しかけています……俺は一臣……加倉一臣です……」
ギリギリギリギリ。拮抗する状況。だがここで胡桃が薙弾【Leidenschaft】を発動!
「ていっ!」
その能力を限定解除したことによるなんやかんやでズバァ!
「アーッ!」
オミーのパーカーが切り裂かれる! ぽろりもあるよ!
「うわ、加倉さんパンツ一丁……」
「パンツ一丁……これは流石に……」
愁也と遥久がひそひそと話し合う。
「パンツだけど……パンツだけど、メンズサーフパンツLV3だから恥ずかしくないもん!」
ぶわっ。オミーの絶望ポーズ。
「着ろよオミー!」
などと言いながら棄棄がそっとしじみの貝殻を二枚、オミーに手渡した。
「……どうしろと!!」
再び絶望ポーズ。
ちなみに胡桃はスイカを割っていないけどオミーのパーカーを割った(?)のでセーフということで。
「勝負やな、よっしゃ本気でいこ」
それはそうとで次は友真の番だ。
「皆への範囲攻撃は禁止されてへんからなァ!」
構えた双銃バスタードポップ。友真はバレットストームを放たんとした、が、体が動かない。細い銀の髪が彼の体を縛り上げている。通りかかったギィネシアヌによる髪芝居だった。
「全く、怪我したらどーするのだ!」
(あっこれ……死ぬ……?)
スッ。土下座用意。
という訳で気を取り直してちゃんとやります、はい。
「よっしゃそこやー!」
放つのはスターショット。芸術点狙いだ。芸術点システムがあるか不明だが気にしない。めっちゃきらきらに割る――つもりだったのだが。
ふわり。スイカが、弾をかわした――!?
「スイカ、生きてる、な」
アスハが棒読みで呟いた。空虚ヲ穿ツ<バーストスフィア>。瞬間的に圧縮され開放された空気がスイカを弾き飛ばしたのだ。
そして友真は膝から崩れ落ちた……。
それを横目に、目隠しをしてぐるぐる回るアスハ。どっこいしょと構えたのは135mm対戦車ライフル。ばごーん。割るなんてレベルじゃなかった。爆殺というかオーバーキルである。
爆風に前髪を撫で付けられながら、友真は真顔でその様を見つめていた。頬にスイカだったものがビシャッと飛び散った。
(もはやこれはスイカ氷なのでは……スイカとは液体なのでは……?)
ペロッ うまい!
テーレッテレーする友真。
一方でアスハは「意外に脆いスイカだな……」と対戦車ライフルを手にそんなことを呟いていた。
と――その傍らに、どこかからコロコロとスイカが転がってきて。
とことこ、目隠しをしたアイリスが大剣を振り上げやって来て。
ずばーん。
「ぐふっ」
鮮やかなフラグ回収! 南無三!
「あれ? ただ、なんとなくアスハさんを斬ろうと思ったら斬っちゃってましたネ」
事故だから仕方ないですね、とアイリスはアスハだったモノへ親指を立てたのであった。
ちなみに、アスハはプール監視員こと衛生兵の明斗が治療してくれました。よかったね!
「スイカ割り……ふ、俺のエモノは銃だけじゃない」
次は一臣だ。冷刀マグロ持ってこようと思って科学室へ行ったらくず鉄になったとか言わなければバレない。
「俺にはこれがある! 鎖打棒!」
さぁ目隠しをしてぐるぐる回って! 「マーキングしちまえばこっちのもんですし」とスイカにはマーキング済みだ。
だが、しかし。
「……。……だめだこの子、射程2!!!」
残念、届かない!
だがまだ鋭敏聴覚がある。これでヒントを聞けば――でも彼は気付いた。素直にヒントをくれる人は限られていることを。
「くっ……友真、お前だけが頼りだ!」
「OK! 一臣さんはそのまま真っ直ぐな、真っ直ぐ……」
「真っ直ぐ?」
「そしたらプールにINです」
「えっ」
ぼちゃーん。
「ごめんお茶目心」
「裏切り者!! センセ! ヒントぷりーず!」
「よっしゃ任せろ。いいかオミー、真っ直ぐだ」
「真っ直ぐ?」
「そしたらプールにINです」
「えっ」
ぼちゃーん。
「テヘペロ」
「この裏切り者共!!」
そんなこんなで一臣はスイカ割りに失敗し。
次は愁也と遥久の番だ。
「とりあえず遥久のハンマーになります」
きりっと言い放った愁也に対し、
「円盤投げの要領でいいのか?」
遥久は平然と頷く。そして遠慮なく愁也の足を掴むと、容赦なくジャイアントスイング開始! そして上空へ放り投げる!
