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マスター:御影堂
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/09/26


みんなの思い出



オープニング


「ねぇ、私キレイ……?」
 そう聞いて、マスクを取れば頬まで裂けた口がある。
 口裂け女が流行ったのは、今は昔。

「おばあさんは、どうしてお口が大きいの?」
 無邪気な声で、オオカミさんに問いかけたのは、童話の中の赤ずきん。
 おばあさんの答えと一緒に、赤ずきんは飲み込まれてしまう。
 
 全く関係がなさそうな二つの話、だけど、それが融合したのが……。
 現代の赤ずきん。
 オオカミさんを従えて、大きな赤いずきんをかぶっている。
「ねぇ、どうして……さんは」
 と近づいてきた人の名前を読んで振り返る。
 振り返ったずきんの中は、真っ黒な闇が渦巻く。
「私に食べられてくれないの?」
 闇が笑ったかと思ったら、呼ばれた人はオオカミさんに食べられてしまうのだ。


「何だ、それ?」
 ○○県××市、三浦権三郎巡査長は部下の話に眉をひそめた。
 部下の名は、市田という。
 軽薄そうな顔から出たのは、今語られた陳腐なうわさ話だった。
「知らないんッスか? 中高生の間で流行っている、都市伝説ッスよ」
「知らん」
 ぶっきらぼうに告げる三浦に、市田は大仰そうに両手を上げた。
「マジっすか。巡査長、娘さんいましたよね。そういう話したりしないんで?」
「娘とは……」
「いや、言わなくてもいいっす。察しましたから」
「そうか」
 こんなやつに察しられても、苛立ちが募るばかりだ。
「で。このうわさ話がどうしたんだ」
「うわさ話じゃなくて、都市伝説……まぁ、どっちでもいっか」
「……で」
「はいはい。実はこの話、ここ数日で瞬く間に広まったみたいでね。たまたま知り合いの子から、聞いたんで気になったものですから、自分なりに調べてみたんですよ」
「ほう」
 こういう行動力は、あるらしい。
 少し、ほんのすこし見なおすべきところがあるようだ。
「何でもこの街で、大型犬……にしては大きすぎる犬を連れた赤ずきんを見た。そういう話が元になっているようで、しかも、日を増すごとに目撃情報が増えているようなんです」
「写真まであるのか」
 市田が見せてきた画面を覗き込み、三浦の表情が険しくなる。
 後ろ姿だけで、ぼやけているが、確かに犬と赤ずきんらしかった。だが、この犬の大きさは大型の肉食獣ぐらいはある。流石に合成ではないのかと疑うレベルだ。
「合成かどうか、オカルト板でも意見がわかれているみたいで……でも、件数が多いんで本物って意見が優勢ですよ」
 三浦がいうより先に、市田が結論を告げた。
 続けて出たのは、どう思います、という問いだった。
「いたずら、ではないのか? 写真もすべてぶれているようだし……学生がふざけてそういう写真を作って遊んでいるとしか思えん」
「あ、やっぱ、そう思います? でも、本当にいるとしたら、警戒するに越したことないですよね」
「バカバカしい。わしは見回りに出るからな」
「はい。赤ずきんにお気をつけて……」
 全く、けしからん。見回りの時間をわかっていたから、わしを怖がらせるために用意したんだろう。
 全く、バカバカしい。
 まったく……。


 閑静な住宅街……。
 使い古された言葉が、この街にはよく似合う。
 逆に言えば刺激がない。目にはだらだらと同じにすら見える家屋が並び、耳にはどこの家から漏れ出るテレビの音に学校のチャイム。鼻を突くのは、昨日まで降っていた雨に濡れた街路樹が発する、青々としたにおいだ。
 平和そのもの、市田が述べたような奇妙な影すらない。
「まったく……」
 そういえば、娘と前に会話をしたのはいつだろうか。
 今朝は、ろくに挨拶もしないまま、出て行ってしまった。夜も自分が帰ってくる頃には、自室にこもっているようだし……。最近は、娘がわしのことをどう思っているのか、わからん。
 ぼんやりとそんなことを考えていた時だ。視界の端に、赤いものが映った。
 夕日が差し込んだにしては、鮮やかな赤。脳裏を過るのは市田の語った噂だ。
 バカバカしい、と思いながら、不審者なら話を聞かねばならない。
 同じ角を曲がった先に、うわさ通りの犬と女。
 犬が異常に大きく見える。違法な生物かと疑いが生まれた。
「おい、そこのあんた!」
「……」
 赤いずきんの女が声をかけられて立ち止まる。
 噂と違ったのは、三浦のことを呼ばないこと、ぐらいか。
「ちょっと、話……を……」
 刑事の勘……ってやつをドラマで見るたび、馬鹿言うなと三浦は思っていた。
 ところが、馬鹿にならない。
 拳銃を引き抜いて、続けざまに発砲……閑静な住宅街から形容詞動詞が堕ちた瞬間だった。
 視線の先にいた女には顔がなかった。顔どころか、肉がない。
 服以外が黒い闇のような何かで、構成されていたのだ。
 おまけに犬どもも普通のそれじゃあ、なかった。
 オオカミというには、禍々しい漆黒の猛獣。かろうじて、近いのが狼といえるぐらいだ。
「くそったれ!」
 弾倉が空転した拳銃を投げ捨てて、三浦は自転車を必死で漕ぐ。
 後ろは怖くて振り返れなかった。
「あぁ、あ……!」
 逃げることに神経のすべてが持って行かれ、三浦はきづけなかった。
 住宅街を抜けた先は、大通り。
 
 ブレーキをかけるが、自転車は急には止まれない!


「ねぇ、お父さんを追い詰めたのって都市伝説の女なんでしょ?」
「……」
「市田さんっ!」
「そうかもしれないが、アリサちゃんに何が出来ます。何もできませんよ」
 ××市立病院の玄関口、三浦の娘アリサに市田はきっぱりという。
「私だってね。何かしたいですが、バケモノ相手じゃ無理です」
「そうやって、諦めるの?」
「諦めるとか、そういう問題じゃ……」
「もういいっ! 私が、お父さんの仇を取る!」
「いや、ちょっと、アリサちゃん!」
 手を伸ばすが、届かない。
 こういうとき、中学生の方がよっぽど行動的になれる。が、それは危険なことだ。
「あぁ、もう……撃退士の皆さんになんとお伝えすればいいんッスか」
 がっくりと肩を落とした市田は、病院を振り返る。
 三浦巡査長は、人を避け街路樹にぶつかることで事故は防いだ。
 だが、いくつか骨を折り、頭も縫う結果となった。
 いや、それだけで済んだことが幸運にも程がある。
「三浦巡査長、今は休んでいてください」
 力なく何も出来なかったことを語った三浦の姿を、市田は思い出す。
 巡査長の証言が決め手で、噂話は天魔の仕業として実態を持ったのだ。
「必ず、この街の平和とアリサちゃんは、この市田……ではなく撃退士の皆さんが護ってみせます!」
 力強く、市田は一歩を踏み出す。
 だが、赤ずきんの噂は、未だ広がり続けていた……。


リプレイ本文


 ××市に蔓延る赤ずきんの都市伝説。
 退治するべく街に入った撃退士たちは、実物を見たという三浦巡査長に面会を求めた。
 そのために、市田巡査を呼んだのだが……。
「……いや、待って! 確かにあたしも赤頭巾してますけど、人違いだから……! 銃を抜かないで!」
 まさしく赤ずきんな若松 匁(jb7995)の姿に、市田が銃に触れたのだ。
 その隣でジョン・ドゥ(jb9083)が笑い声を漏らし、匁に睨まれた。
「おっと。ウチの義妹は撃退士。退治する側だから、安心してくれ」
「そうそう。闇ずきんよりモンメさんのほうがカッコイイですよねー」
 藍那湊(jc0170)も頷き、市田は銃から手を放す。
 場を引き締めるように、「さて」とファーフナー(jb7826)は切り出した。
「それで三浦巡査長との面会は、できるのか?」
 人数を絞り、時間制限もあればと市田は言いつつ、ちらりと匁を見る。
「わかりました。怖がられたら、あたしもさすがに傷つく」
「代わりに、市田さんもお話。聞かせてくれるわね?」
 肩をすくめる匁の前で、ケイ・リヒャルト(ja0004)が尋ねる。
 もちろん、と答える市田に先導され病院に向かう。


 閑静な住宅街に響き渡る、チャイムの音。
 夕暮れ時の街は、若者で賑やかになる。
 片田舎の街にも駅前には、若者向けの施設が並んでいるものだ。
「少しお時間よろしいでしょうか?」
 ファストフード店の前で話し込む学生の一群に、エイルズレトラ マステリオ(ja2224)が話かけた。唐突に声をかけられ、学生たちは警戒の表情を見せる。
 だが、撃退士であることを示すと、警戒が緩んだ。いくつか茶飲み話を披露した後、こう切り出した。
「ところで、赤ずきんの噂は知ってるのかな?」
 互いに敬語も削れてきた。その方が話しやすいのか、学生たちは自分たちの知っていることを楽しそうに出してくれる。
「それって誰から聞いたのかな?」
「えーっと……たしか……」と情報源をたどる。
 
「襲われたわけではないんだな?」
「それなら、学校休みになるし、違うんじゃないかなぁ」
 ローニア レグルス(jc1480)もエイルズレトラの調子に合わせて襲われたという話がないか等、情報を補填していく。
 ときにはSNSの情報もある。匿名掲示板よりは、発信源がわかりやすい。
「その子って今、どこにいるのかな」
 会う約束を取り付けて、次へ行こうとした。そのとき、一人の学生がふと漏らした。

「そういえば、アリサも同じこと聞いてきたな」

「その話、俺にも聞かせて欲しいぜ」
 市田から情報を受けたジョンが、エイルズレトラたちに合流する。
 彼の言葉から、アリサの状況に察しがついた。


 警察署にあてがわれた一室、黒髪の少女がモニタを眺めていた。
「きゃはァ、楽しそうな都市伝説ねェ……」
 オカルト板の履歴を遡りながら、黒百合(ja0422)がぽつりと漏らす。
 情報は拡散していくごとに歪みをもつ。できるだけ初期の情報をさらうように、黒百合は努めていた。また、類似情報や繰り返し見られる目撃情報は内容をまとめていく。
「話を聞いてきたわよ」
 そこにケイたちが市田とともに戻ってきた。
「まず、最初に三浦アリサについて、だ」
 落ち着くまもなく、ファーフナーが切り出した。三浦から聞き出したアリサの電話は、不通。
 電源を切っている状態なのだという。
「交友関係を当たりたいところだが……」
「その情報なら、僕たちが持ってきましたよ」
 そう発言したのは、エイルズレトラだった。
 学生の間を渡り歩いてきた分、アリサに近しい友人にも巡り会えた。
 アリサもまた、赤ずきんを追っている、とわかったのだ。
「出会えてはいない。ただ……」
「赤ずきんの近くに、彼女もいるかもだね」
 ローニアの言葉を受けて、湊がいう。
 赤ずきんの発見と三浦アリサの確保、この二つの道は同じなのだ。

「それじゃあ……」
 匁が全体に目配せをしつつ、切り出す。
「目撃情報から出現位置を絞るので、市田さん。手伝ってください」
 土地勘は住人である市田の方が上だ。エイルズレトラやローニアが聞き出した学生の生の声、黒百合とケイが調べたネット情報。
 そして、直接ではないにせよ、「噂話」の被害者三浦からもたらされた情報。

「この辺りが怪しいですね」

 市田が地理情報を示し、共有する。
 いよいよ、本格的な現地捜査が始まろうとしていた。


(そもそも、この噂の発端は何なのかも微妙に気になるな)
 住宅街を匁と捜索しながら、ジョンは考え事に耽る。
(そういえば、巡査長も事故で怪我しただけって事は、逃げるときは敵は何もしてこなかったんだよな。動きが遅いのか、それとも咄嗟に動けないようなタイプだったのか)
「何を考えてるの?」
「んー、いろいろだ」
 匁に問われ、ジョンは思考を中断する。ふと、この間取り乱してしまったことを思い出す。
 どのような相手であれ、今度は絶対に冷静でいようと心に誓う。

 そんな二人から離れた位置で、飛ぶ影があった。ローニアである。
「統計的には、あの辺りに出現する筈だが」
 視線の先に、三浦が赤ずきんを目撃した場所があった。やはり、その場所の周囲が最も目撃情報が多い。
 別方向からは、ケイたちが生の情報を得るべくして動いていた。まだ、発見にはいたれていない。候補地は他にもあるが、いずれも近い。
 各地点を潰し、囲い込むようにファーフナーたちも動いていた。
「地上はどうだ?」
「いないかな」
 ローニアから見えない位置を調べるのに、湊が地上を行く。
 ふと、匁たちに視線を向けた時、気になる姿があった。湊にその姿について、確認を取る。
「間違いないと思うよ」
 返ってきた答えをすぐさま、全員に通達する。明るい茶髪、紺色の制服、カバンには女子学生には××警察署のマスコットがぶら下がっていた。
 湊が市田から聞き出した、アリサの特徴に合致したのだ。

 ローニアからの情報で、立ち止まった匁たちに突撃してくる人影があった。
 手には木刀が握られていた。振り上げられる木刀をジョンがかばうようにして、受け止める。
「あー、そのなんだ。アリサ……ちゃん?」
 ジョンが木刀を持ったアリサをなだめるように声をかけた。
 その後ろで匁は、
「またこのパターンなのね」と肩を落とす。
 アリサは木刀を下げる気配をみせず、いきり立つ。どうしたものかとジョンが困惑していたところへ、ファーフナーとエイルズレトラが合流した。
「三浦アリサだな?」
「……なんなの、オッサンたち」
 警戒心をむき出しにするアリサに、撃退士であることを明かす。匁から目を離さないアリサにファーフナーは、教師とアリサの親友の名を出した。
「彼女たちも心配していた。まずは、話を聞いて欲しいんだが」
 ここで腕から力が抜ける。赤ずきんの討伐を引き受ける旨を伝えると、態度が軟化した。ただし、着いてくると言い出した彼女を湊とファーフナーが説得する。
「……俺たちがきっと赤ずきんを倒してみせるよ」
 湊が言い切ると、未練を残しつつアリサは了承した。彼女の情報を役立てることで、一緒に仇を取るんだということを強調したのだ。
 市田にアリサを引き渡したとき、黒百合から連絡が入った。

「現れたみたいよォ。時間帯もピッタリだわァ」
 時刻は黄昏時、三浦が出逢ってしまった時間帯だ。


「……みぃつけた」
 視線の先、不自然なほど大きな二匹の犬を連れ、赤いずきんが歩いていた。
 視線の主もまた、赤ずきん。匁は複雑な表情でいう。
「ドッペルゲンガーとは、違うのよね……?」
「そうだとしたら、死ぬのはあっちだ」
 匁の隣で、ジョンが告げる。
「それもそうね」
 軽い口調で返し、大鎌を構える。
 赤ずきんの後ろ姿を捉えたまま、じわりじわりとにじり寄る。
 そのときである。ピタリと赤ずきんの歩みが止まった。どうやら前方に気を取られているらしい。望み見れば、ファーフナーとローニアの姿が見えた。
「待ち伏せ、うまく行ったみたいだね」
 匁の後ろから湊が姿を現す。黒百合たちが見つけた時から、二人は行く先に待ち構えていたのだ。挟撃し、確実に落す。湊の策がハマった瞬間であった。
「避難は完了しているみたいだわァ」
「住民を巻き込む心配がないなら、戦いやすいわね」
 これも湊の提案であった。市田に協力を仰ぎ、あらかじめ住民を避難させておいた。
 今、この住宅街で邪魔が入る可能性は限りに無く低い。
 黒百合が飛び立ち、闘いの機運が高まる。


「向こうが赤ずきんなら、私たちは狩人かしら?」
「使うのは、銃だけじゃないがな」
 ケイの言葉に、ファーフナーは応えながら狼の様子をうかがう。
 赤ずきんの中にある闇が蠢き、狼の鼻がひくつく。向こうも出方を伺うように、小首を傾げる仕草をしながら佇んでいた。
 互いに緊張が高まった刹那、エイルズレトラが一歩を踏み出す。
 それを合図にするかの如く、狼が咆哮した。すかさず動いたのは、ファーフナーだ。
 間合いを図ると同時に、無数の影の刃が赤ずきんともども、狼を狩りに出る。
「さすがに素早いか」
 赤ずきんはそれを受け、狼はかわしてみせる。反撃するように、紡がれた闇の触手をエイルズレトラも避けてみせた。狼がエイルズレトラに向かおうとするが、一筋の闇が狼に襲いかかる。
 ローニアのダークブロウだ。
「闇での攻撃は俺も得意なものでな」
 適切な距離を保ちつつ、ローニアは狼に睨みを効かせていた。
 その隙にエイルズレトラは、狼へと接近を果たす。

「……さぁ、遊んでみようか……」
 エイルズレトラが接近を果たしたと同時に、後ろから匁が仕掛ける。
 大鎌一閃。放たれた刃を、赤ずきんは触手でいなす。
「一筋縄ではいかないみたいだ、な!」
 続けて飛び込んだのは、紅を纏ったジョンだ。コールタールのような液体の染みた拳を赤ずきんへと叩きこむ。受ける体勢を取らせたならば、勝ちだ。
 滴るのは、甘い幻嗅を催す毒液。赤ずきんの闇が、微かに歪む。

 カシャッ!

 幻聴かと思わしきシャッター音に、二人の動きが一瞬止まる。
「戦闘中に、何をしているのですか」
「いや、協力者に写メ送らないといけないんですよ」
 約束を果たすべく、エイルズレトラが写メを撮っていた。
 適当に撮り終えると、すぐさま戦闘態勢に切り替える。爆発するカードをアウルで生み出し、すれ違いざまに赤ずきんに刺す。
 小さな爆発の後、赤ずきんは自ら跳ね飛んだ。コンクリート塀を背に、両手を広げると無数の触手を生み出していく。熾烈な連続攻撃が始まるのだった。


「……さしずめ、俺達は猟師役だねー」
 湊は狼の牙を氷の幻で受け落すと、わずかに距離を取りながらいう。
 その間をロケット砲が貫く。上空に対座する黒百合の一撃だ。
「……ん、狼さァん。貴方ァ、私に食べられてくれないかしらァ」
 楽しげな声を上げつつ、狼の動きを冷静に見極める。
 確かに回避は素早いが、攻撃が直情的だ。カウンター気味の攻撃であれば、難なく当たるだろう。
 無論、そのためには多少の負傷を覚悟しなければならないが。
「あっちはどうかしらァ」
 視界の隅にいた赤ずきんは、触手を全開にして匁たちに対応していた。動きは不規則であるが、本体が移動をほとんどしていない。隙間を縫って、噛み付けば届くだろう。
 ふむ、と一人頷き武器をロンゴミニアトに切り替えた。
「攻めるならァ、攻めてきた時が一番よォ」
 仲間に伝えながら、自ら実践する。降りてきたところへ、向かってきた狼の鼻っ面をなぎ払うのであった。

 黒百合と同じく敵を洞察していたケイも、同じ結論に至っていた。
「闇雲に動きまわらず、ね」
 狼は飛びかかる直前に、後ろ足へ力を貯める予備動作があった。
 近接ならば予備動作を見、いなすように反撃を与えればよい。では、射撃攻撃は?
 同じである。
 予備動作を見、予測される地点へ弾丸を浴びせればいい。
 ケイの弾丸が狼を穿ち、闇の毛皮を剥ぎ落す。内側の肉もまた、闇を湛える漆黒。
 ファーフナーとケイの方向へ、狼が跳躍する。
「近づいてくるか」
 静かに告げるとファーフナーは、飛び込む狼を巻き込むように自身の周囲を凍てつかせた。
 飛んで氷に入る黒の狼とはこのことである。
 幾度となく凍傷を追いつつ、寒さが生み出す睡魔に打ち克ち、狼はさらに進まんとする。
 ケイが出迎えるように、狼へと銃口を向ける。
「さすがは狼といったところだけど」
 噛み付こうとするその口へ、至近距離から弾丸を文字通り食らわせる。
「鉛の飴玉の味は如何かしら?」
 突っ伏し悶える狼を見下ろし、妖艶な笑みを浮かべるのであった。


「暴れるワンコにはリードを繋いでおかないとねっ」
 湊の目の前で、狼は氷樹に磔にされていた。
 棘のある枝に傷つけられ、動きも封じられた狼へ湊は引導を渡す。
「ふぅ」
 銀の洋弓を下げ、湊は赤ずきんとの戦いを見やる。
 こちらも決着のつくところであった。

「貴方ァ。私に食べられてくれないかしらァ……」
 生命力はさほど減っていなかったが、折角の相手に吸血幻想で噛みつきかかる。
 赤ずきんの死角、ブロック塀の上からの強襲だった。
 匁やエイルズレトラ、加えて新手と対応しきれていない。触手も数こそあれ、荒くなる。
「歪んだ童話を正してやろう」
 さらにローニアがその触手を払うように飛び込んできた。
 好機、とばかりに匁が異界の呼び手を用いて赤ずきんを縛りにかかる。
「意趣返しよ」
 にやりと笑う匁の前を、ジョンが駆け抜ける。
「そして、終わりだ……もらう!」
 黄金の槍が赤ずきんの闇を貫く。悲鳴ともつかぬ音を響かせ、闇が溶け、赤いずきんが崩れ落ちていく。
 残されたのは、ただの虚空。都市伝説がまやかしであるように、消えていなくなるのであった。


「もしもし、アリサちゃん。仇を取ったよ」
 アリサに報告する湊の隣でエイルズレトラは、協力者に例の写メを送っていた。
 その写真に映り込む、もう一人の赤ずきん匁はほぅっと溜息をつく。
「……今思うと、あたし誤退治されなくてよかったよね……」
「本当にな。赤ずきんは匁だけで十分だぜ。さて、終わったし帰るか……」
「生きていてよかった……ホントウニ」
 虚空に語る匁は、まだ知らない。
 まさか、この戦いが……あんなことになるだなんて。 


 今宵、オカルト版を賑わすのは新たな都市伝説。
「化けて人を丸呑みする闇の赤ずきんを、正義の赤ずきんと狩人達が撃退した」
 というものだった。
 前にあった都市伝説に付随して発生した、この噂は瞬く間に××市に広がった。
 エイルズレトラが発信した赤ずきんの写真にちらりと写る、匁の姿。そして、アリサが口々に語った撃退士の勇姿。この二つが合わさった結果であった。
 事実が、乖離して独り歩きするとき、新たな都市伝説が生まれる。
 
 次なる都心伝説はいかなるものか……撃退士たちの戦いは続く。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 胡蝶の夢・ケイ・リヒャルト(ja0004)
 一期一会・若松 匁(jb7995)
重体: −
面白かった!:4人

胡蝶の夢・
ケイ・リヒャルト(ja0004)

大学部4年5組 女 インフィルトレイター
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
一期一会・
若松 匁(jb7995)

大学部6年7組 女 ダアト
大切な思い出を紡ぐ・
ジョン・ドゥ(jb9083)

卒業 男 陰陽師
蒼色の情熱・
大空 湊(jc0170)

大学部2年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
オリーブオイル寄こせ・
ローニア レグルス(jc1480)

高等部3年1組 男 ナイトウォーカー