●地獄のクッキング01
「殺人料理ねェ……河豚、それともカエンタケェ……いやいやァ、トリカブトの方がいい味が出るかしらねェ……」
エントリーナンバー1、自覚有りデスコック黒百合(
ja0422)。彼女が使う食材は、
濃縮豚骨スープ
ネオテーム製剤(砂糖の一万倍甘い物質)
シュールストレミング
ベニテングタケ(塩漬けにすれば完全ではないが毒が抜けるぞ!)
ラーメンの具材(チャーシュー、メンマなど)
「わざと不味くする行為による料理は受け付けないィ……つまり誰も食べた事の無い新感覚料理で挑んでみましょうかァ……不味くなるかどうかなんて誰も分からないからねェ……♪」
そんな彼女が作るのは、皆大好き豚骨ラーメンだ。
「まず濃縮豚骨スープのベースに魚類系のシュールストレミングを投入するわァ」
プシッ。
缶が開く音は地獄の門が開く音。
アポカリプス的悪臭の中、邪悪なスープがグッツグツ。
「麺は普通よォ? 小麦粉こねる時にネオテーム製剤入れたけどォ」
それもハンパない量で。
「具材はチャーシューとメンマと野菜炒めよォ」
ヘルシーでしょォ、と黒百合は中華鍋で野菜炒めを作りだす。野菜の主役はベニテングタケ。うっかり大量。テヘペロ。
「それじゃ全部をドッキングゥ!」
ばしゃー。
「そしてトッピングゥ!」
ばさー。(やめられないとまらない系お菓子の白い粉)
「黒百合特製豚骨ラーメン、お待ちどう様ァ。
サービスでコーラもどうぞォ。温めておいたわァ♪」
味見? してない!
しかもラーメンはぬるい上に麺は茹で過ぎで半生だ!
「うん美味しい」
「甘くて良いね」
それらを普通に美味しそうに食べる美織兄弟。
「殺人料理初心者にはこの程度ねェ……もっと精進しないとダメねェ……」
彼らの食いっぷりに流石の黒百合もドン引きである。
「では此処は『この』ロジーの最高傑作を作ってみせましてよ!」
エントリーナンバー2、無自覚破壊的料理の達人ロジー・ビィ(
jb6232)登場。
「招待状ありがとうございます。クッキングバトルだなんて、腕が鳴りますわ!」
うきうきとしながらロジーは包丁(マッドチョッパー)を手に持った。
「やはりこの季節ならでは……のモノが一番美味しいですわよね? きっと。では色々な旬の食材を使って一品、創作料理と参りましょうか」
と言うロジーの目の前のまな板にはアジが。アジの姿蒸しをベースにロジーらしく破壊げふんげふんアレンジしていく心算だ。
「まずはアジを開きますわね」
ズダン。
「次にゼイゴを取りますわ!」
ズドン。
スマッシュによるマッドチョッパー一刀両断。アジどころかまな板と調理台まで捌かれる。
「次にアジのお腹の中に具材を詰めていきますわね」
ゴマ和えのさやえんどう、潰した梅干し、出汁が良く出るように椎茸と昆布と鰹節と、隠し味に潰しメロン。それらを容赦なく蒸し器にIN。
「……? あらあら、何だか面白い香り。きっと素敵な御料理になること、間違いなしですわっ!!」
等と供述しており詳細は不明なロジーは手際よくソースも作り始めた。旬の蜂蜜をマスタードソースと混ぜ、ふわりとアジの身に。
「……何だか物足りませんわね。そうですわ!! 見た目が寂しいのですわね、きっと」
では。クレソンで青みを足した上で、もう少し派手にという事で茹でアスパラガスを刺し苺をどーん。
「ロジー特製創作料理、完成です! 全て旬のモノで作ってみましたわっ! さ、ご賞味あれ!!」
天使の微笑を浮かべて審査員にデス料理を提供!
「美味しい!」
「旬のものを使ってるのは高ポイントだな」
これには審査員も大喜び!
「あら本当? 良かったですわお口にあって」
ロジーも得意気である。
「料理とは魔術であり厨房とは一種の聖域だ。そして私は魔術師だ変身術専門だが」
エントリーナンバー3、鷺谷 明(
ja0776)。久遠ヶ原百年来の伝統料理YAMINABE、それを継承するヤミナベストである。
「先ずは出汁から作る。今日はジンジャーエールを飲みたい気分だ」
じんじゃーばしゃー。
「味には甘味、酸味、苦味、塩味の四つがあるといわれててな。全部入れればパーフェクトだ」
うま味が無い? 気にするな。という訳でメロン、レモン、臭苦い胃腸薬、死海産岩塩をドボーン。
「風味付けにお酒とかいいよね」
日本酒を一升瓶まるごとドボー。
「最後に隠し味でも入れようか」
そこら辺で毟ってきた雑草ファッサー。
「一時期金がなかった頃は水に醤油と塩入れて鍋で煮込んで食っていたものだ……たまに毒もあるが撃退士なら大丈夫だな! ところで海産物は好きか? 好き? よし入れよう」
返事を聞く前にウニ、ヤツメウナギ、ナマコ、キクラゲを全て丸ごと投入。
「おいしいもの入れたらきっとおいしくなるよね」
謎理論と共にその辺のコンビニで購入したホワイトチョコレート、肉まん、鮭おにぎりを投入。
「そして欲望の赴くままに煮込めばYAMINABEの完成である!」
ちなみに明は不味いものは不味いと思える極普通の味覚所有者だが、不味いものもそれはそれで良しと喜んで食えるだけのアレである。毒はしんどいけど。
「自然感溢れる美味しさだ!」
「いろんな味が楽しめるね」
これも審査員には好評! 見た目は「モザイクかかってんの?」と言わんばかりのアレだが。
「やれやれまたYAMINABE信者を作ってしまった」
そして明のこのドヤ顔。
「後で、推薦者を探さないと……」
エントリーナンバー4、料理の腕はそれなりだが甘味系だけは迷走料理になる雫(
ja1894)。
「不味い物を作って捨てる訳ではないですから、文句は言えませんが……美味しい物を作ろうと普段から心がけている身としては、複雑ですね」
〜雫の料理戦歴〜
2014年バレンタイン 鼓動し続けるリアルな心臓(ハート)型のチョコを作成
2015年バレンタイン 目を離すと這いずった形跡を残す腕型チョコを作成
「……失敗すると分かっている物を期待されても嬉しくは無いのですが」
溜息を吐きながらマフィンの作成を開始。アレンジもせずゲテモノ素材も使わずレシピ通りに作る、が……
材料を合わせただけで熱してもいないのに湧き出す生地!
オーブンで焼くと異様に膨らみ、両目と口に見える窪みが無数に浮かび上がる!
焼き上がりに近づくにつれ、窪みが苦悶の表情に見えてくる!
冷えてくるマフィン(?)から怨嗟の雄叫びめいた音が聞こえるような!
「レシピ通りに作っているのに、何か違う物が出来てしまいます……なぜでしょう?」
それ呪われてるんじゃね?
さて雫は呪われしSAN値直葬地獄マフィンを審査員へ。
「こんなマフィン食べた事ない!」
「今まで食べたマフィンの中で一番美味しい!」
ものっそい好評だが、無言の雫の表情は複雑だった……。
「いつも通りに作ればいいのよね?」
エントリーナンバー5、イリス・リヴィエール(
jb8857)。弟に勧められたのだが複雑な気持ちで一杯だ。
〜イリスの料理前科〜
学園在籍の悪魔にガトーショコラを味見させ、病院送り。
カレーをカレー好きな義弟に振る舞ったら1週間寝込んだ。
味は激甘or辛い苦い渋い酸っぱいが混ざったミラクル味。
「作る料理は二つよ。まずキルシュ・ロレーヌから作るわ」
タルトやパイ生地で作った器の中に具を詰めて焼くフランスの郷土料理、キッシュとも。
材料は2時間寝かせたパイ生地、具材(ベーコン、玉葱、ホウレン草)、アパレイユ(卵、生クリーム、牛乳、ナツメグ)、チーズ。
ここまでは普通。
器型に作ったパイ生地を軽く焼き、下拵えした具材とチーズをパイに敷き詰め、空けておいた中央部にアパレイユを父の思い出と呪いも一緒に流し込み、焼く。
焼きあがれば、物体Xの錬金完了だ!
「次はガトーショコラ」
取り出したのは学校図書館で借りたレシピ本。過去、これに従って作成したら悪魔を倒す()くらいの物体Xになるという不思議現象が起きた。
「今度こそ……」
呪いは込めた。
物体Xはダークマターに進化した!
キルシュ・ロレーヌ 〜我が家は肉と野菜たっぷり〜
ガトーショコラ 〜絶対黒魔術じゃない〜
と言う名の、ダークマター(ガトーショコラ)が物体X(キッシュ)と近づいた事で謎の化学反応が起き何故か合体した名状し難い冒涜的なナニカの出来上がり!
「やっばい美味しいよ!」
「最高! 最高すぎる!」
双子は大絶賛だ。でもそれだけデス料理って事だ。
「料理が下手なことは自覚している。だからこそ愛情と呪いを込めているのだけれど、料理って難しい」
と、考え込むイリスであった。
ちなみに呪い=まじない……だよ!
「お兄ちゃんが『これはメリーの為の大会だ!』って勧めてくれたのです! メリーの美味しい料理をいっぱい出すのです!」
エントリーナンバー6、無自覚系殺人級デスコックメリー(
jb3287)。
〜メリーの料理戦歴〜
幼少時『ネクセデゥス家の赤き魔女』の異名を持っていたとか。
実家に住んでいる時は両親より料理禁止令が発令。
兄と同棲しているがやんわり料理禁止令(なので作る時はこっそり学園で作ったものを持って帰る)
チョコを作れば壊チョコレート。
「メリーはアイルランドの郷土料理、シェパーズパイを作るのですー! それと! チョコ作りにハマッてるのでティラミスも作るのですよ!」
可愛いエプロンも着てやる気は十分だ。
「お兄ちゃんに作るのを思って一生懸命頑張るのです! いつもお兄ちゃんが美味しいって言ってくれるのです! メリーの料理は期待してていいのです!」
では調理開始。
キュィイイイインジジジガリガリガリ
何故か工事現場みたいな、料理では決して聞く事のない音が響く。
料理現場もなんか溶接中みたいな光が出てて見えない。やばい。
「出来ましたのです!」
シェパーズ・パイという名のくず鉄。
ティラミスという名のチョコレート壊。
具が虹色で液状なサンドイッチ各色。
簡潔に言うと世界のOWARIである。
「メリーの力作なのです!! お兄ちゃんは涙を流して美味しいって言ってくれるのです!!」
お兄ちゃんの優しさに全米が泣いた。
審査員も感涙しつつ美味しいを連呼した。すると更に自信を持ったメリーは得意気に、
「やっぱりメリーは料理が上手なのです! これからもお兄ちゃんにいっぱいいっぱい作るのです!!」
お兄ちゃん逃げて! 良いから早く逃げて!
と、その時。
ガララッと戸が開き、エントリーナンバー7Robin redbreast(
jb2203)が登場。泥で汚れた長靴、スカートはたくしあげ、バケツを両手に持った状態で。
「斡旋所から来てって言われたから、来たよ」
言いながらバケツの中身を流しにバシャーすれば、ザリガニ、タニシ、カエル、ヨコエビ、ドジョウがピチピチ。
「田んぼや川で捕まえてきたんだ。新鮮で、たんぱく質が豊富だよ」
ニコッ。
ロビンはサバイバル食に親しんできたため、貧乏舌の持ち主だ。食べられればそれでOK、何が美食かは分からない、味(嗜好)<栄養価(生存性)、胃に入れば全て同じ。
「じゃあ調理するね」
言うなり獲物を生きたままフライパンにぶちこみ焼き始める。ロビンの知る料理とは戦場にてを想定しており、レストランレベルの衛生を期待してはならない。また道具がない場合に備えて料理法も直火焼きなどといったものがメイン、更に調味料は不使用。食材そのものを味わうのだ。
「でもここは家庭科室だから、あたしなりにお料理するよ」
ロビンは普段、校内食堂で食事する為料理はしない。だが仕事として要求されたのならばと今日は張り切っていた。
「栄養を豊富にしないとね。骨折しない為にもカルシウムっと」
牛乳ばしゃー。
「泥臭さを消さないと」
その辺に置いてあったコリアンダーばさー。
「脳の為にはブドウ糖だね」
苺ジャムぼちゃー。
「食中毒防止の為に火をよく通して……できたよ!」
田んぼと川の泥臭い仲間達炒め 〜イチゴミルクとコリアンダーを添えて〜
盛り付け? なにそれおいしいの? 手づかみで豪快に食べてね! という事でフライパンそのまま提供ドン。今までのとは別ベクトルでグロい見た目だ。
「身近な生き物はこんな味なのか!」
「自然を感じられる逸品だね、実にグッドだ」
食事風景がダントツでグロイぞ!
「よかった。おかわりたくさんあるからね」
ロビンは満足気に微笑むのであった。
「料理バトルですか……わたくし、料理は得意ではありませんけど頑張ってみますわね」
普通に作ってみますわ、とエントリーナンバー8長谷川アレクサンドラみずほ(
jb4139)。
「そうですわね……やはりわたくしはイギリス伝統の料理を披露いたしましょう。ひとつはイングランドではなくスコットランドの料理なのですけど、ハギスなんていかがかしら?」
ただのクッキングバトルと思っている時点で雲行きが怪しいが、以外にもみずほは手際よく料理をし始めた。羊の内蔵を牛脂とハーブ、玉葱を刻んだものと混ぜ、香辛料を加えて羊の胃袋に詰めまして、それを蒸す。
「ハギスはスコッチウィスキーとの愛称は抜群、とのことですわ! ……まあ未成年ですから飲めないのですけど」
何故だろう、ちゃんと出来てるのに見た目がグロい謎料理ハギス。
「二品目は、これもあまりわたくし達アッパークラスの人間は食べる料理ではありませんのですけど、ウナギのゼリー寄せですわね。テムズ川で採れたウナギをぶつ切りにして、塩で味をつけて弱火でコトコト似たものを冷やし固めるのですわ」
完成品がこちr……うわああああああ。あれ、これロビンの料理で見たぞ……?
「付け合せにマッシュポテトもいかがかしら?」
マッシュポテトが凄く神々しく見えるのでイギリス怖い。
「あとは最近流行りのデザートを加えましょう。こちらですわね、チョコバーをフィッシュアンドチップスの衣をつけて揚げたものですわ」
カロリーのことなど一切考えてないからやっぱりイギリス怖い。
「さあ、召し上がれ!」
みずほ特製イギリス料理フルコースの完成だ!
凄い、何の問題もないのに見た目がえぐすぎる! イギリス怖い!
「「イギリス最高!」」
だがメシマズ愛好の双子には大絶賛のようだ。
良かったと微笑むみずほは、折角なのでとエントリナンバー1〜7の料理(地獄の豚骨ラーメン、マジキチキッチン創作料理、YAMINABE、呪われしSAN値直葬地獄マフィン、名状し難い冒涜的なナニカ、世界のOWARI、田んぼと川の泥臭い仲間達炒め)を少し食べてみた。
「あら! 大変美味しいですわね!」
世界的メシマズ国家イギリス出身のみずほの味覚はお察し下さい。
結論、イギリス怖い。
めでたしめでたし!
「別に怒っている訳ではありませんよ。ただ(肉体言語による)OHANASHIがしたいだけですから」
後日、斡旋所には無骨な鉄塊大剣を構えた雫が乗り込み、彼女を推薦した者を【閲覧削除】したのだがそれはまた別のOHANASHI――
『了』