「うおおおおおおおおおおおおお」
愁也は空中で外殻強化を発動。頭からスイカに突っ込む!
「着地9.5、少し角度が曲がったな」
冷静な遥久の実況の中、愁也は突っ込んだ勢いのままスイカを食べ進む。そして口いっぱいに種を頬張った状態で顔を抜くと、仲間達へ振り返った。
『阿修羅流精密射撃じゃー!』
※声は出せていません。
とまぁモゴモゴ何かを叫んだ愁也は、全身のアウルを脚部に集中させて爆発的速度で走り出しつつ、ぶぶぶぶぶとマシンガンの如く種を発砲!
だがその眼前に遥久が立ち塞がる。飛んでくる種を愁也方向へ弾きまくる。ちなみにオミーと友真も巻き込む。いつも通りだった!
(自爆しても――)
(巻き込まれても――)
泣かない!!
愁也と一臣と友真の心が、一つになった。
「ああ、そういえば罰ゲームがまだだったな」
もう十二分に罰ゲームが下っただろうにという状況で遥久のこの鬼発言。
「じゃあとりあえず目隠しして回れ」
爽やかな笑顔で、一臣と友真、そしてなぜか愁也にも目隠しを配る遥久。
一体何が起こるんだ――戦々恐々としながら回り始める三人。
へ、容赦なくスイカをバゴンバゴンぶつけ始める遥久。嬉々として、全力で振り被って投げまくる。さながらコメットである。コメット(物理)。
「ぎゃあああああああ」
「敵はどこから来るかわからない、何事も鍛錬だ」
それ鍛錬やない、拷問や。
そして衛生兵(明斗)がアップを始めました。
(凄いなぁ……)
英斗はそんなエクストリームな様子を横目に見ていた。取り敢えず彼は普通(?)にスイカを割るとしよう。
(食べる事を考えて、美しく割らないとね)
さぁ、目隠しをして、身構えて。
「英斗チョーップ!」
さて、そんなこんなで、一通りのスイカが割れた。
「美味しいのだー」
「うん、瑞々しい」
青空と英斗は両手に大きな切れ端を持ってスイカを頬張っている。
爆裂したスイカも、ミキサーにかけてジュースにすればとっても美味しい。プハーとエルナはいい笑顔。ギィネシアヌもごきゅごきゅ飲んでいる。
「やっぱり夏は、スイカね」
食が細い胡桃でも、甘くて瑞々しいスイカは食べ易い。「ですねー」と諏訪も種をぷっと吹いて答えた。
ちなみに、一臣、友真、愁也の三人は、遥久と明斗に治療されていました。
アイリスはディープフリーズの冷たい刃で切り裂き冷やしたスイカを手に、アスハのもとへ。
「先程は悲しい事故がおきましたね……お見舞いとしてわけてあげましょう」
「……ああ……悲しい事件だった、な」
遠い目をするアスハ。冷たいスイカは、美味しかった。
「なんというか、マトモなスイカ割りは一つもなかったわね?」
割れたスイカをおすそ分けして貰ったシュルヴィアが呟いた。
全くその通りである。
●ロケラン戦争だー!
「よろしい、ならば戦争よ!」
「誰が相手であろうとズブ濡れにしてヤるよ」
「覚悟なさい、プールに沈めてあげるわ」
浅く広いビニールプール。
そこに向かい合っていたのは、三人の女。
チルル、狗月 暁良(
ja8545)、真緋呂。
彼女達の手には――ロケットランチャー型水鉄砲が。脅威のロケラン率100%。
「この戦場を乾いたまま制するのは俺だ……」
シリアスに呟く暁良。大人っぽい色気をしたチューブトップの水着で、その豊かな肢体を飾っている。「これで動きが鈍るヤツが居たら、それはそれで」と思っていたが、ここは女の戦場! 三つ巴の仁義無き戦争!
そして物凄く関係ないが、ストン(チルル)VSバイン(暁良)VSボイン(真緋呂)である。脅威の格差社会。主に胸囲が。
「それじゃ、『3,2,1』で始めるわよ?」
真緋呂の提案に他の二人が頷く。
3、2、1―― ファイッ!
「大は小を兼ねる! 力こそパワー!!」
特攻一番、両手にロケランを担いだチルルが突撃しながらロケランをぶっぱ。狙いなどあってないようなもの、取り敢えずドンドン撃ちまくる。
どばーんどばーん。激しい水柱、飛び散る水飛沫。
「ふ……奇遇だナ。俺もロケランが琴線に触れたのさ――!」
大火力ならぬ大水力。迎え撃つ暁良もまた、取り敢えずぶっぱの方針でどっかんどっかんロケランを撃ちまくる。
「ロケランクイーンの座は私のものよ……!」
二人の戦法とは対照的に、真緋呂は蜃気楼によって姿を消した。そして二人の死角より放つのは予測攻撃、ヘッドショット。
「ふふふー、隙ありっ!」
ドヤァ。だが今ので、居場所がバレてしまったらしく。
「ソコか」
暁良の銃口が。
「とりあえず百撃ちゃ当たる!」
チルルの銃口が。
「ふ、かかってきなさい!」
そして真緋呂も迎え撃たんとして、
どっぱーん。
一際大きな水柱だった。
巻き起こった水飛沫が降り注ぎ、雨となる中、力尽きた三人の戦士が水面にぷかぁと浮かんでいた……。
「プールは……いいよね!」
仰向けに浮かんだチルルは空の眩さに目を細め、楽しそうに笑うのであった。
「あー、同感」
暁良も笑う。真緋呂もくすくす笑っていた。
夏は良い、自重せず遊んでも許されるような心地がするから。
●ほっこりタイム
「……先生、大丈夫でしょうか……? 元気であれば、いいんですけれど……」
星杜 藤花(
ja0292)の言葉に、「そうだねぇ」と学園指定水着にパーカー姿の星杜 焔(
ja5378)が頷いた。夫妻が思い返すのは先日の依頼だ。
(食べられる状態だとよいけども)
焔は思う。そして、噂をすれば影。棄棄がひょっこり現れる。
「おー望ちゃん、またでっかくなったな! こりゃほむほむよりでっかくなるかもなぁ」
高い高いと抱き上げるのは、2歳になった夫妻の養子。ヤンチャ盛りの彼は、抱き上げられてきゃっきゃとハシャぐ。
「あ、先生」
「よっすよっす」
焔の会釈に、子供を下ろした棄棄が振り返った。教師の笑顔――に、焔は笑顔しか返せない。先日、彼の吐血を黙っていなかったことを誤魔化そうとしているのだ。
それを知ってか知らずか不明だが、棄棄はいつも通りだった。
先生、そんな彼を藤花が呼ぶ。露出控えめの青いパレオワンピース水着姿、ニコリと微笑む。
「今年も先生の誕生祝いに、家族でいっしょにあんパン作りました」
「三九歳のお祝いに。いつもさんきゅーありがとうですね〜」
差し出すのは大きなアンパン。
「息子が餡子丸めたんですよ」
「家族で作る思い出は、とても大切な宝物なんです。こんな思い出ができるのも、棄棄先生のおかげです。いつも本当にありがとうございます」
「なんと……」
棄棄は感無量といった様子でそれを受け取った。不思議と温かさを感じる。それは星杜家の想いがいっぱいつまった、世界で一つだけの、そして世界で一番優しいアンパン。
「……来年もこうやってお祝いしますからね?」
「また……来年も贈らせてくださいね〜」
「おうよ! ありがとうなっ」
棄棄は星杜一家を全力でハグし、感謝と感動の気持ちを表した。
――そんな棄棄を狙う影があった。
「ステキの尻を揉む!!」
きりっと言い放ったのは蛇蝎神 黒龍(
jb3200)。
「某依頼にて、揉み揉まれ返されたリベンジをしなくてはという電波がどこからか届いてな!?」
あと、最近尻撫でしてないね。ってなった。
とにもかくにも黒龍は激怒した(してないけど)。
かの邪知暴虐(かどうかは知らん)のステキの尻を撫でねばならぬと決意した。
黒龍には変態かどうかがわからぬ。
黒龍は、冥魔の撃退士である。
ホラを吹き、相方さんと遊んで暮らして来た。
けれどもネタに走る事に対しては、人一倍に敏感であった。
「薄い布着れ一枚というこの状況、今撫でずして何時撫でるのか」
走れエロス。
「レッツチャレンジ!」
黒龍は棄棄に某大怪盗ダイブ!
