その日、最強のパンを決めるために28人の撃退士が集まった。
最大派閥はカレーパン。じつに6名もの人員を擁し、前回の戦争においてカレーパンを優勝に導いた立役者ふたりも参加している。この時点でもうカレーパンのV2は決まったようなものだが、はたしてこれを覆す者は現れるのだろうか。
夢と希望と恋と冒険と味噌とカレーを乗せて、いま戦いが幕を開ける!
「今日こそ、雪辱をはたすとき!」
ゲーム開始と同時。雄叫びを上げてカレーパンチームへ襲いかかるのは、矢吹亜矢。
「なんだってぇ〜!? いきなりそっち行くのかぁ〜!?」
あわてて後を追う、ルナジョーカー(
jb2309)
彼は今回ただ一人のコロッケ派だ。亜矢とタッグを組んで優勝をめざす予定だったが、まさか初手からカレーパンにケンカをふっかけるとは予想もしなかった。
「待て待て。2対6だぜ? 無謀すぎるんじゃないか!?」
「うるさいわね! あたしはこの三ヶ月間、カレーパンを倒すためだけに生きてきたのよ! あいつらさえ倒せば、ほかのザコどもなんて相手じゃない!」
「それはわかるが……」
「負けるのがイヤなら、ほかのチームに行きなさい! あたしは一人でも勝つ!」
「ち……っ。しかたねぇなぁ……。わかった。亜矢、おまえと心中してやろう」
ルナンは腹をくくった。
どうせ、いずれはカレー軍と戦うことになるのだ。ならば、相手が油断しているゲーム開始直後こそ絶好のチャンス……かもしれない──!
そんな二人を迎え撃つのは、鐘田将太郎(
ja0114)、最上憐(
jb1522)、ユリア(
jb2624)、黒葛琉(
ja3453)、黄昏ひりょ(
jb3452)、相良歩(
jb6013)の6名。
「カレーパンこそ日本一ィ!」
将太郎の飛燕が飛び、
「カレーパンは学生の味方!」
琉のスターショットが空を裂き、
「カレーはいいものだ……」
ひりょの炎陣球が炎を噴き上げ、
「キャンプと言えばカレー! カレーと言えばキャンプ!」
歩のサンダーブレードがうなり、
「いまこそカレーパン愛を燃え上がらせるよ!」
ユリアのMoonlight Burstが炸裂。
「……ん。カレーは。正義」
とどめとばかりに、憐の発破がぶちこまれた。
だれひとり、油断などしてなかったのだ。
「「グワーッ!」」
なす術もなく吹っ飛ぶ亜矢とルナン。
コロッケパン愛でどうにか即死をまぬがれた二人だが、完全に瀕死状態だ。
「く……っ。やっぱり2対6じゃ無理だったの……?」
亜矢がギリッと歯を噛んだ。
「さっき、そう言っただろ! 人の話聞けよ!」
「なんの……。コロッケパンさえ食べれば、あたしは何度でも復活する……!」
「よし、俺もだ!」
そうして敵の目の前でコロッケパンを食べはじめた二人に、魔法と銃弾の嵐が浴びせられた。
「「アバーッ!」」
開始一分で、亜矢とルナン豪快に脱落!
だが、じつは彼らより先に脱落している者がいた。
長谷川アレクサンドラみずほ(
jb4139)とアニタ・劉(
jb5987)である。
なんと彼女たちはパン戦争をほったらかして『食パンの厚さ戦争』を開始! MSを唖然とさせた!
