夜の海岸が、赤々と燃えていた。
あたり一面、見渡すかぎり火の海だ。
その海の向こうからやってくるのは、ゴ○ラ型、ド○ラ型、Ω型の3種類のディアボロ盛り合わせ。さらに波打ち際ではワカメ型が増えつづけており、沖合いにはダツ型がスクランブル待機している。
「……あの会食で私たちが言ったものが、なんで形になってるのかしら……?」
砂浜に立ちながら、紅アリカ(
jb1398)は呆然と海産物軍団を眺めていた。
無論、彼女は鈍くない。あの会食の席に盗聴器が仕掛けられていた可能性や、あの胡散臭い学者の女性が悪魔の化けた姿だった可能性を推測している。しかし、いったい何のために、あんなインタビューを……?
「やべえ、相手の顔ぶれマジやべえ。やべえしか言えないけどマジやべー。……ていうか、どっかで聞いたようなメンツばっかじゃん? ……あたしが提案したのいないよな? あたし悪くないよな?」
アティーヤ・ミランダ(
ja8923)は、責任回避に必死だった。
実際、彼女には何の責任もない。それでもきっちり後始末をつけるべく参加したのだから、むしろ責任感は強いほうだ。なんと気の毒な。(え?
「えーと……冗談みたいな様相なんだけど、見た目によらずガチっぽいし、油断したくはないわね……」
グレイシア・明守華=ピークス(
jb5092)は、貧相な胸を張りながら海産物軍団と対峙していた。
今回ただひとりのアスヴァンである彼女は、回復役として重責を担っている。……と言いたいところだが、ゴ○ラの攻撃は一撃即アウトなのでヒールとかしてるヒマないと思う。ヒールする時間があったら一つでも多くネタを披露するのが、当MSの攻略法なのだ。
「これは無理だろう……。思わず『お客様の中に、芹〇博士か、小〇人でモ〇ラ呼べる方いませんか』と言いたくなる眺めだ……」
穂原多門(
ja0895)も、いつになく弱気だった。
それはまぁ、無理もない。なんせ、怪獣総進撃みたいな状況なのだから。
「……とはいえ、ないものねだりをしても仕方ない。俺たちがやる以外なかろうな。……まぁなんとかするように努力はしていこう。できれば自衛隊に出動してほしい感じだが……」
強気なのか弱気なのか、よくわからない多門であった。
「しかし、これはどういう趣向の創作物なのか……。あきらかに人界の知識が混ざり込んでいるようだが……」
と、首をかしげるのはカルセドニー(
jb7009)
一見クールな悪魔だが、それがわかるということは人間の娯楽に詳しいということだ。つまり、ネタ戦闘には期待できる! かもしれない!
「ブレイカー、ブレイカー♪」
どこかで聞いたような歌とともに登場したのは、日本撃退士攻業 美奈(
jb7003)
「初依頼が超無茶ぶりな天魔退治って、燃えてくるわー。奴らをきれいに掃除できれば、あたしの起業にも拍車がかかるわけでー。こいつを逃す手はないってこと」
初依頼で『!』つきの『非常に難しい』依頼に挑むとは、なんと命知らずな。
もっとも、コメディ依頼にレベルやパラメータなど関係ないが。
ところで、その名前は『日本撃退士攻業』が苗字と解釈していいんでしょうか。
「ひどい……だれがこんなことを! 許せない!」
火の海に包まれる海岸を見て、歌音テンペスト(
jb5186)は怒りに震えていた。
いや、あの、九割ぐらいあなたのせいなんですが……。ちゃんと策を立てた上でのリクエストだったんでしょうね……? まさか、なにも考えずにリクしたわけじゃありませんよね……?