「残像だ」
だが棄棄はいつの間にか彼の背後に!
「この天性のケツ触り魔め! どこでそのことを知った!」
「アッーーー!」
しこたまケツを揉まれた黒龍であった。南無。この天性のケツ触り魔め。
●水着ファッションショーだー!
「棄棄先生もファッションショーにエントリーしておきましたから〜」
ニコッ。文歌が棄棄へアイドルスマイル。
「えっ? マジで?」
「えっ? だって、それは先生が水着姿でここいるからですよ」
「マジか」
「マジです! 先生の人気ならきっと一位間違いなしです〜」
キラキラ。期待。ではと棄棄がニヤリ。
「ほほう。じゃあ俺も手当たり次第の生徒をエントリーさせとく」
という訳で。
水着ファッションショースタートだ!
「アイドルとしてファッションショー、がんばりますっ」
エントリーNo1、学生アイドル文歌。今年のトレンドである、リンゴやサクランボといったフルーツ柄、上下異なるデザインのビキニ水着にパレオ姿で登場だ。
流行に「着られて」おらず、着こなしているのは流石である。
しかもそれだけではないのが文歌の凄さにして彼女らしさ。キレのあるモデルウォーキングで堂々と歩き、中央まで来ると――アイドルの微笑み! 本物のアイドルは、微笑だけで相手の心を自然と友好的にさせてしまうのだ!
そしてパレオを取って華麗にターン。スタイリッシュに舞台袖へ。
「面白そうだな、俺もヤる」
エントリーNo2、ロケラン担いだままの暁良。
先程のロケラン戦争の名残、水を滴らせながらやって来る。だが、それがいい。プールから上がりたての濡れた体は健康的でありながらも何とも言えぬ色気を放っている。セクシーなチューブトップもよく似合っており、決めるポーズも様になっていた。
最後は皆に向けて水鉄砲ロケランぶっぱ、ニッと挑戦的に微笑み舞台袖へ。
「え……なんで私も……」
エントリーNo3、困惑しながらアイリスが。黒いパレオ付きワンピースが、歩く度にひらひら揺れる。白い肌、銀の髪に黒い水着は対照的で良く映える。そしてあどけない顔をしながらも、アイリスはスタイルが良い。でもポーズとか良く分かんなくて取り敢えず大剣を振り回しちゃう系女子である。
「魔法で鍛えたこの身体を魅せる時が来たようね!」
エントリーNo4、物理魔女エルナ。外套をぶわさーを翻し、魅せるのは学園指定水着だ。ドイツの森で動物たちと過ごした彼女の体は健康的にひきしまっており、学園指定の水着も良く似合っている。
「え、えと、とりあえず頑張るです!」
エントリーNo5、保健室より舞い戻りし天性のカナヅチ少女マリー。見よう見まねのモデルウォークを一生懸命する……が! ここでスッ転ぶ!
「大丈夫ですか!」
そしてエントリーNo6、衛生兵(プール監視員)明斗が参上! 彼は学園指定男子用水着だ!
「そうそう。皆さん、熱射病には気を付けて下さいね。ミネラルウォーターなら用意してありますので、遠慮なく飲んで下さい」
監視員との約束だ!
なんかもう水着コンテストは明斗の優勝でいいんじゃないかな。明斗優勝ってことで。
●カキ氷だー!
