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マスター:牛男爵
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2016/08/02


みんなの思い出



オープニング



 このところ、一部の生徒の間で流行っているゲームがある。
 その名も『召喚バトル』
 名前そのまんまの、召喚獣同士を戦わせる遊びだ。
 もっとも、召喚獣で模擬戦をおこなう訓練のような形は以前から存在していた。それが最近やたらと見られるようになったのは、スマホゲー『ボケモンGO』の影響がでかい。生徒の中には召喚バトルの動画をネットにUPして、かなりの視聴数を稼ぐ者もいる。ヘタな依頼より儲けている生徒までいるほどだ。
 今日も校庭の片隅では、召喚バトルにハマった生徒たちが熱いデュエルを繰り広げていた。

「行け、ティアマット! ハイブラストだ!」
 敵を指差して命令するのは、女の子みたいなルックスの男子中学生。
 新美新一という名の、バハムートテイマーを本職とするベテランだ。
「鳳凰さん、ヒーリングブレスですよぉ。次のターンでサンダーボルトですぅ」
 応じるのは、発育ゆたかな女子高生陰陽師・由利百合華。
 召喚獣でしか戦えないルール上、テイマーのほうが有利なのは明らかだ。が、経験と装備の差で百合華のほうに分がある。
 実際、百合華は召喚バトルで100戦以上して勝率9割という強プレイヤーだ。
 もちろんテイマー同士のデュエル以外、『多重召喚』は禁止されている。
 攻撃できるのは召喚獣のみだが、支援や回復はプレイヤーも使用できる。一見単純だが、多人数戦ともなると相当に知識や判断力が要求される高度なゲームなのだ。
 数ターン後、鳳凰のブレスがティアマットを打ち倒した。百合華の勝利である。

「ふーん? それっておもしろいの?」
 勝った直後、百合華の後ろから佐渡乃明日羽が問いかけた。
 彼女は高レベルのアストラルヴァンガードで、ふだんは召喚獣など使わない。
「そうですねぇ……実戦の訓練にもなりますし、おもしろいですよぉ」
「じゃあ私も1戦やってみようかな? 新美君まだやれる? 必要なら回復してあげるけど?」
「だっ、大丈夫です! 自分で回復できますから!」
 あわてて答える新一。
 なんせ明日羽のヒールは、同性にはキスで、異性には蹴りで発動するのだ。ひどい。

「でも先輩、召喚獣なんて使えるんですかぁ……?」
 百合華が訊ねた。
「ん? 馬鹿にしてるの? アスヴァン以外のスキルも使えるよ?」
「ば、馬鹿になんかしてませんよぉ! ただ一度も見たことないのでぇ……」
「やればわかるでしょ? 新美君、準備はいい?」
「はい、いつでもどうぞ!」
 新一が身構えた。
 まだ召喚獣は呼び出さない。ゲーム開始と同時に召喚するのがルールだ。どの召喚獣を、どこに呼び出すか、それも戦術のうちである。場合によっては、それだけで決着がつくケースも少なくない。

「じゃあ、このコインを投げて地面に落ちた瞬間が開始の合図ね?」
「わかりました!」
「じゃあいくよ?」
 明日羽は右手にコインを持ち、指で空中へはじく……などということはせず、そのまま地面へ叩きつけた。
 どよめくギャラリー。
 しかし明日羽が何か仕掛けてくることなど、新一には予想できている。動揺はまったくない。
「ティアマット召喚! アンリミテッド発動! 一気に決めます!」

「じゃあ私は百合華召喚ね?」
 しれっと言い放つ明日羽。
「は!? 先輩!? これ、そういうゲームじゃありませんよぉぉ!?」
「百合華は私の召喚獣だよね? 呼ばれたら飛んでくる犬でしょ?」
「わ、わかりました……でも今回だけですよ! では命令をどうぞ!」
 やけくそな態度で応じる百合華。
 明日羽が当然のように命じる。
「はい、おすわり」
「ちょ……っ! いえ、わかりました! やります! やらせていただきます!」
 言われたとおり、百合華は犬みたいにお座りした。

「質問なんですけど……僕は由利先輩を攻撃していいんですよね?」
 召喚バトルに慣れている新一も、さすがに戸惑い気味だ。
「ほかに誰を攻撃するの?」と、明日羽。
「……わかりました。すみません由利先輩! 行け、ティアマット!」
 強烈な体当たりがブチかまされて、百合華は地面を転がった。
「けっこう体力減ったね? じゃあ百合華『はかいこうせん』発射!」
「そんなスキルありません! ボケモンじゃないんですよ!」
「そう? でも『しおふき』ならできるよね?」
「できませんよぉぉぉ!」
 などと言ってる間に、容赦なくティアマットの追撃が叩きこまれた。
 新一は賢いので状況を理解している。さからうだけ無駄なのだと。もはや1秒でも早く終わらせるのが、せめてもの慈悲なのだと。
 ──数十秒後、百合華は何もさせてもらえないまま戦闘不能になった。

