† 焔・楓(
ja7214)
「んにゃ……?」
不思議な静けさの中で、楓は目をさました。
いつもの自室には見慣れない空気が漂い、カーテンが淡く輝いている。
「うー、なにか外が明るい……って、あや、真っ白なのだ。これは……雪が積もってるのだー♪」
カーテンを開けると、楓は一気にテンションUPして跳び上がった。
まるで子供みたいな反応だが、実際子供なので無理ない。
「これなら学校も休みだし、思いっきり遊べるー♪」
勝手に休校と決めつけて、外へ飛び出す楓。
ちなみに寝間着のまま、シャツと短パンである。寒さは感じないらしい。
そして、まずは積もった新雪にダイブ。自らの人型を作ったり、雪の中を転がったりと、まさに『犬は喜び庭駆けまわり♪』状態だ。
「ぷはっ、すごく冷たいけど面白いのだ♪ 雪だるまもいっぱい作っておこうかな?かな?」
と言いながら、すでに雪達磨を作ってる楓。
撃退士の力を使えば、巨大雪達磨の10や20や100ぐらい楽勝だ。
辺り一帯は、たちまち雪達磨軍団に占拠されてしまう。
「ふぅ……さすがにちょっと体が冷たくなったかなー? ……そうしたら暖かいお風呂に入るのだー♪」
すっかり雪を堪能すると、楓は銭湯へ向かうのだった。
† 陽波透次(
ja0280)
「この世は地獄か、コキュートスか、慈悲はないのか……」
朝起きると、家ごと生き埋めになりそうな豪雪を見て透次は戦慄した。
彼は学生寮でなく、母親が残した日本家屋に住んでいる。が──
「このままでは家ごと押しつぶされてしまう……!」
慌てて玄関から飛び出すと、透次はスコップ&ママさんダンプという雪国必携の神器を手に取り、猛然と雪かきをはじめた。
「うおおおおっ! この程度の雪に! 僕は負けない!」
雪の猛威から自宅を守るため、敢然と戦う透次。
彼の故郷は雪国なので、雪との戦いには慣れている!
「僕は歴戦の雪かき戦士! この程度の雪など軽く蹴散らしてくれよう!」
相手は所詮ただの雪。
撃退士が本気になれば、たちまち除雪完了だ。
「ふぅ……これで我が家は守られた」
満足すると、透次は自室に戻った。
しかし彼は忘れてない。雪は降り続けているのだ。雪かき作業は何度でも続く。
この日の彼は、日記にこう書き記した。
『大雪で雪かきが大変だった。それ以外には特に何もない素晴らしい一日だった』
そう、なにもないのが一番。
それが日常、尊ぶべきもの……
† 美森あやか(
jb1451)&美森仁也(
jb2552)
朝。目がさめて窓から外を見ると、雪が積もっていた。
仁也はあやかを起こさないよう手早く着替え、マンションの外へ出る。
そして滅多に出番のないスコップを手に取り、玄関前の雪を除雪した。
彼はこのマンションの管理人であり、こうした作業は彼の仕事だ。
表通りまでの通路を確保したら、次は地下駐車場から道路までの道を除雪する。
さらに電線や水道もチェック。どうやら問題は生じてなさそうだと見て、ほっと息をつく。
そこでふと腕時計を見て、仁也は自宅に引き返した。
家に戻ると、丁度あやかが制服に着替えたところだ。
「おはよう。雪がひどかったから軽く片付けてきたよ」
「朝からおつかれさま。この雪だし大変だったでしょう。ありがとう、あなた」
「うん。ひとまず作業は終わり。特に送電が切れたとかなかったし、屋上の雪下ろしも……まぁ子供が遊べるようにある程度残しているけどね」
「それにしても、これだけ積もると学校まで行くのも大変そう」
「たしかに道路もかなり積もっていたしな……。よし今日は俺が送るよ。どれだけ雪が積もろうと、『翼』を使えばすぐだ」
「いいの? あたしは助かるけど……」
「うん。でも俺は今日は学校を休むよ。まだ管理人の仕事があるからね。それと帰りも迎えに行くから、授業が終わったらメールして」
「わかった」
「となれば……登校までまだ時間あるよね? もう少しゆっくりしていかない?」
「そうだね」
仁也に誘われて、あやかは隣りあわせにソファへ腰かけた。
雪のおかげで、思いがけずゆっくりできる朝。窓の外は見るからに寒いが、部屋の中には暖かい空気が満たされている。
「……そうだ。今日は寒いし、晩御飯はお鍋にしましょうか」
思いついたように、あやかが提案した。
仁也は軽くうなずき、「いいね」と一言。
大雪の朝とは思えない穏やかな雰囲気が、ふたりの間に流れる。
こういう何でもない時間こそ、あやかにとって何より大切なものなのだ。
もちろん仁也にとっても。
† 龍崎海(
ja0565)
久遠ヶ原港へ向かうフェリーの中に、海は閉じ込められていた。
ある依頼を達成させての帰り道だ。幸か不幸か久遠ヶ原行きの船に飛び乗ることには成功したものの、猛烈な雪のせいで港が閉鎖されてしまったのだ。おかげで船は海上に足止めされ、天候の回復を待つのみとなっている。港湾作業員や有志の撃退士が懸命に除雪作業を進めているものの、復旧の見通しは立っていない状況だ。
「こいつは弱ったな。……まぁ島についても自宅まで帰れるとは限らないから、事態はあまり変わらないかもしれないが」
客室の船窓から外を眺めて、海は一人つぶやいた。
恐らく乗客の大半が、おなじように考えているだろう。
「そうだ、港近くの宿泊施設に予約しておいたほうがいいかな?」
ふと思いついて、海は港付近のホテルや旅館の空室情報を検索してみた。
が、予想どおりどこも満室だ。
「まぁ当然か……。しかしおなかがすいてきたなぁ。まずは朝食をとろう。船内設備は充実してるし、いくらでも時間をつぶせるのは救いだな」
そう言って、海はいつもの船内食堂へ向かうのだった。
† 雪室チルル(
ja0220)
「大雪ッ! 外に出ずにはいられないッ!」
朝。降り積もった雪を見るや、チルルはドアを蹴り破りそうな勢いで外へ飛び出した。
北国生まれの彼女にとって雪など見慣れたもののはずだが、『それとこれとは別よ!』とか言うに違いない。
というわけで──
「雪といえば、当然作るべきは雪だるまよね。でも普通の雪だるまじゃつまらない……というわけで、めざせ限界突破! 超巨大雪だるまプロジェクト発動よ!」
そんなことを言いだすと、チルルは「うおおおおお!」とか雄叫びをあげて光纏し、撃退士の身体能力をフル活用して片っ端から雪を掻き集めてゆくのだった。
その勢いはとどまるところを知らず、チルルの通ったあとには雪のカケラも残らないほど。
小一時間ほどで校庭の雪は綺麗になくなり、一箇所に集められた。
だが、この程度で満足するチルルではない。学園の敷地から裏山の雪まで、視界に入る雪は残らず回収。
言うまでもなく24時間超えの大チャレンジだ。
ちなみに学園では普通に授業やってるよ。
「え、授業? 知るかバカ! そんなことより雪だるまだ! 先生が怖くて雪だるまが作れるか? 否! 断じて否! 極限のクオリティを追求してこそ雪だるまにふさわしいのだ!」
どう見ても後から怒られるフラグです。本当にありがとうございました。
† 雫(
ja1894)
「本当によく降りますね……」
雫は港に来ていた。
大雪のため施設が麻痺して、本土との連絡船が止まってしまったのだ。その復旧作業に駆り出された形である。
「まぁ手っ取り早く片付けましょう」
そう言うと、雫は光纏して『神威』を発動させた。
そして飛躍的に向上した腕力で一気に雪かきを──
バキィィン!
スコップは真っ二つに折れ、ママさんダンプは四散した。
「……スキルで身体面は強化できましたが、器具が耐えられないとは誤算でした」
予想外だったと、折れたスコップを見下ろす雫。
「では仕方ありません……芸術を爆発です」
突然、雫の周囲が爆発した。
猛烈な雪煙が舞い上がり、雫を中心に半径2mほどの雪が吹き飛ぶ。
さらに『地すり残月』で路上を一直線に除雪!
「グワーッ!?」
どこかの撃退士が雪ごと吹っ飛んだ。
「……なにか悲鳴が聞こえたような……まぁ気のせいですね」
道の脇にスケキヨ状態で埋まってる男がいるのだが……なにもなかったことにして、雪の下へ埋葬する雫。証拠隠滅は完璧だ!
「……不幸な事故でした」
何人かに犯行を目撃されてるのだが、そこはそれ。説得(物理)で済む話だ。
「知ってますか? 塹壕内での死因は、このスコップのような物で殴打されたことによる負傷が多いらしいですよ。……いえ他意はありません」
証拠隠滅は大体完璧だ!
† セレス・ダリエ(
ja0189)&カミーユ・バルト(
jb9931)
「おお!見たまえ、セレスクン。この純白の輝き……まるでセレスクンの心のよう……そして僕の美しい歯のようではないか!」
学園某所。
雪の中に立ちながら、カミーユは芝居がかった調子で両腕を広げた。
「なるほど。確かにこの白き輝きは、カミーユさんに良く合いますね。ただ私の心の色は中々に、溶けかけの雪のほうが合っている気がします。はい」
「美しい物……僕が更に美しくして、セレスクンに捧げようではないか!」
「更に美しく? それは楽しみです」
無表情で応えるセレス。
それを見てカミーユは考える。
(美しいもの……美しいもの……うむ、やはりここは雪の彫像だな)
目標を定めると、カミーユはスタイリッシュな動きで雪を集め始めた。
ある程度集めたところでバケツと水を使って雪を固め、雪面に雪の塊を並べてゆく。大雑把な形を作ったら、切り出し小刀で彫刻開始。
(創るのは白……ならぬ城だ! 僕にふさわしい……いや、なによりセレスクンにふさわしい城だ!)
チャラけた外見と裏腹に、意外と器用な手つきで作業を進めるカミーユ。
その背中を見つめながら、セレスは白い息を吐く。
「カミーユさんは、中々に一つのことに対する集中力が素晴らしいですね……。たのしそうで何だか純真な子供みたいに見えるのも新鮮……」
一心不乱に彫刻を続けるカミーユに、その言葉が聞こえたかどうか。
やがて、雪景色の中に白亜の城が完成した。
城壁から窓のひとつひとつに至るまで、細部に拘り抜いた作品だ。
「……っと、完成、ですか?」
「うむ。さぁセレスクン。キミのために創った城だ! 城の前に立つキミは、さしずめセレス姫、と言ったところだな」
カミーユは満面の笑みをキラキラ輝かせた。
「私の城……。雪の色の『しろ』と、お城の『しろ』をかけた感じですね。素晴らしいです。私の城で私が姫なら、城を与えてくれたカミーユさんは、さしずめ……大工ですね」
「……ん? 大工?? いいだろう、セレスクンの大工ならば喜んで、だ!!」
「ガテン系のカミーユさんも、なかなか新鮮で良いですね」
セレスの口元に、一瞬だけ微笑が浮かんだ。
しかしそれはすぐに消え去って、ふたりの間に雪は降り続ける。
† 浪風悠人(
ja3452)&浪風威鈴(
ja8371)
浪風夫妻は、自宅の庭に出ていた。
ここもまた一面の銀世界だ。
「雪……たくさん降った……遊べる……」
まるで初めて雪を見た子犬みたいに、瞳を輝かせる威鈴。
久遠ヶ原に来て以来、雪遊びをするのは初めてだ。しかも悠人と一緒である。浮かれ気分になるのも無理はない。
「うん、ようやく冬らしくなったね。これだけ積もれば……あれが作れるな」
「あれ……?」
「できてからのおたのしみ」
そう言って微笑むと、悠人は無造作に雪を集めだした。
威鈴は小首をかしげて、自分も何か作ろうと考える。
すぐに、ピコーンと思いついた。悠人の雪像だ。
が……なぜか完成したのは、ブリッジのポーズをとる悠人像。
意味不明だが威鈴本人は満足げだ。
うんうんと頷いて、彼女は次の作品に取りかかる。
一方、悠人はカマクラを作り上げていた。夫婦ふたりが余裕で入れるサイズだ。
さらにカマクラの中へ七輪をセット。台所から餅と調味料、食器を持ってくる。
お餅パーティーの段取りが整ったところで、ちょうど威鈴が戻ってきた。そして悠人の袖をクイクイッと引っ張る。
「これ……できたの……♪」
ほめてと言いたげに、雪像を見せる威鈴。
そこにあるのは、ブリッジする悠人像と、大きな眼鏡の雪像だった。雪ウサギや雪リスなどの動物が眼鏡にイタズラしている。
「これは一体……」
唖然とする悠人。
「なんとなく……思いついた……の」
「そ、そうか……。前衛的な作品だね。アートだ」
悠人は威鈴の頭を撫でると、カマクラに入るよう促した。
中は十分な広さがあり、すでに七輪の炎で暖かくなっている。
「お餅……焼く、の……?」
「うん。醤油と海苔と砂糖と……きな粉も持ってきたよ。さぁ焼こう」
悠人が七輪の前に腰を下ろすと、威鈴はくっつくように隣へ座った。
七輪に置かれた網の上へ、そっと餅が並べられる。
遠赤外線効果で、こんがり焼ける餅。
ほどよく膨らんだところへ、砂糖醤油を塗って海苔でくるみ……
「熱いから気をつけてね。はい、あーん」
すこし顔を赤くさせながら、威鈴に磯辺餅を差し出す悠人。
ふだん食べ慣れた餅も、こんな雪の中では一味ちがう。
こうして浪風夫妻は存分に雪の午後を楽しむのであった。
† 蓮城真緋呂(
jb6120)&樒和紗(
jb6970)
「おお、すごい雪……!」
とある教室の窓から、真緋呂は外の風景を眺めていた。
その隣で、「そうですね」と応じる和紗。
「これだけ雪が積もったら、やることはひとつよね」
「雪達磨でも作るんですか?」
訊ねる和紗の目に、かき氷シロップを握りしめる真緋呂の姿が映った。
思わず眉間を指でおさえる和紗。
「ええと……? それはまさか……?」
「だってタダで食べ放題じゃない? さぁ行こう!」
「……私鉄蓮城線は大雪でも平常運転ですね」
淡々と言って、和紗は真緋呂の後を追った。
外へ出てみれば、そこは凍てつく白銀の世界。
「うん、この辺りの雪がおいしそうね」
綺麗な新雪を選んで、真緋呂はシロップをぶちまけた。
「こっちはイチゴで、こっちはメロン。あとこっちをレモンにして……ブルーハワイもいいな♪」
画家みたいに、色とりどりのシロップで彩色する真緋呂。
その楽しげな様子を、和紗は黙々とスケッチブックに描きとめている。
「よし完成! 題して『雪の虹』よ!」
「ふむ。なかなか前衛的な色使いです」
テンション上げ上げの真緋呂と対照的に、和紗はどこまでも冷静だ。
「てことで……いただきまーす!」
どこからかMyスプーンを取り出して、真緋呂はイチゴ味の雪を頬張った。
その食べ進む勢いは、まさに除雪車いらず!
しゃくしゃくしゃくしゃく……しゃ、くっ!
校庭すべての雪を食べ尽くすかに見えた真緋呂だが、唐突に頭をおさえてうずくまってしまった。
これはいわゆる、アイスクリーム頭痛!
それでも構わず、真緋呂は食事を再開する。
しゃくしゃくしゃ……くっ!
再び止まる真緋呂。
そして再開。
ループが繰り返される。
その姿を見て、和紗が言い放った。
「知っていますか。かき氷シロップには色々と種類がありますが、じつは着色料と香料が違うだけで全て同じ味なのですよ」
「Σな、なんですって!?」
「さすがに抹茶やコーヒー味は別ですが、大半のシロップは視覚と嗅覚による錯覚で味覚をだましているだけです。目を閉じて鼻をつまんで食べれば、どれも同じ味だとわかりますよ」
「そんな……! でも、たとえ錯覚でも詐欺でも……私が満足できればそれでいいの!」
絶対の真理を口にする真緋呂に対して、和紗は「平常運転ですね」と返すのみ。
「それはともかく、そろそろ寒くなってきたわ。和紗さん、温かいもの食べに行こ?」
「まだ食べるのですか……まさに平常運t(ry」
微笑する真緋呂に、和紗は無表情で答えるだけだった。
† シシー・ディディエ(
jb7695)
「なにこれ、寒い!」
外の大雪を見て、シシーは体を震わせた。
ごく普通の反応だが、このあとの言動は普通ではない。
「いいえ……寒かろうと、吹雪だろうと、ロマンチックな雪だろうとも……。そう! 私のすることは釣りしかないわ! 雪降る中の釣り! なんてロマンチック! いえ、むしろ浪漫! 今日こそ大物を釣り上げ、素敵な魚拓を私のメモリアルに追加する時! ……え? こんな日に独り釣りで淋しい? まさか! 私の魂は、釣りで燃えて燃えまくっているのだから!」
青い瞳をキラキラさせながら、釣竿を握りしめるシシー。
少々……いや、かなりテンションがおかしい。
──数十分後、彼女は釣り堀にいた。
「え、海まで行かないのかって? いいのよ、今日は釣り堀の気分なの。糸をたらせば必ず釣れる。それもまた一興。寒いから魚の動きも鈍ってるかもしれないけれど、釣りの醍醐味は待ちの時間ですもの。……ああ、この静かで緩やかな時間。雪景色も素晴らs……ああ! かかったわ! 良い引き! これは大物の予感……! 真っ白な雪景色に映えるこの美しき姿。魚!」
こんなに残念な美女は久遠ヶ原でも珍しい。
† 染井桜花(
ja4386)
桜花は鐘持邸を訪れていた。
この辺りでは知らぬ者のない、スジモン系の富豪だ。
一年ほど前から、桜花はこの屋敷の兄弟に家庭教師として護身術などを教えている。もちろん勉強もだ。
今日の授業は家庭科。
「桜花先生、今日は何を作るの?」
兄の猛が訊ねた。
「……今回はシチューです……まずは手本を」
メイド服に身を包んだ桜花は、慣れた手つきで下ごしらえを始めた。
その鮮やかな手並みに、すっかり見入ってしまう鐘持兄弟。
「……この要領で……ふたり協力して作ってください」
「わかった!」
「まかせて!」
猛と隼人は我先に包丁を取った。
だが何しろ男子小学生なので、手つきが危なっかしい。
ケガしないよう桜花が見守る中、兄弟は不慣れな手つきで調理を進める。
やがて、どうにかシチューは完成。
見た目は不格好だが、桜花が指導したので味はなかなかだ。
「……よくできました……協力の精神を忘れないように」
「「はーい!」」
仲良く答える兄弟。
以前将棋の授業で兄弟仲が険悪になったこともあったが、どうやら大丈夫そうだと桜花はほっとした。
「……そう……たがいに補ってこそ……本当の意味で強くなれるのです」
† 翡翠龍斗(
ja7594)
「久遠ヶ原に来て、雪かきから開放されたと思ったのに、な……」
ぼやきつつ、龍斗は自宅の雪かきをしていた。
高位の阿修羅である彼にとって、雪かきなど軽い作業だ。
とはいえ、降っても降ってもまだ降りやまぬ雪の前には、終わりのない戦いと言えよう。
「まったく、こんなに降らなくてもいいのにな……」
白い溜め息をつきながらも、ひととおり雪かきを済ませる龍斗。
その後ちいさなカマクラを玄関先に作り、水神様のお札を奉納するのであった。
「……ん? スノウドロップ? どこに行った?」
作業を終えたところで、龍斗は愛猫の姿が消えていることに気付いた。
つい先刻まで縁側で寝ていたのだが──。
よく見ると、雪面に足跡が残っている。
どうやら家の外へ出てしまったようだと判断して、龍斗は足跡を追った。
だが外は一面の銀世界。スノウドロップは名前どおり白猫なので、保護色になって見つからない。
と思ったら、まるで見知らぬ人にじゃれついている愛猫発見。
「そこにいたのか。おいで、帰るぞ」
と手を差しのばす龍斗だが、おとなしく従う猫ではない。
というわけで、その後さんざん雪の中を駆けまわる羽目になる龍斗であった。
† 礼野智美(
ja3600)
異例の大雪に戸惑ったり大喜びしたりする者が多い中、智美はいつもどおり依頼をこなしていた。
彼女いわく、『月月火水木金金、撃退士に真の休みなどない』のだ。
本日の任務は、大雪で閉じ込められた家々の雪下ろしと救援物資の搬送。
一般人でも可能な任務だが、あまりの豪雪に事態は深刻だ。
電気や水道が断たれて陸の孤島と化した寒村から、次々に救援依頼が飛び込んでくる。
ふだん大雪が降らない地域では、これほどの雪が降ると全てが麻痺してしまう。過疎化の進んだ村は住民の大半が高齢者で、雪かきも満足にできない。ライフラインを断たれれば凍死の危険もある。
強風で揺れるヘリコプターの中、智美は友人とともに地図を広げて巡回ルートを確認していた。村役場との調整は済んでいる。あとは撃退士たちの働き次第だ。
「よし行くぞ」
現地に到着すると、智美はホバリングするヘリからロープで懸垂降下した。
ほかの撃退士も次々と地上に降り立ち、それぞれの担当地区へ走りだす。
「地元を思い出すな……」
寂れきった村を前に、智美は呟いた。
その呟きも、風に吹き消されて彼女自身の耳にさえ届かない。
任務開始。
† 月乃宮恋音(
jb1221)&満月美華(
jb6831)
恋音と美華は、雪と無縁の場所にいた。
病院である。先日の依頼で『焼肉を食べすぎて』重体になってしまったのだ。
とはいえ、ふたりとも外傷は完治している。問題は養純水Vの副作用でアウルが不安定になっており、いつ何の拍子で体のどこが肥大化してもおかしくない状態だということだ。
「ふぅ……」
「はぁ……」
ふたりは隣りあわせのベッドで横になりながら、同時に溜め息をついた。
どちらも極端に腹部が膨張しており、ノートPCをその上に乗せている。
「うーん……やっぱり大きくなってきてるわね……」
図体に似合わず、かろやかにキーボードを叩く美華。
だが、その表情は苦しげだ。これだけ腹が成長すれば無理もない。
「うぅん……私も同じく、ですねぇ……」
恋音も苦しげだ。腹だけでなく胸も肥大しているので、美華以上にひどい。
彼女たちがノートPCで確認しているのは、たがいの体質や成長率を記録したデータだ。
このデータによれば、ふたりとも『確実に』『異常な速度で』体の特定箇所が成長しているのがわかる。
「このまま行くと、そろそろ胸が破裂しちゃうんじゃない? って、私のおなかも不安だけど……」
巨大な腹を苦しげにさすりながら、美華は恋音の身を気遣った。
が、自分でも言ったとおり美華のほうも重篤だ。
「うぅん……この特異体質は、症例が少ないですからねぇ……。私たちが身をもって、データを積みかさねてゆくしか……」
「その前に死なないといいけど……」
「そ、そうですねぇ……重体で済んでいる間に、なんとかしませんとぉ……」
「あの発明家なら、成長薬の逆バージョンも作れるんじゃない?」
「えとぉ……もともとは、その方向で実験に協力していたはずなのですよぉ……。それがいつのまにか、正反対に……」
「はぁ……世の中ままならないものね……」
「まったくですよぉ……」
ふたたび溜め息をつく、特異体質のふたり。
窓の向こうには、しんしんと雪が降り積もる。
† 霧雨夜月(
jc2148)
「寒い……暖冬なんて言ったのは誰だよ、まったく」
この大雪の中を出歩くなんて正気じゃないとばかりに、夜月は自宅に引きこもっていた。
ただでさえ撃退士の日常は大変なのだから、こんな日はゆっくり体を休めよう──という口実をつけて、日がな一日炬燵で丸くなる夜月。とにかく寒さを凌ぐことが最優先だ。雪ごときではしゃぐような子供ではない。
まだ学園に来て日が浅いこともあり、できれば友人を増やしたいとは考えているものの、外に出る気になれず朝から晩まで引きこもってしまう。
しかし、外が暗くなってきてから気付いた。
「やば、夕飯の材料買ってない……」
このままでは餓死してしまうと考えて、夜月はコタツムリ生活を断念。
防寒装備を身につけ、傘を持って近所のスーパーへ買い出しに出ることに。
「うぅ……寒いし歩きにくいし腹は減ったし、早く帰りたい……」
大雪の中を歩きながら、ひとり呟く夜月だった。
† 下妻笹緒(
ja0544)
「これほどの雪が久遠ヶ原に降るのは珍しい。いつも通りに過ごすなどというのは、学生にあるまじき好奇心の欠如。今しかできないことをやらなければ嘘だろう。雪合戦や雪だるま作りは好ましいが、この積雪を最大限に活かすのであれば……」
雪の中に佇みながら、ひとり熱弁を振るうパンダがいた。
そして数秒の『溜め』から持論を解放する。
「……そう、この雪を有効活用するならば! ジャンプ台作りをおいて他にない!」
一方的に結論づけると、笹緒は作業に取りかかった。
向かう先は校舎の屋上。
そこに机を積み上げ、雪を盛って固め、スキージャンプみたいな斜面を作り上げる。
だがスキー板はないので、段ボールをソリ代わりにしてジャンプ台頂点から一気に滑降! 白銀の校庭へと飛翔する!
もちろん余裕のK点越え!
こんな日にこそ人は(パンダも)鳥へとなれる。
いや、その神々しい姿はもはや鳥ではなく天使。
時が一瞬止まったかと思えるほどの奇跡的な飛翔。──そして悠然と着地。
ボスンンンッ!
──雪に埋まって凍りついたパンダが救出されたのは、数時間後のことだった。
† ファーフナー(
jb7826)
「飽きもせず、よく降るものだ……」
ファーフナーは自宅の窓から外を眺め、溜め息混じりに煙草の煙を吐いた。
こんな雪の日には、帰ることのかなわぬ故郷を思い出す。
冬は身を切るような寒さだった。一晩の間に何人もの浮浪者が凍死するほどの……。
「ふ……つまらん感傷だな……」
物思いに耽るのを中断し、ファーフナーは体を動かすことにした。
こんな大雪の日に、用もなく外出をすることもない……と考えて、自宅の掃除に取りかかる。──が、ふだんから綺麗にしているため簡単に終了。
「さて、こまったな……」
ワーカホリック気味な彼にとって、なにもすることがないのは耐えがたいのだ。
ならば学園に顔を出してみるかと、普通に斡旋所へ向かうファーフナー。
こんな大荒れの日にまで依頼を物色しに来てしまうほど、彼は働き者(社畜)なのだ。
実際、閉じこもりの生徒が多いため未解決の依頼は多い。
ただし、雪かきや遭難者救助など豪雪関連の依頼ばかりだ。
「まぁ人助けも撃退士の職務か……」
人間や社会への憎悪を抱えながら、今日もファーフナーは現場へ赴く。
† ラファル A ユーティライネン(
jb4620)
「くっそー、こんな大雪の日くらい試験は休みにしろよ」
半泣きでブーたれてるのは、義体特待生のラファル。今日も試験義体性能テストの真っ最中だ。
露骨に不満顔だが、いつも技術屋には世話になってるし、一日も早く傷病撃退士を社会復帰させようという熱意には、ラファルも頭が下がるほど。
というわけで仕方なくテストに協力している次第だが、正直なところ全員インフルにでもなっちまえと言いたいラファルなのであった。
そんな彼女の胸中など知りもせず、技師は言う。
「今日は雪を利用して『雪中行軍耐久試験』を行う」
「えっ!? 俺ちゃん只今絶賛重体中なんだけど!?」
「なぁに、かえって貴重なデータがとれる」
「ざっけんなコラー!」
泣き言もむなしく、どこぞの雪山へ拉致されるラファル。
そして文字どおり、命を賭けた雪中行軍テスト開始!
「さ、寒い……! エンジンオイルも凍りつくぞ、おい」
ガチガチ歯を鳴らしながら、吹雪の中を進むラファル。
さらに携行食糧として渡されたのは『あったか〜い汁粉』だが、とっくに『つめた〜い汁粉』になっている。
「よりによって汁粉かよ……俺が甘いもん嫌いなのは知ってるくせに……。いっぺん死ね!」
その前にラファルが死にそうだが大丈夫か?
† 黒百合(
ja0422)
「きゃはァ、雪かァ……雪はいいわァ、たのしく雪中行軍といきましょうかァ♪」
というわけで、黒百合は防寒フル装備で雪山へ向かった。
年間何人もの登山客が遭難するほどの険しい山だが、黒百合にとっては散歩気分である。
「馬は斃(たお)れる捨ててもおけず、ここは何処(いずく)ぞ皆敵の国ィ〜♪ やっぱり雪中行軍するときの歌はこれよねェ♪」
ブリザードの中、朗々と歌う黒百合。
もろに歌ってるけど、著作権切れてるし某RACの信託も失効してるから大丈夫だ!
てなわけで、ひとり雪中行軍を満喫する黒百合だが、一応念のため本気で遭難しないようGPSやらで安全確保はしてある。ぬかりはない。
その直後、黒百合は何かにつまずいて雪の上に倒れた。
見れば、生き埋めになったラファルではないか。
「あらァ……見覚えのある人がいるわねェ……。あなたも散歩かしらァ……?」
しかしラファルの応答はない。完全に凍りついている。
「手を出さないでくれ。耐久試験中だ」
雪上車の拡声器から技師の声が飛んだ。
「でも死にかけてるわよォ……?」
「大丈夫! 我々は専門家だ! 詳しいんだ!」
「ならいいけどォ……暗くなる前に帰ったほうがいいわよォ……?」
そう言うと、黒百合は鼻歌まじりに吹雪の中を去って行くのだった。
† ユウ(
jb5639)
「見渡す限りの銀世界……久遠ヶ原ではない別の世界に迷い込んだみたいですね」
ユウは久遠ヶ原でのボランティア作業に尽力していた。
闇の翼を使っての雪下ろし、透過を利用しての救助作業、そして基本の雪かき。
こんな大雪の日こそ、飛行と透過が使える撃退士は需要が高い。
ボランティア班からの指示に従って、黙々と仕事をこなすユウ。
「ふう……」
一仕事終えたところで、ユウは温かいものを飲みつつ一息つくことにした。
そこには、雪でも変わることのない久遠ヶ原特有のカオスな光景がある。
一個中隊ほどの巨大雪だるま軍団。
スキージャンプで雪に突き刺さるパンダ。
無差別に撃退士を巻きこみながら除雪する少女。
雪をかき氷にして貪り喰う女。
かと思えば、紫煙を漂わせつつ現場へ向かうダンディもいる。
そこへ「どいてどいて〜!」と怒鳴りながら、直径10mほどの巨大雪玉を転がしてくる脳筋少女。
そんな光景を眺めて、ユウは軽くうなずいた。
そして微笑みながら一言。
「前言撤回。……やはりここはいつもどおりの久遠ヶ原でした」