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マスター:ガンマ
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
形態:
参加人数:25人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/10/19


みんなの思い出



オープニング

●ツツジって漢字で書くと躑躅なのか。パッと書けないわ。
 アルティメット園芸部。
 それは久遠ヶ原学園にあるサークルの一つであり、『アルティメット栄養剤』とかを開発して局地的にジャングルを作り出しちゃったりする迷わk……独特な集団である。
 メンバーは少人数ながら、その熱意は凄まじい。そんな彼等は日々努力と研究を重ね、そして今日、遂に――『あるモノ』を完成させたのである。

「できたぞ、蜜を一杯吸えるツツジだ!!!」


●スクールのナカニワ
「てな訳でさ、開発したツツジの蜜を吸ってみてくれって頼まれたのよね」
 教師棄棄は、生徒達をとある場所に案内しながらそう言った。
「……ん、ツツジの季節は春だろって? そうだな。だがそこは我が校のアルティメット園芸部、季節問わず咲く感じの奴なんだってよ。まぁほら、見てみろよ」
 目的地到着。『アルティメット園芸部』と小さな看板の建てられた花壇には、季節外れのツツジがたくさん咲いていた。白、桃、赤、様々な色が入り乱れて美しい。
 そしてアルティメット園芸部の面々が「今回はデータ採取に協力いただきありがとうございます」と頭を下げる。基本的に今回撃退士はツツジの蜜を吸うだけという楽なものだが、ちゃんと彼等から(少量ではあるが)謝礼も出る。立派な依頼なのである。
 まぁ依頼だからと畏まる必要は無いだろう。そう、棄棄は生徒に笑いかけた。
「今日は綺麗な秋晴れだし、まったり花見でもしながらツツジうめぇしようや」


リプレイ本文

●花見といえば十月(迫真)
 綺麗な晴れ模様だった。花見をするにはうってつけである。
 撃退士の目の前には、色鮮やかなツツジが文字通り咲き乱れていた。
「おー、不思議なツツジがたくさんあるのですねー?」
「ツツジ美味しいわよね」
 櫟 諏訪(ja1215)は色の万華鏡をキョロキョロと見渡し、田村 ケイ(ja0582)はいつもはダウナーなその目を若干ながら輝かせる。
「ツツジの蜜って食べられるんですね……」
「つつ……? ツツジってなんですか?」
 箱入り故の知らない事に島原 久遠(jb5906)はそう言い、若松 匁(jb7995)はそれ以前の問題な言葉と共に首をかしげた。そんな匁には、アルティメット園芸部――このツツジの製作者が、図鑑を片手に丁寧に説明を行う。
「アルティメット園芸部……またこいつらか。今度は大丈夫なんだろな」
「……何て言うか、目の付け所がシャープ過ぎて、エストックみたいになってるのだけど……」
 訝しむ若杉 英斗(ja4230)と似た感じに、日傘の下のシュルヴィア・エルヴァスティ(jb1002)も何処か呆れた感じだ。尤も知らない間柄ではないし状況報告は聞いてるので、苦言はしないが。
「そういえば躑躅には毒のあるものあったが……まぁ大丈夫だろう」
 強羅 龍仁(ja8161)が続けて言うが、「我々の仕事は完璧ですよ」と園芸部がキリッと声を張る。なのでまぁ、龍仁の言う通り大丈夫なのだろう。
 なので早速、龍仁はツツジの花を一つ取る。
「躑躅か……懐かしいな……小さい時は餓えを凌ぐ為に良く舐めたものだ……」
 細めた目でしばし眺め昔を懐かしみつつ、蜜を吸う。存外に蜜が多くて驚いた。
(これだけ蜜がたくさんあれば、何か蜜を使ったデザートでも作れそうだな……花を使ってのジャムなんかも、綺麗で見栄えもいいかもしれない…
 となれば、どんな味があるのか色々試してみなくては。
 そう思い、次はどれにしようかと選んでいる龍仁の足元では……
「ツツジ! 沢山咲いてて綺麗なんだね!」
 何故か龍仁の足の間にしゃがみこんだ真野 縁(ja3294)。多分龍仁が大きいから洞窟探検的なノリだったのかもしれない。隙間に挟まりたかっただけなのかもしれない。
 そんな緑は道化人形を大事に抱っこしてツツジを間近でまじまじと眺める。「おいおい髪を引きずってるぞ」というズレた突っ込みと共に彼女の髪を持ち上げてくれる龍仁を他所に、緑はヨダレがだらりらり。美味しいと聞いては黙っていられない食いしん坊さんなのだ。故に躊躇なく目の前のツツジをひょいぱくり。蜜をちゅるちゅる。
「! ……うーまーいぞー! フレンチトーストなお味がするんだね!!」
 そしてしゃがんだその体勢のまま蛙飛びでぴょこんと移動、「お〜い引きずってるぞー!」と世話焼きな龍仁が追ってくるが彼女の興味は今、完全にツツジにある。次々にひょいぱくちゅるり。
「餡子、からあげー……っ……か、カツ丼味!」

 その時緑に衝撃走る!
 こ、これは!

「刑事さんよー、白状するんだよー……友真くんのおやつほたてとハムを食べたのは縁なんだね」
 くうっと目頭を押さえ、ふるふるしながらエア刑事に懺悔する緑。
「縁エンジョイしてるなっておい犯人おい 俺のおやつやら消えると思ったらこの告白!」
 ぶわぁ。小野友真(ja6901)は思わず絶望ポーズ。それに構わず、緑はそのまま横のツツジをぱくり。

 その時緑にry!

