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昼下がりの公園に、蔓延る天魔を退治すべく募った撃退士たち。
遊具が取り囲む砂場には、倒すべき天魔が待ち構えていた。
だが、そいつらは、かわいいワンニャンの姿なのであった!
「わーい。ねこねこにゃんにゃん♪」
ルル(
jb7910)はその魔力に絆されていた。
手にはねこじゃらし、コンビニのペットフードが入った袋が脚元に置かれていた。
「わふ! 可愛いわんこやにゃんこに化けるとは小癪で御座る!」
そんなルルにはっぱをかけるのは、静馬 源一(
jb2368)だ。
ルルの兄貴分として、源一は張り切っていた。
「大丈夫でござるか、ルー?」
源一はルルの様子を気にかけて、声をかけるのだった。
ルルたちの反対側では、グラサージュ・ブリゼ(
jb9587)が誘惑に耐えていた。
「モフモフし……違う違う! 私にはオリゴがいるもん!」
咄嗟に自分の野うさぎのぬいぐるみを抱きしめる。
浮気しかけた気持ちを、ぬいぐるみを見つめ引き戻す。
「ウサギ派の名に懸けて絶対に彼らには屈しないもん!」
気合を入れなおした、グラサージュの隣ではユウ(
jb5639)が目を細めていた。
「……折角可愛い外見を模しているのに、人と仲良くできないなんて彼らも哀れですね」
その言葉には、グラサージュも同意するように頷く。
「ここを憩いの場としている人達の為にも、そしてこのディアボロ達の為にも早期に排除して安全にしなくてはいけません」
ユウはユウでの決意を固め、闇の翼で飛翔するのであった。
「モフリたい……」
包囲をする相手を見つめ、雫(
ja1894)は思わず呟いていた。
ハッとする雫の隣で、黒百合(
ja0422)は素敵な笑顔を浮かべていた。
「あらァ、可愛らしいディアボロねェ……苛め甲斐があるわァ……」
非常に楽しげである。
ベクトルは違うながらも、ワンニャンディアボロの姿に見惚れていた。
だが、殲滅するべき相手。
木嶋香里(
jb7748)はしっかりとワンニャンを見据えていた。
「こんな悪辣な所業で子供達を狙うのは許せないです」
忌憚のない意見に雫たちも同意を示す。
「戦いが終わっても、この公園が遊べる様にしておかないといけませんね」
香里は戦いで損傷することも憂慮して、遊具等を修繕する手配をしていた。
なるべく、そうならないことを願いながら戦闘態勢に入る。
「くっ。これが敵の術中! すでにハマるところであった! オソロシイ!!」
臨戦態勢に入っていく周囲の様子を見て、ルルは驚愕した。
気を取り直して、魔具のペンタチュークを取り出す。
「もう、大丈夫!」とルルが言ったのに、源一は力強く頷く。
「いくでござるよ! ルー!」
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砂場を包囲する中、ワンニャンたちも事態に気づく。
飛翔したユウの目の前で、砂場からネコ型ディアボロが跳んだ。
二匹同時に飛び出してきたネコたちへ、ユウは立ちはだかる。
「ここから先へは行かせませんよ」
ネコたちが吐き出した火球を受けながらも、引き金を引く。
素早く抜き放たれた弾丸が、ネコたちの行く手を阻む。
砂場に残るワンニャンたちへ、グラサージュは手を向ける。
「冬は大人しくするものだよね」
砂場を中心の細かな氷晶が舞い散り、周囲の気温を下げる。
姿を模しているだけとはいえ、ワンニャンの動きが鈍っていった。
逆側では源一とルルが作戦を開始していた。
「いちは頼れるお兄ちゃんぞっ。一緒にがんばる〜!」
ルルは持ち寄った餌を投擲し、誘い込もうとする。
「あれ?」
しかし、ディアボロだからか目にくれず、こちらへ数匹向かってきた。
向かって来るならと、素早く奇門遁甲の術を放つ。
方向感覚が狂ったネコたちが、ふらついた。
「砂場から先へは、行かせないでござるよ!」
声を張り上げ、堂々と行く手を阻む。
飛び出してきたワンコディアボロの噛み付き、ネコの火球を避けてみせる。
一匹は、狂った方向感覚に惑わされ味方へ火球をぶつけていた。
「いち!かっこいい…っ」
ルルまでも目を奪われる。
「さぁ。自分ごと、構わず敵を撃つんで御座る!」と並んだ瞬間に源一はアイコンタクトを送る。
「まかせてーーー!」
ルルは答え、光の矢を放つ。
源一は素早く避け、光はネコを穿つのだった。
「こんにちわァ、ティアマットちゃんゥ」
ティアマットを呼び出し、黒百合は問いかける。
「ねェ、一つ聞きたいのだけど貴方は猫派、犬派かしらァ?」
意味を推し量っているのか、ティアマットは答えない。
