「全員集合! ただいまより緊急家族会議をはじめる!」
GWの数日前。
麻生遊夜(
ja1838)は、深夜荘の談話室で招集をかけた。
「急にどうしたの、先輩」
最初にやってきたのは、来崎麻夜(
jb0905)
「ん、家族……会議……?」
首をかしげながら、ヒビキ・ユーヤ(
jb9420)も顔を覗かせた。
「…………」
麻生白夜(
jc1134)は無言のまま、黒猫のぬいぐるみを抱いて登場。
つづいて10人ほどの子供たちが、ぞろぞろ集まってくる。
「もうすぐ大型連休。みんなで温泉旅行に行かないか?」
唐突な遊夜の提案に、子供たちは互いの顔を見合わせた。
急な話で、みんな驚いているのだ。
「うん、温泉旅行いいんじゃない? いままでは忙しくて時間とれなかったものねぇ。最近は白夜も自立したし、軌道に乗ってきたかなー?」
麻夜が白夜の頭をなでた。
表面上は落ち着いて見えるが、心情は『温泉だー!\ひゃっほぅ!/』な感じのカーニバル状態。
「ん、子供たちも、よろこぶ」
こくりとうなずくヒビキ。
「温泉……なるべく人が少ないところがいい……兄弟たちは、まだ慣れてないから……」
訥々と、白夜が提案した。
しかし何人かの子供たちは「お金大丈夫?」と不安げだ。
「なぁに。ちっと遊ぶくらい良かろう。実際いまは稼ぎ時ではあるが……」
家計簿を眺めつつ、遊夜が応じた。
「ん、大丈夫、蓄えはある。おかーさんの偉大さを見ると良い」
ヒビキが得意げに胸を張る。
「よし、ここがへそくりの使いどころ!」
キリリと言い放つのは麻夜だ。
そんなわけで深夜荘の面々は、GWを温泉街で過ごすことになった。
「そもそも黄金週間とは、その名の通り徳川埋蔵金を探り当てるため仕事や学校を一週間休み、発掘に費やすべしという目的で国が定めた長期休暇であって、なにもせず休養したり遊びに行ったりする行為はハナから言語道断であり、ゴールデンウィークの過ごし方としては不適当と言える!」
例によって、下妻笹緒(
ja0544)は妙ちくりんなことを言いだした。
場所は学園正門前。連休前日の放課後である。
「パンダだ……」
「パンダよ……」
「ああ、いつもの……」
みたいな感じで、遠巻きに見守る生徒たち。
そんな人々の前で、笹緒は演説を続ける。
「さあ諸君! 明日からは……否いますぐにでも、埋蔵金探しに取りかかるのだ! 撃退士としての力を活かし、ひたすら地中深くまで掘り進めるも良し! スキルとダウジングの合わせ技で、クレバーにお宝の位置を突き止めるも良し! だがやはり個人的には、たとえ回り道であったとしても古文書の入手から始めたいところ! 悪いが諸君、お宝は私のものだ!」
一方的に勝利宣言すると、笹緒は図書館へ突撃するのだった。
そんな彼のGWは、図書館や古書店を走りまわるだけで終わったという。
「冬休みのようにはいかないわ! 今回は秘策がある!」
GW突入の前日。
雪室チルル(
ja0220)は、たのしい連休をすごすため万全の体制で翌日を迎えようと画策していた。
彼女は以前、冬休みの最終日に大量の宿題をかたづけるハメになった経験がある。
その反省を踏まえ、GW前日から全力で宿題をかたづけることにしたのだ。
「宿題は最終日にやるもの。そう思っていた時期もあったわ……。けれど、あたいは失敗から学ぶことのできる女! 今回こそ、あたいの本気を見せてやるわよ!」
机に向かい、アウルの力とか秘められた潜在能力的な何かを利用して、徹夜で宿題をこなすチルル。
速度は大したものだが、内容が合っているかどうかは不明だ!