「これはカレー味!」
 ぱっと顔を上げて辺りをきょろきょろ。カレー味、美味しいけれど、もっと美味しくなれる筈。その為に必要なのは、そう――
「ごはん! ごはん味はどこだー! なんだね! チーズも揃えばトリプル美味しい! はず! おこめー! ちーずぅー! うおーー!」
 走り出す緑。「おい髪ー!」とヘアゴムとブラシを何処かから出す(多分カバンだ。彼のカバンはきっとお母さん的アイテムが詰まっている。絆創膏とか飴玉とか)龍仁とのシュールな追いかけっこが展開されたのであった。そして絶望友真はただ絶望の中立ち尽くすのみであった。
 それとすれ違う様に駆け抜けた影がある。エイルズレトラ マステリオ(ja2224)だ。だがその目は爛々と輝いているしケケケケケと歯を剥いて笑っている。ハッキリ言ってヤバイ感じだ。

 その事情を説明するには、少し時を遡らねばなるまい。

「ほほう、ツツジですか。幼いころ、よくよそ様の敷地に生えてるやつの蜜を吸って叱られたものですが。……ほほう、これはおいしいですねえ!」
 彼はそう言って、ツツジの蜜を飲みに飲んだ。美味しいから気に入ったのだ。だから狂った様に飲んだ。
 飲んで飲んで飲んで飲んで――段々、ナニかキメた様に気分が高揚してきた。使命感というものに目覚めたのだと彼は思った。そう、この味をもっと世界に広く知らしめなければならない……。
「てっててー! 秘密道具、魔法瓶<マジカルボトル>!!」
 ヤバイ目つきのまま、あと「ぐへへへへ」とか不気味に笑いながら、蜜を採集する様は完全に密猟者のそれである。そして大量の蜜を手に入れると、彼は走り出した。

 今に至る。

 エイルズレトラはその辺の者に片っ端から蜜を飲ませてやろうと目論んでいた。そして大変な事になればいい。阿鼻叫喚の地獄絵図になればいい。狂ったり、バーサクったり、暴れたり、バーサクったり、ベロベロになったり。それを見て大爆笑してやろうではないか――そう思ったところで、つるりと何かを踏んで思い切り滑ってしまう――馬鹿な、一体何に……頭から落ちる空中での刹那、エイルズレトラが見たものは。
「ういー」
 ベッロベロに酔っ払った匁が飲み干した空の酒瓶。
「……んぅ? なんかぁ、ぐしゃって聞こえたようなぁ……まぁいっか♪」
 真っ赤な顔で、匁はプシュッと良い音を立てて酒缶OPEN。見た目は完全に子供だが、大学二年という事はきっとお酒も大丈夫なんだろう。
 ていうか匁は何故こんなにヘベレケっていたのか。

 その事情を説明するには、少し時を遡らねばなるまい(二回目)

「へぇ……これが……」
 匁は赤いツツジを一つ、その手に持って眺めていた。恐る恐る蜜を吸ってみると、
「ん、ほのかに甘いですね……」
 ので、もうちょっと飲んでみる。
 すると何だか、ぽやん、とあったかくなってきたような。お酒に強くなった気がするような。
「にゃは……♪ なんだかぁ……お酒がぁ……飲んでみたくなりましたぁ……」
 ふらっふら。どう見てもアウトである。そのまま匁はバイト先から持ってきた酒瓶やら酒缶やらを開け始めた。因みに今まで、お酒は飲んだ事はない。
「ぷっはーーー林檎酒最高! アルコールゥ〜!」
 という訳で気分は酒豪と化した匁は笑いながらツツジを肴に飲みまくる。どっちも飲み物だが突っ込んじゃいけない。
 そして彼女の周りには空き缶空き瓶が積み上げられてゆき……

 今に至る。

「……うっ……少し、お花摘みに……」
 青い顔で口を押さえる。ふらふらと歩いていく先で何をするかは――乙女の自主規制☆
 お花摘みから戻った後は、棄棄に背中を摩られお水を飲ませて貰ったそうです。酒は飲んでも飲まれるな!
 と、そんな棄棄と匁を両手で抱っこする者が現れる。でれでれとした笑みを浮かべた龍仁だ。

 ――ツツジの蜜で色んな事が起こるらしいのは皆を見て分かったが、はて、己には何も起こらなかった。少しは何かあればよかったのかも……

 と、龍仁は思っていたのだが、蜜の効果はバッチリ出ていた。
 つまり酔っ払いみたいになった。
「はっはっは……よーしよしよし、イイコだ、可愛いな」
 わっしゃわっしゃと微笑んだまま棄棄と匁の頭を撫でる龍仁。まるで子供を溺愛してあやしている感じだ。
「たっちゃん!? 俺38なんだけど!」
「ん? どうした? 何か欲しいのか?」
「強いて言うならあんまり匁ちゃんの頭をわしゃるとヤバイ! 乙女の自主規制しちゃう!」
 直後。「うっ!」という匁の声が聞こえ……お察し下さい。
 因みに龍仁は正気に戻った時デレデレ状態の記憶は一切なく、どうして自分の服が乙女の自主規制まみれなのか思い出せなかったそうです。

