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マスター:牛男爵
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
参加人数:25人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2016/05/13


みんなの思い出



オープニング


「う〜〜ん……どうしようかなあ……」
 小筆ノヴェラ(jz0377)は、放課後の校庭を眺めながら呟いた。
 ここは学生食堂という名の居酒屋。昼間から堂々と酒が飲める、呑兵衛どもの憩いの場だ。
 安物のワインを飲みつつ、ノヴェラは珍しく真剣な顔で考えていた。
「そろそろ企画を進めないといけないんだよなぁ……いや、しかし……うぅん……」
 金色の髪をぐしゃぐしゃ掻きまわしながら、自問自答するノヴェラ。
 いま彼女を悩ませているのは『映画』だった。
 小筆ノヴェラは現役の撃退士であり久遠ヶ原の講師でありながらも、画家、音楽家、書家、作家など多くの肩書きを持ち、最近は映画監督としても知られている。まごうかたなき天才だ。
 そんな彼女が久遠ヶ原に籍を置いている理由は、ただひとつ。撃退士を題材とした映画を撮るためだ。
 しかし一口に『映画』と言っても難しい。
 それはレンタルビデオ屋にでも行けば一目でわかるだろう。
 アクション、SF、ホラー、ロマンス、コメディ、ドキュメンタリー……作品のアプローチは無数にある。
 もちろんノヴェラは素人ではない。映画評論家としても食っていけるほどの知識と文才があるし、短編映画をいくつか作って評価も得ている。
 が、撃退士を題材にするのは初めてだ。
 しかも映画製作会社との契約で、2年以内に長編を1本作らなければならないことになっている。
 時間的な猶予はまだあるが、そろそろ動きださなければならない時期だ。
 というのに、いまだテーマを決めきれずにいる。
「さて困ったな……まぁ僕は天才だから、いざ仕事をはじめればアッというまに仕上げてみせるけど。でもまぁ……せっかく久遠ヶ原にいるんだ。どんな撃退士映画を見たいか、生徒に聞いてみるのも一興だよね♪」
 イタズラっぽく微笑むと、ノヴェラはワイングラス片手に歩きだした。
 酔っ払いのヒマつぶしが始まる。




リプレイ本文



「よし、まずはキミだ!」
 ノヴェラはグラス片手に、エル・ジェフ・ベック(jc1398)の背中を叩いた。
 今まさにビーフシチューを食べようとしていたエルは、「ぶほっ!?」とスプーンを落とす。
「なにすんだ! 仔牛の煮込みが死ぬほど喰いたかったのに! やってられっか!」
「ちょっと協力してほしいんだ。僕は映画監督なんだけど……」
 と、ノヴェラは経緯を説明した。
 話を聞いたエルは胸を叩いて応じる。
「撃退士の映画を撮るのか。そいつは面白い。俺は映画に関しちゃそこらの奴より見てる。俺に意見を聞いたのは正解だぜ」
「本当? これは幸先いいね」
「俺が見たい撃退士映画はな……ずばりミュージカル・ロマンス・コメディだ。主人公は凄腕の撃退士一家で育った女の子で、なにかのメディアでダンスに興味を持つようになるんだ。もちろん親は拒むんだけど、おかげでその子が家出するんだ。そんで学園でスキルを使うダンス集団と出会い……てな感じだ。もし映画を作るなら協力するぜ」
「それ一般人でもいいよね?」
「いや『ダンス』は重要だぜ。……ていうかシチューが冷める! 続きは今度な!」


「事情は聞かせてもらった! 私の意見を述べよう!」
 パンダまんをかじりながら、下妻笹緒(ja0544)が割り込んできた。
「うん、どうぞ」
 笹緒の頭をモフモフするノヴェラ。
「撃退士映画といえば、すぐ思いつくのはやはり撃退士の身体能力、戦闘能力を活かしたアクション映画だが……それでは既存のジャンルと変わりない。撃退士映画というからには、アクション、SF、ホラーなどと同様に一つのジャンルとして確立したものでなければ」
「うんうん」
「そこでだ! スタッフすべてが撃退士という作品はどうだろう。監督も撮影も照明も美術も編集も、すべて撃退士。基本的に撃退士はちょっとおかしい連中が多いので、制作側に回ってもらったほうが珍妙な映像が生まれるのでは?」
「キミも『おかしい連中』の一員だよね」
「なにをもって私がおかしいと言うのかね」
「パンダのくせに中華まん食べてるところ?」
「ふ……これはただのパンダまんではない。中身の具は笹なのだよ!」
「ああ、それなら普通かも」
「うむ、そういうわけだ。ぜひ映画作りの参考にしてくれたまえ」


