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市街地の幹線道路、その中央でふわりと浮く雛人形があった。
まず立ち現れたのは、4人の男女。仕舞い忘れた雛人形という迷信に抗う者たちだ。
「雛人形……? 仕舞い忘れ?」
黒を基調としたドレスを身につけ、ヒビキ・ユーヤ(
jb9420)が疑問を呈する。
「迷信だから過剰に気にするのもどうかと思うが、婚期が遅れるということらしい」
ディザイア・シーカー(
jb5989)がタキシードの具合を確かめつつ、ヒビキに答える。
こくりと頷き、
「婚期が遅れる、迷信……なるほど」
とヒビキは納得した様子。
「あぁ、迷信なんだ? じゃあ、気にしなくてもいいね」
にっこりと、来崎 麻夜(
jb0905)はドレスをはためかせる。裾を摘んでみては、
「ねぇねぇ、似合うー?」
とクスクス笑いながら問いかけた。
「ん、動きにくい」
身体を動かしていたヒビキも、麻夜を見て、
「で、似合う?」
真似するように裾を摘み、ディザイアと麻生 遊夜(
ja1838)に問いかける。
「ちっと動きにくいが、こんなもんか……ん?」
屈伸して動きを確かめていた遊夜は、二人に気づき振り返る。
一通り姿を眺め、
「可愛くて、眼福だぞ」
と笑みを浮かべて答える。だが、少し動きにくそうな二人にポツリと呟く。
「やっぱコンセプト間違ってんじゃねぇ?」
なお、この辺りの発言はプロモート映像では消えています。
その声に麻夜が答える。
「着る機会は少ない方が良いし、常時着る物じゃないからねぇ」
「ちっとまぁ動きにくいが、どうにかなるか。改善の余地はありそうだ」
ディザイアは腕を腕を回した後、ヒビキを腕に乗せて眼前を見据える。
「プロモートね……いいぜ、魅せてやろう」
遊夜が呟き、麻夜が頷いた。
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「うへへ、ドレスのかわいこちゃんがいっぱーい♪」
アティーヤ・ミランダ(
ja8923)は、腕を上げて喜ぶような仕草を見せる。ビスチェタイプだから、肩の辺りが動かしやすい。真っ直ぐなラインのスカートは、少し窮屈そうにも見えた。
アティーヤの視線の先では、
「戦闘用とは聞いてたけど、まさか本当にウェディングドレス姿で戦うことになるとはね……」
鬼灯 アリス(
jb1540)が複雑な表情で、窓にうつる自身の姿を眺めていた。ゴシック調のプリンセスドレスが、髪色と対照的で実に映えていた。
「俺は迷信はあまり気にしませんし、婚期が遅れようが構いません。ですが、ディアボロは迷惑ですからきっちり倒さねばなりませんね」
光り輝く洋弓を携え、樒 和紗(
jb6970)は目の前の雛人形を見据える。裾の広がるドレスではあったが、肩出しのため、まだ動きやすそうに見える。
「スタイリッシュに戦え、ですか……たくしにできるかわかりませんけど頑張ってみますわ」
その隣で、拳を固めるのは長谷川アレクサンドラみずほ(
jb4139)だ。同じく雛人形を見据えるみずほは、クラシカルなドレスを身に纏っていた。
「戦闘用ウェディングドレスのプロモートも兼ねるらしいですから、派手な技など使った方が良いのでしょうか?」
和紗の持つ弓は、それ自体が派手に見える。
「紙一重で敵の攻撃をかわすのは、スタイリッシュかしら」
みずほは拳で風を切りながら、戦意を高める。
「将来のため、やるのよ」
アリスも窓から視線を浮かぶ雛人形に向ける。袖の中では、緑色の腕輪が光っていた。
「よし、戦った足で嫁に行くぞ!!」
アティーヤは、猛獣のような眼で雛人形を睨み付ける。
「あたし、この戦いに勝ったらきっと結婚できると思うんだ!!」
この叫びはプロモート映像でばっちりと使われました。
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全員に、新から開始の合図が入る。
合図と同時に最初に飛び出したのは、ディザイアと腕に乗ったヒビキだ。ディザイアは五人囃子の撃ちだした衝撃波を捌き、ヒビキを守りながら前進していく。
五人囃子の攻撃は、和楽の音色を響かせる。
その間から、薙刀を持った三人官女が二体飛び出してきた。
「お前らの相手は俺らがしてやるよ」
後ろからついてくる遊夜と麻夜へ向かわせぬよう、ディザイアは食い止めに入る。同時にヒビキが降り立ち、闘気をみなぎらせて、ぐっとクーゲルシュライバーを握った。
「貴女達の相手は、私達……ユーヤ達が先に行くのを、邪魔しちゃ駄目だよ?」
すかさず細やかな氷の結晶を放った。
ダイヤモンドダストの煌めきが、派手に敵の中央で弾けた。
「綺麗だね……貴女達には、良い死に場所」
饒舌にヒビキは語りながら、目の前にいる三人官女に相対する。
その隙をついて、遊夜と麻夜が前へ出た。
「さぁ、踊ろうか!」
「さぁ、踊ろう!」
声を揃えて、二人は武器を構える。
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「頼むのよ、スーちゃん」
アリスはスレイプニルのスーちゃんを呼び出し、戦闘態勢を整える。
「蝶のように舞い蜂のように刺すとはこのことですわ」
背中からアウルを放出したみずほが、一気に加速して前線に躍り出る。狙いは、五人囃子の一角。こちらには、3体の五人囃子が向かってくる。接近の間際、五人囃子は盛大に楽器を鳴らし始めた。
迫り来る衝撃波は、みずほの後方を行く和紗に辿り着く。気付いた和紗は、咄嗟に地面を転がり衝撃波を避けると、すかさず弓を抜き放つ。
炎のようなアウルを纏った弓が、衝撃波を散らす。
みずほは、散らされた衝撃波をわずかな重心移動でかわす。残るアーティヤは避けきれず、半身に衝撃波を受けてしまった。しかし、ウェディングドレスは破けなかった。
「本当に丈夫ね、このウェディングドレス」
「この避け方でも大丈夫なドレス、凄いです」
アティーヤと和紗は同時にそんな感想を漏らす。戦闘用の面目躍如だ。
衝撃波をかいくぐり、みずほは五人囃子の一体、太鼓持ちに接近を果たす。
「Go to Heaven!」
素早く放たれた左フック、五人囃子の体躯が傾いた瞬間にアッパーがたたみ掛けられる。宙を舞い、降り立った太鼓持ちはまだ息があった。
五人囃子の攻撃をなおもいなしつつ、和紗はこちら側に来ていた三人官女を狙う。
「太陽の光よ炎となりて敵を貫かん」
口上を述べ、プロモートを意識してみる。音声は、バッチリ使用させていただきました。テロップでは、敵は婚期という漢字を当てています。
煌めく弓から放たれる炎の矢。そして、炎に群がるように無数の妖蝶が舞う。妖蝶は三人官女に襲いかかり、その意識を奪おうとする。が、薙刀一閃、蝶は散らされる。
「ここだね。合わせていこう!」
距離を保ちつつ、アティーヤも三人官女に胡蝶扇を投擲する。弧を描く扇は、炎を纏う。さらには、アウルで紡がれた妖蝶が、アティーヤの扇にも群がる。丁度、散らされた妖蝶が再び集まるかのように、三人官女を襲う。
隙の生じぬ二段構えで蝶が舞い、翻弄されるばかりの三人官女は正体をなくす。
「スーちゃん、お願い!」
すかさず、アリスがスーさんを向かわせる。牙を剥くスーさんに、三人官女は薙刀で防ごうとするも間に合わない。人形の和装を引き裂き、スーさんはその場で三人官女を押さえに入るのだった。
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A班では、ディザイアとヒビキが官女を押さえていた。その隙に敵中央付近へと、遊夜と麻夜は飛びこんでいった。より中央に切り込んでいたのは麻夜だ。
「夜に嫌われると良いよ」
くすくすと笑いながら、麻夜が告げた瞬間、周囲を舞う羽根が収斂する。そして、霧散するように羽根は飛び散る。麻夜の周囲にいた、三人官女と五人囃子に羽根は張り付き、その感覚を狂わせる。
視覚か嗅覚か、はたまた別の何かか。感覚を狂わされた五人囃子は、がむしゃらに横笛を吹き鳴らす。
「ドレスを汚させるわけにはいかねぇよな、タキシードを着る身としては」
赤い銃口から遊夜は悠然と弾丸を放つ。弾丸は、当たった瞬間に発光し、衝撃波をわずかに弾く。
同時に、麻夜はしゃがみ、体勢を低くした。
「お嬢様が2度は踊らんとさ、諦めてくれや」
静かに告げて、二丁の拳銃をかまえなおす。
「代わりにあの世にご招待だぜぃ!」
嵐の如く弾丸をばら撒き、人形たちに風穴を開けていく。
「初お披露目、全力全開だよー」
スカートの下に、黒色の脚甲を纏って踊り始める。半身に闇を纏い、それがあたかも影と踊るかのように新のカメラには見えた。その踊りを派手に演出するように、遊夜の弾丸が舞う。
「まずは、こんなところか」
弾丸の嵐、そして麻夜の蹴りを受けた五人囃子は活力を失い、地に伏していった。
「ロマンの欠片もねぇ気がするな」
いろんなものが舞い散る戦場に、ディザイアが冗談めかしく呟く。
ディザイアたちの対峙する三人官女は、遊夜らの余波を受けていた。それを察し、ディザイアはヒビキに声をかける。
「ここで決めるぞ!」
ヒビキが頷いたのを確認すると、ディザイアはくるっと三人官女を横並びにした位置まで動く。
「一回限りの新スキルだ、存分に味わいな!」
拳に巻いた魔具へ、太陽の光が収束する。突き立てるように、拳を打てば同時に赤光が直線に伸びていく。ヒビキがそっと道を空け、二体の官女が巻き込まれていった。
「ユーヤから貰った、大事な宝物で、相手してあげる」
逆側へと、ヒビキは回り込み、くるくるとペンを回す。そして、アウルによって紡がれた衝撃波を放った。
「味方はいない……敵は死すべし、慈悲はない」
貫通する第二波の攻撃は、風穴が空き赤光に灼けた官女たちを朽ちさせるのには十分だった。
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「ふっ」
短く息を吐きながら、みずほは素早い重心移動で五人囃子やお内裏様の攻撃を捌く。まだ、相手をしたくないお内裏様とは距離を取りながら、確実に太鼓持ちを沈めに入る。
太鼓持ちが衝撃波を放ち、和紗が僅かに攻撃をそらす。そうしてできた隙を狙って、ぐっと懐へ潜り込む。再び、左フックとアッパーによる連係攻撃。
「ボクシングは人の歴史が産みだした芸術ですわよ」
その場に崩れ落ちた五人囃子に目もくれず、お内裏様をかいくぐり、みずほは次の狙いへと駆けていく。
「派手なの、いくよ!」
事前に決めた合図を投げかけ、アティーヤが宙を舞う。道路標識に片足をつけ、敵の側面へ移る。スカートを抑えながらの着地と同時に、片手は五人囃子と三人官女を一直線に狙っていた。
「さぁ、あたしの嫁入りのためにおくたばりになっておくれ」
実にいい笑顔で、炎が放たれる。炎が晴れると同時に、小鼓の音が響く。衝撃を真正面から受けるも、ドレスは汚れ一つなく、アティーヤの身を包んでいた。
「目の前のを倒してしまうのよ、スーちゃん」
アリスの呼びかけに、スーちゃんは応え、戦意を高める。
アティーヤがその間に、さらに炎を浴びせかける。
三人官女の身体が完全に、ぐらついたところへ、スーちゃんの一撃が入った。アリスの呼びかけに応えるような、見事な体当たりに官女は吹っ飛び、地に伏せるのだった。
二度の炎にいきり立つ小鼓は、一気に距離を詰めたみずほが、勢いをそのままに拳を叩き込んでいた。
いよいよ追い詰められた内裏雛が、ここに来て動きを強める。
「スーちゃん、危ないのよ!」
お内裏様による、五人囃子を三体連ねたような、強力な衝撃波がスーちゃんを襲わんとしていた。
「させませんよ」
「取り巻きは片付けたぞ?」
煌めく矢と発光する弾丸、二つの衝撃がお内裏様の気勢を削ぐ。
遊夜たちA班と和紗たちB班の戦場が、交叉する。
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「大丈夫……すぐに、楽にしてあげる」
お雛様にペンを向け、ヒビキはくすくすと笑う。ぐんっと横薙ぎに放たれた攻撃は、お雛様の体躯を痺れさせ行動を縛る。
合わせるように麻夜が、脚甲で踊るようにお雛様と残されていた五人囃子を蹴りつける。スタンと、踊り終わったと同時に少しつまらなさそうに告げる。
「んー、失格だねぇ。やっぱり貴女達じゃ合わないや」
麻夜が姿勢を低くし、遊夜が双銃に引き金を引く。
「そういうことで、すまんが時期外れなんでな」
再び巻き起こる弾丸の嵐、穿たれたお雛様と死に体の五人囃子に告げてやる。
「お帰りはあちらだ、さようなら」
「そ、お帰りの時間だ」
遊夜の言葉を受け、ディザイアがお雛様にたたみ掛ける。ぐらりとお雛様の体躯が揺れる。それでも、再び動き出したお雛様へ、トドメを誘発するように、視線をヒビキへ向けた。
「私の宝物に、貫けないものはないの」
突き飛ばすような、力強い一撃で、ヒビキはお雛様の頭を突き崩した。
一生の大切な贈り物、結婚も宝物にしませんか?
そんなキャッチフレーズを流そうと考えたが、予想以上に厳しかった。
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「取り巻きは、これで終わりですね」
和紗の矢が遊夜の攻撃に巻き込まれた五人囃子にトドメを刺す。
残るはお内裏様、スーさんがすかさず体当たりを仕掛け、バランスを崩させる。その隙を突き、
「もう一度、蝶を舞わすよ」
アティーヤが妖蝶を纏った胡蝶扇を投擲し、和紗も蝶の群らがる矢を放つ。幾重にも重なる妖蝶が、お内裏様の動きを封殺した。変わらぬ表情ではあったが、その動きは明らかに鈍っている。
妖蝶の晴れる中から現れたのは、みずほだ。
「参りますわよ! 耐えられるかしら?」
全身からアウルを溢れさせ、その爆発力で動きを加速する。溢れるアウルは、まるで蝶のように舞い散る。蝶の中から再び蝶が舞い散る。
美しき光景の中で、みずほは連続して拳を叩き込む。ドレスによって動きが制約されているからか、きびきびした動きになる。それが、むしろ映えている。
打撃が終わり、みずほの動きが止まる。お内裏様の動きも、もはや停止寸前であった。
連続攻撃に耐えかねたお内裏様の胸を最後に射止めたのは、和紗の矢だった。炎に増して光りをも帯びた弓矢が、お内裏様の胸に突き刺さる。
「は……ハートに直撃」
最後に述べた、はにかんだような台詞は、新が確かに録音いたしました。
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ここから先は、PV未収録。戦闘後の一幕。
「やっぱりウェディングドレスは戦闘には向かないわ。隣を一緒に歩いてくれる人も居ないし」
アリスは伸びをしながら、そんな感想を漏らす。
「良いプロモートになればよいですね」
「スタイリッシュにできまして?」
和紗とみずほは、カメラを確認する新の方へ呼びかける。OKサインを見て、ほっと一息つく二人のところへディザイアがやってきた。
「ドレスは無事でも、身体も無事とは限らないからな」
そういいながらディザイアは、和紗たちに小さなアウルの光を当て、傷を癒やしていく。
その隣ではヒビキが、クスクス笑いながら麻夜やディザイアたちの写真を撮っていた。
「反応が、楽しみ」
「やれやれ、それで婚期とやらは掴めたんかね?」
「どうだろうねー」
遊夜のぼやきに、麻夜が笑いながら応える。二人の視線の先には、アーティヤがいた。
「あたし、頑張ったよ!! 結婚できるよね!! これならあたし、結婚できるよね!!」
アーティヤの必死な叫びが、虚空をこだまする。
その結果が出るのは……当分、先かもしれない。
終