「食パンは薄切りの方が美味しいですわ。トーストの奏でるカリッとした音、歯ごたえが美味しいのではないですか。しかも、薄切りだと一食で何枚も食べられます。だからバターと各種ジャムを一食で味わえますのよ。それに、卵料理や豆、ハムにも良く合いますわ。もちろんミルクティーとの組み合わせも素晴らしいものですし、薄切りのパンに様々なものを挟む……サンドウィッチもありますわね。……そう、薄切りのパンはイギリスが生み出した素晴らしい食文化ですのよ!」
そう主張するのは、みずほ。
一方、アニタはこう反論する。
「厚切りの食パンをトーストし、バターを塗って食べる。口に入れると、最初はカリッとして、すぐにモチモチッとした食感が来る……。このモチモチした味わいこそ最高やないの。薄切りも食べたことあるけど、薄切り二、三枚食べても食べた感がないねん。厚切りを食べたら、食べたーっていう感覚、満足感があるねん。どう考えても薄切りより厚切りの方がええやろ?」
アニタが右ストレートを放ち、一瞬遅れてみずほが左フックを繰り出した。
パン値の強いほうが生き残る、一発勝負のデスマッチだ!
判定やいかに!
バキィィィッ!
ものすごい音を立てて、両者の拳が互いの顔面を打ち抜いた。
絵に描いたようなクロスカウンター。
「なかなかやりますわね……」
「そっちこそ、や……」
二人は折りかさなるように倒れた。
壮絶な相打ちである。
──っていうか判定不可能だよ! なんなの、この勝負!
個人的には厚いほうが好きですけどね!
さて、最大派閥はカレーパンだが、二番手は玉子サンド派だった。
メンバーは、月乃宮恋音(
jb1221)、袋井雅人(
jb1469)、グレイシア・明守華=ピークス(
jb5092)の3名。
だが、恋音は戦場にいない。
なんと彼女はパン戦争そのものをノーゲームにしてしまおうと、事務局へ向かっていたのだ。
その作戦は、グラウンドを借り切るために提出した書類の不備を指摘して強制的にゲームを終わらせてしまおうというもの。あわよくば新しい書類を提出して、その提出者すなわち自分を勝者にする契約を結ぼうというのである。
これは、ゲームを土台からひっくりかえしてしまう奇襲作戦だ!
おお、いつも控えめなプレイングの恋音さんが、こんな暴挙に出るとは! 見た瞬間、目を疑いましたよ! 一体どうしたんですか!? 反抗期ですか!?
ともあれ、これはたしかに有効な策だ。が、問題は時間である。戦争終結までに、うまく話をまとめられるのだろうか。
その玉子サンド派ふたりの前に、焼きそばパン派のカーディス=キャットフィールド(
ja7927)とチョッパー卍が立ちはだかっていた。
玉子サンド派にとっては大ピンチだ。
チョッパー卍もさることながら、カーディスもまた恐るべき焼きそばパン愛を誇る実力者。なにしろ焼きそばパンをアイコンにしてしまったほどの変人……ではなく勇者だ。口先で愛を語るだけでなく、行動で証明するのは強い。実際、過去にはチョッパー卍と組んで焼きそばパン争奪戦を勝ち抜いたこともある。まぎれもない焼きそばパン愛好家だ。
「行くぜ、カーディス!」
「ふふ……。おともしましょう」
絶対の自信をもって突撃する、焼きそばペア。
これに対して、グレイシアはシールドを発動しつつ玉子サンドへの愛を語った。
「玉子サンドの良いところは、まず見た目よね。白と黄色の織りなす、あざやかなコントラスト。茶色いだけの焼きそばパンなんて、相手にもならないわ。もちろん、味も最高よ。パンと玉子の絡み合う、絶妙な風味と口当たり。揚げものや菓子パンみたいに強く自己主張しない、控えめな味わい……。これこそ玉子サンドよ!」
グレイシアのオーラが、旋風のように吹き荒れる。これはかなりのパンパワー!
そして雅人も、負けてはいられないとばかりに愛を語った。
「私は、優しい食感と味の玉子サンドを……そして、私に優しい恋音のことを愛しています!」
こんなに堂々と惚気る男は珍しい。
だがしかし、この告白は非リア充であるチョッパー卍とMSの恨みを買った。
「玉子サンドへの愛に恋音への愛を上乗せして、いまこそ必殺のダンスマカブルなのですよ!」
闇に溶け込み、殺意のステップを踏む雅人。
同時に、チョッパー卍もDance of Deathを発動!
リア充の愛と、非リア充の憎悪が真正面からぶつかりあう!
「この世で何よりも尊いのは愛……。憎しみからは何も生まれません。目をさましてください……!」
「うるせぇぇ! リア充爆発しろォォォッ!」
ちゅどぉぉぉぉん!
憎悪が愛を上回った瞬間であった。
雅人は黒こげになって空高く舞い上がり、そのまま星になった。
その瞬間、遠く離れた場所にいた恋音のさらしが裂けたという。
単に○○○○が大きいせいかもしれない。
そして1対2となったグレイシアに勝ち目はなく、カーディスの影手裏剣が彼女の眉間に突き刺さるのだった。
そのころ。黄秀永(
jb5504)とシェリア・ロウ・ド・ロンド(
jb3671)の二人はグラウンドの片隅で睨みあっていた。
きっかけは、秀永の発した「フランスパンなんかパンやない」という一言。
それを聞いたのがシェリアでは、もう戦いは避けられなかった。
トリコロールをマントのように羽織り、バゲットを手にしたシェリア。彼女はいま、静かな怒りをたぎらせている。
「あなた、フランスパンを馬鹿にしましたわね?」
「しゃあないやろ。あないにクソ硬いもん、パンちゃうわ」
秀永の言葉に、シェリアの眉がヒクッと震えた。
「なぜフランスパンはこんなに硬いのか……。それは生地を作るのに砂糖を使わないからですのよ!」
「知らんがな。そないなもんより、タコ焼きパン食うてみ? 世界が変わるで?」
「あなたこそ、フランスパンを食べてみなさい。己の無知を自覚することになりますわ」
「んなもん、何度も食うたことあるがな」
「いいえ、本場のバゲットを味わったことはないはずですわ。いまから、あなたに味わわせてあげましょう。この究極の一品を」
刀のようにスラリとパンを抜き放つシェリア。
負けじと秀永もタコ焼きパンをスラリと──は出来なかったので、ポロリと抜き放った。
「そんなら、こっちも食わせたるで? タコ焼きとパンの融合した革命的なうまさを思い知るがええわ」
「引く気はありませんのね。ならば勝負ですわ! このクラストのパリパリ歯ごたえを食らいなさい! 秘奥義! バゲット一文字突き!」
電光石火。目にも止まらぬ速さでシェリアの右腕が突き出され、ランスと化したフランスパンが秀永の顔面を襲った。
同時に秀永のタコ焼きパンも、時速200kmの剛速球で投げつけられている。
そして両者の口に互いの攻撃が命中!
「ぐはあっ!」
吹っ飛んだのは秀永だった。
理由は単純。フランスパンのほうが硬かった。それだけである。たがいのパン愛が互角ならば、武器として優れているほうが有利なのは当然。
「それは卑怯やで……」
がくりと崩れ落ちる秀永。無念のリタイア。
「ちょっと待ったー! あたいがあんたたちに物申しに来たわ!」
そこへ参上したのは、雪室チルル(
ja0220)
怪訝そうな目を向けるシェリアを前に、彼女は一気にまくしたてた。
「パンとは何か? まず、そこから語らないとね! いい? 小麦粉に水、酵母、塩などを加えて作った生地を発酵させて焼いたものがパンよ。つまり食パンとして作った時点で既にパンとして完成されていると言えるわ。だから、ここから調理を行ったりするのは蛇足よ! これほど完成したものに手を加えるのは、どうなの? パンと何かのコラボ(笑)とか相性(笑)とかで自分を誤魔化してるんじゃないの? 本当にあなたはパンを愛しているの? 具材を愛してるだけじゃないの?」
「……わたくしが愛しているのはフランスパンですが?」
シェリアが問い返した。
チルルの目が丸くなる。
「……え? 焼きそばパンとかコロッケパンとかの戦いでしょ、これ。なんでフランスパンがいるの?」
食パンを選んだ自分のことは棚に上げて、そんなことを言いだすチルル。
「知りませんわ。わたくしはただ、祖国のために戦うだけ」
「なんか、思ってたのと違う展開なんだけど……」
「どう思っていたか知りませんが、フランスパンと食パンの一騎打ちですわね」
チルルの鼻先にバゲットを突きつけて、シェリアが挑発的に微笑んだ。
それを受けて、チルルも引きつった笑みを浮かべる。
「ふ、ふぅん。いいじゃない。食パンが負けるはずないんだから!」
「では、勝負と行きましょうか?」
「のぞむところよ!」
チルルは12枚切りの薄っぺらい食パンを取り出し、いそいそと構えた。
なんというか、いろいろ言いたいことはあるが、こう見えてもチルルちゃんは強いんだぞ! レベル30のルインズブレイドだぞ! だいぶ強いぞ! でも食パンじゃフランスパンの攻撃を防げないぞ!
「食らいなさい! このパリパリ(略!」
「むぎゅぅぅっ!?」
バゲットは食パンシールドを貫通し、食べたくもないフランスパンを口にくわえたチルルちゃんは涙のリタイア。
「ふふ……。今宵のバゲットは血を求めておりますわ」
あっというまに二人を仕留めたシェリアは、冷ややかに微笑むのであった。
「ふむ。フランスパンか。相手にとって不足はない」
シェリアの背後から声をかけたのは、強羅龍仁(
ja8161)
横には、桝本侑吾(
ja8758)の姿もある。
「あら。いまの戦いを見ても、わたくしに挑むつもりですの?」
「無論。……だが安心して良い。二人がかりで挑む気はない」
「二人だって構いませんのよ? あなたがたの推しパンは何かしら?」
「ふ……。俺たちの愛するパンは……これだぁぁっ!」
ドドォォン!
ショッキングな効果音と共に掲げられたのは、一本のフライパン! しかも、ただのフライパンではない! バトルフライパンLv3だ! そこらの銃や剣より遙かに強いぞ! これは調理器具の枠をブチ破る、まさに規格外の一品!
「そ、それは反則ではなくて……?」
シェリアの声が震えた。
無理もない。なんだよフライパンって。Z級の駄洒落だぞ。これだからオッサンは!
「反則? いや、フライパンは立派なパンだ! さぁ行くぞ!」
走りだそうとする龍仁を、「待ってください」と侑吾が止めた。
「む……? どうした?」
「ここは俺が行きましょう。強羅さんは不意打ちを警戒しておいてください」
「そうか。ではまかせるとしよう」
フライパンという名の殺人兵器が手渡され、侑吾は身構えた。
シェリアもバゲットを突き出し、フェンシングの構えをとる。
「まいりますわよ! 食らいなさい! このパリパリ(略!」
シェリアの手から神速の突きが繰り出され、応じるように侑吾のフライパンが薙ぎ払われた。
いま! 必殺の! ウェポン! バァッッッシュ!
その一撃は嵐を呼び、天を裂き、大地を砕き、海を割り、フランスパンをヘシ折り、シェリアを地平線の彼方まで吹っ飛ばした。
なんと壮絶な結末。いくらフランスパンが硬いといっても、フライパンの硬さに勝てるはずはなかった!
「ゆ、侑吾……。いま、人が空飛んで……」
あまりの威力に、うろたえる龍仁。
「大丈夫。峰打ちですよ」
フライパンに『峰』はあるのかと思うが、侑吾が言うのなら多分あるのだろう。
オーケーオーケー。峰打ち峰打ち。
でもたぶん死んでるよ、あれ。
さて、こちらはアイリス・レイバルド(
jb1510)
彼女は闘争の匂いに誘われて参加したものの、目当てのパンが手に入らず困っていた。
たしかに、どこにもないだろう。コメットパンなどという代物は。
だが、しかし。
「えらい人は言っていた、なければ創ればいいと」
アイリスは一人うなずき、行動に出た。
自らの手でコメットパンを作り、購買に売り込もうというのだ。
狙いは、購買の陳列棚に並べてもらうこと。そうして、じわじわと学園内にコメットパンを浸透させる計画だ。
おお、なんと遠大な計画!
淑女アイリスは、ひとりだけ別次元の勝利をおさめようとしているのだ!
計画どおりに進めば、コメットパンが焼きそばパン並みの知名度に──
──ならないよ!
おねがいです、アイリスさん! ふつうに戦争してください! あわれなMSは今、顔を覆って泣いています! グラウンドの外に出たら反則っていうルールを書き忘れた私が悪いんですけども!
「彗星は長く尾をひくからこそ彗星だ」
そんなMSの苦悩には目もくれず、淡々とコメットパンを作るアイリス。
その、小麦粉を練り込む技巧は……すみません、やめときます。
思わず駄洒落で場を濁したくなるほどのマイペースぶりで、アイリスはただ一人生地を練りつづけるのであった。
そのころ、別の場所では菓子パン対決が行われていた。
ふたり仲良くメロンパンチームを組むのは、夜雀奏歌(
ja1635)とナデシコ・サンフラワー(
jb6033)
ナデシコはともかく、奏歌はヤバイ級の実力を持つメロンパンナーだ。
全身図でメロンパン食ってるし、バストアップでもメロンパン食ってるし。これは強い。
対するは、単独でアンパンの勝利をめざす楯清十郎(
ja2990)
プロフだけ見れば奏歌は全参加者中、一、二を争うパン能力者だが、これに対して清十郎は『全装備を外してアンパンだけ持ってくる』という知略あふれるプレイングを披露。
おお、これは素晴らしい。だれもが思いつきそうで、だれもが思いつかなかったプレイングだ。さすがは楯清十郎。できるものならMVPを三つぐらい上げたい。
だが果たして、プレイングだけで実力差を埋めることができるのか。
「たしかに、食べている期間は負けるかもしれません。しかし僕が食べているのは市販品と自作の二種類。自らの手で愛を込めてアンパンを作る僕に、市販品を買うだけの人が勝てるはずはありません!」
あんぱんを手に、戦いの火蓋を切る清十郎。
奏歌は慌てず騒がず、固有結界『アンリミテッド・メロンパン・ワークス』を発動!
あらゆるメロンパンを解析/複製/貯蔵するこの魔術は、奏歌にしか使いこなせない完全オリジナルスキルだ!
そして決着をつけるべく、詠唱がはじまる。
I am the bone my Melonpan.
体はメロンパンで出来ている。
Water is my body, and wheat is my blood.
血潮は水で、心は小麦。
I have baked over a thousand melonpan.
幾たびのメロンパンを越えて不敗。
Unaware of AAAAARGH!!
ただ一度のグワーッ!
そこまで詠唱したところで、清十郎の神輝掌がブチこまれた。
いくらなんでも、こんなクソ長い詠唱を最後まで言わせるほど彼はお人好しではない。あと、これ以上の詠唱は著作権的にNGだ!
「そんな予感してましたぁぁー!」
無数のメロンパンをまきちらしながら、奏歌は吹っ飛んでいった。
いや……。詠唱とかしないで普通に戦えば楽勝だったんですが……。リンゴを剥くのにチェーンソーを持ち出すようなマネするから……。
「あ、あら? 流れ的に負けちゃいそうな感じです……?」
相棒を失って、とまどうナデシコ。
「少々油断していたようですね」
「むむ……。私は負けません! メロンパンには、ふわふわ、表面カリ、練り込み、中に入ってるのジャンルがあり、バリエーションは150種類以上と豊富なのです! 仮に一ヶ月間、毎日三回食べつづけたとしても飽きないのです!」
「あんぱん……。ふっくらパンと、しっとりつぶ餡の、ほどよい甘さ。こし餡の口に溶けて広がる甘さもいい……。春には桜餡、初夏にうぐいす餡、秋には栗餡とイモ餡、そして冬には白餡と、旬の食材で季節の変化に合わせて楽しめる……。あんぱんこそ、最高のパンなのです」
にらみあう、ナデシコと清十郎。
軍配はどちらに!?
「たすけてぇぇ……!」
そこへ走ってきたのは、ゴーヤパン派の由利百合華。
あとを追ってくるのは、カレーパン一味。
揚げパン派の伊藤辺木(
ja9371)も仲間に加えて、7人体制だ。
ちなみに辺木は『揚げパン派に6人も入ってくれた!』と喜んでいる。盛大に認識をまちがっているのだが、これが彼の通常運転。なにも問題ない。
「どうやら争っている場合ではなさそうです。ここは菓子パン同士、手を組みませんか?」
清十郎がナデシコに呼びかけた。
「了解です。カレーパンには負けたくありません」
「私も仲間にしてくださいぃぃ! ゴーヤパンも菓子パンですよね……!?」
無茶なことを言う百合華。
しかし、清十郎たちも仲間がほしいのは事実。
「わかりました。ともに戦いましょう。ゴーヤパンは菓子パンです!」
「ありがとうございますぅぅ……!」
「とはいえ、まだ3人……。カレーに立ち向かうには戦力差が……」
「俺たちがいるぜ!」
ここぞとばかりに、チョッパー卍がやってきた。
無論カーディスも一緒だ。
「これで5人ですね。どうにか戦えそうです」と、清十郎。
「そういうことならば、俺たちも合流しよう」
満を持して駆けつけたのは、龍仁と侑吾だ。
「おお。これで7対7の五分……! しかも、こちらはエース級ぞろい。勝てますよ、みなさん」
清十郎が言い、一同はうなずきあった。
急造の連合軍だが、カレー軍を倒したいのは皆おなじ。結束は強い。
「おやおや。向こうは全員で手を組んだみたいだぜ?」
なぜかカレーライスを食べながら、将太郎が言った。
ただのカレーライスではない。カレーパンの中身を米にぶっかけた、謎の代物だ。
本当のところ、彼はパンより米が好きなのである。おかげで、彼のパン力はあまり高くない。おにぎり戦争なら強そうなのだが。
それはともかく、あまりの急展開にカレーチームも浮き足立っていた。
「俺、カレーパンに命は懸けられないんで……っていうか、みんな真剣すぎるだろ」
とぼけた口調で言う琉だが、彼は彼なりにちゃんと勝利をめざしている。
「遊びは真剣にやらないと面白くありませんからねぇ」と、ひりょ。
「ははっ。わかってるって。日ごろ世話になってるカレーパンを裏切るようなことはしないさ」
さわやかに笑って、髪をなでつける琉。
「みんな、食べものへのこだわりはハンパないね〜」
敵陣を眺めながら、歩は笑顔で呟いた。
なんだか、やけにのんきな感じである。
「カレーパンの良さがわからんとは、あわれな奴らよ……。どいつもこいつもカレー教の支配下に置いてやる」
物騒なことを言いだす将太郎。
「さぁ行こうよ、みんな。カレーパンの勝利を信じて!」
ユリアが言い、「「おうっ!」」と声が上がった。
そして最終決戦が──と思った、そのとき。
ルーガ・スレイアー(
jb2600)が闇の翼を羽ばたかせて、両軍の間に立ちはだかった。
「皆のものー、もうこんな無益な争いはやめるのだー!」
いまさら何を言ってるんだという抗議の声が浴びせられるが、ルーガは気にせず話を進めた。
「焼きそばパンもコロッケパンもカレーパンも……どれもみんな、おいしいのだぞー。ひとつだけを選ぶなんて、ナンセンスなのだー。そこでルーガ先生は考えたのだぞー。戦争をやめて、皆が仲良くパンを食べられる方法……それは、これなのだー!」
ルーガが空高くバラまいたのは、異様なパンだった。
焼きたてのフランスパンに、焼きそば、コロッケ、カレー、玉子、ゴーヤ、タコ焼き、つぶあん、メロン……その他もろもろがサンドされた、キメラみたいなパン。
「見ろー! 皆の理想、コロッケ焼きそばゴーヤメロン……全部乗せパンだぞー!」
つかのまの沈黙。
14人の撃退士たちは視線を交わしあい、意思を通じあうと、いっせいにルーガを攻撃した。
「アバーッ!」
どうしてなのだーと叫びながら、ルーガは地平線の向こうへ落ちていった。
「「こんなパンが食えるか!」」
「さて、邪魔者が消えたところで……。いざ尋常に勝負!」
将太郎が言い、両軍は正面からぶつかりあった。
ちなみに、現時点のパン値は以下のとおり。
憐>ユリア≧チョッパー≧カーディス≧清十郎>龍仁≧侑吾>ひりょ≧琉≧ナデシコ≧辺木>将太郎>歩>>百合華
前回覇者の憐とユリアが最上位であることは言うまでもないが、総合的に見れば連合軍も負けてはいない。──が、
「いくぜ、野郎どもぉぉッ!」
ズギャアアアンンッ!
チョッパー卍のVギターが炸裂し、連合軍メンバーは耳を押さえて倒れた。
なんという味方殺しのV兵器。助かったのは、このギターを知っていたカーディスだけだ。
「わけがわかりませんが、手加減はしませんよ?」
ひりょの炎陣球が打ち込まれ、百合華はゴーヤパンをかかえてリタイア。
「自営業で金欠……そんなとき移動販売揚げパンは救いの神だった! 金額あたりのカロリーが素晴らしい! 甘さが疲れに効く! おまけにパンが揚がってれば揚げパンであるという懐の深さも持つ、万能パンなのだ! 皆で食べよう、おいしい揚げパン! 以上、伊藤運輸の提供でお送りしました!」
辺木のストライクショットが、ナデシコを沈めた。
おお、初めて見たよ、辺木さんが普通に戦ってるところ。
……いや、前言撤回。どう考えても『普通』の戦いじゃなかったな、これ。
そんな流れで、あっというまに連合軍2人が脱落。
だが、カーディスが黙っていない。
「古来よりSouzaiパンは数あれど、その中でも炭水化物in炭水化物という小憎らしい組み合わで至福の時を演出してくれる最強のパン……それこそが焼きそばパンなのです!」
ソースの香りとともに影手裏剣・烈が撃ちこまれ、歩が脱落。
それに続こうとチョッパー卍が前に出たところで、ラスボス最上憐が立ちふさがった。
「……ん。カレーは。飲み物。カレーパンも。飲み物。みんな。飲むべき」
「そっちこそ、焼きそばパンを食らいやがれ!」
カレーパンと焼きそばパンが交差し、たがいの口へ押し込まれた。
そして、勝負は一瞬で決着。カレーパンをおいしいと思ってしまったチョッパー卍は戦闘力を失って倒れ、いっぽう焼きそばパンを何とも思わなかった憐は平然と立っていた。
主砲を失った連合軍に対して、まるでビクともしない主砲をそなえたカレー軍。
ああ、もはやカレーパンのV2を止められる者はいないのか?
だが、そこで立ち上がったのは龍仁!
「一番おいしいパンはフライパンだろ! 料理もできて武器にもなる。一粒で二度おいしいとは、まさにこのこと! 考えてみろ、焼きそばパンの焼きそばは何で作る? フライパンだ! 揚げパンは何で揚げる? フライパンだ! そしてカレーパンのカレーは何で作る? そう、フライパンどぅぁあああ! フライパンがなければ、おまえたちはただの『パン』! つまりフライパン最強ゥゥ!」
狂気じみた主張とともにヴァルキリージャベリンっぽいフライパンが投擲され、反論の余地もなく辺木と将太郎が塵になった。
おお、ここにきてオッサ……龍仁のプレイングが冴えわたる!
そして、『祝福』や『アウルの鎧』など、龍仁の持つ強化スキルをすべて乗っけた侑吾が、バトルフライパンLv3を手に突撃! 狙いはカレーパンの首魁、最上憐!
「強羅さんが正しい。なにを作るにもフライパンは必須。酒のツマミの揚げものだって、フライパンで作る。……酒は関係ない? いや、パンでも何でも食物があれば酒だ。酒は重要……!」
そうだ。そのとおりだ。
行け、侑吾! MSが全力で応援するぞ!
炸裂! 強化全部乗せ! 超・必殺! ウェポンンン! バァァッッッシュ!
これぞ邪悪なカレー教団を打ち砕く、神罰の一撃。
まともに食らえば、だれであろうと無事には済まないだろう。
「ちぃ……っ!」
そのとき。琉が舌打ちしながら飛び出した。
クールっぽいくせに、じつは熱い心を持つ琉。
憐をかばってウェポンバッシュを受けた彼は、「勝ってくれよな……?」と言い残して倒れた。
「……ん。カレーは。正義。カレーは。宇宙。だから。勝つ」
勝利を誓い、キッと前を向く憐。
「手伝うよ♪」と、ユリアが横に並び、
「およばずながら俺も力を貸します」と、ひりょが続いた。
「まだ俺たちのターンは終わってない! フライパンの力を知れぇぇい!」
龍仁のヴァルキリーフライパンがカレー班を襲い、同時に侑吾の封砲が火を噴き、カーディスの火蛇が突き抜け、清十郎の破暁が炸裂した。
「カレーパンに栄光あれぇぇ!」
叫びながら吹っ飛ぶひりょ。
だが、憐とユリアは微動だにしない。
ふたりの手にしたカレーパンLv5は、封砲や火蛇ごときでは打ち破れないのだ。
「……ん。カレーを。飲むと。いい」
顔色ひとつ変えずに、憐がカレーパンLv5を叩きつけた。
「カレーパンが一番だよ♪」
憐とシンクロするように、ユリアのカレーパンLv5×3(!?)が薙ぎ払われる。
「「グワーッ!」」
ちょうど4人分のカレーパンLv5が連合軍を襲い、完膚無きまでに叩きのめした。
カーディスは惜しかった。焼きそばアイコンではなく焼きそば全身図なら、耐えられたかもしれない。
清十郎も、あと一歩だった。あんぱんをすべてLv5にしておけば勝てたかもしれない。次回は頑張ってほしい。
こうして、第二次パン戦争は予想どおりカレーパンチームの勝利で決着!
「……ん。カレーの正義が。ふたたび。証明。された」
「やったね。また勝っちゃった!」
ハイタッチをかわす、憐とユリア。
そこへ、恋音がやってきた。
「やりました……ノーゲーム、ノーゲームなのですよぉ……!」
書類のコピーを手に、鼻息荒く主張する恋音。
だが──
「……ん。死人に。口なし」
恋音の口にカレーパンが突っ込まれ、彼女は書類を持ったまま倒れた。
なんと無惨な。作戦自体は悪くなかったが、そもそも話が通じる相手ではなかった。
かくして恋音の健闘むなしく、カレーパンの勝利が決定したのである。
そんな一連の騒ぎを、影野恭弥(
ja0018)は屋上から見下ろしていた。
手にはチョコパンと牛乳。
パン戦争になどまったく関心のない恭弥は、ひとりクールにチョコパンを食べながら呟く。
「パン同士で争ってどうするんだか……。ライス派とでも戦えばいいのに」
なるほど、それは名案だ。
つまり、カレーパンvsカレーライスだな!
乞うご期待!(やりません)