「じゃあ次は雫君に訊こう!」
 ノヴェラが雫(ja1894)の背中をブッ叩いた。
 焼肉定食を食べていた雫は「ぐふっ!」と前のめりになる。
「なんですか突然。食事中ですけど?」
「見ればわかる。話は聞こえてたよね?」
「まぁ聞こえてましたが……すごく酒臭いですよ? 酔っぱらってるんですか?」
「まぁね。それより雫君の見たい映画ってどんなの?」
「……そうですね、バトルロワイヤル的な物が面白そうですが、ありきたりの感は否めませんよね。……あ、ホラーサスペンスなんてどうです? 撃退士イコールなにごとも暴力で解決ってイメージがありますけど、ホラー物なら暴力が通用しないから推理で問題解決する様は面白いと思うんですよ」
「ホラーか。それイイね」
「ああ、でもグロいのはやめてくださいね」
「グロって、どのあたりまで?」
「まあ、内臓が破裂して飛び出るぐらいはOKですけど」
「なら大体OKじゃない?」
「……かもしれません」
「ムカデ人間みたいなのも大丈夫だよね?」
「なんですか、それは。……いえ聞かないことにします。食事中なので」


「ちょっと待ってェ……バトロワはありきたりなんかじゃないわよォ?」
 口をはさんできたのは黒百合(ja0422)だった。
「またですか。最近よく会いますね」と、雫。
「そうかしらァ。とりあえず撃退士バトロワは最高のヒューマンドラマになると思うのよォ。いわば『蠱毒』の撃退士版でしょォ? 生き残るために血で血を争う殺戮劇……そこでは、騙し討ち、人質、拷問、陵辱……と地獄の惨劇が繰り広げられるはず。そんな中で必死に生きようとする撃退士たちの熱いドラマが見てみたいわァ♪」
「R18だよね、それ」
 ノヴェラが指摘した。
「なにか問題あるのォ? もちろん映画の最後は、いままで協力してきた仲間同士で凄絶な騙しあいの殺しあいが展開されるわけでェ……しょせん人間なんてそんなものだよ、と思わせたらイイ感じじゃないかしらァ。そして最後の一人が残っても、絶望的な状況で視聴者を叩きのめすって寸法よォ……? こんな映画があったら見てみたいわァ♪」
 個人的な趣味全開で訴える黒百合。
「その『最後の一人』を演じるのは黒百合君だよね」
「私は途中退場するから、その役は雫ちゃんにまかせるわァ♪」
「まっぴらごめんです」
 雫が真顔で答えた。


 そんな一連の様子を、遊咲恭一(jc2262)はあっけにとられたように眺めていた。
 まだ入学して日の浅い彼にとって、学園生活の多くは新鮮に映る。
 ここはひとつ交流を深めておこうと、恭一は話しかけた。
「撃退士の映画を作るって? じゃあ『撃退士をめざす主人公が一人前になるまでの道のり』みたいなのはどうだ?」
「ドキュメンタリーだね。でも配役が難しいかな」
「俺を取材すればいい。自分で言うのも何だが、最近撃退士になったばかりだ」
「そうなの? なかなかイケメンだし、いいかも♪」
「よし、そうと決まれば……しばらくついていってもいいか? 皆がどういう回答をするのか見てみたい」
「いいけど、どういう目に遭うかわからないよ? 爆発事故に巻き込まれたり、触手に襲われたりね♪」
「……どういう学園なんだ、ここは」
 唖然としつつも、気を引きしめてノヴェラのあとについていく恭一だった。



「あ、鳳君。ちょっといい?」
 廊下に出たところで、ノヴェラは次の獲物を捕まえた。
 めずらしく人間モードの鳳静矢(ja3856)である。
 事情を聞くと、彼は迷いなく語りだした。
「撃退士の映画ということなら、やはり特撮が良いのでは? 撃退士ならCGなどを使わなくても色々と派手なことができますし、ヒヒイロカネを使っての瞬間衣装替えも可能ですしね」
「一瞬でパンツ一丁になる人もいるしね」
「その人の話は置いといて……学園には謎の巨大化薬を作ってる人もいるので、巨大ヒーローや怪獣映画なども撮れるでしょう。具体的には……宇宙を荒らしまわる凶悪犯を追って銀河の彼方から地球へ飛来したラッコ姿の宇宙刑事が、追跡中に誤って接触して死なせてしまった戦闘機のパイロットに魂を分け与えて生き返らせるとともに、人間の身を借りて地球に潜む宇宙凶悪犯たちを成敗し捕縛してゆく……そんな特撮ヒーロー物はどうでしょう」
「やけに具体的だね」
「当然です。そして変身の合言葉は『毛着!』で掛け声とともに体表をラッコの毛が覆うとか、そんな感じで」
「それラジー賞確実だよね」