「みんな、この戦いはあたしにまかせて! 今日にそなえて、屋上で召喚獣やスキルのことを勉強してきたあたしに死角はないんだから! 正直むずかしくて、よくわからなかったけど! どこにも死角はない!」
死角うんぬんではなく、つねに目隠しして戦ってるような戦闘スタイルの歌音。天魔退治と称して365日スイカ割りしてるような彼女に、なにを期待すれば良いのだろう。
しかし、そんなMSのツッコミをよそに、歌音は真剣な顔でスレイプニルを召喚。ヒラリとまたがるや、インビジブルミストを起動してゴ○ラへ立ち向かっていった。
「参加できなかったロリ仲間の想いを背に、いまテイクオフ!」
な、なに……!? いつもの歌音と違う! だれだ、これ! 別人がプレイング書いてませんか!? ふだんなら『テイクアウト!』って言うところですよ? アカウント乗っ取られてませんか!? オフィシャルに通報しましょうか!?
ふつうに出撃しただけで、このツッコまれよう。ある意味すごい。
本日限定シリアスモードの歌音はゴ○ラとド○ラの間を縫うように飛びながら、右手をあげて命令した。
「薙ぎ払え!」
しーーん。
無反応だった。
風の俗のアレみたいなシーンを再現しようとしたのだが、残念。ディアボロが人間の言うことなど聞くわけない。
「そう簡単にはいかないみたいね。でも勝つのはあたしたちよ!」
歌音がカッコいいセリフだと……!?
はっ! これは死亡フラグ!
「……これは、きっと夢ですね。早く起きて依頼に向かわないと」
そう言いながら、雫(
ja1894)は虚ろな目で走っていった。
あまりにカオスな光景を前にして、現実逃避しているようだ。歴戦の彼女をしてここまで言わしめるゴジボロ軍団、やはりただごとではない。
そして雫は、用意しておいたジバチの巣をド○ラめがけて放り投げた。
そう。ド○ラにはジバチの毒が効くのだ! まえもってググっておいた作戦に抜かりはない! ぬかりはない……はずだった!
「あら……? 効いてないみたいですね……?」
うん。だって、こいつら天魔だから。V兵器とかスキル攻撃しか通じないんだ。いくらコメディとはいえ、根本的なルールは曲げられない。
「私としたことが……。ぬかったようですね」
うん。かなり抜かった。
そこにド○ラの触手がヌルッと襲いかかり、あっというまに雫の両手足を拘束してしまう。
そして身動きできなくなった彼女の口元へ、蔵倫違反の触手が……っ!
「あぶないっ!」
アティーヤの毒手が、ドスッと触手に突き刺さった。
「よし、当たった! これはジバチの毒だ! ジバチの毒なんだ! そうだろ? な?」
必死で毒成分をアピールするアティーヤ。
えーー? それはちょっと無理があるというか……。それ認めると、この世界の毒手すべてがジバチの毒ということになってしまうので……。オリジナル化しておけば余裕で通じたんですけどね……。
「そ、そんな……! 通じないのか!? 通じてください、おねがいします!」
いや、そう言われても……。残念ですが、次の機会にはオリスキ化しておいてください。次っていつだよって話ですけど。
「くそ……っ。こうなれば遁甲で脱出……ぃだっ!?」
走りだそうとしたアティーヤは、一歩も動けないままスッころんでしまった。いつのまにか、足首を触手につかまれていたのだ。
「うそ……っ!? って、ああああ……っ!?」
うつ伏せに倒れたままのアティーヤを、ものすごい力で触手が引きずり寄せた。
ズザーッと音を立ててフレームアウトしたアティーヤがどうなったのかは、わからない。
「……って、あっ、ちょ……おい! バカ、やめ……ああっ……!?」
とりあえず、良い子のみんなには見せられないことになってしまったようだ。
言うまでもないが、雫も同様である。
「え……? あの……、そこは駄目ですよぉ……」
音声だけでもまずいので、場面チェンジ!
