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マスター:ガンマ
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/11/10


みんなの思い出



オープニング

●夜行性俺達
 眠れん。
 棄棄は布団に寝転がったまま、窓から月を眺めていた。
 眠れん。
 今日に始まった事ではないが。何せ己は夢見が悪い。寝れば大抵、悪夢なのだ。だからこんなにクマが酷い。
 眠れない……。
(そうだ)
 折角だから、こんな夜は楽しんでしまえばいい。

●スクールのルーム
「こんばんは諸君〜俺だ」
 夜の教室、集った生徒の前に教師棄棄が現れた。
 良く集まってくれた!と教師は笑う。というのも、今夜ここにいる生徒は皆、棄棄からの正式な依頼として集められたからだ。

 ――夜行性生徒募集!
 夜型な生徒諸君、今夜ちょいと集まらんか?
 諸君の夜の過ごし方、楽しみ方、夜型な理由、夜の好きなところ、なんでもテキトーにだべり合おうぜ!
 夜型っ子じゃなくても、夜更かししてみたい諸君も参加OKですわよ。
 お菓子も用意しています。
 一緒に夜更かししようぜ!

 そんな募集文の主はいつもの様に教卓に座ると、一同を見渡しニカッと笑った。
「よっしゃ! 俺達の夜はこれからだ!」


リプレイ本文

●俺達の夜はこれからだ
「こんな夜に、なにか緊急に対処すべき案件が発生したんですか!?」
 教室の戸を開けて飛び込んできたのは若杉 英斗(ja4230)。だったが、棄棄からかくかくしかじか説明を受けると「なんだ」と肩を下ろし。
「本当に夜更かしカーニバルだったとは……先生の事だから『残念! ●●でしたー』系かと思いましたよ。いや、何事もなくてよかったですけど」
「うん、それは夏の暑さで頭が沸いた時だけだからね」
 ある意味通常運転。その様に、窓際の一番前の席に座したシュルヴィア・エルヴァスティ(jb1002)は盛大に溜息を吐いた。
「先生、貴方稀によくこういう依頼出すけど、それで単位とか出して大丈夫なの? 怒られないの?」
「ばっきゃろう! 日常だって撃退士にゃ必須なんだ、ノホホンとする事は諸君にとって必須科目なんだよ!」
「ああ……成程ね」
 ネタにマジレスする常識人の図、であったが、シュルヴィアの予想通り、結果的に呆れ諦め納得するという――『通常運転』であった。

 さて、今夜は眠れない夜。眠らない夜。

「私も、眠れない日々だから」
 教卓の棄棄のすぐ傍、一番前の席で矢野 胡桃(ja2617)が微笑みを浮かべる。
「だから棄棄先生? のんびり夜更かし、しませんか?」
「おうよ! 今夜は気兼ねなく夜更かしOK、俺様が許可する!」
「はーい! 了解、です」
「ひゃっはー夜更かしだー!」
 言葉を続けて一番後ろの席で万歳をしたのは紀浦 梓遠(ja8860)。そのまま机の上にお煎餅を目一杯広げてゆく。普通の醤油煎餅から、何だかよく分からない煎餅らしき物体まで、無駄に種類が多い。
「何かよく分からない物もあるけど、どーぞ!」
「こんばんはせんせー! 軽食を用意したので皆で夜食を食べましょうー!」
 便乗して顔を出したのは冬毛もふもふ黒猫忍者着ぐるみのカーディス=キャットフィールド(ja7927)。
「カーディス、今日の献立はなんだ?」
「は〜い! ミルクたっぷりホットココア、サラダとエビのサンドイッチ、プリンと、それから……アンパンですー!」
 棄棄に元気よく応えつつ、「沢山持ってきましたのでどうぞ」とカーディスは持ち前の身軽さで皆の手元へシュタタタッと軽食に飲み物を配膳してゆく。ついでにお煎餅も失敬。
 それに「お、さんきゅ」と会釈したのは、ジャージにポニーテール姿の小田切ルビィ(ja0841)。その手元、机の上にはノートパソコン。軽快にキーボードを打って校内新聞のレイアウトや校正作業をこなしながら、その目はちらと煎餅を食べている棄棄の方へ。
「……ふーン。棄棄センセーは不眠症なのか……そりゃ大変だな」
「そうなんだよねー寝付き悪い系男子」
 へぇ、と応えるルビィはノートパソコンを閉じ、一つ伸びをして。
「――ま、1人だと寝ちまいそうだし。偶にゃこんな夜があっても良いか……」
 小休止だ。夜食もある事だしな、とルビィは用意されたココアを飲んだ。
「腹が減っては戦は出来ぬ、ってな? 長い夜を乗り切るには菓子だけじゃ足りねえぜ。……つー訳で」
 スポーツバッグを漁り、取り出したるは――