ともあれ、連休初日の朝には全ての宿題を終えたチルルであった。
「やった……GW最強の敵を始末してやったわ……」
満足して、バタンと倒れるチルル。
そのまま夜まで熟睡した彼女はすっかり生活のリズムが狂い、連休すべてをゴロゴロしたりウダウダしたりして過ごすのであった。
そして休み明けにはすっかり宿題の内容を忘れ、おまけに宿題を学校に持っていくのも忘れて、えらい目に遭うのだった。
礼野真夢紀(
jb1438)のGWは、たいへん忙しかった。
依頼とか勉強とかではない。遊ぶのに忙しいのだ。
そのためにも、まずは綿密なスケジュールを立てなくてはならない。半端なことではGWを遊び尽くせないのだ!
「えーと。まずはWTの公式イベントをまわって、限定商品の購入と……自己紹介用のPC紹介兼の名札の作成をお友達にお願いして……あ、こっちの友達から『イベント追っかけするなら一緒に泊まりませんか―?』ってお誘いメールが来てる! きゃーうれしい! 女の子だから姉様たちも反対しないわよね。『ぜひ参加させて下さい』……っと。イベントない日は……あ、この日程だったら、ここの県には薄い本取り扱ってる古本屋があるから……」
という具合に、スケジュール帳がどんどん黒くなってゆく。
ふだんの学園生活と比較にならない、超過密スケジュールだ。
「まあ久遠は吹っ飛ぶけど、しかたないよね。GW中にしかやってないイベントだし……。ああ、連休に入る前に録画しておいたアニメ消化しないとなー。今日は家に帰ったら大忙しだぁ……」
礼野家の中で一番GWをたのしみにしてるのは、まちがいなく真夢紀だ。
「この連休を利用して、ふたりには実力テストを受けてもらいましょう」
雫(
ja1894)は、一郎と二郎に向かって告げた。
ここは鐘持邸の裏庭。特設の訓練場だ。
「「テスト?」」
「そう。いまから撃退士が私を襲撃しにきます。ふたりは護衛役として、それを撃退してください。私を守り切れれば合格、連休中の修練は免除です」
「「おおっ!」」
「ただし、失敗したら普段以上の地獄特訓!」
「「げええっ!」」
「ほら、言ってるそばから敵が来ましたよ」
雫の言うとおり、石垣を跳び越えて2人の撃退士が襲いかかってきた。
雫が依頼に出して雇った学生なので、実力は確かだ。
「クソ! やるぞ二郎!」
「おう、兄貴!」
この兄弟は元撃退士だが、いまは免許を剥奪されている。ただのアウル覚醒者だ。
しかし最近は雫の指導によって、めざましい成長を……
「「グワーッ!」」
あっさりやられる、あわれな兄弟。
成長期をすぎたオッサンらに、若い現役撃退士を倒すのは厳しい!
「やれやれ……とんだ期待外れでした。これからは、さらに厳しい修行を課しましょう」
冷然と告げる雫。
その足下には、血まみれの兄弟が──
「GW……おお、学校に行って授業を受けなくてもいいんですか、すばらしい。……あれ、でも僕は普段から授業なんて受けてませんよ? 進級試験さえ一度も受けたことありませんし。……なんだ、いつもと同じじゃないですか」
とても学生とは思えないことを、エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)は言いだした。
久遠ヶ原の授業体系って……。
「さて連休はどう過ごしましょうかねえ……。よし、では彼らと決着をつけましょうか」
『彼ら』とは、宿命のライバル・ウニボロ(ウニ型ディアボロ)のことだ。
「では行きますよ。ダイヤ召喚!」
海岸に着くと、エイルズはストレイシオンを呼び出して海中の探索をはじめた。
こ、これは……最近お約束の死亡フラグ!
それに応えるべく、直径5mの巨大ウニボロが現れた。
「きましたね! 今日こそ完全勝利です!」
ダイヤを囮にして、ウニボロを砂浜へおびきだすエイルズ。
あとは成り行きでどうにか……と思ったところで、彼は気付いた。
「……あ、しまった。ろくなスキルを活性化してませんでした」
だが、間一髪!
陰影の翼で飛翔するエイルズ!
バウンドして空中で轢き殺すウニボロ!
「ぐわーっ!」
こうして因縁の勝負は決着した。
「今日はお外で遊ぶのだ♪ ということで、山登りー♪」
せっかくの連休ということで、焔・楓(
ja7214)は山に遊びに来ていた。
いつもどおりの、タンクトップに短パン姿。小麦色の肌が健康的だ。
しかし、今日はひどく暑かった。とても5月とは思えない陽気。
おかげで楓は、あっというまに汗だくになってしまう。
「なら……ちょっと体を冷やすのだ」
そう言うと、楓は河原で休憩をとることにした。
が、足をすべらせて川の中へドボン!
もちろん全身ずぶぬれだ。休憩どころではない。
「うー、こうなったら……今日はここで遊ぶのだ♪ 服が乾くまで時間かかるしー♪」
そう決めると、楓は濡れた服を脱いで近くの木の枝に引っかけた。
乾くまでのあいだボーッとしててもつまらないので、魚を追いかけたり、泳ぎまわったりと、自由気ままに時間を過ごす。
もともと水泳は得意なので、川遊びも慣れたものだ。
ただ、全裸なのは問題かもしれない。
──結局、日が暮れるまで川遊びに夢中だった楓。
その姿は、かなりの数の釣り人や登山客に目撃されていたとかなんとか。
「良い季節になりましたね」
黒井明斗(
jb0525)は、趣味とトレーニングを兼ねたトレッキングに精を出していた。
ただのトレッキングではない。万全を期した登山用具のほか、リュックの底に30kgの重り、両腕両足にも同等の重りをつけている。耐久力と持久力を伸ばすのが目的だ。
向かったのは、自宅からほど近い山。
ただしハイキングコースには行かず、人の通らない獣道を進む。
けわしい道だ。が、そんな中でも鳥の声を聞けばバードウォッチングと、趣味も忘れない。
小川を見つければ川沿いに歩き、滝を見つけたら「精神修養もしましょう」と滝行。
さらに川魚をつかまえ、野草をあつめて、調理をはじめる。
思うさま自由に振る舞っているように見えるが、これが明斗流の修練なのだ。
自然と触れあうこと全てが、彼の修行であり趣味なのである。
そんなふうにして、明斗のGW前半はあっというまに終わってしまう。
のこりの後半は、自主勉強だ。
撃退士といえども、体力や精神力だけでは生きていけない。学力も重要だ。
もっとも幸いなことに、明斗の学力はかなりのものだが。
長谷川アレクサンドラみずほ(
jb4139)と染井桜花(
ja4386)は、山ごもりの修行に来ていた。
人里離れた山の中。川岸にテントを設置したら、さっそくスパーリング開始だ。
「では、お相手おねがいしますわ」
と、バンデージを拳に巻きつけるみずほ。
「……引き受けた」
桜花も静かに構えをとる。
模擬戦とはいえ、ふたりの表情は真剣だ。とくにみずほは、いつも以上に気合いが入っている。
というのも、先日の依頼で鮫嶋鏡子に不覚をとったこともあって、これまで以上に強くなろうと一生懸命なのだ。
そんな具合に、ふたりの特訓は夕方まで続く。
桜花はみずほより少し早く切り上げて、食糧確保へ。
猪や川魚など、かなり大漁だ。
魚採りのときは意識的に動体視力や観察眼を鍛えようと、訓練に余念がない。
夕食を終えたら、運んできたドラム缶で五右衛門風呂の用意だ。
「……先に入ると良い」
みずほに入浴をすすめつつ、火加減を見る桜花。
これもまた観察眼のトレーニングになっているのだ。
その後、自分も五右衛門風呂で一風呂あびる。
「……ふぅ、良いお湯」
気持ちよさそうに、夜空を見上げる桜花。
こうして山ごもりの1日目が終わる。
翌朝、日が昇るとすぐに二人は起き出した。
そして軽い朝食をとったら、すぐに訓練開始。ジョギングや筋トレなどの基礎体力作りも忘れない。
昼食と夕食の材料も、もちろん現地調達だ。
持ってきたのは必要最低限のサバイバルツールと調味料だけだが、野生動物や魚、木の実などの食材が桜花の手で次々と調理されてゆく。
日が暮れれば再び五右衛門風呂を沸かし、早いうちにテントで就寝。
翌日、翌々日も同じような生活だった。
そんな感じで、GW最終日。
戦闘訓練中のみずほは、ツキノワグマに襲われた。
「まさか熊に襲われるとは……。でもちょうどいいですわね。熊さん、わたくしの練習相手になってくださいな」
躊躇なく熊に殴りかかるみずほ。
天魔をも撲殺する彼女の拳にかかれば、野生の熊などサンドバッグに等しい。
こうしてカワイイ小熊ちゃんは、おいしい熊鍋にされて二人に食べられてしまったのでした。
次回! 不屈のベアパワーを取り込んだみずほが、鏡子にリベンジマッチを挑む!
いつになるかは知らん!
藤井雪彦(
jb4731)と駿河紗雪(
ja7147)は、公園へピクニックに来ていた。
よく晴れた青空の下、ふたりの前に広がるのは一面の芝桜。
淡い紫色の花が周囲一面を覆いつくすさまは、まさに絶景だ。
「うわぁ〜。見てください、雪君。すごく綺麗ですよ!」
「そうだね。来てよかった」
表面上はクールに応える雪彦だが、心情はこうだった。
(うぉぉぉぉ! 紗雪ちゃんとピクニックデートォォォォ! やっべーどしよ〜〜〜超幸せなんですけどぉぉぉぉ!)
うん、すこし落ち着け。
「雪君、あのあたりでランチにしませんか? 私、お弁当作ってきました」
「じゃあレジャーシート敷いて、お昼ごはんにしよう」
一見クールな雪彦だが、このときの心情はこうだ。
(紗雪ちゃんの手作り弁当!? わっくわく〜♪ 天気もすごくいいし〜青空の下で紗雪ちゃんの手料理を食べ……食べさせてもらったり!? っべーーどしよ〜〜〜!)
よし落ち着こうか。
ともあれ芝生の上にシートを広げ、ふたりは向かいあって腰を下ろした。
紗雪はランチバッグから三段重ねの弁当箱を取り出して、シートの上に。
ふたを開けると出てきたのは、おにぎり、唐揚げ、甘い玉子焼き、そしてタコさんウインナーなど定番ばかり。
「わあ、おいしそうだね! あ、ボクお茶いれるよ」
雪彦は保温マグとカップを並べると、二人分のお茶をいれた。まさに今が盛りの、八女茶だ。
「雪君、本日の玉子焼きはなかなかの出来なのです。早速おひとつ……っと、両手ふさがってますね。では、口をあけてください、あーんです。あーん♪」
「えっ……? あ……あぁ〜〜ん」
赤面しながら、口をあける雪彦。
そこへ、紗雪が玉子焼きをそっと運ぶ。
「どうです? うまくできたと思うのですけど」
「うん、おいしい。最高だよ!」
紗雪の愛情を感じて、デレまくる雪彦。
「そういえば、定番品ばかりでしたね。変わり種もほしかったですか?」
問いかけながら、紗雪はおにぎりをほおばった。
「いや、定番が一番だよ! ……ん!?」
雪彦が、ふいに顔を近付けた。
そのまま距離がゼロになり、雪彦の唇が紗雪の頬に触れる。
「んぇ?!」
今度は紗雪が真っ赤になった。
「ほっぺたに、ごはんつぶ付いてたよ」
「そ、そうでしたか」
思わず頬をおさえる紗雪。
(それにしても頬にごはんつぶとか、どうやって付いたのでしょう!? Σはっ、これがラブコメ補正!?)
そんな具合にイチャコラしつつ、休日を満喫するリア充な二人。
食事が済んだら膝枕で昼寝しちゃったりとか……そのうち爆発してもおかしくないラブラブっぷりなのであった。
深夜荘一行は、電車とバスを乗り継いで温泉街に到着した。
温泉旅行は初めてだという子供らも多く、みんな興味深そうにキョロキョロしている。
中には遊夜たちの目を盗んでどこかへ行こうとする子もいて、目を離すヒマもない。
「……あんまりウロチョロしない。迷子になるよ? 好奇心が出るのは、良いことだけど」
兄弟たちの纏め役である白夜は、やや疲れ気味に溜め息をついた。
「見て、ご当地メニューだって。土産物屋もいっぱいあるよ。旅館に行く前に、すこし散策してみない?」
麻夜の提案に反対する者は、もちろんいなかった。
「ん、食べ歩きも、悪くない」
温泉饅頭を子供たちに買い与えるヒビキ。
よほど好みにあったのか、早くもおみやげに買っている。
「ん、これは良い物」
一人でコクリと納得するヒビキ。
「温泉饅頭より、ご当地メニューが気になる……」
料理が得意な白夜は、スープ入り焼きそばに興味を引かれているようだ。
「遊技場も、あるらしい、よ?」
ヒビキが首をカクリとさせる。
「遊技場は、おとーさんが無双しそう」と、白夜。
それを聞いて、遊夜はふと気付いたように言う。
「遊技場か……次はテーマパークあたりに行くのもありか?」
「テーマパーク……子供たちは、大丈夫?」
ヒビキは少し心配そうだ。
とはいえ、過保護もよくない。環境に慣れさせるのも大事だ。
「次の連休はテーマパークかぁ。子供たちには良い刺激かなー?」
麻夜はヒビキより楽観的なようだ。
「次はテーマパーク? ……なら、それまでに慣れないと、ね」
白夜が子供たちに向かって告げた。
いつのまにかテーマパーク旅行が確定してるが、遊夜の財布は大丈夫だろうか。
「ん、休日は、家族サービスの日に、しよう?」
くすくす笑う白夜。
「そうだな! 家族サービスは大事だからな!」
遊夜は強気で答えた。
家計簿見なくていいのだろうか。
そんなこんなで、深夜荘一行は旅館に到着。
「さーて、まずは温泉だよね!」
麻夜は妙に張り切っていた。
「そうだな。よーし、男どもは俺と一緒だ。女性陣は麻夜たちにまかせる」
当然のように、遊夜が子供たちを男女に分けようとした。
が、しかし──
「ここ、貸し切りの家族温泉があるよ?」
にっこりと、麻夜が微笑んだ。
「いや、それは、人見知りする子供たちのためにだな……」
「せっかくそういう旅館を選んだんだし……一緒に入ろう?」
ヒビキが遊夜の腕に抱きついた。
「うんうん。たまには一緒に入っても、いいよね……?」
負けじと遊夜にしなだれかかる麻夜。
まさに両手に花状態の遊夜だが、純粋な子供たちの視線が痛い。
「これくらいの、役得は必要だよね?」
ヒビキが問いかけると、麻夜はコクコクうなずいた。
遊夜は困り顔だが、強く拒否することもできず珍しくうろたえている。
「おかーさんたち、張り切ってるけど……駄目なんだろうな、たぶん」
やれやれと、他人事みたいに肩をすくめる白夜。
結果どうなったかは、ご想像どおりに。
──という具合に撃退士たちのGWの過ごしかたは千差万別だが、ラファル A ユーティライネン(
jb4620)もかなり変わっていた。
名実ともに学園一(かもしれない)メカ撃退士のラファルは、休日中も多忙をきわめる。GWも例外ではない。
彼女の部屋は、寮の駐車場に停めた大型トレーラーの中にある。
理由は、専用整備ベッドが部屋に入らないためだ。
ラファルの義体は試作品で非常にデリケートなため、日々の整備は重要。だが、オーバーホールともなると一定以上の日数がかかる。そこで、長期休暇が整備にあてられるのだ。
白衣を着た研究員たちに囲まれながら、ラファルは全身丸裸にされてベッドに横たわっている。
その姿は、いつもの(爆破魔の)彼女の片鱗も見受けられない。
偽装は解除され、義肢は外され、ギミックはすべて展開されて、なにもかも丸見えだ。
あまり他人には魅せられない姿。
トレーラーの陰で虫干しされたペンギン帽だけが、ラファルらしく微笑んでいる。
連休3日目。
只野黒子(
ja0049)は種子島での作戦に参加しており、多忙なGWをすごしていた。
この連休前には群馬での作戦行動にも手を貸しており、休むヒマもなく連戦に連戦をかさねている。
そんな日々を送る中、黒子は依頼の現場めざして走りながらスマホをいじっていた。
わずかの空き時間を利用して、ブラウザゲームをやっているのだ。
そう、世間は連休中。その期間限定でイベントが開催されているため、1秒も無駄にはできないのだった。
しかし黒子は余裕の表情。スマホをいじりながら、「ラストダンスはエンドレス〜♪」などと口ずさむほど余裕である。むしろ、この忙しさをたのしんでさえいるようだ。
おそらくゲームのイベントも、今回の依頼も、うまく行くだろう。
黒子の人生設計としては、とにかく40代まではバリバリ働いて、あとはのんびり過ごすという方針である。そのころにはセキュリティコンサルティングか教官でもやろうかと考えている次第だ。
企画段階では労苦は可能な限り排除すべきだが、実行段階での労苦は楽しむもの。そうでなければ心が保たない──と、黒子は信じている。
その考えを信じて、いまはイベントクリアをめざすのみだ。
ラッコの朝は早い。
GWも人々の平和を守るため、天魔討伐に励むだけだ。
「キュゥ(行くか」
連休終盤の朝。
鳳静矢(
ja3856)は、ラッコ着ぐるみで戦場へ向かった。
今日の相手はウニ型ディアボロ。砂浜で暴れまわっているとの知らせを受けて、単身で出撃したのだ。すでに撃退士の犠牲者も出ている。本来ひとりで戦う相手ではない。だが、人員が集まらなかったのだ。連休のせいで。
「キュゥゥ!(人に仇為す天魔よ去れ!」
全力跳躍で現場に到着するや、静矢はラッコインパクト(紫翼撃)でウニボロを吹っ飛ばした。
さらに周囲のワカメディアボロ(増えるタイプ)もラッコスラッシュ(紫光閃)で蹴散らし、最後はラッコフェニックス(紫鳳翔)で完全殲滅!
「キュゥゥ!」
勝ち誇るラッコ静矢。
その姿を見て、ウニボロは退散していった。
そう、ラッコの主食はウニなのだ!(トリビア
「大丈夫だ、安心してGWを楽しむと良い」
浜辺の平和を取り戻し、持参したホワイトボードにメッセージを書く静矢。
避難していた市民たちから、拍手と歓声が湧き上がる。
が、勝利に酔っているヒマなどない。
ラッコ静矢は、淡々と次の戦場へ向かうのみだ。
礼野智美(
ja3600)のGWは、かなりの多忙だった。
連休を利用して帰省したり、遠方へ旅行に出かけたりする生徒が多いため、依頼も人手不足になりがちなのだ。
もちろん天魔たちにGWなんてものはない。むしろ出撃要請はいつもより多いぐらいだ。
「4月末は遊園地に出没したサーバント退治で……5月はじめは海釣りスポットに出現したディアボロの一斉相当の大勢参加のイベントと……。サーバント退治のあとは……あ、これが緊急かなぁ。じゃあ予約を入れておいて、と……」
スケジュール帳片手に、斡旋所の依頼書をチェックする智美。
だが、彼女の仕事はこれだけではない。家に帰れば、これまた多くの家事が待っているのだ。
体の弱い姉に代わって礼野家を切り盛りする智美にとって、真の休日はない。
掃除、洗濯、姉や義弟たちの食事作り……遊びに出たきりずっと帰ってこない妹への安否確認メールなど、やることは山積みだ。
もちろん撃退士として剣術の修練を積んだり、魔具や魔装のメンテナンスをしたりもしなければならない。
世間は連休で浮かれているというのに、智美に休息のヒマはまったくなかった。
ちなみにそのころ真夢紀は、ものすごい勢いで薄い本を買いあさっていたという。
連休最終日。
木嶋香里(
jb7748)は、京都の宇治に来ていた。
ここに来るまでに狭山と静岡をめぐっており、今日で日本3大茶を制覇した形だ。
狭山と静岡でも茶摘み体験や茶畑の見学などをしており、当然宇治でも同じように茶農園を見てまわる。
GWは、ちょうど新茶の時期だ。どこの茶畑でも、連休返上で人々が忙しそうに働いている。
「やはり、実際に自分の目で見ると勉強になりますね♪」
事前に予約していたとおり、茶摘み体験に精を出す香里。
翡翠色のチューブトップワンピースに、シースルーの真っ白なレースチュニックが涼しげだ。
もちろん、ただ茶摘み体験をしにきたわけではない。和風サロン『椿』運営のため勉強に来たのだ。けっして、地元の和菓子と摘みたてのお茶を満喫しに来たわけではない。わけではないが、この季節のお茶は抜群においしいのでつい飲みすぎてしまう。
「この抹茶わらび餅と宇治茶の組み合わせは最高ですね。是非おみやげに買って行きましょう」
農園に併設された喫茶店で、そっとお茶を啜る香里。
その横には、狭山や静岡で買った土産品が山のようになっているのだった。
「えとぉ……今日も、お手伝いに来ましたよぉ……?」
月乃宮恋音(
jb1221)が訪れたのは、マッド発明家・平等院の研究室だった。
この連休中は毎日手伝いに来ている。内容はさまざまだが、大半は人体実験だ。それも、一般人なら命に関わるぐらいの。
「ほぅ、今日も無事だったか。では早速、今朝とれた改造ドリアンを食べてもらおう」
「ド、ドリアン、ですかぁ……」
「ドドリアンではない。ドリアンだ。さぁ食え」
軽自動車サイズの果物が、恋音の前に突き出された。
火山土のミネラルを混ぜることで味を改善……とか言ってる場合じゃない! メッチャくさい! 大きさだけでなく、匂いまで増しているのだ!
「うぅ……っ」
引き受けた以上はと、涙目で巨大ドリアンをほおばる恋音。
その直後、あまりの悪臭で恋音はブッ倒れた。
同時にドリアンに含まれていた成長薬が働き、おっぱいが巨大化!
ブラジャーを千切り飛ばし、恋音自身を押しつぶし、研究室を半壊させたのであった。
「うぅぅ……ひどい目にあいましたぁぁ……」
「よしよし。とりあえず下着を作りなおさないとね」
満月美華(
jb6831)が、恋音の頭をなでた。
そして、返事も聞かずにメジャーを取り出す。
「バストは……165!? また大きくなってるわね」
恋音の胸を採寸しつつ、あきれたように言う美華。
「平等院さんの実験に付き合うたびに、成長してる気がするのですよぉ……」
「もうやめたら?」
「約束なので、そういうわけには……」
「まぁ人類の限界に挑戦するのもいいかもね」
「そ、そんなぁ……」
という会話をしながら、美華は下着作りにとりかかった。
彼女もまたヤバイ級のおっぱいを持つ巨乳美女なので、ブラジャーの手作りには慣れている。
ほどなくして、かわいらしいデザインのブラが完成。
「おまたせ、恋音。試着してみて。サイズはどう?」
「うぅん……さすが姉様。ぴったりですねぇ……」
「ならよかったわ。この連休中は、いろいろ疲れたでしょ。一杯どう?」
そう言って、美華はグラスを差し出した。
中身は中身は撃退酒と成長薬のカクテルだが、恋音は気付きもせずにゴクリ。
そうして、作ったばかりのブラは再び千切れ飛ぶのだった。
「はぅぅ……!?」
「あら、ごめんね。うっかりしてたわ」
自分の頭をこつんと叩く美華。
もちろん、うっかりではなくわざとやったのだ。
礼野静(
ja0418)は、この連休をずっと自宅のマンションに篭もって過ごしていた。
もともと体が弱い静は、この時期になると寒暖の差から体調を崩してしまうことが多く、必然的に閉じこもりがちになってしまうのだ。もちろん、実家に帰ったり旅行に出かけたりなど出来るわけもない。
少々さびしいGWだが、妹や義弟たちが同じ屋根の下で暮らしているので独りぼっちというわけではないのが救いだ。もっとも真夢紀は、WTのイベントだの薄い本の収集だので、まったく帰っては来ないが……。
おまけに智美は智美で学園での依頼が忙しく、やはり家にいる時間は少ない。
どうもバラバラな感じの3姉妹だが、本当は仲良しなのだ。
その証拠に、真夢紀も智美も最低1日1回はメールや電話をしてくる。
ひっきりなしに戦闘依頼をこなしている智美はもちろん、あちこち遊びまわっている真夢紀も心配だ。
こんなとき、やっぱり自分は長女だなと静は思うのである。
「日曜日に市場へ出かけー、麺と材料買って来たー♪」
「テュリャテュリャテュリャテュリャテュリャテュリャリャー♪」
「テュリャテュリャテュリャテュリャーリャー♪」
佐藤としお(
ja2489)は、自宅のキッチンでそんな歌を歌っていた。
みんな御存知、ロシア民謡『一週間』の替え歌である。
『どうせラーメン作ってんだろ?』というMSからの天の声が聞こえたことに対する、これがとしおの回答!
「月曜日におー湯を沸かしー、火曜日は骨を入れてー♪」
「テュリャテュリャテュリャテュリャ(ry♪」
「水曜日にお肉をゆでてー、木曜日は玉子をゆでてー♪」
「テュリャテュリャテュリャ(ry♪」
「金曜日は麺をこねてー、土曜日にラーメン完成ー♪」
「テュリャテュリャ(ry♪」
「牛男爵よ、これが私のー、黄金週間の、すごしかたー♪」
「テュ(ry♪」
実際このとおりだとすると週に一度しかラーメン食べてないことに……と思ったが、これ以外にもラーメン作ってないとはどこにも書かれてないな。っていうか、店で食べれば済む話だし。1日3回ラーメン食べないと死んじゃう業病を患ってる人だしな。
「先輩たちを見習うのです!」
己のへっぽこぶリをなおすため、マリー・ゴールド(
jc1045)は他の撃退士たちの連休の過ごしかたを覗いてまわることにした。
依頼で最弱の敵に追いまわされたり、小等部の女子に助けられたりと、あまりに情けない自分を自覚したため今回は一念発起。他人を見習おうと思い至った次第である。
「きっとみんな、すっごく頑張ってるはずなのです!」
そう信じて、GW初日からあちこち見てまわったマリー。なけなしの情報網を駆使して、先輩が何かしてると聞けば現場に急行し、物陰から(頭隠して尻隠さず状態で)偵察。自分では完全にステルスできてるつもりで、こっそり覗き見。
──が、結果的にマリーは困惑するだけだった。
たしかに、明斗やみずほのように熱心に修行する者もいた。
遊夜のように家族サービスに励む男もいたかと思えば、一週間かけてラーメンを作るマニアもいた。
埋蔵金をさがすパンダもいたし、ウニボロに轢かれて死ぬカボチャもいた。
一言で言えば……みんな好き勝手に行動してるだけだった。マリーは先輩たちを過大評価していたのだ。
「……うむぅ、なにを取り入れていいか迷うのです」
苦悩するマリー。
だが、なにも取り入れる必要などない。
そう、ここは久遠ヶ原。
好きなように、思うままに、フリーダムに、動けばいいのだ!