「プールと言えば――カキ氷でしょ」
プールどこいった。なんて聞いてはならない。真緋呂は棄棄のもとへ駆け寄ると、
「先生、大盛カキ氷作って下さい!」
「よっし、いいぜ。さぁ生徒諸君、俺にカキ氷作って貰いたい奴は並べぇ!」
クリスティーナも加わり、そして始まるカキ氷タイム。
「これが先生作カキ氷」
真緋呂の目の前には、ゴリゴリしてそうなカキ氷。
「イチゴ、メロン、レモン……でも実は同じ味だってTVで言ってました。目瞑って鼻つまむと味同じなんですって」
流石にカレーは違うけど、と苦笑しながら酢昆布味のシロップをかける。たくさん食べよう、頂きます。シロップ味に関してつっこんではいけない。
「氷粗めが先生らしい感じで楽しい歯ごたえですね」
宇治金時白玉入りのカキ氷をごりごり頬張り、遥久が感想を漏らした。
「ふむ……」
雫は興味深そうにカキ氷器を眺めていた。自分が作るとどうなるんだろう? 彼女の料理スキルは前世に何かしたのかレベルだが、流石にカキ氷で何か起こることはなかろう。だって氷を削るだけだし。
そう思い、初めてマトモな料理が作れるかもしれないと淡い期待を抱き、光纏した雫はカキ氷器のレバーに手をかけた。
ごとん。
「……」
カキ氷器から射出されたのは、カチ割り氷塊。
「なぜ……?」
ああひょっとして失敗したのかな。ではもう一度。
ごとん。
「……。棄棄先生、この機械壊れてませんか?」
「雫ちゃん……。前世に何かした? 料理の神様を冒涜するカルト教団の教祖だったとか」
棄棄は割と真顔でそう言った。仕方がないので、雫は棄棄とクリスティーナのカキ氷にブルーハワイシロップをかけて食べ比べることに。
「棄棄先生のは私のよりはマトモですが、好みにあるのはクリスティーナさんの氷ですね」
クリスティーナはそれに凄く勝ち誇った顔をしたという。
「このカキ氷器すごいですね。俺がレバー回すとどうなるのかな〜」
興味を持った焔がカキ氷器を回した。できたのは、新雪のようなカキ氷。
「私はどうでしょうか?」
藤花も回してみた。できたのは、雪のような……けれどふわふわとしたカキ氷。
「望ちゃんはどうかな〜?」
焔は彼を抱き上げ、手を添えて、回してみる。粒が不揃いだけど、キラキラとしたカキ氷ができあがった。
「わぁ! なんだかちょっと面白いですね」
藤花はマンゴーピューレをかけて、カキ氷を食べ始める。その横で、焔は梅酒を手に取った。彼は今月、遂に成人したのである。
「「美味しい」」
重なる声。ちなみに焔のシメはカレーである。
そして料理人の血を刺激されたか。他の人のカキ氷も食べてみたいと彼はスプーン片手に旅立ったのであった。色々味わえるのはきっと、楽しそうだ。
「先生、クリスティーナさん、僕らのイメージでカキ氷作って下さい!」
龍磨は華澄と共にそう言った。いいだろう、と出てきたのは――龍磨には柑橘系のシロップや果物で飾った、元気一杯のカキ氷。華澄へは、ブルーハワイシロップと花と果物で
飾ったエキゾチックなカキ氷。
「わぁ! 私達こういうイメージ? お礼です! お誕生日のお祝いに!」
手を合わせて表情を華やがせた華澄は、お返しにと龍磨と共にカキ氷を作り始める。
「ほい、お二人の分。先生のは誕生日すぺしゃるー!」
差し出すのは、マンゴーで飾ったレインボーかき氷。
「おう、おめありな! それじゃカキ氷で乾杯しようぜ」
カンパーイ!
冷たい氷は、パラソルの影の下で召し上がれ。
日差し対策にサンオイルを塗った龍磨と華澄は、仲良く並んで皆の賑やかさを眺めていた。甘くて冷たい味を楽しみながら、携帯音楽器に繋がったイヤホンで半分こするのは、お気に入りの曲。
「――♪」
そっと、華澄が口ずさむ歌声。二人だけに聞こえる言葉。
澄んだ歌声を聞きながら、龍磨は空に目を細めた。
「来年も、こうやって夏! できるといいねえ」
「うん。ずっと一緒だよ。見て! 水しぶきで虹……指切りしよ。消える前に!」
「ん、虹に約束!」
「……ところで先生? 最近また無理したって小耳に挟んだんだけど……?」
パラソルへ戻って来た棄棄へ、シュルヴィアが言葉をかけた。棄棄はちょっと目を丸くして、そして苦笑。それが全てを物語る。
「ま、いいわ。納得してんでしょ? 好きにするといいわ」
シュルヴィアは詮索しなかった。その代わり、差し出したのは彼女が作ったカキ氷。キメ細かくしっとりとしたものに、抹茶白玉と小豆でトッピング。
「はい、カキ氷。交換しましょ」
「おういいぜ、はいこれ俺の」
「……かち割みたいね……ま、悪くない。好きよ、こういうのも」
「ありがとさん。俺もこういう、しっとりしたの好きだぜ。上品だ」
笑う棄棄はシュルヴィアの隣に腰掛け、水に足を浸けながらカキ氷を一口。遠くの方で蝉の声が聞こえた。
「今日も暑いな」
「夏だもの」
●また来年も
実はその間に壮大なプロジェクトが動いていた。
用意された大玉と小玉のスイカ。小玉のスイカには、一臣が棄棄の顔の下絵を書いていた。
「彫るの手伝うよー」
「俺も手伝うー」
青空と友真が下絵を彫る係としてやってきた。
「下絵通りにしたらいいのだろ……えっだめ?」
しかし青空は絵はアレなので文字の方に注力!
「んっんー、そうだな」
少し考えてから、青空が彫った文字は――「おめでと!」と、書き足された「おかえりなさい!」の文字。
「呼ばれたのだが」
と、ここでクリスティーナが顔を出す。その隣には遥久。彼が呼んだのだ。
一彫りずつに、感謝と祝意をこめて。
空いている場所に、皆で想いを込めて。
黙々。職人の顔で彫り続ける遥久。諏訪、華澄、龍磨、英斗もそれを手伝う。文歌は棄棄が好きなアンパンの絵を彫り、「海苔でまつげ作ってセンセ可愛くしたろ」と友真は楽しげだ。
「あと何作ろかな、年齢も切り出してー」
そんな友真の傍らでは、ギィネシアヌが中華包丁を振るい、別のスイカの中身をくりぬいて容器を作っていた。アスハはカキ氷を作っている。
一方で、重ねられたスイカだるまに胡桃がオバケシーツをバンダナ代わりにスイカに巻いていた。そして一臣が、造花のレイをかける。
最後に菅笠を被せて――完成だ!
「「先生!!」」
何人もの生徒の声が重なった。
「お誕生日おめでとうございますよー!」
「棄棄センセーは誕生日だったンだな。オメデトウと言わせて貰うナ」
「先生、お誕生日おめでと、ですよ!」
「少し遅れたけど……ハピバ、センセ! 来年『も』よろしくね!」
「ハッピーバースデー、かな」
諏訪、暁良、胡桃、一臣、アスハ。
生徒の真ん中には、棄棄を模したスイカのだるま。顔は妙に睫が長い。花で飾られた身体には「HAPPY BIRTHDAY」の文字と、感謝と祝いの言葉と、棄棄と皆の名前が書かれた相合傘。
「ちなみに下絵は加倉さんが愛をこめて描きました!」
嬉しそうな愁也。
「先生誕生日だったんでしょ? これプレゼント♪」
真緋呂は物凄く豪華にラッピングした酢コンブを贈り、
「センセ、お誕生日おめでとうなのぜ!」
ギィネシアヌはスイカを差し出した。表面に棄棄と彼女の顔が彫られている。開けてみて、と生徒が促すままに開けてみれば――その中には苺のショートケーキと、ドヤ顔をした小さなギィネシアヌこと紅闘技:白娘娘。
「先生、私からもお誕生日おめでとうなのだ!」
青空は棄棄をデザインした手作り猫のぬいぐるみをプレゼント。「お誕生日おめでとう」は、「生まれてきてくれてありがとう」のメッセージ。いっぱい、いっぱいの祝福を。
棄棄は――
目頭を押さえていた。
「ありがとう。……ありがとうなぁ、諸君」
毎年、こいつらは泣かせようとしてくるから困る。少し目を赤くして、顔を上げた棄棄は笑った。そして、力いっぱい、生徒一人ひとりを抱きしめる。
「来年も頼むぜ?」
なんて、照れ隠しにちょっと茶化して。本心では――来年も迎えられますようにと、祈りながら。
「ずっと残るよに全部写真撮っとくねセンセ」
「記念撮影! しようしよう」
友真と愁也がデジカメを手にはしゃぐ。
勿論だ。生徒皆と教師とで、ずらっと並んで。
「去年も言ったように、ずっとずっと。先生の幸せ願ってます、です!」
胡桃がそう微笑んで――シャッターが押された。
眩い、閃光。まるで夏の一時のよう。
そして今日という素晴らしい日を、永遠のものにする。
『了』