「徹夜と言えば……夜食! 夜食といえば……そう、カップ麺!」

 ででどん、と机の上に並べられるインスタントラーメン達。の横に、ナチュラルに添えられているコーヒーフレッシュやトマトジュース、etc。
「俺みてぇなカップ麺上級者ともなると、普通に食うんじゃ物足りないんだわ。……例えば」
 言下、カレー味のカップ麺にトマトジュースとお湯を半々ずつ注ぎ始めるルビィ。その行動に躊躇いはない。
「3分待ったら完成っと。見た目はちょいとグロいが、味の方はトマトパスタっぽくてイケてるぜ?」
「へー。写メ撮っていい?」
 好きだけど世間一般から見たらアレかも、という点で、変な煎餅も持ってきた梓遠はなんだかルビィにシンパシー。煎餅のしょっぱさとプリンの甘さを味わいつつ、持ってきたスマートホンでルビィのラーメンを撮影。SNSにアップロード。
 その様子を、梓遠が持ってきた『煎餅クッキービスケット』という意味不明なモノを齧りつつ、ルビィはニッと微笑んで。その手にはカップ麺とコーヒーフレッシュがあった。
 そしてそれを――大錬金!
 棄棄はちょっと真顔になっている!
「これがまたシチューやクラムチャウダーみてぇに美味いんだわ。騙されたと思って1つ」
「マジで」
「マジですセンセー」
「……。革新的な味だな!」
「でしょ?」
 さぁさぁどうぞ、とルビィは皆にも創作カップ麺を振舞ってゆく。メッチャ笑顔だ。

「眠い」
 ルビィ作のネギ納豆豚骨ラーメンをずずずと啜りつつ、英斗は湯気に眼鏡を曇らせて呟いた。
(今夜は徹夜か!?)
 眠気覚ましに梓遠の激辛煎餅を齧り、英斗は思う。明日は講義休んでもいいだろか……明日の一限って……、
「棄棄先生の体育って、明日の何限でしたっけね。あれ、実技指導だったっけ?」
「フフ……」
 遠い目の生徒に、意味深な含み笑いの教師。
(そうだ――明日の事は、今はいい。今を精一杯、それがジャスティス!)
 眠気なんかに、絶対負けない!
「しかし、体育とか実技指導をしていたら、夜はグッスリ眠れそうなイメージありますけどね。先生は寝つき悪いんですか」
「夢見がね〜悪いんだよな。寝てもすぐ起きちゃう時もあるし〜」
 どんな夢、とは語らない。夢見が悪い、としか言わない。だが笑っている。笠の影の奥、隻眼は笑うだけだ。
(先生、なにかあるんだろうか)
 英斗は思う。
(クマも酷いし。そういえば、このあいだ先生の過去に絡んだ依頼の報告書を読んだな。……撃退士をやっていれば、そりゃいろいろあるか)
 詮索は野暮か。だが心配ではある。色々混ざった思いを込めて「俺の分のもどうぞ」とアンパンを教師に差し出した。
 一方のシュルヴィアは夜行性人間、これからが活動時間で眠そうな気配は欠片もない。
 それに棄棄は意外そうだ。普段の品性方向な振る舞いから「てっきり早寝早起きさんかと」と声をかければ、カーディス作あんぱんをちまちま頬張る彼女は「ああ」と頷いて、
「夜更しは勿論、翌日午前講義が無い日にだけ。ある日だったらそりゃ寝るわよ。講義中に寝るのはいけない事よ」
 明日も午前は無いから付き合うわよ、とシュルヴィア。彼女らしい言葉に「成程」と笑んだ棄棄は続けて問うた。
「もし講義があったら?」
「……あった時に考えるわ。いいじゃない。明日はないから付き合える、で」
 視線を窓の外、月へと移す。餡子の甘い味をココアで流した。甘い味。徐に語るのは、夜型の理由。
「元々夜に月を見るのが好きだったってのもあるけど……ま、身体的な意味も多分にあるわ。見ての通り、『現実的な』アルビノなものでね」
 私も『幻想的な』アルビノに生まれたかったわ。色素のない髪の先を指に絡める。健常な者から見れば珍しいかもしれない。だが本人にしてみれば色素欠乏とは負担以外の何者でもないのだ。
「と、御免なさいね。愚痴は楽しくないわ。……そうそう、過ごし方ね。基本はずっと読書かしら。オーロラ見に行く事もあるけど」
「オーロラ!?」
「あぁ、フィンランドの実家はね、夜は大体0度を下回る所なのよ。夏でも一桁とか、そんな感じ。夜更かししても出歩くのは余りないわね」
「さっむ……凍死しちまうな」
「日本に来ていいと思ったのは、ずっと気軽に散歩できる事。凍死しないって、素敵ね」
 と、そこへ「夜の楽しみ方の話です?」とカーディスが顔を出した。空のカップにココアのお代わりを注ぎながら、彼は語る。
「そうですねー普段は紅茶を飲みながら本を読んだり、明日のご飯の下準備をしたりですね〜。月が綺麗な夜は外をお散歩したりします! 満月の時などすごいですよ! 月の光で影ができるのです」
 昼にはない雰囲気が中々楽しいのですよ、と彼は上機嫌に耳をピコピコさせた。
「それに夜間限定でこっそり開いている路地裏のお店にお邪魔したりと夜も楽しめるのです。あ! もちろんお酒を出すようなお店ではありませんよ? ラーメン屋さんとかカレー屋さんとかパン屋さんなのです」
「あ〜、分かるわ。夜中コンビニで肉まん買ったりとか」
「えぇ。買い食いとても楽しいのです」
 棄棄と一緒にサムズアップ。
 そんな会話を、梓遠は色々もぐもぐしながらスマホを弄りつ聞いていた。じゃあ僕も、と語り始める。
「僕は元夜型人間でさ、最近は割と規則正しい生活を送ってるんだよ? まぁ、二週間に一回ぐらいは徹夜するけど」
 その時は大抵はパソコンかゲームか映画鑑賞か。主に溜め込んでいた物の消化だ。因みにこれをやる度に姉分に怒られるのだが、全く気にしていないのはここだけの話。
「でも中学の頃は完全な夜型だったんだよ」
 顔を上げて苦笑する。不登校も相まって昼夜逆転状態だったと少年は言う。
「夜ってお昼と違って静かでしょ? 僕の事馬鹿にする声も、嗤い声も何にも聞こえなかったから安心したんだ。じーっとしてたら聞こえるのは風の音ぐらいで……僕はそんな静かな夜が好きだったよ」
 でも。梓遠は平和な周囲を見渡し、楽しげな談笑の声を聞き、薄く微笑みを浮かべた。
「僕、この学校に入って本当によかったって思う。大変な事もいっぱいあったけど、それ以上に大切なものも沢山できたから」
 そのまま照れ隠しの様に俯き、スマホの画面へ。ディスプレイの光――照らされた瞳が一瞬だけマゼンタの色に輝いて。
「……本当に、よかったよ」
 その呟きは、誰にも聞こえない。

「しかし、夜の教室ってなかなか来る機会ないですね」
 カーディス作サンドイッチを頬張る英斗は随分広く感じる教室を見渡す。
「こっそり忍び込んで、好きな娘の椅子に座ったりするんですか。こっそり忍び込んで、好きな娘のピアニカを吹いたりするんですか」
「してもいいのよ、若ちゃん。俺は見ないふりしてたげるから……」
 そっと目を伏せる棄棄、危うくサンドイッチを詰まらせかけた英斗は慌てて「いやいや!」と手を振った。
「俺はそんな事はしませんけどね! そもそも、俺もう大学だから、決まった教室の決まった席ってないしな」
「あぁ、大学ってなんかこれまでと違うよなぁ」
「ですねー。そうそう、合宿とかで夜にやる事といえば、トランプで大貧民かなぁ」
「え? 大富豪ではなく?」
「えっ!? 大富豪って言ってた!? まぁ、ローカルルールもいろいろあるから、まずはそのへんの調整をしないとね」
「なんか超いっぱいあるよな、八流しとかクイーンボンバーとか」
 その会話を切欠に、会話題は大富豪(或いは大貧民)のルールについてに移行した。ああだこうだ、話し合っているとラベンダーの良い香りがふわりと周囲に漂って。
「香り、きつくないです?」
 胡桃が焚いたお香だった。リラックス効果があるんです、と微笑んだ少女は持ってきた鞄から低反発枕を取り出した。まったり過ごす時の必需品、それを棄棄へ差し出しつつ、
「先生、これ使ってみます? なんでも、ぐっすり眠れるのだとか」
「ほう。胡桃ちゃんにはどうだった?」
「……え? 私? ……効きませんでした」
 苦笑を一つ。「俺にはどうなのかな」と棄棄は礼と共に枕を受け取った。教師はそれをもふもふしている。少女はにこやかにそれを見ている。
「棄棄先生にとっての、安心するもの。ってなんです?」
「ふーむ……具体的に言われてみるとパッと思い浮かばねぇな。胡桃ちゃんは?」
「あのね。モモはこれ――しろちゃん、です。おしゃべりもする、モモの宝物」
 と、取り出したのは抱き枕ぬいぐるみだ。父と二人で作ったのだという。抱き締めると録音された父の声が優しく再生される、世界でたった一つの逸品だ。
「眠れないときは、大好きなものを抱っこして目を閉じるの。眠れなくても……幸せが、そこにあるから」
 ぎゅっと抱き締める。いつだって、その柔らかさは胡桃を暖かく受け止めてくれる。
「ね、棄棄先生? 先生にとっての『大好きなもの』って、なぁに?」
「そうだなぁ。やっぱ、生徒諸君の笑顔かな」
 胡桃ちゃんを抱っこしたら良く寝れるかも。そんな軽口に胡桃はドヤ顔で「残念。胡桃は、父さんのものですから!」と胸を張るのだった。
 教師と夜更かし、それも素敵だが、彼にリラックスもして貰いたい。そう願う、胡桃であった。


●こんな夜だから
 月が綺麗だ。お月見しよう。
 という訳で、一同は教室から出てのんびり散歩していた。
「毎週この曜日に必ず行く場所もあるのです。皆様をご案内いたします」
 そう言うカーディスが歩き出す――程なくして聞こえてきたのはにゃあと猫の鳴く声、それも複数だ。幾許もせず、辿り着いたのはとある空き地。猫の集会の真っ只中。
「お猫様、いつもお世話になっておりますこれ差し入れです」
 カーディスがそっと缶詰を差し出す。警戒されず迎えられたのは着ぐるみのおかげか餌か通いつめた成果か。
「皆さんいい猫(ひと)達ばかりなので本日お邪魔しても良いとお返事いただけたのです」
 月に猫、良い組み合わせた。胡桃と梓遠は思うまま猫をもふもふしている。ルビィは足元に寄ってくる猫の喉を指先で撫で、英斗は猫になりきってコミュニケーションを試みた。
 シュルヴィアは白猫を抱っこすると、月を見上げる。
「素敵よね。ウチじゃ、オーロラが見え難くなるから嫌だって人もいるけど、その時は月を楽しめばいいじゃないって思う」
 月の光は太陽の様に体が痛む事はない。じっと、紅い瞳に月が映る。
「そういえば、日本の月にはウサギがいるそうね。一度でいいから、会ってみたいものだわ」
「おう、いつか連れてってやるよ」
「……何よ、偶には私だって夢みたいな事言いたい時もあるわよ」
 横に居た棄棄がニヤッとした表情とそれに相応しい物言いをしたので、彼女はツンと言い返した。抱いた猫がにゃあと鳴く。寸の間の静寂。
「心穏やかに、健やかに居られたら、きっと夢見もいいでしょうにね。……難儀な人」
 それはまるで独り言。言葉が返ってくる前に、シュルヴィアは。
「……別に? 夢の話よ。夢の」

 と、そこに良い香り。

「紅茶だけじゃなくて、ハーブティーも得意なのです。ちょっとゆっくりしませんか?」
 カモミールティーです、と胡桃が皆にお茶を淹れてゆく。
 温かい香り。猫を抱いて談笑すれば、月もどんどん傾いてゆく。
 ルビィはハーブティーを飲んで一息吐くと、空を見上げ。
「折角だし、皆で屋上行かねーか? 徹夜明けの時とか、良く屋上に行くんだが……」
 夜明け前の冷たく静謐な空気が好きなんだ、と。

 猫に別れを告げて、空に一番近い場所へ。
 東の空はもう白い。
 深呼吸一つ。空気は凛と冴えていた。

「――うっしゃ! リセット完了。今日も1日頑張るぜ!」
 振り返ったルビィの手にはカメラがあった。
 夜更かし記念、撮影パチリ。



『了』


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
ヴェズルフェルニルの姫君・
矢野 胡桃(ja2617)

卒業 女 ダアト
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
また会う日まで・
紀浦 梓遠(ja8860)

大学部4年14組 男 阿修羅
さよなら、またいつか・
シュルヴィア・エルヴァスティ(jb1002)

卒業 女 ナイトウォーカー