「ふぅ、はぁ……酷い目にあったぜ」
 ヤレヤレと息を吐く棄棄。そこへたたっと駆けて来たのは、ケセランを抱っこした久遠だ。
「先生、これ」
 皆さんでどうぞ、と差し出したのは栗の渋皮煮だ。「ありがとよ!」と受け取る棄棄はそのままケセランへ目をやる。
「その子」
「はい、白檀っていいます」
「可愛いな! ちょっと抱っこしてもいい?」
「是非とも」
 もふもふふかふか。親馬鹿目線を抜きにしても可愛いと思う。もっふるする教師と、もふもふされる白檀を見、久遠は笑みを浮かべた。

「ツツジの蜜、か」
 戸蔵 悠市 (jb5251)は真白い花を手に取り、眼鏡の奥の黒い瞳でしげしげと眺める。
 幼い頃から良く言えば真面目、悪く言えば頭が堅かった。自覚もある。故に、下校途中にふざけて野草の蜜を飲む同級生や弟を叱ってばかりの日々で、当然ながら己が野草の蜜を口にする事なんて一度もなかった。
 そう、無かった故に、興味があった。
「これは任務だからな。……そういう言い訳でもしない限り、いい年した大人が蜜をなめるなどできん……」
「小学校の頃さんざん吸って怒られたツツジ、それを好きに吸っていいなんて……! 今日はなんてすばらしい日なのかしら!!」
 ケイも言う。子供の頃は吸ったら怒られ、大人になったら恥が邪魔をし。今日はそんなしがらみから解放される日だ。
 今日は心ゆくまで味わおう、ええ、それだけです。ケイは早速両手に花を持ち、蜜を吸い始める。甘い味に飽きぬよう、温かい緑茶や塩昆布を用意してくるという徹底ぶりだ。
「甘ーい。おいしい」
 甘くないツツジなんて認めない。もし甘くないのに当たったら、悲しみに暮れて隅っこで体育座りしてしまうだろう。
 しかもケイはただ吸うだけではない。ちまちま摘みながら、吸ったツツジの甘さランクや濃さなどもメモしてゆく。
「……え? これそういう企画でしょ?」
 助かります、と園芸部が頭を下げた。
「相変わらず園芸部の方達はすごいでね……!」
 斜め上の方向で、という言葉は心の中だけに、カーディス=キャットフィールド(ja7927)が言う。いつもの黒猫忍者着ぐるみはもふもふ冬毛仕様だ。
 彼はせっせとツツジの蜜を集めている。あっさりしてさらっとした蜜、花の香りが広がる甘い蜜、癖のないはちみつのような濃厚な蜜……これらで何をするのかというと、
「さぁ、ホットケーキを作っていきますよ〜!」
 背負っていたホットケーキ作成セットを広げ、調理開始。
 手際よく沢山作り、可愛らしくタワーにして、上にバターと集めた蜜を垂らして。よってらっしゃい見てらっしゃい、そして食べてらっしゃいと皆にお裾分けしてゆく。
「すてき先生とクリスティーナさんの分もありますよ!」
 しかも、チョコで顔をデコるパティシエっぷりだ。

 さてさて、皆のツツジを吸う姿を見てツツジの蜜の吸い方を覚えた悠市も、見よう見まねで蜜を口に含んでみる。ふわり、舌の上に広がるのは駄菓子の様な素朴な甘さ、何処か懐かしい気分になる。
「甘い、な……」
 真面目一辺倒な人生だった。それもそれできっと生き方の一つなのだろうが、取り零してきた物も多々ある様な気もする。
 あの時、同級生や弟を叱らずに、ほんの少しハメを外して一緒に蜜を飲んでいたらどうなっていたんだろう。なんて……思い返せば数え切れない。苦笑を一つ。この年になってそれらに気付くが後悔はしない、こうやって取り戻せるものもあるのだから。
「たまには童心に返るのも悪くはないな」
 鮮やかな色と甘い香りに、彼は目を細めた。
「ワシも子供の頃はそらもう吸いまくった。ツツジ吸いの常久と呼ばれたぐらいだ」
 久我 常久(ja7273)も過去に思いを馳せる。それからドヤ顔で、
「すまねぇがお前さんたちの蜜はワシがここに来てしまったからには吸えねぇ! いっただきまーーーす!!」

 チューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……

(な、なんだ……なくならねぇぞ……?)
 吸引力の変わらないただ一つの常久。お腹が膨れゆく常久。

 ちゅーーっ……ちっ……

 張り詰めしぽんぽん。当社比1.5倍。吸引力が落ちてゆく。
「だぁ!! もうダメだ!!」
 口を離した瞬間、バケツをひっくり返したかの如く蜜がだばぁ。流石にコレはフードファイターでも無理だ。
 対照的に、
「わぁ……とても甘くて美味しい」
 なんだか蜜蜂になった気分です、と久遠は常久と違って正しくツツジを堪能していた。
「ほら白檀、甘いですよ」
 ケセランにも、同じ色の白ツツジを差し出した。無表情でツツジを咥える召喚獣。
 美味しいですか?と頬擦りすれば、白檀は主人に一度だけ頬擦りを返した。無表情のままではあったが。

「カーティス君がまた面白い遊びに巻き込まれたと聞いて! ……って、花かい? 人間は妙なものを食するのだな」
 クリスティーナの横に現れた不破 怠惰(jb2507)は、カーディスから貰ったホットケーキを食べつつ黙々と蜜を吸う彼女を興味深そうに眺める。人界の事をもっとよく知る為にも、自分も吸ってみるとしよう。
「カーティス君は宜しくね。で、味はどうなんだい?」
「みかん」
「え?」
「みかんだ」
「そ、そうか……」
 怠惰もツツジの蜜を吸ってみる。あれもこれも、試してみる。
「甘いのとか酸っぱいのとかいっぱいあるねぇ」
 そうして吸っていると、何だか段々やる気が満ち溢れてきた。希代稀に見る怠け悪魔なのに、こんな感覚初めて。

「うおおおお! ちゅどーん!! カーティス君、のんびりしている場合じゃないぞ!! 修行だ!! 切磋琢磨だ!!! もっと、熱くなれよぉおおおおおおおお!!!」

 み な ぎ っ て き た !

 そんな怠惰にクリスティーナも「うむ」と頷き、立ち上がる。
「その意気だ、不破! のんびりしてはいられないな、修行だ!」
「修行だー! おれたちのぼうけんはこれからだーーーー!!!」
 何故か地平線の彼方を目指して走り始める天魔二人。
「クリスちゃん、ワシの蜜と交換しようぜ! きっと腹ぺ子なクリスちゃんも満足できるはzばべらァ!!」
 間接きっすを狙った常久であったが、グッドステータス『熱血』状態の二人に撥ね飛ばされて宙を舞ったのであった。
 その後、一頻り校庭を何周もしてきた怠惰とクリスティーナであったが、蜜の効果の切れた後、疲労困憊の怠惰は息も絶え絶えに大の字で寝そべったままこう呟いたという。
「人界のツツジってのは恐ろしいものなんだ、な……」
 がくり。

「日本って四季を大事にする民族って聞いてたんだけどねぇ……まぁ、美味しいけど」
 シュルヴィアはのんびり蜜を飲みひとときを楽しんでいた。お気に入りの日傘をくるくる回し、花見をしながら気楽に散歩している。
 その傍らをクリスティーナと怠惰が常久を跳ね飛ばして駆けていった。風圧で舞い上がった髪を手櫛で整えつつ、シュルヴィアは元気なその背を見送る。
「クリスは……何時もどおりね。で、貴方は何してるの? 先生」
 振り返ったその先には、カーティスから貰ったデコホットケーキを食べている棄棄が。
「見ての通りホットケーキタイムだ。ほれ、半分やるよ」
「ありがと。……ま、進級試験も近いし、生徒も教師も忙しくなるだろうから、今の内にのんびりするのも悪くないわね」
「そうだな〜。直に年末年始のバタバタもあるしな……」
 気付けば今年も残り2ヶ月、最後のホットケーキの一口を飲み込んだ棄棄はついでに溜息も飲み込んだ。
 そんな様子をシュルヴィアは横目に見つつ。「ねぇ?」と花を一つ手に取って棄棄に呼びかけた。
「秋と言えば月見が好いらしいわ。満月じゃないけど。今夜、月見酒じゃなくて月見蜜でもどう?」
 折角だから、月見もしたい。秋に秋らしい事をしても可笑しくはないだろう。それに今は、時間もあるのだから。
「そうだな」と棄棄は笑みを浮かべた。
「それじゃ是非とも」
 今夜、月の見える時間に。

 そんな様子。ツツジの中の、撃退士達の様々な様子。
 それらをロード・グングニル(jb5282)は遠巻きに一人、眺めていた。
(……せんせーのクラスに混ざるのって凄い久しぶりだな)
 きっと色んな話だとか笑い声だとかがしているんだろうが、ロードの耳に聴こえてくるのは音楽プレイヤーに繋いだイヤホンから流れる英語の歌詞と激しいビートだけだ。
 ダウナーに、アンニュイに。悪気がある訳では決してない。これが彼の『自然』だ。その目に映るは、百花繚乱のツツジ達。
「……」

 ――躑躅生けて 其陰に干鱈 割く女

 ふと口ずさむのは、昔の俳諧師が詠んだ俳句だ。別に俳句に興味があるとかではないけれど、
(何つーか……、この花の特徴は、この俳句と共に、春に咲く花って覚えてるから、さ)
 赤い花を手にとった。ツツジの蜜は、甘酸っぱい味?まぁ基本甘いか。
(苦かったり、辛かったりしても、それはそれでどうなんだ……? 何で態々、違う蜜の味のするツツジを作るんだろーな……)
 因みにアルティメット園芸部曰く、出来心だそうです。
 蜜を口に含む。ロードの好きな味は――甘くて酸っぱい味、本来のツツジの蜜の味くらいが丁度良い。
 舌の上に広がる甘味に、ロードは空を仰ぎ小さく笑みを浮かべた。


●花見は続く
 ふふふ、うふふ、と花園の奥から楽しげな笑い声。同じ顔が向かい合っていた。双子の姉妹、長良 香鈴(jb6873)と長良 陽鈴(jb6874)だ。
「綺麗ね、カオちゃん」
「そうね、ヒカちゃん。それにとても賑やかで楽しいわ。お花見っていいわねぇ」
「お花見? そうねぇ、楽しそうだけれど、花より美しいカオちゃんの隣でちゃんとお花を見ていられるかしら。ツツジの蜜よりも私はカオちゃんの蜜を吸いたいわ、なんてね」
 あはは、と二人は蜜より甘い言葉に笑みを綻ばせる。周りには沢山のツツジ。どの花を採っても構わないそうなので、香鈴は一番綺麗で繊細なものを2つ手に取った。
「はい、ヒカちゃん」
 より良い方をあげる、と差し出す花。残りを口に含む。その光景に、陽鈴は見蕩れていた。
「ありがとう。カオちゃん綺麗よ」
 花弁を滑るその指先、蜜を吸うその唇。半ば蕩けた意識の中で、陽鈴はちゅっと蜜を吸う。そして花を、香鈴のメルティチェリーの髪へ。
「ああカオちゃん綺麗よ。ヒカは幸せ過ぎてどうにかなってしまいそう」
「最愛のヒカちゃんがそう言ってくれて、私も幸せ! ねぇ、このお花面白いわね、私の選んだのジャンクフード味だわ」
 そうだ、と香鈴が提案する。
「他にも選んで先生やクリスティーナさんや他の人とも交換しましょ、きっと面白くて楽しいわ」
「賛成! カオちゃんが楽しければヒカは幸せよ」


「ツツジの蜜、イッパイ吸えるの?」
 神谷 愛莉(jb5345)はその依頼を聞いて居ても立ってもいられなくなった。田舎出身の従兄達からツツジの蜜が美味しい事は教わっている。という訳で、幼馴染の礼野 明日夢(jb5590)の腕をがっしと掴み。
「アシュアシュ―、ツツジ吸いに行こ♪」
「え、え?」
 何が何だか分からないという明日夢をズルズル引き摺って、到着。
「ツツジかぁ……蜜が美味しいっていうのは、お姉ちゃんから聞いた事あるけど」
 自分を物理的にも振り回す暴走系幼馴染にやれやれと息を吐きつつ、明日夢は辺りを見渡した。
 その傍らでは愛莉が、「しろちゃんおいで!」とケセランを召喚する。無表情で揺蕩うケセラン。だがその周囲の花が物凄い勢いで減ってゆくので、このままではツツジが無くなってしまうかもと慌てて愛莉は代わりにヒリュウのひーちゃんを召喚する。
「こーやって吸うの」
 主人にツツジの吸い方を教えてもらったヒリュウはキッと鳴くと花の傍へ。尻尾を上機嫌にふりふりしていたが……急に顔を顰めては吐き出した。
「あれ、ひーちゃんどうしたの?」
 噎せるヒリュウの背を摩る愛莉。明日夢はヒリュウが吐き出した花を手に取ると、しばし眺めた後に蜜を吸った。
「……普通に甘いね」
 では、と花弁を齧ると、先ほどのひーちゃんの如く顔を顰めてペッと吐き出し。
「花びらを間違えて齧っちゃったんだね。これ凄く苦いよ」
「そうだったんだー。ひーちゃん、花は食べちゃダメだよ」
 主人の言葉にきゅーんと頷くヒリュウであった。一方で愛莉は好奇心ウズウズ。ヒリュウが飲んだ色と同じツツジを飲んでみる。甘い。では赤色は?
「……辛いーっ」
 お口直しにバナナオレを飲んでから、次は黄色。
「すっぱいっ……」
 赤と白の混合は、
「味しない」
 と、そこに「じゃあこれ、プレゼント」と差し出される桃色の花。愛莉が見遣れば、香鈴がいる。
「あ! これは甘いのー」
「ふふ、良かった良かった」
 お返しはお友達になって頂戴、なんてね。

 そんな様子を、明日夢は驚愕半分に眺めていた。どうせなら蜜集められないかな、と思っていたらもう状況が変わっていたなんて。
(それにしても、確か姉さんが草むしり依頼受けた原因部活だよね……大丈夫かな?)
 飲もうか否か、慎重な性格故に取った花を手の中でくるくる回していたが。
「アシュ飲まないの? おいしーよ♪」
「え、エリー!? ……大丈夫?」
「大丈夫! おいしーよ」
 一緒に飲もう、と笑顔で彼女が彼を呼んだ。


 ツツジの花畑の中、矢野 胡桃(ja2617)と華桜りりか(jb6883)はケセランを抱っこしてお喋りに花を咲かせていた。
「そういえばまだこの子の名前を決めていなかったの……名前を考えたいの」
 りりかの言葉に「そう、ね」と胡桃が応える。少女二人は自分達のケセランの無表情をじっと見つめた。しばし考える。
 先に「えと……」と口を開いたのはりりかであった。
「せっかくだから、胡桃さんと関係があるようなものが良いの……んと、あたしは『赤葉(せきは)』とか……」
「それじゃあ私のコは……『華李』なんてどう、かしら?」
 どう、とケセランの顔を覗き込む二人。無表情のケセラン。羽がぱたぱた動いた。多分、気に入ってくれたんだと思う。
 良かった良かった、と微笑んだ所で――ふわり、風に乗って甘い香り。知っている香りだ。これは……
「華桜さん、なんだかこのツツジ、甘いにおいがしない? チョコレートみたいな」
「ほんと……チョコのにおい」
 りりかの大好きなものはチョコレートだ。顔を見合わせ、少女達はチョコレート色のツツジを一つずつ手にとった。せーの、で蜜を吸ってみる。
「これ味がチョコレート! なんで!?」
「わわ、チョコの味がするの……甘くて美味しいの、です」
 驚く胡桃、ほっぺを幸せそうな色に染めるりりか。
 美味しいね、と味わいながら、ガールズトークも花開く。
「華桜さんにとって素敵な男性、ってどんな人?」
「素敵な男性……章治せんせいは好きなの、ですが……」
 照れ臭そうに、りりかは赤い顔を隠す様にかつぎをもじもじ被る。
「大人な方が良いの……余裕があって、ノリが良くて優しい方が良いの……です。……胡桃さんは?」
「私? 決まってるわ。父さんと、棄棄先生よ!」
 胸張って言えるわ、と胡桃は得意気だ。
「だって、渋メンの父さんと格好可愛い棄棄先生。どっちも素敵なんだもの!」
 正直に言葉が出るのは、蜜の『嘘が吐けない正直者になる』という効果だったのだが、少女達は露知らず。
 なのでりりかも素直に、「棄棄せんせい……?」と首を傾げ。
「あ、ご挨拶をしないと」
 と、丁度いい所に棄棄が通りかかる。「先生ー!」と胡桃が元気良く手を振って彼を呼んだ。
「おっ、楽しそうじゃん先生もま〜ぜて」
「もちろんですっ。先生! 先生もおひとつ、どです?」
 チョコ味がするんです、と胡桃が差し出すチョコ色ツツジ。「ホントだチョコだ」「でしょ?」そんな二人のやり取りを、りりかは胡桃の背中から窺いつつ。棄棄と目が合った。なので、勇気を出してご挨拶。
「は、初めまして……華桜りりかというの、です。よろしくお願いします……です」
「おう、りりかちゃん! 可愛い名前だな。俺ぁ棄棄だ、よろしくね」
 教師が手を差し出す。りりかもそろりと手を伸ばし、握手。引込み思案にとって、初めましてはドキドキする。ぴゃっと胡桃の背中に隠れてしまった。
 でもその背中で、胡桃だけに聞こえるように、ポツリと。
「胡桃さん、胡桃さん……棄棄せんせいって格好いいの……」
「でしょ?」
 私の目に狂いはないの、と胡桃は嬉しそうだった。
「「先生」」
 そこへ長良姉妹が訪れる。お花交換しーましょ、と。
「じゃあ俺はこのラムネ味を」
「私は大好きなジャンクフード味ー♪」
「私はキャンディ味を」
 折角なので、胡桃とりりかもチョコ味を皆と交換。そこへカーディスのホットケーキをいっぱい貰ったクリスティーナも顔を出し、交換した蜜をホットケーキにかけてみる事に。さっきのご縁、と香鈴は愛莉と明日夢も誘い、ちょっとしたお茶会だ。
「ツツジでお料理するのもいいわね」
 最中に香鈴が言う。これはお酒の味で、花故にアルコールは無いけれど料理に使えば素敵じゃなかろうか、と。
「ヒカちゃん二人で作りましょ♪ 出来たものは皆へ配りたいわね」
 あの人とか、この人とか……そう嬉しそうに言葉を紡ぐ香鈴を、『誰かについて楽しそうに語る姉』を、陽鈴はじっと見つめる。
「もしカオちゃんに悪い蟲が寄り付くようならオシオキしなくちゃね。何人たりとも触れさせてなるものですか、全力で薙ぎ払ってあげるわ」
「あらヒカちゃん、頼もしいわ」
「カオちゃん、任せておいて」
「嬉しいわ、ふふ」
「幸せね、ふふ」


●俺達のお花見はこれからだ!
「2月に海と来て、10月に花見、か……いや、2月に比べれば違和感なくて怖い、な?」
 いきなりフラグぶっぱしたのはアスハ・A・R(ja8432)である。
「ツツジは本来春。秋でも可。覚えました俺です褒めて」
「あぁ、やっぱ十月といえば花見だよな!」
 神妙に頷く友真、さも当然と眩しい笑顔なのは月居 愁也(ja6837)。
 彼等を始め、ここにいるのはいつもの面子。ドヤ顔の加倉 一臣(ja5823)が棄棄へ振り返った。
「センセ……2月の俺とはひと味ちがうぜ?」
「お前達の成長――期待してるぜ!」

 それはそうとツツジ祭りだ。花見である。
 ふむ、とアスハは頷いた。
「花に集い蜜を吸う僕たちは、一見花見をしてる側だが……実際は見られているわけ、か。つまり、僕たち自身が見られている花なんだ!」
「な、なんだってー!! まさか俺たちこそが花だったなんて……」
「はっ……あっすんの言う事はつまり俺達が花!」
 真顔で反応したオミーは己を抱きしめる耽美()なポーズを、友真はチューリップを思わせる名状し難いポーズを。
「冗談はさておき、いざ実食、だな」
 しかしアスハは華麗に花×2をスルー。「冗談」だという俄かには信じ難い真実<さだめ>を受け入れられぬ友真は引き続きチューリップである。角度を変えて見ればコスモスになるんやで。
「あ、はい、実食ですね」
 だがここで突然オミーが友真を裏切る。馬鹿な――すれ違う心。深まる溝……
 そこへ降り注ぐ光!

 <○><○>

「紅葉狩りかと思えば花見ですか、学園は本当に面白い」
 夜来野 遥久(ja6843)の視線である。光った?光線?気のせいですよ(微笑)
「甘くておいしいですし、料理にも使えそうですねー?」
 諏訪もいつもの光景(笑)を生暖かく見守りつつ、ツツジの蜜を飲んでいた。
 という訳で、諏訪の180秒クッキング3時間スペシャル開幕である。実際は3時間もしない。
 遥久も、クリスティーナと並んで黙々と試飲。
「花によって風味が統一できれば、商品化もできそうな気がしますね」
「毎日飲みたい美味しさだ」
 プッハー、とクリスティーナは口元を拭った。

「ということで『第50回・スタイリッシュツツジ蜜試飲大会』開催ー!」

 ここでなんの前触れもなく愁也が唐突に声を張った。
「前の49回分? 細けぇこた気にすんな! つまり如何に美味そうかつ美しく蜜を吸うかで勝敗が決まるんだよォオオ!」
 謎のハイテンションでツツジの花畑に飛び込む愁也。多分縮地的な何かだ。そもそも何に勝つつもりなんだ。そんなあれこれを薙ぎ払って愁也はツツジを咥える。
「……あ、マジ美味えな超童心に返る感じ」
 甘さも風味も結構違うようだ。そのまま彼はツツジを咥えたまま、徐に遥久へ振り返る。
「……!」
 無言で荒ぶる伝書鳩のポーズ。それに、遥久は流れる様な動作で花を咥えるとたゆたうケセランのポーズで対抗。召喚獣の可憐さを存分に表現している。無表情も完全再現(ていうか真顔)。ケセランという可愛いもふもふを成人男性が行うというギャップがあれでこれでそれだ。
「くっ、なかなかやるなさすがオトコマエ」
「なんという激しい戦いだ……!」
 息を呑む愁也、クリスティーナ。
「迂闊に近寄るな、巻き込まれたら……死ぬぞ!」
 迫真の棄棄先生。
 拮抗している力。両者一歩も譲らないケセランと鳩。
 と、そこに鳴り響く羽音――!

「ふっ……ツツジの蜜を吸うのにハトとはね。甘いですよ、月居さん!」

 両者の間に乱入してきたのは、ダンボールで作った巨大な蝶の羽を両手に装着しぶわさぶわさしている英斗だ!因みに彼の小学生時代の図工の成績は3だった!可もなく不可もなく!
「蜜を吸うスペシャリストといえば? そう、蝶! バタフライ! 俺はいま、蝶になるっ!!」
 戦慄とエア鱗粉をぶわさぶわさと振り撒き、驚愕のあまり動けぬ他の者には目もくれず英斗バタフライはゴキゲンな蝶になってきらめく風に乗ってストローを咥えた。いざ!
「ファ、ヒュゥーヒュウー(さぁ、吸うざます)」

 ちゅーちゅー。

 ……。

「あっ……あっまーーーーーーい!!」
 ぶわさっぶわさっぶわさっ……(フェードアウト)

 ……。

「クッ……負けた」
 何故かゴパァと血反吐を吐いて頽れるアスハ。あまりものスタイリッシュオーラにやられたらしい。ていうか参戦以前にお前が負けるんかい。ダイイングメッセージには眼鏡が書かれていた。
 そしてそんなバタフライ英斗にインスパイアザネクストされたのか、
「蝶のように舞い蜂のように一番美味い蜜をゲットしてみせたらァ!」
 友真が躍り出る。ツツジに食らいつく。
「……コーラ味……やと……? よし集めよう」
 せっせとペットボトルに蜜を集める。500mlだ。
「これ装備したらお花付キュートヒーロー俺g炭酸直ぐ抜けてるう!!」
 炭酸保持能力の追加お願いします。友真ゎ泣いた。もぅマヂ無理。。。浅漬けにしょ。。。
 一方で元気を取り戻したアスハも蜜を一口。更にもう一口。
「ククク、ハハハ、アーハッハッハ!!」
 謎の高笑い三段活用。ハ行変格活用(意味不明)
「いや、普通に蜜だな?」
 解せぬといった真顔で、口直しの水を口に含む。

 その時アスハに衝撃走る!

「この香り、舌触りのいい癖になるのどごし……まさか、出汁? もしや、味覚をやられた、か?」
 絶望である。その両手で顔を覆う例の絶望ポーズ。
「ハッ、待てよ!? これ使えばメシマズの料理も食えるように!」
 閃いた。だがちょっと待て。全てが出汁の味になるってそれはそれでしんどくないか?いいや、問題はない。だって……だって……鰹を昆布の合わせ出汁だもの。真理に到達し、全てを悟りきったアスハはとても安らかな顔をしていた。
「これが宇宙、か……――」

 それはさておき、オミーと愁也は普通に蜜をエンジョイしていた。棄棄先生がオミーに『鰹蜜ブシャー』を期待する眼差しを向けているが、そっと彼は目を逸らす。たくえつしたぎのうをもついんふぃるとれいたーには少々小難しいのだ。なので、一番美味しいと思ったツツジの花をそっとセンセのおぴんくへあに飾ってあげたのであった。きゅん♪じょしりょく♪
「これ、ツツジ蜜で売り出せねえかな。パンケーキとかに合うじゃん、こういうもちもちの……って久我さんの腹じゃないですかー」
 愁也はいつのまにか、先ほどクリスティーナと怠惰に轢殺された常久のぽんぽんをもみしだいていた。
 そこに、「皆さん〜」と声がかかる。焼きたてほやほやのパウンドケーキを持った諏訪だ。甘い香りに皆が「おぉっ」と注目する。ツツジの花弁を蜜で甘く煮たものをトッピングした、ツツジの蜜のパウンドケーキだ。
「一応料理したら変なことにならないかのチェック、ということですかねー?」
 召し上がれ〜と配ってゆく。見た目も可愛らしいそれにオミーも友真も目を見張った。
「諏訪シェフ、すごいな!? コーヒーに合いそうd」
「やったーケーキありがt」
 同時に噎せる二人。
「甘くない! 見た目と匂いと味のギャップ!!」
「出汁の味がする! 甘いのに! ギルティ! だが、もちぽんの腹はプリティ」
 ドヤ顔カメラ目線で轢殺体常久のぽんをもちるオミー。「帆立は帆立であるべき。俺悟った」と崩れ落ちる友真。
「こう、それっぽい味の蜜があったので、つい、ですよー?」
 微笑む諏訪シェフ。オミーのそれは鰹出汁、友真のは帆立風味という、しょっぱいやつだ。甘くはない。敢えてね。
「力作なんですよー? 風味を最大限に生かしたケーキにとろーりとした蜜、口の中に入れるまで風味は甘い香りのまま……頑張りましたよー?」
「「努力の行方不明!!」」
 でも、ケーキはまだまだあるから、最後まで食べようね。食べ物は大切に!
「安全圏なんて無かった。俺しってた。交換しようか友真……」
「くそう一臣さん交換しよ、ってこれ出汁味か!!! せやな!!!!!!」
 小野クズレオチ友真(二回目)。悲しい顔でコーラツツジを飲み直す……が!
「青汁味になってるやだー! ハイ俺の味覚死んでたー!」
「俺も何もかも出汁味に感じるよね……?」
 オミーの絶望ポーズ。
「何の呪いだ味噌汁に白いメシで焼きサンマ食いたい出汁巻玉子まだー?」
 その言葉に愁也が閃いた。
「甘いもの多いし、口直しに焚き火で焼きおにぎりとかしようぜー! 十月だし。先生も食べるでしょ? 美味しいよ!」
「焚き火か! やべぇ、超秋らしいことをしてしまうんだな! 十月だし」

 という訳で、遥久が焚き火を用意して。
 秋刀魚を焼く香りが周囲に広がる。周りのツツジの光景を除けば、秋晴れ空に涼しい気温、全く以て秋である。
「花見弁当代わりですね」
 団扇で七輪をパタパタしている姿が異様に似合う遥久である。
「醤油味の蜜があれば良さそうですが……」
「加倉さん周囲のツツジ蜜は何故か鰹出汁風味だよ」
「出汁風味、か……」
「おにぎりに合うわーウンメー」
 愁也は口いっぱいにオニギリを頬張る。直に遥久が「焼けましたよ」と声をかけ――秋の楽しいひと時は、まだまだ続きそうだ。



『了』


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:11人

cordierite・
田村 ケイ(ja0582)

大学部6年320組 女 インフィルトレイター
二月といえば海・
櫟 諏訪(ja1215)

大学部5年4組 男 インフィルトレイター
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
ヴェズルフェルニルの姫君・
矢野 胡桃(ja2617)

卒業 女 ダアト
あなたの縁に歓びを・
真野 縁(ja3294)

卒業 女 アストラルヴァンガード
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
JOKER of JOKER・
加倉 一臣(ja5823)

卒業 男 インフィルトレイター
輝く未来を月夜は渡る・
月居 愁也(ja6837)

卒業 男 阿修羅
蒼閃霆公の魂を継ぎし者・
夜来野 遥久(ja6843)

卒業 男 アストラルヴァンガード
真愛しきすべてをこの手に・
小野友真(ja6901)

卒業 男 インフィルトレイター
撃退士・
久我 常久(ja7273)

大学部7年232組 男 鬼道忍軍
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍
撃退士・
強羅 龍仁(ja8161)

大学部7年141組 男 アストラルヴァンガード
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
さよなら、またいつか・
シュルヴィア・エルヴァスティ(jb1002)

卒業 女 ナイトウォーカー
撃退士・
不破 怠惰(jb2507)

大学部3年2組 女 鬼道忍軍
剣想を伝えし者・
戸蔵 悠市 (jb5251)

卒業 男 バハムートテイマー
澪に映す憧憬の夜明け・
ロード・グングニル(jb5282)

大学部3年80組 男 陰陽師
リコのトモダチ・
神谷 愛莉(jb5345)

小等部6年1組 女 バハムートテイマー
リコのトモダチ・
礼野 明日夢(jb5590)

小等部6年3組 男 インフィルトレイター
撃退士・
島原 久遠(jb5906)

大学部1年171組 男 陰陽師
遥かな高みを目指す者・
長良 香鈴(jb6873)

大学部7年308組 女 ディバインナイト
遥かな高みを目指す者・
長良 陽鈴(jb6874)

大学部7年257組 女 阿修羅
Cherry Blossom・
華桜りりか(jb6883)

卒業 女 陰陽師
一期一会・
若松 匁(jb7995)

大学部6年7組 女 ダアト