「毛着はともかく、撃退士のスキルで特撮するのは面白いと思います」
 まじめな顔で話に入ってきたのは、Rehni Nam(ja5283)
「スキルを使えば予算は抑えられるよね。どういうジャンルがいいと思う?」
「んー、特に希望のジャンルはないんですけど。太陽とか月とか、どーにもならないレベルは除いて、『すべての効果をスキルで賄った映画』というコンセプトはどうでしょう」
「なるほど、それも撃退士映画と呼べるね」
「乗り物も馬車ぐらいまでで、馬車を引くのは馬じゃなく召喚獣。戦闘ものなら流血シーンは本当に血を流し……あ、即死・再起不能はダメですよ? 生命の芽で回復できる範囲で。日常ものなら、私やジュンちゃんみたいにスキルを日常に使ってるシーンとかほしいですね」
「ふむ……そこへ下妻君の案を加えるという手も……」
「あるいはアウルを使ったミステリー物もありですね。あえて一般人が犯人役というのも面白そうです。密室とかの状況を、能力を使わないと再現できなさそうに見せてトリックでどうにかするとか」
「この世界で密室トリックは難しいんだよねぇ」
「そこは脚本次第ですよ!」


「ちょっと待ったあー! あたいの意見も聞いて!」
 なにか映画を作るとかいう話を耳にして、雪室チルル(ja0220)が走ってきた。
「チャオ、雪室君。キミはどんな映g
「いい? 撃退士といえば戦う職業であることは確定的に明らか! つまり撃退士とすごく強大な敵が戦う映画が最適よ! それもものすごく大きくて強くて見るからにヤバそうな怪獣みたいな! みたいな! 人々が逃げまどう中、大勢の撃退士が助けあい、ときには衝突し、それでも人々を助けるために力を合わせ、ものすごく強い強敵を打倒するお話が見てみたい、っていうか参加したい! すごく参加したい!」
「うん、熱意はわかっt
「それでそれで、あたいはそんなバトルで大活躍してみたいし、さいきょーアピールしてみたい! だってあたいさいきょーだし。そんなさいきょーのあたいを主役にして、とんでもなくカッコいい世界さいこーのアクション映画を作るべき! ね?ね?」
「うん、雪室君はカワイイね♪ 恋愛映画の主役にしてあげるよ」
「そーじゃなくて! そーじゃないでしょ! もういちど言うわ! 撃退士といえば戦うしょくぎょーであることはかくてーてきに(ry」
「じゃ! アリヴェデルチ!」
 ノヴェラは逃げだした!



「色々な生徒がいるものだな……」
 あきれたように──もとい感心したように、恭一は呟いた。
「キミもいずれああなるよ」と、ノヴェラ。
「ああはなりたくないな……」
「ここで学園生活をたのしむなら、バカにならないと」
「できれば遠慮したいな……」
「さて次はここを覗いてみよう」
 そう言うと、ノヴェラは斡旋所の扉を開けた。
 そこには、依頼を探す生徒の姿が何人も。

「チャオ、ダンディ君。少し話いいかな?」
 ファーフナー(jb7826)を見つけると、ノヴェラはワインをあおりながら声をかけた。
 社畜な彼は、今日も今日とて仕事を探しているところだったのだ。
「なんだ? 俺は忙しいんだが」
 昼間から酔っ払ってるこの小娘は何なんだと思いつつも、無表情で応じるファーフナー。
 しかし追い払っても無駄だろうし逆に面倒そうだと冷静に判断すると、「まぁいい。少しだけなら聞こう」と鷹揚に頷くのだった。
 そして事情を聞いた彼は、「そうだな……」としばし考えこむ。
「事実は小説よりも奇なり、という言葉もある。ドキュメンタリーがいいのではないか? 作品のターゲットを男にするか女にするか、大人向けにするか子供向けにするか。それによって主人公を設定し、戦闘メインにするか学園生活メインにするか決めたらどうか」
「真面目な意見だね。うん、客層を考えるのは重要さ」
「とはいえ撃退士が主人公なら、やはり若者向けの作品が無難だろう。俺はあまり文化的な趣味を持ってないので、これ以上の助言はできないが……」
 と言いながらも彼なりに真剣に答えてしまうファーフナーは、かなり親切だ。