そんなティアマットを楽しげに黒百合は見やる。
指先を砂場に向け、告げる。
「まァ、どっちにしても彼らは貴方と遊びたいらしいからァ」
ティアマットの視線も砂場に向けられた。
「思いっ切り戯れてェ、叩き潰して来なさいィ……」
嬉しそうな黒百合の語気に、ティアマットは御意を示すと向かっていく。
ティアマットを見送り、距離を取る黒百合とは反対に雫は砂場へより近づく。
「本当は神威の方が良いのでけど、あの相手だと使用を躊躇してしまう……」
そういいながら、雫は闘気を開放する。
併走する香里が、聖なる刻印を与え告げる。
「攻撃は躊躇わないでくださいね」
わかっていると雫は頷いた。
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「悪いですが、二次的被害を抑える為に留まって貰いますよ」
砂場に押し留めるべく、雫は剣を振るう。
犬二匹を直接見ないように気をつけ、素早く切り払う。
そこへ、黒百合のティアマットが到着し犬っころを蹴散らす。
「さァ、ティアマットちゃんゥ。一匹づつ、確実にねェ」
遠くから黒百合の言葉が届く。
飛び出そうとしてくる犬ディアボロの前にティアマットは、立ちはだかる。
愛らしい様相が一変し、厳つい顔面で噛み付こうとしてくるのを、避けてみせる。
「……」
隣では、雫も噛み付き攻撃を防いでいた。
愛らしい姿からの変容ぶりに、複雑な表情を浮かべながら……・
そんな犬の変化も、攻撃が終わると戻ってしまう。
愛くるしい姿を前に、源一は身悶えていた。
「できないでござる! 自分にはできないでござる!」
つぶらな瞳で見つめられ、源一は振り上げた刃を引っ込めた。
ルルが愛らしい魔力に囚われぬよう、その姿を隠す。
もちろん、ルルは源一の意図をくみ取り光矢を飛ばす。
源一が避け、ディアボロに当てる。
「ほら、どこへ行くでござるか?」
遊具側へ生かせぬように、源一は移動しながらディアボロたちを阻む。
闇の翼で飛びながら、ルルは狙いをつけるのに必死だった。
ユウ側では、ネコに加えて一匹の犬ディアボロが地をかけようとしてた。
「ストップ! 待て! ……え〜と、ハウス!?」
グラサージュは咄嗟にアウルをストロベリーチョコ風に変化させ、犬へ放った。
それを受けた犬は、きゃうんと啼くとコーティングされたように固められた。
「助かります……では」
犬の対処をグラサージュへ任せ、ユウは跳躍するネコを抑えにかかる。
銃弾が、ネコディアボロを穿ち、その場に押し留める。
お返しにと放たれた火球を避け、ときには受けてユウは立ちはだかるのだった。
「逃しはしないわァ」
黒百合の視線の先では、ティアマットが犬ディアボロの進撃を防いでいた。
凶暴な顔つきで噛み付いてくるのを避け、叩き戻す。
ティアマットの隣では、雫が視線を合わせ内容注意していた。
「……正面から見たら決心が鈍りそう」
だが、しっかりと剣を横薙ぎに払い、力いっぱいにディアボロを吹っ飛ばす。
砂場の上で跳ね、転がり半身を砂に埋める。
雫は自分の攻撃した、犬ディアボロが凶暴な顔の状態で倒れるのを確認した。
「あれなら、鈍らないでしょうか」
複雑な表情を振り切り、ティアマットの援護に向かうのだった。
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「もう貴方達の好き勝手はさせませんよ」
グラサージュとルルへ刻印を与えた、香里は戦いに合流する。
手薄な場所を塞ぐべく、グラサージュたちとルルたちの間に立った。
「まずは……」
グラサージュが抑えた犬ころを叩きに向かう。
ルル側は、源一が引きつけてくれていたからだ。
やや内側へ食い込むと、蒼色の布槍を繰り広げる。
香里の動きを見て、グラサージュはユウの助けに入る。
二匹のネコディアボロのうち、一匹へ弓をひく。
「飛ばせないよ!」
跳躍から飛翔へ移行しようとしたネコの翼を撃ち抜き、地に落とす。
ネコは腹いせか、グラサージュの方へ瞳を向けた。
飛んできた火球を受けて、グラサージュはむっと見返す。
「火の玉なら兎でも吐けるんだからねー! ファイヤー!」
咄嗟に野ウサギのぬいぐるみを取り出す。
ぬいぐるみの口から火の玉のようなものが、ネコへ向けて射出された。
「どうだ」と言わんばかりの表情で、ネコを見る。
うさぎパーカーを着こなすその姿は、まさにウサギ派。
負けじとそのネコはグラサージュへ、向かっていく。
「みゃーーお」という気の抜けそうな鳴き声とともに、爪を立てる。
「おもちゃの代わりだよ〜。おいでおいで」
楽しげにグラサージュは尻尾を振り、後退する。
誘い出されたネコは、弓で射抜かれ追いつくことなく倒れるのだった。
ユウは、グラサージュが引き離したことで一対一の状態になれた。
武器を持ち替え、力一杯に薙ぎ払う。
「さぁ、例え、その可愛らしい姿を模したとしても、手加減はしませんよ。覚悟して下さい」
猫なで声もユウには届かない。
一撃を浴びせられたネコディアボロは、身体が竦む。
うまく動けないところへ、続けて二撃目を放つ。わずかに火球で反撃を狙う。
「……避けれないですね」
後ろを見て、ユウは判断した。避ければ遊具が被害を受ける。
焔を受け止め、魔具を振り下ろす。
「でも、終わりです」
これがトドメとなり、ネコディアボロは動かなくなった。
ルルと源一は、少しずつ三匹を追い詰めていた。
だが、埒が明かないと見たか、犬が一匹逃げ出そうとしていた。
「あらァ……いけない子がいるわァ」
同時に犬を一匹蹴散らしきっていたティアマットを黒百合が向かわせる。
ティアマットを見た犬は、すぐさま方向を変えた。
「本当に可愛いわねェ…その可愛らしさ剥製にでもして永遠に保存してあげようかしらァ……」
逃げ惑う姿に黒百合は楽しそうだった。
逃げた先にいたのは、闘気を開放しなおしていた雫だった。
「え」
雫の目に飛び込んできたのは、尻尾を振りながらつぶらな瞳で見つめてくる子犬だった。
まるで雫めがけて、喜びのあまり駆けてくるように見える。
香里から受けた聖なる刻印が、時間とともに薄れていた。
「……かわいい」
振り上げた剣が脱力とともに、下がる。
が、次の瞬間凶暴な顔で犬は噛み付いてきたのだ。
「……こんな事だとは思っていたんですよ。怯えられたり威嚇されたりするのは慣れています」
噛み付かれながら、雫はいう。
「絶望した目でお腹を見せて来る事に比べたら遥かにマシな対応です」
淡々と振り払う。そこへ、ティアマットが攻撃を叩き込んでいた。
「子供達の為にこれで終わらせます」
香里は、グラサージュの拘束が解けた犬を布槍で絡めていた。
そのまま、一気に圧を加えて倒してしまう。
一度魔具を収め、視線を巡らす。
砂場からほとんど出さないようにして、戦いができていた。
「残るは……あそこですね」
視線の先では、源一がネコディアボロの火球を空蝉で避けているところだった。
「連撃は危ないでござる!」
二匹のネコから同時に火球を浴び、源一は慌てて退避してみせた。
避けるのと同じタイミングでルルが、光の矢を放ち、一匹にトドメを刺す。
アイコンタクトを怠らず、砂場からさして離れないようにしていた。
「いち! あぶない!」
ルルの言葉に反応し、源一は咄嗟に地面を叩く。
アウルで構成された畳を現出させ、源一はネコの爪から逃れた。
「かっこいい!」
面目躍如といったところか。
そうこうしているうちに、他陣営が合流し始めていた。
こうなっては多勢に無勢。
残るネコはかわいさをアピールする間もなく倒されるのであった。
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「問題ないですね」
空から公園を確認していたユウは、降り立つとそう報告した。
被害状況もユウが空から、他の面々が各遊具を点検したり隠れた敵がいないかを調べていた。
予め香里が手配していた部品等を用いて、全員で修理点検と清掃を手伝う。
「これからもこの公園で子供達が遊べる様にしていきましょうか」
作業は作業で楽しいものだ。
「これでこの公園に笑顔が戻ってくれるといいのですが」
隣はユウは掃除を始めながら、公園内を見渡す。
「力加減を間違えると、何か壊しそうで怖いですね」
雫は恐る恐る遊具のボルト点検を手伝っていた。
隣で点検を手伝っていた源一は、一旦手を休めた。
「おーい、何をしているでござるか」
視線の先で、 ルルは掃除の途中で、何もいなくなった砂場を見ていた。
そして、一区切りつきそうなところで、砂場に駆け寄ると砂像を作り始めたのだ。
「急にかわいいモフモフが居なくなったら、ガッカリする人いない?」
ルルの言い分はこうである。
砂場を丹念に掃除していたグラサージュも感化されてか、はじめから決めていたのか。
「じゃあ、私はお城を作ります!」と言い出した。
源一たちは、二人をそっと見守りながら最後の仕上げにかかっていた。
「できた!」
「できました!」
ルルとグラサージュが同時に声を上げる。
砂で出来たワンニャンの蔵と立派な砂の城が、作られていた。
「時刻は夕方でござるか」
作業が終わる頃には、空が赤く染まっていた。
管理者へ報告を済ませたユウが告げる。
「帰りましょう」
公園を去るとき、郷愁を感じてふと振り返る。
朱に染まる地面の先、砂場の中で砂像が輝いて見えるのだった。