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マスター:ガンマ
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/08/10


みんなの思い出



オープニング

●スクールの屋上、そしてプールだーー!
「くくく。来たようだな……」
 ニヤリ。やって来た生徒に、棄棄が凶相を笑ませた。
「ここに来た……という事は、諸君も『そういうつもり』なのだな。なぁ?」
「プールというものは実に興味深いな……!」
 ばっちゃばっちゃ。ドヤ顔で仁王立つ棄棄の傍らで、クリスティーナがめっちゃはしゃいでいる。羽をワッサワッサしている。バッチャンバッチャン水をまき散らしまくっている。全力の力いっぱいで。

 ――彼ら二人はビニールプールに居た。

 夏真っ盛りの久遠ヶ原学園、そのとある校舎の屋上。ギラギラ暑い太陽の下、大きな大きなビニールプールと水着姿の教師に生徒。教師はホースから出る水を生徒にバシャーーーっと浴びせ、生徒は羽をわさわさして教師に水をかけ返す。キラキラ輝く水飛沫、飛沫の合間に虹が浮かび、楽しげな様子は笑い声と共に。
「さぁ諸君、見てないでお前らも来いよ! プールで水遊びしようぜ。プール好きだろ?」
「夏といえばプールなのだろう。鍛錬と共に水の加護を得る……素晴らしいな!」

 踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆ならナントヤラ。
 さぁ、プールだ。楽しい楽しいプールタイムの始まりだ!


リプレイ本文

●夏だ!
「夏だ! 海だ! ぷーるでござーっ!」
 プールまっしぐら、元気一杯駆け出したのはエイネ アクライア(jb6014)だった。走りながら服を脱げば、その下には白褌&サラシ。
「去年叱られなかったから大丈夫でござるよねー!」
 なんて言ってホップステップジャンプ、プールへバシャーン。
 冷たい水、キラキラ眩しい。
 嗚呼今年もこの季節がやって来たのだ。暑さと冷たさを同時に感じながらエイネは棄棄とクリスティーナへと手を振る。挨拶も今更か、なんて思いながら。
「棄棄殿、くりすてぃーな殿、今年もよろしくでござるよ」
 エイネに手を上げ応える二人の傍らでは、ハーフパンツ型水着の金鞍 馬頭鬼(ja2735)が眼鏡を外しタオルの上に置いていた。裸足で感じる屋上のコンクリートはじりじり熱い。ホースへ手を伸ばし、流れる冷たい水を頭から被った。
 今日はあれやこれやをうんと忘れて息抜きだ。しっかり休もう――そう思ってプールへ向かおうとしたら。
「あ」
 ぎゅむ、と踏ん付けた。何を?ホースを。
「あっ」
 ホースが大暴れ。つまり事故です。
「!?」
 降り注ぐ水は、水着にチョーカー姿の若松拓哉(jb9757)と彼が召喚したケセランへ。水浸し。拓哉は茫然。ケセランが無表情のままぶるるっと身を震わせ水を払えば、その水が更に拓哉にかかって茫然加速。
「馬じゃないから、代わりにホースが大暴れ……なんちって」
 テヘペロと馬頭鬼は縮地で逃走を試みる。が、濡れた足場でトゥルンと滑り――プールへばしゃん。
「古より言われているだろう……プールサイドは危険がいっぱい、押さず走らず死の覚悟」
 つまり『おはし』だ、と棄棄はプールにぷかりと浮いた馬頭鬼に頷いた。
「すみません……」
 鼻に入った水に少し噎せながら、馬頭鬼は苦笑を浮かべた。
 そのまま仰向けに空を眺める。白い雲が眩しくて目を細めた。
「プールなのに屋上って何かおかしいと思ったら、こういうことでしたか……遠くを見下ろしながらのプールもいいですねぇー」
「そうだな」
 応えたのはクリスティーナ。ジョウロで馬頭鬼に水をかけている。「水を貰っても芽吹きませんよ」と笑いかけ、嗚呼でもヒンヤリしていて心地良い。目蓋も閉じれば、外界の感覚も段々遠くなってゆく。
 完全に己の世界に入ってしまえば思い返すのは過去の事、失敗した依頼に戦闘に――あの時こうしていれば、ああしていれば、掘り返せば無限大。溜息が漏れる。とびきり重い吐息が。
 結局息抜きなんて出来やしない――そう自嘲してから間も無く、馬頭鬼の意識は眠りの世界に落ちていった。

「ぷーる! ぷーる! せんせー♪とぷーる!」
 ニオ・ハスラー(ja9093)はわぁいとハシャぎ、そのまま棄棄へくるりと振り返った。フフ。目がキラリ。
「せんせぇぇえええええええええ!!!!! あっそびっましょぉぉぉおおおおおおお!!!!」
 全力ダッシュ。その最中に撃退士パワーでミラクル☆脱衣すれば可憐な白ビキニ姿にチェえンジ■ッターーゥワァンん!である。更にウキワトゥマフォゥウク(要は黄色オカメインコ柄浮き輪を装備)である。
「わっしょーーーーーーーいっすーーーーーー!!」
 大跳躍。棄棄から少し離れた場所へ着水。バッシャーーンと派手な音に派手な水飛沫。きらり、きらり。その間隙より、ニオは棄棄へ突撃という名の全力ハグを。
「せんせーキャッチっす!」
「捕まっちまったぜ!」
 互いにきゃっきゃと笑いながら。棄棄はニオを抱っこしたままぐるぐる回った。
 便乗する他にない、長いモノには巻かれまくれ。棄棄の背中へ強欲 萌音(jb3493)もむぎゅっと抱きついた。
「きゃー! 音に聞く世にもステキな棄棄センセ様っす!! うぉー! こわもてっすねぇ! 格好いいっすねぇ!!」
「まぁな 俺のイケメンカッコイイ度は53万です」
「や、やべぇ!」
 なんて言いながら棄棄の背中をよじ登り、強欲な悪魔はジロジロと値定めの眼差し。さて、このある意味名物教師からどんな商売のネタを見つけられるか――その本音は棄棄と仲良くなりたくて、商売などと思いながらも思い出自体に価値を見出す『異端の強欲』故に同族からは微妙に距離を置かれている変わり者なのである。

 一方で拓哉は自由気儘、ケセランに紐付きの小さな浮き輪を装着させれば、共にプールへと。おそるおそる、水面へ足を差し入れれば――ヒヤリと温度が伝わって。
「……ひゃう……! ……解析……薬物……微弱……確認」
 でも無害なものだ。水道から出るのと同じもの。では、とスイカを取り出して、ビニールで包んで。そっ、と水面に浮かべた。
「……知識……あり……効果……あり……?」
 丸いスイカと丸いケセラン。ケセランもそっと水面に浮かべれば、拓哉はプールの端に頭を乗せてスイカとケセランの真ん中の水面に寝そべり浮かんだ。
「……ゆっくり……遊ぶ……」
 ふよふよと水面を泳ぐケセランの浮き輪紐に掴まって、拓哉ものんびりプールを行く。
「やーそっちは狭いところでぱちゃぱちゃやって大変っすねぇ」
 取り敢えず棄棄の人気の元を探る為に一緒に遊ぼう、という訳で萌音は女子競泳水着姿に着替え、物質透過能力で屋上の床を泳いでいた。すいすい、と翼を広げる悠々っぷりだ。
 が!
 如何せん屋上は太陽でジリッジリに熱い!プールみたいなヒンヤリは皆無!
「いやぁ〜快適快適……」
 ふっ、と笑い。
 そっ、とプールに戻る。
 そんな萌音に水がばっしゃーんとかけられる。驚いた彼女が振り返れば、クリスティーナが翼で水をかけてくる。
「む! 勝負っすか、上等っす!」
「あたしもやるっすよーーっ!」
「じゃあ俺も!」
 ニオも加わり、棄棄も加わり、始まるのは水かけバトル。
 ワイワイ。楽しそうだ。それを、プール端で体育座りにて水に浸かっているシュルヴィア・エルヴァスティ(jb1002)は日傘の影から眺めていた。水着は指定のものだが、蝙蝠耳は外さないのがポリシー。
 暑い。
 でも水は気持ち良い。
 でも照り返しが眩しい。
 肌が灼ける。
(あぁ、バカバカしい。なんで屋上でプール入ってんのかしら)
 何故に屋内プールではないのか。何故にわざわざ一番暑い時に暑い場所なのか。
(そうよ……おかしいのよ。夏バテと暑さで脳がヤられたかしら?)
 ああもう考えても良く分からない。別にそんな事はどうでもいいかと結論付けた。
(ここまで来て何もしないの、詰まらないでしょ!)
 ゆらりとシュルヴィアは立ち上がる。日傘を畳めば真夏の太陽が真上から降り注いだ。直に浴びるのはいつ以来だろう。眩しい。明るい。水鉄砲を手に持って、水の中を緩やかに歩く。皆がはしゃいでいる方向へ。
「楽しそうね、クリス。わたくしも、混ぜてもらおうかしら」
 振り返ったクリスティーナへ、その顔へ、水発射。
「ぬぅっ……良いだろう、勝負だ!」
「ふふふ……わたくしの銃捌きについてこられるかしら!?」
 クリスティーナも水鉄砲(気合が入ったでっかいやつ)を構えた。
「あたしも覚悟完了っすよ!」
 ニオも隠し持っていた小さな水鉄砲を持つ。
「先生はこれを使うぜ!」
 棄棄はおとなげなくホースを構えた。
「えっ あっ あたいはあたいはハワワワワ」
 丸腰の萌音は慌てて辺りを見渡した。しかし何も見つからなかった!
 はわ――青褪める萌音が顔を上げれば。
 銃口がズラリと並んでいて……
「ぶわぁ!」
 一斉放水に萌音はプールの中に倒れこむ。それを火蓋に始まる銃撃戦。
「勝負っす!」
「ふん、甘いわ!」
 ニオの放水を横っ飛びで躱す教師。
「せんせー! そこは水を浴びて欲しいっす! 断固抗議をさせていただきますっす!」
「大人はね、汚いのだよ」
「そうね、その通りだわ」
 ニヤリと笑ったシュルヴィアは日傘を盾にその影より水を撃つ。クリスティーナの頭にべしゃーと当たる。
「ならば――!」
 クリスティーナは空へ飛び上がり、空中から放水開始。
「くくく……」
 萌音は物質透過し地面からそっと水をかけようと窺った。が、直後に棄棄が発動する阻霊符が彼女を地面から弾き飛ばした。
「ぎゃー!」
「ふおおおお!!」
「おらおらぁー」
「隙だらけよ!」
「なんの!」
 思いっきり、正に思いっきりという言葉が相応しい。

 の、一方で。
「去年も言ったような気がするでござるが、泳ぐには物足りぬが、これはこれで良いものでござるよー♪」
 ちゃぷちゃぷ、揺れる水面に揺らぐ光。極楽極楽、とエイネは水と戯れつつ……キョロキョロ周囲を確認する。良し。OK。準備完了。ぐっと身構えて。
「良ぉし、今年も! とりゃーーーっ!!」
 後ろへダイブ。ざっぱーーん。巻き起こる波。ぶわっしゃーん。それは水に浮かんで寝ていた馬頭鬼やケセランと戯れていた拓哉はおろか、水鉄砲大戦を繰り広げていた者達までも全力で巻き込んで。
「んー、やっぱりいーものでござるよー」
 エイネは自身が起こした波に揺られてほくほくご満悦。去年同じ事をしたら一斉に水をかけられたっけ。
(こ、今年は、大丈夫、で、ござるよね?)
 フラグを立てつつそっと周りを見てみる。うん、さっき確認したし被害はない、筈?
 ――向けられていたのは水鉄砲やホースの銃口。
「ひょわぁ!? だがしかしこんな事もあろうかと!」
 エイネは物質透過を試みた! だが棄棄が阻霊符を発動していた!
 エイネは蜃気楼によって姿を眩ませる! だがニオの生命探知でお見通しだ!
「にょわーーーっ!!?」

 ばしゅー。

「あはははは――」
 嗚呼可笑しい、とシュルヴィアは水浸しのまま笑っていた。そのまま突如停止……した所で降参のポーズ。
「降参! こーさんよ、皆。わたくしの負けね」
 両手を上げて武器を離して。くすり、含み笑い。
「ふふ、敗者は潔く日陰でゆっくりしてるわ。今日は楽しかった。ありがとう先生、クリス、皆」


●プールに休憩はつきもの
「せんせー! おやつ持ってきたっす! みんなでたべましょうっす!」
 パラソルの下で休憩タイム。ニオは人数分のあんことアイス入冷やしアンパンをクーラーボックスから取り出し、
「喉渇かないっすか? あたい飲み物持ってきたっすよ」
 萌音はラベルを剥がしたスポーツドリンクとソーダを取り出した。ニオも「夏といったらやっぱりこれっす☆」と麦茶を持ってきたので、飲み物は充実だ。
 生徒にスポーツドリンクを手渡した萌音は、先生とクリスティーナにソーダを渡した。棄棄はアンパンを頬張りながら「ウメェー」と飲み、クリスティーナは「タンさんinリョウは好きだぞ」とソーダをぐい飲み。
(クリスティーナ様はりあくしょんが可愛いと評判ってのはほんとだったみたいっすね……)
 そんな萌音が今日遊んだ事で、棄棄も被る越南笠ノンラーを元にしたビーチパラソルを考案、撃退士のみならず一般人にもそこそこ売ったとかなんとからしいが、それはまた別のお話。
「……夏……風物詩……」
 拓哉も冷やしてきたスイカを何処か得意げに持ってきた。「切断は自分にお任せを」と、エイネばっしゃーん事件で溺れかけて目覚めた馬頭鬼がネビロスの操糸を巧みに操り人数分にカットする。
「ところで、今年もカキ氷、やるでござる?」
 そう問うたエイネの手には既にかき氷器やらシロップやらが。Noの返事は聞こえない、ある筈が無い。
「よしきた、拙者の修行の成果、見せるのでござるよ! 必殺『氷結晶・天然』!!」
 イカしたポーズも決めて掌を翳せば、キラキラ透明の氷の礫が作り出された。
 説明しよう!氷結晶・天然とは、氷結晶の正等進化系(?)にして天然氷を目指したエイネの努力の結晶である。従来のものより結晶が一回り大きく、カキ氷にするとキメ細やかに削れ、軽やかで美味い、さながら天然氷のカキ氷の仕上がりとなるのだ!
「くくくく、どうでござる? 学園公認の、天然氷の再現度合いは! 美味かろう、美味かろう、でござる!!」
 面々の「美味しい!」反応にエイネは超天狗っ鼻。
(……。これ、屋台作れば副収入になるでござろうか?)
 最中にふと、閃きが。
(数は出せぬでござるが、逆に『ぷれみあ』で高額が許容されるかもでござる。さすれば、初期投資こそ必要でござるが、維持費はしろっぷ代、洗う際の水道代だけにござる。がっぽがっぽの予感でござるな!)
 拙者天才でござる!と思ったが、いや待てよ?
(むむむ……水道代と、使い捨ての器はどちらの方が安上がりでござろうか?  使い捨てならば初期投資が安く済むというのも確かでござるし、食べながら歩く事も出来るでござるし……成功すれば酒がたらふく……)
 皮算用はエンドレス。
「……ヒンヤリ……あそぼ……?」
 そこへ、ケセランを頭に乗せた拓哉がビーチボールを持ってやってくる。
 遊ぼう遊ぼう。
 屋上の賑やかさは、もう少し続きそうだ――


●放課後
「涼んでから帰る」
 そう言って、日陰のある壁に凭れて座り、皆を見守っていたシュルヴィアは日が沈み始めても立つ気配はなかった。
 とうの昔にプールは仕舞われ、皆も先に帰り。屋上には棄棄とクリスティーナとシュルヴィアだけ。
「大丈夫か?」
 水に濡れたタオルをシュルヴィアにかけつつ、棄棄が問う。彼女の肌は火傷の様に真っ赤になっていた。
「……やっぱり、気付いてた? クリスには……バレたかしら?」
 苦笑を浮かべる。浮かべる他にない。はっと気付いたクリスティーナがライトヒールを彼女に施した。大丈夫かと天使にも問われる前にシュルヴィアは「大丈夫」と応える。
「ぼんやりと、視えるわ。そこよね? 先生。……ホント、我ながら笑っちゃうわ。ちょっと日光浴したらこのザマよ」
 少しマシになる肌の痛みを感じつつ、夕焼けに照らされているのだろう遠くの喧騒へ目を向ける。
「クリスや……皆を見てるとね、出来るような……気になっちゃうのよ。でも……無理なものは無理なのよ。後悔はしたくないけれど」
 先天性白皮症。日光はシュルヴィアにとって毒そのもの。それに加えて心臓を始めとした脆弱な体。煩わしい。皮肉である蝙蝠耳を飾った頭を、三角座りの膝の間に埋めた。痛む目を閉じる。暗さは心地良い。自分の意思とは関係なしに。
「帰れるか?」
「大丈夫、もう少し」
 なんて言った。でも『もう少し』じゃ立てないだろうとシュルヴィアは感じている。帰れる自信がない。暗くならないと暗くないと。
 そうか、と棄棄は応えた。「職員室いって氷いっぱい貰ってきて」とクリスティーナに指示すれば、自分の越南笠をシュルヴィアに被せて隣に座る。
「大丈夫になったら言いなさい、おんぶしてやっから一緒に帰ろう」
 言葉の終わりにチャイムが鳴った。ゆっくりと。
 その余韻も消えた後に、シュルヴィアは傘と笠の影から教師に問うた。
「あ、月……綺麗かしら?」
「綺麗だよ。もうすぐスーパームーンだってさ」



『了』


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

撃退士・
金鞍 馬頭鬼(ja2735)

大学部6年75組 男 アーティスト
闇鍋に身を捧げし者・
ニオ・ハスラー(ja9093)

大学部1年74組 女 アストラルヴァンガード
さよなら、またいつか・
シュルヴィア・エルヴァスティ(jb1002)

卒業 女 ナイトウォーカー
流行の最先端を行く・
強欲 萌音(jb3493)

大学部5年162組 女 ダアト
撃退士・
エイネ アクライア (jb6014)

大学部8年5組 女 アカシックレコーダー:タイプB
げきたいし・
若松拓哉(jb9757)

大学部5年6組 男 インフィルトレイター