「よし、次いこう! そこのお兄さん!」
 ノヴェラが呼びかけたのは、礼野智美(ja3600)だった。
「一応訂正しておくと、俺は女なんですけどね」
「これは失礼。きみ女の子にモテるでしょ」
「いや別に……というか、なんの話なんです?」
「じつは僕、映画監督なんだけどね。どんな撃退士映画が見たいか訊いて回ってるんだ」
「映画ですか。ん〜……見てみたいのは日常系かな……たとえば『中学生○記』みたいな、ドキュメンタリー?」
「その理由は?」
「久遠ヶ原の面々って、家庭環境が複雑だったり家族と折り合い悪かったりする人が多いし、家族と死別とかもごろごろいるし……色々あっても、やっぱり人間なんですよね。でも依頼人って、学生で、子供で、人間だって前に『プロ』として見ちゃうから、無茶なこと言う人も多いんですよ。そういう題材の映画なら見てみたいですね」
「重いテーマだね」
「話題性はあっても興行的には大コケでしょうね。撃退士題材、なら一番やりやすいのはアクションなんですけど、たとえば群像劇みたいな。大規模戦をテーマにするのも良さそうですけど……いままでで一番理想的に終わったのって『種子島』系列かな。ただあれを映画にすると、天魔を肯定的に見る人が増えそうなのが問題ですよね」
「大規模をテーマにか。それはアリだね。ありがとう」


「聞いてたぜ。映画を作るんだって?」
 不敵な笑みを浮かべつつ、小田切ルビィ(ja0841)が話しかけた。
「うん、なにか意見ある?」
「ああ、個人的には天魔の結界に潜入するドキュメンタリーとか興味あるぜ」
「けっこう危険だね、それ」
「もちろんマジモンのでも良いし、ブレアウィ●チっぽい疑似ドキュメントでも良い。製作費も安く済むし、なかなか良いンじゃねーか? タイトルは『THE久遠ヶ原プロジェクト』とか」
「そのまんまだね!」
「わかりやすいほうが良いンだって。あとは『歴史大河+大奥+学園モノ』ってな組み合わせで、戦いあり、陰謀あり、恋愛ありのエンタメも捨てがたいぜ。地球・天界・冥界の三界が入り乱れる構図は絶対ェ面白いって!」
「なんで大奥?」
「理由なンかねーよ! 映画は面白けりゃ何でもアリだろ? ところでアンタ、映画監督なんだって? 俺をアシスタントとして雇ってみないか? じつは俺、報道カメラマンの卵(自称)で、ジャンルは違えど映像のプロの現場を体験してみたいんだ。どうよ、役に立つぜ?」
「また突然だね。いまは必要ないけど覚えておくよ」
「おう、よろしくな!」


「ふむ……撃退士映画とのことだが、私が思うに枠にはまってしまっている」
 ノヴェラの背後から唐突に語りだしたのは、鷺谷明(ja0776)
「枠?」
「そうとも。極論すれば撃退士というのは映画を彩る要素の一つに過ぎないから、その要素のために全体があるというのは本末転倒に思える。限られた枠の中で傑作を作り上げるのも芸術家の業かもしれないが、芸術家は枠そのものを作り直すことができるだろう」
「うんうん」
「ロミオとジュリエットでたとえよう。毒を飲んで死んだロミオ、短剣で後を追ったジュリエット。だが、そこでどんでん返し。毒を飲んでも/短剣で胸を突いても死なないというオチだ。そう、撃退士ならね。この程度のノリでいいんじゃない?」
「つまり……?」
「つまりアレだよ。芸術は爆発だろう? 既存の枠を破壊するんだ。……あ、個人的な好みはナンセンスコメディなので、一考してくれ」
 なにか大層な箴言を言ってるように見せて何も言ってない明であった。


「よし次は……そこの小悪魔ちゃん、キミはどんな映画が見たい?」
「え、ボク、ですか?」
 依頼書を眺めていたアルティミシア(jc1611)は、急に話を振られてビクッとした。
「どうしたの?」と、ノヴェラが頭を撫でる。
「なんでも、ないです。映画、ですか……。ボクに、新しいものを、作る才能は、ないので……成し得なかった、ボクの望んだ、結末を、考えて、しまいましょう」
「んん?」
「やるからには、良いものを。思い出したくも、ないですが、ボクの過去を、思い出して……」
 そう言うと、アルティミシアは暗い過去の記憶を掘り返した。
 それは故郷の集落での記憶。好戦的な獣じみた男ばかりの中、ひとりの少女にできることは少なく……。
 思い出すごとにアルティミシアの顔は青ざめ、呼吸が乱れていった。
「ううっ、体が震えて、きました、寒気も、してきました……あれ? 目から汗が……?」
「なにかつらいことがあったんだね。僕が慰めてあげるよ」
「この記憶を、ハッピーエンドに、書き換えて、ほしいです」
「うんうん、じゃあ僕の部屋に行こう」
 ナチュラルに少女を拉致しようとするノヴェラ。
「あー、先生? アンケートの途中じゃないのか?」
 恭一が冷静に暴挙を止めた。
「そんなのどうでもよくない?」
「監督の仕事があるんだろ? 次いこうぜ、ほら」
 こうしてアルティミシアの貞操は守られた!


 ノヴェラと恭一が斡旋所を出ると、廊下の先で桜庭愛(jc1977)がビラを配っていた。
 いつもの蒼いリングコスチュームで、部員の勧誘をしているのだ。
「学園美少女プロレスをよろしくおねがいしまーす。プロレスで爽やかな汗を流しませんかー?」
「熱心だねぇ」
「先生もどうです? 私たちとプロレスしませんか?」
「いいよ。もちろん脱衣デスマッチだよね?」
「ちょ、それはちょっと!」
「イタリアじゃ常識だけどなぁ。まぁそんな本気の話は置いといて。近いうち撃退士を主人公に映画を撮るんだけど、きみはどんなのが見てみたい?」
「それはやっぱり、アクションですよね! 美少女レスラーの冒険活劇希望です。試合を通じて親友やライバルとの友情を共感してもらいつつ、勧善懲悪な物語に引き込む。貧困や社会問題を含めつつ、悪に正々堂々立ち向かい……地下闘技場に捕らわれた友を助けるためにあえて危険な道を行く! そんな感じの物語が共感を呼ぶと思います」
「それ面白いかも。プロレスの映画って少ないしね」
「ええ、だからこそです。学園にはプロレスファンも大勢いるし、もし作るなら私たちも支援しますよ!」
「うん、考えてみようかな」




「なに? 映画のテーマだぁ? だったら俺のこと映画にしろよ」
 学園一のメカ撃退士・ラファル A ユーティライネン(jb4620)は、今日も今日とて義体特待生の任務をまっとうしている最中だった。
 簡単に言うと耐久力テストだ。ケーブルやワイヤーで宙吊りにされたラファルの全身を、技師が真剣な顔して点検ハンマーで叩いてゆく。
「まるでSMショーだね」と、ノヴェラ。
「くだらねーコト言ってんじゃねー! 俺がこうして協力してるのは、義体技術発展のためなんだよ!」
「個人的な趣味じゃなくて?」
「んなワケあるかー! よく聞けアル中教師。学園としては傷病撃退士のために一日も早く義体技術を完成させたいんだよ。そのためにも資金や社会からの理解がほしいはず。俺の境遇を映画にすれば、障害者の社会復帰を後押しできるかもしれねーだろ?」
「めずらしく健全な提案だね。なにか裏がある?」
「ねーよ、そんなもの。……てなわけでストーリーは、『天魔の襲撃で体を失った少女が義体の力で社会復帰し、天魔に復讐を果たす』って王道物。どだ?」
「そんな復讐の途中、少女ラファルは芸術家の先生と恋に落ちて逃避行の旅に……」
「勝手に脚色するんじゃねー!」




「ふむ、見たい撃退士映画ですか……ずばり『時代劇』ですね」
 とある教室で、樒和紗(jb6970)は迷いなく答えた。
「ジェダイ劇?」
「いえ時代劇です。せっかく日本にいるのですから、この日本伝統の美しい色彩を使わない手はありません。着物は海外でも評価されるものでしょう? 音楽も独特ですし、ほかにないと思います」
「うん、僕もクロサワは大好きさ」
「勿論ただの時代劇では撃退士映画である必要性は薄いので、そこは激しい動きのあるアクション時代劇で行きましょう。たとえば……馬より早い、音速町娘!」
「マッハ!!!」
「クワドラプルジャンプなぞ目じゃない、スパイラル帯ほどき!」
「あーれぇー!」
「立体機動装置でも使っているかのごとき、全方向可動型スタイリッシュ殺陣!」
「ライトセーバー装備で!」
「どうですか。迫力あると思いませんか?」
 と和紗が問いかけた、そのとき
「話は聞かせてもらった!」
 ズサーッと横スライディングしながら、砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)がキメ顔で登場した。
 偶然通りがかったわけではない。はとこの和紗をストーキング(見守り)中、会話を聞いて出てきたのだ。
「……って、何してるんです竜胆兄。覗きですか? 警察呼びますか? バー出禁にしますか? しにますか?」
「え? いやいや。偶然通りかかっだけで盗み聞きしてたとかそんなことは」
 必死で否定するストーカー。
 だが急に真剣な顔になると、彼は言うのだった。
「時代劇もいいけど、そこへ更に+αはどうだろう。たとえばミュージカルとかイリュージョンとか、サーカスショー的なのもあったり。そういうエンターテイメント要素を詰め込んでも行けると思うんだ。ほら、撃退士って何故か芸達者な子が多いし」
「どんどんカオスになってくね」と、ノヴェラ。
「収拾というか構成のまとまりつけるのは大変だけど……そこは小筆ちゃんの腕だよね。でも最近の二次元、『急に歌うよ』系が面白くてさ」
「だからミュージカルを?」
「うん、まぁね。……って、和紗がいない!?」
「バイトに行くって言ってたよ?」
「なに? 急いでストーk……もとい見守りに戻らないと! 小筆ちゃんはまた今度、素面のときに遊ぼうね♪」
 キリッと言い放ち、和紗のあとを追って走りだすジェンティアン。
 その直後、和紗の放った矢が彼の眉間に突き刺さるのだった。




「ノヴェラ先生、こっちこっち」
 小声で手招きするのは、不知火あけび(jc1857)
 なにやら植え込みの影に隠れて、いかにも怪しげだ。
「なにしてるの?」
 誘われるまま、ノヴェラはあけびの隣にしゃがんだ。
「じつはいま、姫叔父の隙をうかがってるんです。友達に学園恒例の女装チェンジをやらせたらどうかって言われて」
「女装チェンジ?」
「イケメンの生徒が女装して依頼に行ったり写真撮ったりするマイナーイベントって聞きましたよ? きっと人気出るぜーって、その友達も言ってました。姫叔父は女装似合いそうだし、ぜひとも参加してほしいんですけど……昔から嫌がって、なかなか隙を見せないんです」
 あけびの言う姫叔父とは、不知火藤忠(jc2194)のことだった。
 彼はいま中庭のベンチに腰かけ、ひとりで日本酒を飲んでいる。
「たしかに女装させたらカワイイかも」と、ノヴェラ。
「でしょう? せっかく撃退士になったんだし、いろんなことに挑戦してほしいなって思うんです! あ、衣装は考え中なんですけどね! 捕獲用のロープは用意しました。よかったらご協力おねがいします!」
「OK。僕にまかせて」
 気楽に引き受けると、ノヴェラはロープ片手に藤忠へ近付いていった。
 冷静に見ると、だいぶおかしい。
「チャオ、藤忠君。昼間から飲酒かい?」
「おお、ノヴェラか。とりあえず一杯飲め。……そのロープは何だ?」
「これ? ボルジア風のファッションだよ。ところで、ひとつ訊きたいんだけど」
 盃を受け取りながら、ノヴェラは状況を説明した。
「……ふむ、撃退士が主役の映画、か。ネタは何でも良いのか?」
「もちろん」
「では……仲が良かった友人が実は天使で、撃退士の妹分を使徒にしようとしていた話とかどうだ? 妹分は天使を剣の師匠と慕っていてな。撃退士もまた三人でいられる日が来ると信じている。だが会えば戦うしかない。妹分も撃退士だ。心中はともかく必ず刃を向けるだろう。種族の壁はよくあるテーマだが、おまえがどんな結末にするのか興味がある」
「それは藤忠君の体験談?」
「ふ……まさか。ただの冗談だ。酒の上の戯言に過ぎん。忘れてくれ。……ああ、もし撮るなら協力するぞ。まぁ、ここの日常風景だけでもとんだコメディ映画になりそうだがな」
「覚えておくよ。ところで、あけび君からキミを捕まえて女装させようって頼まれてるんだ。どう思う?」
「ああ……?」
「僕としては逆にあけび君を捕まえて『女装』させようと思うんだけど、協力してくれる?」
「ほお……それはいいな。フリフリのドレスでも着せてやろう」
「とびきりかわいいヤツをね♪」
 にやりと微笑む、酔っ払い2名。
 その後あけびがどうなったかは不明だ。




 浪風悠人(ja3452)と浪風威鈴(ja8371)は、今日も仲良く学園を散歩していた。
 そこへ突如として現れる、酔っ払いの映画監督。
「キミたち、ちょっとアンケートに協力してくれないかな」
 そう言うと、ノヴェラは事情を説明した。
「撃退士の映画、ですか……」
 悠人は威鈴のほうへ振り向き、「どんな映画がいいと思う?」と訊ねた。
「映画……このまえ見た……インドの……面白かったの……」
「インド映画か。あれ面白いよね」
 悠人はいきなり光纏すると、どこからともなく花束を取り出した。
 そして片膝を地面につきながら、「好きだ」と告白しつつ威鈴に花束を差し出す。
「え? えと……? ありがとう」
 唐突な展開に、威鈴はうろたえながらも花束を受け取った。
 そのまま悠人はスッと立ち上がり、自然な流れで威鈴の唇を──
 と思われた瞬間。大音量でダンスミュージックが流れだし、悠人はカメラ目線で踊りはじめた。インド映画でよく見られる、謎のミュージカル展開である。
 つられてノヴェラが踊りだし、通りすがりの生徒たちも次々とダンスの列に加わる。たちまち周囲一帯はダンスホールと化した。いまどき『ダンス』もできない生徒はいないと言わんばかりの、圧倒的な光景。悠人はもちろん誰も彼もがカメラ目線でキレッキレのダンスだ。止める者など一人もいない。
 結局、丸々一曲踊りきったあとでダンサーたちは黙々と去っていった。
「……というわけで。せっかくなら撃退士らしく、もっと冒険したインド風ラブコメはありだと思います」
 さわやかな笑顔で悠人が言い、ノヴェラは力強くうなずいた。




 校庭の片隅で、染井桜花(ja4386)と秋姫・フローズン(jb1390)は拳を交わしていた。
 天魔との戦いにそなえて模擬戦をおこなっているのだ。
 が、周囲の地面はあちこち陥没し、校舎の壁にはヒビが入っている。模擬戦という名のガチバトルである。
 和服姿の桜花が連続で『円舞』を叩き込み、メイド服の秋姫が華麗に受け流す。そこから切り返しての後ろ回し蹴り。そのまま連携技につなげるが、桜花には一撃も入らない。
「いやー、みごとみごと♪」
 ノヴェラが拍手した。
「どなた……ですか……?」
 瞬時に間合いをとって、秋姫が振り向いた。
「……先生、か。……気配と視線でわかった」
 桜花も構えを解いて振り返る。
「熱心だねぇ。そんなキミたちにアンケート。僕が撃退士の映画を撮るとしたら、どんなのが見てみたい?」
「……映画?」
 と言いながら、桜花は近くのベンチへ歩いていった。
 そこに置いてあったバッグからペットボトルをふたつ取り出し、1本を秋姫に放り投げる。
「……そうだな……私は時代劇が見たい。……仕事人のような……そんな話」
「それは渋いね」
「……そうか? たとえば……昼は遊女の姿……夜は悪を裁く……仕置き人の姿。……そんな映画を、見てみたい」
「となると、主人公は忍軍かな。秋姫君は見たい映画ある?」
「そうですね……」
 ペットボトルの中身を一口飲んでから、秋姫は答えた。
「私が見てみたいのは……学園を舞台とした……ボディーガード物でしょうか……。ヒロインを……影からこっそりと……狙ってくる敵からアウルを駆使して護衛する……そんなストーリーで」
「ベタだけどイイね」
「はい……どんなに傷ついても……絶対にヒロインを守り抜く……そういうお話が良いです」
「でもヒロインの命を狙ってくるのは仕事人なんだよね? こりゃ大変だ」
「混ぜないでください……」
「じゃあボディガード役は染井君、ヒロインは秋姫君で……殺し屋は黒百合君あたり?」
「……一部の配役に……悪意を感じる」
 桜花が冷静に指摘した。