「こんなの召喚バトルじゃありませんよぉぉ……ルール守って遊びましょうよぉぉ……」
 ズタボロ状態で、百合華は半泣きになっていた。
 新一は気の毒そうな顔で見下ろしながら、無言で頷く。
「ルールは守ったよ? ちゃんと自分は召喚獣だって認めたよね?」と、明日羽。
「認めなかったら絶対ひどい目に遭うじゃないですかぁぁ……!」
「だれもそんなこと言ってないよ? 百合華が自発的に認めたよね?」
「うぅぅ……」
 反論できず、百合華は黙りこんでしまった。
 最初から口先で明日羽に勝てるはずないのだ。

「でも召喚バトル? ちょっとおもしろいかも? 大会とかやってみる? もちろん、ちゃんとしたルールでね?」
「それ、いいですね。『ちゃんとしたルールで』っていうのが前提ですけど」
 新一が賛同した。
「じゃあルールは新美君にまとめてもらおうかな? 私は追加ルールを考えればいいよね?」
「追加ルール、ですか……。ろくなことにならない予感が……。というか佐渡乃先輩は出場するんですかやめてください絶対に」
「質問になってないよ? まぁ私は出ないほうがいいよね? でも主催者の肩書きはほしいから出演料ぐらいは出そうかな?」
 そう言うと、明日羽はニッコリ微笑むのだった。




リプレイ本文



 その日。20m×20mの石畳リングに、8人の撃退士が集まった。
 いずれも歴戦の勇士だが、波乱の気配はない。不気味なほど静かだ。

「残念ですね、神威と萬打羅の合わせ技の試し打ちをしたかったのですが……」
 物騒なことを呟いたのは、阿修羅LV50の雫(ja1894)
 だが今回は忍軍での参加だ。はたして何を召喚するのか。

「南〜無〜阿〜弥〜陀〜仏〜――……」
 おなじく独り言を呟くのは、佐藤としお(ja2489)
 先日の依頼で重体になった彼にとって、今回の目的は怪我の治療だ。
 もしものために『起死回生』も用意済み。重体が悪化する未来しか見えない!

「ふ……、しょーかんバトルだかなんだか知らないけど、あたいがさいきょーなのよ!」
 雪室チルル(ja0220)は、いつもの脳筋主張を憚らなかった。
 彼女が今回参加したのは、『全員やっつけてさいきょーになる』ため。
 ある意味もっとも正しい動機だ。

「うぅん……手強い方々がそろってますねぇ……袋井先輩、無理は禁物ですよぉ……?」
 集まった面々を見て、月乃宮恋音(jb1221)は微かに震えた。
 服装は胸元のあいたミニスカメイド服。その谷間は絶景である。
「心配無用ですよ恋音。今日は召喚バトルなので、雰囲気を出すためテイマーにしてきました。完璧です!」
 応えたのは、絶賛重体中の上に本職ではないテイマーに転職中の袋井雅人(jb1469)
 しかもテイマーのスキルひとつも持ってないし、武器はギターだ。死ぬ気か。
「えとぉ……模擬戦とはいえ、命の危険もありますのでぇ……危ないときは棄権してくださいねぇ……?」
「僕は死にましぇん! あなたが好きだから!」
「お、おぉ……?」
 突然のセリフに戸惑う恋音。
 彼女の味方はもう一人いた。
 豊満バディにかけては学園屈指のチチデカスクジラ・満月美華(jb6831)である。
「バトロワだけど、今日は恋音の支援役よ。優勝するところを見せて」
「約束はできませんけれど……精一杯やりますよぉ……」

「ふむ……思った以上に真剣な戦いになるか……?」
 どシリアスな顔で、ファーフナー(jb7826)は煙草の煙を吐いた。
 彼は今回のゲームを完全に模擬演習ととらえている。
 そもそも召喚獣は魔具魔装コストが大きく、実戦では使いにくい。スキルは習得済みだが使う機会が少ないため、今日は色々ためすことができると考えて出場したのだ。まじめ!

「そんな皆さんに物申すために、僕は来ました。この召喚バトルゲームには重大な問題があると言わざるを得ません」
 エイルズレトラ マステリオ(ja2224)は、いつものタキシードにシルクハットだった。
 テイマーでもないくせに召喚獣には一過言ある、意識高い系の面倒くさい召喚士だ。


「みんな前口上は終わった? じゃあ始めるよ?」
 明日羽が言い、返事も待たずにゴングを鳴らした。
 まずはファーフナーのターン!
「この世界には色々な召喚獣がいるが、テイマーでなければ固有スキルは使用できない。となると……人並みの知能を持ち、効果値10を有するストレイシオンが使いやすいのではなかろうか。しかしストレイシオンは水中戦が得意なようだし、危険をともなう無謀な命令には応じない性質を持つ。今回の戦いには適さないかもしれないな。……ということで、この場は次点として召喚者の倍速で駆けられるスレイプニルが最善か? では召喚!」
 むしろ彼のプレイングがコメディとして危険すぎる!
 ふだんからコメディ脳に冒されてる連中は、あまりの高尚な演説に唖然として召喚獣を呼ぶのも忘れてるほどだ!

 が、いち早く立ちなおったのは雫。
 その手に拳銃が握られて、銃口が火を噴いた。
「ぐは……っ!?」
 腹を撃たれて倒れるファーフナー。
 あまりに堂々としたルール違反ぶりに、皆の視線が雫へ集まる。
「なんですか? これは召喚銃ですよ? なにか問題でも?」
「あのぉ……選手を直接攻撃するのは、反則ですよぉ……?」
 恋音が指摘した。
「スレイプニルを狙ったので故意ではありません。流れ弾です。まずいなら銃身で直接殴りますが?」
 無表情で言う雫だが、彼女の腕力でブン殴るほうが痛い。

「そう、これが召喚バトル……。じつに間違った世界です」
 エイルズはシルクハットを手に取ると、奇術士の手つきで帽子の中がカラであることを示し、ヒリュウのハートを召喚した。
 そして演説をはじめる。
「僕はこの召喚バトルに言いたい! 召喚獣の神髄は召喚者と召喚獣が別個に動いての連携。召喚獣はシューティングゲームで自機をトレースして弾を撃つオプションではない。かつてのボケモンはボケモンが相手を弱らせてトレーナーがボールで捕える連携バトルだった。しかし現在のボケモンGOはトレーナーがいきなり剛速球でボールをぶつけて捕らえる別ゲームである! 召喚バトルの隆盛は召喚獣だけが強ければ良いという間違った認識を広めてしまう。テイマー諸君は召喚獣だけでなく己の強さも磨け。召喚バトルは遊びとはいえ一種の模擬戦。召喚獣だけでなく召喚者も積極的に戦闘に参加し、召喚獣との連携訓練に努めるべきで
 パァーーン!
 あまりの長口舌に、雫が発砲して黙らせた。
 無理もない。しゃべりすぎである。
「もちろん流れ弾ですが、なにか?」
 しれっと言う雫だが、今回ばかりは誰も異を唱えなかった。

「なにか予想外の展開ですが、予定どおり行きますよ! 我が愛する召喚獣、鬼乳メイド・恋音召喚!」
 雅人の召喚獣は『恋音』だった。
 彼女は当然のように光纏し、「私は袋井先輩に仕える、召喚獣ですぅ……」と宣言する。
 これは強い。なにしろ魔王召喚だ。テラマギカ1発で大半の敵は蒸発する。
 とはいえ召喚主の雅人が重体中なので、立ち回りは難しい。
 そこをサポートするべく、美華がストレイシオンを呼び出した。
 やけにでっぷりとした巨大な地竜だ。ペットは飼い主に似るという言葉を体現したかのような召喚獣である。じつは今回のバトルに参加したのも、この巨体を見せびらかすため。
「一応優勝は狙うけど、メインは恋音の支援よ〜」
 というわけで、ただでさえ強い恋音を雅人と美華、地竜が支えるチームが結成された。
 これは確かに強いが……最後の1人になるまで戦うってルール忘れてないか?

「さぁみんな集まれ〜! 僕を治療するんだ〜!」
 としおが召喚したのは、召喚獣でも撃退士でもなかった。
 彼が呼び寄せたのは、ブラック○ャックやスーパードクター○などの天才医師軍団! 彼らに重体を治してもらうのが狙いだ!
「こいつは重傷だ。治療費は5000万久遠! あんたに払えるかね?」(BJ
「オレにまかせろ。オレなら治せる」(K
 どう考えてもBJいらない!
 ともあれ、これで召喚獣が出そろった。

・雫:召喚銃
・エイルズ:ハート(ヒリュウ
・としお:最強医師軍団
・雅人:恋音
・美華:地竜(ストレイシオン
・ファーフナー:スレイプニル

 よく見ればチルルだけ何も召喚してない。
 だが、これこそ彼女の作戦!
「チルチルは召喚獣出さないの〜?」
 美華が訊ねた。
「ふふ……よくルールを見て。『ゴング前の召喚は禁止』とあるけど、ゴング後に何か召喚しなければいけないとは書いてないのよ。おまけに『選手への直接攻撃は禁止』ともあるわ。これはつまり……何も召喚しなければ絶対に攻撃されないってことよ!」
「「おお……っ!」」
 選手だけでなく観客からも、どよめきが湧いた。
 だが一部からは「卑怯だぞー!」という声も。
「……え? 卑怯? ルールは守ってるでしょ? ルールをフルに活用してこそ、さいきょーなのよ? 馬鹿なの? 死ぬの?」
 今日のチルルは絶好調だった。
 いつもの姿からは想像もつかない策士ぶりだが、もちろん明日羽の入れ知恵である。チルルがこんな策を思いつくわけないだろ!

「なるほど、皆いろいろ考えているようだな……」
 状況を見て、ファーフナーは呟きだした。
「この試合は時間無制限。ということは召喚時間が長い者と、人間を召喚している者が有利だ。普通の召喚獣は生命力を召喚者と共有しているため人間召喚はさらに有利。しかし召喚獣は従順だが人間は命令に逆らうこともある……そこを突くのもよかろう。とはいえ皆の(コメディな)行動が読めないな。まずは様子を窺うか……」
 どこまでも真面目!
 ていうか前置き長いよ、みんな! 早く戦えよ!

「な、なにか空耳が聞こえたような……では袋井先輩、指示をどうぞぉ……」
「では恋音、自分の胸を揉みつつ胸元をはだけて相手を誘惑してください! 飛びかかってきたら鬼の反撃ですよ!」
「そ、それはちょっとぉ……」
「主人に逆らうのですか! こうですよ! このようにして揉むのです!」
「ふぁあああ……っ!?」
 いつもの夫婦漫才を始める、恋音と雅人。
 だが恋音の乳に惑わされる素人など、この場にはいない。
「なん、だと……っ、誘惑が効かないっ!? 恋音、こうなったら鬼攻撃あるのみです!」
「わ、わかりましたぁ……いきますよぉ……」

 恋音のライトニングが、雫めがけて放たれた。
 狙った理由は『雫が一番強いから』だ。召喚銃を狙って本体攻撃できるのも良い。
 だが雷撃は雫の召喚した(というか簀巻きにして持ってきた)セセリに命中。
「ひにゃああッ!? な、なにをするだァーッ!?」
「なにをと言われても、盾として便利そうなので……。カルーア部長と迷いましたが、あなたのほうが耐久性高そうですし」
 無表情で答えつつ、雫は恋音に向けて銃を発射した。
 その弾丸を、美華の地竜が巨体で受け止める。動きは鈍いが分厚い脂肪のおかげで防御力は抜群だ。
「恋音は私が守ってあげる〜♪」と、美華。
 続いて雅人がギターを掻き鳴らした。
「やってしまいなさい、恋音! ラブ、恋音! ラブ、納豆! ラブ、恋音! ラブ、納豆! ネバーネバーラーブ!!」
「お、おぉ……?」
 美華の護衛と、雅人の(意味不明な)声援を受けて、恋音が魔法を撃ち返した。
 雫はセセリを盾にして銃撃を返す。
 恋音と雫による、魔法と銃の撃ち合いが始まった。

 この間、としおは最強医療チームの手当てを。
 チルルは流れ弾を避けつつ漁夫の利狙いで高みの見物。
 ファーフナーはどちらに加勢すべきか様子を見ていた。

「こんなの……召喚バトルじゃない!」
 見かねたエイルズが、ハートとともに躍り出た。
「あなたたちは自分の行動を省みてほしい! 召喚バトルと称しつつ、やってることは撃退士同士のガチバトルだ! 僕はルールの変更を申し出る! さきほど述べたように召喚獣と召喚者の連携こそ召喚バトルの要点! よって僕はハートとともに戦う!」
 ダブルフェイス(影分身)を発動すると、エイルズは雅人に斬りかかった。
 恋音側も雫側もやってることは同等にひどいが、まずは潰せるところから潰す作戦だ。
「受けて立ちますよ!」
 雫とエイルズの攻撃を恋音に集中させるわけにはと、重体の身で迎え撃つ雅人。
 だが──
「アバーーッ!?」
 生命力1で対抗できるはずもなく、雅人は血の海に倒れた。
 ついでにハートの『爆弾風船』が炸裂して、恋音も美華も地竜も四方へ吹き飛ばされている。

「ここだ! 行けスレイプニル! インパクトブロウ!」
 ファーフナーの命令が飛び、すかさず召喚獣が突撃して地竜を薙ぎ払った。
 ダメージ目的ではなく、リングから叩き出すのが狙いだ。
 しかし、並み外れた巨体によって土俵際で踏みとどまる地竜。
 おかえしとばかりに、その牙がスレイプニルの首筋を噛み裂く。
 召喚バトロワの名に違わぬ乱戦模様だ。

「こんな戦い、もうイヤだ〜!」
 混乱に乗じて、セセリは透過でコッソリ逃げだした。
 が、雫の目を盗むことなどできない。
 すかさず背後から、セセリの頬をかすめる弾丸。
「いまのは警告です、次に同じ真似をしたら耳を吹き飛ばしますので」
「ぼ、暴力反対!」
「暴力? いいえこれは教育です。さぁ戦いなさい」
 雫が太陽剣の峰でセセリを殴り飛ばした。
「ひにゃああッ!?」
 ゴスバキぽよ〜〜ん!
 セセリはエイルズの後頭部にクリティカルヒットし、ファーフナーの背中を痛打したあと、恋音の胸で大きく跳ね返ってリングアウトした。
「ちっ、ビリヤードかピンボールの要領で敵を舞台から弾き飛ばそうとしたのですが……逆に弾き出されてしまうとは。役に立たない召喚獣ですね」
 雫が舌打ちした。
 この時点で彼女は強制退場。
 さらに、うつぶせで倒れていたエイルズも美華に襟首をつかまれて仔猫みたいにジタバタしながら石畳の外へポイ♪
 あっというまに、残るは5人となった。
 が、この状況でもとしおとチルルは動かない。

「つまり……俺1人で、あれを相手にするのか」
 ファーフナーの前には、美華と恋音が立っていた。
 どちらも高レベルの乳系モンスターだ。コメディ力も高い。
 しかしファーフナーには起死回生の策があった。
「こいつは酒のつまみに取っておいたものだが……くれてやる!」
 言うや否や、彼はビーフジャーキーをリングの外へ放り投げた。
 反射的に地竜が駆け寄り……そのままリングアウト!
「これは不可抗力ね。恋音、あとは頑張って〜」
 じつにお気楽そうに退場する美華だった。

「よし、そろそろ傷も癒えた。僕の出番だ!」
 ここでついに、としおが始動!
 だが、なぜか最後に出てきた医者は明日羽だった。
「最後に私がヒールしてあげるね?」
「……アレ?」
 冷や汗をかくとしお。
 思わず逃げようとした瞬間、背後から鎖がブチこまれる。
「待て! リタイアだ、リタイアする!」
「うん。でもケガは治したほうがいいよ?」
「や、やめろぉぉぎゃあああっ!」
 全身ボコボコに蹴られたとしおは、再び病院送りとなった。

「いまこそ、あたいのターンよ! とつげーき!」
 としおの無惨な姿に気を奪われていた恋音とファーフナーめがけて、チルルがスレイプニルで突進しつつインパクトブロウをぶっぱなした。
 ここまで体力とスキルを温存してたチルル、圧倒的有利!
 ファーフナーは召喚獣と自身の二重ダメージで撃沈。
 恋音は吹き飛ばされつつも、素早くテラ・マギカを発動させた。
 もし召喚獣と本体で食らえば、チルルは死ぬ。
 だが……ギリギリで彼女は耐えた。
 そして着地した恋音を、チルルが馬上から斬り下ろす。
「絆の力をくらえー!」
 バシュウウッ!
「ええええ……っ!?」
 氷連『チリングリンクス』の連続攻撃を浴びて恋音は倒れた。OP薬とか飲むヒマもない。


「やったあ! あたいの優勝よ! やっぱり、あたいってばサイキョーね!」
「私が力を貸したから勝てたんだよ?」
 明日羽が応えた。
 そう、漁夫の利作戦も『絆』も彼女の入れ知恵である。
 完全なルール違反だが、いまさらそんなことを言う者はいない。
 ともあれ、こうして第一回召喚バトロワは幕を閉じた。
 まぁこのあとチルルちゃんは『お礼』として誰より酷い目に遭うんですけどね。




依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 伝説の撃退士・雪室 チルル(ja0220)
重体: −
面白かった!:7人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
チチデカスクジラ・
満月 美華(jb6831)

卒業 女 ルインズブレイド
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA