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マスター:ガンマ
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:6人
サポート:5人
リプレイ完成日時:2014/08/20


みんなの思い出



オープニング

●かかったなウッカリさんめ!
「えっちな依頼だと思った? 残念、エロは欠片もありまっすぇ〜〜ん! ただただ草刈りするだけです」
 教室に入るなり、生徒達を迎えたのは棄棄の楽しそう〜な暗黒微笑()だった。

 そん……な
 嘘だ……
 嘘だァアアアアアアアアアアッ!!!

「と思うじゃん?」
 棄棄は微笑んでいます。
「実はさ……もう今年はやめておこうとも思ったんだわ……任務名で生徒を釣るのょくなぃって……先生ゎ……ぉもって……がんばった……でも……夏……暑くて……ゴメン……ゃっちゃった……でも……生徒と諸君ゎ……ズッ友だょ……!!
 まぁそんなこんなですので説明に移ります。リスントゥーミー」
 そして棄棄が広げ始めるのは資料だ――その中の写真に写っていたのは、ジャングル?ものすんごい草むらである。
「実はね、我が校のサークル『アルティメット園芸部』が『アルティメット栄養剤』なるものを開発したんだが、それで草が想像以上に超絶繁殖しちゃってなぁ……校内の一部がごらんの有様なのよね。
 部員3名のアルティメット園芸部の手に負えない、っていうかこれ以上コイツラに何かさせたら学園内にアマゾンが出来かねないので、諸君にこれらを除去して頂きます。軍手とかスコップとかああいう基本的な庭作業道具はこっちで一通り揃えてるから、欲しいのがあれば言いなさいね。先生も手伝うし」
 さーて。棄棄が窓の外へと目を遣った。
 カンカン照りの夏の空とギラつく太陽が、皆を待っていた……。


リプレイ本文

●エロ依頼()
「と思うじゃん?」
 棄棄は微笑んでいます。
 ――久我 常久(ja7273)はその時、今回こそエロ依頼なんだ、と思った。
「センセーもついn……馬鹿野郎がぁああああああ!!!」
 常久は怒りのままに上着を脱ぎ捨てるや地面に叩きつけた。
「何が『夏……暑くて……ゴメン……ゃっちゃった』だよ! ワシのが暑いわ! 冬だったら『わぁ〜湯たんぽみたい♪』って寄ってくる女子が、夏だと蟲を見るような目でワシを……ワシを……!」
 顔を覆って崩れ落ちる常久。その傍らでは麦わら帽子の若杉 英斗(ja4230)が賢者の様な眼差しをしていた。
「……あれ、なんだか去年も似たような事があったような……いや、依頼名で釣らなくても、普通に言ってもらえれば草刈りしますから」
「まったく……草刈なら草刈と言えばいいのに。いいわよ。ガワが狂ってただけで中身は普通だったんだし、ぶっ潰す必要がなくなってよかったわ」
 日傘の影の中で呆れを通り越した様子なのはシュルヴィア・エルヴァスティ(jb1002)だ。「依頼掲示板にたわけた紙貼り出したバカはここかあんたか!」と凄い剣幕で教室に押し入ってきたのが数十分前、腹立つドヤ顔で棄棄に「まぁ座って話を聞きんしゃい」と説明を受けたのが同刻、何故釣ったと呆れたのも同刻、「どうせミステリアスでロマンティックな思いつきでしょうね」「イグザクトリィ」なんて会話が以下同文。
「この時期の日中の農作業って昨今じゃ熱中症で倒れそうだから、実家じゃあ早朝4時〜7時、若しくは夕方にやるんだけどなぁ……まぁ依頼だし、頑張りますか」
 これも久遠ヶ原クオリティなんだろう、と礼野 智美(ja3600)。去年、一昨年と棄棄の依頼を知っている者ならば『エロ依頼』なんぞあっても鵜呑みにしない。尤も前回より難易度は高い気はするが。
 そんな彼女は「鍬ないならひとっ走り家から取ってきますけど」なんて平然と言ってのける屋上菜園管理者なのである。今回の任務において心強いプロフェッショナルだ。
「暑い……。まぁ、夏だし。良いけど……。でも、暑いものは、暑い。棄棄、終わったら……カキ氷がプリン、を所望する。それ位、良い、ハズ」
 8月気温に作業前から汗を浮かばせ一ノ瀬・白夜(jb9446)がジトリと棄棄を見遣った。教師は得意気に親指を立てつつ「ちゃんとご褒美は揃えてるんだぜ」と白夜を始め生徒に言った。
「ご褒美! 俄然やる気が出るってもんね!」
 やったろうじゃないの、と雪室 チルル(ja0220)は腕まくり。その手には既に、愛用の水晶直剣が握られていた。それを生い茂るエクストリーム草むらにピッと突き付けて曰く、
「おっきい草ね! あたいよりでかいなんて頭が高い! よーし! あたいの必殺技でばばばーってやっつけるわ!」
 その草は強いらしいが、上等だ。どちらが強いか勝負である。早い話、さいきょーなら何でも良かったりする脳筋思考のままにチルルは草むらへと突撃を敢行する。