 特殊文芸部の部室では、午後のお茶会が行われていた。
 テーブルに並ぶのは、ケーキと紅茶のセット。
 3つのイスには、由利百合華、三条絵夢、月乃宮恋音(jb1221)が腰かけている。
 ただし3人とも手を後ろに縛られて目隠しをされているのが、普通のお茶会と少々異なる点だ。
「えとぉ……今日はお茶会と聞いたのですが、これは一体……」
 恋音が佐渡乃明日羽に問いかけた。
「ん? 由緒ただしい英国式のお茶会だよ?」
「このような由緒は、聞いたことがありませんよぉぉ……?」
「そう? 遠慮しないで食べてね? 犬みたいに食べるんだよ? でもこぼしたらおしおきね?」
「む、無理ですぅ……!」
 などという会話シーンに、ノヴェラと恭一がやってきた。
「マンマミーア! 素敵なお茶会だね♪」
「これがお茶会だと……!?」
 耳を疑う恭一。
「ん? 監督もお茶する?」
 明日羽が問いかけた。
「いいね。でもその前に仕事があるんだ。ねぇみんな、僕が撃退士の映画を撮るとしたら、どんなのが見てみたい? まずは月乃宮君に訊こう。あ、格好はそのままね」
「映画、ですかぁ……? 撃退士の小筆先生なのですから、やはり本職の方しか知らない面を表に出して……一般的な撃退士の映画と言うと、タイプはどうあれアクション系が主体になりがちですから、撃退士の日常を描いたホームドラマか、スラップスティックコメディのようなものは、どうでしょうかぁ……?」
「うーん、普通だね」
 とノヴェラが言った、その瞬間。
「そのとおり! 普通すぎますよ! ふおおおおおっ! ラブコメ仮面参上です!」
 いつものブリーフ姿で、袋井雅人(jb1469)が颯爽と現れた。
「私が推薦するのは、ずばり『映画ラブコメ仮面』です! 『世界からパンティが、ラブコメが消えてる!? 愛と笑いと正義のために戦え、撃退士変態ヒーローラブコメ仮面!』という感じのキャッチコピーで行きましょう! もちろん主役は私、ヒロインは恋音で!」
「それ撃退士と関係ないよね?」
「なにを言うんです! 撃退士とラブコメは切っても切れない関係ですよ! 渇ききった今の時代が求める映画こそ『ラブコメ仮面』! 真実の愛とは何かを訴えるため、ハードなSMシーン満載で!」
「確実にR18だよ、それ」
「それでこそラブコメ仮面です!」
 テーブルに飛び乗り、ポーズを決める雅人。
「うぅん……こういうカオスな日常を盛り込むという手も……?」
 恋音はうろたえるばかりだった。

「よし、調査はここまで。遊咲君は帰っていいよ。ご苦労様」
「む、そうか。また何かあれば呼んでくれ」
 そう言うと、恭一は手を振って去っていった。
 ノヴェラは笑顔で恋音たちのほうを振り返る。
「さて……愉快なお茶会になりそうだね♪」
 この『午後のお茶会』は翌朝まで続いたという。





依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:12人

伝説の撃退士・
雪室 チルル(ja0220)

大学部1年4組 女 ルインズブレイド
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
紫水晶に魅入り魅入られし・
鷺谷 明(ja0776)

大学部5年116組 男 鬼道忍軍
戦場ジャーナリスト・
小田切ルビィ(ja0841)

卒業 男 ルインズブレイド
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
凛刃の戦巫女・
礼野 智美(ja3600)

大学部2年7組 女 阿修羅
撃退士・
鳳 静矢(ja3856)

卒業 男 ルインズブレイド
花々に勝る華やかさ・
染井 桜花(ja4386)

大学部4年6組 女 ルインズブレイド
前を向いて、未来へ・
Rehni Nam(ja5283)

卒業 女 アストラルヴァンガード
白銀のそよ風・
浪風 威鈴(ja8371)

卒業 女 ナイトウォーカー
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
微笑みに幸せ咲かせて・
秋姫・フローズン(jb1390)

大学部6年88組 女 インフィルトレイター
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
ついに本気出した・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

卒業 男 アストラルヴァンガード
されど、朝は来る・
ファーフナー(jb7826)

大学部5年5組 男 アカシックレコーダー:タイプA
もふもふ詐欺・
エル・ジェフ・ベック(jc1398)

大学部2年233組 男 阿修羅
破廉恥はデストロイ!・
アルティミシア(jc1611)

中等部2年10組 女 ナイトウォーカー
明ける陽の花・
不知火あけび(jc1857)

大学部1年1組 女 鬼道忍軍
天真爛漫!美少女レスラー・
桜庭愛(jc1977)

卒業 女 阿修羅
藤ノ朧は桃ノ月と明を誓ふ・
不知火藤忠(jc2194)

大学部3年3組 男 陰陽師
V兵器探究者・
遊咲恭一(jc2262)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド