その日、25人の撃退士が海水浴場へ遊びに──ではなく、天魔退治にやってきた。
砂浜を占拠した海産物軍団を目にして、それぞれ自己判断で敵を選び、突撃する撃退士たち。
では、戦いの模様を見ていこう。
【エビ】
「よもや、海産物軍団が現れるとは……」
砂浜に降り立った鳴海鏡花(
jb2683)は、どこか呆れ顔だった。
このところ彼女は、海の生物っぽいディアボロと戦う機会が多い。なにしろ、ナマコ、ヒトデ、エビと来て、この海鮮軍団。そろそろ『海産物スレイヤー』の称号を得てもおかしくないころだ。
「む! エビ天がおるではないか! あのときの屈辱、いまこそ晴らさん!」
光纏して走りだす鏡花。
じつは彼女、以前の任務でエビ型の天魔に重体をくらった過去があり、エビ天に対する恨みは深い。
もっとも、依頼書に『背後に立つと危険です』と書かれていたのを無視してエビ天の背後に立ったのが重体の原因。自業自得というか、逆恨みである。
「エビ天め! これでも食らうが良い!」
放たれた呪縛陣は、あっさりエビ天を束縛した。
間髪入れずに叩きこまれる炎陣球。
「カニィィッ!」
謎の悲鳴を上げるエビ天。
燃えさかる炎が彼らを火炙りにして、こんがり香ばしい匂いが漂う。
「一匹残らず焼きエビにしてくれるわ!」
二発目の炎陣球がぶちこまれ、あっというまに焼きエビ一丁あがり。
あの……鏡花さん? ごぞんじのはずですが、こいつら滅茶苦茶弱いので……。真剣に戦うと秒殺ですよ?
というわけで、こちらは高虎寧(
ja0416)
彼女は今回、ライトブルーのモノキニワンピースで参戦。非常に素晴らしい眺めとなっている。
「見たところ、動きは鈍そうですが……。油断はしません」
右手に槍、左手に手裏剣を引っさげて、素早く前線に走り寄る寧。
一見硬そうな甲殻の上から手裏剣がサクサク刺さり、槍がズバズバ突き抜ける。なんと見かけ倒しな!
触角を振りまわし、小さな鋏をチョキチョキさせるエビ天。なんの反撃にもなってない。こいつらの武器はバックジャンプアタックだけだ! 解説には『最大の攻撃』とあったが、正確には『唯一の攻撃』なのだ!
「見た目どおり、非常に弱そうですが……。油断はしません」
影縛の術が撃ちこまれ、動けなくなるエビ天。
そこへ白銀の槍が走り、エビ天は完全に動かなくなった。
だから、シリアスに戦うと秒殺なんだって!
「あれ、煮ても焼いても食べれないんだよな……。もったいない……」
食欲をそそる焼きエビの香りが流れる中。早見慎吾(
jb1186)は、のんびり呟いた。
きゅるるっ、と腹が鳴るが、食べられないものは仕方ない。
「目に毒な敵だな……胃袋的な意味で。早く殺してメシ食べに行こう、そうしよう」
真顔で言うと、慎吾は駆けだした。
すでに鏡花と寧の戦いを目にしており、楽勝とわかっているため、真正面からレイジングアタックを見舞っていく。
「正面に立つのに緊張しない敵って珍し……って後ろーッ!」
見れば、エビ天の後ろに鬼灯丸(
jb6304)が立っていた。
おお、今回も命知らずの馬……勇者が!
鬼灯丸はフードを深く被り、あえて大きな足音を立てながら、金属バットを手にバッターボックス(エビ天背後)へ! 念のため金剛術を使ってはいるが、まともにバックジャンプアタックを食らえばタダでは済まない。
「よし、こーい! てめぇらをお星様にしてやるぜー!」
バットを突き出して、予告ホームランする鬼灯丸。
とても不安だ。というか不安しかない。
このエビ天、3mありますからね? バットって1mぐらいですからね?
いいですか? ちゃんと打ち返してくださいよ?
「おらー! かかってこいやー!」
挑発する鬼灯丸。
あの……やっぱり、やめておいたほうが……
と思った瞬間、ミサイルのような勢いでエビ天がカッ飛んできた。
確実にストライクコース!(命中する的な意味で)
カキィィィンン!
きれいにバットが振り抜かれ、鬼灯丸はバットごと吹っ飛ばされた。
まぁ当人も予想していた結果だろうが、あいにく彼女が飛んでいった先はウニ型ディアボロが暴れまわる戦場のまっただなか。しかも、ウニとマクセル・オールウェル(
jb2672)の間だった。
「うぉっ!? なにごとであるか!?」
タイミングの悪いことに、マクセルの大剣が突き出されたところだった。
さらに運の悪いことに、ウニは目の前。
で、どうなったかというと。鬼灯丸はマクセルの剣にブッ刺され、高速回転するウニに踏みつぶされて、ペシャンコになったのであった。
「なにか、ひどいことになっているが……。むこうにもアスヴァンはいるようだ。まかせることにしよう。そうしよう」
うんうんとうなずきながら、慎吾は残ったエビ天を倒すべく走りだした。
見ると、敵は残り一匹。しかし海へ逃げこんだエビ天は本来の力を発揮しており、鏡花と寧は苦戦している。
「さすがに、海の中では強いようですね」
慎吾は二人にライトヒールをかけた。
「海に入って機動力が上がったのは良いとしても、硬さまでアップしているのは不自然でござるぞ!」
「たしかに……。槍も手裏剣も、まるで通じませんね」と、寧。
「魔法で仕留めるべきでござるな。ここは距離をとって……」
鏡花が離れた瞬間、エビ天がクルッと後ろを向いた。
陸地では見せなかった、素早い挙動。
「拙者に背中を……!?」
その直後、鏡花はバックジャンプアタックを受けて水平線まで吹っ飛ばされた。
にやりと笑うエビ天。
鏡花、リベンジならず!
「ふたりの仇を討たなければなりませんね……」
慎吾の手から、審判の鎖が放たれた。
動きを封じられたエビ天に向かって、寧が水上歩行から迅雷の一撃を繰り出す。
「カニィィッ!」
断末魔の叫びをあげて沈むエビ天。
こうして、エビ天との戦いは二人の犠牲を出しつつも無事(?)終了した。
【シャコ】
「ぬぬー! がれーじめ、りべんぢまっちだー!」
ここにもリベンジに燃える者がいた。
名はルーガ・スレイアー(
jb2600)
いつものようにスマホを携え、動画撮影しながら登場だ。
『シャコとボクシング再戦なう ( ´∀`)』と呟いておくのも忘れない。
前回4人の重体者を出したボクシング・マッチでは、再生回数500万を突破。いまでも数は伸びつづけている。さて今回の結果はいかに──?
「前回の雪辱を果たすのだー!」
やる気満々のルーガ。彼女は前回の戦いから敗因を分析しており、今回は勝機十分。
砂浜に作られたリングの上へ、翼を使って華麗に舞い降りる!
前回みたいにロープで足を引っかけたりはしない!
「いいか、おちついて見て行くんだ。ヤツのパンチは早い。ヘタをすれば一発KOだ」
声をかけたのは、白野小梅(
jb4012)
外見年齢6才の幼女天使が、なぜかオッサンくさいシャツに腹巻きという服装で、左目には黒のアイパッチをつけている。さらに、首にはタオル。手にはステッキ。
おお、これは伝説の名トレーナーに生き写し!
なんだか前回のシャコ戦でも同じようなこと書いた覚えがあるぞ! みんな、定番ネタ大好きだな!
「わかってるって、オッサン。まぁ見てな」
つられて口調がジョーになってしまうルーガ。
そしてゴング!
カーン!
「勝負なのだー!」
果敢に突進するルーガ。
シャコも前に出てきて、いきなりの右ストレート!
ふつうなら回避するヒマなくKOだが、ルーガは一度見て威力やスピードを知っていた。
「見切ったのだ!」
彼女はスウェーで避けると、かるくしゃがんで前回同様カエル跳びアッパーを──
それを見て、身を低くするシャコ。
だが、ルーガの動きはフェイントだった!
「そぉい! ( ´∀`)」
振り下ろされたハンマーナックルが、シャコの脳天に命中!
グシャッと潰れたシャコは、そのまま即死した。
「やったのだー! 炎のちゃんぴよーん!」
めずらしくアバらなかったルーガは、悠々とお団子を食べるのだった。
「さぁボクシングの時間ですわ」
ボクサーウェアにビキニトップでリングインしたのは、長谷川アレクサンドラみずほ(
jb4139)
彼女は前回のシャコ戦に関する報告書を読んでもなお、カウンター狙いで勝利する気だ。貴族のたしなみとしてボクシングを学んでいる彼女は、いくらシャコのパンチが早かろうと逃げるわけにいかない。正面から戦って勝つのが貴族の流儀だ。
「おめぇカウンターを狙うのか? そいつぁ危険な賭けだぜ……?」
セコンドの小梅が心配そうに声をかけた。カウンターは一瞬のミスで命取りになる。文字どおり、リング上で命を落とすこともあるのだ。
「ボクサーとして、リングに散るなら本望ですわ。もっとも、そのようなことにはならないと確信しておりますけれど」
みずほは強気に断言した。
と同時に、ゴング!
両者がリング中央へ出てゆく。
軽快なステップを踏みながら、敵のリズムをはかるみずほ。その華麗な足取りや洗練された構えは、素人ボクサーと次元が違う。だれもが失敗したシャコからのカウンターを、彼女なら決めることができるかもしれない。
が、本当に可能なのか?
リズムとか把握できるのか?
相手は人間じゃないんだぞ?
だが、しかし──
プレイングに、こう書かれてるんだ。
『先日の報告書を読むとシャコの攻撃が速いためカウンターが通用しないとのことですが、カウンターとはリズムを把握し先読みして打つもの。攻撃速度が速くても関係ありません。MS様わかっていただけますわよね? わからないのでしたら、MS様の体にお教えいたします。それでもダメならMS様を重体になるまで殴ります』
えええええ!?
プレイングで脅迫されたの初めてだよ!
いや、これは……なんと斬新な……。
ともあれ、試合の経過を見よう。
「さぁかかってきなさい。それともカウンターが怖いんですの?」
クイッと手を動かして挑発するみずほ。
シャコが前に出る。
その右腕が大砲のように放たれ、みずほの顔面を──
一瞬早く、みずほの左腕がシャコの頭を打ち抜いていた。
「おおっ! みごとだ!」
賞賛の声を上げる小梅。
「ふ……。読みどおりでしたわ」
みずほは優雅に微笑み、ビシッと拳を突き上げた。
こうしてMSの命は救われたのである。
まぁそれは冗談で、ふつうに判断しても成功していた。と思う。
「うまそうな輩じゃなぁ、食えんのがもったいないわい」
わっはっはと豪快に笑いながらリングに上がったのは、一文字紅蓮(
jb6616)
リーゼントに白の特攻服という、いまどき貴重なツッパリだ。
「いままでの試合を見ちょったが、エビのくせになかなかやるのぅ。……じゃが、勝つのはこの紅蓮よッ!」
シャコをエビと勘違いしたまま、ゴングが鳴る前に飛び出す紅蓮。
彼にとって、これはボクシングではない。ただの喧嘩だ。ルールなど無用!
「待て! あわてんじゃねぇ!」
小梅が引き止めた。
しかし、そんな声に耳を貸す紅蓮ではない。
「いくぜ、おんどりゃあああ!」
カウンターだのフットワークだの、いっさい考えず突撃!
右腕のドリルがうなりをあげる!
「うおおお! 食らいやがれぃッ!」
あまりの気迫に、たじろぐシャコ。
その土手ッ腹へ、真正面からドリルがぶちこまれた。
一発KO!
「なんじゃあ。やけに腑抜けたエビじゃったのう」
拍子抜けだと言わんばかりに、肩をすくめる紅蓮。
策や技ではなく、気迫で敵を圧倒する。これぞ不良の美学!
その後、残った二匹も喧嘩バトルで粉砕し、シャコ退治は簡単に終了した。
【シャコガイ】
「ほほぅ。これはまた海鮮丼でも作りたくなるようなラインナップよのう。鐘持兄弟が見たら、さぞかし喜ぶであろうな」
デジカメで海産物軍団を撮影しているのは、小田切翠蓮(
jb2728)
ひととおりカメラに収めたところで、彼が選んだ敵はシャコガイ型だ。
阻霊符を手に、明鏡止水を発動した翠蓮は、気配を殺して接近する。
しかし、貝は閉じたままだ。
ためしに炸裂符を浴びせてみるも、まったく効き目なし。
斧で殴りつけても、傷ひとつ付けられない。
「これは厄介な相手じゃのう……」
そこへやってきたのは、神棟星嵐(
jb1397)
「貝が閉じたままのようですね。手を貸しましょう。ファイアワークスで火炙りにすれば……」
星嵐の手から炎が飛んだ。
ズガッ、と炎が爆発して火花が飛び散る。
が、まともに命中したにも関わらず、貝殻には焦げ跡さえ付いてない。攻撃力が足りないのか? いや、そういう次元ではない。単に無茶苦茶硬いのだ。
「どうにかして、こじあける必要がありますね」と、星嵐。
「しかし、こうまでガッチリ閉じておってはのう……」
二枚の貝は完全に閉じており、わずかな隙間もない。
翠蓮と星嵐は隙間に刃物をこじ入れようとしたが、まるきり歯が立たなかった。なにしろ、手芸セットの針さえ通らない始末だ。
「これは参りましたね」
星嵐は溜め息をつく以外なにもできなかった。
「おっきい貝ー♪ 倒したら、あの貝殻もらってもいいのかな? あれだけ大きいと、なにかご利益ありそうだよね?」
レイティア(
jb2693)もシャコガイを倒そうと、上空を旋回していた。貝が開いたら中身を銃撃しようと考えているのだ。
が、まったく開く気配なし。
「ねぇー、なんで開かないのー?」
「反抗期で引きこもっておるのかもしれんのう」と、翠蓮。
「ねぇねぇ、ためしに攻撃してみてもいい?」
「かまわぬが、おそらく無駄であろう」
「じゃあ行くよー? ひらけゴマ!」
レイティアは、フルオートでアサルトライフルをぶっぱなした。
「な……っ!?」
翠蓮と星嵐の頭上へ、銃弾の雨が降りそそぐ。
わかりやすいフレンドリーファイアを浴びて、倒れる二人。
無論、シャコガイは無傷だ。
「あー。もしかして、またやっちゃった?」
レイティアはコツンと自分の頭を叩いた。
「海の戦い……このときを待っていた! V家電のリベンジをせよと、俺の中の運送神が叫んでいる! 待ってろヒトデ! ……って、いねぇ! 待ってろ海産物!」
いくつもの家電品を背に現れたのは、伊藤辺木(
ja9371)
背負っているテレビやエアコンなどの家電品は、すべてV兵器だ。某研究所で開発中の、いわゆるV家電シリーズである。一般には出回ってないのだが、辺木は過去の任務で研究所とコネがあり、実地試験と称して借りてきた次第。もちろん、電源車も用意してある。ぬかりはない! プレイングに書いてなかったから『電源がなくて動かなかった』という判定にしようかとも思ったけどな!
ともかく辺木はテレビをスイッチオン!
開発の経緯から『おしゃべり機能』が搭載された、このテレビ。なんと、おしゃべりができるのだ! そのまんまの機能だな!
「きっとこれで、TVゴッドとかが敵の弱点を教えてくれる! まちがいない!」
寝転がってテレビを見始める辺木。
いつものことながら、彼の行動は読めない! 書いてる自分がおかしくなったのかと思うほどだ! TVゴッドとか、どこにもいないから! せめてTVで殴るとかしてくれ!
まぁそんなわけで、ぬかりまくっていた辺木の作戦が通じるはずもなく。
シャコガイ班は、敵を前に手をこまねくだけだった。
【ウニ】
直径5mのウニが2匹、ゴロゴロころがっていた。
かんたんに5mと言ったが、実際かなりデカイ。無数に突き出たトゲなど、そこらの槍ぐらいある。
「轢かれたらタダじゃすまねぇな……」
盾役として覚悟は決めていたものの、いざ相手を前にして覚悟を改める地堂光(
jb4992)
「役割を変わっても良いのであるぞ? 我輩のほうが目立つであるからな」と、マクセルが言った。
「いや大丈夫だ。予定どおりいこう。そのかわり、ちゃっちゃと倒してくれよな?」
「引き受けたのである!」
マクセルがドンと胸を叩き、大谷知夏(
ja0041)も「まかせるっす!」と受け答えた。
ユウ(
jb5639)は光纏しながら闇の翼を広げ、「素早く、最小限の被害で殲滅しましょう」と言うや、空へ舞い上がった。
シリアス戦闘が始まる!
「俺は、やるときはやる男だぜ!」
光は自らの手でシバルリーと防壁陣をかけ、さらに知夏からアウルの鎧を受けて、カオスシールドを手に突撃。タウントまでかけて文字どおり盾役となり、ウニの足を止める算段だ。──が、しかし。止められるのか?
シリアス戦闘なので、ちょっと計算してみよう。
平均的なウニを体長10cm体重100gとする。
このウニボロは体長500cmなので、二乗三乗の法則によって体重は12500000gとなる。
つまり、12.5t。
これが時速50kmで転がってくるので──
まぁ大型トラックがぶつかってくるようなものだな。ただしトゲトゲの。
うん。止められるわけないのでコメディに戻そう。
「こい! 止めてみせる!」
光が盾を構えた。
そのとき、ふとイヤな考えが彼の脳裏をよぎった。
(ウニには毒を持ってるヤツもいるらしいが……。こいつ大丈夫だよな?)
ありがとうございます、わざわざフラグを立てていただいて。毒ですか。それは失念してました。さすがですね!
そういうわけで、このウニは毒持ちだ!
でも大丈夫! 撃退士は毒に強いから!
「毒、ないといいな……」
盾を構えて、光はポツリと呟いた。
これはもう、完璧な死亡フラグ!
砂を巻き上げて、ウニボロが迫る!
「グワーッ!」
案の定、光はウニに轢かれて紙切れみたいになった。
ああ、せっかくコメディに戻したのに!
「いま回復するっす!」
知夏が駆け寄ってヒールしようとした、そのとき。もう一匹のウニが転がってきた。
マクセルやユウのほうには見向きもしない。タウントの効果は抜群だ!
「まずいっす!」
とりあえずヒールして跳びのく知夏。
どうにかウニの速度を落とそうと、進路上にコメットを発動。
砂面があちこち抉れるが、相手が大きすぎて足止めにならない。
「グワーッ!」
倒れたままの光を、二台目のウニが轢き逃げした。
「もういちど回復っす!」
知夏が回復して、ついでにアウルの鎧を──と思ったとき、さっきのウニがUターンしてきた。
あわてて回避する知夏。
「グワーッ!」
こうして有毒ウニボロに三回轢かれた光は、そのまま動かなくなった。
毒とか、よけいなフラグ立てるから……。
「早々に片付ける予定でしたのに、逆にこちらが一人脱落ですか……」
砂浜の惨状を見下ろしながら、ユウは頭をかかえた。
しかし、悩んでいるヒマはない。ウニボロが転がっている間は様子を見るつもりだったが、常に転がっているのでは待つだけムダだ。
「行きます……っ!」
練気発動!
そして急降下!
ガキーン!
繰り出した槍は、トゲに弾かれてしまった。
ウニみたいな物体が高速回転していれば、当然そうなる。
「これは手強いですね……」
転げまわるウニボロを眼下に、ユウは呟いた。
その直後。闇の翼が時間切れに!
延長しようにも、残数がない!
「しまった……!」
忘れがちだが、はぐれ悪魔や堕天使の『翼』は長時間の飛行には向いてない。『常時使用』していると、すぐ使えなくなる。そこは『適時使用』としておくべきだった。
墜落したユウの前に、ウニが転がってくる。
「これぐらい、よけられます!」
横っ飛びにかわすユウ。
そこへ、二匹目のウニが!
とても回避できない!
「我輩の出番なのである!」
ユウの前に立ちはだかり、大剣を構えるマクセル。
筋肉が震え、ムダに神々しいオーラが立ちのぼる。
「よかろう、ウニよ。おぬしがシリアス戦闘したいというなら……その幻想をぶち壊してやるのである!」
マクセル、全力パンプアップ!
筋肉ダルマと化したモヒカン天使が、肉の盾となってウニボロと対峙する!
回転する巨大な球体と、筋肉のかたまりが、まさにぶつかりあう、そのとき!
「……ぁぁああああ!」
悲鳴を上げて飛んできたのは、鬼灯丸。
最悪なことに、その着地点はマクセルとウニの間だった。
「うぉっ!? なにごとであるか!?」
手を止めようとしたマクセルだが、遅かった。
突き出された剣は鬼灯丸を貫き、ウニのトゲに弾かれ──
ウニは速度を落とすことなく、鬼灯丸、マクセル、ユウの順に踏みつぶしていった。
「なんの……! 我輩の筋肉は不屈である!」
リジェネレーションを使って立ち上がるマクセル。
「まだ倒れるわけにはいきません!」
ユウは死活を発動して復活。
そこへ知夏がヒールをかけた。
「がんばれっす! でも二匹同時に来るっすよ! やばいっす!」
言うとおり、ウニボロ二匹が並走して突っ込んでくるところだった。
「今度こそ止めるのである!」
「逃げるわけにはいきませんね……」
マクセルとユウは、並んで武器を構えた。
せまるウニボロ!
マクセルの筋肉が震え、ユウの闘気が噴き上がる!
──で、どうなったかというと。ふたり仲良く轢かれて終わりました。
うん。まぁ、あれだ。こんなディアボロ相手に少人数でガチバトルはマズすぎた。落とし穴を掘るとか、誘導してウニ同士衝突させるとか、策を用いないと勝てない。あるいはウケ狙いのギャグに走っても良かったというか、本来それが推奨だったのだが……。
ともあれ、ウニ退治班は知夏を残して壊滅した。
【海の家】
「なんや。えらいぎょうさん来よったな、撃退士はん」
焼きそばをすすりながら、悪魔カナロアは他人事みたいに言った。
「みんな、海産物が好きなんだよ?」
「そうなんかー。そら嬉しいわー」
「うんうん。カナロアは海の悪魔だもんね?」
「せやで。海のモンなら任せとき」
「でも、冬になったら出番なくなるよ?」
「えっ! そらアカンわ!」
「ふふっ。冗談だよ? ちゃんと出番作ってあげるから安心してね?」
「なんや、冗談かいな。それより、行かんでええの? お友達も来とるんやろ?」
「そうだね。何人か来てるみたい? じゃ、遊んでこようかな?」
「おー。たのしんでおいでやー」
カナロアは焼きそばをモグモグしながら手を振った。
【イソギンチャク】
「……最近、海産物の相手が多い気がするんだけど、気のせいかしら……?」
つぶやいたのは、紅アリカ(
jb1398)
気のせいではなく実際多いのだが、それには理由がある。
その理由を知っている人物が、アリカの後ろから声をかけた。
「ひさしぶりですね? お姉様?」
佐渡乃明日羽だ。
手にはソフトクリームを三つ持っている。
「……あら、明日羽さん。こんにちは。……それは?」
「これ? ソフトクリームですよ? ひとつ上げますね?」
「……ええ、ありがとう」
どこか釈然としない表情で受け取るアリカ。なぜディアボロを前にしてソフトクリームなぞ食べているのか、理解できないのだ。
「……で、どうするの? イカ? イソギンチャク?」
アリカが問いかけた。
「ほかにもいるのに、二択なんですか?」
「……ほかのは興味ないでしょう?」
「ふふ……。でも、ちょっと待ってくださいね? あの子に挨拶しないと」
そう言って、明日羽は歩きだした。
「うわー。海の生きものがいっぱいー」
海産物軍団を前にして、妙に楽しげな姫路明日奈(
jb2281)
そのとき、後ろから肩を叩かれて彼女は振り向いた。
「だれ……わぷっ!」
ソフトクリームが、明日奈の頬に命中した。
「にゃっ!? ひどいですにゅ……」
「ごめんね? ちゃんと綺麗にしてあげるから。ね?」
明日羽は明日奈の頭を抱き寄せると、頬を舐めた。
「にぁっ! 自分で拭くにゅ……!」
「ううん。私のせいだから私にやらせて。ね?」
うっとりした顔で、執拗に頬を舐める明日羽。
そのとき。突然、アリカの右腕が一閃した。
カツッ、という音とともに切り落とされたのは、注射器。麻酔銃の弾だ。
「……だれ?」
殺気を放ちながら、アリカは身構えた。
ちっ、と舌打ちして物陰から姿を見せたのは、姫路神楽(
jb0862)
「私の彼女に何してる……」
「……そっちこそ、私の彼女に何をするつもり?」
殺しあいをしそうな目つきで、神楽とアリカは睨みあった。
そんな二人をたのしげに見つめながら、明日羽が言う。
「この子、あなたの彼女なの?」
「そうだ! さっさと放せ!」
「そうなの? じゃあまたね?」
あっさりと明日奈を解放して、明日羽はアリカに呼びかけた。
「挨拶は済んだので遊びに行きましょうか、お姉様?」
「ちょっと待ったぁー! お姉様がたは百合ですね!? 百合ってますね!?」
やってきたのは、歌音テンペスト(
jb5186)
「……そのとおりだけど。なんなの、その格好」
アリカが問うのも当然だった。なんせ、歌音は裸体に昆布を巻きつけているのだ。
ああ、ここにも行動の読めないPCが。
「よくぞ訊いてくれました! 海産物軍団襲来と聞いて、まず思い浮かんだのはワカメディアボロ! そこであたしは対抗すべく昆布を身につけてきたのです! でもフタを開けてみればワカメは不在! こんな傷心中のあたしを慰めてください! 色々な意味で!」
「……どうしてほしいの?」
「いっしょに遊び……いえ戦いましょう! 磯銀・チャックと!」
「……まぁ私たちも行くつもりだったからいいわよ」
こうして三人は強敵に挑むこととなった。
先に言ったとおり、イソギン型ディアボロは攻撃力ゼロ。
ということは、どういうことか、わかるな?
「いまこそ、歌音がテンペストるとき!」
よくわからないことを言いつつ、テイマーのくせして何も召喚せずに、乾燥昆布で斬りかかる歌音。
当然のように触手に捕まり、すぐさま動けなくなってしまう。
「あ、あれ? これ結構ヤバイ系?」
そう。攻撃力はゼロだが、拘束力は高いぞ!
まったく身動きできなくなった歌音を、触手が襲う! 身にまとった昆布の隙間から無数の触手が入り込み、あんなことやこんなことををを……っ!
「ひぁぁぁんっ!」
案外かわいい声を出して悶える歌音(魚類)
たちまち粘液まみれになってビクンビクン。
「……気持ちよさそうだけど、入ると出られそうにないわね」
冷静に観察するアリカだが、その指先は歌音のおっぱいをつついている。
「入ってもいいんですよ? 私が助けますから。ね?」
明日羽が言い、アリカは「こういうのは一緒に楽しんでこそよ」と答えた。
「じゃあ、あの子に頼みましょう」
明日羽が呼びかけたのは、日下部司(
jb5638)
「ん? なんの用?」
「私たち、いまからコレに捕まるから。適当なところで助けて。ね?」
「適当なところ、って……?」
「わかるよね?」
勝手に言い含めると、明日羽はアリカの手を取ってイソギンの触手にダイブした。
「ぇえ……っ!? うわ……っ!?」
目の前で始まった嬌宴に、司は目を丸くした。
健全な男子高校生にとって、これはヤバイ。理性は『見ちゃダメ!』と言っているが、煩悩が『しっかり見ておけ! これを見ずしてどうする! おまえは男だろう! 男ならば、しっかりと目に焼きつけておけ! 理性? そんなものは捨てろ! おまえは獣だ! 一匹の獣になるのだあああっ!』と命令する。
理性vs煩悩の白熱バトル!
勝負になるはずもなく、煩悩WIN! というか煩悩しゃべりすぎだぞ!
「い、いいのか? これ、いいのか!?」
思わず周囲を見回す司。
幸か不幸か、イソギン戦に参加している者は他にいない。
つまり、貸し切り特等席!
「そ、そ、そうか。だ、だれもいないのか。それじゃ仕方ないな。俺が助けないとな。うん」
他人の目を気にしなくて良いのだとわかった瞬間、ひらきなおってガン見する司。
無理もない。誰だってそーする。俺もそーする。
やがてイソギンチャクに遊ばれまくった三人は、頬を染めてクタッとなった。
よし、多分このタイミングだ!
「ここだ! いま助ける!」
司は前屈みになりながら封砲を発射した。
が、どういうわけか敵も味方もノーダメージ。
「し、しまった……!」
なんと、煩悩に負けた司は敵を味方と識別してしまったのである。
「あら……? じゃあもういちどイクしかないよね?」
明日羽がトロンとした目をアリカに向けた、そのとき。
ズゴォォォン!
ものすごい音を立てて、ウニボロが突っ込んできた。
イソギンチャクは一撃で粉砕され、捕まっていた三人は海の中へ。
「やばいっす! やばいっす! どうにかするっす!」
そう言いながら、知夏が逃げていった。
「え!? こんなの一人じゃ無理だろ!」
司も慌てて前屈みで逃げだした。
その二人を、ウニが猛然と追いかける。
だれか止めろよ、これ!
【イカ】
「天地が呼ぶ! 人が呼ぶ! 華麗にゃる徒手空拳、明日奈! ただいま参上!」
巨大なイカ型の天魔──略してイカ天の前で、名乗りを上げる明日奈。
彼女は一直線に触手へ向かっていくと、なにもせずに捕まった。
いまの名乗りは何だったんだと思うが、明日奈の目的は最初から触手と遊ぶこと。ただそれだけ!
要望に応えて、触手もハッスル! いつもより熱心に獲物をいたぶり、でろでろにしてゆく。
「にゃ……駄目っ……もうちょっと強めで……!」
全身をヒクヒクさせながら、そんなことを口走る明日奈。
「いま助けるよ!」
と言いながらも、ちゃんと事情がわかっている神楽は素手で突進して触手に捕まる。
たちまち全身を絡め取られた彼女……でなく彼もまた、明日奈同様でろんでろんに。
「こ……これは……どういうことなのですかぁ……!?」
ふたりが触手まみれになったのを見て、月乃宮恋音(
jb1221)はフルフルと震えた。
「容易な相手ではなさそうですね」
フンドシ一丁で答えたのは、袋井雅人(
jb1469)
そこへヌルッと触手が伸びてきて、恋音の足首をつかんだ。
そのまま一気に逆さ吊りにされてしまう恋音。
「ひぁぁぁ……っ!?」
「恋音さん!」
名前を呼ぶ雅人だが、あんまりというか全然助ける気はない。それどころか、デジカメを取り出して撮影をはじめる始末。
「これは今後の夫婦生活の参考資料になりそうです」
などと言いいながら、明日奈と神楽の写真まで撮っている雅人。恋音に見つかったら、殲滅モードで殺されますよ?
「……ひっ……ぃあああ……っ!」
嬌声を上げる恋音。
イカもわかっているのか、せっかくだからという感じでおっぱいばかり責めている。
無理もない。誰だってそーする。俺もそーする。
「……この状況、助けるべきか否か、判断に困るな」
神凪宗(
ja0435)は腕組みしながら、冷静に現状を観察していた。
ふつうに考えて天魔は即座に倒すべきだが、困ったことに捕まった撃退士たちが妙に喜んでいるのだ。ヘタに倒すと文句を言われかねない。
しかし、油断大敵。
考えこんでいる宗の足を、触手がニュルッと絡め取った。
「ぅお……っ!?」
あわてて双剣を抜き放つ宗。
しかし、見計らっていたように伸びてきた触手が、彼の両腕から自由を奪った。
「馬鹿な……。この程度の触手に捕らわれるとは……!」
ギリッと歯を噛みしめた宗は、恋音と同じように逆さ吊りの体勢で持ち上げられ、粘液まみれの触手が大蛇のように胴体へ巻きついた。
そして、男は不要とばかりに全力で締めつけてくる。
「がは……っ!」
血を吐く宗。
攻撃力は弱いはずじゃなかったか? と思ったものの、時すでに遅し。両手両脚を拘束されており、脱出は不可能だ。
「お、おい! 助けてくれ! こいつ、見かけによらず強い!」
助けを求める宗だったが、あいにく雅人の耳には入ってなかった。
そう。彼はいま、ひとりのカメラマンでしかない。撃退士としての仕事など、完全に忘れきっている。恋音の痴態をカメラに収めるので手一杯なのだ。
「ちょ、ちょっと待て! こんなヤツ相手に死にたくないぞ……っ!」
そこへ、エビ退治を終えた寧が斬り込んできた。
無数の影手裏剣がイカ本体や触手に突き刺さり、大ダメージを与える。
「お遊びはほどほどに、ですよ?」
ハッと我に返った雅人も、ライフルを手に触手めがけて発砲。
「すまん。助かった。自分も加勢しよう」
拘束を解かれた宗は、恥を雪がんと双剣を手に触手を斬りまくる。
一応満足した明日奈も猫モードで殴りかかり、恋音は瞳のハイライトを失って殺戮マシーンと化していた。
もともと『趣味』で作られたイカ天。多少デカイとはいえ、手練れの撃退士が寄ってたかって攻撃したら、ひとたまりもない。あっというまにボロボロにされたイカ天は、バシャーンと海の中へダウン。
「……! …………っ!!」
動かなくなったその体へ、恋音は黙々と魔法をぶちこみつづけた。
「恋音さん、もう大丈夫です! 敵は死にました! おちついてください、恋音さん!」
必死でおさえる雅人。
それでも恋音は止まらず、最終的に攻撃魔法をすべて使い切ってから我に返ったという。
「あら? もう倒しちゃったの?」
明日羽がやってきて、不満そうな顔を見せた。
「ええ。少々危険な相手だったので」と、応じたのは雅人。
「危険? どんな風に?」
「よくわかりませんが、男に対しては攻撃力を発揮する感じでした」
「ああ。よけいな機能をつけちゃったわけね」
「天魔としては正しい機能だと思いますけどね……。ところで佐渡乃さん、ちょっとお話があるんですが」
「なに?」
「その……あなたが手当たり次第に女性を襲っているという噂を聞きまして。できれば、月乃宮さんには手を出さないでほしいんですが……。もちろん、ただでとは言いません。さっきのイカ型との戦いを撮影してあります。この画像と引き替えで、どうでしょう」
「それだけ?」
「恋音に手を出さないと約束してくれるなら、今後僕は佐渡乃さんへの協力を惜しみません。これでどうですか?」
「それならいいかな? でも言ったことは守ってね? 私に協力するんだよ?」
「あくまでも、僕ができる範囲で、ですが」
「うんうん」
ニッコリ微笑む明日羽。
もし彼女の本性を知ったなら、雅人はこの契約を後悔するだろう。
もっとも、一生知ることもない可能性のほうが高いが。
さて、残るはウニとシャコガイ。
戦いも終盤だが、遅刻したソーニャ(
jb2649)はそんな状況で姿を見せた。
彼女はもともと、この依頼に参加するつもりはなかった。しかし依頼書の説明文に明日羽が同行するとあったのを見て、あわてて参加したのだ。
ソーニャは前々回の依頼で明日羽と出会い、そのとき『かわいい』と言われたことが強く心に残っていた。
もちろん彼女も馬鹿ではない。明日羽が誰にでもそう言っているであろうことはわかる。自分が特別な存在でないことも理解している。だから、なにも期待してはいない。期待してはいけない。期待すれば裏切られるから。でも、こんな風に考えること自体、期待しているということでは──?
見れば、明日羽は数人の女性とたのしそうにしている。ソーニャの存在に気付きもしない。
でも、それが当然だ。振り向いてもらえるようなことなど、なにもしてないのだから。
──と、そのとき。
ふいに気付いたように、明日羽が振り向いた。
そのまま、小走りにソーニャのほうへ駆け寄ってくる。
「ソーニャ? いつ来たの?」
「つ、ついさっき……」
「そうなの? 今日もかわいいね?」
猫でも撫でるみたいに、ソーニャの頭をくしゃくしゃっとする明日羽。
ソーニャは、どこか夢心地だった。期待していたことが、現実になっている。信じがたい。
「あ、そうだ。いまから食事行かない? いいよね?」
突拍子もないことを言いだす明日羽。
「でも、あの、まだ天魔が……」
「あんなの、どうでもいいよね? ほかの人に任せておこうよ。ね?」
「そ、そんな……いいんですか?」
「心配しなくていいよ? あんなのと戦うより、私と食事するほうが楽しいよね?」
「それは……」
コクンとソーニャがうなずき、明日羽は満足げに微笑んだ。
「じゃあ、ちょっと待っててね? 友達つれてくるから」
そう言って、明日羽はアリカをつれてきた。
「……まだ戦闘中だっていうのに、無茶をするわね」
「友達が具合悪いからって言っておいたし、大丈夫だよ?」
「……まぁ私は構わないけれど」
「じゃあ行こうか? ソーニャは何が食べたい? おごるから遠慮なく言ってみて?」
「ええっと……」
三人並んで歩きながら、ソーニャは経験したことのない感覚に酔っていた。
人はそれを幸福感と呼ぶのだが、彼女は知らない。
……って、この段落だけシリアスすぎるぞ!
【ウニ】
『撃退士vsウニボロ・恐怖のボーリング大会!』
ルーガはいつものようにバトルを撮影しながら、生中継で動画サイトに流していた。
開始3分で、視聴者数は2000オーバー。このところ、ルーガの個人ランキングはウナギのぼりだ。
もっとも、戦いの内容はかなり無惨なものだった。なにしろ二匹のウニボロはほとんど無傷のままで、砂浜を縦横無尽に転がっている。バッドステータスを与えるスキルもまるで効かず、お手上げ状態だ。
『苦戦なう。ウニ強いなう』
などと呟きを書き込みながら逃げまわっていたルーガは、前方不注意でウニに轢かれて吹っ飛んでいった。
ようやくアバったか。
でもアドリブなので、称号は次の機会に。
「ここはわしに任せぇ!」
特攻服をなびかせてウニの前に立ったのは、紅蓮。
おお、たよれる漢の登場だ。
「いくぜぇ! おどりゃああああ!」
不良の魂を見せてやるとばかりに咆哮を上げ、せまりくるウニボロめがけて真正面からドリルアタック!
バコーーン!
ドリルはトゲを突き破ることができず、紅蓮はボーリングのピンみたいに吹っ飛んでいった。
無念! 気迫ではどうにもならないこともある!
「いまこそ、あたしの出番! 五億年の歴史を見せてあげる!」
昆布を身につけ、ふにゃふにゃの昆布ソードで立ち向かう歌音。
あいかわらず、テイマーなのに何も召喚してない。
というか、彼女が召喚獣を使ってるところ一度も見たことがない! ジョブまちがえたんじゃありませんか!? 阿修羅のほうが向いてますよ!? いちばん向いてるのは『芸人』ですけど!
「うなれ、昆布ソード! 必殺! カンブリアン・バァァッシュ!」
そんな技はないので、やっぱり歌音もボーリングのピンみたいに海へ吹っ飛び、魚類になって沈んでいった。
「こうなれば、賭けに出ましょう。僕と恋音がイチャイチャすれば、砂糖で攻撃できるかもしれません」
不可能なことを言いだす雅人。
彼も昔はこんなキャラじゃなかった……。久遠ヶ原での日々が、ひとりの人格をこうも変えてしまったのか……。いやまぁアドリブなんですが。
「……えと……そのぉ……なにをするんでしょうか……」
「キスに決まっています!」
なんと男らしいセリフ!
それ、おまえがしたいだけちゃうんかと。
「えぇ……っ!? そ、それは……恥ずかしいのですよぉ……」
「ためらっているヒマはありません! いきますよ?」
ズキュゥゥゥン!
バコーーン!
残念ながら砂糖攻撃は不発し、雅人と恋音は宙に舞っていった。
「このままでは駄目だ! 全員あつまれ! 一点集中攻撃で装甲を突き破る!」
あまりの事態に、見かねた宗が指示を出した。
残っていたメンバーが、いっせいに集まる。
現在この場で動けるのは9人。
「すいぶん減ったものだな……。しかし、やるしかない。できるかぎり敵を引きつけて、全員の遠距離攻撃を同時に中心へ撃ちこむ。正直、分の悪いギャンブルだが……。ほかに策のある者は?」
宗の問いに応じられる者はいなかった。
「ではやろう。ちょうど、正面からウニが突っ込んでくる。1、2の3で、いっせいに攻撃だ」
「そんなこと言ってる間にも、どんどん近付いてくるっすよー!」
知夏の言うとおり、敵は猛スピードで迫っていた。
「射程の短い攻撃しか持ってない者もいる。できるだけ引きつけてからだ」
「了解っす!」
そのまま、ウニボロはまっすぐ向かってきた。
撃退士たちの顔に緊張が走る。
「いくぞ、1、2の、3!」
宗の合図と同時に、9人分の攻撃が発動した。
「貫けっす!」
知夏のヴァルキリージャベリンが走り、
「これならどうですか?」
寧の火蛇が大気を焼き、
「燃え尽きろ!」
宗も同じく火蛇を選択。
「吹っ飛べ!」
神楽の炸裂符が投げつけられ、
「やっちゃうよー?」
明日奈の発勁が打ち込まれる。
「これがウニ丼になればいいんですがね……」
とぼけたことを言いながら、慎吾は審判の鎖を発動。
「セコンドが戦うなんて!」
段p……じゃなく、小梅は炸裂符を投げ、
「これでKOですわ!」
みずほがレフト・クロス・コンビネーションを放ち、
「行けぇ!」
最後の締めとばかりに、司が封砲をぶっぱなした。
今度はちゃんと敵認識してるぞ!
これらすべての攻撃が一点に集中し──
グシャッと音を立ててウニボロは粉々に砕け、遠心力で散らばっていった。
やった! 作戦成功!
一人一人は弱くても、みんなの力をたばねれば──
バコーーーン!
なんと、一台目のウニの後ろに、二台目が隠れていた。
勝利の予感に捕らわれた撃退士たちは、そうして皆まとめて吹っ飛ばされた。
かくして海産物討伐隊は全滅し、任務は失敗──と思ったが、まだシャコガイ班が残っていた!
マジで忘れそうになってた。危ない危ない。
【シャコガイ】
「さて、どうしたものかのう……」
どこか諦めたような顔で、翠蓮は煙管をふかした。
「こいつ、生きてるんですかね」と、星嵐が疑問を口にする。
そんな二人をよそに、辺木とレイティアはVテレビでお笑い番組を見ていた。
しかし、ゆるみきった空気を破るようにウニボロが迫る!
「ウニがこっちへ来ますね。まさか、ほかの班は全滅……?」
「どうやら、そのようじゃのう」
星嵐が言い、翠蓮はうなずいた。
「これは撤退も視野に入れたほうがいいかもしれませんね……」
「いや、わしに考えがある。ひとつ、ためしてみるとしよう」
「考え……?」
「あのウニを、この貝にぶつけてみたら面白いかと思うてな」
「なるほど。じゃあうまく誘導して……」
「いや、なにもせずとも突っ込んできそうじゃ。おんしら、出番ぞ!」
テレビ鑑賞中の二人に呼びかける翠蓮。
「なんだと!? もうちょっとで、このコントのオチが見れそうなのに!」
「だよね。気が利かないなぁ。これだから天魔は!」
しぶしぶ立ち上がる辺木とレイティア。
……このメンバーで勝てるのか!?
「来るぞ。さがれ、おんしら!」
シャコガイを盾にして、四人は身構えた。
撃退士には止めることのできなかったウニボロの突撃だが、はたして──?
ゴシャアアアッ!
轟音を上げて、ウニとシャコガイが激突した。
おお。みごとに止まっている!
さすがは、策士・小田切翠蓮!(アドリブ!)
そのとき、ギギギッとシャコガイが開いた。
ニュッと突き出された出水管から、超高圧のウォータージェットがほとばしる。
バシュゥゥゥウウッ!
その一撃はウニボロのトゲを砕き、甲殻をやすやすと貫いて、水平線の彼方まで飛んでいった。
穿たれた穴から、ウニの中身がこぼれ落ちる。
「な、なんと……」
あっけにとられる翠蓮。
こんな攻撃を人間が食らったら、ひとたまりもない。
「驚いてる場合じゃありません! いまですよ!」
星嵐が、貝殻の中へゴーストバレットを撃ちこんだ。
「撃ちまくれー!」
閉じかけた貝の隙間にアサルトライフルを突っ込んで、レイティアが乱射する。
味方を撃つことに定評がある彼女だが、さすがにこれなら誤射しようがない。
「くらえ! これが! V家電シリーズの力だ! ヒャッハー!」
辺木はVドライヤーで貝の中身を乾燥させようとしていた。
足下にはVチェーンソーも転がっているのだが、あえてドライヤーを選択するのが辺木流!
「わしは貝柱の切断をこころみる!」
言い放ち、ネフィリムをこじ入れる翠蓮。
その刃先がみごとに貝柱を断ち切り、ガバッと貝殻が左右に割れた。
そこへ四人の攻撃(ひとりはドライヤー)が叩きこまれ、シャコガイ終了。
「お料理サイトでシャコガイの捌きかたを見たのだが、よもやこのような場で役に立つとはのう……」
独り言のように、翠蓮が呟いた。
「まぁ、これにて一件落着ですかね」と、星嵐。
「なんだか、マグロみたいになってる人がいっぱいいるけど……。どうしようか、あれ」
レイティアが問いかけると、三人は顔を見合わせて溜め息をつくのだった。