そんな喜劇……もとい悲劇と前後して、天月楪(
ja4449)とソーニャ(
jb2649)はΩ型ディアボロに打ちかかっていった。
楪は、いつものうさみみコンバットドレスの上に青い上着を羽織っている。『その者、蒼き衣を纏いて……』的なスタイルだ。
彼は笛を振りまわしながら敵に近付き、「海におかえり。この先はキミたちの世界じゃないんだよー」と、説得開始。
しかし、指差す先は海ではなくゴ○ラ。両者をぶつけて同士討ちさせようという作戦なのだ。
主蟲っぽいディアボロは、当然のように首を振って拒否。そりゃそうだ。どう考えたって、同士討ちじゃなく一方的にやられるに決まってる。
残念ながら、説得失敗!
わしゃわしゃと伸びてきた黄色い触手が楪の足首をつかみ、ぷらーんと宙吊りにしてしまう。
「わぁっ!? ゆず、子供だよ? 子供でも容赦ないの……?」
原作からして容赦ないのに、ディアボロ化したΩなど言うまでもない。
というわけで、うにょうにょと伸びてきた触手が楪のカーゴパンツの中へ──
「やめて」
止めたのはソーニャだった。
彼女は水族館からグソクムシを借りてきて人質に……などという案も考えていたが、あいにくというか当然というか貸してもらえなかったので、 やむなく『意思疎通』で語りかける作戦に打って出た。
「……ね、ボクが遊んであげるから、満足したら海へ帰ろう? ボクの言葉、わかる?」
言葉が通じているのかどうか、わからない。
ただ、細長い触手がシュルシュルと近付いてくる。
「その触手で、明日羽さん捕まえてみて? みんなで一緒に遊ぼう?」
ソーニャの言葉に、明日羽は意外そうな顔をした。
「今日は積極的だね? どうしたの、ソーニャちゃん?」
「この子は遊びたがってる……。遊んであげれば、きっと海へ帰るはずです……」
「じゃあ、まずソーニャちゃんからね?」
明日羽はソーニャの肩をつかむと、触手のほうへ押し出した。
楪と同じように、足首をとられて逆さ吊りにされてしまうソーニャ。
うじゃうじゃと集まってきた触手が、たちまち二人を覆いつくしてしまう。
「うわ……っ!? だめだよぉぉ……!」
楪が高い声をあげた。
「好きなようにしていいよ? そのかわり、遊び終わったら海に帰ろうね?」
ソーニャは、なすがままである。
というわけで、こちらも触手プレイ開始!
ソーニャの自殺的プレイングは、はたして通用するのか!?
「ふたりとも気持ちよさそうだね……? じゃあ私も……」
当然のように、触手のほうへ歩いて行く明日羽。
それを、アリカが止めた。
「……待って、明日羽さん。今回の敵は、遊びながら勝てる相手じゃない。……このまえも、いいところで邪魔が入って流れたじゃない。あんなのを残して遊ぶほど私は馬鹿じゃないわ」
「あら? お姉様は率先して遊んでくれると思ったんですけど……?」
「……もちろん、そのつもりよ。でも、あんな怪物をほっといて私たちだけ遊ぶわけにもいかないわ。だいいち、せっかく愉しんでいるところを邪魔されるのはイヤでしょう?」
「でも、ちょっとだけ味見してみたいと思いませんか?」
「……気持ちはわかるけど、たのしみは最後に取っておくと言うでしょう? そのためにも、お邪魔虫は駆除しておかないと、ね……?」
「いつになく真剣ですね……? でも、あれには勝てないと思いますよ?」
「……力で立ち向かっても駄目なのはわかってるわ。だったら、同士討ちさせるまでよ」
「そううまくはいかないと思うんですけどね……? まぁためしにやってみます?」
「……ためしに、ね……」
やるだけ無駄と言いたげな明日羽の口ぶりに、アリカは違和感を覚えた。
天魔退治の依頼で明日羽が同行すると、よくこういうことがある。理由はわからない。わからないが、イヤな予感がするのは確かだった。
「ちょっと待て。話が聞きたい」
そこへ話しかけてきたのは、カルセドニーだ。
「なんですか?」
「貴様は依頼人だろう? おまけに撃退士だ。にも関わらず、まるで戦う気がないように見える。ほんとうに、あれを倒すだけが目的か? ほかに何か企んでいるのなら、協力もやぶさかではないが……?」
「なにも企んでなんかいませんよ? ……でも、協力してくれるのでしたら、これで撮影してくれますか?」
そう言って、明日羽はデジカメを手渡した。
「撮影? なにをだ?」
「あの恐竜みたいなのとイカみたいなのを、重点的におねがいします」
「それは構わんが……何に使うつもりだ?」
「天魔退治の資料に使う以外あります?」
「……ないな」
どこか釈然としないものを感じながらも、撮影係を引き受けるカルセドニーだった。
一方、そのころ。
「ともかく、あいつをどうにかしなければな……」
多門はゴ○ラをどうにかするべく、ド○ラと同士討ちさせる作戦を立てていた。
そのために用意したのは、ド○ラの大好物『炭』
もちろん、最高級のダイヤモンドだ! ……ってのは無理なので、ふつうに木炭である。
「これをゴ○ラのまわりにバラまいて、誘導しよう」
「よし。俺も手を貸そう」
乱童寺禅(
jb4770)も協力して、ふたりは大量の炭を背負いながら突撃した。その姿は、まるで桃太郎のお爺さんである。禅は、念のためにと奇門遁甲を使っている。
が、そんな二人をド○ラの触手が襲った。
だって、炭が好きなんだもん。バラまかれるまで待てないの♪
「まずい! 投げろ!」
そう言って、多門は背中の炭を投げようと──した腕を、触手に捕まってしまった。
「迂闊……!」
首筋にもニュルッと触手が絡まり、
「最初から無理ゲーだったんだ……!」
禅の腰にも、ギュルッと触手が巻きついた。
そのまま、なす術もなく持ち上げられてしまう二人。
こうして『炭素の嵐作戦(Operation Carbon storm)』は失敗し、多門と禅は触手に弄ばれてしまったのである。
「ゴ○ラの相手は、あたしにまかせて!」
触手地獄の惨状が見えていないのか、日本撃退士攻業美奈はどこまでも強気だった。
が、しかし。その手にあるのはオキシドール。
「定説ならオキシジェンデスノートで殺せるんだけど、そんなの持ってないからコレで勝負よ! 名付けて、オキシドールデストロイやー!(関西弁) さぁ、海に帰りなさい!」
投げつけられたオキシドールは、ポコッとゴ○ラに命中。
そのダメージでゴ○ラは爆発四散!
……するわけないというか、当たったことさえ気付いてないレベル。
そこで美奈が次に打った策は、『赤い闘牛士作戦(Operacion Torera rojo)』
説明しよう!
これはゴ○ラを闘牛に見立て、マタドールよろしく赤い布きれで翻弄しようという作戦だ!
え。ええと……? できるのか、それ……。相手、20mですよ……? あと、牛と違って遠距離攻撃してきますよ……?
不安しかないが、ともかく美奈は作戦を敢行した。
彼女が扮したのは、ただのマタドールではない。なんと、足の指で布きれをつまみ、スカートの裾から美脚を大胆に披露するという悩殺マタドールだ! すらりと伸びた真っ白な脚が、闇の中に映える! おお、これは悪くない! 悪くない作戦だぞぉぉ!
「トレロカモミーロ!」
かけ声と同時に、ゴ○ラが鼻息荒く突っ込んできた。
誘うのには成功したが、問題はこのあと。どうするんだ、おい。ちゃんとブレイクできるのか!?
「もう、いけない子ね。そんなにガッツいちゃ、ダ・メ」
美奈は、ここで予測回避を発動!
相手の動きを予測して、華麗に突撃をかいくぐり、そして背中に蹴りを……蹴りを……?
飛行スキルなしで届くわけないだろ! せめて雷打蹴ぐらい覚えてこないと! さもなければ、尻尾をつかんでジャイアントスイングでも良かった!
「なんてこと……!? まさか作戦失敗!?」
ばしーーーん!
巨大な尻尾が薙ぎ払われて、美奈は美脚を輝かせながら水平線の向こうまで吹っ飛ばされた。
いや……うん……。脚は良かったんだ。脚は。ただ、頭がちょっと……。
「これは……予想以上に予想外だな……」
カルセドニーはデジカメのシャッターを切りながら、苦笑いを浮かべていた。いまのところカメラマンの仕事しかしてない彼だが、さすがにそれだけというわけにもいかない。
「正直、痛いのは勘弁ねがいたいのだが……最低限の仕事はしておこう」
そう言うと、彼は闇の翼を広げてダツ型ディアボロのほうへ向かっていった。
ライトの光に誘われて、長さ5mの魚体がミサイルのように飛んでくる。依頼書にあったとおり、飛行速度は亜音速だ。拳銃の弾と同じぐらいである。しかも、相手は弾丸と違って一直線に飛ぶわけではない。これを避けられるのか──?
「思った以上に速……ぃぅぇおっ!?」
裏声を発しながらも、カルセドニーは奇跡的に予測回避成功。
「ふ……。俺様に避けられぬ攻撃などない」
心臓をバクバクさせながら、カルセドニーは後ろを振り向いた。
見れば、亜音速でカッ飛んでいったダツボロは遙か遠くにいて、Uターンしようとしている。
「あれをもういちど避けろと……? ごめんこうむる」
カルセドニーは必死に翼を羽ばたかせて、ゴ○ラの背後から近付いていった。
Uターンを終えたダツボロが、光のような速度で追いかける。
「く……っ。ここだっ!」
あわや背中を貫かれて終わりかと見えた、その直後。カルセドニーはサッと横に動いてダツボロミサイルを回避した。
おお、予測回避大活躍! なければ胴体を貫通されて死んでたぞ!
カルセドニーの策にはまり、ドスッとゴ○ラの背中に突き刺さるダツボロ。
「アンギャアアアアア!」
ゴ○ラが雄叫びをあげた。
鼓膜が破れそうになほどの轟音に耐えながら、カルセドニーは乱牙を抜刀してダツボロに斬りかかる。
「少々手こずらせてくれたが……これで一匹完了だ」
ゴ○ラの背中に突き刺さったまま動けないダツボロを、アウルの刃が一刀両断にした。
「ふ……っ。楽勝だな」
すっと前髪を掻き上げて、クールなイケメンスマイルを見せるカルセドニー。
その直後。振り返ったゴ○ラの張り手が彼をとらえ、ビターーンと砂浜に叩きつけたのであった。
「いまがチャンス!」
歌音はスレイプニルを駆り、槍をひっさげてゴ○ラの背後から突進した。
狙いは、ゴ○ラのケツの穴!
そう、どんなに頑丈な相手でも、内側からの破壊には弱いはず! いわゆる、お約束というやつだ! いまこそ、ゴ○ラのケツにロムルス・レムスの二本槍をつっこむとき! よりによって、そんな神聖なる名を持つ槍をケツの穴にブッ刺そうとは。ローマ人もビックリだ!
だが、ここで問題発生。
「あ、あれ……? ケツどこ!?」
ゴ○ラの足下をうろちょろする歌音だったが、肝心の穴が見つからない!
というか、そもそもゴ○ラに肛門あるのか!?
「いいえ、こいつは肉食! ぜったいにウンコしてるはずよ! アイドルのあたしと違って!」
15才の女の子が大声で『ウンコ』とか言うのは、ちょっとどうかと思うんですが……。
まぁ今回はアドリブですけど、ふつうに言いますからね。この子は。
「く……っ。見つからない! どこよ、どこに隠したの!? 肛門! 菊門! 裏門! 後門!」
蔵倫的にとても不安なので、はやいとこ見つけてくれないかな……。あるいは踏まれてゲームオーバーとか。
「あった! 見つけた!」
あったらしい。
正直、なかったほうが良かったと思うんだが。
「くらえ! これは国会議事堂のぶん! これは名古屋城のぶんよ!」
ずぼっ、ずぼっと、二本の槍が突き込まれた。
そして高らかに唱えられる、破壊の呪文。
「バ ノレ ス !」
……うん。ネタとしては悪くなかった。
が、それをやるならペアでやってほしかった。
まぁその場合は犠牲者が二人になったわけだが、成功度は上がったかもしれない。
いずれにせよ、破壊の呪文は不発に終わった。
それだけなら、まだよかった。
なんと、呪文が唱えられた直後、大量の『なにか』が歌音の頭上から落ちてきたのだ。
ドバドバ、ボトボト。
あまりに悲惨すぎて、なにが起きたか言えない。
ただ、重体をくらうよりも悲劇的な事故が歌音を襲ったのは確実だった。
「目がぁぁぁ! 目がぁぁぁ!」
目にまで入ってしまったか……。なんと悲惨な……。
そんな感じで目が見えなくなった歌音は逃げることもできずゴ○ラに踏みつぶされ、二度と立ち上がれないまま、みんなにエンガチョされたという。
やっぱり倒せなかったな……というか、いつもどおりの歌音だったな……。
「あはははは……。これはもう、手のつけようがないわね……」
暴れまわる怪獣軍団を前に、グレイシアはヤケクソじみた笑い声をあげるばかりだった。
なんせ、12人中6人が触手に捕まり、2人が気を失い、1人は肥溜めに落ちたみたいな状態でリタイアしているのだ。まともに動けるのは3人だけで、しかも明日羽は戦う気などカケラもなく、触手プレイ中の雫やソーニャを眺めてソロプレイにふけっている始末。
「撤退を考えたほうがいいかもしれないわね。いまなら、まだ間に合うはず」
グレイシアが提案したとき、ド○ラの触手が襲いかかってきた。
ひょいっと後ろに下がって回避するグレイシア。
……のはずだったが、明日羽が足を出して、彼女の足を引っかけた。
「な……っ!?」
バランスを失って、あおむけに倒れるグレイシア。
にっこりと見下ろして、明日羽が言う。
「ごめんね? わざとじゃないんだよ?」
だれが見ても、わざとだった。
ひっくりかえったグレイシアの手足を触手が絡め取り、ねとねとにする。
「ふ。たいしたことないわね。たとえ触手に絡まれようとも大丈夫。水着装着済みよ!」
触手に手足を拘束されながらも、バーンとキャストオフするグレイシア。どうやったのかと思うが、訓練された撃退士は両手両足が動かなくとも自由に衣服を着脱できるのだ! な、なんだってー!?
それはともかく、彼女の身に着けている水着はというと──
ホルターネックのツーピース
デコルテ部分は露出せず
ボトムがフリル付き
色合いは真紅を基調に
トップが横縞
ボトムが水玉風に
……って、こんなに細かく服装指定してきた人はじめて見たよ! ピンナップの発注か!
まぁ、なにはともあれ水着を着ているから大丈夫だ。おっぱいのサイズ以外、なにも問題ない。まないた以外、ノープロブレム!
「な、なによ。その哀れむような目は……」
「そんな風に見てないよ? かわいいね?」
つんっ、とグレイシアの胸をつつく明日羽。
「ふぁ……っ!?」
「かわいい声だね? もっと聞かせて。ね?」
怪獣軍団をほったらかしてエスカレートしようとする明日羽。
それを、アリカが止めた。
「……明日羽さん。敵はまだ4体も残ってるのよ。遊ぶのは、あれを倒してからにしない?」
「え? あんなの、私にだって倒せませんよ?」
「……本当に?」
「本当ですよ?」
「……だったら逃げるべきじゃない?」
「お姉様は逃げていいですよ? 私はもうすこし遊んでいこうかな……?」
そう言って、明日羽はグレイシアの太腿を指でなぞった。
グレイシアの体が、ピクッと震える。
──と。そのとき。
Ωの体に光っていた赤いランプが青に変わり、触手が引っ込んでいった。
そして──おお、なんと。ソーニャと楪を解放したではないか。
「ありがとう。ボクの意思が通じたんだね」
フラフラになりながらも、ソーニャは笑っていた。
実際、意思が通じたのかどうかはわからない。しかし、そのディアボロが二人を解放したのは事実だった。もしかすると、人と天魔はわかりあえるのかもしれない──
などと感動的なシーンをぶち壊すように、ゴ○ラが放射能ブレスを吐いた。
カッ!
ズドドドドド……!
「うわっ!」
「きゃっ!」
楪とソーニャが衝撃波で砂面を転がり、直撃を受けたΩは爆発炎上した。
呆然とするソーニャ。せっかく、意思が通じあえた(かもしれない)のに……!
「ゆるさない……! ゆるさないよ! これでもくらえ!」
ソーニャが投げたのは、ふえるワカメ入りのカプセルボールだった。
これがうまく口に入って胃の中で増えまくれば、内側から破壊できるはず!
ところが、どっこい。
カキーン!
ゴ○ラは、どこからともなく取り出したバットでボールをホームラン!
さすが、世界の松……ゴ○ラ! いつのまにか、『G』マークのヘルメットもかぶっているぞ!
しかし、そこへ。
おかえしとばかりに、楪が釘バットを手に殴りかかった。
「これでどうだー!」
バキイッ!
ゴルフスイングで薙ぎ払われた釘バットは、ゴ○ラの足の小指に命中!
「オンギャアアアアア!!」
ダツボロが突き刺さったときより派手な悲鳴をあげるゴ○ラ。
楪はサッカーボールみたいに蹴飛ばされて、海の中へドボン。
その直後、背びれが青白く輝き、ふたたび放射能ブレスが炸裂した。
衝撃波をもろに食らって、吹っ飛ぶソーニャ。
一発だけではない。二発、三発、と手当たり次第に吐き散らされた熱線が周囲を薙ぎ払い、火の海に変えた。
小指の痛みで怒り狂っているのだ。これではもう、近付くこともできない。
「……こっちよ。こっちへ撃ってみなさい」
アリカが、封砲をゴ○ラにぶちこんだ。
まるでダメージを与えた様子はないが、気を引くことには成功したようだ。
そのままうまく誘導して、放射ブレスをド○ラに命中させる。
触手が何本か吹っ飛ばされて、拘束されていた撃退士たちが解放された。
ダメージを受けたド○ラが、ゴ○ラに襲いかかる。
怪獣大決戦の始まりだ。もはや、どう見ても天魔退治の様相ではない。
しかし、これこそ狙いどおり!
「行け、ド○ラ! 忌まわしき記憶とともに!」
多門が声をあげた。
声援を受けて、ド○ラが無数の触手でゴ○ラを締め上げる。
ちなみに『忌まわしき記憶』というのは、なんでこんなディアボロをリクエストしちまったんだという意味である。もっとも、リクった本人は既にリタイア済みだが。
「薙ぎ払え!」
ゴ○ラに命令するのは、雫だ。
でも、さっき言ったように天魔は人間の言うことなんか聞かないんですよ。
「どうした! それでも怪獣王と呼ばれた一族の末裔か!」
この一言がゴ○ラに通じたのかどうかはわからないが、ともあれ何発目かの放射能ブレスが発射された。
真正面から直撃を浴びて、ズゥゥゥゥンと倒れるド○ラ。
これにて、怪獣大決戦はあっけなく決着。
だが、しかし。
ゴ○ラは、どこぞの巨人と阪神を混ぜた兵士みたいに崩れ落ちたりはしなかった。それどころか、まだ余裕でピンピンしている。
ついでに言うと、ワカメも残っていた。これ以上ふえないようにと禅が網で引き揚げているが、そんなことをするより普通に炸裂符で攻撃すればいいと思う。……はっ。まさか、ワカメで遊びたい派!? いやだなぁ、それならそう言ってくれないと。
あんぎゃああああ!
そして、ゴ○ラの大暴れが始まった。
脱落者続出の中、戦える撃退士は7人だけだ。
「負けるわけにはいかん! 勝って海鮮丼を食べるぞ!」
激励しながら、多門が防壁陣を飛ばした。
それを受けて、雫がフランベルジェで斬りつける。
つづけてアリカが鬼切を走らせ、
禅の炸裂符が投げつけられて、
アティーヤの辻風が飛び、
熱線の余波で削られた仲間の生命力を、グレイシアが回復。
そんなシリアス戦闘の中。明日羽はソーニャにワカメをぶっかけて遊んでいた。
戦う気ゼロ!
「……明日羽さん、手伝って」
懸命に戦いながらも、アリカの口ぶりは淡々としていた。
「手伝ってますよ? ワカメ退治ですよね?」
「……どう見ても、こっちが先でしょう?」
「このワカメも、なかなか強いんですよ?」
などと言いながら、明日羽はソーニャの双丘にワカメをデコったり、秘密の花園にワカメを××したり、やりたい放題である。
「んぅぅ……っ」
ソーニャが切なげに声を震わせる。
「……明日羽さん、遊びはあとにして」
「あら? 怒ってますか?」
「……そういう話をしている場合じゃないのよ」
アリカは説得をあきらめなかった。
その隣では、雫がスマホを手にして電話をかけている。
「急な電話で申しわけありません。じつは凍宝さんの著作権を侵害している天魔が現れまして……至急、法的措置を……いえ、軍事的措置をとるべきではないかと……」
そのとき。
ふんぎゃああああ!
雄叫びとともに、渾身の放射ブレスが撃退士たちを薙ぎ払った。それこそ、完全版巨ネ申兵のプロトンビームぐらいの勢いで。もしかすると、著作権という言葉に反応したのかもしれない。
「「アバーーーッ!」」
キノコ雲が立ちのぼり、撃退士は一人のこらず宙に舞った。
なんと壮絶な結末。
ゴ○ラWIN!
やっぱり無理ゲーだったんだ!
だれだよ、こんな海産物をリクエストしたのは!
「あれ? 全滅しちゃった?」
とぼけた顔で、明日羽は周囲を見回した。
ゴ○ラの攻撃とは違う理由で失神したソーニャの体をオモチャにしながら、彼女はスマホを取り出してカナロアにかける。
「もしもし? こっち全滅しちゃったから、ディアボロ引き上げてくれる? ……うん。くわしいことはあとでね?」
明日羽が通話を切ると、ゴ○ラは急におとなしくなり、海の中へ戻っていった。ちなみに背中にはダツボロの頭が刺さったままである。あと、足の小指がちょっと腫れている。
意識朦朧としながら波打ち際に倒れていたアティーヤが、その後ろ姿を見て口走った。
「あ、あのゴ○ラが最後の一匹とは思えない……。悪魔が今後もディアボロを作りつづけるかぎり、第二、第三のゴ○ラが現れるかも、しれない……」
お約束の仕事を終えると、アティーヤはガクリと意識を失った。
こうして盛大にフラグを立てながら大怪獣軍団との死闘は幕を閉じ、悪魔カナロアの『最強海産物開発プロジェクト』は軌道に乗ってしまった。いずれは、『第二、第三のゴ○ラ』どころか『ゴ○ラ3匹が同時に出没!』などという事態に発展するかもしれない。
しかしまぁ、たった一言でこのような未来を招き寄せようとは、リクした本人も予想しなかったに違いない。
ともあれ、次こそちゃんと勝ってくれることを祈る。