 \ 草 刈 り だ ー /

 飛び出す勢いのままに、細く鋭い剣の鋒にエネルギーを集中させる。
「うりゃりゃーっ!」
 そのまま大きく振りかぶったそれを突き出せば、解放された力が猛吹雪の様に白く吹き荒れ一直線上の一切合切を薙ぎ倒した。氷砲『ブリザードキャノン』、軌跡に白い氷結晶を残すそれは紛う事なきチルルの必殺技である。
 どうだ、と得意気なチルルの目の前、氷砲『ブリザードキャノン』が通ったそこは綺麗に草が無くなっていた。力強いだけでなく、地面すれすれを狙うという精密さまで見事である。棄棄と共に常久が拍手をした。
「おーやってるな。いいぞその調子だ、どんどんやるんだ! ……ワシの分まで」
 最後の一言はとっても小さく。暑いわ釣られたわで悲しみに暮れていたけれど、ここには女子がいる。そう、エロ依頼と聞いて参加した女子が!
 ので、頬を染めながらチラッチラッと女の子を見てみるけれど、全員「エロ依頼?知らない子ですねぇ……」状態だ。
「いやいや、皆まで言うな! ワシは分かってる! あれ、何か既見感……」
 でも常久は気にしない。気にしたら負け、働いたら負けだと思ってる。そんなこんなで始めるよ〜!(棄棄風に)
「よう智美ちゃん」
 先ずは気さくに智美へ近寄ろうとする……が、スッと刃の様な眼差しで一瞥された。女尊男卑思考の智美にとって男とは油断ならない存在で。
「……あん? 男? 女?  つれねぇじゃねぇか、同じ釣られた者同士仲良くしようぜ?」
 しかし智美が無言のまま鍬を片手にスタスタ歩いて行ってしまったのでそれ以上は絡めず。というか多分、あと一歩でも近づいたら鍬で首を刎ねられかねないそんなアトモスフィア。
 ので、気を取り直してシュルヴィアへ。
「シュルヴィアちゃんその耳キュートだな! 倒れるなよ? ほれ、水だ」
「どうも。水はそこにでも置いといて下さる?」
 蝙蝠耳穴改造済みの麦わら帽子を被り、軍手をはめていたシュルヴィアはニコリと常久をあしらい、いざ草刈へ。
 棄棄が女性陣に尽く惨敗した常久の肩をぽんと叩く。
「常久ちゃん目から汗かいてんぞ」
「夏……だからかなぁ……!」
「せやな」
 ついでに恒久のぽんぽんをもっちりした棄棄はシュルヴィアへ「おーい」と声をかけた。
「ほどほどに休憩もしなさいよー」
「次日光でダウンしたらクリスに何されるかわかったもんじゃない。精々気をつけるわよ」
 という訳でシュルヴィアは草むらへと向き直った。その手を翳せば、影より現れる三日月の刃が無数に幾つも踊り狂う。雑草達を切り払う。
 それに合わせて、麦わら帽子を被った白夜も辻風を放ち草を根元から刈る。
「とりあえずは……背の高い草を……刈ってしまわないと、何にもできない」
 白夜の言う通りだ。先ずは草を刈らねばならぬ。再度風を放って滅多滅多に草を刈る。その周りではチルルが気合十分な大剣フルスイングでバッサバッサと草を刈り取り、シュルヴィアが影の刃で範囲一体を刈り払う。
 一方で、草を刈り終わった場所には智美がいた。保冷剤を手拭いで括って首に当て、冷却シートを額に貼って落ぬようバンダナで縛って、長い黒髪は三つ編みにして麦わら帽子の中にいれ、虫除けスプレーを振り、蚊取り線香を腰から吊るし、保冷バッグには飲み物を入れておくという超完全装備だ。
「さて……草刈りで済めば良いんだけど、除草剤が効かない上に丈夫で堅くて根も強いときたか」
 残った根が直ぐに芽吹く危険性もある。元から絶たないと駄目だろう。
「草刈りに早道など――ない」
 鍬を振り上げる。振り下ろす。硬い。まるで鋼でできた土の様だ。どうやらビッシリと立派な根が蔓延っているらしい。
「成程」
 よろしい。智美は再度、大上段で鍬を構えた。血の如くアウルを循環させれば紅い紋様がその体に浮かび上がる。湧き上がる力。それを無駄なく鋭く乗せて智美は鍬を振り下ろす。文字通り阿修羅の如き力を発揮し、常人ならば歯が立たぬであろう土を深く掘り返した。
 凛とした闘気は、智美が『ただ草むしりしてるだけ』という事を俄かには信じさせない。ていうか、「ふんッ……!」と掘り返した土から片手でズルズルブヂブヂブヂと太い根っこを引き摺り出す様は、その、なんというか、血界の赤い禍々しさも相まって敵のハラワタを討ち取ったりー的なビジュアルである。しかも貪狼で草から生命力を奪ったり闘気を開放したりもする。もしこれが真昼間じゃなくて夜中だったらホントに心霊案件である。正にエクストリーム草むしり。これエロ依頼()だけどな!
 どっこい本人は至って真面目、「業者に始末してもらうなら、土の分重量を増やさない方が良いだろうし」と根の土を良く払って復活阻止・燃えやすいようにとする程の良心&常識人っぷりである。これがギャップ萌えか。智美姐さんかっこいいっす。

 皆に続けと、英斗も軍手を装備した手で鎌を構えた。
「カマだけにっ!」
「若ちゃんステキ」
 棄棄の拍手にドヤ顔である。
「魅せましょう。ディバインナイトの草刈りってやつをっ」
 あなたとコンビにディバインナイト。華麗に刈ろうと鎌を振るうが、想像以上に丈夫で堅い。急がば回れ、これは泥臭く頑張らねばならないようだ。
 草をぐっと持ち、えいっと力を込めて刈ってゆく。
 草をぐっと持ち、えいっと力を込めて刈ってゆく。
 草をぐっと持ち、えいっと力を込めて刈ってゆく。
(アツイ……アツイ……)
 刈った後は根っこをうりゃっと引っこ抜く。
 草や根っこはヨイショと端に纏めておく。
 刈った後は根っこをうりゃっと引っこ抜く。
 草や根っこはヨイショと端に纏めておく。
 以下同文。合間合間に麦茶で水分を、塩昆布で塩分を補給するも、容赦ない日差しと暑さは英斗の集中力を奪ってゆく。作業効率が落ちてゆく。
(いかん、もう心が折れる……。こうなったら奥の手を使うしか……)
 そう、何も用意をしなかったという愚かさを彼は持ち合わせていない。英斗は持参したラジカセ(今時……とか言っちゃ駄目だ)の再生ボタンをポチっと押した。
『きゃー、若杉くーん。がんばってー!』
 それはアニメの美少女の台詞を編集して繋げて作成した、世界でただ一つの若杉英斗応援CDである。因みにイヤホンじゃないのは「イヤホンからだと臨場感に欠けるというかですね……」というマエストロぶりだ。なんのマエストロだ。ツギハギ故にちょっとイントネーションとかが変だったりするが、この超絶暑さの前では気にならない。
『若杉くん素敵! かっこい〜っ』
 美少女に応援されて、ズゴゴゴゴッと英斗のやる気ゲージが上がってゆく。
「うぉーっ! 元気出てきたーっ!! やるぞー」
 ぶわさぁと無意識的に発動した不死鳥のオーラが赤い翼となって羽ばたいた。どんな窮地に立っても絶対に絶望しない、あきらめない、そんな強い想いと美少女の応援(自作)を胸に、英斗はモリモリ作業してゆく。
「チルルちゃんがめっちゃ頑張ってるぞ。男のお前負けちまうんじゃねぇのか? 大丈夫、お前さんならやれる!」
「頑張れ若ちゃん、この塩キャラメルをあげようね」
 常久と共に応援しつつ、棄棄は英斗の口に塩キャラメルを放り込む。それをモグモグしながら、英斗は。
「で、先生はなにをしてらっしゃるんですか?」
「常久くんのぽんぽんをもちもちと」
 真顔で常久をぽんもちする棄棄であるが、「やめい!」と常久は畳返しで逃走。草の中に身を隠す。ヤレヤレと草の隙間から様子を窺えば、麦わら帽子姿の白夜がせっせと土をシャベルで掘り返しては根を引き抜いていた。
 地味な作業だが、これが一番手っ取り早い。
(それにしても暑い……くらくらする)
 食塩水を少しずつ飲みながら、作業、作業。
「皆も……飲む? ナトリウム、大切」
「いただくわ!」
 エネルギー補給は大事だからね、とチルルは白夜から食塩水を受け取り喉に流す。ふーっと一息、周囲を見渡した。進歩具合は半分は超えた、といったところか。
「さー、ガンガンいくわよ!」
 楽しくやらねば意味がない。再びチルルは草地へと突撃した。その手には氷結晶状のアウルが極限にまで集まり、氷剣『ルーラ・オブ・アイスストーム』の姿となる。当たればただでは済まない奥義の突剣は氷嵐の如く地面を激しく吹き飛ばした。
「まだまだァ!」
 今度は氷壊『アイスマスブレード』。武器を中心に両腕すら包む大質量の氷塊を生成、力の限り土を抉る、吹っ飛ばす。
 そしてその後ろでは白夜が根っこを引っこ抜く。強い根っこは毒手で弱らせ、効率を下げないように。
「白髪の僕ちゃんも良く分からんな……男だよな? ほっそいな! きっとあれだ、この依頼終わったらセンセーがワシ等全員焼肉につれてってくれるぜ! 勿論センセー持ちだ! いいよなセンセー、騙したんだし肉おごってくれよーいえーい! 肉!!」
 すかさずワイワイする常久であったが、彼が隠れている草には、そこに常久がいる事に気づいていないチルルが氷を纏う剣を振り上げており……。
 断末魔と鈍い音からそっと目をそらし、白夜は棄棄へと向いた。
「棄棄……終わったらカキ氷かプリン……絶対に譲れない。奢ってくれなきゃ、末代まで、呪ってやるから……安心して」
「おしるこあるよ」
「年功序列、それ貴方から飲みなさいよ」
 ニヤッと笑った棄棄に、大鎌で草を刈るシュルヴィアが鋭く言う。「冗談だわよ」と教師は缶プリンジュースを白夜の手に持たせる事にした。無表情ながら、好物のプリンを前に白夜の雰囲気がぱぁっと華やぐ。
「なんか、近所の農場を思い出すわね。大鎌使ってると」
 さておき。ふぅ、と刈った草を一箇所に集めつつシュルヴィアは肩を回した。
「しかし……まぁ凄い効果ね。まさにスーパー雑草。でも、何かしらズレてるのが久遠ヶ原クオリティなのかしらねぇ……」
 次は土を振るって根を取り除かねば……と思いながら。花壇は植えなおしになるが、もとよりそうならざるを得ないのだから仕方ないだろう。再度鎌を振り上げた。
「花壇の手入れって言うより、ここまで来ると開墾と変わらないわね」
 刈って運んで集めて、掘って振るって引っこ抜いて、汗を流して頑張って。


●健全な肉体には健全な魂がうにゃむにゃ
 白夜は翼を広げて上空から現場を見渡した。
「まだ残ってたら……厄介だし。焼畑、とか言うんだっけ? ……まぁ、どっちでも良い、けど」
 という訳で火遁・火蛇。残ったものを焼き尽くす。
 そうして、「終わった」と手拭いで汗で拭う智美が顔を上げた頃には夕方だった。見渡せば、一面の更地。エクストリーム雑草は全て刈られて集められ、根っこも悉く引っこ抜かれた。任務完了である。
「皆、お疲れ様」
「っは〜、あたいったら最強ね!」
 智美は皆を労い、チルルはまだまだ元気いっぱいな様子で伸びをした。
「ふぅ、何とか終わったな。……あれ? 久我さんは……」
 残りの麦茶を飲み干した英斗が見渡せば、棄棄に膝枕されてダウンしている常久(チルルの氷塊に事故的に殴られタンコブができている)が。とうといぎせいである。敬礼!
「それじゃ諸君、お疲れ様な!」
 がんばったなーと棄棄からスポーツドリンクを手渡され、その日の任務は終わりを告げた。

 後日。
「まぁ、加減を考えなさいって事よ。薬も過ぎれば毒なのよ? 植物の事も考えてあげなさい」
 杖の様に持った日傘をカッと床に突いたシュルヴィアの前には、エクストリーム園芸部が正座をして「はい……」と頷いていた。
 やれやれ、反省したのなら良しとしよう。
「植え直しになったけど、次は頑張りなさいね。綺麗な花が咲いたら、見に来るから」
 期待してるわ――そう言って、蝙蝠令嬢は微笑みを浮かべた。



『了』


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:7人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
ブレイブハート・
若杉 英斗(ja4230)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
撃退士・
久我 常久(ja7273)

大学部7年232組 男 鬼道忍軍
さよなら、またいつか・
シュルヴィア・エルヴァスティ(jb1002)

卒業 女 ナイトウォーカー
影を切り裂く者・
一ノ瀬・白夜(jb9446)

大学部2年91組 男 鬼道忍軍